龍の最後

  ベルダの訃報は龍全員に知れ渡った。人々は嘆き、悲しみ、毎日を涙で過ごす日々が続いた。なにより、王である龍神の心情が痛いほどに伝わってきていた。ベルダの訃報からすぐ、空はかげり、雲から雨粒が絶え間なく落ち、雷が鳴り始め、突風が巻き起こり…。龍の世界は嵐に見舞われた。

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  「龍神様は?」

  「もうずっとお帰りにならない。」

  「何処におられる?」

  「海の上だ。」

  「海?」

  側近は頷いて海のある方へ顔を向けた。屋敷からは見えるが、それほど近くはない。

  「龍の姿で飛んでいらっしゃるのだ。…泣きながら、な。」

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  龍神は海に向かって一直線に潜り込んだ。そのまま脇目も降らずにまっすぐ泳いだかと思うと、いきなり上がって空へと飛び出した。その目は白い。瞳はどこにあるのかわからない。目と同じ色をした姿で飛翔し続けるので遠くからでも目立つ。

  龍神はベルダが息を引き取ってから一声叫んだかと思うと、そのまま部屋を飛び出して龍の姿になり、海へと飛んでいった。家臣たちは見送ることしかできない。奥方の葬式をしようにも、龍神からの指示がないのでどうすることもできない状態だ。

  龍神はなおも飛び続けていた。悲しくて飛んでいるのか、涙を見せたくないのか、それは本人にもわからない。愛する番をなくした龍の心情は計り知れない。悲しみに支配されてからは暴れるのみ。もしくは消沈してしまうか。番は一生のうちにただ1人。死んでしまえばそれまで。残りの人生を龍神は1人で生きていかなければならない。

  龍神は口を大きく開けて吠えた。その声は国全体に響き渡る。人々は空を見上げる。と、一際大きな雷が空から降った。それは海にまっすぐと伸びる。その光の中に一頭の龍の姿が。

  「あっ」

  そう言ったのは誰だったか。考える暇はなかった。光は全体に広がる。人々はあまりの眩しさに目をあけてはいられなかった。ドォォン…、という大きな音が大地を響かせ、立っていられないほどだ。古い建物は崩れ、食器や本などが次々と落ちていった。

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  この時、ビクターの子は父親の行方を悟った。そして、自分の立場を理解した。

  雨は止み、雲間から光が差した。側近の男はそれを見て海の方へ頭を下げた。それから傍にいた部下に何事か囁いてから1つの部屋へ行き、声をかけてから中に入った。

  側近は龍の子と互いに見つめ合うと、跪いて頭を垂れた。

  「これよりは貴方様が我らの主。龍神様、何なりとお申し付けください。」

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  後に浜辺で見つかったビクターはすでに息をしていなかった。ベルダと共に葬儀が行われ、次の日には新しい龍神の即位式が行われた。

  こうしてベルダとビクターの子は幼いながらも全ての龍の王となったのである。