『コミケモ』という同人誌即売会をご存じだろうか。ケモノ――四つ足の動物に近しいものから二足歩行のマスコットのようなもの、人間と変わらぬ頭身など種類は様々ではあるが動物をモチーフとしたキャラクター群を取り扱う中規模の同人イベントだ。参加者は年々増加傾向にあり、同好の士から今一番注目を集めているイベントであると言えよう。
『コミケモ』は同人誌をただ売買するだけのイベントではない。オリジナルのキャラクターを現実に形作った着ぐるみとの触れ合いを楽しむ。開催日前後に仲間同士で親睦を深めたりすることや、イベントついでに見知らぬ土地を散策するなど――それら全てを含めて『コミケモ』だ。
だが、参加者は皆気を付けなければならないことがある。人の集まるところに悪意は潜む。参加者に紛れ、人をケモノに堕とそうと企む者がいる。ケモノ好きだから堕ちてもいいと侮る勿れ、求める理想とかけ離れた姿になりたくなければ。
これは、悪意によって望まぬ未来を与えられた人々のお話である。
◇
「オリジナルの美しいキャラクターをそのまま享受すりゃいいってだけの話なのに何でこんなに話が通じねえんだ!」
「オリジナルはオリジナル、別の可能性は可能性で切り分けて楽しめばいいじゃないか。原作至上主義にも限度があるぞ」
「君の改変はキャラクター性を大きく損ねてると思うけどなあ。獣人であることがこのキャラにおいて重要な要素だと思うのだけど」
「「お前がソレを言うか!?」」
イベント会場の隅の隅。誰も通らない行き止まりにて三人の男が喧嘩を繰り広げていた。彼らの手に握られているのは『獣王牙』という作品の主人公、獅子獣人レオを題材とした同人誌。だが、内容はそれぞれ異なるようであった。
HN雄乳之助が持っているのはレオが劣勢に立たされ一度は敗北的な射精を迎えてしまうものの、逆境を乗り越え反撃のアナルセックスで戦いに勝利する――という原作に沿った流れを忠実に再現した同人誌だ。雄乳之助は原作至上主義者であり、多少のオリジナル展開は認めてもキャラクター改変は断固として認めない人物だった。
HNよ漬物が持っているのはレオが敵の魔法によって獣人から動物へと変えられてしまい、抵抗する間も無く種付け家畜としての生活を強制されるという尊厳破壊モノの同人誌だ。ヨ漬物は四足歩行のケモノが一番好きであり、『獣王牙』のファンでもあった。それ故に手に握る同人誌を至上の宝物として大切に扱っていた。
HNけもちんちくりんが持っているのは『獣王牙』の世界がゆるふわな雰囲気でハードさや陰鬱さを極力排した内容に、キャラクターはマスコットキャラクターのようにデフォルメされ可愛らしい絵柄となっていることが特徴な甘々えっちモノの同人誌だ。けもちんちくりんは可愛らしいキャラクターが好みであり、『獣王牙』には興味が無いが性癖に合致する内容ということで購入していた。
喧嘩の原因というのはまさにその同人誌にあった。ネット上の付き合いでは相性が良く、共通の話題を持っていることもあり仲が良かったのだ。ただ、初めてのオフ会、初めての性癖開示、そして各々の信念――お互いが分かり合えないという事実がここに来て判明してしまったというわけだ。
「これだから原作厨は」
「そっくりそのままお返しするぜ」
「『獣王牙』のファンってこんなのばっかりなの?」
最早彼らを突き動かすのは怒りのみ。意見や新年の押し付け合いもいつの間にやらただ罵倒し合うだけの幼稚な言い争いとなっており、無益な時間を過ごしているのは火を見るよりも明らかであった。だが、その怒りと悪意を持って頒布された同人誌が共鳴を起こし異常な現象を引き起こしていく。
「こんなやつらばっかりだと思わな、が、ぐう、うぅっ!?」
雄乳之助の心臓がドクンと跳ね上がる。心臓が大きく鼓動を鳴らす度に彼の鍛えられた肉体から角が取れていき、丸みを帯びた輪郭へと変わっていく。それと並行するように少しずつ、しかし確実に背丈や体格が収縮してまるで子供へと退行していくかのように小さく柔らかくなっていく。雄乳之助がその事に気づいた頃には既に背丈は半分ほどになり、今まで見下ろしていた物全てを見上げなくてはならないほどになっていた。
「ぐうぅぅ、ガァァッ!」
そして体格の収縮が終了すると同時に彼の口から声、ではなく獣の唸り声が漏れ出す。そんな彼の口はネコ科らしくマズルとなり、小さいながらも鋭い牙が顔を覗かせる。が、獰猛な獣にしてはどうにも可愛らしく頼りの無い面構えへと変わっていく。クリクリとした丸い瞳に垂れ気味の眉。実際の動物に比べ突き出ていないマズル。どことなく絵本から飛び出してきたかのようなデザインの顔だ。
その他の部分も動物にしては野性味に欠けている。ふにゃっとしたネコ耳にネコひげ。簡略化されたかのような尻尾。手と足の先は丸い爪と極端に強調されたぷにぷにの肉球。そして全身を短めの毛が、顔の周りを控えめに囲むようにたてがみがそれぞれ生え揃う。
「はぁ、はぁ、どうなったんだあ?」
声すらも甲高く子供のような声色であり、手足は短く、肩幅より顔の方が大きい。一見すれば子供そのものだが、股間にそびえ立つトゲトゲのネコチンや小さい割には筋肉質な身体からは大人の風格を感じさせられる。そう、彼の身体はけもちんちくりんが持っていた同人誌のデフォルメされたレオそのものの身体へと変化してしまったのだ。
「グオォォッ、ち、ちから、ちからがあふれる」
雄乳之助の変化に並行するようによ漬物もまた身体が変化していた。彼の平均的で特徴のない体格はビリビリ、というシャツが破れ布切れと化す音と共に大きく膨張した。上半身は胸筋、上腕二頭筋、背筋――ありとあらゆる筋肉が血管が浮き出るほどに硬く厚く盛り上がっていく。誇張された見せるためだけの筋肉というわけではなく、全てが破壊と暴力に繋がる研鑽され研ぎ澄まされたものだ。そしてそれは下半身にも波及し、梃子でも動かぬほどの強靭な足腰を生み出していく。背丈は既に元の倍ほどには成長し、筋肉だけで床がへこみそうなほどに体重も増加。だが、ここで変化が終わるはずも無い。
次に彼を襲いかかった変化は筋肉を彩るふさふさの獣毛。そして体格の変化による身体のばねの強化。ただでさえ凶悪な肉体に、一飛びで獲物を捕らえる狩りの力が備わったのだ。
「ガァ、ハァ、こんなの、オレじゃないィイ」
声は低く地鳴りのようなものに、顔は獰猛な肉食動物そのもの。見え隠れする鋭い牙と爪、そして隠すことのできない異常な筋肉量を前に逃げ出せる被食者はいないだろう。彼の身体は雄乳之助が持っていた同人誌の原作のレオそのものへと変化したのだ。
「がるるぅ、ぐにゃあぅ」
そして、当然けもちんちくりんにも変化が及ぶ。彼は身体のバランスを崩し地面に手をつくと、手足の関節が音を立てて変わっていく姿を見た。指は消え、後ろ足の関節は曲がりつま先立ちかのように。現実にいるライオンと同じような手足関節と肉球、そして爪が備わっていく。変化に動揺する彼が漏らした嗚咽は鳴き声や唸り声にしかならず、他の二人よりも明確に獣らしさが前面に押し出されている。
苦しみを見せていた表情からは表情筋が消え、感情の表現は鳴き声と新しく生えた尻尾、そして前足での身振りでしか行えなくなってしまった。これから先は犬猫のように『おねだり』しないといけないだろう。もちろん、地を這い相手に頭を擦りつけ、甘えた鳴き声を出しながら――だ。そうでなければ狩猟本能すら抜け切った猫同然のライオンに生きる道は無いだろう。
ただ、彼の身体には辛うじて普通のライオンとは異なる要素があった。レオが装着していた鎧やマントを模したアクセサリや、身体が通常のライオンと比べ筋肉質かつ大きめの体格をしていることだ。だから何だ、という話ではあるが。とにかく、彼の身体はよ漬物が持っていた同人誌の四つ足改変レオの姿へと変化したのだ。
彼らの変化は同時に開始し、同時に終わった。身体が変化していく痛み、快楽、疲弊、恐怖。それらが彼らの意識を現実と夢の狭間へと誘っていた。悪く言えば現実逃避である。自身の身体が理想とはかけ離れた物へと変じてしまっていることを受け入れられる人間などそういない。それも、散々罵ったキャラクターの姿だというからその絶望は計り知れない。
暫くの間沈黙が走る。が、沈黙はそう長くは続かなかった。けもちんちくりんがスッと立ち上がったかと思うと雄乳之助を組み伏せて舌なめずりを始めたからだ。
「ぐるるぅ、んにゃう」
「ひぃっ、な、なにをするきだ」
自分自身は理想の身体とはかけ離れた姿へと堕とされた。だが、目の前には理想の、性癖ドストライクなケモノがいるのだ。どうせ見つかれば騒動になるし、きっと元の姿には戻れない。そうなればやることは一つ――けもちんちくりんは覚悟を決め、自身のネコチンを雄乳之助のマスコットサイズのアナルへと勢いよく突き立てた。
「ぎ、ぃ、いだ、いだいぃ!!」
「ぐ、うぅ、るるぅ」
野性的な動物の性行為はマスコット体型の小さな身体の身に余る激しさと苦しさだ。ただでさえ体格差があり、恐ろしい力で抑えつけられ無理やり犯されているというのに、ネコ科特有のトゲトゲとした性器が内部をズタボロに傷つけていく。が、彼の苦しみはここで終わらなかった。
「オレを差し置いてェ、セックスとはなァ。オレも混ぜろォ!」
「ぎにゃあぁん!?」
「あ、ぎ、いぎぃ!?」
性行為に夢中であったけもちんちくりんは背後から迫り来るよ漬物に気づいていなかった。油断しきっていた彼のアナルは瞬く間によ漬物の巨大ネコチンを丸々咥え込み、肛門がめくりあげられてしまうのではと思うほどの激しく乱暴なピストンを受けることになってしまった。そしてその衝撃は連結したままの雄乳之助にも到達し、二人は悲鳴を上げることしか出来なくなっていた。
「んー……理想の身体ってわけじゃあないけど犯してて楽しいし気持ち良いなァ。まあ、理想的な四つ足のオナホとおまけのオナホが手に入ると思えば全然プラスかァ。グアッハッハ!」
何度も何度も叩きつけられる力任せのピストン、排卵を促す為のトゲはただ内壁を傷つけるだけ。体格の差で雄乳之助はけもちんちくりんに、けもちんちくりんはよ漬物に勝てず成されるがままに受け入れるしかない状況。何十分にも何時間にも感じられる苦しみの時間は、遂に終わりを迎えようとしていた。
「うおっ、すげえのが出そうだァ。イク、イグウゥゥッッ!」
けもちんちくりんのナカに大量の精液が押し流され、勢いよく逆流し口から吐き出される。そのあまりの精液量と衝撃に反応してしまったのか、けもちんちくりんの性器もまた雄乳之助に腹いっぱいの精液を流し込んだ。溢れんばかりの精液の海。刺激臭とイカ臭さが蔓延し、遠くの人間たちが異変に気づきスタッフを呼び始める声が響く。
「はァ、トンズラこくか、全員オレ専用のオナホにしちまうかァ……悩むなァ?」
まだ出し足りないとばかりに連結させたままの『オナホ』を手で無理やり上下させながら――元の性格すら塗り潰され『原作そのもののレオ』となってしまったよ漬物はこれからの愉しい新性活をどう楽しんでやろうかと思案を巡らせていた。
[newpage]
【おまけ キャラ設定】
・レオ
『獣王牙』の主人公で、来る敵を全て犯して王の中の王を目指す――という設定のタフガイ。獅子獣人の37歳。
・雄乳之助
筋肉を鍛えるのが趣味な工事現場作業員。逞しい雄乳と筋肉が好きであり、それをきっかけとしてケモノ趣味へと流れ着いた。ケモノに目覚めた原因が原因なので獣人以外は守備範囲外。嫌いというわけではない。
HNの由来は好きな物から。
・雄乳之助(マスコットレオ)
鍛え上げた筋肉や自慢だった身長が萎んで頼りない(彼の基準において)ものになったほか、体格の都合上筋肉を以てしても中学生に殴り負ける程度の能力しかない。ナカは快適らしく、他二人に代わる代わる犯される日々を過ごしている。レオというキャラの設定上屈服することが出来ないので自我を喪失したり逃げたりすることが出来ないでいる。
・よ漬物
その辺にいくらでもいそうな大学生。四つ足の動物体型が好きで、獣のような激しいセックスが好み。獣姦は不味いし実現性が無いよなあ、と考えていたらいつの間にかケモノ沼にいたタイプ。激しいセックスであれば獣人でも何でもいいらしいが、可愛いは守備範囲外。
HNの由来はヨツケモ好き+漬物好きから。
・よ漬物(レオ)
姿形も性格も記憶も自意識さえも物語に登場するレオそのものへと変わり果てた姿。元の青年としての要素はどこにも遺されていない。
・けもちんちくりん
名門大学生。論理的な思考とチクチク言葉で相手を無意識の内にウザがらせる天才。可愛いものが虐げられる様や甘々に愛し合うのが好き。ケモノ好きは可愛い好きの延長線上にあるので、可愛らしさの欠片も無い見た目のものは守備範囲外。
HNの由来はケモノ+ちんちくりんから。
・けもちんちくりん(四つ足レオ)
鎧等の意匠や体格が大きいことを除けば普通のライオン。人語も話せなければ道具を使用することも出来ない。今は番犬ならぬ番猫として飼われながらもオナホ扱いをしたりされたりする生活を送っている。マゾの素質があったらしく反応にドン引きしたよ漬物(レオ)に放置され始めている。
・同人誌
存在しないサークル、存在しない人物により販売された呪いの同人誌。怒りを触媒として望まぬ結果を引き起こし、その様子を遠見の術で楽しむ――という陰湿な代物。