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昔世話になった獣人さんが寒空の下ブランコを漕いでいたのでお持ち帰りしたら襲われちゃう話

  仕事を切り上げて、家への帰り道。寒空の下、キイキイと何かが軋むような音がした。

  しばし逡巡した後、結局気になって音のする方角に向かう。

  そこでは、カッコいい獣人さんがブランコを漕いでたそがれていた。

  ……彼女には見覚えがある。いや、忘れるはずがない。

  「○○さん……?」

  「その声に、匂い……お前、××か……」

  彼女は高校の先輩だった。

  腕っぷしが強く、顔も怖いことからみんなから恐れられていたが……僕だけは彼女の優しさを知っている。

  あれは僕が町で不良に絡まれていた時……彼女はすっと僕の腕を取って助け出してくれた。

  その後、その不良たちは二度とそんなことをしないようにボコられたとは聞いたが……。

  少なくとも、僕のいる前ではそんなことはしなかった。その辺をきちんと切り分けられる獣人さんなんだなぁと尊敬したものだ。

  あの頃は毛並みもつやっとしており、瞳に光も宿っていたのに。

  「……奇遇だな。××にだけは見られたくなかったんだが……あたしはとことん運が悪い」

  けど今は……毛も手入れされておらず、瞳に宿っていた力強い光は見る影もない。いったい、○○さんになにが……?

  「ハッ、そんな顔をするな。大したことではない……少し、仕事をクビになっただけだ」

  「いやっ、大したことですよ!」

  「とある飲み屋で黒服のような仕事をしてたんだが……客にセクハラをされてな。ついやり返してしまった」

  「あぁ…………」

  「私はあの頃から変わらない。いかにクールぶっていても、私の本質は結局暴力ということだ」

  確かに、先輩ならやりかねない。そのセクハラをした客というのも、大方○○さんだけでなく他の人にもやっていたのだろう。

  それを見かねた○○さんがやり返し……なんてのは、容易に想像できる。

  ○○さんはやられっぱなしで終わらない。高校の頃からそういうカッコいい獣人さんだった。だから少し……嫌な気持ちになる。

  卑下する○○さんなんて、見たくないな……。

  「○○さん……寒くないですか?」

  「問題ない。寒さには慣れている」

  「その、そういう問題ではなくてですね……」

  「お前こそ、早く家に帰れ。人間の身でこの寒さは堪えるだろう」

  しっしっ、とまるで犬を追い払うように手を振る○○さん。このまま、ずっとここにいるつもりだろうか……?

  「あのっ、○○さん……!」

  「なんだ、まだ何かあるのか?」

  「…………ウチ、来ませんか? 狭いですけど、しばらくの間ならなんとか……」

  「やめておけ。××にメリットがなさすぎる……私なぞ持ち帰ったところで、邪魔になるだけだぞ」

  「……ずっと、あの時の恩返しをしたくて……!」

  「あの時って、どれだけ昔の話をしてるんだ……高校の時のことなぞ、もう忘れてしまえ」

  「○○さんも、あの時のこと覚えてたんですね!」

  「はぁ……クソッ。これだから私は……」

  そのあとも1人でしばらくぶつぶつと呟いていた彼女だったが、とうとう僕の視線に耐え切れなくなったのか重い腰を上げた。

  「後悔しても、知らんからな……」

  なんて言う○○さんを連れ、家に入る。スマホから家の暖房をつけておいたので、もうすっかりぬくぬくだ。

  一瞬顔の綻んだ○○さんを見て、思わず心の中でガッツポーズをする。

  「とりあえず、ご飯の準備しちゃいますね」

  「いや、何もそこまでしなくとも……」

  「良いんですよ、僕がやりたくてやってることですから」

  明日使おうと思っていたお肉を贅沢に使い、ステーキを焼く。冷凍ではあるが、野菜も忘れない。

  緑色を見て露骨に嫌そうな顔をした○○さんだったが、流石に用意してもらっている手前断れないと思ったらしい。諦めて口に運んでいた。

  「……ごちそう、さまでした」

  「お粗末様でした」

  食器を洗いつつ、いつもはシャワーで済ませてるけど、今日は○○さんもいるしお風呂かなぁ~……なんて考えていると、不意に声をかけられる。

  「なぁ××……私はやはり出ていくよ。美味い飯をありがとう」

  「ま、待ってくださいよ……なんでですか!?」

  「……私は、お前が思っているような清々しい女ではない」

  「え……?」

  「あの時お前を助けたのも、お前のことを好いていたからだ」

  「こうやってお前の誘いに乗ったのも、あわよくば……なんて思っていたからだ」

  「そう、だったんですね……」

  「けどお前はそんな素振りも見せないし、本当に善意で……恩返しのつもりで私を助けてくれた」

  「……○○さん」

  「そんなお前を見ていると、なんだか自分がカッコ悪く思えてな」

  「○○さんっ!」

  僕が声を張り上げると、彼女はビクッと体を震わせる。本当に彼女は純粋なんだな、と改めて思う。

  「○○さんこそ、僕を美化しすぎです……ていうか、好きな人に見栄を張って何がいけないんですか……?」

  「なに……?」

  「好きな人にカッコつけたくなるのは普通のことですよ……僕だってそうです」

  「余裕も大してないくせに、こうやって○○さんを家に招いたりして」

  「……!」

  「そのくせヘタレで、向こうから誘ってくれたらいいなぁ……なんて思ってましたから」

  「××、お前は…………」

  彼女が驚きで目を見開いた後……ニヤリと口の端を歪めてみせる。

  ……両想いだったのはいいけど、もしかして……今日、寝れないのでは……?

  「セクハラジジイを殴ってみるもんだな……これが、運命ってやつか……♡」

  ○○さんが僕に急接近する。

  とっさに反応できず、僕はそのまま抱きかかえられてベッドまで連れていかれる。

  「待ってください、まだお皿が……!」

  「明日にしろ、水にはつけてあるだろ」

  「それは、そうなんですけど……!」

  「うるさいっ♡ 黙って私に抱かれろっ♡」

  Fin

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