憂鬱人間、狼少女を拾う。

  尊「おーおー今日も来たか」

  子供の狼に餌を与える。

  尊「親はいないんか?」

  毎日決まった時間に私の家に来る。

  私は山奥で一人暮らしをしている。

  尊「美味いか?・・・そーかそーか」

  人里に出ても嫌な事しかないのでこの時間が唯一の救いだ。

  数日後

  「居たか?」

  「どこだ」

  猟銃を持った男性数人が何かを探している。

  狼「きゃうん」

  尊「っ!隠れろ!」

  家に引き摺り込み押し入れに隠す。

  「すみませーん!子供の狼を見ませんでしたか?」

  尊「狼?見てませんが・・・どうかされましたか?」

  「最近狼が増えて来て・・・減らしてるんですよ」

  たかが一匹狼の為に大人数人で?

  尊「減らすのは人間だろ・・・」

  「ん?何か言いました?」

  尊「何も」

  男性を見送り狼を見る。

  尊「おーいだいじょぶかー」

  押し入れを開けるとそこには・・・

  少女「えっと・・・何か着る物を」

  裸の少女が押し入れに入っていた。

  尊「・・・狼は?」

  少女「あの・・・私です」

  尊「ふぅー・・・」

  無言で押し入れを閉める。

  少女「えっあっなんで?」

  再び開けるとそこには・・・

  少女「なんで閉めたんですか!?」

  尊「狼は?」

  少女「私です」

  尊「今まで一緒に居たのも?」

  少女「私です」

  私は人間の少女を養っていたそうだ。

  尊「人間は嫌い、帰って」

  少女「その・・・親狼が殺されて」

  尊「狼ではあるの?」

  少女「はい」

  尊「んー・・・」

  期待の眼差しで見つめてくる。

  少女「だめ・・・ですか?」

  あの狼が餌をねだる素振りを思い出してしまう。

  尊「ぐっ・・・少しだけよ」

  衣服を投げ付け食事の用意をする。

  少女「今日のご飯は何ですか?」

  尊「鹿鍋」

  少女「生ではないんですね」

  尊「お腹壊す」

  少女「人間って不備・・・」

  尊「貴方も今はそうでしょ」

  少女「あっそうだ名前」

  尊「ん?私は尊」

  そういえば名前を付けていなかった。

  少女「私は狼火(ろうか)です」

  尊「狼火ね」

  鍋を取り分け狼火に渡す。

  狼火「あちっ!・・・あちっ!・・・あちっ!」

  尊「馬鹿?」

  狼火「この姿だと辛辣じゃないですか!?」

  尊「人間の見た目だとどうにもね」

  狼火「何で人間が嫌いなんですか?」

  尊「あいつらみんな自分勝手」

  狼火「尊さんは?」

  尊「そんなの・・・当たり前でしょ」

  狼火「私は尊さんが大好きです」

  尊「餌付けしてくれるから?」

  狼火「違います・・・優しくしてくれるからです」

  尊「やめて!」

  手に持っていた食器を落としてしまう。

  狼火「・・・え?」

  尊「私は優しくなんかない!次変な事言ったら追い出すよ!」

  行き場の無い怒りが狼火を襲う。

  狼火「ごめん・・・なさい」

  手が震えている。

  尊「ごめん・・・暫く1人にして」

  その場から急いで離れる。

  布団を敷き毛布に潜る。

  尊「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・」

  そのまま涙を流しながら眠る。

  尊「仕事!・・・行かなくて良いんだった」

  狼火「尊さん?起きました?」

  毛布の中に狼火が入り込んでいる。

  尊「えっ?なんで・・・てか指!」

  指にはおびただしい切り傷がある。

  狼火「昨日尊さんが落としたお皿割れちゃってたので・・・拾ったらこうなりました」

  尊「放っといても私やるって・・・」

  狼火「ここでお世話になるんですから、これぐらいの事は当然です」

  誇らしげに胸を張る。

  尊「・・・住む気?」

  狼火「はい!私は子狼です、1匹では狩りも出来ません」

  尊「ならせめて狼に戻ってよ」

  狼火「それは出来ません」

  尊「なんで・・・」

  狼火「尊さんと同じ姿だからです」

  尊「・・・ご飯にするよ」

  狼火「用意してあります!」

  再び誇らしげに胸を張る。

  尊「味噌汁、ご飯、魚・・・完璧かよ」

  狼火「尊さんには美味しい物を食べて欲しいですから」

  尊「私の食生活知らないでしょ」

  誰かに知られるはずもない。

  狼火「良く分からない豆みたいなのを食べては吐いてました」

  辛くなった時にしたOD、見られてた?

  尊「勝手に見ないでよ」

  狼火「でも・・・」

  尊「でもじゃない!」

  狼火の目に涙が溜まる。

  尊「私の事なんも知らない癖に・・・口出さないでよ!」

  狼火「尊さん?」

  尊「死ね!死ね!・・・人間なんてみんな死んじゃえ!・・・ぐすっ」

  壁に頭を打ち付けながら叫ぶ。

  狼火「尊さん!止めてください!」

  狼火に抑えられ更に叫ぶ。

  尊「離して!私は死ななきゃ駄目なの!」

  子狼の癖に力が強い。

  狼火「死ななきゃいけない理由なんて誰にもありません!・・・私の仲間だってそうですよ?」

  私よりも狼火の方が泣いている。

  尊「あんたのせいだ・・・あんたが来たから・・・私死ねなかった」

  弱った狼が家に来たのが始まりだった。

  毎日餌を貰い、遊んでは帰る。

  その狼は私の心が弱っている日は決まって帰る時間が遅かった。

  そのせいで生きたいと思ってしまった。

  尊「どうせあんたも私を笑うでしょ?」

  狼火「笑いません!・・・尊さんは立派です!」

  尊「全部諦めたのに?」

  狼火「頑張った事実があります」

  尊「中途半端で失敗ばっかで・・・邪魔にしかならないのに?」

  狼火「どれだけ失敗しても次があります」

  尊「・・・なんで狼に説教されてんだ私」

  頭が痛い。

  狼火「ほら、ご飯食べましょ」

  尊「うん」

  とっくに朝食は冷めていた。

  尊「ねぇ、そういえばさ」

  狼火「なんですか?」

  女の子に言って良いのかなこれ。

  尊「・・・臭い」

  急いで自分の匂いを嗅ぎ始める。

  狼火「・・・ほんとだ」

  尊「気付かなかったの?」

  狼火「慣れてたので」

  尊「お風呂入ろっか」

  井戸で水を汲みお風呂を沸かす。

  狼火「?・・・」

  尊「はい石鹸、これで体洗って」

  狼火「分かりません!やってください!」

  桶にお湯を入れ狼火に掛ける。

  狼火「あつ!」

  尊「はいはい我慢」

  体を洗い終えお湯に入れる。

  狼火「あつ・・・熱いです!」

  尊「ちょっと寄って」

  狼火をずらし私も入る。

  尊「はぁ・・・死にた・・・」

  狼火「尊さん!」

  尊「っ・・・ごめん」

  狼火「しっかりしてください、尊さんは私と添い遂げるんですから」

  尊「うん・・・え?」

  狼火「言ってたじゃないですか!「ずっと一緒だからね」・・・って!」

  尊「あれは狼だったから!人の姿になるとは思わないでしょ!?」

  狼火「約束は守って貰います」

  尊「勘弁してよ・・・」

  体を拭き服を着る。

  狼火「お昼どうします?」

  尊「私いいよ、1人で適当に食べて」

  狼火「用事ですか?」

  尊「いや・・・食欲無い」

  狼火「朝はあんなに食べたのにですか?」

  尊「作って貰って悪いけど明日からあんな多くなくていい」

  狼火「そんなぁー!」

  尊「てか、添い遂げるなんて言葉どこで覚えたの?」

  狼火「村のお婆ちゃんが教えてくれました」

  尊「村・・・かなり離れてるよ?」

  ここから歩いて2時間程の所だ。

  狼火「尊さんが寝てる間に行って来ました」

  尊「狼ってバレない様にね?」

  狼火「まっかせてください!」

  尊「はぁ・・・まいいや」

  狼火「あ、そういえばお婆ちゃんにここから来た事を話したら驚いてました」

  尊「まあ私嫌われてるからね」

  狼火「いえ、ここに人が住んでると思ってなかったそうです」

  尊「・・・え?」

  狼火「幽霊屋敷って言われてました」

  尊「狼火が来なかったら事実になってたよ」

  狼火「やめて」

  尊「はは・・・冗談」

  乾いた笑いが自然と出る。

  狼火「もー!」

  尊「後添い遂げる気は無い」

  狼火「え!?」

  尊「狼の寿命って長くて15年でしょ?」

  狼火「私は頑張れます!」

  尊「早く死んでも後追ってあげる」

  狼火「それはやめてください」

  尊「私は仕事行くから、お昼なんかあるの食べてて」

  狼火「お仕事!?私も行きます!」

  無理矢理狩りに着いて来た。

  狼火「すんすん・・・こっちです」

  尊「便利な鼻・・・」

  狼火「尊さんならどこに居ても駆け付けられます」

  尊「それはやだ」

  猟銃を構え狙いを定める。

  尊「狼火、耳塞いでて」

  狼火「え?」

  弾丸が鹿の胴体を貫通する。

  狼火「耳・・・キーンって」

  尊「ごめんごめん」

  狼火「え?そのまま運ぶんですか?」

  尊「荷車とか無いし」

  狼火が急に鼻を大きく鳴らす。

  狼火「何か来ます!」

  尊「狼、速・・・」

  狙いが定まらず足が噛まれる。

  狼火「尊さん!」

  狼「ゔるる!」

  鹿の臭いが付いた私を押し倒す。

  尊「逃げて」

  何とか銃を狼に向けるが引き金に指が届かない。

  狼火「尊さんから離れろ」

  狼を睨みつける。

  狼「きゃん」

  さっきの様子とは打って変わって逃げる。

  尊「・・・ありがと」

  また死に損なった。

  狼火「帰りましょう」

  差し出された手を引っ張り起き上がる。

  尊「今日も夕飯は鹿鍋ね」

  狼火「はい!」

  2人で鹿を持ち家に帰る。

  ?「すみませーん」

  鹿の解体中、思わぬ来客が来る。

  狼火「あっ私出ます」

  荻「私、猟友会の荻と申します」

  尊「猟友会・・・」

  会話を聞くと何やら不穏だ。

  荻「先日狼の群れを狩っていたんですが、子供の狼が1匹逃げてしまって・・・何か知りませんか?」

  狼火「えーと・・・」

  尊「知らないです帰ってください」

  荻「・・・貴方は?」

  尊「狼なんて見てません、それに・・・」

  荻「服が汚れてますね」

  尊「っ?これは鹿を解体してたから・・・」

  荻「もしや狼を匿ってます?」

  尊「話が飛躍してます、何なんですか」

  荻「相変わらず冷たいですね」

  1枚の名刺を渡される。

  狼火「株式会社?」

  私が以前働いていた会社の名刺。

  荻「いやー驚きましたよ、まさかこんな山奥に住んでいるとは」

  狼火の目付きが変わる。

  狼火「尊さんとどういう関係ですか?」

  狼に向けた物と同じ目で荻を睨みつける。

  荻「怖い怖い、まるで獣ですよ」

  尊「帰って」

  体を押し外に出そうとする。

  荻「それは出来ません」

  私の背中に手を回し耳元に顔を近付ける。

  尊「いい加減に・・・」

  荻「尊さんが好きだから」

  狼火「は?・・・え?」

  好き?・・・え?

  好きって何?

  尊「ふざけないで」

  荻「ふざけてません・・・仕事が出来て顔もスタイルも良くそれでいて優しく・・・」

  あ、やばい。

  尊「黙れ偽善者!お前っ・・・お前のせいで・・・」

  尊さんが怒り切れずに迷っている。

  荻「まだ私が怖いですか?」

  しゃがみ込んだ尊さんに合わせて屈む。

  尊「ちが・・・帰れぇ」

  荻「私と一緒に暮らしましょう?そしたら辛い思いしなくても・・・」

  狼火「帰ってください!」

  荻「またその目・・・嫌いなんですよ貴方」

  狼火「私も貴方が嫌いです」

  尊「狼火?」

  狼火「私は尊さんが好きです!それを見ず知らずの人間に・・・」

  荻「黙ってください」

  背中の猟銃を狼火に向ける。

  荻「尊さん、辛かったですよね?成果を奪われ、仕事を押し付けられ時には暴力、挙句の果てには家にまで乗り込んで来る始末、更に・・・」

  尊「待って・・・何で知ってるの?」

  荻「あ・・・はぁ、もういっか・・・はいはい私が仕組みましたよ、尊さんを独り占めしたくてやりました・・・これで満足ですか?」

  狼火「この・・・」

  荻「動くな害獣」

  尊「やめろ!」

  荻に飛び掛かり銃を奪う。

  荻「弱いんですから無駄な事しないでくださいよ」

  呆れた様子で私を突き飛ばす。

  狼火「尊さん!」

  荻「尊さーん?選んでください」

  尊「選ぶ?」

  荻「この害獣を撃ち殺されるか、尊さんが私と来るか」

  狼火「行っちゃ駄目です」

  荻「貴方の意見は聞いてません」

  尊「分かった・・・から、狼火に何もしないで」

  もう失ったも同然の人生だ、誰かを守る為に捧げよう。

  荻「随分素直になりましたね」

  狼火「尊さん?」

  尊「狼火・・・ごめんね、私・・・狼火と一緒で楽しかった」

  荻「お別れとか良いんで早く来てください」

  狼火「やだ・・・こんなの・・・」

  尊「家は好きに使って良いよ、猟銃も・・・あ、無免許だからバレない様にね?」

  狼火のお陰で生きたいと思えた心がどんどん死んでゆく。