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はじめての援助/交際

  割と濃い一日を回想してたはずなのに(一話参照)どうしてこのアメリカンスピリットとかいうタバコは全然燃えてくれないの?

  あれから何分経ったのかは知らないけど、横をチラ見すると金城くんは疲れたのかしゃがみこんで3本目のPeaceに手を付け始めていた。

  さっきみたいに味わうように肺に溜め込んでから紫煙を吐き出すんじゃなく吸ってからすぐにふぅ、とため息混じりに口から煙を吹かす動作がいちいちエロい。

  少し疲れて細くなった目に長いまつ毛で作られた影が、瞳の黒を増幅させて飲み込まれそうな闇とその中で際立つ水晶体の薄い光を作り出してもいる。

  そこに座ってるだけで喋ってもいないのに自然な動作ひとつと顔ひとつでハートと子宮に攻撃してくるなんて卑怯じゃん。

  こうして彼はパッシブスキルのオート攻撃で女の子のガード崩したところを流し目で目線合わせてから

  「何吸ってんの?」とか「火、貸してくれない?」

  なんて一見他愛も無いセリフだけど、

  “貴方のことを教えて”か“近寄ってもいい?”

  という距離を近付けることは確定た、“心”と“体”どちらを近づけるか女の子自身に選択させるというモテ男心理学の常套手段みたいなこと言ってくるんだ!

  でも残念、このコマシ野郎め。

  今の私が至って冷静なのが運の尽きよ。

  チャイナドレスフェチ野郎にあんな振られ方をされ、ホストに青伝票を掴まされ、援交クマおじさんの歪みを見て、未だに7万用意する宛のない私に付け入る隙なんてほとんどありゃしない!あとは____

  金城くんがタバコの灰を落とすために立ち上がり、灰皿の上で細くて綺麗な指をとんとんと上下させながら

  「姫川だよね?同じ学部の。」

  「あっ、あっ、ふぁい。そういう金城くんは同じ学部の金城くんですね?なにか御用でありましょうか?」

  はい来たよ。(顔と服良すぎ。)もうさっき自分の中で完全に予測してました。(首の動脈えっろ。)この後「ドイツ語講義のレジュメ見せてくんない?飯奢るからさ。」とか言ってきて、(姿勢いいな)その次は「

  「昨日は池袋《ブクロ》で何してたん、あれ?」

  ほとんど埋まっていた、彼が私に付け入る隙を埋めるはずの、最後の1ピースが呆気なく霧散した瞬間だった。

  まるで、先程彼の口からゆっくり吐き出されたタバコの煙のように。

  

  バレてた。

  _____

  

  煙草吸いに来たと思ったら、昨日2回の奇行を目にした同じ学部の姫川とかいうポメラニアンがなんだか余裕の無い目で真っ直ぐの方向を見つめている。

  彼女のタバコを挟む指はぷるぷる震えていて、何回も何回もくわえたのかフィルターが横目で見てわかるくらい濡れている。

  小型のイヌにはアメスピなんか、燃焼材入ってなくて吸ってもなかなか減らないからキツいだろうによくやるなぁ。

  腰を下ろして昨日のハヤテさんとのデートを思い出す。

  …柄にもなくサカっちゃったなぁ、だっせぇ。

  ハヤテさんとする時はどうもリードされがちというか、なんかしてる時ニヤニヤ見られてる感じがしてならない。

  そんでたしか汗かいたから晩にラーメンもっかい食べたいとか言い出して…ああ、そうだ。

  その前に姫川?女子高生か?いややっぱ多分あれ姫川だわ。

  今日も煙草で分かりづらくはあるけど、あの変態っぽいグリズリーのおっさんが嗅いでたパーカーと同じ香りするし。

  朝叫びながら全力疾走してたと思ったら夕方にはハマの女子校の制服着てラブホのエレベーターでおっさんの眉間にスクールバッグをフルスイングするとか、普段どんな生き方してんだ?こいつ同年《タメ》だよな?

  気になったから立ち上がって灰を落としながら声をかけて見ると、

  「あっ、あっ、ふぁい。そういう金城くんは同じ学部の金城くんですね?なにか御用でありましょうか?」

  「昨日は池袋《ブクロ》で何してたん、あれ?」

  「え?え?なんですか?私は昨日ドイツ語学の講義受けてたから池袋のラブホとか全然知らないです。レジュメでしたらすみません、持ってないです。」

  「ドイツ語学なら昨日アドラー先生が出産の立ち会いでなくなったはずだしラブホとはまだ言ってないだろ。」

  

  …すげぇキョドってんな。

  めちゃめちゃ汗かいてるしシ○ブでもやってんのかこいつ。

  一緒に講義受けてる時とかディスカッションの時はいたって普通のやつだと思ってたんだけど。

  …待てよ?声で思い出したけど、一昨日の晩に泣き叫びながらホスト通りを走ってたのも多分こいつだな。

  …あー、そういうことか。

  「いや、悪かった。でもハマ女子の制服着て東京うろつくのはさすがに補導されるからやめた方がいいと思うぜ?」

  案外こういう女がホストにハマりやすいのかもな、なんて思いながら身を翻すとジャケットの裾を掴んですがりついてくる。

  「違う!違うんです!話を聞いてください!お金がどうしてもいるのよぉ!」

  違わないじゃねぇか。

  「いや、まぁ今どき援…パパ活やる奴とか別に珍しくもないし、月末の掛け払いきついんだろ?大学のやつには言わないどいてやるからさ。」

  

  立ち去ろうとすると、ポメラニアン特有の姫川の真っ黒い目からぼろぼろと涙がこぼれ、その場にくずおれてしまった。

  「違うの…いや本当に…私も一晩で何がどうしたらこうなってしまってるのかもう分からなくて…」

  …一晩と言うからにはどうも姫川になにか起きたらしいけど、それはそれとして人通りのある所で泣き出しそのそばに俺がいるという図は非常によろしくない。

  あんまり俺評判くないんだから。

  通り過ぎる学生たちの鋭い視線が突き刺さる。

  「分かった。分かったから、とりあえずどっか別の場所行こうぜ。」

  

  _____

  

  「つまり?彼氏にはチャットサイトの女のためにいいようにされてて喧嘩別れした後に傷心してたら記憶が無いけど多分ホストに引っ掛けられて覚えのない21万円の支払いが、と。」

  

  昼の講義をサボっていつものシーシャバーでチョコミントフレーバーを吐き出しながら姫川の長く長く、あまりにも無駄な2日間の話を聞く。

  「それで家賃光熱費携帯まぁ、その他の金がすぐいるわけだ。」

  姫川といえばすん、すんと泣きながらジュースとクッキーを貪っている。

  何も食ってなかったらしい。

  「それで全財産を一晩でほぼなくしたから自分の幼い容姿を利用して女子高生のふりしてプレミア価格の援交をしようとしたら運の悪いことにサクちゃんがいたからあれだけの大立ち回りを、ね。」

  隣でハヤテさんもフルーツのフレーバーを楽しみながら、時折姫川の背中をぽんぽんとさすってあげていた。

  姫川にバレないようにプルプルしながら笑いをこらえているけど。

  ギャグみてえな泥沼っぷりだし。

  まぁ、話を聞くにこいつは暴力しか振るっていないからいい感情はわかないけど、一夜にしてここまで追い込まれたんならまあ、同情の余地はあるわな。

  「…チャット狂いのアメショーくんとホストのサイベリアンに匂いフェチのグリズリー、ね。よかったじゃない。もう悪い男に騙されることはないわ。そこのヤリチンのような。」

  いけしゃあしゃあと…自分だって似たようなもんじゃねぇか、とは口に出さない。

  「ずっ、うっ、ありがどうございます…ハヤデさぁん…」

  「つーか、バイトとかしてんだろ?バ先に前借りとかすればいんじゃねぇの?シフト増やすとか言えば10万くらいは貸してくれるだろ。」

  「…給料日からまだ2日しか経ってないのに貸してくれっていうのは、さすがに無理だと思う。」

  「そうよサクちゃん?口約束、手渡し、信用払いが基本の縁故でヤクザなバ先のライブハウスとは違うんだから。」

  「ちゃんと振込み式だわ!」

  元はあんたも世話になったとこだろ!

  「とはいえ、7万はそこそこのお金だし、親御さんにもそんな理由で借りるのは難しいよねぇ?」

  「やっぱり、サラ金かウリやるしかないんですかね…制服も売ります。」

  泣き止んだ姫川はアイスティーにガムシロップをあるだけ入れながら覚悟の準備を始めてしまった。

  別に俺だって貸してやれない事はないけどさすがにさっき出会ったに等しい女に貸すのもなぁ…

  「…ところで姫ちゃん、その元彼の使ってたチャットルームとか、相手はどんなやつだったか、とか分かる?」

  「そんなこと聞いてどうすんすか。」

  「いーから。」

  「サイトは分からないですけど、チャイナドレスのダルメシアンとか…」

  「…なぁるほどねぇ。」

  

  ハヤテさんは金の算段でもつけているのか宙を指でなぞりながら悩む顔をする。

  そして重苦しい沈黙が一瞬訪れたあと、ハヤテさんの顔がぱっと輝き姫川の肩を抱いた。

  「よし、こうしましょ姫ちゃん。アタシが7万あなたに貸してあげる。そのかわり…」

  _______

  2ヶ月後

  冬の澄んだ空気の中でする深呼吸と喫煙の合わせ技はシーシャには真似できない良さがあると思う。

  口内を冷気が引き締めた後にPeaceからするバニラのやわらかくてあたたかい味が際立つから、冬は好きだ。

  昼だけど少し薄暗い空を眺めていると、いつの間にか自分のすぐ隣に遠慮がちにチラチラとこちらを見上げるシマリスの女の子が立っていた。

  顔に見覚えがないから後輩だろうか?温かいココアを飲みながらタバコを吸う彼女の趣味は個人的には好ましい。

  「なに?」

  もの言いたげだったから、しゃがんで目線を彼女に合わせてやると、彼女は頬を赤く染めてココア缶を両手でぎゅう、と包む。

  考えていた言葉が一瞬飛んで目を逸らしながら慌てる彼女には小動物女子の可愛さが凝縮されている。

  「あ、の、金城先輩って、この前サンドロケットで“サルミアッキ”のライブの時、助っ人でベースやってましたよね…。かっこよかったです。」

  「あぁ、見てくれてた?ホントはあそこのライブハウスの裏方スタッフなんだけど、出場メンバーが事故ったらしくて代わりにね。」

  「私も軽音サークルでベースやってるんですけど、コピーバンドで。サークルにあんまり来ないけど1番上手いのは先輩だって、皆が。」

  「あー、申し訳ないんだけど、…もうサークルやめようと思ってるんだよね。就活に向けて勉強そろそろ頑張ろっかなと思っててさ。バイトも増やしたいし。」

  「あ…そうですか。じゃあ、忙しいですよね。ごめんなさい。」

  「その代わり、サンドロケットかワンゼロワンのどっちかでライブスタッフのバイトしてるから見かけたら声掛けてよ。」

  「えっ。はい!先輩も頑張って下さい!」

  シマリスの後輩はパタパタと喫煙所から立ち去ると遠いところで見守っていた友人たちときゃあきゃあと喜びを分かちあっていた。

  どこまで期待してるのかは分からないけど、あいにく俺はもうセフレを作るつもりはない。

  それでもこういう時に少し喜ばせてあげることを女の子に口走ってしまうクセはなかなか抜けないみたいだ。

  「みーちゃった。」

  背後を振り返ると姫川が立っていて、しっぽを掴んだとばかりのしたり顔でこちらを見ている。

  「何が見ただよ。ただの社交辞令だあんなもん。」

  「アンタがそのつもりでもねぇ、“あんな”を女は大事にするもんなのよ。後でハヤテ姐さんに報告しちゃるからねっ。」

  「………」

  __________

  ______

  ___

  『ハヤテさん?』

  『なぁに?もっかいする?』

  『いや、そろそろ教えてくれていいんじゃないすか。なんで姫川をシーシャバーで働かせ始めたのか、自分のポッケから7万も貸したのか。』

  『サクちゃん、ピロートークで他の女の話なんかするもんじゃないよ?私だって、たまには傷つくことも___』

  『俺の記憶の中の色々とずるいハヤテさんが心の底からの善意で動いたことを俺は見たことないですけどね…』

  『さあて___』

  『あるんでしょ、なんか。』

  『………絶対絶対、姫ちゃんには内緒にする?』

  『事の酷さによります。』

  『実はね____』

  『つまり?情弱のバカを釣る課金型のサクラアダルトチャットサイトであいつの元彼に河南省のダルメシアンだと嘘をついて甘い台詞を書き込み、ポイントを搾り取りキックバックを貰っていたのがハヤテさんだと?』

  『いやぁ、ピュアだったねぇ、彼。懐あったかぁくしてもらったわ。そんでもって世間は狭いねぇ、サクちゃん。』

  『それでまぁ、あいつの話を聞いて自分の非もあったからそれの詫びだと?』

  『だあってぇ、ホントはできもしない無茶振りしてどんなしょっぱい誤魔化し方するのかなーって楽しもうと思ってただけなのに、あんな情弱の童貞くんがほんとに彼女作って肉欲に耐えてるなんて思わないしぃ…姫ちゃんには正直悪いことしたと思ってる。だから7万貸したわけだし。』

  『…まだなんかあるでしょ。だってそれなら、アイツをシーシャバーで働かせる必要ないでしょ?“一応お金のことだからあたしの目の届くとこでで管理はさせてもらうね。”とかもっともらしいこと言ってたけど。』

  『…一応うちのシーシャ、紹介制度あるのよ。正式配属で1万。彼女が半年働けば3万。1年働けばもう3万。』

  『つまりあいつに恩を売って1年間働かせれば貸した分の金は戻ってくるからむしろプラス7万と…』

  『そゆこと。』

  『うーわ!ひっでえの。』

  『あの子に言わないって言ったからね!?アタシ聞きました!』

  『言ってないですぅー!』

  『…それに、あの子のことちょっと気に入っちゃったしね、頑張って走って生きてて。手元に置いときたいのよ。』

  『それに、恋で失敗しないためのアドバイスだってしてあげたから、それだけの価値はあると思うけどね?』

  

  ____

  ______

  _________

  

  「…お前も苦労するよな。」

  「?まぁ、和菓子週2、シーシャ週4はきっついわ。でもまぁ、実入りは増えたし楽しいし。ハヤテさん優しいし、お金返すのは1年後でいいって言ってくれたし。」

  

  「………まぁ、頑張れよ。」

  …可哀想な目にあう奴だなぁ、同情するわ。

  「そういえば、あんまり女の子と遊ばなくなったよね、金城くん。EDにでもなったの?」

  「あー、まぁ、ここ数ヶ月で色々あった結果というか…お前見てるとしばらく複数の女の子と遊ぶのはいいかなって思っただけだよ。」

  「ふぅん、モテる奴でもやめる時はそういうもんなんだ。ていうか、私のおかげ?」

  「さぁ?でも案外そうかもな。」

  _______

  

  『でも実際7万飛んじゃったしなあ、いつまでも実家に甘えてんなってママに言われたから引越し代金にしようと思ってたのに。』

  『知らないっすよ、自分の業でしょ。』

  『でもあの時私達があの子に会わなければ姫ちゃんは8万手にしていたと思うと、サクちゃんだって責任を少しくらい感じてもいいんじゃない?』

  『いや全く。』

  『アタシは責任とったのに?』

  なんと身勝手な理屈なんだ、プラスにしたくせに。

  『じゃあ俺はどうしろってんですか?あいつにライブハウスで労働させてピンハネしろとでも?』

  『あたしが引越しできない分、サクちゃんの部屋に住ませてよ。』

  『それは__』

  『ずっと。』

  『…………まぁ、いいですけど…。』

  

  

  この6年後、なぁなぁの関係で2人暮しをしていた俺とハヤテさんはなんとなく結婚したんだけど、爛れた大学生活が嘘のように子どもを6人もこさえて大家族を作ったわけなんだけど、それはまた別の話。

  _______

  20時。閉店後、蛍の光も流れ終えたデパートでは毎日地下1階でしのぎを削るテナント業者さん達が明日の陳列やレイアウトで毎晩よその店よりも、と創意工夫を凝らしている。

  私は現在、なくした貯金を再度貯めるのとハヤテさんへの借金を返すためにふたつのバイトをかけ持ち中ってわけ。

  「ユキちゃーん。大虎屋さんの勝ち栗まんじゅう搬入口に持って来てるらしいから、サヨリ君連れて伝票貰ってきて~?あと、ついでに受け取り方とか教えてあげて~?」

  中年アライグマ女性のスタッフさんが指示を飛ばす。

  「はーい!サヨリくん納品対応初めてでしょ?付いてきて。」

  「はい!」

  サヨリくんはうちの大学を希望している高校3年生で、優しい顔立ちの黒柴犬。容姿はそこそこ。

  老舗菓子屋本舗の一粒種でいわゆる御曹司ってやつ。

  元は田舎発祥の一族経営だからか、若い跡継ぎにはちゃんと苦労をさせろという意識が強く、1番下っ端の立場で現場の仕事もさせられているらしい。

  そのせいか彼は私たち支店の末端従業員に対してもまったくいばらないし、勉強熱心だし、教えたことはすぐできるようになるし凄い。

  サヨリくん、なんて呼ばれ方も本人がかしこまった呼び方は嫌だという意向から。

  遅刻もしないし、すごく立派な子なんだけど、最近どうも集中力に欠けるというか。

  レジのレシート用紙切らすし、商品落とすし、陳列がヘンテコだし。

  「サヨリくん。いつものメモと筆記用具持ってきてる?」

  「ああっ、すいません。覚えてあとで書きます。」

  「大丈夫だから。走って取りに戻ろ。」

  あからさまにぼーっとしているんだけど、やっぱり皆遠慮して強くは言えないし、そもそも大学受験が間近なのにバイトしながら、という環境じゃおかしくなっても無理ないよね。

  走ってる時も上の空。と思いきや、私のところをぼーっと見ている時があって、何かあったのかと聞くと俯いてすいません、とだけ。

  「サヨリくん。」

  納品を終えて清掃中、ふきんで何回も同じところを拭き続けている彼に声をかけると、しっぽをパタつかせてこちらに応じる。

  「はい、姫川先輩。」

  「帰り、ちょっと付き合って。」

  ______

  木枯らしの吹く針葉樹にイルミネーションが巻かれた賑やかな通りをゆっくりと歩く。

  「もうすぐ、クリスマスですよね?僕ら和菓子の店は洋菓子に比べれば需要ないですから。頑張らないと!姫川先輩も、やっぱりクリスマスには和菓子よりもケーキですよね?いやでも、モンブランだって栗だし。うちで作ろうと思えば___。いやむしろ、小豆でこしらえた和風ケーキなんてのも目新しい感じがして___」

  「サヨリくん、最近どしたの。」

  取り繕いながら喋りを捲したてる彼を止めつつ、本質の問いを投げかける。

  私だって別に鈍感なわけじゃない。

  多分彼が上の空なのは私に起因してるんだろうけど、それで仕事に支障が出ても困る。

  「僕は何も…何も。」

  「言えないこと?それとも言いたくないこと?」

  「ぼくは…僕は…」

  「ちゃんと言って。」

  「…僕は、先輩を… …………あの、先輩と同じ大学、受けるんです。」

  「うん。うん?」

  あっ、好きとかじゃないんだ。自惚れすぎたかな?

  「その、先輩は仕事に真面目だし、綺麗だし、みんなに優しいし、笑顔が素敵だし。それで、その…その…先輩って、今付き合ってる人とか、いますよね?」

  「…ん?ええ!?」

  え、なに!?私ならいてもおかしくないよとかいうそんな感じの!?

  彼が私の何を知ったか勘違いもいいとこだけど、別にいないし、男なんてろくな奴がいないんだから私に今現在恋愛をする気は毛頭ない。

  「いや別に、いない、よ?」

  「でもこの前、大学見学行ったら先輩、アフガンハウンドのチャラい男と歩いてたから…。」

  チャラいアフガンハウンド…金城くんのことか。

  あー、それ見ちゃってたんだ。

  というか、大学に来てまで《《私の事探してたんだ》》。

  

  冷えた空気に晒されてか、思いをうちあけた羞恥心か、サヨリくんの頬は真っ赤に染まっている。

  とはいえ、私と彼とじゃ生まれ育った家系も釣りあわないし、まだ彼は言ってしまえば子どももいいとこだ。

  身近にいる女に対して、恋に恋しているだけなんだと思う。

  ここはひとつ厳しいけど、今大事なのは彼が立派な大人の男に近づくことで、そのためには___。

  ______

  『ふぅっ、ふぐっ、男なんて、どいつもこいつもヤリチンも玉無しも去勢すればいいんだ…。』

  『また泣いてるの?ユキちゃん。』

  『ハヤテさぁん…ハヤテさんは金城なんて見境なしのヤリチンのどこがいいんですかぁ…男なんてみな同じ…同じなんです…行き着く先は全て己…』

  『ふふふ、私もたまぁにそういう風に思うわぁ。そんな姫ちゃんに二度と男に負けないナイスなアドバイスを一つ、教えてあげる。』

  『攻略できるんですか?それで、男を…。』

  『少し違うかもね。大事なのは男を攻略した上で、しっかり手綱を握ること。』

  ハヤテさんがお酒に溺れて意識を失いつつある私に刷り込むように囁く。

  『まだあまり手のつけられてない、まっさらな好みの顔の男を捕まえてね、自分好みに育てて、何があっても私をいつか好きになるようにというところまで作り変えちゃえばいいのよ。私のような女を好きになっても、どんなに綺麗な女を抱いても、必ずいつかは私のところに戻ってくるように。』

  「んん?…へぁい…。」

  ______

  そのためには_____。

  「………姫川先輩…俺、ごめんなさい。でも、自分でもわかんないですけどどうしても、なんか…」

  「サヨリくん、あたしのこと、そんなに好き?」

  立ち止まって、彼の瞳を見つめる。メンズメイクを知らない顔。ワックスの付け方が未熟な髪。学ランの彼はおそらくファッションのセンスもあまり磨かれては来ていないだろう。

  

  “”作り変えちゃえばいいのよ。“”

  「サヨリくん。大学で一緒に歩いてたあの男はね、私が週3で働いてるシーシャの先輩の彼氏で浮気防止に見張ってるだけ。」

  「そうなんですか?」

  不安が消えたサヨリくんの顔が明るく輝く。

  分かりやすくて、

  可愛いなぁ、もう。

  ハヤテさんも、もしかしたら金城くんに対してこんな気持ちを持ってるのかな。

  「サヨリくん、次のクリスマス、デート行こっか。」

  そんなこんなで私はクリスマスに玉の輿カップルを作ったわけなんだけど、家に帰る途中のゴミ捨て場で土下座をしながら国民服を着た元彼のようなゴミを見つけた。

  「ユキちゃん。俺がわるかった、ごめん、許して欲しい。あのチャットレディに言われるがまま中国に渡海して俺が何に踊らされていたか気づいた時、あらためて君のの大切さが…」

  そう囀るゴミの顔面をノールックで蹴飛ばして空を見上げると、あの晩のような月が輝いていた。

  あの時は泣き叫びたくなるような、

  今は笑いたくなるような。

  きれいな、まぁるいお月様。

  

  

  

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