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ダイショウ

  そこは、照明が点いていない地下2階の昇降口横にある普段誰も立ち入らない廃品回収室。

  図書室にもう置けなくなった古い本や、旧版の教科書を捨てるためのスペースで一年に一回くらいしか開かれないのだそうだ。

  52..53..

  約束の時間まで、あと10秒ない。今ここで、教師なんかが通ったらどう誤魔化せばいいんだろう。

  耳を塞いで外音を断たなくても自分のどきんどきんという心音が聞こえて来るほど緊張が止まらない。

  こんな目立たない部屋の前でお金とコンドームを持って扉の前でプルプル震えてるプレーリードッグなんて恥ずかしいどころじゃないんだ、早く時間よたってくれ…というか、本当に“いるんだろうか?”

  57..58..ガチャリ。

  2秒前、不意に扉が開いて暗い部屋の中から背の高いアオダイショウの男子生徒が1人出てきた。

  「え、なに?ずっと待ってたん、キミ。…ていうかホントに来たんだ。まぁ、入りーよ童貞くん。」

  大きくも細い指に腕を掴まれて部屋に引き入れられる。

  僕はこれから、多分童貞をなくすことになる。

  _____

  次の講義への移動時間。

  1年生は遠慮がちに廊下の隅を、2、3年生は真ん中あたりを時に横並び、譲ったりしながら歩いて様々な生徒が行き交う。

  僕は、いつも通り一緒にはいるけど特別仲良くしている程でもないクラスメイト達の後ろを歩いている。

  「タピオカ新作飲みいこーぜ」

  「たけえやん」

  「ジャン負けでいんじゃん?」

  

  僕は何も喋っていないけど、こうなるとなんだかんだで僕もジャンケンに入れられて、負けたら全員分の金額を出す。

  そうでなくても、もしリーダー格のレッサーが負ければなんだかんだとノリにのせる風にして僕に払わせようとする。

  多分、体のいいスケープゴートが欲しいだけなんだとは薄々思う。

  実際、僕は彼らの連絡先を知らない。

  でも、地元の中学校から1人だけこの高校にやって来て、誰ともつるまずに自分より大きな体をした獣人たちが賑やかに行き交う廊下を1人で歩く方が、弱いプレーリードッグの僕にとってよっぽど怖い。

  講義室に向かう途中、職員棟を抜けようとした際に生徒指導室から1人の生徒が出てきた。

  「ツェレさんじゃん」

  「またブタちゃんに呼ばれたんだ」

  

  制服もきちんと着こなすつもりがないのかしわくちゃのシャツでいつも歩くツェレ、と呼ばれた背の高いアオダイショウは学校唯一の爬虫類生徒で、いやでも目立つ存在だった。

  廊下を一緒に歩く友人もいる様子がなく、素行も悪いのかしょっちゅう生徒指導室に呼び出されている。

  でも、スタイルと顔がいいため女子からは密かに人気だそうだ。

  ツェレ先輩は、僕たちには目もくれずポケットに手を突っ込んだまま階段を降りていった。

  

  _____

  昼休み、囲んで弁当を食べているとまたツェレ先輩の話になった。

  「先輩から聞いたんだけどさぁ、ツェレ先輩、[[rb:売春 > ウリ]]やってるらしいよ。」

  ウリ?バイトのことなんだろうか。

  「マジで?」

  「いや知らんけどさ、ちゃんと聞いてねぇし。ただのヤリチンだったかもしれん。」

  調子に乗ってきたのか、レッサーの口が回り始める。

  「んだそれ。」

  「でも女子から結構人気あるくない?」

  「じゃあママ活か!40代のババアのマ○コ舐めてんでしょ。」

  

  「うわえぐきっつ!」

  「40はいけるだろ!」

  「お前それAVの中だけだろ童貞!」

  「お前もだろ!」

  「いやでも俺ツェレさんなら行けるかもしれん。」

  「ぎゃはっ!パチこいてんなよ!」

  どんどん遠慮がなくなってきたところで、嫌な予感がしはじめる。そして、大抵こういう時に理不尽なゲームが始まるんだ。

  「じゃあさ、ジャン負けで負けたヤツ援交できますか?って聞く役ね。」

  _____

  結果として、僕は放課後の今、ツェレ先輩を探して学校をさまよっている。

  ポケットの中には、ICレコーダーがひとつ。

  結局、僕になった。というか、レコーダーが用意してある時点で何らかの口裏は合わせていたんだと思う。

  絶対に行きたくない。

  僕の考えなんて気にもとめず、彼らは笑っているんだろうか。

  でも、僕はそんな連中でカモフラージュしてまもってもらわなきゃ耐えれないほど、弱い。

  いやだ、って言えたらどんなにか楽だったろう。

  誰も通らない、日差しの残る渡り廊下をぐるぐる探すふりをして歩いている。

  誰も通らず、永遠に独りならいいのに。

  _____

  何も考えずに、誰もいない廊下をぐるぐると歩いていると、いつの間にか日が落ちかけていた。

  見つからなかったのを、喜んでいいのか分からない。彼らは、きっと白けるとは思うけどいないものはしょうがないんだから。

  帰る前に用を足そうとトイレに行く途中の廊下で、生徒指導を担当するイノシシの先生とすれ違う。

  会釈をすると、怪訝そうな顔をして

  「早く帰れよ。」

  とだけ告げられさっさと歩いていってしまった。

  空気の巡りが悪いのかどんよりとした粘ついた空気の流れるトイレの中に、ツェレ先輩がいた。

  シャツがトイレのタイル床に無造作に脱ぎ捨てられ、上半身は裸だった。顔に小さく痣がついていて、冷やすためかしきりに顔を洗っている。

  「…なに。」

  僕に気づいた先輩が、声をかけてくる。

  見た目に合わない、優しい声だった。

  「あの…大丈夫ですか?」

  「…別に、暑いだけだよ。気にせず用足しな。」

  生徒指導、よれたシャツ、アザ、呼び出し…

  いけない方、いけない方へと考えが及ぶけど、繋がって仕方がない。

  「あの…ツェレ先輩ってお金払えばセックスさせてくれるって本当なんですか?」

  軽薄な友人たちのことも忘れて、ただ興味のうちに聞いてしまう僕がいた。

  ぴくりと動きが一瞬止まった後、ツェレさんは明らかに敵意を含んだ目でこちらを睨めつける。

  逃げようとしたら殺されそうな雰囲気を感じとり、後悔が全身を包んだ。

  汗が冷えていくのを感じる。

  「…どこの誰がそんなこと言ったんよ?」

  ずい、と近寄ってきたかと思うと胸ぐらを掴まれて、目を僕の顔のすぐ近くに寄せてくる。

  「まずさあ、話したこともないやつが最初に口走ることじゃないやろ。お前んとこ、挨拶も名乗りもせんのけ?」

  「…い、え…すいませ…」

  「やろが。口の利き方には気ぃつけよ。」

  あっさりと解放され、手を離されて床に尻もちをついてしまう。

  怖い。こわい。この状況、何とか切り抜けるには___

  上を向くとツェレさんと再び目が合う。瞬間、僕は土下座をしていた。

  

  「すいません!ぼく、童貞なんです!」

  「はぁ__?」

  「皆んなが話してる学校の噂で聞いただけだから、誰かから聞いたとかじゃないんですけど、結構みんな話してて!ぼく、全然モテなくて冴えないし友達いないから、童貞捨てれば何とかなるんじゃないかって思ってたんですけどでもモテないから捨てれなんです!だから噂聞いた時に何とか頼めば童貞捨てれるんじゃないかってでも男じゃんってよぎったんですけどツェレさんのこと意識した時に確かに綺麗な人だよなとか思い始めると止まんなくてそれで今日も放課後探し続けてたっていうかそしたらツェレさんが今裸でいてなんかもう気持ちが抑えきれなくなったというかつい___」

  その場逃れの、苦しい言い訳だったけど殴られる回数を減らしたくて、自分でもわけのわからないことを口走っていた。

  ツェレ先輩は、なんとも微妙な反応をしている。

  「いや…まぁ…分かったけどな?」

  僕のまくし立てた戯言で毒気が抜けてしまったのか、先簿とのような剣呑な空気はなくなっていた。

  「とりあえず頭上げてくれてえぇから。…まぁ悪気がないんは分かったし人の口には戸が立てられんしなぁ…ヤってるのは事実やし。」

  「失礼なこと言ってすいませんでした!」

  「…まぁ、[[rb:赤色校章 > いちねんせい]]に言われたからムカついたけど自分悪いコじゃなさそうやし、分かったわ。」

  なんとか事なきを得たみたいだ。

  「これから話すことは絶対秘密やから冗談抜きで漏れたらお前だと思って噛み殺すからな。」

  自分が生まれてこの方、これより殺すという言葉に凄みが乗るのは初めてだった。

  そして、ツェレさんはほんとにやるだろう。

  「明日、13時の昼休みに地下2階昇降口横にある廃品回収室に5万持ってき。お望みのことしたるわ」

  5万。1回の学生に、とても払える金額ではない。

  「あ、もしさっきのあれが苦しまぎれの言い訳で明日来なかったりしたらそん時も、分かるな?」

  じい、と細く尖ったあの目で見つめられて僕はただ、はいと言ってしまった。

  _____

  

  ___

  _

  「ようこそ、秘密基地へ。」

  廃品回収室の中は古い本とダンボールで満たされ、どこか落ち着く香りがした。

  天井は狭いけど奥行があって思ったよりも広く感じられる。

  ツェレさんは扉を閉めるとランタンの明かりをつける。

  暖色系のくらい光で室内が照らされ、本の山でできる影が不規則な模様を壁に描き、それらが織り成す怪しい雰囲気の部屋に変わった。

  部屋の中央には、ダンボールの上に敷かれた毛布とクッションが、無造作に置いてある。

  「そんで?まぁ、ウチは先払いでやってるから。とりあえず出すもん出してみ。」

  恐る恐る封筒を差し出す。

  中には紙幣はまとまってないけど5万円入れてきた。

  もちろんまともなお金ではなく、共働きの母に“お腹の調子が悪すぎてトイレから出れそうにないから午前中だけ休ませて欲しい”と頼み、

  その午前中のうちに中古ショップに行って自分の手持ちのゲームやらなんやらを売り払い、貯金箱も叩き割ってようやく得た5万円だった。

  「がんばったなぁ。別に3万しかダメでしたでも許したのに。普段は2万でやってるし。」

  ツェレさんは5万円を全部懐にしまってから飄々と話す。

  ボラれた、のだろうか?らしい。

  「まぁ、5万円分はきっちりやったるから、君も服脱ぎな。…そういや、ジブン、名前は?」

  「オルワ、オルワね。じゃあオルワもはよこっちおいで。昼休みは長いようで短いんやし。」

  ツェレさんの縞模様がランタンに照らされて、深い色へ変わっていく。

  あらわになった上半身には薄く腹筋が付いていて臍の方まで一本のラインとしてつながっていて、横向きの模様の中ですごく特徴的だった。

  自分の体とは比べるまでもない美しい上半身だった。

  蛇は、全身が筋肉だらけと言うから自然とこうなるのだろうか。

  でも…

  なかなか踏み込めないで、もじもじとしているとツェレさんがまたこちらに寄ってきて今度は腕で抱きしめられる。

  「…やっぱり怖い?ジブン、“そっち”初めてなんやろ、やっぱやめとこか。」

  自分の毛だらけの小さな体がツルツルとして、ひんやりとした体にすっぽりと包まれる。

  緊張で変に熱くなった体が、冷たい肌と落ち着いた心音で落ち着いてくるのを感じた。

  「…みたいです」

  「ん?」

  「してみたいです…ツェレ先輩と…」

  人生で一度もしたことのないけど、愛の告白をしてしまった時のような、胸の高鳴り。そして、後戻りができない所に来たという暗い興奮。

  

  これらを一気に1人で抱え込むのがなんとなく苦しくて、先輩の胸に頭をうずめると、先輩はまた優しく頭を触ってくれた。

  「初めてやしな。ちょっとゆっくりめで行こか。掃除くらいならサボっても平気やろ。」

  

  そういって、撫でていた頭から右手を離し、顔の輪郭を冷たい指でなぞる。

  耳、目元、唇、首、胸___

  徐々に徐々に右手を下へと進めながら、左手で僕のカッターシャツのボタンを外していく。更にはズボンまで脱がされてしまった。

  腹、背中、鼠径を冷えた指がつう、と触れていく。いつの間にかペニスがパンパンに膨れていたけど、ツェレ先輩はそこにはまだ触れない。

  息を荒くしながらされるがままにしていると、粗末なダンボールの敷物に体を倒される。

  「“そこ”はまだお預け。かわいい体してんやからもう少し確かめさせてな…」

  耳元で急に囁かれ、発した言葉の一音ごとにぞくりとした快感で脳が揺れる。

  そして今度は、足の指に小さくて細いものがちろちろと動き回るのがわかった。

  指を1本ずつ、しっぽの先がなぞるように這い回る。

  太ももから、脛のところまで等間隔に圧迫される感触もしている。何かが巻き付いているようだ。

  暗くてはっきりとは見えないけど、先輩は今服を全て脱いでいて、腕から体からしっぽまで全てを使って僕の全身を包んでいる。

  「知っとるか?ヘビはな、全身絡みついて交尾すんのよ。いま、こういう風に、な。」

  ぎゅううう…と力強く体を締め付けてきた。

  血が上手く巡っていないのか、血管が張りつめる感覚がして少し苦しい。

  この痛みを終えたくはないという気持ちとなにか別の行動で痛みに耐えてていたいとという気持ちが湧いて、僕の方からも強く腕を使って、必死に抱きしめた。

  ツェレ先輩の肌は、僕の体温が移ったのかほのかに温もりを帯びている。

  冷たく締め付ける先輩の体に僕という存在が溶けていくみたいで、ゆっくりゆっくりと食べられているようだった。

  「な、キスしよか。」

  そう言って先輩は少しだけ僕への拘束を弛めて顔を僕に近づけて、 暗がりでもきらめく目を閉じ「ん」と口を出してきた。

  自由になった反動と、もっと“絡みつきたい”という欲求から馬乗りになって押さえつけ、唇を合わせる。

  話す度にちろちろと見えていた赤い舌に触れたくて、自分の舌を割入れるように突き出すと柔らかくて細い肉に触れた。

  二股に分かれたセンパイの長いそれが舌を撫でて、僕が絡めようとすると右へ左へ動かして避けようとする。

  僕は舌を捕まえられないことがもどかしくて、更に先輩の顔を強く掴んで逃がさないようにしているとニヤニヤと笑いながら僕を見ていた先輩に体を持ち上げられた。

  と、同時にツェレ先輩は初めて聞く声で笑った。

  「…どうして、」

  「アハハ!ごめんごめん。すんごいがっついたキスしてくるからからかいたくなってな?でも可愛かったで。」

  体を起こしたツェレ先輩は僕をあぐらの上に乗せて、再びしっぽで僕の体を固定する。

  「でもな?セックスだからって無闇に舌突っ込まんでも気持ちいいキスはできんねんで?」

  そう言って軽く唇を合わせたと思うと首、耳にリップ音を響かせてくる。

  上唇を吸って、少しだけ牙で噛まれる。

  ちくりとした痛みが走ったあとそこをうっすらと舐められて、もう一度キス。

  「同じように俺にもしてみ。」

  少しだけ先輩の唇を噛むと、小さく

  「んっ…」

  と色っぽい声を上げる。

  首に腕を回しながら顔全体にくちづけをしていく。

  顔のラインや目の形、柄模様まで唇が触れたところがパズルのピースを埋めるように分かり始める。

  知れば知るほど、なんだか愛おしくなってくる。

  「ふふ、じょーずじょーず。ちゅーが好きになってきたか?」

  頭を少し寄せられて唇を塞がれると、長い舌がぬるりと入り込んできた。少しだけ僕の舌に触れたと思うと、唇の中を探るように這い回る。

  歯列をなぞって、歯茎を、歯肉を、口腔の上部をくすぐられてくすぐったさに悶える。

  

  「先輩…僕、もう…」

  「だめ。まだイッたらあかんよ。」

  パンツを下ろされ、はち切れそうになってとろとろとした液体がとめどなく流れる僕のペニスを先輩は優しく導く。

  「初めてなんやから、最初はこっちでな?」

  ぐ、と少しだけ突っかかったかと思うと、冷たい先輩の中に入っていった。

  亀頭を先輩の中ヒダがにゅるにゅると締め付けながら奥へ奥へと飲み込んでいく。

  「もう、でっ…」

  「ええよ。ギューしてイキな?」

  瞬間、先輩がまた僕を全身使って絡めとる。

  ペニスが締め付けられ、体を巻き付けられ、長い舌が僕の舌にも絡みつき絞りあげられる。

  びゅくっ!どく、どく!びくっ…びゅ…

  しがみついてする射精は気持ちよすぎて、一瞬意識が飛ぶ。

  「ふぅ…う…」

  「可愛い顔でイッてたなぁ。」

  「ごめんなさい…中に…」

  「全然ええよ。それより、まだオルワ君は満足してないみたいやけど?」

  ツェレ先輩が中を少し動かして果てたばかりで敏感な僕のペニスを刺激する。

  すごく沢山出したのに、固いままで萎える気がしない。

  「そやな、初めてでも立派に射精できたジブンにちょっとサービスしたろか。」

  そう言うとツェレ先輩は僕に馬乗りになって深い息をつく。

  より奥の方にまでペニスが潜り込むと、きつく締めつけて腰を反り、前後にグラインドし始めた。

  先輩の中と僕の精液がぐちゃぐちゃと卑猥な音を立てて混ぜこぜになる音が欲情を誘う。

  我慢できなくて…また出そうになってくる。

  「せんぱ…これ、刺激が強すぎ…」

  「そうか?じゃあもっと頑張るな。」

  そう言うとグラインドをやめて今度は腰を上下に振り始めた。

  2、3回馴染ませるように出し入れするとゆっくりと、腰を上に持ち上げてじわじわと刺激する。

  先輩のお尻と僕のペニスの間でお互いの中で混ざった卑猥な液がねちゃりと音を立てて糸を引いていた。

  そして一気に腰を落とし、中のヒダがぞりゅぞりゅと激しく刺激を与えてきた。そのまま早いペースで腰を振り、時に腰を浅く落として亀頭の部分だけを刺激するように動く。

  ばちゅっ、ばちゅっ。

  肌と、液体がぶつかって混じり合う音。

  センパイの体温。肌に触れる手。息づかい。

  「せんぱいっキス、キスしたいですっ」

  「ええよ。んっ…ちゅ。る、」

  熱い息が溶け合って、舌が絡まる。唾液が口の中でぐちゅぐちゅと混ざり合って交わされるキス。

  先輩の口の中、鋭い牙、頬の内。全部を舐め取り、舐められて、また精液が上がってくる予感がした。

  「中膨らんできたし、そろそろ出そうやろ?遠慮せず全部出しーよっ。もう、二度とヘビ以外とセックスでけへんようになるけどな。」

  そう言って腰をさらに激しく振り、しごきあげる。

  そして、交わした舌が奥に、奥に、食道まで入り込んで、喉の奥を這い回る。

  呼吸が思うように行かなくなり、ペニスへの刺激と食道を撫で回されるその感覚だけがより鮮明に感じられて、

  舌がぐるりと喉の裏を一周した瞬間、ぞわりとした感覚が脳を通り抜けて、そのまま快楽の波に飲まれた。

  _____

  目が覚めると保健室のベッドに寝かされていて、時計はとっくに6限目の時間を回っていた。

  保健室の先生が言うには、“渡り廊下”で倒れてたのをツェレ先輩が背負って連れてきたらしい。

  なんでも、そのままその足で退学届けを出しに行ったことと、生徒指導のイノシシの先生の頭を分厚い辞典でフルスイングしたらしく、騒ぎになったそうだ。

  「あなたのこと連れてきてはくれたけど首のそれ、ヘビに噛まれた傷よね?何か、知らないの?」

  首にいつの間にかはられていた絆創膏を触ると、ちくりとした痛みが走る。

  あれ以降の記憶がないから、僕にもどうしてこの噛み跡があるのかはまるで分からない。

  けど、あの時間のツェレ先輩はずっと優しかった。

  僕が意識をなくした時付けられたこの傷からも、“イヤ”な感じはしない。

  それを確信に感じるのは、一時だけでもキスや、触れ合ったりして共有したものがあるから。

  「いや…その…話したこともないので分かりません…」

  

  保健室を出るとズボンの違和感に気づく。

  レッサーに持たされていたレコーダーが入りっぱなしになっていたんだ。

  イヤな笑顔が思い浮かぶ。

  と、同時にツェレ先輩の誘うような笑顔もう噛んできて、首がまたちくりと痛んだ。

  誰もいない職員棟の廊下で、ICレコーダーを思いっきり床に叩きつけた。

  ____

  それからの僕は、たまたま同じゲームを持っていた大人しいオタクのグループの子たちに迎えられて、教室の隅っこで仲良くするようになった。

  道も相変わらず隅っこを歩くけど今は横並びで歩けている。

  例のレッサーには、叩き壊したICレコーダーをそのまま返してやったけどツェレ先輩がやったことと、首の絆創膏を見たことで勝手な解釈をしたのか「ごめん」と一言だけ謝り、その後は話しかけてこなくなった。

  ツェレ先輩については、生徒指導のイノシシが先輩に手を出していたことが露見して不問になった。

  退学してその後は地元を出たのか、誰も行き先が分からないらしい。

  親の借金で売られた、とか転校した、とか噂はたったけどそのうち誰も話さなくなった。

  ツェレ先輩は僕が払った5万円、何に使うんだろう?

  気にはなるけど、お金については何も後悔していない。僕がいる環境には、それ以上の価値があると思ってる。

  強いて言うなら、僕はあの日以来プレーリーの子を見てもときめかなくなってしまった。

  ____12年後

  22時。出張先での仕事を終えた僕はたまにはどこかで静かにお酒を飲みたいなとあまり流行ってなさそうな、ビルの地下にあるバーに行った。

  地下2階まで降りていくと、「drift」と書かれた店があり、扉を開ける。

  中はそれほど広くはないけどカウンターには4人ほど座っていて、パーテーションの奥にも集団の客がいるらしい。

  人気の店みたいだ。

  「すいません、1人いいですか。」

  「いらっしゃいませ、こちらの席どうぞ。」

  店内はスタンドライトがついているのみで薄暗い。

  マスターは品のいい初老の梟で、目立たないよう首を回して客の様子を眺めている。

  「おしぼりをどうぞ。」

  その声を聞いた瞬間、怪我をした覚えのない首にちくりと痛みが走る。

  いつの間にか後ろからおしぼりを差し出してきたボーイの顔を見ると、背の高いどこかで見覚えのあるようなアオダイショウの男。

  もしかして…

  「おしぼり、あたたかいのもございますよ。」

  一瞬止まった僕を見ていたマスターが、声をかけてくれる。

  「いえ…冷たいのがいいです。」

  受け取ると店の中は少し忙しいのかさっさとヘビのバーテンは裏に入ってしまった。

  「なにかお作りしましょうか。」

  「…アイリッシュブルー、お願いします。」

  人気の店なのか客はひっきりなしに現れて、ヘビのボーイはテーブル席を拭いたりツマミのチェックをしに行ったりと忙しそうだ。

  あの日以来、彼女を作ったりもしたけどあんまり長続きしなかったよなぁ…なんて古い思いに浸っていると、いつの間にか0時近くなっていた。

  「お気をつけてお帰りください。」

  会計を済ませて、少しほろ酔いで店を出ようとするとボーイが扉を開けて見送りの待機をしていた。

  覚えているだろうか。違う人だろうか。

  不自然にならないように、ボーイの目の前で手のひらを首に当てる。

  「またお越しくださいませ。」

  ボーイは何も意に介さずお辞儀をする。

  やっぱり人違いだよな。

  階段を上がろうとしたその時、つう、と首の後ろから喉までをなぞられた。

  忘れるはずもない、あの感覚。

  振り向いたその時、ずくりとした痛みが首に走る。

  「…これでもらいすぎちゃった5万はチャラね。」

  顔を見る間もなくボーイは店に戻っていて、非常灯が照らす暗い階段に、僕は1人取り残された。

  その晩、僕は久しぶりに3回も出した。

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

  

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