苦手なもの

  母の聲が苦手だ。

  疲れてゐると、頭にぐわんぐわん響く。

  脳とそれを包んでゐる頭の肉の間が、腫れた樣に痛む。

  聴覚過敏かも。

  あと、大学生の私が寝たきりになつてゐた時、枕元で説教しつづてけ来たのも原因か。

  高校に行けなくなつた時からこれをやられた。

  父にも布団から引つ張りだされさうになつた。

  母から叩かれる事もあつた。

  弟も加はる事もあつた。

  意味はない。理由も目的もない。

  ただの自己満足だらう。

  スーパーの買ひ物が苦手だつた。

  たくさんの商品から、物を選ぶのは至難の業だ。

  人は老化すると、新聞が読めなくなり、本が読めなくなり、スマホも操作できなくなり、テレビの録画ができなくなり、エアコンのリモコンも操作できなくなる。

  認知症と良く似てゐると思ふ。

  私の脳は、認知機能が低下してゐた。

  スーパーで物を選んではいけない。

  それは健常者仕草(?)であり、彼らの特権だ。

  メモ等、家を出る前に、買う物を決めておくのがコツだ。一人暮らしだつたからあまり多すぎない方が良い。買い過ぎると、袋が重くて途中でメンブレして死ぬ事になる。

  それでも矢張り買ひ物は良かつた。地場産コーナーから必ず買う樣にしてゐた。手作り味噌と、地元の鶏の卵と、お茶と、豆腐と牛乳を購つた。豆腐は美味しかつた。牛乳もお茶も美味しかつた。

  黒豆の味噌は、塩つぱいだけだつた。

  「いつも出汁入りの味噌を使つてるから、この味噌は出汁が入つてないんだ!」

  さう親に力説した。

  独り身で味噌を使ふのに難儀した。

  出汁も取らずに、味の素だつた。

  でも、美味しかつた。

  缶詰は長持ちするから良かつた。

  二百くらい食べたのがシーチキンである。

  ツナはまぐろ、シーチキンはかつお。

  一度まぐろ缶と、サーモン缶を食べたが、微妙だつた。美味しいけど、食感はパサパサだし、口がモゴモゴとなる。(口に詰め込みすぎ)

  それに、保存液でびしよびしよだ。

  ツナ缶しか勝たん。

  非常時にはランプにもなる。

  食べ過ぎて、猫に餌をあげてゐるのだと、勘違ひされないかと、少し不安に思つた。

  それ、私の餌なんです。

  スパム缶も良かつた。

  スパムおにぎりは美味しい。

  スパムおにぎりしか勝たん。

  缶詰は保存できない。

  お腹が空いて食べてしまふ。

  さうしてゴミが出る。

  だから、私はスーパーの刺身を食べる樣になつた。

  朝晩の割引のやつは嬉しい。

  ワンカップも飲んだ。

  ビールも飲んだ。イオンの最安ビールが一番美味い。チープな味で、苦味も深みもなく、食事に合ふ。

  

  

  高校やめた頃は、スーパーの惣菜コーナーの、焼き魚を眺めるのが好きだつた。

  食べた事のないお魚は必ず食べたくなつた。

  でかい魚を一匹食べた時の、充実感。

  漁師や釣り人の醍醐味を、釣りのできない陸(おか)の私が味はへる。ありがとう、漁師さん。

  白い魚の身が、パサパサだけど、油でしつとりしてゐて、ほろほろと柔らかいとまでは言はないが、たんぱく質を食べた感があり、充実する。

  てふのも、私は家から放り出されて、夜迄放置されてゐた。実際は、図書館に半分監禁である。

  レンジが無いから魚もパサパサで冷たかつた。

  スーパーのレンジを使ふのが、恥ずかしいお年頃であつた。

  コンビニのポットの湯も、ヤンキーしか使はない。

  そんな偏見があつた。

  私はその頃、車を運転して、

  神社に行つた。

  無料の県道で、宮本浩次みたく車内で暴れてゐた。

  叫んで、前の車に暴言も吐いた。良くない。

  因みに宮本浩次の冬の花を知つたのは、今年だ。

  大雑把に言へばチェンソーマンのおかげだ。

  みんな、チェンソーマンのお蔭じやないか。

  チェンソーマンは文明、はつきりわかんだね。

  本当は、チェンソーマン→主題歌の米津→MAD素材化→宮本浩次に轢かれる米津

  この流れである。

  チェンソーマンのおかげで、宮本浩次の名曲を知る事ができた。ありがたや。

  大学4年の終盤は、引きこもり生活がたたつて、スーパーの行き帰りがしんどかつた。

  買つた食材たちと一緒に、よくアパートの階段にへたり込んだ。そこに佇み、そして黄昏た。

  猫と烏の居るマンションだつた。

  私が高校時代に書いた「住みたい家」そのままだつた。

  コンビニで烏を睨めつけながら、おにぎりを食べてたら、いつの間にか百匹くらいいた。

  私はその日、コンビニに心の中で謝りながら、家に逃げ帰つた。

  うつ状態〜神経症で、眠りの浅い私。

  学生アパートだから、屋根はトタンみたいなやつ。

  カラスが飛び降りて来て、とんとんとんと跳ねる。

  烏の嫌がらせ。(雀の戸締まり)

  近くの公園には翼竜がいた。

  飛んでる姿が太陽で影になり、見上げた姿はプテラノドン。

  たしか、サギ? てふ名前の鳥だつたと思ふ。

  なんかでか過ぎて、コウノトリとかアホウドリ、ペリカンに見えた。多分ワンピースに出てくる、チョッパーよりでかい鳥。あれだ。

  鳴き聲も翼竜である。繁殖期か、子育ての時期か分からないが、パイプオルガンの鍵盤をめちゃくちゃに長押ししたみたいな、恐怖の不協和音。黙示録の喇叭かと思つた。怖かつたし、びつくりした。鳥の鳴き声と分かつて安心した。

  学生アパートには猫がゐた。

  三毛猫は殆どが雌である。

  気立ての良い子であつた。

  だから中國人に誘拐された。

  普通に来客が車に乗せて連れて行つたのかもしれない。

  便りも無く、どうしてゐるかも分からなかつた。

  もう一匹、オッドアイの白猫がゐた。

  アパートには他所からどら猫が降りてくる。

  よく喧嘩してボロボロになつてゐた。

  今は実家の白い箱の中にゐる。

  ここは周りに、すずめ、はと、かるがも、むくどり、白鳥、からす、かめ、ねこ、たか、わし、とんび、蚊とかがゐる。

  蝉は聲がするが、姿を見た事は無い。

  油だのミンミンゼミだの、予想するだけ。

  じーわじーわじーわじーわ、しゅおしゅおしゅおしゅお

  みーんみんみんみんみんみー…

  前者は煮えた油の音に聞こえる。

  でも正しくないかもしれない。

  クマゼミてふものがをるからだ。

  きつと、こいつはガオーと吠えるのだらう。

  

  つくつくほうしと、ひぐらしは聞かない。

  つくつくほーし、つくつくほーし、ひーよー、ひーよー、ひーよひぃい…

  またはキキキキキキキキ…

  夏の終りを告げる蜩だが、私の周囲では聞かず。

  秋かな、冬かなと思つてるうちに12月になつた。