とある森の奥底に、寂しく佇む屋敷があった。
まるで人気を感じ取ることは出来ないが、しかし外壁も内側の庭も手入れが行き届いており、決して無人ではないことが伺える。
ここに住まう者こそ、かのドM魔術師で有名な“ヴィクセン”である。
倒錯した性癖を持っていた変態ではあるが、同時に確かな魔法の知識と技量を有してもいた。
彼女はその力を快楽欲求の為だけではなく、もっと真っ当なことにも使っていた。
魔法を応用した便利な製品の開発、魔術の素養のない人間でも手軽かつ安全に扱える魔法をまとめた書籍の出版等……。
そのような本業の仕事によって、彼女は既に食うには困らない程の資産を得ていたのだ。
そうして出来た有り余るほどの金と時間を、ヴィクセンは全て快楽欲求に費やしてしまっていたのだ。
挙句の果てには大悪魔と接触、ドン引きさせて不死を勝ち取るという……常人では理解出来ない人生を歩んでいる。
今回は、そんな彼女の“朝”を覗いてみよう。
ゆっくりと昇る朝日が窓から差し込まれ、ベットの上で布団に包まっていたヴィクセンの重たい瞼をこじ開ける。
「……ふわぁ~。……もう朝……?」
寝起きで曖昧な意識の彼女は、ゆっくりと身体を擡げていく。
布団からはだけて見えるその裸体は、ミロのヴィーナスに勝るとも劣らない……圧倒的な美麗さを放っていた。
ヴィクセンは凝り固まった身体をほぐす為に伸びをする。
天井へと伸びる姿は、背中から覗くことでより妖艶に映る。
何も乳房と秘部を見せるだけがエロティシズムではないのだ。
「……っと、さ~てと……」
この一連の流れは、彼女の朝のルーティーンと言ってもよい。
ヴィクセンはこのだだっ広い屋敷で一人暮らしをしているが、魔法を掛けられた道具たちによって埃一つない清潔な空間が保たれていた。
箒と塵取りは自分でゴミを見つけては集め、ゴミ箱へと運ぶという流れを休みなくし続けている。
故にヴィクセンはそうして集められたゴミを捨てるだけでよい。
このように、屋敷の中は魔法によって徹底的に自動化されている。
掃除、洗濯、庭いじり、果ては確定申告も……全て意思を持たせた道具達が勝手にやってくれるのだ。
……さて話を戻そうか。
彼女の朝はシャワーから始まる。
寝起きで朧げな意識と身体に、清潔かつ温かい水が染み渡らせるのだ。
シャワーヘッドから流れ出る水は魔法の応用で生み出されたものだ。
それはヴィクセンの身体を上から下へと巡り、彼女をより一層艶めかしく見せる。
豊満な胸と尻は、そこを渡る無数の雫によって、よりエロティックな凶器となるのだ。
温かい水を浴びたヴィクセンは思わず尻と尻尾を振りながら、至福のシャワータイムを楽しんでいた。
清潔さが戻れば、次は全身を乾かしてくしで梳かす作業が始まる。
全身が毛に覆われている獣人には必要不可欠なことだ。
だが常人なら手間のかかるこの作業も、魔法使いならば大した手間はかからない。
炎魔法はドライヤー替わりになるし、梳かしも自立したくしに丸投げしてしまえばいい。
だが、自身の秘部の手入れだけは自分で行う。
「……んふッ♡ちゃ~んとココも綺麗にしとかないとねぇ~♡」
ヴィクセンは剃刀を手に、自身の名器を剃り整えた。
ここで秘部を傷つけてはならないので、彼女には慎重な操作が求められる。
ヴィクセンはマゾヒストではあったが、自傷を行うことはなかった。
彼女は常に外部的な苦痛であり、自主的な苦痛では興奮出来ないのだ。
毛づくろいが終わると、次は服装を決めなければならない。
……といっても外着に関しては普段と余り変わりはない。
胸元を大胆に開いた服にケープレット、そして魅惑の太ももを見せつけるフリル付きのショーツ。
なにより三角帽子はヴィクセンのアイデンティティでもあり、絶対に外すことは出来ない。
それらはどれも暗い紫色で染められており、一目で魔術師だと分かる装いだ。
だが彼女にとっては内側……要するに下着も気を遣う点である。
何せヴィクセンの趣向上、外側はいつボロボロになるか分からない。
その時に露出するいやらしいブラとパンティ……。
その哀れな様を想像するだけで、彼女は自慰出来る程に歪んでいた。
「う~ん、ピンクが良いかな?それとも紫?」
ヴィクセンはその二色の下着を好んで身に着けていた。
曰く、この二つこそもっとも”アガる”色であるとのことだ。
数分の思考の後、軍配が上がったのはピンクであった。
「何となく、今日はこっちの気分だわ~」
そうしてヴィクセンはまずはパンティの穴を股に通し、横紐をしっかりと縛った。
豊満な尻と尻尾にピンクのアクセントが加わり、見たものの情動を煽る様となる。
続いてブラを付けるのだが、これがちと難しい。
彼女はHカップの巨乳の持ち主であった。
だがその美麗さと同じ程、二つのそれは余りにも重かった。
ヴィクセンの日々の努力により、乳房はだらしなく垂れていることはないが、それでもブラを付けるのには毎度の如く苦労する。
ちょっと油断すれば形が崩れ、せっかくの巨乳が台無しになってしまう。
なのでこの作業には正確さが何よりも求められる。
まずはストラップを肩にかけて身体を前に倒し、ブラ紐をバージスラインに合わせる。
そして乳房をブラのカップにいれ、そのままの姿勢で後ろ紐をしっかりと結んだ。
後は紐とカップの細かい微調整を加えれば完了だ。
「……っとこれでオッケーね!ウフフ、相変わらず私って綺麗ねぇ~♡」
ヴィクセンは鏡の前で自身の美貌を自画自賛し、あれこれセクシーなポーズをとってみる。
これらの下着も、どうせ外から見えないものではある。
しかしヴィクセンは自身の美貌を更に高めることにも余念はなく、内側ですら手を抜くなどあり得ない。
――世界で一番美しい女狐が、弄ばれ、惨めな姿を晒す……。
――傍から見ればただ苦痛と恥辱を受けただけに過ぎないが、そこには確かに美麗さと快楽がある……。
こんな精神性の人間が悪魔から不死を得てしまったら、もはや無敵と言わざる負えない。
その後、黒タイツを履き、上記で上げた服装を身に着け、軽くチーク、口紅といった化粧をすれば……
「……っと!フフフ……完璧な私、完ッ成♡」
ここまで芸術品のような輝きを放つ獣人美女が、筋金入りのドMというド変態であることが何とも嘆かわしい。
――彼女は無残にも汚され、しかも当人がそれを望んでいるというジレンマ。
――天は二物を与えぬのか……?はたまたエロティックとマゾヒズムはセットであるのか……?
それは筆者にも知り得ぬ芸術学の領域である。
身だしなみを整えると、丁度腹が減ってくる頃合いだ。
ヴィクセンは料理も魔法任せにせず、自らの手で行う。
他の魔術師の多くは、食事など度外視で腹に入れば良いという考えを持っている者も多い。
だが彼女は料理の味にもこだわりを抱く稀有な存在である。
“度が過ぎるマゾヒスト”という余りにもイレギュラーな要素が先行してしまうが、そのような細かい点でもヴィクセンは魔術師の中では異端であった。
「……そろそろ野菜たちも食べ頃かしら?」
彼女の屋敷にはそれなりの広さの畑があった。
成長促進の魔法がかけられた肥料のおかげで、成長に何十日も掛かる作物でも早くて一週間程で育ってしまう。
だが畑仕事となると植物たちの面倒みなければならず、魔法を掛けた道具任せにすることは出来ない。
その為、かつてはヴィクセンは泥と汗まみれになりながら畑作業に務める必要があった。
……そう『かつては』である……。
屋敷に広がる畑には巨大な歩く植物の姿があった。
それは一言で例えるならば”奇怪な花のバケモノ”であり、近寄りがたい雰囲気を漂わせている。
だがその歩く植物は花のような頭を回し、根を触手のように使って雑草を引き抜きつつ、熟れた野菜たちを丁寧に収穫して籠に収めていた。
恐ろしい見た目に反して、真面目に畑仕事をしているようである。
「アーグ!おはよ~!」
”アーグ”と呼ばれたそれはヴィクセンの声を聞くや否や、すぐさま彼女の元へ全力で根を回して駆け寄った。
「あらあら……今日も元気そうで何よりよ♡」
ヴィクセンがアーグの頭を撫でると、彼?は満足気に喉を鳴らすような唸り声を発した。
……この奇怪な魔物の正体は、かつてヴィクセンを襲った触手……その群れからはぐれた個体が成長したものだ。
あの触手たちは実は植物系統に分類される魔物であり、名前を『カニバプラト』という。
本来は日光の浴びれる地上に生息しているのだが、稀に住処を追われる等の理由でダンジョン内に住み着くものもいる。
だが、彼らは光の届かない場所では単独で生きられず、必然的に他のカニバプラトとの集団行動で命を繋ぐこととなった。
結果、ダンジョンに迷い込んだ獲物を捕食することで何とか生き延びる『アンダーカニバプラト』となった。
だが、あの時のはぐれ個体は運よくこのヴィクセンに拾われることとなった。
彼女はこの子に『アーグ』という名前を付け、光の届く大地で食事と水をたっぷりと与えた。
その結果、地を這い触手は、ここまで立派なカニバプラトへと育ったのだ。
こんな見た目でありながら知能はかなり高いので、言葉は話せずとも文字を読めてコミュニケーションも取れる。
なのでヴィクセンはアーグに畑仕事を教え込ませたのだ。
お陰で彼女の面倒な仕事がまた一つ減ったのであった。
アーグは新鮮な野菜で一杯になった籠をご主人に見せた。
どれも艶立ち赤々とした食欲をそそる見事な物だ。
「まぁ~!もう収穫してくれたのぉ~!?偉いわよアーグぅ~!」
ヴィクセンは忠実な農夫を褒めちぎり、彼?の頭を更に撫でまわした。
そんな彼女の寵愛を受けたアーグは、植物の癖に顔を赤らめているようにも見えた。
そうしてアーグから受け取ったトマトをメインに、ヴィクセンは手早く調理を済ませた。
採れたてほやほやの野菜をふんだんに使ったサラダにベーコンエッグ、そして先日作っておいたパンという、比較的豪華な朝食が出来上がった。
ハーブティーも入れればもう完璧である。
「んふふ、我ながら最高の朝食って感じね♡」
そうしてヴィクセン優雅な食事を楽しんだ。
アーグが育て上げてくれた野菜を一つ一つ味わっていると、結構な時間が経ってしまうものだ。
比較的長めの朝食を終え、彼女は洗い物をシンクへと置いた。
後は魔法を掛けたスポンジたちが片付けてくれる。
ここまでがドM魔術師・ヴィクセンのモーニングルーティーンである。
極まり過ぎたマゾヒストであることを覗けば、ある意味誰もが憧れる朝を過ごしている彼女であった。
「んんん~~~っと!さて、今日はどんなことしちゃおうか・し・ら♡」