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変態一族に翻弄されている狼獣人も、その変態一族の一人である。

  「ロキ。ここにきて。さあ、紅茶を飲みながら話をしましょう?」

  テーブルの上に置かれているカップ。

  テーブルに座っているお嬢様、ヴァイオレットの前にもしっかりとセッティングされている。

  ヴァイオレットは白い手袋に包まれた指でテーブルをトントンと叩いて、動かないロキを催促する。

  「……仕事中なので」

  「今日の仕事は終わりね。ほら、早くここにきて座って」

  「……」

  ニコニコしてにるヴァイオレットに、ロキは物凄く嫌そうに目を細める。護衛対象である女性に向けるには不敬極まりない表情だけれど、誰一人気にしない。

  部屋にはロキ以外にもメイドがいたが、紅茶を用意すると壁と一体化して気配を薄めた。気配に敏感なロキには効果ないけれど。

  「家族としての団欒よ。たまには、いいでしょう?」

  「三日前もそうおっしゃってましたよ」

  「最後の団欒からそんなに経ってるのね。はあ、寂しいと思ったわ」

  「……」

  「私と話すのがいやなら、お父様も呼んでもいいのよ」

  「……ハア……」

  ため息を吐き、ロキは渋々とヴァイオレットに近付いた。椅子に座ることはしない。

  仕事は終わりだと言われても、この服を身に纏っている以上は仕事中だ。ロキはそう決めている。

  ヴァイオレットは「頑固な子ね」と不貞腐れたけれど、近寄って話をする姿勢になったことに納得してそれ以上何も言わなかった。

  「お父様とは、どう?」

  「どう、とは」

  「三泊三日のデートしてたでしょ」

  「デートではなく視察です」

  「でも二人きりになったらイチャイチャしたでしょう? エッチもしたでしょ? デートみたいなものじゃない」

  「……」

  フフフと上品に笑いながら口から出てくる言葉はとんでもないもので、ロキは遠い目をする。

  「ロキ、お父様とはどんなデートしたの?」

  「……仕事だったので、デートはしてません」

  「別に出歩くことだけがデートじゃないって何度も言ってるじゃないの。宿泊したホテルでは二人きりになったのでしょ? どんな話をしたのか教えて欲しいわ」

  キラキラした瞳はまるで少女だ。

  ロキは知っている。話さない限りヴァイオレットはロキを解放しないことを。そして本当に父親──マティアスを呼び出して三人で話そうとするだろう。なぜ知っているか、実際に体験したからである。

  「……お嬢様が」

  「うん」

  「ご結婚なさり、第三王子殿下がフゴルト家を継ぎ、任せられるようになったら旅行に行こうという、約束を」

  「あらやだぁ! 新婚旅行ってこと!?」

  「違いますね」

  「違わないわね」

  「旦那様は昔の獣人文化に興味あるので、まずはヴァレンダ王国に行きたいそうです」

  「さすがお父様ね。私もローレンツと新婚旅行はヴァレンダに行くの」

  「そうですか」

  「フフフ、心配しないで。お父様も私も、どんな獣人見ても家族であるロキが一番可愛いわよ」

  「はあ、さようで……」

  ──ロキは立派な耳をピルルッと震わせて、小さく頷いた。

  「本当よ。その長いマズルも、全身モフモフな真っ黒な体も、立派な尻尾も、牙も、お月様のような色をした瞳も、モフモフすぎて服を着てると胸が大きく見えるのも本当最高よ……」

  「ハハハ、ありがとうございます」

  「私もブラッシングしたい、吸いたい……お父様、ずるいわ……」

  愁を帯びたため息を吐いたヴァイオレットは、優雅な仕草で紅茶を飲んだ。

  貴方も飲んでと目線で伝えられ、ロキは迷ったものの自分が飲まないと捨てられることになる紅茶に勿体無い精神が働いて「失礼します」と言うと、黒い手袋をはめている手を伸ばして、ソーサーごと取るとカップを少しだけ傾けた。

  長いマズルではヴァイオレット用の小さなカップでは飲みにくいものの、これまで何回も飲んできたので慣れている。

  「それで、お父様とはどんなエッチしたの?」

  「ッ……!」

  ブッと吹き出しそうになったのをプライドで耐えた。

  ガチャッと音を立ててソーサーをテーブルに戻すと、顔を背けてゴホッと咳をする。

  「あら、ごめんなさいね」

  「ゴホッ……そ、そういう質問は、やめてくださいと何度も言ってるじゃないですか!」

  「でもロキに色々と教えてあげたの私よ」

  「何の関係が……いやそれよりその言い方はやめてください。まるで、お嬢様と俺が関係あったかのように聞こえます」

  ギッと睨みつけたところ「やぁだ、可愛いアーモンド型の瞳ね♡」とウィンクされた。なんて恐ろしい女性。

  ロキはちょっとだけ泣きたい気持ちになった。

  ヴァイオレットはロキのカップに紅茶をそそいだ。話はまだ終わってない言う意味だ。

  「それにお嬢様に教わったのではなく、そういうコトは全て本で学んで……」

  「その本を買ったのは私……と、お父様よ。あ、そういえば最近はプレイの内容も落ち着いてきたから、お父様ってば、色々な国から指南書を取り寄せてるらしいわよ」

  「聞こえません」

  「で、どんなエッチしたの?」

  「……レディ・ヴァイオレット」

  「なあに?」

  引き攣った声で名を呼ぶと、ヴァイオレットはキョトン……とした。

  何かおかしなことでも聞いたかしら? とでも言いたそうである。

  「立派なレディなのですから、そのような質問はもうおやめください」

  「え? 嫌だけれど…」

  「僕も嫌です」

  「でもあなたってとっても変態だから、こうやって話してると、結局話してくれるのよね」

  「今日からはもう言いません。それに変態なんて、お嬢様に言われたくはないです」

  「私は自分が変態なの自覚してるから、大丈夫よ」

  「大丈夫ではありません……」

  「ただの恋バナじゃない! 恥じることないわ」

  「恥じてください」

  「もう、私の可愛いも狼ちゃんったら。安心して、フゴルト一家の中で一番変態なのはお父様だから」

  「会話が……難しいな……」

  頭がおかしくなりそう。

  まあ、ヴァイオレットは昔からこんなふうであるので、会話の噛み合わなさは慣れている。けれど、それはそれとして普通に頭がおかしくなりそうだ。

  十八になり学校に通うになったレディに、自分の性的な話なんてしたくない。そもそも今でしていたのが狂っていたの。これまでは話してしまっていたけれど、今回だけはしない。

  この場から立ち去ろう。

  話を誤魔化しながら、さっさと紅茶飲んでしまおう。

  ロキはカップを手に取り下品だけれどグッと一気に紅茶を飲み干した。

  「そんなに喉乾いてたのね」

  「あっちが、ちょっ!」

  「フフフ」

  カップを置いてふうっと一息ついたら、素早すぎる動きでとぷとぷと注がれた。

  絶望した。

  「わがままばかりいうなら、あなたたちが仲良くしてる時に部屋に忍び込んで、その時の絵を描いて後世まで残すわよ」

  「わがまま言ってるのはお嬢様だろう……」

  「ええ、私はわがままよ。行ったことは、実行する、わがままレディなの……」

  こわい。うふふと笑うヴァイオレットがとても怖い。

  ロキは大の字に寝転がってわーっと大きな声で叫びたくなった。大人なのでしないけれど。強靭なメンタルで耐えた。

  フーーッと長い息を吐き出して再びカップを手に取ると、半分ほど飲むとそそがれないように手に持ったまま、ぼやいた。

  性的なことは話さないように、でもヴァイオレットが満足するようにロキは頭を回転させる。

  「……実の父親のそういう姿見て平気なの、イカれてますよお嬢様」

  「例えばの話よ。まるで部屋に入ったことあるような言い方やめてちょうだい」

  入らないわよ、失礼しちゃうわね、と軽く睨まれた。睨みたいのはロキである。

  ──こんなイかれたわがまま会話できないレディだけれど、周囲のヴァイオレットの評価はとても高い。学校には婚約者と並んで成績が良く、所作も美しい。同年代の女性貴族たちの憧れであり、代表的存在とされている。

  なのに家の中ではそんな様子は一切見えない。様子がかなりおかしい。本当はヴァイオレットは二人いるのでは? と思ったのは一度や二度ではない。なんなら二人いてくれた方がロキは納得する。

  どちらも本当のヴァイオレットなのはわかっているし、ロキとて別に家でも常に人々のお手本となるような女性でいて欲しいと思っているわけではない。ただ、限度というものが世の中にはあるとロキは常々思うのである。

  「お父様の裸を見たいわけじゃないわよ?」

  「見たかったら大問題でしょうね」

  「でもね、ロキ。何遍も言ってるけれど、私は重度のケモナーだし、アブノーマルプレイの話を聞くのが好きな、スケベなの。お父様じゃなくて、貴方の全てに興味があるのよ」

  「何も聞こえない…聞こえない…」

  「だから! お父様と貴方がイチャイチャしてる話が聞きたい! どんなエッチしたかきたい!」

  「申し訳ありません聞こえてますやめてください!!」

  「あら、そう」

  ロキは大人なのに泣きたくなった。

  子供のように大きな声で泣きたくなった。

  ふふっと優しく笑うヴァイオレットだけれど、笑顔は優しいのに喋る言葉全てが悪魔のようだ。

  「まあ、ロキが教えてくれなくてもお父様と恋バナしたときに教えてもらうからいいんだけれど」

  「それなら最初からそうしてください。俺は話したくありません」

  「あのねえ、さっきも言ったけれどお父様は誰よりも変態なの。だから嬉々として答えてくれるのよ。私は何回もこの会話してるのに、今だに恥ずかしがっているロキの口から聞きたいの、わかる?」

  「イかれた一族だ…」

  「フフフ、ロキもフゴルト家の一員よ」

  獣人として耳のいいロキは、空気になっているメイドから「さすがフゴルト一家、変わってらっしゃるわ…」というぼやきがきこえた。

  「さ、まだ紅茶あるわよ。飲みなさい」

  「……」

  「今夜お父様に呼ばれてるのよね? それまでたっぷり時間があるのだから、たくさんお話ししましょうね」

  「……」

  「私は日中は学校に行っているし、それ以外の時間も宿題や習い事で忙しくて、こんな風に時間とれるの久しぶりだもの。話せるタイミングでたっぷり聞いとかないと。ね、ロキ」

  「……はい、お嬢様」

  「声小さ……まぁいいわ。さ、さ、飲みながらお話ししましょう。鼻が敏感な貴方のために香りが少ないものをリリーが用意してくれたから、ロキが飲まないと捨てることになるわ」

  わかっていたことだけれど、忙しいメイドたちがわざわざこの時間に紅茶を淹れてくれたのは、とても手間だっただろう。

  飲み干して、空になったカップをソーサーに戻すとヴァイオレットがカップに注ぐ。

  両手の指を絡めて、そこに顎を乗せたヴァイオレットは鼻歌でも歌いそうなほどに喜んでいる。

  遠い目をし紅茶を飲みながら、ぺらぺらと喋り出したヴァイオレットに相槌と口を挟みながらも、ロキは、ここに至るまでの己の人生を振り返ることで現実逃避をする。

  [newpage]

  自我を持った時、すでに奴隷市場で飼われていた。商品なので暴力はなかったけれど、最低限の食事で衣服は身につけず一年中裸のまま檻の中で暮らしていた。

  ぼんやりと日々を過ごしていく中で、出品されるオークション開始三日前。その奴隷市場が摘発されたことで、ロキの人生は一変した。

  「こんな小さな獣人が…」

  「決して奴らを逃すな」

  救われたロキは孤児院に身を寄せることになり、そこの院長からロキは、ロキという名前をもらった。

  心と体を休めながら、人としての生活を学ぶことになった。

  用意されたスープを長いマズルを突っ込んで飲んだロキに院長や働いているシスターたちは何も言わずに、皿を持って飲んでくれたことを、ロキは覚えている。

  「ロキのような獣人の手では、モノを掴むのは大変なの気付かなくてごめんね。獣人に詳しい人に聞いたら、手袋をつけるといいと言っていたから、用意したよ。ほら、手を貸してごらん」

  鋭い爪と肉球の手を隠した手袋で、持ちにくかったスプーンを持つことができた。カップを持つことができた。

  ロキが一歩一歩、人として成長していく中でその孤児院にヴァイオレットとその父親、マティアスがやってきた。

  彼らは着なくなった服や食べ物や書物など色々なものを寄付してくれてるという。一ヶ月に一度はこうやっえ自ら足を運んでくることをロキを抱っこしているシスターが教えてくれた。

  「……この子が保護された子か」

  「はい、そうですマティアスさま」

  「美しい黒い毛をしているね。こんなに可愛い子に、酷いことを」

  「ええ、本当に。暴力を振るわれてなかったのが、唯一の、救いでしょう」

  マティアスは哀れみの目を向けながらも「これからは幸せになるんだよ」と柔らかい声で言いながら、大きな手でロキの頭を撫でた。

  院長やシスターの小さな手ではなくて、頭をすっぽりと覆ってしまう大きな手。ロキはびっくりして、耳をピッと立たせる。

  「大丈夫よ、ロキ。マティアス様はとても優しい人よ」

  「…まちあす」

  「ふふ……マティアスだよ、可愛い狼くん」

  「……ん」

  包まれるように、手のひらがロキの頭を撫でる。

  本能的に理解した。この手は怖くない。

  ふっと体の力を抜いて耳をぺたんとさげたロキは、嬉しそうに鼻をぴくぴくさせた。

  「……可愛いな」

  「フフッ……本当に」

  「お、おとうしゃま! ずるい!」

  「ああ、ヴィオ、すまない」

  「あたくち……あたくし! ほしい!」

  「うん……?」

  「この子! ほしい! うちのこにする!」

  置いてきぼりにされていた当時四歳の少女、ヴィオレットの大きな声はよく響いた。

  シーンと静まり返った空間でヴィオレットはカッ! と目を開いて「おとうさま! うちの子!」とさらに大きな声で繰り返したことで、ロキの運命がきまった。

  子供の言ったこと。

  けれど彼女はフゴルト伯爵の愛娘。そこらこ子供とは発言力が違う。

  「ヴィオ……君って子は……」

  「だめなのお?」

  「マティアスさま……」

  「……院長の予定が良い日を、教えてもらえるか」

  「は、はい、聞いてまいります!」

  「ロキは私が預かってるよ」

  マティアスに抱っこされたロキは、慌ただしくなった周りにキョトンとしながらも、シスターたちとは違う人間の匂いが気になってフスフスと鼻を鳴らした。

  「ヴィオ、自分が何を言ってるかわかっているかな」

  「うん」

  「本当に? この子は、犬や猫とは違うんだよ」

  「うん。ねえ、おとうちゃ、しゃ、おとぉさま」

  「なんだい」

  「ニヤニヤしすぎですわ」

  「……」

  「なーんだ、あたくちがいわなくても、うちの子になってたわね…」

  すっとんできた院長と話し合った結果、ロキの心も体も大丈夫だろうと病院の先生に判断され、人らしい暮らしだけではなくある程度の貴族やロキのこれからの立場などを学んだ、二年後、ロキはフゴルト伯爵家に引き取られることになった。

  二年間、ヴァイオレットとマティアスは足繁くロキに会いに来てくれた。

  だからロキはフゴルト家に住むより前にヴァイオレットやマティアスに懐いていたし、早く一緒に暮らしたいと思うようになっていた。

  引き取られたその日、ロキはヴァイオレットに手を引かれてロキの部屋でお人形遊びをすることになった。

  そこで、ヴァイオレットはロキに伝えた。

  「私、ケモナーなの」

  「……?」

  四歳に出会い、六歳になったヴィオレットは滑舌もしっかりしていてハキハキと喋るようになった。

  なったが、当時のロキにはいまいちわからない言葉だった。

  ケモナー。

  ロキはキョトンとして目を丸めた。一緒に遊べることに尻尾を振りながら、ピクピクと耳を震わせる。

  ヴァイオレットは「アーッ! カワイイッ!」と大きな声で叫んだ後に目を爛々と、目の前にだされた好物を我慢するような表情で、続けた。

  「獣人がいるってしって嬉しかったの。しかもケモ耳とかじゃなくて、獣の顔と肉体……! でも年々数が減っていて、お父様も我が国では見たことがないって……でもこうやってロキにあえて、家族になれた。はあ、ホント、前世で頑張った私へのごほうびなのよ」

  「……え?」

  「で、ロキ好きな人いる?」

  「え? お嬢さまと、旦那さま……」

  「そうよね。しかも私は勿論、お父様も貴方のこととても気に入ってるわ。この前出かけた時、獣人の小説買ってたもの」

  「そうなんだ…?」

  「……ロキは環境のせいで、普通の獣人とは成長速度がとても遅くなってしまって……この二年が、普通の獣人の半年や、一年分なのよ。でも、これから一気に大きくなるはずよ」

  「あぁ、うん、そうだね……?」

  力強く語るヴァイオレットにロキは混乱したけれど、二年間で獣人と人間の成長速度のことは学んだので理解していた。

  普通の獣人に比べたらロキは年齢にしては、精神的なも肉体的にもとても幼かった。

  「獣人なら、ねんれい差なんてないあっという間に縮まる……お母様とお父様は仲が悪かったわけじゃないわ……でもお母様は生まれてすぐにいなくなってしまったし、お父様は恋人もいない……お父様とロキ、全然あり……むしろ好きぃ…うぅっ」

  「えっ、お、お嬢様!?」

  「違うの。精神的には、二十代後半なのに…うう……体が六歳なばかりに……からだにひっぱられる……おかあさまのことを考えると、くぅぅ、なみだがっ」

  しくしく、ぽろぽろ。

  泣いているヴァイオレットにロキは狼狽えた。喋っている意味は全くわからないけれど、泣いていると言う事実がロキを慌てさせた。

  「お嬢さま、ぼ、僕どうしたらいい? 旦那さまに、何かしたらいいの? どうしたら、お嬢さま泣き止むの?」

  「うぅ、お耳ぺたんってしててかわいい…」

  「え?」

  「おかあさまぁ…!」

  「な、なかないでぇ…っ」

  奴隷市場で生活してた時とは比べ物にならないくらい、孤児院で周りの大人たちに大切にされた。その中で頻繁に会いにきてくれたヴァイオレットやマティアスはロキのことを家族だと言ってくれた。

  家族が泣いている姿は、とても悲しかった。

  ロキはつられて涙を浮かべ、きゅんきゅんと悲しい声を出した。

  「かわいい、お父様と結婚して……」

  「え? け、けっこん……?」

  「お父様と番にになるのよ……私の心みたして……えっちして……! あさからばんまで、お父様をむさぼってぇ……わかったら頷いてぇ!」

  「わ、わ、わかった! わかったから泣かないでぇ…!」

  ビャーッと泣いてうずくまったヴァイオレットが、パシパシと床を叩く。

  完全に混乱したロキは「わかったあ、わかったあ」と頷きながらわあわあ泣いた。

  騒音に部屋に入ってきたメイドが泣いている子どもたちにギョッとし、マティアスを呼んだ。

  「どうしたんだい、二人とも。家に来た初日から何をそんなに……」

  うずくまっていたヴァイオレットは顔を上げると、マティアスを見てから人形をギュッと抱きしめて「このめでみたいの…」と泣いた。

  「見たい? 何を……」

  ロキはマティアスに抱きついて「僕とけっこんしてえ、つがいになってえ」とわんわん泣いた。

  「……ヴィオ。ロキに変なこと吹き込むんじゃない。この子は獣人と比べても、人間と比べても、実年齢より子供なのわかってるね? ヴィオ、君と違って」

  「でもお父様!」

  「でもじゃない」

  泣きすぎてヒッヒッとしゃっくりをしているロキを抱き上げ、優しく背中を撫でる。

  ヴァイオレットの隣に座ったマティアスは、柔らかな娘の髪の毛を撫でた。

  「うう……それならロキ、お願いよ! お父様じゃなくても、好きな人ができたら私に必ず教えて……! この世界は私のためにあるのだから……!」

  「我が娘ながら、とんでもないことを言ってるな」

  「わかった…教える…」

  「ロキ、ヴィオレットの話は気にしなくて良いからね」

  ──マティアスには気にしなくて良いからと言われたものの、ロキはヴァイオレットの気持ちがままに教育された。

  なにせ日常的にロキの近くにいるのヴァイオレットで、ロキはヴィオレットが大切だったので自分が出来ることはなんでもしたかった。

  体を鍛え……これは護衛として必要なことだったが、それ以外にも美しく見える仕草や言葉遣い。

  ヴァイオレットに付き従うことで自然と人付き合いが増え、その度に「好きな人できた?」と言われたけれどフゴルト家の恩義に報いるために必死で、ロキはヴァイオレットとマティアスが一番でそれ以外の人に対する興味は抱かなかった。

  ヴァイオレットが十歳になった頃、こんな話をした。

  「ロキはどんな顔がタイプなの?」

  「顔のタイプ……?」

  「ないの? 綺麗だなって思う顔」

  「お嬢様と旦那様は素敵だと思いますが……タイプは特に……」

  「まあ、お父様格好いいものねえ」

  「そうですね」

  「………はあ。貴方とお父様がくっ付いたらロキは本当に我が家の子になるし、ずっとそばにいられるのに」

  なんか言ってる。

  ロキはヴァイオレットの言葉をちょっと無視することを覚えた。

  フゴルト家に引き取られたけれど、表向きはロキはヴァイオレットの護衛で、親戚の養子だ。幼かったけれど歳上のロキを家に入れてしまうと、将来的に伯爵家を継ぐのは誰になるのか? という問題が起きてしまうのをマティアスは避けたかった。

  「ケモナーとして一日一回はロキの姿を見ないとないと気が済まないのよ。一生独身でいてくれたらそばに居られるけど、ロキには恋して欲しい……ケモノ、エッチ……話聞きたい……」

  項垂れ、ブツブツ何かを言うヴァイオレットも、無視した。

  しばらくして顔をあげたヴァイオレットは「そういえば」と長いまつ毛をパサパサさせた。

  「獣人って私たちとは成長速度違うのよね」

  「人間より、基本的二倍成長が早いと言われてますね」

  「年齢の数え方は人間とおなじ?」

  「たしか、獣人年齢も昔はあったそうですが、獣人も種族によって成長速度が違うので今では人間と同じように一年で一歳で統一してますね」

  成長速度が速い獣人たちは、おおよそ七年で人間の肉体で例えるなら十五歳ほどにまで成長する。

  年齢と見た目の成長するチグハグさを無くすために、昔は獣人年齢と呼ばれるものが作られた。昔は今よりも様々な種族がいた獣人ごとに年齢の数えがあるのは大変と言う事で、すぐに廃止になった。

  獣人たち側も成長は違くても同じ時間の速度なので人間年齢で構わないと納得した。

  ロキは環境のせいで成長が狂ってしまったが、幼いヴァイオレットが言った通りにここで暮らしてからグングンと成長した。

  「獣人的にはロキは何歳?」

  「だいたい、今は十六、十七歳くらいですかね」

  「大人ね……」

  「まあ、そうですね」

  「そうよね……もう、大人なのね……私のモフモフちゃん……」

  「世間一般的には十歳ですよ」

  「十六……十七……歳……」

  「お嬢様? 聞いてますか?」

  何を企んでいるのか不安になったロキに、ヴィオレットは「今日は寝るわ」といい部屋から追い出した。お昼を食べたばかりだと言うのに。

  不思議に思いながらも、時間ができたのなら勉強しようとロキは部屋に戻ってたっぷりと本を読んだ。

  次の日、マティアスに呼び出された。

  「ヴィオから話を聞いて、確かにと思ってね」

  「なにがですか?」

  「閨教育だよ」

  「閨って……閨?」

  「そうだね」

  「……僕にですか?」

  「立場は護衛としてだけれど、うちの子だからね。できる教育は全てしたいのだよ」

  「なるほど……?」

  教育者はマティアスが用意した女性だ。

  ヴァイオレットから話を持ってこられた時マティアスは悩んだと言う。けれどすでに肉体的にはおおよそ十七であること、文献を読んだところ教わるにはちょうどいい年齢だろうと判断したそうだ。

  閨教育はその日の夜に行われた。

  そのさらに翌日、本を読んでいたロキの部屋にヴァイオレットが「おはよう! 私のモフモフ!」と突撃してきた。

  「どうだった? 閨教育!」

  「……聞くようなことじゃないと思う」

  「貴方と私の仲じゃないの! 教えて。教えないと、お父様に聞きにいくわよ」

  「……。僕は獣人で、狼なので」

  「うん? そうね。最高よ」

  「……人間とは体の構造が違うので、先生は大変混乱し、旦那様と先生の話し合いの結果、旦那様が獣人に詳しい人を探して、連絡とってくれるそうです」

  「あ! あぁ……! 確かに……! 私は前世で何度も見てたから知っていたけど、違うものね」

  「目線を下に向けるな」

  「あら失礼!」

  ウフフと笑って誤魔化した。

  色々あったものの、獣人の研究をしている男性が訪れてロキの閨教育をしてくれた。彼は「図鑑で見たことあるけれど、これが、本物の獣人ペニス!」と歓喜してうるさかったけれど、無事に終わった。

  それらの教わったころから、ヴァイオレットはマティアスの話をよくするようになった。好きな人はできた? という質問のかわりに「お父様はね」になった。

  自分を引き取る決定権を持っていたのはマティアスであり、彼が許してくれたからここにいることを理解していたので、ロキはマティアスのことは好きだった。

  ロキのために世界中のいる獣人を探しては連絡をとったり、文献を読んで獣人のことを調べていたのも知っている。

  なので、マティアスのことを知れることは嬉しかったので、変なことを言うのを無視しながらも、耳を傾けた。

  「ねえ、ロキ。お父様に紅茶とクッキー持って行って」

  「それは僕の仕事では……」

  「私、この後バーバラとお茶会があるから」

  「それを護衛するのは僕の仕事で……」

  「いいから。こんな時じゃないと話せないのだから、昨日お父様が学生の時にあった剣術大会で優勝した話聞かせてもらったら?」

  「……!」

  「剣、習い始めたのでしょ? いい話聞けると思うわ」

  「……わ、わかりました。ありがとうございます」

  「そのままお父様おとしてきなさい」

  「は?」

  「フフフ」

  「はぁ……?」

  ロキがやっぱりなんかなんかおかしいな……最近すごい旦那様と話すな……と思った時にはロキとマティアスの距離は縮まっていた。

  ヴァイオレットの教育の方向性が「お父様はこういうのが好き」になったのを知らずに仕込まれたロキと、それを察したマティアスは天を仰いで「ヴァイオレット……なんて娘なんだ……恐ろしい娘…々」と度々嘆いていた。

  「──ごちそうさまでした。話はもういいですよね?」

  「そうね、ありがとう」

  「よかったです」

  「お父様と仲良くね」

  「……。失礼します」

  ぺろりと長い舌でマズルを舐めたロキに、ヴァイオレットは「やぁね、かわいいマズル。たべたいわあ、ふふ、また明日」とスピード感のある破天荒なさようならを告げた。

  大きな耳をぺたんと下にさげ、不機嫌そうにマズルにシワをよせて歯をみせたけれど、これ以上喋ると倍以上の言葉でロキの胃を締め付ける言葉が出てくるのを身をもって知っているので、我慢した。

  [newpage]

  「お疲れ、ロキ」

  「お疲れ様です」

  「すまないね。この仕事だけど終わらせるから」

  「はい」

  「うん。ここきて、私の舐めて待ってて」

  部屋に入って早々、会話して早々、ヴァイオレットの父親らしい言葉をもらったロキは一瞬聞き流そうとしたけれど、「どうした?」という催促に言葉を絞り出した。

  「……いえ。邪魔になるので、僕はここで」

  「おいで」

  広々とした寝室兼自室においてある仕事机に向かい、書類から一切顔を逸らさないマティアスの命令に、ロキは喉の奥を鳴らした。

  悲しいかな、おいでと言われると足が動いてしまう。尻尾を一度だけふりっと振ってから、立場的にも性格的にもマティアスの言葉から逃げることができないロキは覚悟を決め近寄った。

  バスローブを身に纏っているマティアスからは、ほのかに花の香りがする。優しい匂い。ロキの好きな香り。

  強い匂いは得意ではないロキのためにとマティアスやヴァイオレットだけではなく、ここで働いている人たちからはみんな優しい匂いがしている。

  その中でもマティアスの匂いは特別、好きだった。

  「足元、失礼します、旦那様」

  「仕事は終わったのだろう? 私のことは名前で呼びなさい、ロキ」

  「……はい、マティアスさま」

  「うん」

  仕事机とマティアスの間に体を小さくして入り込むと、ロキはそうっとバスローブをかき分ける。

  すでにちんこは軽く勃起していた。

  敏感な鼻はローションの匂いも嗅ぎ取った。嗅ぎ慣れたにおいだ。マティアスが後ろを準備したという意味の、匂い。

  ──ちなみに初めてマティアスとベッドを共にしたのを知ったヴァイオレットはあれこれ聞きだし「ロキが上なの? 予想通りね」とニヤッとしていた。怖い顔だった。

  舌を出してちんこを舐める。

  ビクッと太ももを震わせたマティアスが、ロキの頭に手を置いて、撫でてくれる。もう十分過ぎるほど大人だけれど、この手に撫でられるのは嬉しかった。

  自分の意思とは関係なく尻尾をブンブン振りながら、ロキは手袋に包まれている手でチンコに触れた。

  プライベート用の手袋は、仕事用のレザー手袋と材質は同じだが、生地が薄めだ。動物の皮とスライムの液体をアレコレ合成して作られている。

  爪は毎月整えているし、伸縮性があるので薄くても爪が突き破る心配はない。

  「いいこだね、ロキ…」

  大きくなってきたチンコに苦戦しながらも、長いマズルでフェラをする。

  汗と先走り、強烈な性的な香りが鼻を刺激する。

  歯を当てないように口の中に入れて頭を上下にすれば、「ふう、」と甘やかな声が聞こえてきた。小さな声でもロキの耳はそれを聞き取れる。

  口から出して亀頭をぺろぺろ舐める。

  垂れてくる先走りを舐め、下から上へと舐め、唾液で手袋を濡らして竿を扱く。

  必死にフェラをしながらもロキは、フと、思う。

  ──すごく、トイレにいきたい、と。

  「よし、ベッド行こうか」

  「は、はい、マティアスさま」

  仕事を終えたマティアスは立ち上がる。差し出された手を取り、ロキも立ち上がる。

  まずい。このままだと粗相をしてしまう。

  ベッドに上がったマティアスを「あの、マティアスさま」と恥ずかしそうに呼んだ。

  「どうした?」

  「お嬢様と話した時、紅茶をいただいて……」

  「……ああ、トイレに行きたいのか?」

  「はい………」

  「へえ、いいタイミングだ」

  「え?」

  「ロキ、寝転んで」

  「え?」

  「ほら、ここにおいで」

  「あの、え? マティアスさま、トイレに」

  「ロキ」

  緩やかに、カーブを描いた、マティアスの微笑み。ロキはぷるっと本能的に怯えてハイッ! と元気よく返事をすると慌てて靴を脱ぎ捨てベッドに登った。

  「お前は本当に、私に弱いね」

  そのまま押し倒されたロキは、下腹部にグッと力を入れる。

  「尻尾は大丈夫?」

  「大丈夫です。あの、マティアスさま……トイレに……」

  「大丈夫、怖いことは何もないよ」

  「う、」

  いいや、怖い。とても。

  高級なベッドに粗相をしてしまうかもしれない。

  マティアスがバスローブを脱ぎ捨てる。

  舐めて勃起しているちんこと、鍛えられている綺麗な肉体。バスローブの風で微かな匂いが広がる。

  ロキは鼻をひくつかせてその匂いを吸い込みながら、グルル、と喉の奥で鳴いた。

  それでも、トイレに行きたいという欲求がロキの行動を制限する。

  「東に婿入りした友人からいくつか頼んで本を送ってもらったのだけど、その一つがとてもアブノーマルな内容でね」

  「は、うッ……! お、押さないで、ください、ダメ……!」

  「こら、動いてはいけないよ」

  グッと腹部を押される。

  なんてひどい人なのだろう。

  漏らしてしまうのがみたいのか? 逆らえないロキは両目を瞑って耐えることしかできない。

  シーツを握り「ふう、ふう」と息を荒々しくするロキの服を、マティアスは脱がしていく。

  ボタンを外され、まるで子供の世話をするように袖から腕を通し、上裸になる。

  シャワーを浴びたあとの、ふわっふわっの黒い毛が晒される。

  「はあ、最高の手触りに、美しい黒……」

  うっとりとした様子で、両胸に手を置いてくいくいと指を曲げたり開き堪能している。

  普段ならばお返しにマティアスの体を撫でるけれど、今はその余裕がない。

  漏れそう。漏らしたくない。人として。

  「それで……そうだ。私や……残念なことにヴィオのような、変態がとても多い国だから、その内容もすごく濃厚なものでね」

  「は、は、といれ、もらしちゃう、マティアスさまっ」

  「フフ、歯を見せても可愛いだけだよ」

  我慢ならずにガウッと吠えるように牙を見せたけれど、鼻先にキスをされて終わった。

  もう、だめだ。少しでも動いたら出る。

  絶望に震えているロキにマティアスは「下も脱ごうね」という。

  動かないようにしているロキのズボンとパンツを手際よく脱がした時、下半身を動かしたせいでチョロ、っと漏れた、気がした。

  「ッ…トイレ、行かせてください!」

  「! 急に起き上がったら危ないだろう」

  「マティアスさまっ」

  上半身を起き上がらせたロキは手を股間に手を当て、、ぐっぐっと押して漏らさないようにする。

  「寝転びなさい、ロキ」

  「ぁ、あ、いやです…漏れちゃう…」

  「ゆっくりでいいから。ほら、そうっと」

  「う、う、酷い。そんなに僕が漏らすのを見たいんですかっ?」

  「まあまあ。大丈夫、大丈夫だから」

  「何もだいじょぶじゃないですよ!」

  泣きたい。

  大きな声でみっともなく泣いてしまいたい。

  それでもマティアスの言う通りにロキの体は動いてしまう。悲しい。ロキは寝転がった。

  ああ、もうどうしようもない。トイレに行きたいと言ったのに、行かせてくれないのはマティアスだ。

  漏らしてもマティアスのせいだ。

  きゅんきゅん鳴くと「かわいそうに」とどの口が言ってんだという言葉を発しながら、股間を抑えているロキの手が無理やり剥がすと、枕を渡してきた。ので、抱きしめる。

  マティアスは腰を浮かせてロキに跨ると、ロキのちんこを手にとった。

  そのまま自分の尻に穴がある場所に押しつける。

  そうするのが当然である。そんな動きをされたのでロキはワンテンポ反応が遅れた。

  「マ、マティアスさまっ!」

  「柔らかいと、結構、挿入しにくいね」

  「挿れないで…! あ、嘘、そんな、駄目っ」

  ぬぷん…と良く解されて広がっているマティアスの尻の中にちんこが挿入されてしまった。

  ブワッ! と全身の毛を逆立てたロキは、両目を大きく開いて手袋越しに枕に爪を立てる。

  「──はい。だしていいよ、ロキ」

  「は? い、嫌です! あ、あ、嫌です! 押さないでくださいっ、お、おしっこ、だめ…ッ」

  「プルプル震えて、可愛いね」

  「ァ、だめ……はあっ、はっ、はぁ」

  信じられないことをされているロキは、こんなにトイレに行きたくなった原因でもあるヴァイオレットを恨んだ。理不尽だろうが、知ったことではない。

  「はあっ、は、トイレ、いきたい、」

  「我慢は体に悪いよ。ほら、出せ、ホラ」

  「ヴーッ、ヴーッ!」

  「唸っても、可愛いだけだよ」

  「なんでぇっ……! あ、だめ、でる、でちゃうっ……! くっ、ァあッ!」

  「あ…おぉ…」

  思いっきり下腹部を押し込まれたロキの、我慢していた尿意が、ついに決壊した。

  ありがとうございました。

  続きは

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  になります。

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