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「お呼びですか、カズトさん。」
関羽は静かに一礼した。
着物の内側で呼吸が整う。その身体が、もうすぐ“自分のものではなくなる”とも知らずに。
「少しだけ付き合ってもらうよ。」
その声を合図に、背中の奥――骨の内側が、ぞわりと震えた。
「……っ」
痛みではない。
押し広げられる感覚。
内臓が正しい位置からずらされ、背骨に沿って“何か”が形を取っていく。
次の瞬間、着物が内側から盛り上がった。
――ズ、ズズ……
布越しでも分かるほどの硬質感。
茶色の巨大な甲羅が、皮膚を押し破る寸前で止まり、じわじわと存在を主張する。
「重……これは……」
重心が狂う。
肩ではなく、背中全体で重量を背負わされる異様さ。
逃げ場はない。
腕が変わり始めた。
細かった肢が、内部から膨張し、関節が別の角度で固定されていく。
皮膚は冷たい水に浸したように青く染まり、指先は爪へと変質する。
床に触れた瞬間――
カツン
硬い音がした。
それだけで、自分が「柔らかい存在ではなくなった」ことを悟らされる。
脚も同様だった。
太く、短く、踏みしめるための形へと再構築される。
畳の感触が、鈍く、遠くなる。
呼吸が変わる。
胸が大きく開き、喉の奥に水を通す前提の構造が生まれる。
顔にまで違和感が及んだ頃には、関羽はもう抵抗を考えていなかった。
頬が丸くなり、視界が横に広がる。
耳が引き延ばされ、頭の上へと移動する感覚。
そして――
さらり、と。
黒髪が抜け落ちる。
未練すら感じる暇もなく、不要なものとして排除されていく。
鏡の前に立った時、そこにいたのは。
青い皮膚。
厚く、逃げ場のない甲羅。
人の服を着ることすら前提にしていない体。
「……」
喉が震え、低い声が漏れる。
「……カメックス……ですね……」
「そう。」
カズトは満足そうだった。
関羽は、甲羅に指を伸ばす。
叩けば、確かな硬さが返ってくる。
これは幻でも、仮の姿でもない。
「……一応、私……」
少し間を置いてから、ぽつりと零す。
「草花を扱う職業なので……本来なら、もっと繊細な……」
「うん。でも。」
カズトは即答した。
「この重さ、似合う。」
その一言で、逃げ道が完全に消えた。
「……そう、ですか。」
関羽は受け入れる。
重さも、形も、役割も。
背中の甲羅が、自分の存在証明のようにそこにあった。
「ちなみに。」
カズトは軽く付け足す。
「リザードンにしたら、背中がもっと熱くなるよ。」
「……想像しないでおきます。」
やれやれ、と息を吐く。
その動作ですら、甲羅が主導権を握っていた。
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