━━━━━━━━クリスマスイブの夜は本当に楽しかった。
[[rb:玄來 > げんき]]と━━━━━━好きな人と一緒に過ごせただけでも胸一杯なのに、その人が美味しい手料理とケーキに見立てたデザートまで作ってくれた。
店長がくれたカニと手羽先も美味しくて、これ以上無いってくらい大満足のクリスマスディナーだった。
その後は[[rb:玄來 > げんき]]と一緒に━━━━━━じゃなくて、一緒のお風呂にも入って・・・。
いや、決して狙ってやった訳じゃない。俺が[[rb:玄來 > げんき]]にしてやれることを考えた結果だ。
入浴剤も[[rb:玄來 > げんき]]が好きそうな森の香りみたいなやつにしたし。
入った後で気付いたんだ。これって[[rb:玄來 > げんき]]が入った風呂じゃねみたいな。
そしたらなんかこう・・・ドキドキ・・・ムラムラしてきて・・・それで━━━━━━━。
セーフだよな?
誰でも妄想の中で人に言えないことしてるはずだ。単に俺にとって妄想が捗るシチュエーションだっただけで、同じ風呂に入るのは悪いことじゃない。合法だ。
でもやっぱり変態過ぎるか・・・?
いやいやいや、[[rb:玄來 > げんき]]のアクションにも問題あっただろ。
洗い物してたら急に後ろから抱きついて来たんだぞ。上裸で。
そんなのドラマでしか見たことないわ。現実でやる奴居るか?
居たんだよ。[[rb:玄來 > げんき]]はやっちゃったんだよ。それはもう恋人通り越して新婚レベルだろ。
おまけになんだよ・・・朝のアレ・・・。
“実はオレ夜中に目が覚めて、その・・・クロ[[rb:兄 > にぃ]]の━━━━━”
寝てる俺になんだよ! 何をしてくれたんだよ!
こんなことされ続けたら、なるべく考えないようにしてたあの事が嫌でも頭をよぎる。
“ オレも・・・・・・・・・ッちゃうよ。クロ[[rb:兄 > にぃ]]!”
やっぱり[[rb:玄來 > げんき]]は俺で抜いてたのか?
[[rb:玄來 > げんき]]は俺の事が好きなのか?
[[rb:玄來 > げんき]]って実はバイなのか?
そうだったとして、本当に寝てる俺に何かしたんだとしたら、[[rb:玄來 > げんき]]は俺が思ってるよりずっとやんちゃ坊主じゃないか。
[[rb:玄來 > げんき]]が寝た後にこっそり近くに寄って寝顔を見つめるだけに留めた俺に、何かしたことを謝って欲しい・・・・・・嫌じゃないけど・・・。
そして━━━━━━━━━━━━━━━
更なる問題が今ここにある。
今日はイブの翌日。日曜日のクリスマス。
日中は[[rb:玄來 > げんき]]と遊んで、ちょっと買い物も一緒にして夕方。お互い今は自分の部屋に居る。
本気で[[rb:玄來 > げんき]]は俺を試しているのかもしれない。
━━━━━柴犬のサンタクロースさん、あなたはクリスマスにとんでもないプレゼントを残していきましたね。
俺は玄関に置いてあったプレゼントを見つめた後、膝をついて床に崩れ落ちた。
━━━━あ な た の パ ン ツ で す。
[chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]
俺の目の前にあるのは、黒帯に赤の[[rb:玄來 > げんき]]の使用済みボクサーパンツ。
何故こんな事になったのか。
いや、理由は分かる。[[rb:玄來 > げんき]]は自分の部屋に帰る時、自分の洗濯物を手に持って帰った。その時に玄関で落としたんだろう。
こんなのすぐに持って行ってやればいいだけの話だ。
・・・そのはずなのだが━━━━━━━━。
「俺は・・・」
叶わなくて良いと諦めた片想い。
しかし、その相手に再び淡い期待を持たされた直後、その相手のパンツが手の届く所にある。しかも使用済みのヤツ。
「俺は・・・」
部屋には俺一人だけ。玄関には鍵だってかけられる。
今俺が変顔をしようが、全裸になろうが、オナニーしようが、知る者は誰もいない。完全にプライベートが保証された空間。
「・・・嗅ぐのか?」
いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!
ダメだろ。完全にアウトだろ。
[[rb:玄來 > げんき]]のオナニーの盗み聞きはしてしまったが、あれは半分不可抗力だ。まだ、執行猶予付きの判決で許される範囲だ。
しかし、今俺がやろうとしていることは言い逃れ出来ないレベルで許されざる事だ。
実刑は免れない。間違い無く夢にあのパンダが出てくる。今度はもう白黒じゃなくて真っ黒パンダが出てくるかもしれない。
そして、きっとまた俺に言うんだ。
”あーあ。やっちゃったね。クロ[[rb:兄 > にぃ]]?”
そんな風に俺を罵るに違いない。
━━━━━━しかし
叶うはずの無い恋。
今後2度と訪れることのない千載一遇のミラクルチャンスが目の前にある。
相手を傷つけることなく、自分の罪悪感という代償のみで済ませられる環境が用意されている。
俺はただ、玄関に鍵をかければいいだけだ。それで完全犯罪が成立する。
全ては俺の手の中にある。
俺はゆっくりと[[rb:玄來 > げんき]]の使用済みパンツを拾い上げ、玄関に鍵を━━━━━━━━━━
「ごめんクロ[[rb:兄 > にぃ]]、オレ忘れも・・・」
「わあああああああああああ!!!」
「わああっと!」
突然玄関のドアがガチャりと開いて[[rb:玄來 > げんき]]が現れた。
俺は咄嗟に[[rb:玄來 > げんき]]のパンツを後ろに隠したが、驚き過ぎて尻もちをついてしまった。
「ごっごめんクロ[[rb:兄 > にぃ]]。ノックもせずに」
[[rb:玄來 > げんき]]が俺に大丈夫かと右手を差し出してくれる。
その手を取りたいが、俺の右手には後ろに隠したパンツが握られている。
欲望に塗れて汚れてしまった俺の手は、愛しい人から差し伸べられたその手を掴めない。
俺は尻もちをついたまま、半泣き状態で大丈夫とだけ伝えた。
「ほ、本当にごめん! 痛かったよね!」
[[rb:玄來 > げんき]]は靴を脱いで、俺を起こそうと近寄ってくる。
「だだだ大丈夫! 大丈夫だから!」
俺は足を使って尻でフローリングを滑りながらバックし、距離をとって自力で立ち上がった。
「そっそれよりどうしたんだよ」
挙動不審な俺を見てちょっとポカンとしている[[rb:玄來 > げんき]]に問いかける。
「あ、うん。ちょっと忘れ物しちゃって」
・・・もしかしてこれヤバいか?
パンツ忘れちゃってとか言われて洗濯カゴや洗濯機の中を先に探されたらもう終わりだ。
その後で俺がどこからパンツを出そうが、何故そこから出てくるんだという話になる。
クロ[[rb:兄 > にぃ]]終了待ったナシだ。
「探してもいいかな」
「まっ・・・いや、えっと・・・」
「今ダメだった?」
ダメ過ぎるけどダメじゃない。断る理由が微塵もない。
「ダメじゃないです・・・」
「じゃあ、あがらせてもらうね」
そう言って[[rb:玄來 > げんき]]は洗濯機を通り過ぎて、部屋へ入っていった。
部屋に上がった[[rb:玄來 > げんき]]はベッドの周辺を調べながら何かを探している。
「何探してるんだ?」
俺は後ろ手にパンツを握ったまま[[rb:玄來 > げんき]]に尋ねる。
「スマホの充電器。クロ[[rb:兄 > にぃ]]の部屋に忘れたのかと思ったんだけどな」
なんだ充電器か。パンツの存在に気付いたわけではないらしい。ギリセーフだ。
「ところでクロ[[rb:兄 > にぃ]]、さっきから手を後ろに回してるけど、どうしたの?」
「え!」
まずい。
「さっき尻もちついてちょっと腰が。なんて」
咄嗟に[[rb:玄來 > げんき]]に嘘をつく。
隠し事が罪悪感を上塗りしていく。
「あー、ごめんクロ[[rb:兄 > にぃ]]。オレが急にドア開けたから」
謝られてメンタルが潰れた俺はソファにドサッと座り込み、隣のパンダクッションの下にパンツを隠した。
俺が落ち込んだように[[rb:項垂 > うなだ]]れている間にも、[[rb:玄來 > げんき]]の充電器探しは続いている。
「無いなぁ・・・」
「もう1回自分の部屋の中探してみろよ。もし見つけたら届けてやるから」
俺の言葉に[[rb:玄來 > げんき]]もすぐ納得して捜索を打ち切る。
「そうだ、クロ[[rb:兄 > にぃ]]。洗ってくれたタッパーはオレが持って帰るよ。出勤の時に返すから」
「ああ、そうだな。分かった」
俺は店長がくれた手羽先とカニが入っていたタッパーをキッチンへ取りに行った。
━━━━━その一瞬の隙が命取りだった。
「クロ[[rb:兄 > にぃ]]・・・これ・・・」
「━━━━━っ!!!!」
俺はその光景に声もなく固まっていた。
ソファの前に立つ[[rb:玄來 > げんき]]。
手に持っているのはパンダクッション。
そして、見つめる先には[[rb:玄來 > げんき]]の使用済みパンツ。
━━━━━━━━━━━━終わった。
「[[rb:玄來 > げんき]]・・・それ・・・」
告白と[[rb:贖罪 > しょくざい]]の時間だ。
「実は・・・」
裁きを受けよう。もう、ショックで頭が回らない。
「ぷっ・・・」
━━━━━━━━━━ん?
「あはははははは!!」
[[rb:玄來 > げんき]]が盛大に笑い出し、俺は何が起こったか分からなくなって混乱した。
「げ、[[rb:玄來 > げんき]]?」
たまらず[[rb:玄來 > げんき]]に声をかける。
「あははは! ごめんごめん! まあ、そうだよね! クロ[[rb:兄 > にぃ]]も溜まるよね!」
俺はまだ状況が理解できず、耳をヘタらせて頭の上に疑問符を浮かべている。
「俺が帰ってからソファで抜いてたでしょークロ[[rb:兄 > にぃ]]! クッションに隠れて脱いだパンツそのままになってるよ!」
まるで大人の隠し事を見つけた子供みたいに[[rb:玄來 > げんき]]は笑っている。
「しかもこのパンツオレも履いてるやつ!」
[[rb:玄來 > げんき]]はズボンの端をクイッと下げて履いているパンツを見せてくる。
履いているのは黒帯に赤の同じボクサーパンツだ。何枚か同じものを持っているらしい。
「クロ[[rb:兄 > にぃ]]って青系が好きだと思ってたんだけど、意外と赤も履くんだね」
俺の意外な所を発見できて嬉しいのか、[[rb:玄來 > げんき]]は尻尾をブンブン振っている。
・・・それお前のパンツなんだけどな。
「でもクロ[[rb:兄 > にぃ]]ってどんなので抜いてるのかちょっと気になるな」
お前だよ。
「クロ[[rb:兄 > にぃ]]とこういう話し全然したことなかったよね。今度おかず見せ合ってみる?」
ああ、なんかすごくノンケっぽい。やっぱりこいつノンケだ。
[[rb:玄來 > げんき]]は尻尾をブンブン振りながら、少年のような笑みを俺に向けてくる。
[[rb:玄來 > げんき]]のおかずはちょっとだいぶ気になるが、俺からできる回答は1つ。
とりあえず鏡を見てみろ。俺のおかずが映ってるから。
「あー・・・おう・・・じゃあ、また今度な・・・」
「うん!」
それから[[rb:玄來 > げんき]]は空のタッパーだけ持って、嬉しそうに俺の部屋を出ていった。
部屋に残されたのは俺と[[rb:玄來 > げんき]]の使用済みパンツ。
「また今度、何か理由つけて返そう・・・」
そう心に誓えど、意図せず手に入れてしまった使用済みパンツを前に、俺は再び悶々とした苦悩の時間を過ごすのだった。
[chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]
少し改行のやり方を変えました。
今後もこのやり方にしようか迷っております。
良ければイイねやコメントなどで反応頂けると助かります。
いつも柴クロをお読み頂きありがとうございます。
蒼空ゆうぎ