白熊は寒波を求む

  とある真夏の日。

  太陽は燦々と輝きながら熱を放ち、この年の最高気温の記録を更新していた。

  不用意に外出をすれば熱にやられ、最悪の場合は命にも関わる程の超高温だった。

  それは吹いてくる風すら温風に変えてしまうほどだった。

  「暑い〜……」

  そんな暑い日差しの中を、ツインテールの髪型をした女子高生:シマコは、汗だくになりながら河川敷を歩いていた。

  夏服として指定された半袖の学生服も汗でびしょ濡れになり、本来なら学校の規則で禁止されている買い食いを破ってまで買った溶けかけのアイスキャンディーを舐めながら家路についていた。

  「…ダメだ…一回あそこで涼も……」

  アイスでも冷えることのない熱った体。

  シマコは暑さと滝のように流れる汗に体力を奪われていき、歩く速度も次第に落ちていった。

  消耗した体力を元に戻そうと、川を挟んだ向かい側を繋ぐ大きな橋を見て彼女は目的地を変更した。

  「ふうぅ…」

  橋が日を遮ってくれる事で程よく涼しくなった空間に腰をかける。

  影になった橋の下なら吹き込んでくる風もひんやりと心地よいものになり、土から生えた草も脚に当たるチクチクした感触さえ気にならなければ冷たいカーペットのようだった。

  歩き疲れたのもあり、スカートが汚れるのも気にする余裕もなく、シマコは一気に体重をかけて土の上に腰を下ろした。

  「……ん?」

  腰を下ろして少し経ってからシマコは腰あたりにひんやりとした違和感を覚えた。

  橋の下なのもあって日は当たらず、地面や草が冷えているのは確かだった。しかしそれではない、湿った感触が彼女の腰の下からじわじわとスカートに染みてきていた。

  「むぎゅ...」

  同じく腰の下から微かに音が聞こえてきた。

  弱々しく、今にも消え去ってしまいそうなそれは声のようにも聞こえた。

  「え...?」

  シマコは理解が追い付かず、少し考えてから嫌な想像をしていた。

  日光が通らずに影で覆われた橋の下の、それも脛辺りまで伸びた草が生え揃う地面。

  そこに何かが落ちていたとしても草に重ねて影の暗さでパッと見ただけでは気づかないかもしれない。

  ましてや暑い中歩いてきて冷静に考える余裕の無くしたシマコなら尚更。

  スッ...

  下ろした腰をゆっくりと持ち上げ、恐る恐る自分が座っていた場所を振り返る。

  暑さで流れたものと別の汗が溢れ、冷めつつあった体温も頭頂から下に向かって一気に冷めきっていった。

  そうして青ざめた顔で見下ろすと。

  「う...うぅん...」

  そこには潰れた布にも見える、手のひらに乗るほどの大きさの小動物が気だるそうに倒れていた。

  表面に覆われた白い毛はびしょびしょに濡れており、湿った感触は間違いなくこの生き物から伝わってきたものだとわかった。

  「えっ…あ…!やばっ…どうしよう……」

  自分のやってしまった事の重大さに気づき、急いで生き物を持ち上げて状態を確認する。

  食べかけのアイスを持ちながら丁寧に両手で小さな命を掬い上げ、顔の前まで持ってくる。

  手に乗せるとひんやりと冷たさを感じた。

  濡れているのもあったが、元々この生き物から発せられているようで、近づけた顔にまでその冷気は伝わってきた。

  「…あ……あぁ……」

  その生き物は少し安心したように声を漏らしながら小さく震えていた。

  見た目はハムスターのように小さく丸々としていたが、丸い二つの耳に少し前にでた口からはどこか熊に似ていた。

  「…もっ……」

  「え…?」

  「もっと...冷やして......」

  今にも途切れそうな声でその小さな生き物は頼んできた。

  ただの生き物だと思っていた存在から人の言葉が出てきたことで、また一瞬シマコは思考を停止してしまった。

  「...え、ひ、冷やすって?」

  シマコは言葉の意図が汲み取れずに混乱していたが、手に持っていたアイスが目に入った。

  よく見てみると、アイスから発せられる冷気が生き物に当たり、それが心地いいのか生き物は少し楽になっているようだった。

  片方の手に生き物を乗せ変えると、シマコは水も滴って溶けかかっているアイスを生き物の口に運んだ。

  ...チロッ

  凍ったアイスから垂れる液体を生き物は舌で受け止め、必死に口に運んだ。

  片手に乗るほどの大きさしかない生き物が一生懸命生きようとする姿を見て、シマコは命の重さを実感しながら緊張で震える手でアイスを生き物に飲ませた。

  「ふぅ......ありがとう、少し楽になったよ」

  ある程度アイスを飲み終わると生き物は少し体を起こして、シマコの顔に自信の顔を近づけて例の言葉を伝えた。

  足を前に出してお尻を手のひらの上に置き、手をだらんと垂らした姿勢と身体的特徴から見てやはり熊に近い、また白い毛の色から白熊をマスコットにしたような見た目だった。

  「あ、い、いえ...こちらこそ、色々すみませんでした...?」

  シマコも礼を受け止めつつ自分が踏んでしまったことへの謝罪をした。

  目の前で起こっていることがにわかに信じられず、疑問を抱えた歯切れの悪い謝罪となっていた。

  「いやぁ...まさかここまで暑いとは思わなくて油断してたよ...助けてもらってなんだけど、僕の話を聞いてもらってもいいかな?」

  「あ、あぁ...はい...」

  生き物は調子が出てきたのか流暢に話し始めてきた。

  その流れで生き物は自分の話を始めようとし、シマコも想像以上にしっかり話す生き物の圧に押されて可愛らしい生き物に敬語で話していた。

  「説明すると難しいけど、僕はこの暑くなった気温を下げるためにここに来たんだ。こんな見た目だけど本当はもっと大きくて、この地域一帯を冷ますくらいの力があるんだ。だけど予想以上の暑さでほとんどの力も失ってしまって、ここで暑さを凌いでいたところを君に助けてもらったんだ。本当にありがとう」

  自信の存在とここに来た目的を簡単に説明しようと言葉を選んで生き物は話し始めた。

  まだ年若いシマコにわかるようにというのもあったが、自分の体力がまだ完全じゃないのもあって可能な限り消耗を抑えようと短く端的にを目指して説明をした。

  「.........ほう?」

  そんな話を聞いてシマコはなんとなくわかったようでいて言葉に隠されたスケールの大きさがつかみきれず、なんとも言えない当たり障りのない返事を返した。

  「でもここまで体力が無くなっちゃったら帰るのはおろか、本来の目的である気温を下げることもできないし、それにここから動いたら多分すぐ溶けて蒸発しちゃうし……どうしよう......」

  元気が出てきたが自分が絶望的な状況にいることが変わらないことに生き物は困っている様子だった。

  打つ手を捻り出そうと小さい手を頬に当てながら一生懸命考えていた。

  が、眉間に寄ったシワと流れ出る汗からこれ以上何も案が浮かばないことがうかがえる。

  「……あの、よくわかってないけど、私に出来ること無いかな?」

  シマコはそんな生き物の姿を見て心が動き、理解していないながらにも力になれないか聞いてみた。

  「これも何かの縁だろうし、何かあれば私も力になりたいかな〜って…」

  (踏んじゃっときながらこのまま何もしないのもね…)

  内心、自分がしたことへの後ろめたさも感じながら協力する姿勢を見せた。

  「……ありがとう、この氷の塊をくれただけでも嬉しいよ

  だけど、どのみちここにいても僕は溶ける運命だし……あるとしたら……」

  何か策があるような言い振りをするが、険しい表情で生き物は顔を逸らしてしまう。

  「何かあるの?!私もこの暑さがどうにかできるならなんでもするから!」

  希望が垣間見えると食い気味になってシマコは迫った。

  勿体振っているように見えた姿勢に遠慮を感じ、はっきり言って欲しい思いもあってより言葉に必死さが伝わる。

  また、この激しい暑さがどうにか出来るならという思いもそこにはあった。

  「……そっか、君みたいな人の暮らしが楽になるようにって思いだったんだけど…そこまで言ってくれるなら、君の力を貸して欲しい」

  ここに来た大元の理由。

  それは単純な願い、人の幸福のためだった。

  暑さを和らげて、暮らす人々の生活を快適にしてあげたいというのが生き物の目的だった。

  いま目の前にいるシマコもその中に含まれていた。

  だが、そんな彼女の熱意に負けた生き物は、協力を求めた。

  シマコはそれに答えるように大きく頷く。

  「まず、僕は形のない特定の力、分かりやすく魔力って呼ぼうか。その魔力を形にしたものなんだ。ちょうどこの氷の塊のような」

  シマコの反応を見ると生き物は説明を始め、彼女の持つアイスに触れながら自分の構造について話す。

  「だけど僕の場合は熱に弱くて、今日みたいな猛暑だと固まった魔力も溶けてしまって、段々小さくなるんだ。だったら、その魔力を器に入れてあげれば、っていうのが僕の考えなんだ」

  「器?」

  「そう、つまり君の事だよ」

  「……ん?」

  生き物はシマコを指差すが、ピンとこない表情で首を傾げられる。

  「つまり、僕は今あるこの姿を崩して、君の中に魔力として入る事で僕の力を君も使えるようにするって事」

  「あ〜…」

  より分かりやすく今度は短めにまとめてみたが、やっぱりイマイチ伝わりきれていない様子だったが、理解しつつあるようだった。

  「じゃあ、そうなったらあなたは?」

  今の話からシマコは生き物がどうなるのかが疑問に思った。

  姿を崩すと言っていたが、それがどういう意味なのかが理解しきれていなかったからだ。

  「僕は形を失うから君の血液と一緒に、君の力として体の一部になる。だからこの力を使うのは君自身だ」

  「なるほど…つまり魔法少女?」

  「だけど、こんな使い方は今までした事がないから、君に何が起こるかわからないんだ……」

  魔力を他人に譲渡する経験はあるような口ぶりだったが、生身の人間に行うのに不安があった。

  下手したら彼女の命に関わりかねないからだ。

  「ん〜、でもちょっと気になるし、時間ないんでしょ?だったらやれるだけやっちゃお!」

  魔力という単語から魔法を連想し、それが使えるようになる事に期待を感じていた。

  その興味が勝った事で生き物と真反対の思いをシマコは抱いていた。

  「……わかった、そしたら僕を君の額に近づけて」

  「うん」

  そう言われるがままにシマコは両手を上げ、自分の額に生き物を近づけた。

  ピタッ

  「ひゃっ…」

  生き物はシマコの額に手を当てる、目を瞑って集中を始めた。

  氷のように冷たい手を当てられて、驚いたシマコは声を上げる。

  シュウウウゥゥゥゥゥ……

  シマコの額、生き物が触れたところから白い煙が上がる。

  するとみるみる生き物の姿は小さくなっていった。まるで彼女の中に吸収されるように。

  「…んっ……んぁ……あ?」

  頭に入り込んでくる冷たさに違和感を覚えると、勝手に声が出た。

  シュウゥゥゥ………

  気づくと生き物の姿は無くなり、代わりに彼女の額には力を譲渡した証である肉球のような痣が浮かんでいた。

  魔力の譲渡が終わり、時間が止まったように一瞬の静寂が流れる。

  ボトッ…

  「あ……あぁ………?」

  溶けかけのアイスが地面に落ちた。

  シマコは額に上げていた腕から力が抜け、だらんと垂らしながら不気味な声を上げた。

  その瞳からは光が消え、どこを見ているのかわからなかった。

  ピキパキピキピキピキッ

  割れるような音と共に彼女の黒い髪は、生え際から銀色のダイヤモンドのように色が変わっていった。

  彼女の中に魔力が馴染んでいる証拠でもあったが、変化はこれで終わらなかった。

  「あっ…あっ……ああっ……!」

  ザサッ

  突然声を荒げると、シマコ体を前に倒して四つん這いになった。

  そのまま地面についた手には力が入り、掴むようにして体を支えていた。

  (なにこれ…冷たいのが流れてくるのに…暑い…熱い……アツイ!!!)

  体の中を流れる冷たい魔力に反して、表面だけでなく体の内側からも熱を感じて、シマコは汗を流しながら怒りとも違う強い感情に支配され、その感情のままにさらに全身に力が入った。

  ビキッビキビキッ

  体中の血管を浮き上がらせ、そのまま体が膨らみ始めた。

  爪は黒ずんでいきながら鋭く尖りながら硬化していって獣の爪に変わっていく。

  地面についた手は指が太くなり、女子高生らしい細い手は姿形も見せなくなっていった。

  ビリリッビリッ

  丸まった背中はさらに盛り上がっていき、腰までにかけて山のように膨らんでいく。

  それに伴って学生服の至るところが破れていき、血管の浮かぶ汗ばんだ肌を露にしていった。

  バコッビリッ

  学校で指定されたローファーを割りながら膨らんだ足が顔を出していき、黒ずんで鋭く尖った爪を見せつけていた。

  ズルッシュルルッ

  丸まった腰に沿ってスカートとパンツがずり落ちていく。

  曝け出されながら丸まると膨らんだ臀部。その上からは小さい突起が伸び、ピクピクと小さく動いていた。

  「お"お"っ...お"ごっ……お"お"っ?!」

  体が変化していくと次第に彼女の思考も薄まっていった。

  自分に起こっている変化も理解できず、ただ体中に走る変化の激痛に耐えきれず声を荒げることしか出来なかった。

  痛みで険しくなった顔も、鼻の先端が黒ずんでいき、開いた口の中には鋭い歯が生え揃っていた。

  また耳もマスコットのような生き物と同じ丸い形になり、頭の上へ移動していった。

  身に付けていた服や靴が破れ落ちると、成長を抑えられていた体はさらに大きく膨らんでいき、その姿は熊に近づいていた。

  ズズッズズズズズズズッ

  大きく筋肉質で丸まるとした体つきになっていくと、より獣らしい体に近づくように白い毛が覆っていく。

  全身ふわふわとした柔らかい体になり、尻尾は丸まるとした形になっていった。

  ズシンッ

  変化でバランスの変わった体によろけ、地面を踏む度に重々しい音が響く。

  「あ”ー...あ”ーーっ...」

  シマコは身も心も魔力に耐えることが出来なかった。

  あの生き物自体、体こそ小さくなっていたがそもそもの持ち得る力はこの辺り一帯の気温を下げられると言えるほど。そんな力が一般の人間に使いこなせるはずが無かった。

  (あ"つ"い"…あ"つ"い"っ!あ"つ"い"あ"つ"い"あ"つ"い"あ"つ"い"ア"ツ"イ"ア"ツ"イ"ア"ツ"イ"ア"ツ"イ"ア"ツ"イ"ア"ツ"イ"ア"ツ"イ"?!)

  彼女の体内外共に変化による熱と覆われる体毛によってより熱がこもっていた。

  脳内も蒸発してしまいまともな思考も出来ず、自由の効かない体にただ力を入れながら熱さを耐えていた。

  「ア"ア"…ア"ッ……ッツ"……」

  喉も体が大きくなるのに合わせて太くなり、漏れ出る声も可愛らしいものではなくなっていた。

  低く籠ったような声になり、獣のものへと近づいていた。

  ビキッ

  「ッアァ……」

  まだ人間の形をギリギリ保っていた顔、主に鼻から口にかけての部分から音が鳴った。

  それは器に成りきれず、無理矢理押し広げられた体の変化が終わりを告げる最後の鐘の音だった。

  ガクッグギギギッグギュ

  「ア"ア"ア"ッ…ン"ェ"ア"ア"ア"……」

  不気味な鳴き声を上げ、シマコは人の心と体を捨てた事を表現した。

  真夏の日本には見合わない、白熊のような姿で体中に纏わりついた汗を振り払う。

  白い体毛と銀色の髪が大きく揺れ、汗とともに人の頃の理性も一緒に払い捨てていく。

  「ウ"ッ"…ウ"ゥ"…ウ"ウ"……ウ"ウ"ウ"ウ"ッ!?」

  一通り身体を振り終わると、さらに獣は低く唸った。

  不満を漏らしたいのか、鋭く生え揃った歯を剥き出しにしながら声を漏らす。

  (ア" ツ" イ"……)

  「ウ"ウ"ッ……?!」

  突然、シマコは丸い耳を動かしたと思うと、頭をある方向に向けた。

  そこには川が流れていた。河川敷なのだから流れているのは当たり前だが、シマコはその事を忘れていたどころか記憶すら無くなっていた。

  そんな彼女が川を見つけたときの目は、オアシスでも見るかのように煌びやかに輝いていた。

  「ウ"ア"ァ"ァ"ア"ア"!!」

  ザバァン

  川を見て一目散に川へと四つの足で重い体を運び、思い切り飛び込んだ。

  川のことは覚えていなくとも、水が冷たいものであることは白熊の本能で知っており、熱った体をすぐにでも冷やそうと動いた。自分が今の姿になってまで何をしようとしていたのか、何を任されたのか、その全てを忘れてしまった彼女の頭の中はそれだけで頭がいっぱいだった。

  「ン"ン"ゥ"………ウ"ッ"…ウ"ゥ"?!」

  川に入って獣は驚いた。冷たくないのだ。

  猛暑の中、暑い日差しに当てられて流れてきた川であったため、川は彼女の体を冷ますほど冷たくはなかった。

  驚いた獣はあちこち走り、どこか冷たい場所はないかと探し回るが、1箇所も無かった。

  「ウ"ッ"……?!」

  やがて冷たい場所を探すうちに橋の下から出てしまい、熊は日光の下に姿を晒してしまった。

  太陽に見つかってしまった獣は漏れなくその猛暑の餌食になり、直に日差しを受けてしまう。

  (ア ツ イ……イ ヤ ダ……

  イ ヤ ダ……

  イ" ヤ" タ"!!!!!!!)

  「ク"オ"オ"オ"オ"オ"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"?!!?!」

  獣は熱さに耐えきれず、やがて怒りを覚えた。

  その感情のままに太陽に向かって文句を言うように腹の底から大きく吠えた。

  ゴロゴロゴロゴロゴロゴロ……

  彼女が吠えると、瞬く間にあたり一帯の天候が変わった。

  雲一つなかった青空に突然灰色の雲が現れ、雷鳴と共に太陽を覆い隠していく。

  ヒュウウウルルルルルルルル……

  空が灰色に覆われると、どこからともなく冷たい風が強く吹いてきた。

  北風と太陽の北風のように、人が着ている衣服を無理矢理脱がすような勢いで風は吹き荒れる。

  やがて、空からは白く小さな結晶が季節外れに降り始める。

  しんしんと静かに降り始めたのも一瞬で、あっという間に大雪へと変わって、それを風が大きく吹き流していく。

  真夏の日本は一瞬で、たった1匹の魔力を宿した獣のわがままによって真冬へと変わってしまったのだった。

  「さぶっ…!なんだよこれ!?」

  「さっきまで暑かったのに!!」

  「長袖にしないと……へっくしゅ!!」

  至る所から人々の困惑の声が上がる。

  「ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!

  ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"!!!」

  そんな人々の声を掻き消すように、シマコは一際大きく叫んだ。

  それが喜びを表しているのか、それとも訳もわからず吠えているのか、彼女自身にもわからない。

  そしてこの現状が、果たしてあの小さな生き物にとって望んだ結果になったのか、今となっては誰にも分からない。

  ただ、これから日本はしばらく日の目を見る事は無く、氷河期へと逆戻りしていくのだろうと誰かは思った。

  おわり

  [newpage]

  ※本編は終了ですが、ここからは個人的に他の世界線と繋げたくて書いたちょっとした続きになります。

  ご興味がございましたらどうか引き続きお付き合いください。

  「へぇ…へっくしゅぃい!!」

  とある学校の出入り口。

  急な寒波によって生徒は皆急いで家路に向かう中、1人の女子高生だけは悴んだ手を温めながら吹き荒れる外を眺めていた。

  「ごめん!お待たせ!」

  もう1人の女子高生が廊下を走り、下駄箱に向かう。

  靴を履き替えると出入り口で待つ女子高生にかけよる。

  「せ…せんぱぁい……寒いですぅ……」

  「ごめんごめん、早く行きましょ」

  先輩と呼ばれる青い髪の女子高生と、もう1人の橙色の髪をした女子高生は、ポケットから大きな一つの宝石が付いた手袋を両手にはめると、手を開いて前に差し出す。

  「「変身!!」」

  2人が声を揃えて掛け声を出す。

  すると、それぞれの手の前に魔法陣が現れ、2人の方に近づいていく。

  その魔法陣が通り抜けると、2人は学生服からヒラヒラと可愛らしい衣装に着替えられ、雰囲気も変わっていた。

  まるで魔法少女のような。

  「行くよ!リンちゃん!」

  「はい!先輩!……へっくちゅ!」

  2人は学校を後にし、全速力で駆けながらこの寒波の原因を突き止めに向かった。

  果たして日本は再び氷河期を迎えてしまうのか。

  それともまた日の目を見ることは叶うのか。

  その行方はまだ誰も知らない。