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ビルが並ぶ街並みに人々の営みが息づいている。かつては森や山と共にあった人間達は、石を積み上げ削り溶かした住まいを作り上げて山々からは離れていった。
弱々しくもしぶとく、それでいて繊細でありながら図太い彼らが去った山は一種の閑けさを抱えていた――とはいえ、残る住民がそれを寂しがったかといえば、また話は別になる。
「ほれ[[rb:荻尾>オギノ]]、いい天気だぞ」
一人の――一匹というべきか、それは狸が人型になったような姿をしている――男が洞窟の入り口から奥へと声を掛けた。
昨日は夜に雨が降ったからか、朝日がすこぶる眩い。洞窟の入り口から垂れた水滴が狸の肩に滴っては朝の空気に煌めくように伝い落ちていった。
狸は褌しか身につけていなかった。毛皮に覆われた体は隆々とした筋肉を纏っているが、ややだらしなく丸みを帯びる腹に老熟した雰囲気を醸し出していた。人間に当てはめて言えば、六十を超えた頃合いの歳に見えるだろう。唯一の衣服である褌の前袋は、張り出た腹に負けぬほどに存在感のある膨らみを見せている。
そんな人間ではないことが明らかな獣人が声を掛けた洞窟の奥から、眠たげな返事が返ってくると共に、どこから持ち込んだのかやけに近代的な寝袋に収まっていた人影がもぞりと起き上がった。
「なんじゃ[[rb:楠裡>クスリ]]、折角の陽気じゃというに」
「うん、陽気だからだ」
楠裡と呼ばれた狸は腰に手を当てて、朝日の中に歩み出てきた狐に笑いかけた。
狐はやはり人型で、そして雌だというのに楠裡と同じような服装をしていた。多産らしい複乳を隠しもしない。豊満ながら垂れ下がっているその胸の先は、追熟を重ねた果実のように瑞々しさも残しつつ濃く色付いている。 褌しか身に付けぬ妖が二匹。雌雄である彼らではあるが、その姿に羞恥を浮かべる様子は無かった。彼らにとってはそれが普通の姿なのだろう。
「腹拵えの後、少し遠出しようか。荻尾」
乳を持ち上げるように腹を撫でる狐を呼ぶその声は、深い慈しみに彩られている。その声だけで彼らがただ寝床を共にしているだけではないと知れた。
人も踏み入れぬ山林の奥地。そこに住まう獣妖の夫婦は人知れずそうやってひっそりと暮らしていた。
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「久方ぶりにカップ麺も食いたいのう」
荻尾はふさふさの尻尾を揺らしながら前を歩く楠裡の背中に語りかけた。
「朝餉は足りなかったか?」
「カッカッ、否々。折角足を伸ばすのであれば人の文化食を仕入れたいものじゃとな」
振り返る楠裡に笑いながら首を振った。外見だけで言えば荻尾は楠裡よりも少し若く見える。だが、実際は千年を生きる妖狐である彼女は、常に刺激を求めている。その半分ほどしか生きていない楠裡にもその無聊は身に沁みて分かる。
だから、こうして彼女を遠くに連れ出しているのだ。とはいえ、「人はすぐに慣れる」と口さがない荻尾と街に赴くのは些か心労が在り、人里に下りる事は稀だった。
「ほう、これはまた。いつの間に……」
「40年程前だ、知らなかったか?」
故に、主にこうして人が作った廃墟に忍び込むのだ。
「コレがどのような施設か。知っておるのか、楠裡よ」
それはとある宿泊施設だった。綺羅びやかな城のような外装、遠くの集落を見下ろす元はガラス張りだったのだろう壁がぽっかりと空の眼窩を広げている。
塒の山から数里程離れた山間。既に寂れきったそれが何なのか。荻尾はよく知っていた。楠裡も知らぬわけではないらしく少し狼狽えた目をする。
「ほ、保存食なら残っているだろう」
そこに連れ込もうとは男らしい甲斐性じゃのう、と瞳に意思を込めると、楠裡は身震いをして慌てたようにその視線から目を逸らした。 食を求めるなら街に行けばいいだろうに。幾らでも揶揄いようのある返事だったが、荻尾は敢えて何も言わず、逃げるようにそこに入っていく番をゆったりと追いかけるのだった。 そして。
「ぁう……っ」
蔦の這う屋上の入り口に手に入れた缶詰を転がし、展望室のようなガラスドームだったのだろう空間で、楠裡は半ば割れた鏡に映る己の姿に羞恥の声を上げる。見慣れた姿ではない。筋肉を残しながらも円みを帯びた体には水兵服の意匠の上着にスカートを合わせた倒錯的な衣服を纏っているのだ。 セーラー服。人間の少女が持つ清廉な可愛らしさを醸し出すそれを歴とした雄が膨らんだ腹を覗かせながら着込んでいる姿は、滑稽を通り越して惨めですらあった。
「ずいぶん女々しい声を漏らすのう。ほれ、スカートを持ち上げてみるのじゃ」
そんな楠裡の肩越しに萩尾は嗜虐的な笑声を耳へと向けて吹きかける。その制服を見つけたのは他ならぬ彼女だ。それが収納されていた衣装棚に『男性用コス』と掠れた文字が刻まれている事に気付いて、萩尾の目は蠱惑的に輝いたのだ。 屋上の一室と缶詰を持って現れた楠裡にそれを手渡し、今に至る。
楠裡もそれが女性用の服である知識はあった。日頃褌一丁で過ごしているとはいえ、美醜観念は普通にある。故にこの服装が全くもって目を逸らしたいほどに似合っていない事は分かるのだ。
だが、荻尾は直視を強いる。白昼堂々、他の誰の目もないとはいえ、人の文化がまだ微かに息衝く廃墟で変態的な行為に浸っているという恥に頬を焼かれながらも、楠裡はスカートの裾を指示通りに持ち上げた。
そこにあるのは先程まで唯一の服であり、今や不和にしかならぬ下着の褌だ。ずっしりとした重量感のある膨らみ――ではあるが。
「勃起しておるのかも腹と玉に埋もれて分からんのう……ほれ、楠裡、己で申告してみるのじゃ」
「……ぅ……ッ」
「ん? なんじゃ聞こえぬなぁ」
「勃って、る……」
押し殺すような声。平常時と変わらぬように見えるその前袋の中では、彼の逸物は今確かに屹立しているらしい。そう言われて見れば、睾丸の膨らみの天頂あたりに少し褌を持ち上げる突起があるように見えなくもない。
「カッカッカ! なんじゃ、老い肥えた体で女子の装いをして婬悦を感じておるのか?」
「俺は、着たくて着たわけじゃ……」
「なんじゃ、わらわは着てみるか? と問うただけなんじゃがのう……、ほれ、手が下がっておるぞ」
スカートをたくし上げさせたまま、荻尾は褌へと手を伸ばした。
「相変わらず玉だけは立派じゃのう。……玉だけは、のう」
手の上でバウンドさせるように褌の前袋越しに睾丸を弄び、戯れにその突起を突つき、指先で軽く扱き上げる。
「やめ……てく、れ……ッ」
「ほう? 下帯の上から怒張すら分からぬ粗末な雄がわらわに指図か?」
口を引き締め、何かを堪えるように唸り上げる楠裡は、荻尾の言葉にむせび泣くように首を横に振っていた。
「鏡を見るのじゃ、物を頼める甲斐性があるか。呆れる程の変態雌狸にのう?」
「ぁあ、ちが……ぁ、だめ、だ……っ、ああっ出てしま……ッ」
女装した狸が情けない声を上げる。似合わない姿がその時ばかりは妙に様になっている、等と思う荻尾の目の前。鏡の中の雄狸が、布地を突き抜けるような勢いで褌を濡らしていた。
似合わぬ仮装に言葉で辱められた楠裡は、その茎に軽く触れられただけで絶頂を迎えてしまったのだ。
むせ返るような子種の香り。ぼたぼたと粘り気のある白濁が大粒の雫となって床に斑点をいくつも作り出していく。ただの一度の射精で三合瓶を埋めてしまえそうな量に褌一枚では受け止めきれてはいない。
「なんじゃ、もう気を遣ったのか? この魔羅は嵩だけでなく堪え性も矮小じゃのう」
「ふ、ぐ……ぁ……あ」
荻尾がもはや下着の体も為していない褌を手早く解いてやれば、ばちゃり、と濡れた音を響かせて白い布が廃墟の床に落ちる。纏う毛を種汁で汚した狸の雄茎は、それだけ吐き出したにも拘わらず、まだ青い空を見上げていた。
とはいえ、天を突くようにとはとても言えない短さの屹立だ。強いていえば、その太さは見事なものではあったが、むしろその短さを強調している様だ。
更に先端まですっぽりと皮を被ったそれは、見るからに亀頭を曝け出すこともできないのだろうと分かる。実際、なまじ太いばかりに手で剥こうとも皮に引っかかり全てを剥くことすらできない始末なのだ。
「いつ見ても可哀想にも思えてしまうモノじゃ」
しゅるりと、荻尾は自らの褌を解いていた。
「仕方ないからのう、わらわが慰めてやろう」
そう言って、萩尾は綿の飛び出た寝台に乗ると、その足を楠裡に向けて開いてみせた。
みちりと蜜を纏い嫋やかにほころぶ花びらは、肉肉しい濃い桃色に色づいている。その両示指で押し広げられ外気に触れた蜜肉が、雄を誘うようにひくひくと蠢く上方に、包皮に包まれた凸部がその頭を僅かに覗かせている。
淫蕩に侵された楠裡はその光景だけでまたしても絶頂してしまいそうな興奮を覚え、露茎としては荻尾の陰核にすら負ける、太いだけの短小包茎をびくりと脈打たせる。荒く息を吐く情欲を溢れさせる眼差しに荻尾もまた、その甘美な刺激を覚えていた。
「荻尾……」
ぎしりと、二人の重みを支えた寝台が悲鳴を上げる。錆びついたスプリングがいくつか軋みを越えて弾ける音を立てるが、欲を昂らせた二匹の老いた獣は場所を移そうともしなかった。
荻尾の足を抱えた楠裡は、その短い槍の先端をひたりと入り口へと宛がう。
「ほれ、深く突き立てねば、わらわに種付けるより先に溢れてしまうぞ?」
花びらの中心へと頭を差し込んだだけで、蠕動する蜜肉がそれを歓迎する。その快感に低く唸った楠裡が荻尾に誘われるまま、腰を動かそうとした。
その時だった。
『ちょっと、こっち屋上だって』
人間の声がした。それも若い、女の声。
『屋上にも部屋あんの? 丸見えじゃん、変態部屋かよ』
『ね、まじ性欲モンスター。そりゃ人口爆発も不可避って感じ』
会話する男が二人。三人組らしい声が、荻尾と楠裡が上がってきた階段の方から聞こえてくる。
「……っ」
人間がいる。そう体を硬直させ冷や汗を浮かべる楠裡に、萩尾はまるで気にしていないように言う。
「ほれ、腰を振ってわらわのホトを埋め尽くすんじゃよ」
「いや、荻尾、人が……」
そう言いつつも楠裡は、返ってくる言葉を予知していた。荻尾がここで尻尾を巻くような肝をしていないと。
「なに、見せつければよいじゃろう? それとも、わらわの興を削いで向こう十年禁欲でもしようかの?」
「……っ、そん、な」
雄根を絶妙な力加減で締め付け奥へ誘うように襞が絡みついてくる名器に、雄の性脳とでも言うべき陰茎を捕われている楠裡に、その選択肢で後者を選ぶことなど出来はしなかった。
人の世の通信文化は凄まじい。妖狐と妖狸の交合。それも片方は女装をしている姿など、発見されて五分も待たずに世界へ拡散されてしまうだろう。それを分かっていながら、しかし楠裡は交尾をやめられなかった。
「ふっ……ふーッ、は、ぁあ……ッ」
言葉を忘れた獣のように、荻尾の胸の一つにむしゃぶりつき、叩き付けるように荻尾の淫肉に杭を突き立てていく。激しく腰を振るたび、短い雄茎は女陰からすっぽ抜けては、また埋め込まれていく。 ばちゅんっ、ぬちゅん、とその度に打ち付けられ泡立つ淫液が糸を引き、飛び出したベッドの綿を湿らせていく。楠裡と萩尾の両者から溢れる潤滑液はそれ自体が精であるかのように白く濁っていく。
「来る……っぁあ、荻尾……ッ」
抜き出す時は引き止めるように、押し貫く時は締め付けるように。雄を、楠裡を知り尽くした熱肉に楠裡は瞬く間に上り詰めていく。
「ほれ、来るのじゃ……全部吐き出せ、楠裡」
萩尾は混濁の意思を宿す瞳にもうすぐなのだと悟り、楠裡に口吸いをして、最後の誘いを口にした。
『鍵とかかかってないかな』
「ぁあ……っ」
『誰か来てこじ開けてるって』
「わらわも、滾っておる……お前の熱を奥に……」
『うん、開けるよ』
「逝くぞ、呑めよ萩尾……ッ!」
『せーの!』
バンッ!! と扉が開け放たれる音が響く。
「ぁ、ああ……ッ!!」
それと同時に楠裡の体が仰け反り震え上がる。ぐりゅ、と突き上げた包茎の先から荻尾の膣へと大量の白濁が迸る。褌の中で漏らしたそれよりも勢い強く、誇張抜きで萩尾の胎を埋め尽くさんばかりに放たれた奔流に萩尾も体を震わせながら極みへと至っていた。
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「はあ……ふ、ぐ……」
射精後の余韻に気が遠くなりながら、楠裡は恐る恐る、現れた人間達の方を見る。好奇の視線、機械の眼。平穏な日々が遠のいていく確信を得ながらも見つめたその先に。
果たして、人間はいなかった。
いや、そもそも扉は開いてすらいなかった。楠裡が閉めたまま、人のいない廃墟は静寂に包まれている。
「カッカッカッカッ!! 見事な呆け面じゃ、楠裡よ!」
絶頂に至り、艶めかしく色づいた表情で荻尾は笑っていた。
「ほれ、見るのじゃ。お主の子種が腹の奥まで埋め尽くしても溢れてくる。人に見られると思って奮発したのじゃなあ?」
「な、ぅ……まさか……っ」
寝台に溢れていく自分が吐き出した子種汁を眺めながら、楠裡は狐につままれていたのだと気付いた。
幻術だったのだ、あの人間たちの声は。
「あれしき見抜けぬとは、未熟じゃのう、楠裡?」
「か……ぁ……っ」
安堵と小っ恥ずかしさで崩れ落ちた楠裡は、ぶるりと身を震わせる。安堵が主な原因か、途端に強烈な尿意が襲い来たのだ。楠裡は不格好な体で慌てて屋上の縁へと駆け寄っていった。
スカートを捲り、腰を緑豊かな森を見下ろす空へと突き出せば、ここまでよく堪えていたと思うばかりの小水が放たれた。
「ふむ」
と隣に荻尾が立ち、足を開いては同じように森へと雨を降らせるのを、楠裡はふと食い入るように見つめていた。
「なんじゃ、手水が欲しいのか?」
「い、いや……」
誂う口調に、宙に放たれる小水の弧を物欲しげに眺めていた事を楠裡は自覚して赤面した。そのまま、取り繕うようにその半ば復活しかけていた竿をつまみながら、二人並び立って溢れるままにその皮被りの先から眼下の森へと雨を降らせていく。
二人で街に行きたいが、その時は、さぞ誂われるのだろう。そんな嫌な予感をひしひしと感じながら、それでもそれを何処か楽しみにして、楠裡は太短い竿を振り、雫を切った。