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第二話 秘湯にて:情事と魔術と老犬の提案

  

  「ちょっとお主、そろそろ許してくれてもいいんじゃないかね?」

  森の中の秘湯にて。

  温泉の傍らに立ち、つんとそっぽを向く俺に対し、温泉の中からジムが哀願するような声をかけた。

  「あれは不慮の事故なんじゃよ~」

  じゃばじゃばと水音を立てながら、犬人が顔の前で何度も手を合わせる。

  「何度も言わないで下さい。判ってます」

  俺はそっけない返事を返す。

  …まぁ、確かにジムは何も悪くないのだろう。

  オークを取り逃がしたガラだって悪くない。

  悪いのはタイミングと、俺の運。

  「…すいません。

  俺の方こそ…ジムさんは悪くないのに、ついかっとなってしまって…」

  いつまでも駄々をこねるのは、子供のする事だ。

  俺は大人なんだ。

  この犬人を許そう。

  そうだ、一番悪いのは、この犬人に呪いをかけた奴だ。

  ジムだって被害者なのだ。うんうん。

  「おお、許してくれるか!なんと心が広い…

  さぁさぁ、それじゃあ仲直りの記念に、一緒に湯に浸かろうじゃないか!」

  先ほどまでのしょぼくれた雰囲気はどこへやら。

  一転してにっかりと笑うと、ジムは俺に手招きをする。

  確かに数時間は歩き通しだ。足も痛いし、汗もかいた。

  ひとっ風呂浴びたい気分、ではあるが…

  「あ、でも拭くものとか持ってきてないですし…」

  体毛が薄い人間とは違い、獣人は風呂に入った後は、たっぷり3枚はタオルを使って水分を拭き取らなければ、風邪をひいてしまう。

  俺は辺りをきょろきょろと見渡す。

  岩の影に、ジムの着ていた服が畳んで置いてあるのに気づくが、そこにタオルのような物は見当たらない。

  「いいからいいから、拭くものとかいいから。

  ほら、脱ーげ!脱ーげ!」

  手を叩いて催促するジム。

  子供か。

  

  まぁ、こう言っているのだ、何かしら乾燥させる手段があるのだろう。

  俺はため息をつくと、岩陰に向かい、そそくさと服を脱ぐ。

  「今更隠さんでもええじゃろ!」

  前を隠しながら湯船に浸かろうとすると、ジムに咎められた。

  「あのね、俺はあなたみたいに、平気で晒せるタイプじゃないんですよ」

  「でも今朝バッチリ見たぞい」

  「それはそれ、これはこれです」

  ざば、と腰を落とすと、肩まで湯につかる。

  

  「はぁ~あ…」

  思わず声が漏れる。

  熱くもなく温くもなく。

  程よい湯加減だ。

  俺は犬人から少し距離を置くと、岩に背を預け、脱力する。

  いつの間にか、とっぷりと日は暮れて。

  空には見事な満月。

  月明かりに煌く雲が、ゆっくりと空を流れていた。

  ちかちかと星が光り、時折流れ星が尾を引いて流れる。

  耳を澄ますと、さわさわ、と草花が風に揺れる音。

  俺とジムじいさんは、お互いに何かを言うでもなく。

  ぼんやりと、天を眺めて放心していた。

  

  そうして、たっぷりと10分は経った頃だろうか。

  不意に、がさがさと背後の草むらが揺れた。

  半ば放心していた俺は、びくりと身を震わせる。

  「ええと、おじゃま、します」

  

  そこに居たのはガラだった。

  相変わらずピチピチの服を、窮屈そうに着ている。

  「おお、やっと来たか」

  ジムが右手を挙げると、ガラは手に持っていた荷物を掲げた。

  「おさけ、もて、きました」

  そこには酒瓶と、コップが二つ。

  「すまんのう、そろそろ休む時間だったろうに」

  「いえ、だいじょぶです」

  ガラはジムのそばへ近づくと、岩の平らな部分にコップを並べ、酒を注いだ。

  一つはジムに。

  そしてもう一つは…

  「ガイト、飲めるか?」

  

  「え、いいんですか?」

  「何を遠慮しておる!温泉と言えば酒じゃろ!」

  酒か?

  俺は首を傾げ…

  「それでは、頂きます」

  コップを受け取る。

  酒は嫌いではない。

  特段強くもないが…。

  中には乳白色の液体がなみなみと注がれていた。

  どこから舞い込んだのか、黄色い花弁が1枚、水面に浮かんでいる。

  「まあ、なんじゃ。

  乾杯の音頭を取りたい所じゃが、イイ感じの言葉が見つからんな…」

  ふうむ、と顎に手をやると。

  「よし、我らの縁に、乾杯!」

  朗らかに言って、ジムはコップを高く掲げた。

  「――乾杯!」

  俺もそれに続くと、酒を高く掲げる。

  「かんぱいー!」

  ガラも、酒を手にはしていないが、俺たちの真似をして乾杯のフリをした。

  

  酒を口に含む。

  その味に驚く。

  

  俺には今、過去の記憶が無いが。

  それでもきっと、こんなに美味い酒を飲んだことは一度たりともなかっただろう。

  「美味いか?」

  ジムに声を掛けられ、頷く。

  「まー、湯に浸かりながら飲めば、どんな安酒も、天下一品の美酒に早変わりするもんじゃ」

  「え、これって安酒なんですか?」

  俺が驚くと、ジムは頷き、

  「探せばすぐ同じものが見つかるぞい」

  「へぇ…」

  感心しながらまた酒を一口。

  湯に温められた体に酒が染み、酔いが徐々に回る感覚を覚える。

  「ガラ、お主も湯に浸かれ。汗臭いぞい」

  ジムがガラに声をかけると、待っていたようにガラは頷き、素早く服を脱ぎ始めた。

  ま、どうせガラも入るんだろうな、とは予想していた。

  

  俺はぼんやりとその光景を眺めながら、

  ――顔は獅子、手足は虎、角は牛で尾は狼、じゃあ股間はどの種族なんだろうな…

  なんてどうでもいい事を考える。

  見慣れてはきたが、やはり[[rb:異形の獣人 > キメラ]]だ。

  そこがどうなっているのか、興味はある。

  そんな俺の目の前で、ガラは全裸になると…

  「――え?」

  俺は思わず声を上げてしまった。

  股間に、何もついていない。

  うっすらと毛が生えてはいるが、そこはまるで子犬の腹の様につんつるてんである。

  「おや、ガラの一物が見たかったかね?」

  唖然としている俺の顔を見て、犬人がからかう。

  ガラは少し気恥ずかしそうだ。

  「その、てっきり…ついているもんだと」

  「ついとらんはずないじゃろ」

  いうや否や、ジムはガラの股間におもむろに手を這わせる。

  あっ、とガラが声を上げるが、お構いなしにジムは指を動かし…

  「これ、これ、スリット」

  「スリット!?!?」

  ジムが指さすそこに、縦に走る線を見つけ、俺は驚く。

  スリットっていうと、一部の爬虫類がそのタイプだって言うが…

  「よっこいしょ」

  ジムがスリットの中に乱暴に指を突っ込んだ瞬間。

  ガラが声にならないうめき声をあげると同時に、中からピンク色の肉の塊が、ぶりんと飛び出した。

  体の大きさに見合ったそれは、粘質の液体に濡れているようで、つつ、と糸を引いている。

  妖しく光るそれを目にして、俺は思わず息を呑んだ。

  …しかし、俺やジムのそれと違い、なんというか…独特の形状をしている。

  「という訳で、正解はドラゴンじゃ!」

  ドラゴン!?

  伝説の!?

  俺はたっぷり5秒ほど静止した後、

  「その、ガラって一体…」

  ガラが身をよじってジムの手から逃れると、その肉の棒をスリットの中に器用に収める。

  デリカシーゼロの犬人は、からからから、と笑った後、

  「ガラはのぉー、実はのぉー」

  ん-、と言葉を溜めて、

  「…ん、月に叢雲、花には風、か」

  不意に目を細め、険しい顔つきになる。

  

  「ん?つきに?」

  何を言い出したのか、と俺は頭の上にハテナマークを浮かべた。

  「続きは、これを片づけてからじゃな」

  ジムが俺…ではなく、俺の後ろの方を見ながら言う。

  何かあるのか?

  ほろ酔いでいい気分の俺は、ゆっくりと背後を振り向き…

  そこに立つ影を見て、唖然とした。

  

  夜に溶ける深緑の鱗に、チロチロと唇を這う真っ赤な舌。

  ぼろきれを身に纏い、右手には抜身の剣。

  左手は自身の下腹部をさすっている。

  ……リザードマンである。

  「のおおおっ!?」

  危機感が爆発し、俺は反射的に立ち上がる。

  ばしゃばしゃと湯を蹴立てながら、ジムの隣に避難。

  同時に、ジムがすっくと立ち上がる。

  俺の顔の真横に、犬人の一物が並ぶ。うーん、間近で見るとなかなか。

  「まったく…この紋のせいで、おちおち風呂にも入れんわい」

  苛立つ声。

  気色ばみながら、ジムが下腹部の紋を触る。

  呼応するようにそれが輝いた。

  「じむ!」

  ガラが身構える。

  ジムはそれを左手で制すると、

  「ガイトや、ちっと魔術を使うが、是非見て驚いておくれよ」

  かすれた声でそう言った。

  魔術?

  聞きなれない俺の隣で、ジムが呪文を唱え始めた。

  『いざ来たれ、意思持つ風よ』

  ジムの呪いの紋が、一際紅く輝く。

  顔を上げると、ジムが胸の前で何やら印を結ぶ動きをしていた。

  『千々に走れ、彼奴を刻め』

  そしてジムの手が、リザードマンに向けて掲げられ…

  『[[rb:疾風破 > リキニア]]』

  犬人が呪を解き放つ。

  刹那。

  じじじじじじっ!!

  

  ――と、形容しがたい音が響いた。

  「っ!!」

  不快な音に、背筋に寒気が走る。

  視線の先で――

  リザードマンの体から、血液がびびびっ、と走る。

  見えない何かで拘束されるように、その場に硬直。

  やがて、ゆっくりと後ろへ倒れこむ。

  どちゃり、という音。

  そして、やや遅れて、リザードマンの股間の辺りから、白い液体がぴぴっ、と飛び散る。

  「……死ぬたびに一々[[rb:射精 > だ]]すの、やめてもらえんかのぉ」

  呆れたようにジムが独りごちる。

  

  一体、何が起きた?

  「じむ、すごい!まじゅつ、つよい!」

  興奮したガラが、ジムを讃えている。

  俺はもう一度、倒れたリザードマンに目を凝らす。

  闇に溶ける肌色をしているせいで見づらいが、四肢が切断され、ひくひくと痙攣しているようだった。

  断末魔すら残さず、絶命している。

  「うーーむ、興が削がれたの…」

  犬人は俺の方に体を向けると、視線を落とし、俺の顔を見る。

  「見たか?ワシの魔術」

  

  自慢げにむん、と胸を張るジム。

  …と言われても。

  酒が回っているせいか、目の前一杯に揺れる男根から視線を外せない。

  「ン?こっちの方が気になるのか?」

  言って、ジムは一物に指を添えてぶるぶると振ってみせた。

  湯の飛沫が顔にかかり、俺はようやくはっと意識を取り戻す。

  「いや、その、腰が」

  「腰が?」

  「腰が、抜けて…」

  驚きのあまり、俺は風呂の中で腰を抜かしていたのだ。

  そう、決してジムの股間を注視していた訳ではない。

  ないぞ。

  +++++

  

  えいやっ、とガラがリザードマンの亡骸を遠くへ投げる。

  臓物の破片が宙を舞い、よくわからん体液がガラの体を染める。

  うーん、スプラッタ極まりない。

  「という訳で、じゃ」

  隣でジムが肩まで湯に浸かり、ふぃー、と息を吐いた。

  湯気がくるくるくる、と口元で回転する。

  「見たか?ワシの魔術」

  二回目だ。

  今度は流石に頷く。

  「見ました」

  「凄かったじゃろう?格好良かったじゃろう?」

  得意げに笑うジム。

  まぁ、確かに、格好は良かった。

  「あれは、魔法、では無いんですか?」

  俺は思案しながら応える。

  そう、魔法なら知っている。

  魔力と引き換えに精霊に請い願い、『事象』を起こす御業の事だ。

  しかし、俺が知っている魔法は、杖や魔本、護符と言った呪具を触媒として発動するものであって、決して素手で発動できるような物ではない。

  「魔法ではなく、魔術じゃ」

  いつの間に手にしたのか。

  ジムは酒の入ったコップをぐいっと煽る。

  「まーじゅーつ。間違えちゃいかんぞ」

  げふ、と酒臭いゲップをする。

  このジジイ、下品である。

  威厳の欠片もない。

  「その、魔術とは一体?」

  「よくぞ聞いてくれた!」

  いつの間に戻っていたのか。

  血みどろになったガラが、空いたジムのコップに酒を注ぐ。

  いろんな体液が混ざった匂いが漂い、えづきそうになる。

  しかし、犬人とガラは平気な顔だ。

  「魔術はのォ、精霊を介さずに、直接事象に干渉する業なのじゃ!」

  酔いが回り始めているのだろうか。

  ジムの声が大きくなる。

  「世間一般に言う魔法は、魔の法則に依り…つまり、魔を以て精霊に乞い、精霊の力によってこう、バァーン!じゃ。バァーン!!」

  随分と頭の悪い説明に、はぁ、と気圧されながら頷く。

  犬人は上機嫌だ。

  「一方のォ。魔術はそんな事はせん!魔を以て直に術を成す!精霊を介さずに事を起こす!精霊なんて糞くらえじゃー!!」

  やたら元気に言うと、ぐいっと酒を飲み干す。

  「おかわり!」

  「もう、ないです」

  「なんだと!!!」

  ムキー!とガラの腕に掴みかかるジム。

  さっきの勇ましい姿はどこへやら。

  温泉の熱気と酒の酔いにあてられて、泥酔しているようだ。

  

  …しかし。

  初対面の時に感じた、ただ者ではない、という印象は間違っていなかったのだ。

  この犬人、あんな奇妙な術が使えるなんて。

  

  「……んで、じゃ」

  ジムはこちらに向き直ると、

  「お主、わしの見立てじゃと、相当濃い魔力を持ってるようじゃな」

  人差し指で指される。

  「え?俺が?いや、そんな」

  俺はただの運び屋だ。

  そんな自覚は一切ない。

  「いーや、お主は特別じゃ!

  じゃないと、わしの呪いに耐えられんはずじゃ!」

  犬人の語気が強くなる。

  「呪いに…」

  「うむ。普通、ワシの近くに寄っただけで呪いに冒され、まともな思考は出来なくなる。

  しかしお主はおかしくなるどころか、紋を直視しても一切変化がない!」

  確かに、ジムに刻まれた紋を直視しても、身体に異常を感じたりはしない。

  しかし、あのオークや、先ほど襲ってきたリザードマンは明らかに狂っていた。

  ジムの言うことは本当のことなのだろう。

  

  「この呪いはな、自慢じゃないが、そんじょそこらの対魔耐性なんぞ平気でブチ破るロクでもない代物なんじゃ。

  じゃからワシは、人様に迷惑をかけないように、わざわざこんな辺鄙な場所に隠遁しとる」

  なるほど、こんな場所に庵を設けたのにはそんな理由があったのか。

  

  「しかしガイト、お主はワシのそばにおっても、まるで平気な顔じゃ。

  先天的な抗魔力を持っているのか、それとも何かが原因で後天的に抗魔力が備わったのか。

  それはわからんが、兎にも角にも尋常ではない力を秘めちょるのは間違いない!」

  腕組みをするジム。

  その後ろでは、ガラが手で湯をすくい、体にぴちゃぴちゃとかけて汚れを落としている最中だった。

  

  「あれ?でも」

  俺はその光景に違和感を抱く。

  「ガラは?」

  そう、ガラはどう見てもジムに興奮して襲い掛かるようには見えない。

  甲斐甲斐しく身の回りの世話を焼くばかりで、襲ったりといった雰囲気は一切見られないのだ。

  犬人はその質問に対し、片方の眉を上げると、

  「ガラはそもそも[[rb:血肉人形 > ブラッドゴーレム]]じゃ。

  あいつにはあらゆる魔法も、呪いも効かん」

  ガラに視線を投げながら、言った。

  「[[rb:血肉人形 > ブラッドゴーレム]]?

  って、その、魔法生物って事ですか?」

  俺は思わず聞き返す。

  [[rb:土人形 > ゴーレム]]なら知っているが、そんなものは初耳である。

  「ああ。高等な呪術で組まれとる。

  まぁ禁呪の類じゃ、あまり知られとらん」

  「禁呪…」

  自分に向けられていた視線に気づいたのか、ガラがこちらに視線を向けた。

  体に付着していた汚物はあらかた流し終えたようだ。

  

  「その、禁呪って」

  聞き返すと同時に。

  老いた犬人が、わざとらしく両腕でバツマークを作ると、

  「おおっとストップ!!

  ここから先はあれじゃ!

  企業秘密というかなんというか、込み入った話になるからの!

  お主には話せん!!」

  「ええ、ここまで話しておいて殺生な…」

  続きが気になった俺は、ジムに懇願するような視線を投げるが、ジムはわざとらしく視線を逸らしてそれを防ぐ。

  

  「……でも、事情はわかりました。

  お二人が森のはずれで隠遁しているのには、そんな理由があったんですね」

  ざば、と湯をすくうと、俺は顔にびしゃりとかける。

  「ああ。ワシの呪いの件もあるし、ガラという存在の件もある。

  あまり人里に近い場所にいると、トラブルを招いちまうからの。

  と・こ・ろ・で……」

  唐突に。

  ジムは空になったコップをガラに手渡すと、湯をかき分けながら、ずずいっと俺のほうに体を寄せた。

  「お主、しばらくうちに滞在するつもりは無いかの?」

  にやけ顔を俺の鼻の先まで近づける犬人。

  急な接近に俺が驚いていると、

  「長らくガラと二人暮らしだったから、何かワシ、お主の存在がうれしくてのぉ~。

  それに、せっかく面白い体質をしとるんじゃ、その魔力を生かしてワシの魔術を覚えてみるってのはどうじゃ?

  使えて損はないぞぉ~?」

  「魔術を?覚える?」

  俺はオウム返しに答えた。

  先ほど目の当たりにしたあの魔法のような力。

  あれが俺に扱えるのか?

  「おや、興味がおありのようじゃな?」

  ずいずいっと体をさらに寄せてくる。

  俺は慌てて距離を取ろうとするが、すぐに背後の岩に背中が当たり、動けなくなってしまった。

  「ちょっ、近いです!近いですって!」

  しかしジムは一切の遠慮とか無いようで、ほぼ密着に近い距離まで近づくと、

  「それにお主、ワシやガラの一物見てちょっと興奮しとったろ?

  お主が良ければ、溜まったらワシがいつでも相手してやるぞい」

  

  耳元で、囁くように言う。

  ぞわぞわぞわっ、と肛門から頭上にかけて震えが走った。

  「ちょちょちょちょっ!?」

  「何々、ワシは元々男色家じゃ。

  ガラも[[rb:血肉人形 > ブラッドゴーレム]]じゃから、ワシの言うことならなんでも聞くぞ?」

  悪戯っぽい笑みを浮かべるジム。

  その頬が、酔いのせいか、湯で温められているせいかは判らないが、ひどく紅潮している。

  「いや、そーじゃなくて!!

  まだ初対面から大して時間も経ってないのに、そそそういうのはどうなんですか!?」

  俺の言葉を無視するようにジムはさらに接近し…

  「ほれ、ほれ」

  その右手が、俺の股間に伸びる。

  そして俺は初めて、自身が痛いほど勃起している事に気づいた。

  「ッ!?」

  ジムの手が、おもむろにそれをぐっと掴む。

  「お主、興奮しとるじゃないか…

  よし、せっかくの縁じゃ。

  今宵はワシと楽しもうじゃないか、ん?」

  酒臭い息を吐きながら、淫靡な笑みを浮かべる犬人。

  急な出来事に狼狽えていると、ジムはすっとその手を放し、立ち上がった。

  ざば、と湯が流れる音と共に、目の前にジムの下腹部の紋と、そして怒張した一物が露になる。

  俺はそれから、目線を外すことが出来なかった。

  無意識に凝視してしまう。

  カリが太く、えらがしっかりと張り、そして太い胴の根元には一際太く凝り固まった亀頭球。

  長さはそれほどでもないが、雄を誇示するようにぐっと天を衝くそれは、太く雄々しい。

  数本の血管が表面に這い、ピクピクと脈動している。

  つい今まで湯に浸かっていたはずなのに、鼻腔を微かな匂いが満たした。

  「ほれ、ガイト。どうじゃ、ワシのは?」

  びくびく、とそれを上下させるジム。

  それに連動するように、犬人の陰部に刻まれた紋が、鈍く輝いた。

  「あ、その…」

  しどろもどろになる。

  こういう時、どうすればいいのかわからない。

  過去の記憶が引き出せないせいで、かつてこういう経験をしたことがあるのかどうかすらわからない。

  どくどく、と自身の鼓動が耳元で唸っている。

  

  「どうじゃ、ねぶってみるか?ん?」

  ぐい、と腰を突き出すジム。

  視界いっぱいに広がるペニスを前に、俺は身じろぎ一つできない。

  数秒間硬直していると。

  

  「うーむ、ワシの見立てより[[rb:初心 > ウブ]]じゃったか…」

  急に、少し呆れたようにジムが頭をかく。

  「よし、ガイト。

  立て、立つんじゃ」

  「え」

  言うが早いが、ジムはしゃがみ込むと、へたり込んでいた俺の両脇の下に両手を滑り込ませる。

  「悪いようにはせんから、ほれ。立つんじゃ」

  熱に浮かされているからだろうか。

  俺はその言葉に逆らえず。

  近くの岩に手をかけると、ぐっと立ち上がる。

  「おおー、若いのぉ」

  自然に、座ったジムの前に俺自身が晒される。

  先ほどとは真逆の体制になった。

  「うんうん、やはり生命力に溢れておっていい。

  というか、お主コレ相当溜まっとるんじゃないか?

  今にもはちきれそうじゃぞ」

  俺の下腹部に視線を絡めながら、どことなく嬉しそうな声を上げる初老の犬人。

  かぁっと顔が熱くなる。

  俺自身が恥ずかしくなるほどに硬く勃起した一物は、ジムの言う通り、触ればすぐに果ててしまいそうだ。

  なんだか自分が自分でないような、奇妙な感覚に陥る。

  すると、それまで黙って離れていたガラが、ざばざばと湯を蹴立てて近づいてきた。

  「じむ、たのしそう」

  どこかガラの顔も紅潮しているように見える。

  「おお、ガラ。すまんすまん、放っといちまったな。

  お前も混ざろう」

  ジムは子供をあやすようにそう言うと、俺の一物がガラにも見えるように、体を横にずらす。

  「え?」

  いや、さっき[[rb:血肉人形 > ブラッドゴーレム]]って言ってたよな?

  そういう事、出来るの?

  立ち尽くしたまま、熱に浮かされた頭でそんな事を考えてしまう。

  ジムは俺の考えを読んだように、

  「ほらガラ…、よっと」

  ガラの股間、スリットに慣れた手つきで指を差し込み…

  「あ、ん!」

  再び、ドラゴンのそれと呼ばれた肉の塊がスリットの中から姿を現す。

  それは先ほど見た時とは違い、硬質化し、肥大し、ぎらぎらと濡れて屹立していた。

  俺やジムの物よりも、一回りも二回りも大きいそれに、思わず感嘆の息が漏れる。

  

  「まぁ後々説明するが、ガラは普段からワシと交わっておる。

  じゃから、前も後ろもしっかりと開発してあるぞ」

  「そ、そうなんすか…」

  朝食を作っていた時の、あのほがらかな雰囲気はどこへやら。

  ガラは獅子の顔を歪め、快楽を欲して荒い息を吐いていた。

  「[[rb:血肉人形 > ブラッドゴーレム]]じゃから、思考や判断能力は子供のそれじゃが…

  体は立派な大人じゃ、そういう風に創った」

  「創った?」

  俺がそう返した瞬間、だった。

  あんぐりと口を開けると、ジムが俺自身を、ぱくりと咥えた。

  「~~~~ッ!!!」

  ジムのマズルはやや短いせいで、俺のペニスの上半分が隠れる形になる。

  ん?ン~、とジムは数瞬唸ると、そのまま顔を俺の下腹部に埋める様にずるずると進めた。

  先端が喉元まで到達しているはずなのに、犬人は眉一つ動かさず、長い舌をぐねぐねと俺の一物に這わせる。

  下半身に押し寄せる電撃のような快楽と、ガラの熱い視線に脳が沸騰しそうになる。

  今日初めて顔を合わせた人間と、こんなことをしている自分が信じられない。

  「すごい、すごい」

  虎縞の腕で、ガラが自身のペニスをしごく。

  スリットの中におさまっていたからか、にちゃにちゃと粘質な音が響く。

  それに…スリットの中が蒸すからなのか、凄まじい匂いだ。

  俺が目を見張っていると、ジムがしゃぶるのを止め、顔を上げた。

  「ん、ガラのチンポ、臭くないかの?

  ドラゴンのあそこは、カスは溜まらんが匂いが少々きつい」

  「がらの、くさい?」

  心配そうに眉を顰めるガラ。

  しかし…

  「いや、臭くないよ。

  いい匂いだ」

  俺は、本心からそう思っていた。

  むせかえりそうにはなるが、不快ではない。

  それを聞いて、ガラはぱっと表情を明るくする。

  

  「よかった!がら、がいと、好き!」

  カタコトで言うガラがなんだか愛おしく見えて、俺もにっこりと微笑み返す。

  「うむ、うむ。

  さて、それじゃあ続きを…」

  ジムが再び俺の息子を咥えようとして、

  「――ぶえぇっくしょい!!!!」

  

  俺は大きなくしゃみをした。

  夜も更け、風が冷たくなっているせいか。

  いつの間にか体が冷えてしまっていたようだ。

  「おっと、風邪をひくといかんな…

  よし、続きはまた庵に戻ってからにしよう」

  ジムが苦笑し、俺の下腹部から顔を離す。

  ガラは少し名残惜しそうに俺とジムを交互に見て、一物をスリットの中に戻した。

  体を温めようと、俺は再び湯に肩まで浸かる。

  じんわりとした熱が心地よい。

  つい先ほどまで自分がしていた事を思い、頭が熱くなる。

  

  「まぁそういう訳で。

  しばらくうちに滞在する、という事でよいかね?」

  犬人の提案に、俺は頷く。

  「き、記憶が無いまま下手に動くのも危なっかしいですし…

  短い間ですが、世話になります」

  「よろしく、がいと!」

  ガラも、長い二人の生活に飽きていたのだろうか。

  満面の笑みで歓迎してくれる。

  そこに、不思議な居心地の良さを感じていた。

  「さあて、そろそろ風呂からあがるかの。

  酔いも醒めちまったわい」

  水を滴らせて、ジムが立ち上がる。

  ガラもそれに続いた。

  「ほれ、ガイト。お主も立つんじゃ」

  言われて立ち上がる。

  

  「ええと、そこそこ。

  この、ちょっと広い岩の上に立ってくれ」

  ジムの指示に従い、指さされた場所へと移動する。

  そして隣にガラが並び、反対側にジムが並んだ。

  「よし、ちょっと風がきついが、我慢してくれよ」

  「え?」

  俺がそう返すのと、ジムが何やら印を結んだのが同時だった。

  唐突に強烈な風が巻き、俺たちの周りに渦を作る。

  「な、ななな何だ!?」

  「温風で乾かすからの~。

  あ、動くとバラバラになるから動いちゃダメじゃよ」

  「ひぃいっ!!」

  温泉の湯気を巻き上げながら、烈風は吹きすさぶ。

  ごうごうと風が遠慮なく俺たちの体をうち、その度に毛皮を濡らす水滴が拭き散らされる。

  温泉の真横だからか寒くは無いが、怖い。とにかく怖い。

  ……そうしてたっぷり3分ほど風に嬲られ。

  ジムが術を解くころには、俺たちの体はすっかり乾燥し、毛もふわふわになっていたのだった。

  「こういう器用な事も出来るぞい。

  魔術が使えればの!」

  人差し指を立てて悪戯気味に笑うジム。

  ははは、と乾いた笑いで返す。

  殺す気か!と怒りたいところだが…まぁ、いいか、と苦笑した。

  「さて、服を着たら帰って飯を食って。

  そしてさっきの続きじゃな~!」

  「おー!」

  「は、は~い…」

  先ほどの出来事を思い出し、再び下半身に熱を帯びるのを感じながら。

  俺たちは帰路へとつくのだった。

  +++++

  「ねぇ、じむ」

  前方を進む熊人の背中を追いながら歩くワシの耳元で、異形の獣人が囁く。

  「がいと、みりょう、かかってる?」

  「……気づいとったか」

  さすがは魔力で組まれた人形。

  その辺りには敏感なようだ。

  

  そう、ワシの呪いの紋…緋夢魔の紋は、確かにガイトの意思を、僅かながら冒していた。

  ただし、理性や意思を奪うまでには至っていないが。

  「――完璧な耐性とまではいかんかったようじゃな…

  ま、楽しめそうじゃからええじゃろ?」

  ガラは少し悪戯っぽく笑う。

  「がら、がいと、すき。

  がいと、いいひと」

  「ああ、ワシもガイトは好きじゃよ。

  記憶をなくしてはいるが、素直な奴じゃ。

  それに……『石の眼』に、選ばれとる」

  肩を左右に揺らしながら、ずんずんと進む青年。

  月光に照らされ、銀色の被毛が青白く輝いている。

  

  集中して目を凝らすと、頭部を中心に、うっすらと魔力が帯を作り、巻いているのが見える。

  それは間違いなく、生まれ持った魔力とは違う、異質な魔力。

  「あやつの魔力は底なしじゃ」

  「……うん」

  「魔術を伝授して、あやつがどう変わるか…」

  ワシとガラがひそひそ話をしていると。

  ガイトが不意に振り返った。

  「さっきから、何ぼそぼそ話してるんです?」

  怪訝な顔だ。

  

  「ああいや、あとでどんな風に楽しもうか、二人で相談しとったんじゃよ!」

  ぼっ、と顔を赤くすると、熊人は、ええ、あの、はい、とか何とか言いながらまた前を向く。

  まったく、本当にうぶで可愛らしい。

  「――800年の因果を、あやつに託そう。

  乾坤一擲――」

  ワシは呟き、ガラの顔を見る。

  先ほどとは打って変わった険しい顔で、ガラはガイトの背を追っていた。

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