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治験-ラバードール化

  仕事をやめてからこの方、治験のバイトで食いつないでいる。

  勿論、治験にバイトなどない。有償のボランティアやモニターである。

  友達には――と言っても、金に困るようになってからめっきりいなくなったが――自分の健康を切り売りするようなものだから、やめておけと言われている。

  とは言え、得に資格もないし、長期的にスキルや経験を積んだことがない俺にとっては、これしか合法的な生き方は望めそうになかった。否、他にも色々な話も聞くが、結局何かを切り売りするのだ。何もない人間が高収入を得るには、人生や健康や精神と言った、他の誰かが捨てられない何かを捨てて金にするしかないのである。

  それなりに簡単に収入が得られるように俺には思えた。丈夫な身体で産んでくれた親に感謝するのは、この時ぐらいしかない。

  こんな事なら、借金で首が回らなくなる前に始めれば良かった。

  収入がある程度入ってくるようになったとは言え、安定的な仕事ではないので、借金返済は遅々として進まない。

  世の中、一億の借金があっても元気に生きていられるのだから、多少の借金で自殺するなと言う人が居る。だが、そう言う人は、一億借金できる信用があるからであり、そう言う信用は一億払っても得られまい。

  仮に俺が、宝くじで十億円手に入ったとしても、恐らく、そう言う「一億円の借金ができる人間」の世界には入っていけないだろう。

  兎にも角にも、ゲームチェンジャーと行かなくても、借金だけは何とかしたかった。

  そんな時に、しれっと教えて貰ったのが、登録と健康診断だけで、先に五十万円、治験が決まったら一年の拘束で七百万円と言うバイトである。なかなか怪しい。

  怪しいけれど、借金は全額返済して、充分、有り余る金額が手に入る。何かしらの資格取得に乗り出すこともできるだろう。有り体に言えば、人生をリセット出来る。

  登録と健康診断、一ヶ月ほどの審査期間を経て、僕は片田舎の製薬会社の研究所にやって来たのだ。

  プログラムと英語の本を買い込んで、暇な時間はこれで勉強しようと心に決めた。一年は長丁場だ。だが、これを乗り越えれば、無借金と一年以上のモラトリアムが発生する。

  研究所に到着すると、美人のお姉さんが、施設を色々と案内してくれる。

  制限は沢山あるが、引きこもり体質の俺としては、基本、満足いくような施設である。なにより、日に二度の健康診断以外は、部屋にいろ、他者と接触するなと言うのは実にいい。

  そんなわけで、荷物を片付けて、最初の健康診断、そして、最初の投薬をして、一日目は暮れていった。

  二日目、とても調子がよい。特に肌の質感がよくなってきているのを感じる。

  ドクターが、このまま続けてもよいかと尋ねる。勿論だ。

  投薬は一週間。そこから先は経過観察だという。

  「本当にいいのかね?」

  三日目、肌の張りがよくなっってきている。

  全体的に若返ってきているような気がする。

  四日目、古傷やニキビの痕などがなくなった。手先や足先のごつごつした感じが低下した気がする。

  五日目、なんとなく肌が白くなった気がする。あと、髪が伸びるのが早い気がする。

  六日目、ムダ毛の抜けが多いような気がする。

  まぁ、男でもムダ毛が多すぎるのは不衛生に見えるらしいし、いいことなんじゃないかな?

  七日目、髪色が薄くなってきた気がする。これはちょっと嫌だなぁと思った。

  爪が艶っぽい。どことなくアクリルっぽい。綺麗になっているのは分かるが、これはちょっと違う気がする。

  八日目、ダイエットらしいダイエットもしていないのに、ウエストが目に見えて細くなった。なんとなく、尻や胸が張っているような気がする。

  この時、正直、実験を続けるかどうか迷った。だが、ここでやめたら教材に使って増えてしまった借金もどうにかしなくてはならない。それはもう無理だ。頼る人間もいないのだから、もう、これは毒喰らわば皿までである。

  「じゃぁ、最後の投薬だ」

  七回も怪しい色の液体を注入されているのだ、あとは野となれ山となれだ。

  九日目、胸が大きくなっているのが分かる。座ると、尻も違和感を覚える。何というか、柔らかい。

  そして、ペニスも小さくなっている気がする。否、実際小さくなっている。

  十日目、指先の質感が明らかに変わっている。先の方なので何とも言いがたいが、明らかに違う。皮膚の滑りが悪くなっているというか、何というかだ。

  十一日目、瞳の色が変わった。幻想的で深い色だ。ガラス細工のようである。我ながら吸い込まれそうである。

  十二日目、体型が完全に女性になっている。顔つきも変わって来ている。

  情報漏洩を防ぐために、この薬の用途は教えられていない。これが作用なのか副作用なのかも分からない。だが、ここまで来たら、女になってしまってもいいのではないかと思うようになって来た。

  どーせ、治験が終わっても何かが劇的に変わっているわけではない。勉強は頑張っているつもりだが、あまり芳しくない。否、勉強はこれまで通り頑張るが、それでも、自分を完全にリセット出来るわけではない。それなら、誰も知らない誰かになれるのはいいことじゃないだろうか?

  十三日目、指先の皮膚の質感が指全体に広がってきている。

  生気がない感じだが、しっかりと動くし、感覚もある。

  ドクターは心配ないと言う。

  十四日目、何かに似ていると思い続けていたが、ゴム、それもシリコンゴムに近いのではないかと思えてきた。

  十五日目、順調に女になり続けている。このまま行けば、恐らく美形でスレンダーな女性になれるだろう。

  そう思わないではいられないだろう。

  十六日目、ゴム質の皮膚の領域が更に増えている。気がかりだが、何も教えてくれない。だが、暴れるとか脱走するとかすると、恐らく、今より生活は制限されるだろう。こう言う環境から上手く逃げ出す自信はない。

  十七日目、指先の関節の動きが鈍くなっているのを感じる。この薬は、俺を女にする意外に何にするつもりなのだろう。

  十八日目、絶望的な気分になる。身体のかなりの部分がゴム質になる。指の関節の動きが鈍いのはそのままだが、その範囲が広がってきている。

  十九日目、目が閉じなくなった。だが、目の乾きも感じない。恐る恐る触ると、ガラス細工のようになっているのを感じる。

  二十日目、髪の毛の色は徐々にピンクに近付きつつある。

  二十一日目、身体全体の動きが緩慢になる。動かないことはないが、素早くは動かせない。もはや、逃げ出す妄想すら否定しなくてはならないか。

  二十二日目、見てくれは、完全にゴム人形。リアルドールのようになった。製薬会社も、こんな状態で俺を外に放り出さないだろう。そう思わなければやっていられない。

  二十三日目、そういえば、投薬開始から性欲らしい性欲が全く欠如していたのに驚く。かつては、日に一回はオナニーしていたのだが、病院みたいな環境でそれはしづらいと感じていたのは、恐らく一日目の夜だけだろう。

  これも薬の影響なのだろう。

  尤も、俺をこんな状態にしてしまうような会社が、俺のプライバシーを守っているとは思えない。幸い、性欲はないのだから、この先、オナニーすることはないだろう。

  二十四日目、二十二日目より目立った変化はない。

  二十五日目、昨日と同様だ。ただ……

  二十六日目、食欲がない。

  二十七日目、同様。

  二十八日目。

  二十九日目、昨日から水すら飲んでない。

  三十日目、気力がない。

  三十一日目、同様。

  三十二日目、検診の時、注射を打たれて意識が一時なくなった。

  システムの不調でネットが使えないという。尤も見る気力はないが。

  三十三日目、何もせず過ごす。

  三十四日目、一日が早い。

  三十五日目。

  投薬より、一ヶ月後に体内に沢山の電極を仕込んだ。

  身体はほぼ動かないが、意識も感覚も残っているはずだ。

  電極で各種の筋肉を動かすことにより、事実上のロボットとなる。

  これは、アンドロイド作成の足がかりとして、有望なサンプルとなる。

  各種研究所に送られて、或いは、一部のマニアに払い下げられる事になる。

  #意識も感覚もあるが、身体は動かない。

  #ドクターの検診を受けているようだが、身体の各部が勝手に動いたりする。周囲の人間が、それを一つずつテストしているようだ。結果は良好らしい。

  #梱包されているようだ。何も見えない。暗い。

  #配達されたようだ。

  #主人の顔は見えないが、どこかの豪邸らしい。

  #遠隔操作で動かされている。これも動作確認か。

  #自分でも自分の状況を知りたいが、頭も動かせないので全く分からない。

  #ベッドに寝かされた状態で放置される。と思っていたら、突然股間や乳首に刺激を感じる。悔しいけど気持ちがいい。身体の各部が1ミリ程度だけ動くようで、全身がビクビク震えている。

  #男に犯される。気持悪く憎悪しかないが、快感だけは走るようにできている。逃げられない。悔しい。

  #今日は着せ替え人形のように扱われ、結局は犯された。

  #写真を沢山撮られる。ポーズは、向こうがパソコンに入力すると、身体が、そのように動くようになっている。結局は犯されるのだが。

  #こんな日が毎日続く。尤も、時間感覚はとうの昔に失われている。毎日ではないかも知れないし、もっと頻繁かも知れない。

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