─────ウォータースライダーを一緒に滑ってあげてこそ兄ちゃん。
時刻は昼前。
[[rb:優 > ゆう]]の謎兄ちゃん論に促され、俺たちはサマーライオンズ名物のウォータースライダーの列に並んでいる。
ここのウォータースライダーは3本ある。
ウォータースライダーはここのマスコット『サマーライオンくん』がおしりを上げて伏せしている形をしており、左右2本がお尻から前脚、中央1本が尻尾から口の中を通って出る仕様になっている。
特に中央は最後がジャンプ台のように反っており、サマーライオンくんの口がいい具合にムカつく感じでしゃくれている。
「ほら、そろそろだよ」
「お、おう」
[[rb:優 > ゆう]]の耳打ちが入る。
とりあえず[[rb:玄來 > げんき]]に一緒に滑ろうと誘うだけなのだが、絵的にどうなのだろうか。
周りを見るとやたら若い男女のカップルが目立つ。
[[rb:玄來 > げんき]]と滑れたら、もちろん恥ずかしいが、俺は嬉しい。
ただ、[[rb:玄來 > げんき]]はノンケだ。これだけカップルが滑っている中で俺と滑るなんて嫌じゃないだろうか。
「[[rb:柴 > しば]]くん、クロが一緒に滑ろうって」
「ちょっ、おま・・・」
悩む俺をよそに、[[rb:優 > ゆう]]が勝手に口を開く。
表情は変わらないが、さっきから尻尾をピコピコさせて、テンション高めのようだ。
こいつ絶対自分が滑りたくてウォータースライダー提案したな・・・俺も滑りたかったけど。
「いいよクロ[[rb:兄 > にぃ]]! 一緒に滑ろ!」
俺の心配を笑い飛ばすかのように[[rb:玄來 > げんき]]が満面の笑みで応えてくれる。
もう、なんていうか、めっちゃ好きだ。
しかし、嬉しい反面問題がある。
前を滑るカップルを見ると、腰をピッタリくっつけて、彼氏が後ろからぎゅっと彼女を抱きしめている。
・・・あれって俺やっていいのか?
兄ちゃん的に当然俺が後ろなのだが、男同士ってどの程度の距離感でやればいいのか分からない。
腰を持つくらいが正解だろうか?
たぶんそうだろう。腰を密着させ、裸同士で[[rb:玄來 > げんき]]の背中に抱きついたりなんかしたらヤバいに決まっている。俺は今日スパッツタイプの水着だ。確実にバレる。ナニがとは言わないが。
後ろに座って腰を持つだけ。何もやましい感じはない。普通だ。落ち着け。
「次の方どうぞ」
そう自分に言い聞かせていると俺たちの番になった。
「クロ[[rb:兄 > にぃ]]」
「ああ。えっ・・・」
[[rb:玄來 > げんき]]に呼ばれたと思った瞬間、ぐいっと肩を引き寄せられる。
「あ・・・の・・・げん」
そのまま流れるようにリードされて俺が前に座らされてしまった。
背中に俺より少し高めの[[rb:玄來 > げんき]]の体温を直に感じる。俺の腰を持った[[rb:玄來 > げんき]]の手の指が露出した部分に少しあたって、ほんの少しでも動いたら変な声が出てしまいそうだ。おまけに、尻尾の付け根辺りには[[rb:玄來 > げんき]]の[[rb:玄來 > げんき]]がもにゅっと押し付けられている。
キャパオーバーだ。
俺はガチガチに固まって、軽く震えだしてしまった。
「クロ[[rb:兄 > にぃ]]、怖いの?」
[[rb:玄來 > げんき]]が笑いながら肩口から声をかけてくる。
その声と気配だけで無理だ。
俺は背筋の痺れを堪えるのが精一杯で返事が出来ない。
「大丈夫だよ」
その言葉と共に[[rb:玄來 > げんき]]が俺をぎゅっと抱き締めた。
俺の右肩側から、顔が触れ合いそうな距離で[[rb:玄來 > げんき]]が顔を出す。
「オレがしっかり支えるから」
もうダメだ。俺はお前の無邪気さのほうが断然怖い。
この至近距離で、その声で、その端正な顔で、俺を見つめて、何の恥じらいもなく、そんなセリフを言ってのける。
後ろの方から女性の声で可愛いと言ってるのが聞こえる。
俺達のことかもしれない。でも、既にどうでもいい。
「それでは行ってらっしゃーい」
もう滑り始めている。結構なスピードが出ている。それでも[[rb:玄來 > げんき]]の温もりに包まれた安心感と高揚感を超えることは無い。
ガチガチだった身体は[[rb:玄來 > げんき]]の温もりに溶かされて、完全に体重を預けてしまっている。
最後のジャンプ台。俺たちは空中へふわりと飛び出した。
一瞬だけ空が近くなる。このまま[[rb:玄來 > げんき]]と一緒に飛んで行ってしまいたい。
1人空に飛んで行く心を見送って、俺たちはプールに落ちた。
[chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]
「おまたせ」
俺は一足遅れて着替えを済ませ、[[rb:玄來 > げんき]]たちと合流した。
あの後、しばらくプールから上がれなかった。
次からサーフパンツとかにしたほうが良いかもしれない。
「腹減った」
[[rb:優 > ゆう]]が口を開く。
「[[rb:優 > ゆう]]さんと先に昼飯食べようって話してたんだ。クロ[[rb:兄 > にぃ]]もいいよね」
「うん。俺も腹減った」
それを聞いて、[[rb:玄來 > げんき]]はパンフレット片手にフードコートまで先導してくれる。
サマーライオンズには夏祭りをイメージしたデカいフードコートがあり、屋台形式で様々なメニューを楽しめるらしい。
俺はちょっとワクワクしながら、[[rb:玄來 > げんき]]たちとフードコートへ向かった。
◆◆◇◇◆◆
「「ヤベーー!!」」
「おー」
[[rb:玄來 > げんき]]と俺がハモる。
フードコートはでっかい屋根の下にあり、周囲を様々な屋台が囲んでいる。
カレー、オムライス、スパゲティなどの定番お食事メニューから、イカ焼き、綿あめ、焼きとうもろこしなど、いかにも夏祭りっぽいメニューも揃っている。
「見て、あの子が持ってるやつなんだろう」
[[rb:玄來 > げんき]]が見ている小さな女の子の手には透明な水風船のようなものが見える。そして、その中には様々なフルーツが入っている。
「あれじゃない?」
[[rb:優 > ゆう]]が指差したほうを見ると、『フルーツ水風船』という看板の屋台があった。
どうやら水風船の形をしたフルーツゼリーのようだ。屋台の前には氷水のプールにたくさんのフルーツ水風船が並べてある。
お祭り定番の玩具を屋台ごとフードにアレンジしているとは、なかなか手が込んでいる。
しかし、面白い屋台は多いものの、昼時とあって混んでいる。
「俺は席確保しとくから、お前ら買いに行ってこいよ。」
「え、いいのクロ[[rb:兄 > にぃ]]」
俺も屋台を回りたいが、[[rb:玄來 > げんき]]も、珍しく[[rb:優 > ゆう]]もテンション高めなので2人に行かせてやりたい。
「ああ、ついでに俺のも何か買ってきてくれ」
俺は[[rb:玄來 > げんき]]に奢ってくれることも想定して、少し多めに3000円ほど[[rb:優 > ゆう]]に手渡した。
[[rb:玄來 > げんき]]に渡すと使わない可能性すら有り得る。それは絶対に避けたい。
「じゃあ行ってくるねクロ[[rb:兄 > にぃ]]」
2人を見送り、俺は席の確保に向かった。
◆◆◇◇◆◆
「あの・・・[[rb:虎守 > こもり]]さん・・・コレは」
「海鮮焼きそば」
そこまでは分かる。しかし問題が別にある。
「海鮮焼きそばポセイドン」
「はぁ!?」
「一応オレは止めたんだけど・・・」
使い捨てのデカい銀皿の上に海鮮焼きそばがマウンテンしている。
山の麓では波をイメージしたかのようにタコ足が周りを取り囲み、山の上ではエビやらホタテやらがダンシングしている。
「いや、屋台いっぱいあったじゃん! なんでポセイドンいっちゃったんだよ!」
「3000円あったから」
「使い切らなくていいんだよ!」
当然、[[rb:優 > ゆう]]は自分のポセイドンがあるので、これは全部俺の分だ。
そしてここで[[rb:優 > ゆう]]のツンツンが入る。
「たくさん食べれるのを見せてこそ兄ちゃん」
「お前のその兄ちゃん論はどこから来てるんだよ! ソースはなんなんだ!」
「オイスターソース」
「ポセイドンの話じゃねえ!」
そもそも俺は[[rb:玄來 > げんき]]や[[rb:優 > ゆう]]と比べて体格や口の大きさがまるで違う。これ終わったかもしれん。
「大丈夫だよクロ[[rb:兄 > にぃ]]。オレ一緒に食べようと思って控えめにしたから」
コソコソ話していると、[[rb:玄來 > げんき]]が困った顔で笑いながらそう言ってくれた。
[[rb:玄來 > げんき]]の手にはフランクフルトが1本だけ握られていた。
俺は[[rb:玄來 > げんき]]に助けてもらいながらなんとかポセイドンを完食した。
ちなみにこれは奢った内に入るのだろうか。いや、入らんな。
なんなら気を遣わせた上に助けられてしまった。
またしても敗北である。
◆◆◇◇◆◆
食事も終わり、俺たちはテーブルで次の目的地を話し合っていた。
「やっぱ次は遊園地のアトラクションっすかね」
「待て。今行ったら遊園地に虹がかかることになるぞ」
今アトラクションに乗ったら確実にポセイドンが出る。ワンクッション挟みたい。
「ここは?」
[[rb:優 > ゆう]]が見ていたパンフレットをこちらに向ける。
「え゙っ」
「あー」
[[rb:玄來 > げんき]]が分かりやすく微妙な反応を示す。
[[rb:優 > ゆう]]が見せたページにあったのはサマーライオンズ名物、お化け屋敷の紹介だった。
[[rb:玄來 > げんき]]は昔から幽霊とかお化けとかが苦手だ。口に出して苦手と言ったことはないが、見てたら誰でも分かる。
小学校の夏休み中に[[rb:玄來 > げんき]]たちがうちに泊まったことがあるのだが、そこで姉の[[rb:琉愛 > るな]]が寝る前に怪談話をした時も声を出さずにビビり散らかしていた。
おまけにその夜は完全に涙目になった[[rb:玄來 > げんき]]にトイレについてきて欲しいと起こされた。
・・・可愛かったなぁ。
「そ、そういえばドリンクチケットまだ使ってなかったっすから、オレもらってきますね! [[rb:優 > ゆう]]さん何飲みます?」
「スイカジュース」
「俺も同じの」
注文を聞くと[[rb:玄來 > げんき]]はパタパタとドリンクを取りに行ってしまった。
「苦手な感じ?」
「見ての通り」
本人は強がってるが、わざわざ苦手なところに連れていくこともないだろう。分かってて連れていくのは兄ちゃん的にもアカン気がする。
「チャンスじゃない? クロは平気なんでしょ」
「苦手なの分かってて連れてけないって」
確かに連敗を止めるチャンスではあるが、[[rb:玄來 > げんき]]の嫌がることはしたくない。
というか、ここまで[[rb:玄來 > げんき]]に完璧な兄ちゃんムーブをかまされて、もう逆転の余地無しな気がしている。
「もう兄ちゃん降りようかなぁ・・・」
そう言って間もなく、[[rb:玄來 > げんき]]がスイカジュースを3つ持って戻ってきた。
「なあ[[rb:玄來 > げんき]]、お化け屋敷やめて別のところ行こうと思うんだけど、お前はどこか・・・」
「行きましょう」
─────え?
[[rb:玄來 > げんき]]が先程の様子と打って変わって、決意に満ちた眼差しで[[rb:優 > ゆう]]を見ている。
「行きましょうお化け屋敷。オレ行ってみたいっす」
「じゃ、行こっか」
[[rb:優 > ゆう]]もサラッと了承してしまう。
「[[rb:玄來 > げんき]]、いいのか? お前・・・」
「うん。やっぱ夏といえばお化けだよクロ[[rb:兄 > にぃ]]。オレ行きたい」
「そ、そっか。分かった」
スイカジュースを飲み終えて、やはり[[rb:玄來 > げんき]]先導で歩き出す。
「なんか様子おかしくない? なんかあった?」
「分からん・・・」
流石に[[rb:優 > ゆう]]も気付いて耳打ちしてくるが、俺も理由が全く分からない。
いつもより力強い足取りで進む[[rb:玄來 > げんき]]に続いて、俺たちはお化け屋敷へ向かった。
[chapter:柴後輩とクロ兄ちゃん]
※次回も続くよサマーライオンズ※
いつも ブックマーク や イイね ありがとうございます。
☆誤字脱字の報告や、質問、感想などはお気軽にコメントかTwitterのDMへお願いします。
☆今月は[[rb:優 > ゆう]]の誕生日にもう1本 柴クロのスピンオフ作品を投稿予定です。シリーズには追加されない読み切りですので、ご注意ください。