柴後輩とクロ兄ちゃん【夏祭り】

  「クロに・・・」

  夏祭り当日の日曜日、テントの下でユズと一緒にスマホスタンプラリーのブースを運営していると、伝えた時間よりも結構早く[[rb:玄來 > げんき]]がやってきた。

  「お、早いな[[rb:玄來 > げんき]]。交替まだだからもう少し待っててくれ」

  次の担当はツジさんと[[rb:豹一 > ひょういち]]のペアだ。基本的には俺とユズみたいに教育担当と1年がペアになり、余りは適当だ。システムトラブルに対応出来るように開発者の[[rb:八木 > やぎ]]先輩はブースに常駐してくれている。

  「ところでお前なんで固まってるんだよ」

  俺は口を半開きにしたまま、こっちを見て固まっている[[rb:玄來 > げんき]]に声をかけた。

  俺の声に気づいた[[rb:玄來 > げんき]]は意識が戻ったみたいにピクりと反応した。

  「クロ[[rb:兄 > にぃ]]、浴衣だったんだね。クロ[[rb:兄 > にぃ]]は絶対甚平にすると思ってたから、ちょっとびっくりしたよ」

  「あー・・・これな・・・」

  [[rb:玄來 > げんき]]の言う通り、俺は今グラデーションになっている水色の浴衣を着ている。俺だけではなく、Circleのメンバーは全員浴衣か甚平を着てこの祭りに来ている。盛り上げることに貢献するのだから服装から入るべきだというCircleとしての意向だ。ミーティングでも特に議題に上がることも無く当然の事として可決された。

  ちなみに男性メンバーはほとんど甚平で、ペアのユズも甚平を着ている。

  「俺も甚平にしようと思ってたんだけど、同期の子にめちゃくちゃ浴衣を推されてさ、断る理由もなくて・・・」

  そう、何故かツジさんにめちゃくちゃ浴衣を推されたのだ。もちろんお願いとか強要をされたわけではないし、雰囲気もいつものふわふわした感じ・・・だったと思う。

  ただ、なんとなく彼女から圧のようなものを感じ、さらに浴衣まで選んでもらって断れなかったのだ。本当のことを言うと、甚平の方が男っぽいし浴衣はちょっと女っぽいイメージがあったから出来れば甚平が良かった。

  「[[rb:玄來 > げんき]]はその甚平似合ってるな。スゲーカッコいいと思うぞ」

  そんなことを落ち着き払った様子で言ってはいるが、内心は高鳴る胸のビートに合わせてヘッドバンキングしていた。

  和装の[[rb:玄來 > げんき]]はヤバい。似合い過ぎている。鎖骨がちょっと見えてるのもなんかエッチだ。兄ちゃんとして覚醒する前の俺だったら鼻血出して倒れていたかもしれない。

  「そ、そう?」

  そう言って[[rb:玄來 > げんき]]は尻尾を振りながらへへへっと笑った。

  眩しい・・・。

  煩悩に塗れた俺の目に、[[rb:玄來 > げんき]]のこの笑顔は眩しすぎる。

  「屋台でも見て来いよ、こっちはもう少しかかるからさ」

  俺は照れてしまったせいか、なんとなく気恥ずかしくなって[[rb:玄來 > げんき]]にそう言った。

  俺の言葉に[[rb:玄來 > げんき]]が考えるような素振りをしていると、持参のノートパソコンの前に座っていた八木先輩が口を開いた。

  「ブースで待っててもいいよ。せっかくなら一緒に回りたいだろ。ツジさんと[[rb:豹一 > ひょういち]]くんもすぐに来るよ」

  [[rb:玄來 > げんき]]は急な提案に少し驚いて言葉を濁しながら返事をしていた。俺はこちらをチラリと見る[[rb:玄來 > げんき]]の視線に気が付き、八木先輩の心遣いに甘えることにした。

  [chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]

  「クロっちー、ユズー、お疲れー」

  「交替ですー!」

  あれから少しして、[[rb:豹一 > ひょういち]]とツジさんが交替に来てくれた。[[rb:豹一 > ひょういち]]は甚平で頭の横には屋台で買ったらしいキャラもののお面をつけている。ツジさんは白地にアサガオ柄の浴衣で、いつもの柔らかな可愛らしさが際立って見える。

  いつも飄々としている[[rb:豹一 > ひょういち]]だが、甚平みたいな和装だといい具合に締まって見えてなかなかカッコいい。

  もちろん[[rb:玄來 > げんき]]が1番だが。

  2人は八木先輩にも挨拶した後、ブースの奥に座っている[[rb:玄來 > げんき]]に目をやった。

  「クロっち、そこの犬くん誰?」

  [[rb:豹一 > ひょういち]]に言われて俺も振り返ると、[[rb:玄來 > げんき]]は扇風機にあたりながら目を瞑り、耳を畳んで気持ち良さそうにしていた。ついでに舌もちょっと出ている。

  犬の人は暑い時に口を開けて涼む人が多いのだが、[[rb:玄來 > げんき]]はそれをはしたないと思っているらしい。だから、口を開けて涼むことはしないが、今みたいに舌先だけペロッと出ていることがある。そして、指摘しなければ大体しまい忘れるのだ。

  俺は[[rb:豹一 > ひょういち]]とツジさんに簡単な[[rb:玄來 > げんき]]の紹介をした後、ボーッとしてこちらに気付いていない本人に近付いて声をかけた。

  「[[rb:玄來 > げんき]]」

  声をかけると、[[rb:玄來 > げんき]]は畳んでいた耳をパッと立てて、舌先をペロッと出した顔でこちらを向いた。

  俺は久しぶりに見たその顔が可愛くて、[[rb:玄來 > げんき]]の舌先を指でチョンとつついた。

  「待たせたな。交替が来てくれたぞ」

  俺は不意打ちを食らって、恥ずかしそうに両手で口元を隠す[[rb:玄來 > げんき]]を見て、つい笑みがこぼれた。

  「あ、あのっ!」

  ツジさんの声に振り返ると、何故か彼女はいつになく緊張したような様子でスマホを胸の前で両手持ちしていた。

  「良かったら、ブースの写真撮ってもいいですか? 活動写真にもなりますし!」

  ツジさんがそう言うと続けて八木先輩も口を開いた。

  「そうだね。写真は多い方がいいし、ここらで1回撮ろうか」

  八木先輩はパソコン前のパイプイスから立ち上がって俺たちに並ぶよう促した。

  そして、その様子を見た[[rb:玄來 > げんき]]がブースから離れようとした時だった。

  「[[rb:玄來 > げんき]]くんも入ってください!」

  「えっ?」

  そう言ってツジさんは[[rb:玄來 > げんき]]を引き止めた。

  [[rb:玄來 > げんき]]は遠慮している様子だったが、俺は人数居た方が写真も盛れるしCircleなら何も問題無いと経験から分かっていたので、八木先輩に目配せだけして、[[rb:玄來 > げんき]]を引っ張って並ばせた。

  写真を撮り終えて、困ったように笑いながら頭を搔く[[rb:玄來 > げんき]]にツジさんは駆け寄って言った。

  「あのっ、こんな風に頻繁に地域イベントに参加してるので、是非また来てくださいね!」

  いつになくキラキラして見えるツジさんに、[[rb:玄來 > げんき]]も笑顔で応えていた。

  まあ・・・[[rb:玄來 > げんき]]カッコいいもんな・・・。

  「ルキ[[rb:兄 > にぃ]]、虎さん来てるよ」

  ユズの声で我に返ると、甚平を来た[[rb:優 > ゆう]]が立っていた。

  いつもファッションが絶妙にダサ・・・ユーモラスな[[rb:優 > ゆう]]だが、これは間違いない。カッコいい。

  「いいタイミングだな、ちょうど交替が来たところだったんだ。引き継ぎするからちょっと待っててくれ」

  俺がそう言って[[rb:優 > ゆう]]が頷いた。そして、[[rb:優 > ゆう]]がくるりと後ろを向いた瞬間、俺は吹き出してしまった。

  普通にカッコいいと思っていた[[rb:優 > ゆう]]の甚平は首の後ろに可愛いクマさんのアップリケが付いていた。

  なんでクマさんなんだ。そこはトラさんじゃないのか。いや、トラさんでもダメなのだが。

  「なんでその甚平クマさんがついてるんだよ!?」

  俺はたまらずツッコミを入れた。

  「なんかついてたよ」

  ミラクルかよ。

  こちらに振り返って事も無げにそう言う[[rb:優 > ゆう]]に心の中で再度ツッコミを入れた。

  「クマさん嫌い?」

  俺が[[rb:優 > ゆう]]に背を向けて額を手で押さえて軽く絶句していると、[[rb:優 > ゆう]]が俺の頭に顎を乗せてきた。

  「いや、そういうことじゃなくてな」

  「がおー」

  棒読みの“がおー”と共に[[rb:優 > ゆう]]は俺の肩の上から両腕を回してきた。

  「・・・何の“がおー”?」

  「クマさん」

  「なんでクマさんの鳴き声が“がおー”なんだよ」

  「じゃあクマさんなんて鳴くの?」

  「えっ・・・」

  俺は[[rb:優 > ゆう]]の質問にちょっと考えてしまった。

  クマさんってなんて鳴くんだ・・・?

  「くまー」

  「あーもう、いいから離せ!」

  [[rb:優 > ゆう]]のテキトー過ぎるクマさんの鳴き声を聞いてどうでもよくなった俺は[[rb:優 > ゆう]]を振りほどいて、[[rb:豹一 > ひょういち]]とツジさんに引き継ぎを行った。

  ◆◆◇◇◆◆

  「遅いな・・・何してるんだあいつ」

  「着替えって言ってたろ。がるがるすんなって」

  俺たちは合流して屋台通りの端で着替えに行ったユズを待っていた。

  どうやらブースでの甚平姿はそれ用の作業着で、祭り用は別で用意していたらしい。

  もちろんユズはトイレで着替えたりなんかしない。近くにテルさんが車で来ていて、そこで着替えをしているようだ。

  「うわっ」

  「おっと」

  さすがに祭りは人が多く、[[rb:優 > ゆう]]とは違う虎の人の尻尾を避けた拍子に後ろの[[rb:玄來 > げんき]]に寄りかかってしまった。

  人の多い場所ではもう少し尻尾マナーに気を付けて欲しいものだ。

  「悪い、[[rb:玄來 > げんき]]」

  「大丈夫だよ、クロ[[rb:兄 > にぃ]]」

  [[rb:玄來 > げんき]]は寄りかかった俺を体で受け止め、腕の辺りに手を添えて支えてくれた。

  ───────暖かい・・・。

  夏の蒸し暑さの中でも俺は[[rb:玄來 > げんき]]の温もりをそう感じた。

  こんな風に[[rb:玄來 > げんき]]の体温を感じたのは久しぶりな気がする。

  触れ合った場所から[[rb:玄來 > げんき]]の体温が体をくすぐり、祭りの喧騒の中でも拾える[[rb:玄來 > げんき]]の息遣いは耳をくすぐってくる。

  さっさと手を離せば良いのに、俺が離れようとするまで[[rb:玄來 > げんき]]はそのまま支えてくれている。

  俺は次第に胸の中までくすぐったくなってきて───────。

  ─────ドキドキしていた。

  ああ、やっぱり俺は[[rb:玄來 > げんき]]のことが好きなんだ。

  [[rb:玄來 > げんき]]のために、[[rb:玄來 > げんき]]の頼れる兄ちゃんで居ようと決心したが、この気持ちはいつまでもそのままらしい。

  俺はそれが嬉しいやら呆れるやらでちょっと可笑しくなって笑ってしまった。

  「ありがとな」

  「─────っ! う、うん・・・」

  俺は笑った勢いで[[rb:玄來 > げんき]]から離れ、振り返って礼を言った。

  さてと・・・

  さっきは不覚を取ったが、今回[[rb:玄來 > げんき]]を誘ったのはお祭りデートを楽しもうとかそういう目的ではない。

  いや、それも無くはないのだが。

  1番の目的はクロ[[rb:兄 > にぃ]]としての汚名返上だ。

  “わわわわわ玄來げんき!?”

  “バカーーーー!!!”

  “ふにゃーーーーん!!!”

  海では過去の負債のツケで[[rb:玄來 > げんき]]に投げ飛ばされてしまった。[[rb:玄來 > げんき]]からの反撃であれほど盛大なのは今まで無かったように思う。

  本当はこの祭りの誘いも拗ねて断られるかもしれないと思っていたのだが、予想に反してかなり乗り気でOKしてくれた。まるで戦場にでも赴くかのような気迫だったのが予想外過ぎて引いてしまったが結果オーライだ。

  去年のサマーライオンズでしっかり兄ちゃん出来なかった分もある。今年こそは華麗に、カッコ良く、頼れる兄ちゃんムーブをかまして現在ストップ安になったであろうクロ[[rb:兄 > にぃ]]株を上昇させるのだ。

  俺は────────

  俺は[[rb:玄來 > げんき]]の頼れる兄ちゃんになる!!

  [chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]

  書きたいこと多すぎて屋台まで行きませんでしたすみません🙇‍♂️

  あとがきで何回か書いたかと思うのですが、作者はゲーム好きで、3月22日に覚者として旅に出ます。

  ドラゴンズドグマ2ですね。このためにPS5買いました。1作目から10年待ちました。

  本編の更新が少々止まることが予想されますが、Twitter(X)での柴クロ小ネタやBlueskyの柴クロ勇者パーティーは変わらず更新していきますのでよろしくお願いします。

  ポーンの情報は出そうと思ってるので、一緒に覚者となる方は是非!

  【定期】

  Twitter(X)で #柴クロ小ネタ で検索すると過去の小ネタやアンケートで遊んでるやつなど全部見れます。

  作中で語られていないキャラの背景なども小ネタにあるので、作品読んでてピンとくることがあったりなかったりするかもしれません。

  Blueskyで 柴クロ勇者パーティー で検索すると連載中のやつ全部見れます。

  どちらも最新話をお待ち頂く合間に楽しんで頂ければと思います。

  誤字脱字報告も毎度助かっております!

  いつも柴クロをお読み頂き、ありがとうございます。

  蒼空ゆうぎ