ペット獣人にマゾバレして夜だけ主従逆転しちゃった男の子のある一日の話です

  「えっテル強すぎね?」

  「家庭用やってっからな。キャラランダムでもいいかも」

  「くっそ〜〜余裕ぶりやがって」

  「[[rb:照一 > てるいち]]音ゲー雑魚だから次あっち勝負な」

  「ンだよ[[rb:内田 > うちだ]]ァ〜」

  金曜の放課後、気の置けない友達とゲームセンターで時間を潰す。俺、[[rb:宮村 > みやむら]]照一にとって、当たり前の…日常の光景だ。

  朝起きて、親のいない家を出る。ヒトと獣人のクラスメイトが混ざって居る学校に通って、勉強をして、帰りにファミレスに行ったり、バイトしたり、ゲーセンに行ったり。

  現代の男子高校生の基準から見て、間違いなく普通な日常を過ごしている。

  ……過ごしていた。

  「あれ照一、きょうカラメルちゃんはいいの?」

  「あ? ッあ、えと」

  「どしたん」

  「いやなんでも……別に。今日出る前にメシ作ってたから。勝手に食うでしょ」

  「いやあ、すげーわ。真似できねえ。俺帰ったらすぐゲームかスマホだもんなあ」

  「まあ、あいつとも長くいるからなあ。習慣になってるだけだよ」

  ……だけど、ひとつだけ。

  現代の男子高校生の基準から見て、普通でない出来事が、俺の日常に入り込んできた。

  「……あれ? なあテル、カラメルちゃんってどんなコだったっけ」

  「ん? 何よ。ちゃかちゃか動いてうるさいやつだけど」

  財布の中身を確認しながら、[[rb:杉 > すぎ]]の質問に応える。

  「や、そうじゃなくて見た目見た目」

  「見た目ぇ? えーとまずキャバリアで…毛は茶色の…明るめの茶色。癖毛で耳が垂れてて…」

  小銭がないな。崩すか。

  「……目は黒い?」

  「……杉お前なんで覚えてん……」

  「ご主人っ!」

  ──あまりに聞き慣れた声に、反射で振り向く。

  「だっ……!?」

  これも反射で、こちらに突進してくる茶色の風を両腕を開いて抱き留めた。衝撃を受け止めきれず、ゲーセンの床に尻餅をつく。

  「も〜〜っ、探したんですから!」

  「かっ……カラメル、お前なんでこんなとこ……」

  「街の人に聞きました、ご主人の学校から一番近いゲームセンターどこですかって」

  「いや手段の話じゃなくて……っていうか! ダメだろその前にゲームセンターで走ったら!」

  「ぁう、ごめんなさい……」

  ああもう、と言って立ち上がり、ズボンの埃をはらう。

  宮村カラメル……俺が家で飼っているペット獣人だ。両親が家にあまりいない俺が、その家のだだっ広さになんだか心細さを覚えていたところ、ちょうどのタイミングで近所のおばあちゃんから引き取った。

  「で……なんでわざわざゲーセンまで来たんだよ。なんかあったのか?」

  こういうことが起こるなら、そろそろこいつにスマホ持たせたほうがいいかなあ。

  「あぁっ、そうですよぉっ。ご主人きょう帰ってこないから心配だったんですよ? 心配っていうか、お腹も空いちゃいましたし」

  「……あれ、魚焼いてなかったっけ」

  「なんにもありませんでしたよ? ストックのカップめんも切れちゃってて」

  「え、うーーわマジか……! それは本当にごめん」

  なんてことだ、メシの用意を忘れてたのか……。

  「行ってやんなよ照一。音ゲーはまた今度ボコしたるから」

  「ペットのご飯くらいちゃんと用意してから来いよな〜もう」

  内田と杉は気にも留めないといった様子だ。いい友達を持った。

  「ああ……悪い。また埋め合わせするから」

  「いいって家のこと優先で」

  「じゃまた今度な」

  「ん」

  音ゲーコーナーに向かう2人の背中を目で追い、ゲームセンターを出た。

  ***************

  帰路。自転車を押して歩く俺に、カラメルが並んで歩く。イヌ獣人の身体能力はかなり高いから、俺が自転車で軽く飛ばしてもカラメルは楽々走って追いつけるが、こういう時は歩いておしゃべりしながら帰りたいと、カラメルからのお願いが昔あった。

  「いや悪かったカラメル、俺てっきりメシ用意したとばかり……」

  歩きながら、まずはそれを謝る。が、

  「……あ、ごめんなさいご主人。あれうそです」

  「は?」

  思いもよらない返答に、素っ頓狂な声が出る。

  「おなかすいてるのは本当ですけど、お魚はおうちにあります。2人で食べましょう?」

  「おま、何でそんな」

  「うーん、ごめんなさいっ。ちょっと……ご主人のお顔見たくなっちゃって」

  「だからって……まぁ……いやいいけどさ。でも……」

  「……ペットのご飯くらいちゃんと作れ、って言われちゃいましたね?」

  「ああっそこだよ。別にウソっていうか、お前になんもなかったのはいいけどさ。あいつらに……」

  「……」

  ……不意に、カラメルがこちらを見つめていることに気づく。

  「カラメル?」

  そして、

  「……『ペット』かぁ〜……♡」

  じとりと。目を細めて笑う。

  「──ッ……」

  「あー、まだ言ってないんですか……♡ 言う訳ないですよね、恥ずかしいですもんね……♡ まさか……」

  さっきまでの元気な様子とまるで違う。ひそひそと、耳のそばで囁く声。

  「……自分の方がペットになっちゃう時もある、なーんて……くふふ……♡」

  「ッッ……♡」

  ……思い出したくもない経緯なのだが。あることから、俺が獣人女性のポルノ愛好家であることがカラメル自身にバレて……そして、女性にリードされる趣向を好む……いわゆる、マゾヒストであることも同時にバレた。

  そしてよくないことに、その時のカラメルは発情期ど真ん中であり……そのまま俺は、カラメルに流されて……一線を超えた。お互いの初めてを経験した。

  『なんかこれ、くふふ……。いつもと逆っぽいですね? こういうのなんて言うんでしたっけ? えっと……んー……』

  『……主従逆転、で〜すねっ……❤︎❤︎』

  ……そんなふうに、俺の初体験は、俺の性癖を全て把握して理解したカラメルによる、一方的な責めによるもので……その最後に。

  『や、思い出したんですよねーっ……リードされたい、リードしたい……って言ってた時に……』

  『ご主人からいただきましたけど、すぐ使わなくなっちゃったから大事にしまってたなーって。ペット獣人用の……』

  『……[[rb:首輪 > リード]]っ♡』

  『…………ご主人〜っ……これ……どうしてほしい、ですか……?♡』

  俺がカラメルに渡していた、首輪を……俺の首につけられて。

  本当に悔しいし、情けないし、恥ずかしいことなのだが……その日以来、俺とカラメルの関係は、完全に変わってしまったのだった。

  「……ねえご主人っ……なーんで下向いたまま黙っちゃってるんですか〜……♡」

  「……お前……」

  「あ、お前とか言っちゃうんだ……♡」

  「ッ!」

  く、と息を飲み込んでしまう。

  「あっは、うそうそ冗談ですよぅ。ほら、ここお外ですし。流石にあたしがご主人にそういう……なんかそういう感じだったら、不自然じゃないですかっ」

  「……それは……確かに、そうだけど」

  「……ですから、おうち帰ったら、今日も……た〜っくさん、よしよしってしてあげますからね〜っ……♡」

  「ッ……!!♡」

  「あは、かわい……え、どうしてほしいんですかご主人……♡ またあたしがご主人に──」

  ごぎゅるる。

  ……と。カラメルの一方的な言葉が急に、大きな音でかき消される。

  ……こいつの腹の虫だ。

  「……あはは、その前にごはんですね? 映画も見たいですし」

  「……くく……はは。確かに俺も腹減ってるわ」

  そんなタイミングでちょうど家に着いた。

  そう。あんなことが起こって日常が一部変わったわけだが、全部が変わったわけではない。

  いつもみたいに帰ったら2人でメシを食い、風呂に入って、金曜の夜には映画を見る。これはずっと変わらない。……変わらないのが、嬉しかった。あんなことを経験して、いつも過ごしていた日常が全て変わってしまったら……と、少し不安だった。結論から言えば杞憂に終わったわけだが、俺だってこいつのことが好きで、こいつと過ごす日常が好きだったから。

  ***************

  ラップをかけて冷蔵庫に入れていた焼き魚と味噌汁を温めなおし、卵焼きもつくる。2人で食卓を囲み、入浴を済ませ……映画の時間だ。

  「ん」

  Tシャツにジャージ。いつもの寝巻きの俺。カラメルもTシャツ(俺のお古だ)にショートパンツ(これはカラメルが選んだやつ)という、いつもの姿。そしてソファに座った俺の脚を、カラメルが枕にする形。……正直あれから、この『いつもの姿勢』にも、少し抵抗があるが……カラメルはそんなのお構いなしという感じだ。変に意識し過ぎても悪いしな。

  今日の映画はカラメルのリクエスト。

  「お前もこういうの好きなんだな。いっつもアニメとかミュージカルじゃん」

  「もちろんそういうのも好きですよっ。でもご主人の好み移っちゃったかもしれませんね」

  「あー……それはあるかも。実は俺もこれすげえ好きでさ」

  「えっ見たことあるんですか!」

  「うん。中学校の修学旅行のバスん中で流れててさ。これはガンアクションっていうか西部劇寄りだけど……」

  いつもの、映画を見ながらの会話。

  ……ゆったりと時間が過ぎて……。

  「……おもしろかった〜……! かっこよかったですねえ」

  「な〜、何回見てもいいわ。俺やっぱファラデーが好きだな……」

  エンドロール中の感想タイム。お茶を一杯飲んで、一息。

  「ご主人」

  不意に下から声。

  「ん?」

  視線を向けると、

  「……んー♡」

  カラメルが両腕をこちらに伸ばし、広げている。目を細めた笑顔。……2人の時だけに見せるようになった、カラメルのもうひとつの顔。

  「……!」

  思わず目を逸らす。

  「あは、恥ずかしがってるー……♡」

  「……るさい……」

  「んも〜、なーんでそう言うこと言っちゃいますかねぇ。ほらご主人、ぎゅーしましょうよ、ぎゅーっ♡」

  ……以前の俺なら、はいはいわかったと言ってカラメルを抱きしめて、頭でも撫でてやっただろう。

  ……だけど、今の俺は。 あれを経験してしまった俺は。それに恥じらいを感じ、ためらってしまう。

  喉が渇く。お茶を飲む。……カラメルが、はぁ、と小さくため息をつき、

  「……テルくーん……♡ お〜いでっ……♡」

  ──そんなふうに言うものだから、ぐわんと頭が揺れた。

  「……」

  息を吸い、吐く。動悸がする。急に口が乾く。お茶をもう一口……と思ったが、もうない。コップに入っていた小さな氷を口に含み、噛み砕く。……自分の喉の音が、やけに大きく聞こえた。

  ……一度ソファから降りる。座り直そうとすると、

  「うわ、っ」

  体を引っ張られ……俺がソファに仰向けになる。その上にカラメルが、覆い被さるような姿勢でいる。

  「……あは……♡」

  ……少しずつ、体が近づく。……なんでこんな気持ちになってるんだ俺は。ペットとハグするだけだぞ。カラメルとハグするだけだ。

  「……ッ……」

  ……体が近づく。カラメルが、俺の後頭部に両腕を回す。

  ペットとハグするだけ。

  ……頭を抱き寄せられる。

  ペットとハグするだけ。

  ……俺の顔が、カラメルの胸に埋まる。

  ペットとハグするだけ、なのに……。

  「んん〜〜っ……♡ んふふふ……♡」

  やわらかくて大きなふくらみに顔をうずめ、そのままわしゃわしゃと、頭を撫でられる。

  ……ペットとハグして、なんで、こんな……気持ちに……!

  「……っ……ぅぅゔぅーー……ッ……♡♡」

  「あぁ〜〜……♡ ご主人の嬉しい時の声だ……♡ あたしも大概ですけど、ご主人ってこういう嬉しい時の反応すっごいわかりやすいですよねー……♡ 今みたいに、うーってなっちゃうの……♡ んふふ、かーんわいっ……♡」

  呼吸するたびに、石鹸と汗の混じった甘い香りが鼻を通る。後頭部をとんとんと叩かれながら、もう片手で頭のてっぺんを撫でられる。嬉しいのを見透かされている。

  その全部が、少しずつ、俺の脳の真ん中を、じゅんわりと溶かしていくのがわかる。

  「あは、ご主人甘えんぼさんだぁ……♡ 今日すっごいぎゅーしてくるじゃないですか、どーしたんですか〜……♡」

  ……無意識だった。カラメルの背中に腕を通し、強く抱きしめている自分に気づく。……違う、と言い訳しようとしたが、違わない。誤魔化し方もわからない。……もっと強くしがみつかないと、気をやられて、どこかに飛んでしまいそうになる。そんな変な錯覚を覚えてしまう。……錯覚を、カラメルにしがみつく言い訳に、使ってしまいそうになる。情けない自分を俯瞰している。

  ……しているのに、やめられない。やめたくない……。

  「……カ、ラメルぅぅ……っ……♡」

  「あぁん、なんですかその甘えた声〜っ……♡ ……あれ、ひょっとしてご主人って、甘え不足だったりしませんでしたか?」

  「え」

  「だってそうですよお。あたしが来るまで、こーんなに広いおうちでほとんど1人だったんですよね? ……もちろん、お父さんお母さんが、ご主人のことだーいすきなのはわかりますよ。何回かしか会ったことありませんけど、ベタベタだったじゃないですか」

  「……それ、は……」

  「でも、実際に会う時間はやっぱり少ないわけですから……ご主人、最近あんまり甘えられる人っていなかったんじゃないです?」

  「……」

  「……っていうかそもそも、ご主人ってさびしくてあたしをお迎えしてくれたんですよね? ですから、やっぱりあたしに甘えるべきですよぅ♡」

  「……ぅ……?♡」

  「……ほらご主人、も〜っとあたしのこと、ぎゅーってしてみてください?♡ ちからいっぱい、ぎゅーです……♡」

  ……言われるままに、力を込める。獣人は体も丈夫だ。俺の全力くらい簡単に受け止める。

  力強く……

  つよ、く……♡

  「……ぅ、っぅゔ……♡」

  「あっは……♡ ご主人かんわいーんですからもぉー……♡ ん〜、よーしよし……♡ たっくさん甘々しましょーね〜……♡」

  腕を背中に……足も絡めあって、必死にしがみつく。そう、だ。仕方がないんだ。カラメルの言う通りだ。俺だってまだ子供なんだ、誰かに甘える必要があるんだ。カラメルがいいって言ってるんだから……これでいいんだ。こうしていいんだ。

  ……不意に、カラメルが俺の頭を軽く、上にくいと持ち上げる。

  ばっちり目が合い、恥ずかしさに目を逸らす。

  「だめ。こっち向いて♡」

  ぴしゃりと、しかし優しく言うカラメルの声。……黒くて大きな瞳が、じっとりとこちらを見つめる。

  カラメルの顔が近づいてくる。思わず目を閉じる。……鼻息がかかり。

  唇が触れた。

  ぬるり、と、やわらかいものが俺の口の中に入ってくる。

  俺の舌にまとわりついてくる。ぐるぐると口内をかき混ぜられるようなキス。水音が頭に響く。ずっと頭を撫でられている。

  ……これ、は、やばい……♡

  だんだん、ものが考えられなくなってくる。息がうまくできないせい。

  ちぅ、と軽く口を吸われて……

  「……ぷは……♡」

  唇が離れる。

  ……カラメルは俺を見下ろし、

  「…………❤︎」

  口の端を歪めて、舌なめずりをした。

  けものの顔だった。

  **************

  獣人には発情期がある。あるが、動物のそれとは大きく異なるらしい。

  ヒトと同じく、平時の性欲、発情があり、ある時期にそれが爆発的に高まる……それが獣人の発情期である、と、あの後に調べて知った。

  平時の発情を抑制する目的で薬を飲ませる場合もあるのだが……カラメルはそれを拒んだ。

  ……発情を解消する相手が、身近にできたからだ。

  「…………っ……」

  カラメルに手を引かれるまま、カラメルの部屋に連れて行かれる。

  扉が閉まる。ベッドに誘導され、腰掛ける。

  ふわふわと浮いたような気持ち。興奮と緊張。幼稚園のお遊戯会の舞台に立つ時のような。

  「ちょっと待っててくださいね」

  カラメルはそのままクローゼットへ向かい……

  「……じゃんっ♡」

  ……首輪を、持ってくる。

  「──ぅ、ぁ……」

  あの時は俺がプレゼントしたカラメルの首輪をつけられたが……あのあとカラメルは、俺用にこっそり新しい首輪を買っていた。それからは、その首輪を使うようになった。

  「はぁい、じゃあ、あご上げてくださーい……♡」

  すこしためらった後……意を決して、目を閉じ、くいと顎を上げる。

  ひやりとしたレザーの感触。金属音。

  はい、というカラメルの声に、首を戻して目を開ける。

  「……あは……♡」

  俺の首元から伸びるリードが、カラメルの手に握られていた。

  それを認識した瞬間、ぶわっと体が熱くなり、目の前の景色が揺れる。息が浅くなる。

  ……何度経験しても、この瞬間、は。

  「……ねぇ〜〜、やっぱりちょっとマゾすぎですよご主人……♡」

  くい、とリードを引っ張られ、つられて身体が前に出る。カラメルの顔が、ぐんと近づく。

  「……テルくん、かわいーよ……♡」

  ばっ、と、顔を左下に逸らせてしまった。無理、だ、それも。何回言われても。

  「……」

  右耳に、しゅり、という感覚。

  「うッく……」

  カラメルは右手でリードを持ったまま、空いた左手で俺の耳を弄ぶ。こめかみに手を添えられ、親指で耳の縁をなぞられる。

  「くふふ……♡」

  「ふ……ぅゔ、ッ……」

  身体が震える。腹の奥が、ぎゅっと疼く。

  「あは……♡ ねぇ、それってお顔逸らしてるのかな……♡ それとも、お耳もっと触って〜って差し出してるの……?♡ どっちなんだろーなぁ〜っ……♡」

  敬語が、取れている。……首輪をしている……されている間は、こうなってしまった。この首輪は、カラメルが俺につけるために選んだ首輪だ。

  ……主従逆転のしるしだ。

  「ぅ……ッ、は、ァ……♡」

  カラメルの口が、俺の右耳に寄ってくる。

  「ねぇ〜、聞こえないよ〜っ……恥ずかしいのか、それともお耳いじめてほしいのか……どっちかだけでも聞きたいんだけどな〜……♡」

  囁かれ、熱い息が耳にかかる。背筋に痺れが走る。

  ……そん、なの……

  「ねーえ、テルく〜ん……♡ [[rb:ご主人様 > あたし]]が聞いてるんだよー……♡ どーしてずっと黙ってるのかな〜っ……♡」

  「……ぅ……」

  「んー?」

  …………。

  「…………りょ、ぅ、ほう……です……」

  「──」

  耳元で、息を呑むような音が聞こえ。

  「──ッ……!!」

  「ぅお、あ」

  世界が揺れて。ばふむ、と、カラメルのベッドに沈む。押したのはカラメル。倒された。押し倒された。カラメルが覆い被さるように倒れ込む。体重を感じ、胸板に柔らかいふくらみがぎゅっと当たる。

  その感触に胸を高鳴らせる間も与えられないまま……耳元で、かぱ、という音がして。

  「──れる……っ……❤︎❤︎」

  そのまま、俺の左耳に、ぬめりがねじこまれた。

  「は、ッあ゛……!!♡ っく、ぅ、ゔんッ……ぅ、ぃゔ……ッ♡」

  ああ、聞いてほしくない声が出ている。甲高い、気持ちの悪い声。

  カラメルは、俺の耳を舐めながら熱っぽく囁く。

  「ぶは……っ……♡ ねえかわいすぎ……♡ んぇる、れちゅ……っ……♡ なんでそんなさぁ、あたしにきゅんってくることばっか言うの……?♡ 絶対わざとでしょ……♡ んぶ、っちゅ、ぇるれるりゅ……♡ テルくんえっちなんだ……♡ あたしにいじめてほしくって、わざとそういうかわいいこと言ってるんだ……♡」

  「違、ッ、ちが……ァ゛……!♡」

  「ちゅ、っちゅりゅ、れるぷちゅ……っ……♡ いいよー……♡ テルくんそういうつもりなら、あたしもう知らないから……♡ あたし今日、テルくんのこと本気でかわいがってあげるから……♡ もうテルくんが、あたしのことそういう目でしか見られないようにさせちゃう……♡」

  執拗に耳を舐められる。ぎゅっとシーツをつかんでしまう手を無理やりほどかれ、指を絡められる。逃さないという意志を感じる。何度も身を捩らせ、カラメルを振り解こうとしてしまうが……とうとう、両手をがっちりと抑え込まれる。そして一切の抵抗ができないまま、また口の中に舌をねじ込まれる。唇を甘噛みされる。頬に、額に、何度もついばむようなキスをされる。じいっと顔を見つめられながら、片手で服の上から胸の先を擦られ、もう片手で頭をじっくりと撫でられる。くしゃくしゃにとろけた俺の頭の中身を口から吸い出すように、またキスをされる。……そんな愛撫が、どれくらい続いたか。

  「は……っ、はぁっ……はぁッ……♡」

  俺はもう、だめになっているなと実感した。ペットのはずのカラメルに、こんなことをされて……くったりと力が抜けて。

  ……この状況が、狂うほど恥ずかしいのに、同じくらい嬉しくて、どきどきする。

  「……♡」

  カラメルが、俺の服を脱がしてくる。Tシャツを肌着ごと捲り上げて脱がし……下も。

  「……何も言ってないのに腰上げてくれたねー……♡」

  恥ずかしくて顔を逸らす。が、リードを引っ張られて……身体を起こさせられる。いつの間にか痛いくらいにはりつめていたそれを、軽くつんとつつかれる。くふ、とカラメルが笑い、

  「テルくん、こっち」

  急にリードを短く持って歩き出した。つられて俺も歩く。……部屋のあるところで立ち止まったカラメルに、ぐいと肩を寄せられる。

  「ほら見て? テルくん」

  ふと顔を上げると。

  ……姿見の前だった。

  「……ぁ、っ……」

  Tシャツにショートパンツ……寝巻きのカラメルが、リードを持っている。

  ……そのリードの先に、首輪だけをつけた……裸の自分が映っている。

  「……ッ、ぁ、うぁ……♡」

  全身の血が煮立つような、被虐の興奮に倒れそうになった瞬間。

  「ぅあ゛ッ!?♡」

  「……♡」

  カラメルが、俺のそこに……手をやり。

  「っあ、ちょ、っとッ……♡」

  きゅっと握り、上下に……扱き始めた。

  「はーい、腰引かないの……♡ ちゃんと気持ちよくなんなきゃだめだよー……♡」

  にちにちと粘りのある水音を立てて、カラメルの指が這うようにまとわりつく。

  「くふふひひ……♡ やばいねこれ、どっちがご主人様かちゃーんとわかっちゃう……♡ ほら、これがテルくんだよ……♡ これがテルくんとあたし……♡ ふだんはテルくんがご主人であたしがペットだけど、えっちのときだけは逆……♡ これがあたしたちだよ、ちゃーんと覚えてね……♡」

  「待、ッ、待って……♡」

  あまりの羞恥に鏡から目を逸らすと、手が止まる。

  「あ、こらっ。ちゃんと鏡見なきゃだめだよ〜♡ じゃないとお手手動かしてあげないよ……♡ 恥ずかしいの早く終わりたいよね、気持ちよくなりたいよね……?♡ それとも、ず〜っとこのまま、鏡の前ではだかでいる……? あたしは別にいいけどっ、くふふ……♡」

  ……。

  「ぅ、ッ……!」

  …………。

  「…………ぅう……♡」

  「あは……♡」

  「──ッ、ぁゔッ……!♡」

  「はぁーいよくできましたっ、くひひひ……♡ お顔逸らしちゃったらまた止めちゃうからね〜……♡ ちゃーんと自分がきもちくなってるとこ見てなくちゃだめだよー……♡ あたしと会ったらこのかっこ思い出すんだよ……♡ ほんとはどっちがペットなのか、あたしを見たらちゃーんと思い出さなきゃだめ……♡ ほら言ってみて、ペットなのはどっち? あたし? テルくん?」

  「……ッ、っっ……!♡」

  「……はー……」

  カラメルが耳元に近づく。

  「……言〜〜えっ……❤︎ ペットはどっちだって聞いてんの……❤︎ 言えマゾっ……❤︎」

  「──ッッ……!!!」

  「…………♡」

  「……っ、は、ッ、ぉ……ッぉれッ……♡」

  「ん〜〜?♡」

  「ぅ……お、っれ、がっ……♡ はぁッ、ぁ、ペットっ、です……ッ……♡」

  「…………っっ……♡ ぁは、ほんとに言ってくれたっ……♡」

  そ、んな、嬉しそうな声を。

  ……俺も、嬉しくなっている。それを自覚した瞬間……。

  こみあげてきた。腰の奥から、むずむずと、あついものが。

  「ぁ、のっ、カラメルっ、もう……」

  「あ、もう出ちゃいそうなんだ……♡ くふふ、いいよ? いくときも鏡ちゃーんと見ててね……♡ テルくんがあたしにきもちくされてるところ、覚えなきゃだめだよ……♡ 自分はほんとはペットの女の子にペット扱いされて喜ぶ、マ〜ゾっ……♡ だってこと、改めてちゃーんとわかってね〜……♡」

  カラメルの手が速くなる。ぐちぐちと水音が激しくなる。鏡をみている。じぶんの姿。裸のすがた。首輪。カラメルにリード。手コキされている姿。気持ちよくされている。カラメルが俺の性処理をしている。カラメルが俺の世話をしている。カラメルが主人なんだ。俺がペットだ。俺がペットなんだ。……俺、が。

  ……ペットなんだ……♡」

  ……いつの間にか、口に出していたのか、いなかったのか。

  その判別もつかないうちに、がくん、と、膝の力が抜けて。腰の中の耐え難い脈動が、そのまま中身を押し出すように。漏れ出た。

  どくん、と一度、熱いものが放たれるたびに、脳も同時に溶けて漏れ出ているような。

  そんな脈動が、二度、三度……四度もあるから、もう、なんにもわからなくなる。

  気づけば俺は、膝から崩れ落ちるようにへたり込んでいて。

  体重をカラメルにあずけていた。

  「……♡」

  カラメルは何も言わずにひたすら俺のあたまをなでる。快感でからっぽになった頭に、うれしいのを流し込まれる。

  前を見る。鏡にうつっているのは、裸のおれと、寝巻きのカラメル。精液で床を汚した俺と、首輪に繋がったリードを持っているカラメル。

  ……どっちがペットなのか、よくわかる。

  「……ぅあ、ぅ……っ……♡」

  うれしくて、興奮して……カラメルの方に向き直り。抱きしめてしまった。

  「っっ……❤︎❤︎ っ、もうっ、テルくん……くふふふ……♡」

  カラメルのうれしそうな声がうれしい。カラメルが喜んでくれてる。

  「……ふ、ぇへ、へへ……♡」

  うれしくて……へんな笑い声が出た。

  ***************

  カラメルのベッドの上、ふたりでふとんをかぶっている。裸のまましがみつき、カラメルの胸に顔を埋めながら……腰を動かして、カラメルの太ももに、それを擦り付けている。

  「くふふふ……っ♡ テルくんご主人様にマーキングがんばれ〜っ……♡ 必死におちんちんこすこすってして、ぼくの、ぼくのっ♡ ってアピールしちゃうね〜……♡」

  カラメルは一切拒む様子を見せず、ただ俺を抱きしめ、頭を撫でている。息をするたびに、柔軟剤の匂いと、カラメルの胸からのじっとりした汗の匂いが頭をとろかす。

  「あ〜っ、ちんちんきもちーねぇ♡ ご主人様の脚ちんちんで汚しちゃうのやめられないね〜……♡」

  「ごめ、っ……ごめんなさっ……♡」

  ……そう、口では言うが。もう、その時が近くて……止めたくない。

  「もー、謝んなくていいのに♡ ……っていうか謝ってるのにへこへこ止まんないし……♡ くふふ、そのままいっちゃっていーからね……♡ あたしの太ももに好き好き〜ってして、赤ちゃんつくってるのと勘違いしちゃったマゾさんのきもちーやつ、ぜーんぶ出しちゃおうねー……♡」

  なん、で。どこで覚えるんだよ、そういうの。

  「……」

  不意に、カラメルが、ぐい、と。

  俺の顔を持ち上げる。

  カラメルとばっちり目が合う。

  目を逸らそうとしたが……

  ……また、怒られてしまうかも……。

  「……っ、ぅ、ゔぅっ……♡♡」

  恥ず、かしい……けど。

  「……んー……?♡」

  ……カラメルに、怒られたく、ない……♡

  「あ〜……っ♡ テルくんえらぁい……♡ ちゃんとあたしのしてほしいことわかるんだぁ……♡」

  「ッッ、ぅぅ、ゔぅうっッ……♡」

  無言でカラメルに見つめられる。うめきが漏れる。余裕のカラメル。余裕のない俺。必死に[[rb:ペット > ご主人]]の脚に腰を擦り付けて、射精しようとしている。

  ……みじめ、なのに……。

  なんでこんなに、嬉しいんだよ……♡

  ……そして、とうとう、その時がくる。

  「ぁ……っ、あのっ、か、カラメルっ……♡ も、もうっ、もう……♡」

  「……『カラメル』じゃなくてさ〜っ……♡」

  「ッ……!」

  恥ずかしくて目を逸ら……さないっ……そらさない、っは、恥ずかしい、カラメルの目、カラメルっ……

  「ぅあ、っ、の……っい、ぃ、きたい、ですっ、っご、主人っ……♡」

  ……俺のその、必死なお願いを聞いて……カラメルが、口の端を歪ませ、目を細め……

  がっ、と。俺の頭を両手で掴んだ。絶対に、逸らせないように。

  そして。

  「……いいよー……♡」

  俺の目をじっと見つめたまま、告げた。

  瞬間。くらっ、と目の前が一瞬暗くなり、俺の中をこすりあげて、抗えない快感がかたまりになって出てきた。

  なんにも考えられない状態の脳。きっとだらしない顔。それをカラメルに、至近距離で、真正面で見つめられ。

  男として一番弱くて情けない瞬間の顔を、「かわいい」「好き」と言われるから……おれの頭が、きもちいいのと、しあわせでいっぱいになる。

  脈が収まり、腰から全身にじんわり広がる甘すぎる余韻が俺をだめにするのに、そんな状態の俺にカラメルはキスをして、頭を撫でて、もっとだめにしてくる。

  だめなのに……。

  「はー……♡ テルくんやっぱマゾすぎ……♡ ほんっとにかわいー……♡ だーいすき……♡ マゾのテルくんがいっちばんかわいいんだよー……♡ 女の子に恥ずかしいことされて喜んじゃうテルくんがだいすき……♡ もっとだめにさせたくなっちゃう……♡ ずーっとあたしのじゃなきゃやだからねー……♡」

  そんなことを言われるから。

  「……ぉ、れも……」

  「んー?♡」

  ……応えたくなった。

  「……おれ、も、っ…………ぅう、っ、す、好き……です……♡」

  「──ッ……❤︎❤︎」

  ……カラメルの目が、こわくなった。

  また……いろいろ、されるんだ。

  してくれるんだ……♡

  【おわり】