9話 イチの右手が変態に? バルティゴ鉄道乗っ取り事件

  バルティゴ都市国家連邦歴18年11月17日水の日。

  「さて、無駄話をしていたらなんだか身体が冷えてきたな。どれ、ちょっと暖を取らせてもらおうか。まさか断るまいな?」

  レールに噛みつきながら走る蒸気機関車セダッセン号の揺れる二等車客室の中、イチの右手を乗っ取ったテオドール・ミッドリービッヒは嫌らしい笑みを浮かべると勝手にイチの服の中に潜り込み柔らかな脂肪の間に挟まって身体を休めた。

  _____くそ! なんて破廉恥なところに潜り込んでやがる!

  イチは自分の右手が意志に反し自分の素肌を弄ぶ感覚に激しい怒りと嫌悪感を感じ顔をゆがめたが、ただただ唇を噛みしめ耐えるしかなかった。

  「_____!」

  突然、イチの身体がヒクっと僅かに跳ねた。

  「大丈夫ですか?」

  普段やかましく口数が多すぎるシーナも、この時ばかりは事態の異様さに言葉を失っていた。なにしろイチの右手は今や完全にコントロールを奪われ、次の瞬間にはシーナの喉元にナイフを突き刺す事さえ考え得る。

  「この野郎、妙なところを、いじくりまわしてやがる」

  どうやら服の中に潜り込んだ右手のテオドールが困った部分に妙な悪さをしているらしく、怒りのせいもあってイチの顔は紅潮している。

  その様子を訳を知らぬものが見れば、列車の客室で妙な行為に耽るいやらしい女だと思うかもしれない。しかし、これにはちゃんと理由がある。

  状況の奇妙さから正確に事態を伝えられるか疑問ではあるが、現在イチの右手にはテオドールという男が魔法によって寄生し、彼女の右手をジャックし好き勝手にしているのだ。

  右腕から髪を目が隠れるまで伸ばした20代後半と見られる男の上半身が生えているその姿は異様でグロテスクである。

  その右腕のテオドールはイチとシーナが効果的な抵抗が出来ない事を良い事に、公衆の面前である列車内であるにも関わらず破廉恥な嫌がらせを仕掛けているのだ。

  このテオドール・ミッドリービッヒこそ今回イチたちが捕らえた賞金首であり、今はイチたちにとって大きな脅威となっている。

  そしてイチ達が乗車している蒸気機関車セダッセン号が今回のエピソードの舞台となる。

  本小説は歴史小説なのでネタバレも糞もないと筆者は思っているので敢えて先の展開を明示すると、イチの右腕は乗っ取られ、更に蒸気機関車セダッセン号もとある連中に乗っ取られ歴史上初の鉄道ジャック事件が起きてしまう。

  その結末は今の時代であれば携帯端末などで調べればすぐわかるとは思うが、冒険者イチにとってある種決定的な事件となるのでバルティゴ都市国家連邦の歴史、そして冒険者イチの歴史の1ページとして書かないわけにはいかなかった。

  事件は、イチ達がテオドール・ミッドリービッヒを捕らえスウィートバウムに戻るための列車に乗り込んだところから始まったとして書いていこうと思う。

  共和歴76年3月15日。

  クルツカ・ハイド