14.疲れたんだ…

  「……落ち着いたか…?」

  あれから、どのくらい喚いていたんだろう。

  泣き叫び疲れて大人しくなった俺に、涼介さんが心配そうに聞く。

  「……」

  応えない俺を責めることもなく、涼介さんは優しく俺の頭を撫でると、部屋を出ていった。

  「………」

  ベッドに身体を倒し、ぼんやりと天井を見つめ、瞬きを繰り返す。

  もう考えることを辞めたい。

  何もかも、無かったことにしてしまいたい。

  そう思うくらい、追い詰められていた。

  別に誰も責めていないのに。

  それでも、そのくらい受け入れきれない現実だった。

  暫くそうしていると、部屋に控えめなノックの音が響いた。

  「……たか、、今、平気?」

  心配そうな声。

  涼介さんと同じ。

  心配ばかりかけて、申し訳ないと少し思う。

  ゆっくりと視線を向ければ、そこにいたのは翔だった。

  「……なんで、いるの」

  俺の言葉に、翔は部屋に入ってくるとベッドに腰かける。

  「院長から外出許可もらって、心配だから様子見に来たんだ…」

  「…別に…」

  わざわざ来てくれなくてもいいのに

  言いかけた言葉は辛うじて飲み込んだ。

  「…ありがと…」

  重すぎる身体をゆっくり起こし、リビングに出る。

  コップにお湯を注いでいた涼介さんに砂糖の数を聞かれて6と答えた。

  翔が来てるということは、燈李さんも来ているということで…

  「…おう、邪魔してる。

  大丈夫か」

  何がなんて誰も言わないけど、俺もその言葉が指す内容を理解してる。

  「…どうも

  ……」

  言葉の代わりに肩を竦めて、俺は涼介さんが出してくれたカフェオレに口をつけた。

  甘すぎるはずのカフェオレの味は、分からなかった。

  「…たか…あのね、」

  皆それぞれ出された飲み物を飲んで、少しの間が空いた時、翔が口を開いた。

  俺は手元のカフェオレを見つめたまま、翔の声を聞いていた。

  「…俺たちに出来ることがあったら言って欲しい。

  力になれるかは分からないけど、気持ちだけでも寄り添いたいから。

  何より…これ以上たかに苦しんで欲しくない。

  協力するよ。だから…」

  ガチャン!

  俺がコップを床に叩きつけたことで、翔は言葉を呑み込む。

  「……綺麗事ばっか言ってんじゃねぇよ…」

  吐き出した声は、酷く弱々しくて、疲れて聞こえた。

  自分でさえ。

  でも、事実疲れてるんだ。

  全てに…。

  お願いだからほっといてくれよ。

  助けも救いも、奇跡もいらないから。

  もう期待しないから。

  記憶が戻るとか、俺のこと思い出すとか、せめて記憶の欠片ぐらいとか。

  もう思わないから。

  だからさ…

  これ以上俺の心を壊さないで。

  俺の心に触れないでくれ…。

  踏み込んでこないで……。

  「…帰って…」

  俺は2人にそれだけ言うと、自室に戻り、扉を閉めた。

  扉に寄りかかり、そのままズルズルと座り込む。

  膝に顔を埋めながら、涙も出なくなったことに自嘲した。

  どうしたらいいのか分からない。

  こんなに荒れていたら、千秋さんに会っても上手く平気なフリが出来ないだろう。

  落ち着くまで、千秋さんから離れた方がいいと思った。

  寂しいけど、そんなの千秋さんが昏睡状態になってからずっとだし。

  この胸の苦しさが罪悪感かどうかさえ分からないし。

  ただ、求めるのは一つだけ。

  他の誰でもない、貴方のぬくもり。

  続く