柴後輩とクロ兄ちゃん【イチゴ】

  「クロ[[rb:兄 > にぃ]]ありがとう。弁当箱はオレが出勤する時に返すから」

  「分かった、頼むな」

  俺は弁当箱を洗い終えて、テーブルに戻った。

  [[rb:玄來 > げんき]]のアイスはまだ残っている。いい感じに溶けて1番美味しい頃合だ。

  「そういえば[[rb:玄來 > げんき]]、お前何で追加でバイトしてたんだよ」

  「え゙っ」

  [[rb:玄來 > げんき]]が分かりやすくギクリとする。

  店長から欲しいものがあるらしいとは聞いたが、[[rb:玄來 > げんき]]が欲しがるものの見当が全くつかない。

  「えっと・・・」

  [[rb:玄來 > げんき]]はワキに目を逸らした後、観念したように口を開いた。

  「クリスマスプレゼント・・・買おうと思って」

  「あーなるほどな」

  確か[[rb:玄來 > げんき]]には高校の時に1度だけ[[rb:光 > ひかり]]にプレゼントを買ってやろうして相談された記憶がある。

  そして、それを[[rb:玄來 > げんき]]の母親に止められたのだ。[[rb:玄來 > げんき]]はまだもらう側だとかなんとかで。

  社会人になった今、満を持してって感じか。

  「大好きな兄ちゃんからのクリスマスプレゼントか、[[rb:光 > ひかり]]も喜ぶぞ」

  「うっ・・・[[rb:光 > ひかり]]のはもう結構前に買ってて・・・その・・・」

  [[rb:玄來 > げんき]]は歯切れ悪く言葉を続ける。

  「クロ[[rb:兄 > にぃ]]に・・・」

  「お、俺!?」

  完全に予想外の答えが返ってきて俺は焦る。

  だって俺考えてなかったし。[[rb:玄來 > げんき]]にプレゼントとか準備してないし。恋人云々もホモの俺には関係ないし。ちょっとケーキでも食べるか程度にしか考えてなかった。

  [[rb:玄來 > げんき]]はプレゼントのために無理してバイトまで増やしていたのに?

  俺・・・完全にポンコツ兄ちゃんじゃないか。

  「クロ[[rb:兄 > にぃ]]に嫌われるのが怖くて、でもどうしたらいいか分からなくて、クリスマスプレゼントで何かキッカケ作ろうと思ったんだ」

  つまり、[[rb:玄來 > げんき]]の風邪も俺のせいじゃないか。

  誰か俺を冬の冷たいアスファルトに頭からぶっ刺してくれ。

  「ただ、何を送ればいいか分からなくて。何でも買えるようにバイト増やしたんだけど、結局クロ[[rb:兄 > にぃ]]にも店長たちにも迷惑かけちゃった」

  もう俺を埋めてくれ。地面に埋めてくれ。尻尾だけ出して、土の養分と光合成で生きるから。

  「だから、プレゼントもまだ買ってないんだ。ごめ・・・」

  「ストーーーップ!!」

  俺は[[rb:玄來 > げんき]]の言葉を声を上げて阻止する。

  「頼む[[rb:玄來 > げんき]]。俺にトドメを刺さないでくれ。俺やっと今日兄ちゃんとして覚醒できそうな気がしてるんだ」

  「ト、トドメ・・・?」

  [[rb:玄來 > げんき]]が驚愕と困惑を同時に浮かべている。

  [[rb:玄來 > げんき]]は今風邪を引いている。熱もある。つまり弱気でネガティブになりやすくなっている。喋らせたらダメだ。

  「よし、[[rb:玄來 > げんき]]、色々リセットしよう。プレゼントとかも無し。バイトも辞める。な?」

  「わ、わかった」

  このままゴリ押そう。

  「それでさ、クリスマスイブの夜は俺ん家でクリパしよう。お前も次の日休みだし、2人でゲームでもしてさ。な?」

  そして[[rb:玄來 > げんき]]の顔に明るさが戻り始める。

  「うん! オレ、実はクリスマスに向けてお菓子作り練習してたんだ!」

  よし、いい感じだ。これで一連の件は丸く収まったことにしよう。これで今まで通りだ。

  「それでさ、クロ[[rb:兄 > にぃ]]。イブの日ってクロ[[rb:兄 > にぃ]]の部屋に泊まったらダメかな」

  ━━━━━━ん?

  「実は最初にクロ[[rb:兄 > にぃ]]とご飯食べた時、本当はクロ[[rb:兄 > にぃ]]のとこ泊まりたかったんだ」

  そういえばあの日はカバンを持ってきていた気がする。仕事終わりでそのまま来ただけだと思って気にしてなかったが。

  「久しぶりに一緒にご飯食べれるのが嬉しくてさ。でも朝早いみたいだったし、何となくその時のクロ[[rb:兄 > にぃ]]の様子も気になって、それからずっと言い出せなかったんだ」

  あの日は確かにガチガチだった。長年の恋心に確信を持ったばかりなのに、その相手が部屋に来て手料理作って一緒に食べて覆いかぶさって来たのだから。

  「練習の続きってわけじゃないけど・・・」

  ダメかなと[[rb:玄來 > げんき]]が照れ笑いしながら聞いてくる。

  甘える練習なんてまだ2回しかやっていないのに、その成果を存分に発揮し、結果にコミットしてくる。優秀な弟だ。

  優秀過ぎてもう・・・。これは、俺・・・。あれ、どうしたらいい?

  「い、いいに決まってるだろぉう! なんなら一緒の布団で寝ちまうかぁあ!?」

  「うん!」

  ━━━━━━━━あれ、俺、今何言った?

  「一緒の布団で寝るなんて、ホント小学校以来だね」

  ━━━━━━━━イッショノフトンデネル?

  テーブルの反対側で[[rb:玄來 > げんき]]が何か話しているのが聞こえる。内容は分からない。

  尻尾を振っている音も聞こえる。[[rb:玄來 > げんき]]の嬉しそうな顔だけが見えている。

  俺はしばらく頭が真っ白になっていた。

  [chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]

  ピンポーン━━━━━━━━━

  [[rb:玄來 > げんき]]が風邪を引いて次の日、俺は様子を確認しようと[[rb:玄來 > げんき]]の部屋のチャイムを鳴らした。

  そして、ドタドタという足音と共に、すぐ[[rb:玄來 > げんき]]が顔を出した。

  「クロ[[rb:兄 > にぃ]]!」

  「おはよう[[rb:玄來 > げんき]]。だいぶ良くなったみたいだな」

  昨日とはまるで違い、全身に生気が戻ったような雰囲気だ。早く良くなってくれて本当に良かった。

  「おはよう、もうすっかり良くなったよ。クロ[[rb:兄 > にぃ]]や店長たちのおかげ」

  [[rb:玄來 > げんき]]のいつもの笑顔だ。本当に久しぶりに見たような気がする。

  「でも、店長にはもう1日休めって言われてるから、一応おとなしくするつもり」

  「それがいいな。あ、そうそう、お前に渡し忘れてたものがあるんだ」

  俺は上着のポケットから[[rb:優 > ゆう]]に貰ったグミの袋を取り出して、[[rb:玄來 > げんき]]に渡した。

  「それ[[rb:優 > ゆう]]から。お前が風邪だって聞いた時、横にいてさ。お見舞いに持たせてくれたんだよ」

  [[rb:玄來 > げんき]]は手元のグミの袋を見て口を開いた。

  「ありがとう。[[rb:優 > ゆう]]さんにもお礼言っとかないと」

  「気にすんなって。[[rb:優 > ゆう]]から出てきたグミにいちいちお礼言ってたら、あいつと付き合えないぞ?」

  「そ、そうなの?」

  1年以上付き合った俺の結論だ。蛇口をひねれば水が出る。[[rb:優 > ゆう]]からはグミが出る。Q.E.D.だ。

  「ま、何かあったらいつでも連絡するんだぞ? いいな?」

  元気そうではあるが、一応それだけは念押ししておく。

  「うん。クロ[[rb:兄 > にぃ]]には頼ってもいいんだって、ちゃんと自分に許可出したから」

  「ならよし!」

  俺は[[rb:玄來 > げんき]]の頭をワシワシと撫で、にっと笑ってそう言った。

  「・・・」

  しかし、[[rb:玄來 > げんき]]の反応は無く、ポカンとした様子で俺の顔を見ていた。

  「どうした[[rb:玄來 > げんき]]?」

  「な、なんでもない!」

  [[rb:玄來 > げんき]]はハッとしたように言葉を返し、勉強頑張ってと言ってドアを閉めてしまった。

  多少[[rb:玄來 > げんき]]の様子は気になったが、俺は迷いが無くなったようなスッキリした気持ちだった。

  長年[[rb:玄來 > げんき]]に恋してた自分と、クロ[[rb:兄 > にぃ]]としての自分の間にうまく折り合いがついたような、そんな感じだ。

  [[rb:玄來 > げんき]]への恋心は消えない。

  もし、[[rb:玄來 > げんき]]にまた彼女が出来たら、気持ちの整理に戸惑うこともあるかもしれない。

  それでも俺はクロ[[rb:兄 > にぃ]]として、[[rb:玄來 > げんき]]の頼れる兄ちゃんで在り続ける。

  俺は[[rb:玄來 > げんき]]のことが大切で、大好きだから。

  あいつの心の近くに寄り添えるだけで十分だ。

  俺はやっと自分の恋心との付き合い方を決めることができ、晴れ晴れした気持ちで大学へ歩き始めた。

  スマホにいつもの有線イヤホンを挿して、アップテンポなラブソングなんか選曲したりしてみる。

  「あ、でも・・・」

  そういえば約束してしまった。クリスマスイブの夜のことを。

  「さすがに、添い寝はヤバ過ぎるだろぉ・・・」

  結局[[rb:玄來 > げんき]]のことで頭がいっぱいになりながら、いつもの道を行く。

  ━━━━━━今日もやたらと大学が近い。

  ◆◆◇◇◆◆

  「・・・今日はどれ?」

  大学の講義室。隣の席の[[rb:優 > ゆう]]が俺に声をかける。

  [[rb:優 > ゆう]]は机にベッタリと突っ伏す俺の左耳を人差し指でぴょいんぴょいんさせて遊んでいる。

  くすぐったいからやめて欲しい・・・嫌じゃないけど。

  「んー・・・俺が」

  「クロ?」

  「俺が余計なこと言った・・・」

  [[rb:優 > ゆう]]はいつものように袋をからグミを1つ摘み、俺の口に運ぶ。

  今日はソーダ味。好きな味だ。

  「それは悪いこと?」

  「・・・全然」

  むしろ良すぎる。眠れるかどうかは置いといて、好きな人と添い寝出来るなんて最高じゃないか。変な気さえ起こさなければ。

  変な気を起こさないかが問題なのだが。

  「じゃあいいじゃん」

  「ま、それもそうか」

  きっとこの先もこんな風に困って、ドキドキするんだ。その相手が[[rb:玄來 > げんき]]で良かった。

  自分の恋は胸にしまって、[[rb:玄來 > げんき]]が自慢出来るくらい、いい兄ちゃんになってやる。

  「[[rb:優 > ゆう]]、大学終わったらカラオケ行こうぜ。俺ちょっと歌いたい気分」

  「いいよ。じゃあ終わったらビグワンね」

  ◆◆◇◇◆◆

  「[[rb:優 > ゆう]]、また最後デュエットしようぜ」

  「いいよ」

  耳馴染みのある、あの曲を入れる。

  「じゃあいつも通りね」

  「へい」

  歌い出しが[[rb:優 > ゆう]]で、俺も続く。

  以前も歌った、俺も[[rb:優 > ゆう]]も知っているラブソング。

  今までなんとなく歌ってたけど、歌詞を見ながら少しだけ気持ちが入ってしまう。

  「『“ My favorite

  My precious it

  With memories

  わからないこと たくさんあるけど

  君が居るだけで ボクは飛べるから

  この胸埋めるのはずっと

  ずっと君がいい”』」

  最後のサビを歌い終えて、マイクを置いた。

  「この曲のサビの英語のところってさ、好きな人のことなんかな」

  何となく気になって[[rb:優 > ゆう]]に尋ねてみる。

  「好きな人に”favorite”とか”it”とか使わないんじゃない」

  それもそうか。

  “私のお気に入り” “私の大切なもの” “思い出と一緒に”か・・・。

  「好きな人を想う自分の心の中の話し」

  「お?」

  [[rb:優 > ゆう]]はそう言ってスマホ画面をこちらに向け、曲の考察をしているブログを見せてくれた。

  「知らんけど」

  まあ、作った人しか分からないよな。

  でも━━━━━━━俺もそれは当たっているような気がした。

  ◇◇◆◆◇◇

  クロ[[rb:兄 > にぃ]]が学校に行ってから、オレはグミの袋を持ったままテーブルに突っ伏していた。

  ━━━━“ならよし!”

  あの時、何故かクロ[[rb:兄 > にぃ]]の笑顔から目が離せなかった。

  それから急に恥ずかしくなって、半分強引にドアを閉めてしまった。

  謝った方がいいかな・・・。いや、クロ[[rb:兄 > にぃ]]ならそんなこと気にもしてないか。

  [[rb:優 > ゆう]]さんのお見舞いのグミの袋を見る。

  どうやらイチゴ味みたいだ。

  自分でこういったものを買ったりしないから、その辺を含めて少し嬉しい。

  俺は上体を起こしてグミの袋を開けた。

  そして、色も形もイチゴに似せたグミを1粒、口に放り込んだ。

  思ったよりも結構強めにイチゴの味がする。

  「甘酸っぱい・・・」

  オレはぼーっとしながら、初めての味がするグミを味わっていた。

  [chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]

  ラブコメの下準備が終わりました。(作者はイキイキしている)

  ネタバレが終わったので、ここから先は[[rb:玄來 > げんき]]視点が解禁になります。

  本日は[[rb:優 > ゆう]]の誕生日なので、記念に読み切りで短編を1本投稿しました。(読み切りなのでシリーズ内には追加されません、ご注意ください)

  いつもお読み頂きありがとうございます。

  まずは100users目指して頑張りますので、1話か気に入ったお話を1本ブクマして応援して頂けると幸いです。

  今後も柴クロをよろしくお願いいたします。

  蒼空ゆうぎ