5話 イチ敗北 スーパー尿路結石の激痛 スウィートバウム少女石化事件14

  地下に降りた階段の先には両開きの扉があり、この扉は石で作られた妖精のレリーフで飾られていてパーカス邸の他のどの扉とも違った妖気を漂わせていた。

  イチは生唾をゴクリと飲み込むと、吸い寄せられるようにして扉に手をかけた。

  不運と言えるであろうが、この時扉には鍵がかかっておらず抵抗なく開いてしまったのである。

  暗闇の中、イチは冷たい匂いを感じた。

  冷たい匂い、というと奇妙だがそれは石の臭いだったのかもしれない。

  先に広がっている闇を蝋燭で照らすと、天井から吊るされたマナライトのシャンデリアが見つかったので紐を引いて明かりを灯した。

  「____うっ」

  そこでイチが見たのは恐ろしい光景だった。

  長方形の地下室はまるでミュージアムのように少女達の石像が並べられ、どの石像も苦痛や恐怖、それ以外の生理的な感情のため表情を歪ませている。

  どの少女も丸裸ではなく、灰色をした石の身体の上にそれぞれ色とりどりの下着であったり、露出の高いドレスであったりを着させられている。

  そしてそのどれもが煽情的であったり、身体を広げて他者を受けいれようとしている格好で固められていた。

  そしてイチは気が付いた。

  その少女像のいくつかに値札や、売約済みの札がかけられているのだ。

  ____これは……、こんな………!

  イチはその石像を作った者の卑劣で邪悪な意図を理解し吐き気さえ催した。そして胸焼けするほどの嫌悪感に激しい怒りを覚え、血の気さえ引いた。

  ____商品にしているのか、こんなものを!

  そしてイチが並べられた石像の中に、依頼書にあったフェーンの特徴を持った石像を確かに見た瞬間である。

  刹那、背後に僅かな呼気の気配を感じイチは咄嗟に内腿のベルトに挿したファンクル17式護身拳銃を身をひねりながら左手で抜き、背後に軍鶏の仮面をつけたトカゲ人族の怪人を見ると考えるよりも先にその引き金を引いた。

  瞬時に薬室で火薬が燃焼し、殺傷能力の高いファンクル特殊弾が怪人の眉間を貫こうと発射された。

  「っぐう!」

  しかしながら怪人は呻きながらも眉間の前に指ぬきの皮手袋をはめた手のひらをかざし、銃弾を受け止めた。

  本来であればファンクル特殊弾は怪人の手ごとその脳天を貫いていただろう。

  しかし怪人は瞬時に魔法を発動し、皮手袋を石に変化させると銃弾を弾いてしまったのだ。

  「____!?」

  必殺と思われた一撃を防がれたイチだが疾風よりも速くもう一丁のファンクルを抜き、そのまま今度は手で弾かれぬよう怪人の心臓に押し当てるようにして発砲を試みた。

  が、怪人はイチが引き金を引くよりも速くファンクル17式をつかむとマナを集中させその金属と木でできた塊を完全な石製に変えてしまい、激発を不可能にした。

  「____石だと!」

  イチは石化したファンクルから手を放し床に落とすと、目の前の怪人を蹴り上げようと太ももを上げ、ヒールの踵を敵に叩きつけようとしたが、敵の動作のほうが数瞬も速かった。

  軍鶏の仮面をつけたトカゲ人族の怪人、バジリールはイチが蹴りを放とうと膝を曲げるよりも早くイチの肋骨の下あたりを手のひらで押した。

  「________っ!!!!!!」

  その瞬間イチは未だかつて味わったことのない激痛に襲われて戦いの最中だというのに膝から崩れた。

  呼吸ができないほどの激痛に、イチの脳はフリーズし、全ての思考が空白となった。

  背中からまるで臓器を内側から削られるような痛みに、イチは悲鳴をあげる事すらできず顔を青くして脂汗を流している。

  「知っているか? 腎臓に石ができるとな、この世で最大級の痛みを味わうんだとよ」

  「____!? ____!!」

  バジリールは痛みで身体の力を失ったイチの首に手をかけるとそのまま宙づりになるよう片腕でイチを持ち上げた。

  「大の男でも耐えられない痛みだ。それが、腎臓から尿道までまるごと石になったら、想像もしたくないね」

  「____はっ____はっ____ぅ____」

  「なるほど。良い素材だ。せいぜい楽しませてもらおう」

  バジリールは宙づりになったイチがなんとか蹴りをくりだし抵抗しようとする気配を感じると、イチを宙づりにしたまま壁際まで走り、何度も彼女を片手で壁に叩きつけ抵抗力を奪った。その様はまるで動物のトカゲが咥えた獲物の体力を奪おうと振り回す姿に似ている。

  「____うあっ、____げっ、____ぐっ………」

  「銃捌きは大したものだったが、関係ない。自分の迂闊さを呪え」

  やがてイチは白目を剥いて気を失い、ダランと四肢を弛緩させバジリールの手の中で無力化された。

  「一区切り前の最後の仕事だ。たっぷり楽しませてもらうぞ」

  バジリールは右手の力を緩め意識を失ったイチを地面に落とすと、仮面の奥で凄絶な笑みを浮かべるのであった。