アセットは入学式を迎えた――否、今となっては迎えてしまったと言ったほうが良かっただろうか。
ケモショタスパッツ学園は都心部から30分程度のアクセスの良い立地に巨大な校舎を持ち合わせている。都心のマンションが立ち並ぶ中、忽然と有刺鉄線の張られた高い塀が現れる。その先は背の高い木々に覆われており、先の様子を見ることはできない。
外周は6キロにも及ぶ広大な土地にグラウンドや巨大な校舎、最先端の科学を研究するためのあらゆる施設が詰め込まれている。
ケモショタ学園は中等部、高等部と大学に別けられており全て同じ敷地の中に存在する。飛び級などの制度も存在し、生徒の学ぶ意欲を受け止めるだけの環境が与えられたその学園に入る寸前で、アセットはひとり悩んでいた。
「ど、どうしよう……」
この時アセットは早速スパッツのみ着用、という校則を無視していた。
――初日からいきなりみんなスパッツだけで登校するなんてそんなこと、ないよね。
しかし、そんな気持ちとは裏腹に校門を抜けるケモショタたちは、みんな校則指定のスパッツ姿であり、校則指定のスクールバックを背負い親と別れて元気に校門を潜っていく。
そんな光景を街路樹の影から見るしかないアセットは焦りを隠しきれなかった。
12歳、142センチのアセットは頬を真っ赤に染めていた。
彼は白い毛並みに包まれたポメラニアンのような風体のケモショタである。瞳はまだ少年を思わせる大きく丸く、薄いブルーをしている。
まだうら若い少年の彼の体つきは、まだ未発達だった。体の線は細く、肩幅は狭く、脚は細い。一見して牝のようにも見えるが、一応下腹部にモノはもっている。
極めて中性的な肉付きのアセットは、どこまでも恥ずかしがり屋であった。
「やっぱり辞退しておけばよかった……なんでこんな身分不相応な学校に着ちゃったんだろう……」
アセットは恥ずかしさを通り越して後悔をしてしまっていた。街路樹に額を押し付けて、悲しくて、涙が溢れそうになった。
[newpage]
アセットは真っ白なポメラニアンの母親と、ダルメシアンの父親の間に生まれ、大切に育てられた。
そんなに裕福でない家庭の一人息子として育ったアセットであったが、物心ついた頃から両親の些細な言葉に敏感に反応する子になった。
――アセットは私の言うことを聞いていい子ね。
――アセットも、こっちのほうがいいだろう。こっちのほうが理になかってるしな。
そんな母親の言葉に倣い、アセットが母親の言うことにしたがっていい子を目指した。
そんな父親の言葉に倣い、理のあるものを目指した。
両親は本を読んでおけばいい子だと言ってくれたし、勉強をすると更に喜んだ。アセット自身も勉強や読書は苦でなかった。
だから勉強は得意だったし、地元の小学校の勉強ではまるで物足りなかった。
自ずとレベルの高い中学、高校向けの教科書で学ぶようになった。小5の終わりにして高校生の勉強を理解するようになった時に周囲はひどく驚いた。
――この子は天才かもしれない。
周囲の薦めで中学受験を決めた。
近くの塾で模試を受けた結果、よほどの上位校でなければ無難に合格できるとのことだ。
でも、どうせ受けるなら五本の指に入るような学校に行ってみたい。
その中でもお気に入りになったのはローウェンス学園である。共学で、自由な校風が素敵だった。学校見学で行った時、素敵な制服に身を包んだ先輩が素敵だった。
白を貴重にしたセーラーに、鮮やかなブルーのスカート。
アセットはその時見た、たった一瞬すれ違っただけの女子生徒に本気で憧れた。
――アセットも女の子を意識するようになったのね。
「そんなことないよ……でも、女の子は好きかな……」
学校見学の帰り際、母親と入ったファミレスで彼女はそんなことを言った。
母親にこんな事を言うのは何処か変で、おかしなこと。アセットはそう思い、とっさに言葉を濁した。
それからというものの、アセットはテストで高得点を取るたびにもらえるお小遣いを貯めて、女の子向けのスカートを買った。買ってきた後、ランドセルにしまって慎重に家に帰った。
「た……ただいま」
――アセット、おかえりなさい。おやつはドーナッツよ。
いつもよりもずっと緊張して家に帰り、玄関まで出迎えてくれる母親にその秘密がバレないようにいつものとおりに振る舞う。
ランドセルを背負ったまま手を洗って、リビングに戻った母親に言う。
「宿題してくるね。おやつの前に……」
――えぇ、待ってるわよ。
二階へと駆け上がり、自分の部屋に入った。まだ頬が熱い。
ランドセルを開く前にクローゼットを開いた。このスカートは母親にも誰にも知られてはいけない。
クローゼットの中、冬着が収められている引き出しを思い切り引き、その奥の奥ギリギリのところに収めることに決めた。
でも、収める前にそのスカートを開いて、まじまじと見つめた。
見ているだけで胸が高まった。ドキドキという心拍数が増している気がした。
ズボンを下ろし、スパッツだけになった。
スカートをドキドキしながら履いた。股がスースーしていた。まるで何も履いていないようだった。
姿見に映った自分の姿を見た。
「……あ……」
女の子の姿をしている自分に違和感はなかった。
いや、そうじゃない。
今までの自分が違和感しかなかったのだ。
理由もわからない大粒の涙がボロボロと溢れてきた。胸がどうしようもなく苦しくなり、両手で胸元を掴んで顎を引いた。真珠のような涙がぽたぽたっ、とマットの床に溢れてシミを作った。
男の子で、男の子の格好をしている自分が――何故か、酷く、違和感を覚えていた。
それが、当たり前で当然だった日常。でも、自分に嘘を塗り固めた日常だった。
初めてそのスカート姿の自分を見て、自身のしたことを肯定できたような気がした。
親にバレないように、時々スカートを履いては姿見に映る自分を見る。スマートフォンでそれを撮る。
それが、家でひとりになったアセットの秘密。
新しいスカートが欲しくて、お小遣いをもらうために次の模試に向けて勉強を続けていた頃合いで、
父親がリストラされた。
[newpage]
「別に、地元の学校でもボクはいいよ。公立校ならお金にも困らないし……」
そう言うと、両親はどこか安心したような表情をした。
無理に勉強をする必要もなくなり、家に帰るのも遅くなった。
商店街にある高級な婦獣服を扱う店の、ショーウインドウにあるマネキンに飾られているひらひらのワンピースを見つめるのが日課になった。
もちろん、一介の小学生が買えるはずもない。
本当はローウェンス学園に行きたかった。しかし、お金のことを考えたら自分が無理を言うわけにはいかない。
でも、地元の公立校に行くことで――この空っぽの気持ちは埋められるのだろうか。
地元の公立校に行って、牝の制服を着ることはできるのだろうか。
いや……できるはずがない。小学校で6年間一緒だった仲間たちはそんな制服を着たら当然冷やかされるだろう。
でも、学ランを着てボクは中学に適当に3年間通うのか? 自分の心を置き去りにしたまま?
そんなのは……絶対に……。
「キミ、その服が欲しいのかい」
その時、アセットの背後から声を掛けられた。
振り返れば、背の高いジャーマン・シェパードの紳士がボクのことを見下ろしていた。
「……べ、別に……欲しくなんて……っ」
「子供が変に気を遣わなくて良い。おいで」
そのジャーマン・シェパードの紳士はボクの手を取った。白い手袋を嵌め、ステッキをついた彼は背筋が伸びて素敵だった。
初めての出会いだったというのに、その落ち着いた声は妙に腑に落ちた。すとんと心に落ち着いた言葉に、シェパードの紳士の手をいつのまにか取っていた。自分でも不思議な気持ちだった。
彼と共に店に入るや、ざわりと店員の空気が変わった。「いらっしゃいませ」と全ての店員が作業をやめ、深々とお辞儀をした。
「この子に、ワンピースを仕立ててあげてくれないか。生地は一番いいのを。デザインはメルフィーに任せるよ。追加で料金を払うから、すぐに対応してくれないかな」
「畏まりました。では、早速彼の採寸を」
「えっ……えぇぇ……!!?」
まだ名前も知らないジャーマン・シェパードの紳士は、真っ先に寄ってきた一番お店で偉そうなスーツ姿のおじさんの獣人にワンピース購入の意志を伝えた。
しかもオーダーメイドだ。一番いい生地となると幾らになるか想像もつかない。
「キミ、私と一緒に採寸しよう。私も新しい燕尾服を作りに来たんだ」
「で、っ……でも……いきなりそんな、こんなに素敵なワンピースなんてもらえません……!」
「いいんだ。こう見えて、私はとある学校の経営をしていてね。お金はあるんだよ。でも、時間はないんだ」
ジャーマン・シェパードの紳士は穏やかな表情を浮かべ、アセットの肩に手を置いた。そのまま流れで別室に連れて行かれたアセットは、ワンピースを仕立てるために全身を丁寧にメスのスタッフによって採寸される。
もちろんジャーマン・シェパードの紳士も採寸をしてもらっていたが、腹囲と胸囲くらいだ。
おそらくこの店の常連で、そう簡単に変化しない腕の長さや脚の長さといった部分は記録として残っているのだろう。
採寸が終わると、ジャーマン・シェパードの紳士と共にVIPルームへと移動してお茶を飲みながら待つことになった。
「ベノア・ティーだよ。飲んだことあるかね?」
「初めて飲みました。ベノア・ティーは王室御用達にも選ばれるほどの格式高い高級食品店と言われていますが……」
「そうだね。キミは頭がいいから、もちろん知ってはいると思ったよ」
ジャーマン・シェパードの紳士は足を組み、唇を白いティーカップに添えるようにして一口飲む。
「それは……恐縮です」
それから、真似するようにアセットも少し紅茶を飲んだ。
コンビニでたまに飲む紅茶と少し味が違うようだけれど、その本質的な違いというものがアセットには分からなかった。
「なんで、ボクが頭がいいとわかったんですか?」
「言っただろう、私はとある学校の経営をしているとね。エニグマと言う」
そう言いつつ、ジャーマン・シェパードは胸ポケットから名刺入れを引き抜き、慣れた手つきで一枚アセットへと差し出した。
――ケモショタスパッツ学園校長、Enigma。
「ケモショタスパッツ学園!?」
その学校の名前はもちろん知っている。五本の指に入るという有名学校たち――もちろんローウェンス学園をも――凌ぐ、遥かに高いレベルの学力を備えた生徒だけが入学できるという学校だ。
ケモショタスパッツ学園は高等部、大学とエスカレーターのように進学することもできる。そして、その卒業後の進路は誰もが羨むような一流企業への就職や弁護士や医者になるといったエリートの路線が待っている。
「アセットくん。キミはウチを受けるといい」
さも当然のようにベノア・ティーをすすりながら言う。
「ありがたいお言葉ですが……ボクは受験はしないことにしたんです」
「ほう、なぜだね?」
「……」
エニグマは黙り込むアセットの続きの言葉を粘り強く待っていたが、アセットは反応しなかった。
……親がお金を工面できないから、受験できないなんてそんなこと。
「まぁ、概ね察することはできるよ。お金の話であろう」
「……!?」
両親の不仲は最近になって急に加速して、壁越しに聞こえて来るお金の話からの喧嘩のコンボ。布団の中で耳を折りたたみ聞かなくてもいいと抑えていたのに。
この人には何もかもがお見通しなのか。
「それでキミは本当に良いのかい?」
「えっ?」
「12歳のくせに全てを諦めて、環境のせいにして、ろくすっぽ自分の持ち合わせるGiftを理解してくれない集団の中に押し込まれて人生の貴重な12歳からの未来を生きるのかい?」
そんなこと、不条理だってことは――
「そんなこと、ボクにはどうすることもできないんですから!」
自分自身が誰よりもよく知っている。
既に今この瞬間、息苦しさが渦巻いている。行っても何一つ面白くない学校に無理矢理行かなくてはいけないことに。その無味で焦燥を感じる何かを、誰も理解してくれないことも。
「人生は一度きりで、ボクの与えられたものに対して誰一人理解してくれない場所に産み落とされて、その中で生きざるを得ないから不条理で、息苦しくて、死にたくなってしまうんだ!」
気付けば、大粒の涙を流していた。ボロボロと。
不条理で、世の中の理解できない部分が、声に出してしまったらいけないと思い込んでいた「良い子」のギリギリを超えてしまって崩壊させるような、そんな部分を叫んでいた。
エニグマは立ち上がった。彼は真っ直ぐにアセットに近づくと、その肩を掴んで力強く胸元に引き寄せた。
「服、が」
「そんなのは気にしなくて良い。子供のくせに」
ぐ、と喉の奥に堪えた嗚咽が抑えられない。
鼻先をエニグマのワイシャツに埋め、嗚咽を堪えるように泣いた。嗚咽を上げてしまうと、居るはずのない親にこの涙がバレてしまいそうだったから。
エニグマは強く抱き締めた。エニグマの匂いは吸わない父のそれと違って、少し煙草臭くあり、そのうえで雄としての強さが心地良さを感じさせる匂いだった。
「そんなアセットに私が気づくことが出来た。だから、この世界は絶望し、死ぬほどに苦しむ必要は無い。ウチを受験するんだ」
「う……っ゛ぁ゛……! はい……っ」
「私からできるのは、君のような稀有な才能を持つ若者が家庭やお金の事情で進学を諦めることほど虚しいことは無いからね。それに対しては援助させてもらうよ。奨学金制度を存分に使える枠がある、そこを目指してみるといい」
[newpage]
アセットはひとしきり泣いた。
ベノア・ティーからホットミルクにドリンクを切り替え、泣き腫らした瞳のまま両手でマグカップを握ってそれを飲む。少しだけ入っているはちみつの甘さが美味しく、アセットの心を穏やかにさせた。
その頃合いには仕立てさせたワンピースも出来上がり、アセットはそれを着用させてもらった。
大きな姿見の前でアセットは自身の姿を見た。水色がベースとなり、胸元には白いフリルがひらひらと揺れている。いかにもメスっぽさを全面に押し出したそれが嬉しい。
ひらりと姿見の前で一回転し、ふわりとスカート部分が広がった。
自身の可愛い姿、あるべき姿。それでも、エニグマや店員たちの前では酷く恥ずかしさを覚える。
「可愛いよ、アセット」
姿見の前に立つアセットの後ろから、そっとその細い肩に大きなエニグマの手が添えられる。
アセットは一瞬だけ肩越しにエニグマに視線を向けた。
しかし、すぐに姿見越しにエニグマの表情を伺う。
「……本当に?」
「あぁ、単なる女装というものじゃない。キミの体つきは元々中性的だし、なにより、歩き方や振る舞いが女性的なそれだよ」
「すごく……嬉しいです。言葉にならないくらいに……」
「自身の自認する性を尊重してやるのは、羞恥を感じることではない。されど、それをカミングアウトするのは勇気がいるだろう。でも、その姿と気持ちを大切にしてやって欲しい。キミはまだ12歳なんだから」
「でも、自身のマイノリティーを理解してもらえなかったらと思うと……怖くて」
「理解してもらえないのは、そのマイノリティーを該当者が理解できるほどの教養を備えていないからだ。その点、ケモショタスパッツ学園ならそんなマイノリティーですら受け入れる事ができる学園だと考えているよ。ここに来る生徒はみんな、一癖も二癖もある『社会で迎合されず、迎合できない者たち』だ」
頭が良すぎるがゆえに、社会から爪弾きにされる。そういう存在が確かに存在し、そういう存在を受け入れるのがケモショタスパッツ学園の本質なのだとエニグマは語った。
それにアセットは深く同意した。自身の考えが通用しない、会話が成立しない、理解してくれない。そんな組織の中に居るよりは――エニグマと一緒に居ることのほうが余程も有意義なような気がした。
「もしもアセットが良ければ……この後、食事でもどうかね?」
エニグマに誘われたアセットは、もう彼の虜になっていた。
エニグマは自分の本当の気持ちを理解してくれる。もっとエニグマのことが知りたい。エニグマに、自分のことをもっと知ってもらいたい……。
「家には、連絡を入れればきっと大丈夫……です」
[newpage]
エニグマの運転するマニュアルのジャガーはスモークが強く、外はあまり見えなかった。
気づけば郊外の中にある山の中に入っていき一軒の山荘に到着した。
想像を遥かに超える豪邸だった。噴水とプールのある広い庭、いかにも高級そうな外車が何台も止まっているガレージ。そして、使用人が何人もいてエニグマに仕えていた。
それだけでアセットは圧倒されるが、エニグマはそんなアセットの様子を知ってか知らずか手を握ったまま離そうとしなかった。
そんなエニグマの気遣いが嬉しかった。
エニグマのいくつかあるダイニングの一つに通された。ソファーやテレビはもちろん、床は絨毯敷きであり、火こそ入っていないが暖炉が存在していた。エニグマはそこに軽く食事を持ってくるように指示をした。
食事ができるまでは、学校の宿題を数分で終わらせた。それはアセットにとってまるで思考を必要としない幼稚な問題だった。
あっというまに学校の宿題を終わらせると、エニグマは学校の紹介パンフレットを持ってきてくれた。
「ケモショタスパッツ学園には寮も存在するんだ。その寮で自身を磨きつつ、規律のある生活をするのもおすすめだ。キミの両親と、少し距離を置きたいというのなら、寮という物理的な距離を取るのは自立の最初のきっかけとしては良いものになるだろう」
エニグマに言われるがままにパンフレットに目を通す。
カリキュラムは生徒の自発的な学習意欲を萎えさせないために必修科目は必要最低限であり、見たことがない科目が選択できた。能力が十分だと認められれば飛び級の制度もあり、わざわざ学習をほかの同級生に合わせる必要はない。
中高大と一貫したエスカレーターなので入学してしまえば、他校に転入という進路を取らなければそのまま大学卒業まで余計な試験がないのも魅力的だった。
施設も一級品であり、国も協力しているほどの最先端施設が立ち並ぶ。
寮も非常に綺麗なようだ。二名一室、あるいは個室で過ごせる寮は学習環境としても申し分ない。
「……この校則のスパッツで必ず通うことって、本当なんですか?」
「そうだよ」
パンフレットの最初に書いてある「当学園は全寮制で牡の子のみの募集です。なお、入学後の制服は当学園指定のスパッツ姿となります」という一文に目を疑ったが、どうやら本気らしい。
というよりも、パンフレットの最初の可愛らしい牡の少年たちは膝上までのスパッツを着用し、上裸の状態で楽しそうに学園を得る居ている様子を写真で提示されている。
「なんでスパッツの姿なんですか……?」
「可愛いからさ」
アセットの問いに、紅茶を飲みながらエニグマは言う。
「……えぇと、それだけですか?」
アセットは自身の思うような返答でなかったことに耳を疑い、もう一度尋ね直した。
それに応えるように、エニグマも紅茶の入ったマグカップを置き、肘をテーブルに置いて組み、そこに顎を乗せて真っ直ぐにアセットを見つめた。
「それだけか、と言われれば……確かにもっと他にも深い理由はあるけれどね。でも、学園の校長としてはシンプルに『若獣たちがスパッツ姿ではしゃいでいるのは可愛いよね』という理由で校則として指定させてもらったよ」
「……」
アセットは絶句するが、そのタイミングでちょうど扉がノックされた。
料理人たちが配膳ワゴンに夕食を乗せてやってきた。
本来であればコース料理を手掛けるのであろう料理人達による渾身のローストビーフやステーキの乗った皿に思わずアセットは目を輝かせる。なんなら最近は外食もなかなかしていない――。
「冷めないうちに頂こう。いただきます」
「……い、いただきます!」
恐縮する気持ちがこみ上げるが、今更引き返すことなどできない。
迷いながらも置かれたフォークとナイフを片手に早速ステーキを切って口に運ぶと――
「はぁぁ……っ……! これ、美味し……ッ! お肉が口の中でとろけて……消えちゃう……!」
「楽しんで頂けているようなら何よりだよ」
今まで食べたことのない次元のステーキに感動と興奮の入り混じった声を上げながら、アセットは夢中でフォークとナイフを動かした。その表情は興奮で頬が赤く染まり、12歳相応の表情を浮かべていた。
「それじゃぁ、こういうものも初めて飲むかな?」
エニグマによる直々のサーブで、スパークリンググレープジュースをグラスに注いでもらった。
「すごい……まさにお酒みたいですね」
「もちろんノンアルコールだから未成年でも楽しめるはずだよ」
「いただきます!」
それは見た目もシャンパンに似ており、アセットの興味を引く一品に仕上がっていた。
アセットはその見た目から想像する味を楽しもうと、一気にグラスを傾けて――
「あ、っれ……これ、なんか……っ……くらふらする……」
ちょっと飲んだだけのそのスパークリンググレープジュースで、アセットはくらくらと頭を揺らしたかと思うと――即座に倒れ込んで眠ってしまった。
「アルコールは入っていないとは言ったけれど、睡眠薬が入っているとは一言も言ってないからね……ふっふっふ……」
[newpage]
やぁ、お目覚めかい?
ぼんやりとして重い頭のまま、間接照明でムーディな雰囲気のシックな雰囲気の寝室に、ボクは寝かされていたことを理解した。もちろん、ボクが使うにはあまりにも大きすぎるキング・サイズのベッドの上でだ。
言葉をかけてきた方向に視線を向ける。薄いネグリジェに身を包み、ベッドサイドに腰掛けるエニグマの姿があった。
「エニグマさん……ボクは……」
「すまないな、料理人が間違えて微量のシャンパンを混入させてしまったらしい。薄いが、初めてのアルコールなら突然眠くなってもおかしくない」
「いえ、こんな……」
眠ってしまってすみません、と身体を持ち上げようとしたところでアセットは自身の姿の違和感に気付いた。
ワンピースが脱がされ、殆ど裸体だった。下半身には太ももまで覆う黒いスパッツが履かされていた。
びくり、と身体を震わせて抑える。裸体を見られるのは計測の時から二回目だが、シチュエーションがまるで違う。
「あぁ、すまない。何しろ独身なものだから子供向けの服を持ち合わせていなくてね……スパッツの姿は私が好きだから、その姿にさせてもらった」
さも当然のように着衣を指定し、寝ている間に着替えさせるエニグマはどこか満足げだ。彼の真っ赤な瞳がアセットの身体を見定めるように見つめ、軽く手を伸ばして薄手の毛布を剥ごうとする。
「もっとよく身体を見せておくれ」
「は、ずかしい……です……」
アセットは思わず剥ごうとする毛布を握ってしまう。こみ上げる羞恥心は自身のコンプレックスも少し関係している。
どうしても自身の牝モノの服を着ていないときの自分の身体は好きになれなかったからだ。
自分の身体を鏡で見るとわかる。たくましさとは無縁である四肢に身体の肉付き。どちらかといえば細く、華奢であった。牡モノの服を着ていても似合わないのは自身の身体が原因だと思っていたのだ。
牝モノの服ならば似合うのだが、それも服という素材があってこそ。
剥き身の裸体の自分は――牡とも牝とも言えない、どっちつかずのような。不気味な生き物のような。
しかし、エニグマはそれを無理矢理剥ごうとはしなかった。
「あぁ、私が不躾だったね。少し、暗くしようか」
もともと暗かった部屋の間接照明が、更にワントーン暗くなった。
部屋の四隅は闇に消え、本棚はうっすらと見える造形がわかる程度でその背表紙のタイトルまでは読み取れない程度の暗さ。
すぐ近くのエニグマの表情も、どこか分かりづらい。でも、彼の真紅の瞳だけははっきりとわかる。
暗くなったせいか、ひどい羞恥心が少しずつ消えていく。エニグマはそっと手を伸ばし、アセットの姿に触れた。
彼の柔らかな肉球の触感と、その温かさがどこか心地よかった。羞恥心は完全に消えた。するり、と薄手の毛布がアセットの肩から外れた。
彼の白い毛並みと胸元の未発達な身体があらわになる。
「アセット……可愛いよ、キミは……」
「ボクは……ん……っふ……」
エニグマの太いマズルが近づき、アセットの首元と頬を撫でる。
無意識にアセットもエニグマの身体に触れていた。彼のトレーニングの成果が分かる程度の逞しい牡としての肉体をネグリジェ越しに撫でて確かめる。
――もっとその感触が欲しい……。
アセットはエニグマのネグリジェに手を伸ばした。
腰帯をたどたどしくともゆっくりと丁寧に解き、その前部を開けてしまう。
「アセット……」
それをエニグマはじっくりと待っていた。
エニグマの身体があらわになり、茶色と黒の混じった毛並みの、余計な脂肪が全く無く筋肉質な身体が顕になる。
下着のスパッツも僅かな間接照明に対して黒く鈍い光を反射していた。
「それは一線を超えても良い、という合図でいいのかな?」
エニグマの身体を直接肉球のついた手で触れる。
その身体の温かさ、力強さに言葉にできない感情がこみ上げる。
「一線がどういうものかはわからないですが……」
アセットの未発達でまだ短い鼻先が、エニグマの頬に押し付けられる。
そして、ゆっくりと口を開いて唇を重ねた。
ん……っふ……っふぁ……。
舌先で撫でるような、短いキス。
喘ぎながらの初めてのその味はワインの香りがした。
「ボクの身体も……心も……満たしてくれませんか……?」
行く末も、後のことも何も考えていなかった。
ただ、眼の前のジャーマン・シェパードのエニグマであれば、自身の言葉にできない寂しさや虚しさの答えを教えてくれそうな気がしたのだ。
「無論だ、アセット……私はエニグマだ。キミの心の乾きを、潤してあげよう」
「ん……っふっぁ……っ……ん……っ……!」
アセットはもう一度エニグマによって口を塞がれた。互いの歯と舌が激しく絡み合い、ねっとりとした唾液を交換するような長いキス。そのまま、トンッ……と肩を叩かれたアセットはベッドに仰向けに倒される。
薄手の毛布は剥ぎ取られ、スパッツだけの姿が顕になる。
「ここに斑があるのだな……ふふっ。可愛いじゃないか、アセット」
「ふっは……っ……/// や……それ……誰も知られたことないのに……///」
アセットは右足の大腿の裏側に大きな黒い斑の模様がある。それがひどく恥ずかしくて、学校でもなるべくそれに悟られないように体操着に着替えていた。
エニグマはそれを露骨に指摘し、その毛並みを撫でる。彼の秘密をまるで自身に刻み込むような動きだった。
アセットは頬が真っ赤に染まる。指摘されたことにも、撫でられることにも経験値が少なくてされるがままにしかできない。
次の瞬間――
「あっ……おちんちん……っ……!////」
エニグマが押し倒した右手で彼のスパッツ越しにその手をそっと弄った。
しかしアセットはそれは初めての経験だった。自分の性器を触られたことは父親と風呂のときに数度だけ、友達には触らせることも見せることもしたことがない。
それがどうだ。エニグマは差も当然のように露骨にそれを撫でる。その衝撃にアセットも驚いて叫ぶような声と身体を硬直させる。
「なに、心配することはない。ゆっくりと優しくするから心配せずに身を任せると良い」
「は、恥ずかしくって……っ///」
「痛かったりしたら言いたまえ。恥ずかしいだけだったらやめてやるものか」
いっそ清々しくエニグマは宣言し、アセットのスパッツの中に自身の手を滑り込ませる。
「あ……ッ……!//// ん、っふぅ……っ……!//// だ、め……っ!//// そんなとこ、ばっちいよぉ……っ!////」
先程の婉曲的な刺激よりも強く、直接的な刺激と温かさにアセットは思わず腰を動かしそうになってしまう。
「ばっちくなどない。やはり、まだまだ未発達なのだな」
そんなアセットの初心な反応にエクスタシーを感じる。
初めての行為、初めての経験を自身の手で汚していく――それはたまらなく興奮する側面だった。
スパッツをぐいっ、と下へと下ろしていく。
「もっとよく見せろ、その未発達で……可愛らしいイチモツをな」
「!?」
エニグマはアセットの細い足を掴むと、ぐいっ、と持ち上げる。そのまま勢いにまかせてスパッツを取り払った。
「や……やぁ……っ……!!////」
アセットはまるでおしめを取り替えられている赤子のような格好だ。
まんぐり返しにされてしまい、金玉の裏からケツ穴まで舐めるように見られるとアセットの顔は余計に赤くなり、羞恥心は加速していくのを傍目から見てもわかるようになる。
アセットのちんぽはまだまだ未発達で、幼い。もちろん剥けてもいない。
そんな可愛らしいちんぽは、初めてのエニグマの丁寧なシゴきでもう筆下ろし寸前だった。ちんぽは勃起し、その先端がヒクヒクと刺激と羞恥心に反応するように揺れている。
「あぁ……可愛なぁアセット。キミの全部を頂くことにしよう……でも、その前に」
「うぅぅ~~~~っ……!!」
半泣きのアセットがされるがままに半勃ちのチンポを捕まれ、しごかれる。
艶めかしい手つきのそれは明らかに行為に慣れていることを予感させ――
「あっ……あっ……きもちい……っ!///」
「当たり前だろう、俺がチンポを扱いてやってるんだからな……ほら見ろ、アセット。お前のちんちんはこんなに大きくなったぞ」
アセットは尻尾をぶんぶんと振って気持ちよさに悶絶する。その刺激は今までに受けた刺激とは比べ物にならないほどに興奮し、思わず脚をばたつかせたりしそうになる。
エニグマはニヤニヤと笑みを浮かべながら発達しきっていないアセットのちんぽを反り返させたのを、アセットに見せつける。
「うぁ……っ……これ……勃起……っ……!?」
「そうだ、もうすぐ気持ちよく……牡として最初の経験させてやるよ」
アセットは初めての勃起を経験する。興奮が更に高まり、エニグマによって手コキを更に受けた。
ビクビクッ!
アセットは無意識に震える身体を止めることができなかった。
「あぁっ!♡ ぁぁぁっ……♡!!」
どぷっ……ごぷっ……!
生まれて初めて射精に至ったこの瞬間をアセットは生涯忘れることはないだろう。
「初めての絶頂はどうだい、気持ちがいいだろう?」
「はっ……はっ……はっ……///♡」
喘ぐような息遣いのまま、呆然と賢者タイムに入りかけるアセット。
すごすぎる……気持ちが良かった……。
こんなに射精するのが気持ちいいだなんて知らなかった……。
ぐるぐると自問自答が頭の中をめぐっている中、
「ひ……っ♡ エニグマさ……ぁ♡」
敏感なチンポへの新たな刺激にビクッと身体を弾ませるアセット。
彼の射精でトロトロになってしまった未発達の萎え掛けチンポにおもむろにエニグマは顔を近づけ、その肉厚でザラついた舌で拭ったのだ。
じゅぷっ、じゅるる……
「初めての絶頂で気持ちよくなっているのは致し方ないが、私を放置するとはいい度胸だな」
「すみませ……っ♡ だって……もう、頭が……♡♡♡」
「言い訳は良い。だが、これが牡になるということだ」
イった後の賢者タイムでぼんやりと靄がかかったような思考状態のアセットにはエニグマが発したその言葉の意味をとっさに理解することができなかった。
「牡に……なる……うん……えっちができるようになればおとなになったってことなのかもしれない……」
「でも、お前は牝になることを望んでいるのだろう?」
牝になることを望んでいる、と言われて――
「でも、ボク……ちんちんあるし……牡……だよ」
「心配するな、ちんちんを切り取らずに牝になる方法はある」
そんな方法があるなんて――知らなかった。
「ボクでも、牝になれますか……?」
「もちろんだ。むしろ、アセットは牝の方がいい……」
気づけばエニグマの発達した肉竿もいきり立ち、反り返ってスパッツにテントを張っていた。
まどろっこしいと言わんばかりにエニグマはそのスパッツを脱ぎ払う。アセットの想像を超える弩級のチンポが姿を見せる。
「ッ……!! そんなの……どうするつもり……っ……!//// 牝になるためにはどうしたらいいのっ……!?///」
「簡単なことだ。アセットのお尻の穴に差し込むんだよ」
「そ、そんな……っ、おっきいの入らないよぉ……っ!////」
アセットは半泣きで首を左右に振るが、エニグマはそんなことは知らないと言わんばかりだ。
「大丈夫だ、しっかりと緩くなるまでお尻を開発してあげるからね……」
エニグマの手にはいつのまにかローションが握られており、とろぉっ……と手のひらに掛けていく。
年生を持つ透明な液体がアセットのまんぐり返しされた格好のままの尻穴へと近づくと――
「んぁぁっ!!//// あっふぅぅっ……!!!//// く、くるし……っ……!!////」
くちゅ……ッ、ぬぢゅっ、くちゅっ、くちゅくちゅっ!
嫌らしい手つきで初めてのアセットの尻にまずは人差し指だけを入れる。
締まりが良いアセットは痛みと刺激で締め付けが強く、力みが見て取れた。
「あんまり力み過ぎるなよ、力を抜くんだアセット」
「あひぃ……っ……く、苦しくて……っ////」
「いい子で居てくれているから、特別なプレゼントだ」
アセットの股の間にエニグマは上体を差し込み、顔を近づけるとアセットの口にキスをする。
なかなかアセットは大変な格好であるが、エニグマのキスは快楽を得られることを本能が理解しているようだった。
「ん、っふぁ……っ////」
「息吐いて力抜けよ、解していくから……な」
エニグマのキスでいい感じにリラックスができたアセットの尻を優しく、しかし激しめにエニグマは解していく。
「い、ったぁ……ッ!////」
「可愛い奴め、俺のテクニックに思わず力んだか?」
エニグマの高度なテクニックで痛みはすぐに快楽へと変わっていく。勃起したままのお預け状態だったアセットのちんぽだったが――
「ふーっ……/// ふーっ……!////」
まんぐり返しでされるがままだったからか、激しく息を荒げるアセット。
そのケツマンコはトロトロのローションで汚れながらも、エニグマのモノが受けいられれる程度には解されていた。
「それじゃぁ、そろそろ突っ込んでいくからな……力を抜けよ。どうなっても知らんからな……」
「エニグマさん……っ……/// きてください……ちんちん……ください……///」
ぐぐっ……と腰を据えてエニグマは発射準備を完了させる。
ずぶぶぶっ……!
「んあぁぁぁ……ッ!!ふ、太い……ッ!!////」
あまりの太さに驚き、絶句し、悶絶するアセット――しかし、エニグマはその腰を引っ込めるつもりなど毛頭ないらしい。
凄まじい勢いでのピストンがアセットのナカを突き刺し、かき回す。
「まだまだ……これからだぞッ……!」
「ん゛ぁ゛……っは゛ぁ……♡!!」
あ、なにこれ。
眼の前がチカチカする。なんだこれ、ボクどうなって――。
「前立腺はここだろっ……気持ちいいなぁ、アセットくん。そのまま目の前がチカチカしてくるかな?」
「んぁぁ!♡だめっ!♡こんなのぉっ!♡どうにかっ♡なちゃっ♡あぁっ!♡」
アセットはその意味がわからないくらいの高揚感と刺激に激しいオーガズムを感じていた。
前立腺もめちゃくちゃにゴチュッ!♡ゴチュッ♡と押しつぶされ理性は弾け飛び、喘ぐような声が無意識に飛び出してくる。
「これがメスの感じる気持ちよさだよっ! メスになりたいアセットくんの特権だなぁ!」
「あひっ♡メスっ♡気持ちよすぎっ♡んぁぁ♡だめだめだめっ……!♡」
吹っ飛びそうな意識を何とか堪え、激しいピストンを受け止めながら、汗だくになってもその絶頂と興奮を何度も受け続けるアセット。
その過程で確かにこの格好はメスだし、先程の射精とは明らかに違う圧倒的な性的興奮を感じていた。
エニグマは何ひとつ間違ったことを言っていない。これは、ボクがメスになるための過程のひとつなのだと思った。
ズッ、グチュッ、ヌヂュゥッ!!
「力を抜いて、私に身を委ねるんだ。それでメスになれるんだぞ、アセット……!」
メスになれる。
熱く、何かを思考する余裕のまるでない脳はエニグマの言葉をそのままの意味でボクは解釈していた。
やっと、なれるんだ。身も心も、全てがメスに。
もう現実と理想のギャップに悩み、苦しむこともない。
「なるぅっ♡メスになる……っ♡エニグマっ♡ボクを……メスにしてぇっ♡」
「うむ、私のメスに……なれッ!!」
ドブッ!!
エニグマのより激しいピストンが――亀頭球までをねじ込むかのような激しいそれがゴリュッ!!とアセットの前立腺を押しつぶす。
あ゛ッ゛……!!♡
アセットの眼の前が真っ白になり、全身が電流を流されたかのように痙攣し、震える。
目を見開いてビクッ!ビクゥ!と完全にメスイキした様子を露呈しつつ――その小さな身体へとエニグマはゴボボボォッ!!と激しい射精を放った。
獣人の中でも量も勢いもかなり強いそれは、僅か12歳の身体がそうそう耐えられるものではない。
あ゛っ!♡あ゛ッ!!♡あ゛ぁ゛――――――ッ゛!!!!!♡♡♡
お腹を膨らませながら全てを受け止め尽くすアセットは口を開き、ビクビクビクッ!!と身体をより痙攣させると、とうとうその快楽の凄まじさに意識を失ってしまうのだった……。
(続く)