3話 イチの逆襲 ブラとパンツは武器になる パーティを追放(以下略)16

  カーンは二人の手下を伴ってイチ達を探すために屋敷の外へ出た。

  皆それぞれ拳銃で武装し、カンテラを手に林を照らしている。

  「キーン、眼は大丈夫か」

  カーンは右目を失った男の身を案じた。

  彼はカーンの弟で、二人そろって旧魔王領で傭兵をしていた事がある。

  「ああ、あの餓鬼ども。じわじわなぶり殺しにしてやる」

  「その意気だ。両目を抉り取って、その後目いっぱい可愛がってやろう」

  カーンらは凡百の山賊ではあるが、決して戦いに慣れていないわけではない。

  カーンは事実、旧魔王領の内戦を戦い、何人もの敵をその手で殺めてきた。もうひとりの仲間であるケンファイもカーン兄弟ほどでないにしろそれなりに修羅場は抜けてきたのだろう。

  それを考えると、この凶暴な男達を自分の下に従えて、最低限大人しくさせていたラッチェという女は中々の傑物だったかも知れないが、それは余談。

  「血の跡だ。あのハーフエルフの餓鬼を連れてそう早くは走れん。行くぞ」

  カーンはカンテラの灯で土に残ったイチの血痕を見つけると、それを頼りに走り出す。

  「『針の森』を思い出すなぁ、キーン」

  「ああ。あの時は森に追い込んだ獣人を探し出して、ひとりひとり耳や鼻を切り取って首飾りを作ったな」

  「すぐに腐って捨てちまったけどな」

  カーンらは過去にもこのような状況で手負いの獣人を追い詰め散々に弄んだ末に処刑した経験がある。

  カーンは優れた傭兵であり、森の些細な変化で敵の逃げた位置を割り出す事ができた。

  ____歩幅が小さくなってる。近いな。

  カーンは地面に残るイチ達の足跡に変化を見つけると、イチ達がそう遠くない場所に潜んでいるのを見つけて仲間に手でサインを出し自分たちの周囲を警戒させた。

  しかしカーンはイチ達が空手である事に慢心し、彼女たちを探そうとするあまりカンテラの灯を消さないままでいた。

  それが彼らの敗因となった。

  「いっ! ____なんだこりゃ!」

  ケンファイの頭に何か固い物がぶつけられ、彼は苦痛に呻いた。

  どうやらそれは石礫のようで、ケンファイが灯を向けた先に、石を抱えたタオ・メイメイを発見した。

  「馬鹿が! 石で銃に勝てると思ったか」

  現代の野球選手であればともかく、タオ・メイメイは小さなハーフエルフである。投石は古来から人類に与えられた最初の武器であるが、大人の人族を倒しきるにはとてもではないが威力が足りない。

  「死ね!」

  逆上したケンファイがタオ・メイメイを撃ち殺そうと銃口を向けた瞬間である。

  ブーーーーーーーン、と鈍い音が鳴り響くと同時に、カーン達に向かって何か固く重い物が空気を裂いて飛来し、ケンファイの脳天を直撃した。

  「あっ________!」

  ケンファイが頭を割られて倒れたのを見て慌てたキーンの側頭部にも一瞬遅れて何か破壊的な質量を込められた物体が飛来する。

  それは靴だった。

  メイメイとは別の場所に身を潜めていたイチは靴の中に石や砂を詰め、靴紐で口を縛り、残った紐をグリップにして即席の投擲ハンマーを作るとそれを振り回しながら遠心力の力を使い投げたのだ。

  遠心力とイチの投擲能力で放たれたそれは、貫通力こそないが拳銃弾並みの衝撃力を発揮する。

  即死こそ免れたものの、キーンもケンファイも再び起き上がるには時間を要するだろう。

  「メス餓鬼ども!」

  カーンは身を低くしてタオ・メイメイに向かって駆け出し突進をしかけた。

  タオ・メイメイは必死に石を投げつけてカーンを退けようとするが、カーンはものともせずメイメイに迫る。

  カーンは逆上しながらも冷静に、この靴のハンマーは2回しか使えない事を計算していた。

  であれば再び逃がして新しい武器を作らせる前に、メイメイを捕まえて人質にしたほうが良いと判断したのだろう。

  ひとり捕まえれば、時間を稼いで仲間が立ち上がるのを待っても良いし、イチの目の前でメイメイを痛めつけてイチを投降させる事もできるだろう。

  「きゃあああああ!」

  メイメイはカーンの強烈な体当たりをくらい、そのままの勢いで地面に倒された。カーンはそのままメイメイの首を己の脚で踏みつけると、銃を構えて叫ぶ。

  「靴にそんな使い方があったとは恐れ入ったぜ!だが人間の脚は2本しかねえからなあ!それともこの小娘と同じに石でも投げて遊ぶか!?」

  カーンが靴でメイメイの首を踏んで圧力をかけると、メイメイは顔を鬱血させ潰されたヒキガエルのように苦しそうに呻いた。呼吸がままならないのだろう。

  「俺がその気になればこのままこの餓鬼の首の骨を踏み折って殺す事もできる!それとも自分だけ生き残ってここから逃げるか?それもいいだろう!」

  カーンは森を震わせるような声でイチを挑発するが、イチの姿は見えない。返事すら返ってこない。

  カーンはいよいよ頭に血が上り、まずタオ・メイメイの首の骨を折ってからイチを探す事に決めた。

  「そうか! そんなに仲間が死ぬところが見たいか! それならそうしてやらあ________!」

  カーンの足の舌でメイメイは目を見開き苦しみに喘いでいる。

  「ぎゃ____げっ____」

  カーンが足に力を集中させメイメイの細い首を踏み折ろうとした瞬間、茂みを揺らしてイチが現れた。

  カーンは冷静に慌てる事無く銃口をイチに向け引き金を引こうと指に力を込めたが、カーンが見たのはイチが何か紐のような物を振り回している姿だった。

  「死ね!」

  銃声。

  銃声より数拍早いタイミングでイチの手から何か紐のような物が離れ、それは空気を切り裂いてカーンの顔面を捉えた。

  「________ぎゃ!!」

  銃弾はイチの身体をかすめるだけで傷つける事はなく、カーンはのけぞり森の土に倒れた。

  倒れたカーンの顔面の近くに、瑠璃色の布で作られた紐が落ちている。

  「ヘルメェスの下着は、確かに丈夫だな。メイメイも大きくなったらあそこで買うと良い」

  「____けほッ、____げほっ、____よ、余計なお世話よ!」

  カーンのから解放されて呼吸を取り戻したメイメイは首を抑えながら咳き込んでいる。

  茂みから出て来たイチは気絶したカーンの傍に落ちている紐を手に取って回収した。

  それは下着の上下を繋ぎ合わせて作った即席の投石器であった。濡れたショーツを袋に見立てて石を詰め、ブラを上手く加工して一本の丈夫な紐とグリップにした。

  それは遠心力とイチの投擲術により立派な凶器に生まれ変わったのである。

  「あんた、どこでこんな技を身に着けたのよ」

  「リャンの従者をやってる時にな、裸で山の中に放置された事があってな、その時さ」

  「________あっそ」

  「喋ってる暇はない。こいつらが起きる前に、無力化しちまおう」

  カーン達は森の中で敗れ沈黙した。

  武器を何一つ持っていなかったはずのイチとメイメイに。

  これは、メイメイの勇気とイチの知恵が産んだ戦果と言えるだろう。

  二人の知恵と勇気が窮地を凌いだのである。