11話 イチと催淫害悪フラワー(1) よせあつめ外伝9

  バルティゴ都市国家連邦歴18年4月。

  イチがラプダンジーの塔に挑む少し前の事である。

  ある日魔法使いのシーナ・アハトゼヘルが彼女らの住処としているルーナハイムの居間でくつろいでいる昼過ぎ。

  イチが花を抱えて帰って来た。

  「あら、お花!」

  間食にパウンドケーキと紅茶を楽しんでいたシーナは驚きながら顔を輝かせた。

  イチが女性らしく花を抱えて上機嫌な様子が珍しいのだろう。

  「どうしたんですか? 珍しいじゃないですかお花なんて! イチさんは銃や食べ物にしか興味がないんじゃないかなってシーナ思ってたので、ビックリです! なんだかシーナ安心しました! イチさんにもちゃんと女の子らしい感性があったんだなって思うと……」

  話し出したら止まらないシーナの言葉を聞き流しつつイチは苦笑して答えた。

  「ずいぶんな言い方だな。わたしだって、ちゃんと綺麗なものや可愛いものだって好きなんだぞ」

  普段、そういう姿を見せていないだけなのだろう。

  確かにイチは冒険三昧の生活で、そういう姿はあまり人に見せる機会がない。

  服や下着を選ぶ時にそういう一面も見られるのではあるが。

  「イチちゃんが花なんて珍しいね。男でもできたのかい?」

  シーナと同じく寛いでいたエルビアニカ・サーカッチも珍しそうに花とイチを見比べからかうように言う。

  このエルビアニカは遊び好きで、花と言えば男に渡されるものと決め込んでいる節がある。

  「そんなんじゃないよ。依頼主がくれたみたいなんだ」

  イチは反論しながら花の香りを嗅いだ。

  イチが言うには、万引き犯捕縛の依頼の成功報酬を冒険者ギルド某支部で受け取りに言った際、「過去にイチに依頼を頼んだ依頼者がお礼に置いて行った」とギルドの職員であるハーフエルフの受付ヴィードリッドが預かったものらしい。

  花をもらうことなどなかったので驚きながらも喜び持って帰ることにしたとのことだった。

  「花も悪くないもんだな。けど、花なんて育てたことないからなあ」

  イチは愛でるように花の花弁を指で撫でた。

  枯らしてしまわないかが不安らしい。

  なにしろ花など世話したことがない。

  

  「シーナにお任せください! おばあ様はガーデニングが趣味だったのです! シーナのお屋敷のお庭にはですね、おばあ様が作らせた温室に、それはもう色とりどりの可愛らしいお花が咲いていて、シーナは温室に入るたびにうっとりと花の匂いを………」

  シーナの騒がしいお喋りをいちいち書き出していたらすぐにページが埋まってしまうので結果を書くが、シーナはイチが抱えている赤くて大きな花をアンスリウムの一種だと判断した。

  南の国で生まれた花なので土が乾いたらたっぷりと水を与え葉には毎日霧吹きで水をかけてやると良いというようなことを言った。

  イチはシーナに感謝し自分の部屋の窓際に鉢植えを飾った。

  なるほど、自分の部屋に新しい色が入ると心が和むのだろう。

  「ふふふ。なんだか心が安らぐなあ。これからよろしく頼むよ、マッカー」

  イチは赤い花にマッカーと名前をつけて茎を指でつついて微笑んだ。真っ赤な花だからマッカーとはネーミングセンスのない少女である。

  「霧吹きを買ってこなくちゃな」

  そう言うと今日はもう外出する気が無いのか部屋着に着替えた。

  この花がイチを思わぬ状況に追い込む事になるとはイチはまだ知らない。

  ◆

  その日イチは夢を見た。

  花畑で良い気持ちで寝込んでいる夢だ。

  日差しは暖かで、可愛らしい花々がクッションのように身体を包んでくれるので身体がとても心地よい。

  夢だからイチは普段なら着る事はない石材文明風の白い身体に巻き付けるドレスに身を包み、ただ心地よい時間を過ごしていた。

  そこに蛇がやってくる。

  驚いたイチは追い払おうと身を起こす。

  しかしどうやら蛇は優しい蛇で、花の蜜の溜まった瓶を背中に乗っけていてそれをイチに飲んで欲しいような様子を見せた。

  夢の中だからかイチは深く考えずその蜜を口に含んだ。

  蜜はとても美味しく、身体に染みるような優しい甘さが口に広がる。

  陽の暖かさ、心地よい花のベッド、優しい蛇と美味しい蜜。

  イチは夢の中で至福の時を過ごした。

  ◆

  次の日、昨夜も町で遊び歩いたエルビアニカが昼前に2階の寝室から降りると霧吹きに水を入れているイチを見た。

  心なしかいつもより顔色が艶めいて見える。

  手にしている霧吹きは朝早く近くの花屋で買って来たものだろう。

  「花ってのはいいもんだな。なんだか昨日はいつもより良く眠れたよ」

  イチはエルビアニカに気が付くと上機嫌に言った。

  心なしか顔色も昨日より艶めいて見える。

  「花も良いけど男を作ったほうが良いよ。イチちゃんくらいの歳で楽しまないとどうするんだい?」

  悪意はないのだろうがエルビアニカの軽口を聞いたイチは少しムッとして、

  「余計なお世話だ! 私は花と冒険があれば満足だ」

  そう言って二階の自室に戻ってしまった。

  「やれやれ。あの子も初心だねえ」

  そう言うエルビアニカは昨晩、男と楽しんだかと言えばそうではない。

  彼女に言わせればまだ意中の男と駆け引きをしている最中なのだろう。

  そう言えば、ルーナハイムにはイチとエルビアニカ以外はいないらしい。

  もともと冒険の為にパーティを君で旅に出ているメイメイ、ヘルヒャン、ミュルガルデ、イルハは別として、シーナもしばらくスウィートバウムを離れると言っていた事を思い出した。

  ____これでイチちゃんが冒険にでも行ってれば、男のひとりふたり連れ込めるんだけどねえ。

  濡れ事を楽しみたい時期なのだろう。

  エルビアニカは栓なき事を思いながら二日酔いの頭で淫らな妄想に耽るのであった。

  ◆

  ある日の晩、イチは奇妙な夢を見た。

  白いドレスを着て花畑で気持ちよく寝そべっている夢と言うのは変わらない。

  そこにやはり蛇が現れる。

  イチは驚くことなく蛇が近づくのを許した。

  しかし今度の蛇は優しい蛇ではなかった。

  「____んっ、くッ!」

  なんと蛇はイチの身体に巻き付きはじめた。

  「な、なにを____」

  驚き抵抗しようとするイチだが、夢の中では身体に思うように力が入らない。

  蛇はそんなイチの身体を愛撫するように這いまわる。

  「____くっ、、、あっ、、、」

  薄いドレスを着ているせいか蛇の蛇腹が敏感な部分を這うたびに妙な刺激を感じ吐息が漏れる。

  普段のイチにはないことだが、その感覚に心地よさを感じてしまい強く抵抗しようという気になれない。

  「____あぁぁ、、、。や、やめろ………」

  イチは気が付くと身体を這いまわる蛇に身体を許しつつあった。

  昂る妙な感覚をもっと求めてしまっているようだ。

  胴体に巻き付き乳房を締め付け、食い込むように股の間を締め付ける蛇。

  痛みは感じず、痺れるような甘ささえ感じていた。

  「う………………あ………………♡」

  思わず開いた口から甘い喘ぎが漏れる。

  蛇の首に巻き付き、イチの開いた口元に頭を近づけチロチロと下を出した。

  イチは蛇が何を狙っているのかわかっていても、何故か抵抗ができない。

  「ん………………んんぅ………………♡」

  そして蛇はイチの唾液を纏いながらピンクの粘膜に覆われた口の中に………………。

  「________っ!?」

  

  というところで起きた。

  目覚めたイチはかけていたブランケットが汗まみれで、不自然なまでに身体が熱くなっている事に気が付いた。

  呼吸も荒く、はじめ熱でも出たかと思ったが病の気配はない。

  混乱しながらイチは下着に違和感を感じ闇の中で確かめる為に手を伸ばした。

  ____?

  どういうわけか下着が濡れていた。

  生理が始まったかと思ったが、違う。

  また別の理由で濡れているようだ。

  ____これは、いったい………………。

  イチは自分の身体に起きた原因不明の現象に戸惑いつつも、確かに自分の心に妙な昂りが起きている事に気が付き始めている。

  ふと窓際を見ると、マッカーと名付けた赤い花は前よりも大きく強かに育っているようだった。