虎獣人の後輩は僕の主人になりました

  慌ただしく時間が流れていくビルの一室。

  僕は膨大な量の仕事に頭を抱えながら、パソコンのキーボードを打ちこんでいく。

  

  「誠先輩~、会計資料まとめ終わりましたよ~」

  「あぁ、ありがとう。見させてもらうね。」

  僕の机の前に2メートルを有に超えているであろう虎獣人が一枚の資料を持ってやってきた。

  彼の名前は大森泰虎(おおもり しんと)。

  今年から入社してきた新入社員で、僕が彼の教育係として毎日面倒を見ている。

  声が大きくて、いつもニカニカと笑顔を振りまいているため、部署内でもかなり評判がいい…

  「うん、完璧だね。僕の名前が間違っているところ以外は。」

  「え……あぁ!本当だ。なんで気づかなかったんだろう俺……」

  資料のレイアウト、まとめ方、どれをとってもいい出来なのによくわからないところでミスしていて、なんだからしくないなぁと思う。

  一見、がっつり体育系のように見える彼はかなり仕事ができる人だ。

  根暗でいつも静かな僕とは違い、どんな人でもフレンドリーに接することができる。

  ぶっちゃけ、先方との打ち合わせの時は彼の明るさに救われたい節が結構あったりもするのだ。

  「とりあえずこの資料名前変えるだけだし、ご飯でも行く?」

  「いいんですか?!お願いします!」

  黄色と黒色で構成された尻尾が嬉しそうにブンブンと揺れて、僕の椅子をバシバシと叩いている。

  他の人の視線が振るようにこちらを向いているのを、気づいてないふりするので精一杯だ。

  「えっとそれじゃあ……この間できた定食屋さん行きませんか?俺あそこの唐揚げ定食ずっと食ってみたかったんですよ!どうですかね!」

  「定食屋さんか……そうだな、久しぶりに行ってみるか。」

  定食屋なんていつぶりであろうか?そんなことを考えながら外出の準備をして、清潔に手入れされた廊下を歩いていく。

  先ほども述べた通り、泰虎は持ち前の明るさとコミュニケーション能力で会社にたくさんのファンをかかえているため、横を通り過ぎていく社員の一人一人が泰虎に釘付けである。

  「泰虎くん!今からご飯?」

  「はい!誠先輩に今から定食屋に連れて行ってもらうところっす!お腹空いたんでいっぱい食べますよー!」

  「あはは、誠ちゃん可哀想だね。それにしてもいい後輩持ったね誠ちゃん、羨ましいよ。」

  「はは…そうですね」

  「ねね泰虎君、今度私たちと一緒に食べ行こうよ!」

  「え、いいんですか!ぜひお願いしたいです!」

  目の前に現れた女性社員の話を軽快なリズムで返していく泰虎を見てやっぱりこいつすげぇな、と思いながらも愛想笑いを続ける。

  いつも僕のことなんて知らんぷりの女性社員たちも、泰虎の先輩という肩書を持った途端猫撫で声で擦り寄ってくる。

  本当に心底気持ち悪いと思うと同時に情けなくなる。

  「それじゃあ俺たちはここでお邪魔します。」

  「うん!いつでも連絡してね!」

  ばいばーいと腕を振る女子たちを横目に出口へと向かう。

  なぜか先ほどまでゆらゆら揺れていた尻尾が静かになっていたのが気になるが、人の流れを止めぬように外へと出た。

  「先輩、さっきから嫌そうな顔してましたけど……もしかして嫉妬ですか?」

  さんさんと降り注ぐ太陽の光の中、ひとまわり小さい人間の僕を覗き込んでニヤニヤしている彼。

  そんなに僕の嫌そうな顔してたか?

  「いや、嫉妬じゃないよ。あんなに女子に囲まれてる泰虎ってすげーなーって。それに比べて僕はあーゆー状況でオドオドすることしかできないからね…」

  自嘲気味に笑いながら下を向く僕を見て、虎獣人は一気にルンルンな足取りで歩き始める。

  「じゃあ先輩ってもしかして……彼女いないんですか?」

  会社の外にある広場に差し掛かり、道幅が広くなると泰虎は僕の前で急に止まりバカにしたような顔でこちらをのぞいてくる。

  彼女がいない僕に対する決定的ないじりをしてくる彼は心底面白いのだろう。

  「なんだよ急に………いないよ。ずっと」

  「ええ!そうなんですか?!」

  わざとらしく手で口を押さえた虎獣人の顔は明らかに笑っていた。

  人の神経を逆撫でて楽しむなどいい性格をしているなこの虎は。

  「うるさいなぁ…いいだろ別に?お前みたいに社交的な性格でもなければ、何か面白いことを言えるようなやつじゃないんだよ僕は。」

  「それはそうですけど…あ、そんなことはないですけど」

  こいつ素で俺のこと今バカにしたよな?

  オーバーリアクションで僕の周りをぐるぐると楽しそうに歩き回る虎獣人を無視して僕は歩き続ける。

  「そーゆーお前はどうなんだよ。彼女いるのかよ。」

  「それが俺もいないんですよ。先輩と一緒ですね。」

  

  泰虎は何が面白いのかずっとニヤニヤして僕の後を歩く。

  それにしても以外だった。まさか泰虎に彼女がいないなんて。

  てっきり綺麗な虎獣人とイチャイチャしてるもんだと思っていた。

  「あーでも先輩みたいな童貞と一緒にしないでくださいね。」

  「はいはい分かりましたよ」

  本当に人をイライラさせるのが上手な虎だ。

  やがて公園のショートカットを抜け、大通りに出たところでお目当ての定食屋さんが目に入った。

  「お、あそこっすよ!先輩!」

  「おぉ、外観は綺麗だね。これは期待大だ。」

  都会の中心。入れ回混ざり合うように人々がごった返す中、縫うようにして前へ前へと進んでいく。

  お昼の時間帯だからだろう。僕たちと同じようなサラリーマンや買い物帰りの主婦などが無差別的にぶつかり合う。

  僕たちはなんとか人混みを抜け、お目当ての定食屋さんに入った。

  「いらっしゃいませー!2名様ですか?」

  「はい。」

  「かしこまりました!少々お待ちください」

  人当たりの良さそうな店員さんが奥から顔を出しお冷を両手に抱えこちらに駆け寄ってきたかと思えば、見事なコーナリングで机に配っていく。

  見事なものだなぁと呆気に取られていると黒と黄色の縞々模様のてがにゅっと伸びてくる

  「先輩、メニュー見てましょ!」

  「そうだな......おお、色んなメニューがあるな!」

  ラミネートで保護されたメニュー表をペラペラさせている泰虎は楽しそうにメニュー表を眺めてお腹をぐぎゅるるとならしている。

  激しく人の入れ替わりが起きている店の中でついに店員の一人が僕達に声を掛ける。

  「それでは奥のほうどうぞ〜」

  奥の机に案内された僕達は向かい合うような形で座りそれぞれ荷物を置く。

  椅子に体重を乗せて体を伸ばして一息つけた幸せを噛み締めながら運ばれてきたお冷を口に運ぶ。

  「メニュー決まってたらどうぞー」

  「あ、じゃあ俺この唐揚げ定食ご飯大盛りで。先輩は?」

  「ええとじゃあ…日替わりBセットのご飯普通盛りで」

  「かしこまりましたー!」

  店員が伝票にサラサラと注文を書き込むと吸い込まれるように厨房へと姿を消した。

  やはり作業効率や回転率が重視される飲食店はいつも頭がフル稼働だ。

  「すごいな」

  「そうですよね〜、ずっとあっちいったりこっちいったりで普通に大変そうですよね」

  「泰虎とかは結構得意そうだよね、こーゆー職業は」

  「はい!まぁ笑顔が一番大事なんで!でも、先輩はこーゆーの苦手そうっすよね」

  「まぁね…人と接するのが苦手だからね」

  田舎から上京してきた僕は昔から人とつるんでこなかった。

  学校が終われば毎回近くの山に行き日が暮れるまで一人でいたのは、僕の中では大切な思い出だ。

  そんな感情に浸っているとリズミカルな足音が近づいてきて、店員がお盆を机の上に置く。

  「はーい!唐揚げ定食と、日替わりBセットです」

  「ありがとうございます!」

  「ありがとうございます」

  .........おいおいちょっと待ってくれ、普通盛りだよな?

  湯気立つほかほかご飯がこれでもかというほどに山盛りの状態でぼくのめのまえに鎮座している。

  そして副菜とも言えるトンカツは信じられない厚さと大きさで、一瞬野球のグローブかと思ってしまったほどだ。

  普通盛りでこれなら大盛りは……

  恐る恐る、ゆっくり視線を隣に向けるとそこには一つの大きな山があった。

  真っ白い雪化粧を纏った山が。そこに。

  「ん?先輩?どうしたんですか?」

  「もしかして、お前それ食えんの?」

  「何言ってるんですか!当たり前じゃないっすか!こんなの獣人からしたら普通盛りですよ。」

  本当に獣人と人間の体は根本から作りが違うのであろう。僕はそんなくだらないことを考えながらも六等分に切られたトンカツの一切れをご飯に乗せ口に運ぶ。

  サクサクの衣を勢いよく歯でかぶりついた次の瞬間、口内を幸せの具現化とでも言おう、肉汁がじゅわぁっと支配した。

  「ん!美味しい!」

  「うまそうに食いますね〜、唐揚げもうまいっすよ先輩!一個どうですか?」

  そう言って僕が顔を虎に向けた瞬間、あーんと唐揚げをつばんだ箸がこちらに向けられているのに遅れて気づく。

  咄嗟の出来事に一瞬頭がフリーズして、すぐに復旧後我に戻って狼狽える。

  「ちょ、泰虎?!なにしてんの!そんな恋人みたいなことしないでよ!」

  「えぇ〜ケチだなぁ先輩は〜ちょっとくらいいじゃないですか〜」

  「何がちょっとだよ。ここ思いっきり公共の場だわ」

  虎はしゅんとした顔でつばんでいる唐揚げを僕のトンカツ定食の隣にちょこんと置いて、箸を自分のところに戻す。

  「全く…ほら、もらってばっかりじゃ悪いから、一個どうぞ」

  「えぇ?!いいんですか!?6分の1ですよ!ピノと一緒ですよ」

  「まぁ確かにそうだけども…ていうかこんな量食い切れる気がしないんだよ」

  「あ、なるほど。そーゆーことならありがたくいただきますね〜」

  そう言ってトンカツの一切れを彼のお皿に譲渡しお互いそれぞれの料理を心ゆくまで楽しんだ。

  泰虎が入社してきて早半年。

  彼は持ち前の飲み込みの速さとコミュ力で社内の人気者の地位を独占していた。

  まぁもとから個体値が高いやつだったからな。

  僕のことを越すのも時間の問題な気がする。

  「泰虎、今日のプレゼン資料ちゃんとできてる?」

  「えぇ!任せてくださいよ!絶対成功させましょうね」

  「うん。泰虎がいれば心強いよ!」

  今日は得意先への新商品アピールの日だ。

  この仕事がうまくいけば、かなり会社の今後が左右されるほど重要な日のため僕も少しばかり緊張している。

  先方が入室してきて、軽く言葉を交わして本題に入る。

  「それでは説明の方を彼からさせていただきます。」

  泰虎は「はい」と言って立ち上がり、前のスクリーンに自分のパソコンの画面を映し出す。

  カチカチとパソコンの方を操作する泰虎。

  しかし、一向にプレゼン画面に映らない。

  最初こそ落ち着いていた彼もだんだん余裕の表情が顔から消えていき、毛がどんどん湿っていってる。

  僕は立ち上がり彼の隣に行き小声で聞く。

  「大丈夫?」

  「先輩…プレゼンのスクリーン全部消えてます……」

  え?終わったやん。

  僕は心の底が冷たく時間が一瞬止まったかのような感覚に陥り、思考が止まった。

  今日は絶対失敗できない日なのに。

  .........だが、ここでプレゼンを止めるわけにはいかない

  「大変申し訳ございません。本来であればスクリーンに資料などを映し出してご説明させていただきたかったのですが、こちらの不手際で急遽予定を変更させていただきます。大変申し訳ございません。」

  とりあえず今できることを、違和感なく完遂することに舵を切り手元の紙に印刷された資料を手元に取り前に出る。

  「僕が時間を作るからその間にバックアップ確認しとけ。」

  「!!!、了解です」

  彼の耳元で最低限今やるべきことを伝えて僕は神の資料での説明に入る。

  内容自体は頭に入っている。だから、今はそれをわかりやすく、興味を引くようにアピールすればいい。

  「それでは資料2ページをご覧ください……」

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  「それじゃあ、これからもよろしく頼むよ。」

  「ありがとうございます!」

  なんとかあの後バックアップを取り出すことができ、予定通りのプレゼンを行うことができ、成功を収めることができた。

  「それではお気をつけおかえりください。」

  僕と泰虎が深々と頭を下げているところに先方の一人の女性社員がこちらに寄ってきて僕に言った。

  「今回のあなたの立ち回り、素晴らしかったわ。またいつでも連絡してください。」

  そう言ってこっそり僕の手に何か紙をギュッと握らせて颯爽とこの場を離れていってしまった。

  年齢的には自分よりも年上だろうが、顔が綺麗に整ったお姉さんタイプの人だった。

  僕の心臓はバクバクと鼓動し、全身に忙しなく血液を送り込んでいる。こんなこと初めてだ!

  「ふーん……」

  この時泰虎はこの紙の存在に気づき、音も立てずその場で静かに毛を逆立てていた。

  「和葉さん!こんにちは」

  「あら、誠さん。ちゃんと時間通りに来てくれたわね。」

  僕はあのあと先方の和葉さんとお付き合いする形となった。

  和葉さんはなんと言うか、一つ一つの動作に品がありそれでおいて隙がない。

  本当になんで自分なんかが特別な関係を結ばせていただけているのか疑問でしかない。

  「それじゃあ駅前のカフェ行きましょうか。」

  「えぇ。そうしましょう。」

  僕はなんとか彼女の隣に堂々と立っていられる様にエスコートし、ひだまりの元幸せを噛み締めながら歩く。

  今日は駅前に新しくできたカフェに行って色々とお互いのことについてお話しようと、僕の方から提案をした。

  街路樹の生えた歩道の車道側を僕が歩きながら他愛もない話をする。

  歩いている時間が不思議と苦じゃない。

  それほどにまで僕は彼女に心酔している。

  「ここですね」

  少しビルの入り組んだ場所の暗い道を進んでいき、やがて目の前に古びたいい味を出す木製の扉が現れる。

  「すごく落ち着いたな雰囲気のカフェですね。私こんな感じの場所好きなんです。」

  「本当ですか!それはよかったです!」

  中に入って早々、和葉さんの評価を上げることができたらしい。

  和葉さんの表情はなんだか嬉しそうでありながらも新鮮な場所でのドキドキを感じているのであろう、少し柔らかくなっている。

  「よくここにはくるの?」

  「ええ。僕はあんまり都会の空気っていうか、息が詰まっちゃう様なビル群の中に身を置くのは性に合ってなくて…」

  「あはは、私もよ。先進的で未来的なところはすぐに息が上がっちゃうのよね。」

  「そうですよね。なんか生きるので精一杯っていうか、止まってる時間が極端に少ないんですよね。」

  森の匂いいっぱいの室内で、隅の方の席に座る。

  素材一つ一つが優しく温かい素材でつかられているこのカフェは本当に僕の心の救いになっている。

  注文を聞きに来た店員に手早くメニューを伝えて再び二人が向かい合う形になる。

  「それで、ここにはいつも一人できてるの?」

  「基本的にはそうですね。でもたまに泰虎と一緒にきたりもしてます。」

  「あぁ!あの虎獣人の人ね。人当たりが良くていい後輩ね。」

  「本当ですよ。なんだか太陽みたいで、何度も助けてもらてるんですよ。僕と違って人と話すが好きなやつなので、そのうち僕なんかよりも高い役職につきそうですけどね。」

  「そんなことないよ、誠さんもきっと素敵な役職に就けるわ。」

  ふふふと柔らかく笑う和葉さんの顔には余裕がある。

  大人の余裕というか、本当に自分が不甲斐なく感じるほどには美しくて見てるだけで心がぽかぽかしてくる。

  いつもきているはずのカフェがなんだかいつも以上に居心地がよくてこの時間がずっと続いていればなんて考えていた。

  「お待たせいたしました。」

  「ありがとうございます。」

  店員さんが持ってきたカップを手に取り程よく熱いコーヒーを口に運ぶ。

  そこから僕と和葉さんは時間を忘れるほどお互いのことを話し合い、共にいる時間を楽しんだ。

  数日後、和葉さんが音信不通になった。

  幸せの絶頂だった僕は絶望の底に叩きつけられたような気持ちと、どうしようもない焦りでいっぱいになる。

  「それで?その日から連絡が来なくなったんですか?」

  「あぁ。僕から連絡しても既読つけないし、なんなら電話しても繋がらないんだよ.....本当に急にどうしたんだろう。」

  パソコンのキーボードをカタカタと鳴らすオフィスの一角で、こそこそと内緒話でもしているのかと思われるような声量で話す僕と泰虎の姿あった。

  カフェに言った日を境に僕と和葉さんの連絡が途絶えた。

  本当にショックだった。

  ここ最近ずっと仕事が手につかず、いつも話しかけてこない同僚にでさえ心配されてしまう始末だ。

  「まさか僕.....振られちゃったのかな.....だってそうだよね?普通急に連絡取らなくなるなんてことないもんな。」

  「まぁまぁ先輩。今日は飲みに行きましょう。先輩の話なら何でも話聞きますよ。」

  たくましくて太い腕がガシッと僕の方を組みゆさゆさと揺らして後輩になだめられる。

  本当にこいつはいいやつだな.......

  「わかった。それじゃ今日は僕のおごりにするよ。」

  「え!!いいんですか!!ありがとうございます!!」

  

  あぁ。なんて白々しい態度なんだろう。

  にこにこと罠にハマった獲物を見るような目で頭を下げる虎獣人のうますぎる誘導尋問に、どうやらみすみすとハマってしまったらしい。

  これが彼の別の意味の罠であるとも知らずに。

  頭がおかしくなるのではないかと思えるほどの仕事量を終えた僕達はいつも行きつけの焼肉屋にたどり着いた。

  ここの焼肉屋は量の割に値段が安く、よく高校生の獣人たちがワイワイと楽しく食べているイメージのある行きつけの店だ。

  「それで、心当たりはないんですか?本当に」

  「ないよ.......だってついこの間まで普通に話してたのに急に音信不通って。なんでだよ.....」

  ジュージューと肉が音を立てて色を付けていく。

  僕の中にあった和葉さんの思いもこんな感じに、音を立ててだんだんと色を変えて、いつしか全く違うものへと変わってしまうのだろうか。

  こんな年にもなって泣くのはいかがものかとも思うが、自然と机の上に涙の雫がこぼれ落ちる。

  人生で初めて好きになった人だった。

  心の底から守ってやりたかった。そばにいても恥ずかしくないような男に本気でなりたかった。

  「ほらほら先輩。泣かないでくださ。可愛いお顔が台無しですよ。」

  「うぅ........からかうなよ......」

  おしぼりを僕の近くにおいた彼はこちらをまっすぐと見る。

  「じゃぁ先輩!いっぱい飲みましょ!和葉さんの事心配かもしれないですけど、逸までも不安な気持ちだと疲れちゃいますよ!」

  泰虎は僕のジョッキにお酒を注ぐ。

  僕は今抱えている不安ともやもやを消し飛ばす一心でどんどんと酒を進めていった。

  僕がどんどん飲み進めていくのと同時に泰虎はニヤニヤと不気味な笑顔を張り詰めらせながらキンキンに冷えたビールを注いで行く。

  しばらくしていつの間にか僕は店の中で酔いつぶれてしまい、記憶が途切れた。

  「んん.........」

  だんだんと頭が冴えてきてゆっくりと目を開ける。

  僕の視界に入ってきたのは全く見覚えのない部屋の天井と鼻をつんざくような雄獣人のにおいだった。

  「先輩、起きましたか?」

  いつも会社で見る黄色と黒のしましま模様の彼がすぐそこにいた。

  彼は冷蔵庫から何かを取り出しコップの中になにか液体を注いでいる。

  「ちょ!ここどこ!?」

  「あぁ、先輩覚えてないんですね。あのあと先輩立てなくなるまで飲んで、俺の家まで担いできたんですよ。」

  泰虎が台所から透明な液体を持ってこちらに向かってくる。

  どうやら飲みつぶれた僕をここまで運んできてくれたようだ。

  だからこんなに獣臭のするソファに横たわっているのか。

  ようやく状況を理解した僕はゆっくりと起きあがり、彼からグラスを受け取って液体を口の中にゆっくりと流し込んでいき、冷えた水で頭をリフレッシュッさせる。

  

  「ありがとう。」

  「いいですよ全然。それで先輩、今日はもう俺の家泊まっていってください。明日は休みでしょう?」

  コップの中身を飲んだ僕を確認した泰虎はそう問いかけてきた。

  「いやぁ、流石に悪いよ。お前だった明日は久しぶりの休日なんだから僕抜きのほうがいいだろう?」

  そういって僕は泰虎の顔をまっすぐと見る。

  なんだかこんな至近距離でこんな美形な男顔を見たことがないため、目のやり場に困る。

  「それじゃあ迷惑かけてごめんね。先に帰らせてもらうよ。」

  そういって僕がソファから体を起こそうとしたときである。

  ドン!!

  「!!!!!!!!!!!!!!」

  「あはははは。先輩、本当に馬鹿ですね。」

  いつもは優しくてニカニカしている泰虎からは考えられないような野性的な目つき、そして体の芯にまで響く低音の声。すぐそこに息を荒げて苦しそうに、余裕の無さげの虎獣人がそこにはいた。

  そう。今まさに泰虎が僕を押し倒した。

  「逃げれるわけないでしょ。獣人に人間が勝てるとでも?」

  「ック!離せ」

  僕の上にまたがり完全に身動きが取れなくなる。

  ジタバタしてもびくともしない岩のような彼は僕の中にある余裕をだんだんと奪っていった。

  「そんなんだから和葉さんにも逃げられちゃうんですよ〜」

  「お前には......関係ないだろ......」

  「さぁね〜」と言いながら虎獣人はポケットからスマートフォンを取り出しなにか操作を時始めだした。

  僕が警戒心を張り詰めながら彼の事を伺っていると、泰虎はこちらにスマホの画面を向け何かを僕に見せてきた。

  「泰虎さん!♡壊れじゃう♡♡♡どめで♡♡♡」

  「きめーんだよクソ女」

  ばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅばちゅ♡♡

  

  「い、イッじゃう♡!!泰虎さん!ナカに♡ナカ出して♡♡!!」

  

  そこにはかつて俺が好きで好きでたまらなかった和葉さんが映し出されていた。

  それはそれは醜く、ひどく顔をグシャグシャにして目の前のオスに子種をねだるメスの顔つきでスマホの画面から映し出される。

  言うまでもないだろう。

  和葉さんのことを犯しているのは目の前でニヤニヤと卑屈な笑みを浮かべる虎獣人だ。

  なぜだ?なぜこんなにも目の前の虎獣人はケラケラと乾いた笑いができるんだ?

  あんなに心配していたのも、僕のことを気にかけていたのも、全部ウソだっていうのか?

  今まで見たことのない、人の神経を逆撫でることだけに特化したような態度を取る泰虎。

  

  「いやぁ、本当に気持ち悪かったすよこいつ。ずっとこんな調子で喚くんですから。」

  「離せ.........お前なんか後輩じゃない。絶縁だ。」

  「あ?」

  顔も見たくない。

  今まで可愛いと思っていた後輩にこれほどまで冷たく、でも確かに怒りの熱さを感じたのは初めてあり、金輪際感じることはないだろう。

  「発言には気をつけろよ。主人に向かってそんな反応許されるとでも思ってんのか?」

  一瞬だった。

  彼は僕の服を瞬きをするまもなく引き裂いた。

  それと同時に彼は思いっきり僕の上半身に残酷で、現実を伝えるかのように鋭い爪を立てた。

  「ああああああああああ!!!!!!!!!」

  血がだくだくと溢れ出る。

  痛い。上半身を火であぶられているかのような、そんな感覚が神経を問うって脳に直接伝わる。

  無意識に顔が攣ってしまうのではないかというほど思いっきり顔をしかめて涙を流す。

  

  「あぁ......たまらねぇ......先輩ってそんなふうにも泣けるですね。」

  泰虎はどろどろと、鈍くねっとりとした、それでおいてどこか警戒心を煽るような目でこちらを覗きながら自分のズボンのベルトをかちゃかちゃと音を立てながら緩めていく。

  考えたくもない。まさか。それだけはだめだ。

  しかし、そんな考えも虚しく彼のギンギンのソレの姿があらわになる。

  「泰虎.......許して.......だめだよ.......」

  「....................」

  泰虎は僕の足をガッチリと掴んでまたを開くと、ぴちゃりといやらしい水音を立てて彼の雄棒が僕の排泄口に密着し、僕の上に覆いかぶさるような体勢になる。

  彼のお腹に僕の血がじんわりと淡く染み込んでいく。

  「許すわけねーだろバーカ」

  ズコン!!!

  「!!!!!!!!!!!!」

  彼のソレはなんの脈略もなく僕の穴を押し広げた。

  今まで排泄でしか使ったことがなかった、なんなら今後ソレ以外の用途で使われることはなかったであろうそこがじんわりと熱を帯び始める。

  「あったけぇ〜♡」

  グルルと猫科特有の喉の音を豪快に響かせながら彼に襲いかかっているであろう快感を行動で表現する彼。

  「それじゃぁ、ナカいっぱいに注いわからせてあげますからね♡」

  脳みそが今起きている状況をうまく処理しきれていない隙に彼はゆっくりとピストン運動を始める。

  「あ、あ、あ、あ、あ、」

  ゆっくりと確実にナカを蹂躙していき僕の大腸がみちみちと音を立てて押し広げていく感覚がとてつもなく不快なはずだ。

  .............はずだ

  「先輩ったらそんなとろんとした顔しちゃって、そんなに虎チンポ気持ちいいんですか?」

  なのに何だ。感覚がおかしい。

  最初は不快感でいっぱいだった感覚が次第にグニャグニャと姿を変えていく。

  それはゆっくりと、でも確実に変化していく。

  彼が動く度に変な声が止まらない。

  あまりにも気持ち良すぎる。

  「そんなこと.....んん♡!!!」

  「そうでしょうね。さっき飲んでもらった液体は媚薬です。それも大量の。だからなんの慣らしなしでも俺のチンポが入ったんですよ」

  彼の先走りが僕の中で湿りだしたのか、次第にチュパチュパと粘性を増していく。

  そのせいか、次第にスムーズになるピストン運動。

  前立腺が容赦なくゴリュゴリュと押し上げられ、その度に脳みそを殴られるよな、そんな快感が僕を襲う。

  「ねぇ先輩。ずっと俺先輩のことでいっぱいだったんですよ。入社して不安だらけだった俺を優しく導いてくれたのは誰でもなく先輩だったんですよ。」

  汗が傷跡に染み渡りとてつもない痛みを感じるが、それさえも快感へと俺の頭が翻訳してしまう。

  目の前の虎獣人の話もよく頭に入ってこない。

  「たまに見せてくれる笑顔も、いじったときめんどくさそうにする顔も、真剣に取り組んで誰かを支えてくれる顔も、全部全部愛おしくてたまらなかったんです。」

  次第に思考能力が鈍くなっていく。

  さっきまでどう抵抗するか考えていた脳みそは、絶え間なく送られる快楽信号を受け取るだけのものと化していた。

  「それなのに........和葉なんてよくわからない女がまとわりついて.........それで俺考えたんです。どうやったら先輩から引き剥がせるか。賢くない俺でもできることを考えたときに思いついたんです。壊そうって。」

  言っていることが支離滅裂だ。

  目の前のケモノにはすでに理性など感じなかった。

  ただ自分の遺伝子をメスに植え込み、孕ませることしか頭にないような、そんな恐怖じみた顔が目の前にある。

  「そんなの♡許さ........ない♡」

  「っふ、もうわかりました。じゃあ狂わせてあげますよ。人間の雄でさえ媚薬として働く雄獣人の精子、先輩の粘膜から直接接種させてあげますよ♡。」

  「え、ちょまっ............」

  ガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツガツ♡♡♡

  「ああああああああああ♡♡♡!!!!!!!」

  今までかろうじて残っていた微量の理性、感情はこの瞬間に音を立てて崩れ落ちた。

  脳が快感以外の信号絵を送ってこない。

  目の前の絶対的な雄に力で蹂躙されている。

  その事実だけで体の至る所がビクンビクン疼き始める。

  「ゆるじでぇぇぇぇぇ♡♡!!!!!」

  「あぁ金玉せり上がってきた♡イきますよ誠先輩♡。もう俺無しじゃ生きていきないようにしてあげますからね。」

  一気に腰をフルスピードを速める虎獣人。

  それがまるで僕の人間としての終わりに向かっているようで目に見えない莫大な恐怖が僕の身体全体を襲う。

  「やべでぇ!!!!!」

  「グルル♡...........ガァア♡!!!!」

  ビュルルルルルルル♡♡!!!!ビュル♡!!!ビュウウウ♡!!!!!!!

  「あぁぁ♡♡♡!!!!!!」

  満たされていく。

  好きだった人を寝取ったやつにレイプされた挙げ句無理やり中出しされて、僕の心はあふれるくらいに幸福感でいっぱいだ。

  「グルルル♡......これからもいっぱい子ども作っていましょうね。」

  まだまだ収まることを知らない雄チンポは僕の中で息をするかのように精子をビュ!と永遠に吐き出す。

  「せ・ん・ぱ・い・♡」

  僕の体にくっきりと付いた5本の爪痕。

  すでにたくさんの血が流れ出た底はまだジクジクとその残酷さを証明している。

  泰虎は愛おしそうに、ザラザラとした舌で傷を舐め幸せそうに喉を鳴らすのであった。