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変わり者の狸おっちゃんに奉公するお話

  キリリ……コロコロ………キリリリ……コロコロコロ

  ヒワの鳴き声が、あちこちから響き渡ってくる秋の夕暮れ時。

  僕ー橋蔵 五郎(はしくら ごろう)ーは、山の麓にポツンと建っている屋敷の前で、寒さと緊張に身を縮こまらせながら、ひとり立ち竦んでいた。

  僕は代々続く百姓の家の五男坊で、ずっと家族のみんなと暮らしていたのだけど、一人前と認められる16歳になったのを機に、いわゆる『口減らし』も兼ねて、信楽(しがらき)屋さんという、ここからひと山越えた村の商屋さんの所に、奉公に出される事になった。

  ウチのように兄弟の多い百姓の家では、そういうことは全然珍しくなかったので、いつか自分もそうなるだろうとは思っていたけれど……実際にそうと決まってしまうと、初めて親元を離れる事もあってか、不安と心配な気持ちでいっぱいになってしまった。

  それから何日か後に、わざわざウチまで迎えに来てくれた犬獣人の番頭さんに連れられて、一緒に信楽屋さんへと向かった……筈だったのだけど、そうして連れて来られたのは、人里離れた山の麓にポツンと建っている、古びたお屋敷だった。

  石垣に囲まれたお屋敷の敷地には、とても高い煙突の伸びた建物もたっていて、その壁際には、たくさんの薪が山高く積まれている。

  確かに立派なお屋敷なのだけれど……どこからどう見ても商屋さんには見えない。

  もしかして、信楽屋さんへの奉公の話は真っ赤な嘘で……本当はどこかに売られちゃったんじゃないのだろうか?

  そんな悪い想像が頭いっぱいに駆け巡ると、それまで胸の奥に押し込めていた不安や心細さが、一斉に込み上げてきてしまって……まるで小さな子供みたいに、ベソをかきそうになってしまう。

  そんな僕を見かねたのか、それまでだんまりを決め込んでいた番頭さんが、大きなため息をひとつ吐いたかと思うと、重々しく口を開いて、事のいきさつを話してくれた。

  なんでも、ここは信楽屋の旦那さまのお兄さんの家で、その方は、とても名高い陶芸家なのだそうだ。

  だけど、偏屈なひと嫌いの変わり者で、もういい歳なのに、お嫁さんどころかお弟子さんの一人も取らずに、こんな村外れの辺鄙なところで、ずっと一人暮らしをしているらしい。

  それで、そんなお兄さんを心配した旦那さまが、身の回りの世話や仕事の手伝いをさせるために、こうして僕を寄越すことにしたんだそうだ。

  番頭さんは、そこまで話すと

  「俺が一緒に付いて行けば、縁喜(えんぎ)さまは必ずや、お前の事を突き返すだろう。だから、俺はここで別れる。後はお前に任せるぞ……しっかりやれ」

  と言付けを残して、まごついている僕に背を向けると、その場からさっさと立ち去っていってしまった。

  そうして一人取り残されて……いま、こうして途方に暮れてしまっている。

  右も左もわからない、初めての奉公なのに、こんな所に一人ぼっちで置いてけぼりにされちゃって……

  僕……これからどうなっちゃうんだろう。

  ***

  しばらくの間、どうしようどうしよう、と思い悩んでいた僕だったけれど、いつまでもこうして居てもどうしようもないし……何より日が暮れてきたせいで、ますます寒さが身に染みてきてしまったので、思い切って門戸を叩いてみることにした。

  恐る恐る、石垣に囲まれた敷地の中に入ると、正門の木戸の前に立ってみる。

  すると、それは遠目では分からなかったけれど、高さも幅も、僕の家の倍近くはあって、その大きさに驚かされてしまった。

  僕の村にも、獣人は住んでいたけれど、みんな鼠や兎とか、人間と変わらない背丈の人たちばかりだったから、こんな戸じゃないと出入りできないような、大柄な獣人には会ったことがないし、なんなら見たことすらなかった。

  あんまり……恐い人じゃないといいなぁ。

  そんな事を思いながら、震える手のひらを握り締め、勇気を出して、戸を叩こうとした……その時。

  ──ガラッ

  「えっ?」

  突然、目の前にあった戸が、重々しい音を立てて、ひとりでに開いていった。

  「んっ?なんや、お前さんは?」

  それからすぐに、頭の上から野太い声が聞こえてきたので、慌てて顔を上げると、そこには身の丈、六尺……下手したら八尺はあるんじゃないかという大狸が、達磨みたいなおっかない顔で、こちらを見下ろしていた。

  肌寒い秋だというのに、藍染の浴衣を纏っただけのその体は、縦だけでなく横にも大きくて、開かれた戸の向こう側が、狸のでっぷりと肥えた体に阻まれて、まったく見えないほどだった。

  そんな山みたいに大きな狸から、半月のように鋭い三白眼で、ジロリと睨め付けられると、途端に、いつもの臆病風が心を吹き荒んでしまい……情けないことに、体がブルブルと震え出してしまった。

  「ここらへんで見かけん顔やけど……もしかして道にでも迷うたんか?」

  「え、えっと……」

  こちらを訝しげに覗き込む狸からの問いかけに、自分がここ来た理由を必死に話そうとするのだけど、恐怖心のせいか、口も頭も全然回らなくて……ふるふる震えながら、ひたすらまごついてしまう。

  「なんや……そないに体を震わしよって。これやから、生っちょろい人間は……ほんまにしゃあないなぁ。ちょうど風呂も沸いとるさかい、ひとまず湯に浸かって、あったまりぃ」

  「えっ!?で、でも……」

  「でももヘチマもあらへん!ほらっ、入った入った!」

  狸はそう言って、熊手のように大きな手で、僕の体をヒョイッと持ち上げると、そのまま家の中へと連れ込んで、ドダバタと慌ただしい足取りで脱衣所らしき所まで来ると、そっと降ろしてくれた。

  それから僕に、手拭いをポンっと手渡してくれると、すぐさま背中を向けて、そのまま何も言わずに、また慌ただしい足取りで出て行ってしまった。

  ど、どうしよう……本当にいいのかな?

  思いがけない事態に、すごく狼狽えてしまったものの、すっかり体が冷え切ってしまっていた僕は、お風呂場から漂ってくる湯煙の暖かさに逆らえなくて……迷いながらも着物を脱いで裸になると、ウチのお風呂よりずっと大きな湯船に、ドプンッと浸かった。

  「ふぅ……すごい気持ちいい」

  たくさん歩いて疲れた体を、あったかいお湯が包み込んで、疲れや冷えをジワーッと解きほぐしてくれる。

  そのあまりの気持ち良さに、風呂好きの僕は、自分の立場も忘れて……ついつい長風呂をしてしまったのだった。

  ***

  その後……ほくほく顔でお風呂から上がったのも束の間、すぐに自分の立場を思い出した僕は、大慌てで脱衣所を飛び出すと、居間でのんびりお茶を啜っていた狸に、恐る恐るながらも、自分がここに来た理由を一生懸命に説明した。

  「まったく……あのお節介焼きめ。こないだ見合いの話を持ってきたかと思うたら、今度はこないな小僧を丁稚に寄越しよって!」

  丸太のように太い両腕を組んで、どっかりと胡座をかく狸は、僕の話を聞き終えると、むっつりと口元をへの字に曲げて、腹立たしげにそうぼやいた。

  僕はというと……そんな狸の向かいで正座をしながら、まるで親に叱られている子供みたいに、ビクビクと身を縮こまらせていた。

  「ほ、本当に……申し訳ありません。すぐにお伝えしなくちゃいけなかったのに、お風呂まで頂いてしまって……」

  「い、いや、別に風呂ぐらい、大した事やあらへんさかい……それと、そないに畏まらんでええよ」

  「で、でも……」

  「……だんない。なんも取って食うわけやあらへんのやさかいな……もっと気を楽にしぃ」

  そう言ってくれた狸の声は、さっき弟さんに毒付いていた時とは全然違う、とても柔らかい優しいもので……そのお陰か、ピンと張り詰めていた気持ちの糸が緩んで、スゥッと楽になっていくのがわかった。

  「あ、ありがとうございます。えっと……だ、旦那さま!」

  「へっ!?……だ、旦那さまって、ワシのことか?」

  「は、はい!信楽さまから、旦那さまにお仕えするようにと言われてますので……」

  「むぅ……そうは言うてもなぁ。今んところ、ワシはひとりで何も困ってへんし……」

  狸……もとい旦那さまは、困ったように丸い耳を倒して、軽く前のめりになると、大きな体を揺らしながら、うんうん唸って考え込み始めた。

  そんな旦那さまの姿に『このままでは追い返される!』と直感した僕は、慌てて姿勢を正して、すぐさま畳に両手をつけると、深々と頭を下げながら、大きな声でお願いした。

  「そ、そこをなんとかお願いします!僕っ、旦那さまのために、精一杯頑張ります!!」

  初めての奉公で仰せつかった初仕事……

  もしここで追い返されたりでもしたら、信楽屋の旦那さまと故郷の家族に、顔向けができない。

  いつもは意気地なしで、弱虫な僕だけれど……今だけは絶対に引くわけにはいかなかった。

  「なっ!?……わ、わかった!わかったさかいに、ともかく顔を上げぇや!」

  「ほ、本当ですか!?」

  ようやく聞けた了承の言葉に、ガバッと顔を上げると、旦那さまが慌てふためきながら、身振り手振りで顔を上げるように促している姿が、目に飛び込んできた。

  すると、自分のせいで旦那さまに、そんな風に気を揉ませてしまっている事が、途端に申し訳なくなってきて、急いで体を起こして姿勢を正すと、ドキドキしながら、旦那さまに向き直った。

  「も、もちろんや。男に二言はあらへん!」

  「良かった……旦那さま、本当にありがとうございます!」

  「う、うむ……そういやお前さん、名前はなんていうんや?」

  「あっ!大変申し遅れました。僕の名前は、橋蔵 五郎といいます!」

  「ほうか……他のもんから聞いとるかもしれんけど、ワシは信楽 縁喜っちゅうもんや。しがない陶工やさかい、旦那さまやなんて、呼ばれる柄やないけど……五郎、今日からよろしゅう頼むな!」

  「は、はいっ!不束者ではございますが、こちらこそよろしくお願いします!」

  厳しい顔を崩して、柔らかく頬笑みかけてくれた旦那さまに、僕は深く頭を下げながら、大きな声で挨拶を返した。

  ***

  「ほんじゃ話も済んだ事やし、ワシはちと風呂に入ってくるさかい。お前さんは茶でも飲んで、ゆっくりしとってな!」

  旦那さまはそう言うと、片膝を立てて、のっそりと胡座から立ち上がった。

  その言葉に一瞬戸惑ってしまったけれど、慌てて自分も立ち上がった。

  「い、いえっ!そんな訳には……あっ、でしたら僕に、旦那さまの背中を流させて下さい!」

  「へっ!?せ、背中を流させろやと?」

  「はい!旦那さまの身の回りをお世話をするのが、僕の役目ですので……」

  「い、いらんいらん!ワシは風呂は、ひとりでのんびり浸かりたいんや!」

  なんだか慌てた様子の旦那さまは、そう言い捨てると、プイッと背中を向けて、ドタバタと大きな足音を立てながら、足早にお風呂場へと行ってしまった。

  旦那さま……どうしたんだろう?

  背中を流すって言っただけなのに、あんなに慌てるなんて……

  不思議に思っていると、ふいに番頭さんの言葉が頭をよぎった。

  『あの方は、偏屈なひと嫌いの変わり者で……』

  確かに、ちょっと変わり者って感じはするかも?

  でも……旦那さまは、震えていた僕を見て、心配してお風呂に入れてくれたし……突然やってきたのに、追い払ったりしないで、奉公する事も受け入れてくれた。

  偏屈なひと嫌いって……本当なのかな?

  グウゥ〜ッ……

  「あっ!」

  そんな事を考えていると、ふいにお腹から大きな音が鳴り響いた。

  そういえば、お腹減っちゃった……

  いつの間にか、外も真っ暗になっちゃってるし……もうそんな時間なんだ。

  あっ!僕がそうなら、旦那さまも、お腹を空かしているかもしれない。

  こうしちゃいられない……すぐにご飯を作らなくちゃ!

  思い立った僕は、すぐに居間を飛び出すと、廊下を小走りで駆けて、台所を探した。

  そうして台所を見つけると、ちょっと失礼して棚などを漁り、食材を色々見繕った。

  それからカタカタ、トントン、ゴトゴトと、お米を炊いて、お魚を焼いて、すまし汁もこさえると、居間のちゃぶ台に、次々に並べていく。

  そうして夕食の準備を終えた頃、ホクホク顔の旦那さまが、機嫌が良さそうに大きな尻尾を揺らして、お風呂から戻ってきた。

  旦那さまは、ちゃぶ台に並んでいる料理を見て、目を丸くして驚いていたけど、やっぱりお腹が空いていたみたいで、すぐに太鼓のように大きなお腹から、グウゥッ!!と僕とは比べ物にならないほどの、大きな音が鳴り響いた。

  旦那さまは照れくさそうに顔を赤くしながらも、ちゃぶ台にどっかりと腰を下ろして「ほれ、お前さんも早く座りぃ!」と言ってくれたので、少し迷ったものの、お言葉に甘えて、一緒に夕飯を食べさせてもらう事にした。

  僕はあまり料理が上手じゃないから、ちゃんと口に合うか心配だったけれど、旦那さまは魚の一片も残さずに、綺麗に全部食べてくれたから、すごく嬉しかった。

  それから夕飯の後、旦那さまにお茶を出してから、台所で後片付けをしていると、居間のほうから、大きなあくびの音が聞こえてきたので、大急ぎで片付けを済ませると、旦那さまの寝支度をしに、寝室へと向かった。

  ***

  「旦那さま!支度が終わりましたので、寝室に来てください!」

  畳の上に布団を敷き終えた僕は、居間の旦那さまに向けて、大きな声で呼びかけた。

  すると、すぐにドスドスと大きな足音を廊下に響かせながら、旦那さまが寝室にやってきてくれた。

  「なんや、布団まで敷いてくれたんかいな。こないな事ぐらい、自分でするっちゅうんに……」

  寝室に足を踏み入れるやいなや、敷いた布団の横で座して待っていた僕の事を、その半月のような目で見やると、旦那さまは呆れたように呟いた。

  「いえっ!旦那さまの身の回りのお世話をするのが、僕の仕事ですので!」

  「ほ、ほうか」

  そこは譲れないと、すかさず言葉を返すと、旦那さまは太い眉尻を下げて、困ったように苦笑いを浮かべた。

  その様子に(もしかしたら、布団まで敷くのはやり過ぎだったのかも……)と心の中で反省していると、旦那さまがドスドスと歩み寄ってきて、そのまま布団の上にどっかりと腰を下ろすと、僕の方へと向き直った。

  「う、うむ。ええ感じに敷けとるで……おおきにな、五郎」

  「あ、ありがとうございます!」

  どこか照れくさそうに目を泳がしながらも、旦那さまが口にしてくれた言葉に、僕はなんだか無性に嬉しくなって、深々と頭を下げながら、大きな声で返事をした。

  そんな時、ふいに頭の上から、ハッとしたような声が聞こえてきた。

  「あっ!しもうた……ウチには、布団がひとつしかあらへん事を、すっかり忘れとったわ……お前さんの寝床、どないしよう……」

  その声に顔を上げると、丸い耳をペタンと寝かせた旦那さまが、困り果てたような面持ちで、太い両腕を組んで、考え込んでいた。

  そんな旦那さまの姿に、途端に申し訳なさが込み上げてきて、慌てて口を挟んだ。

  「い、いえっ!僕は布団がなくても全然平気なので、気にしないで下さい!」

  「なにを阿呆な事言うとるんや!獣人のワシならともかく……生っちょろい人間のお前さんが、布団もせんで寝たら、風邪を引いてまうやろうがっ!」

  僕の言葉を聞いた旦那さまは、さっきまでの弱々しい困り顔から一転、達磨のような厳しい面持ちになると、自分の膝をバシーンッと叩きながら、語気を荒げた。

  そうして叱りつけられた途端……たちまちに僕の心に、いつもの臆病風が吹き荒んで……さっきまでの勢いはどこへやら、初めて会った時みたいに、またブルブルと体が震え出してしまった。

  「ほれ見てみぃ!こないに震えよって……ひとまず今日んところは、ワシの布団に入りぃ」

  「えっ!?で、でも……」

  「でももヘチマもあらへん!ほれっ、ちゃっちゃと入りぃ!」

  「わぁっ!?」

  そう言い終えるが早いか、旦那さまが勢いよく太い腕を伸ばして、僕の体を持ち上げたかと思うと、そのまま懐に抱き寄せながら、まるで小さな子を抱くみたいにして、布団の中に潜り込んでいった。

  すると、途端にさっきまで感じていた肌寒さが消え失せて、瞬く間に、お日様みたいにポカポカとした温かさが、全身を包み込んでいった。

  すぐ目の前には、浴衣の前開きからはだけた、ふっくらした胸元があって、秋なのに汗でしっとりと濡れているそこからは、枯れ草と獣臭さが入り混じったような匂いが、ふんわりと漂ってくる。

  ドキドキ……ドキドキ……ドキドキ……ドキドキ……

  なんだろう……この感じ。

  旦那さまから、ギュウッと力強く抱かれて、柔らかい体の感触と温もりを感じるほどに、胸の鼓動が激しくなって……まるで太鼓が打たれてるみたいに、ドンドコと鳴り響いている。

  しかもそれだけじゃなくて、顔も体もカッカと熱くて……もしかして風邪でも引いてしまったのではないかと、心配になってしまう。

  なんだか……すごく恐い。

  自分に起きている事が、なんなのか分からなくて、不安で堪らなくて……ふるふる震えて、身を竦ませてしまう。

  すると、そんな僕の背中を、大きくて温かい手が触れて、そっと撫でてくれた。

  「すまん……ウチの布団は狭っこいさかい、こうでもせんと二人一緒に寝られへんのや。こないなおっちゃんとくっついて寝るやなんて、ほんまに嫌やろうけど……堪忍してな」

  その声は、とても優しくて……でも、本当に申し訳なさそうで……ヒシヒシと伝わってくる旦那さまの心持ちに、胸が詰まりそうになる。

  「い、嫌なんかじゃっ……ない、です」

  旦那さまになんとか応えたくて、おぼつかない口を必死に動かして、精一杯に声を振り絞る。

  でも、そうして出てきた声は、上擦って尻すぼんだ……ひどくみっともないものになってしまった。

  そんな自分が、本当に恥ずかしくて情けなくて……堪らずに、旦那さまの大きな胸に、隠れるように顔を埋めてしまう。

  「ほうか……お前さんは、優しい子やなぁ」

  そんな僕に、旦那さまはまた優しい声を掛けてくれると、温めるように、そして労わるように、大きな手で頭を撫でてくれた。

  すると、なんだかホッとしちゃって……安心したせいか、急に眠くなってきてしまった。

  奉公人の自分が、旦那さまより先に寝たりしちゃ駄目なのに、瞼がどうしようもないくらい重くて……頑張ってはみたものの……結局、いつの間にか眠ってしまった。

  ………

  ………………

  ………………………

  明くる日、なんと旦那さまが村まで行って、僕の布団をわざわざ買ってきてくれた。

  すごく嬉しかったのだけど……でも、その布団は絹のように真っ白な上に、ふんわりとした厚みまであって……どう見ても、旦那さまの使っているペッタンコな煎餅布団より、ずっと良い物だったから、物凄く驚いてしまった。

  「こ、こんな上等な布団は、自分には勿体無いので、旦那さまが使って下さい!」

  と、すぐに慌てて遠慮したのだけど

  「なに阿保な事言うとるんや!つべこべ言わんで、大人しく使っときぃ!」

  と、ぴしゃりと跳ねつけられて、そのまま頑として譲ってくれなかったので……とても恐れ多かったものの、ありがたく使わせてもらう事になったのでした。

  ***

  それから旦那さまに奉公する日々が始まった。

  朝、早起きしたら、せっせと朝ごはんを作って、少し遅れて起きてきた旦那さまと一緒に食べる。

  その後、工房へ仕事に行く旦那さまを見送ったら、自分は掃除や洗濯、食料の買い出しなど、ウチの事をあれやこれやとこなしていく。

  そんなこんなでお昼になったら、仕事に熱中している旦那さまを邪魔しないように、お昼ごはんのお握りを、そっと工房に届けてから、裏手の山で山菜を採ったり、川で魚を釣ったりして、その日の夕食に出せそうなものを調達しにいった。

  旦那さまからは、十分過ぎるほどのお金を預かっているので、本当はそんな必要は全然ないのだけど……やっぱり自分のせいで、食い扶持が一人分増えてしまっているから、少しでも足しになればと思って、あれこれやってみている。

  それから陽が沈む頃に、屋敷に帰ってくると、一足早く工房から戻ってきた旦那さまが、お風呂に入っているので、その間に急いで夕ご飯の支度をして、旦那さまがお風呂から上がったら、一緒に食べる。

  僕はそんなに料理が上手じゃないのに、旦那さまはいつも残さずに、たくさん食べてくれるから、すごく嬉しい。

  食べ終わったら、片付けしてから自分もお風呂に入って、上がったら旦那さまの晩酌に付き合わせてもらって……そうして夜が更けてきたら、ペッタンコの布団とふわふわの布団を、寝室に隣り合わせに敷いて、一緒に眠った。

  奉公は物凄く辛くて大変だって、話に聞いてたから、とても心配していたのだけど、旦那さまが良くしてくれるお陰で、大変な時はあっても、辛い思いをする事とかは、全然なかったから、本当に良かった。

  でも、そんな風に旦那さまと過ごしていくうちに、ひとつだけ……とても困ったことに気付いてしまった。

  それは、すごくおかしな話なのだけど……どうやら僕は、旦那さまに……恋をしてしまったみたいなんだ。

  自分にそんな性分があるだなんて、全然思いもしてなかったから、初めのうちは、そんなわけないって振り払っていたのだけど……それでも旦那さまの事を想うと、胸がドキドキして、とても切なくなって……またあの時みたいに、抱きしめてほしいって気持ちで、いっぱいになってしまう。

  だけど、そんなのやっぱり良くないし……なにより、こんなに僕に良くしてくれている旦那さまに対して……申し訳ない。

  それなのに、旦那さまへの想いは日に日に募るばかりで……いやらしい事なんかも、たくさん考えてしまう。

  こんな僕が、旦那さまにお仕えしてて……本当にいいのかな。

  ***

  旦那さまのもとで奉公を始めてから、ひと月半ほどが経った日の夜更け。

  僕は、晩酌の支度を整えたちゃぶ台の前で、旦那さまが帰ってくるのを、いまかいまかと待っていた。

  今日は、いつも工房に籠っている旦那さまが、都から陶器を買い付けにきたお客さんと会うために、久しぶりに村へと出掛けている。

  出掛け際に『商談がてら、村の料亭で夕食を済ませてくる』とは言っていたのだけど……それにしても帰りが遅い。

  ここら辺は、そんなに物騒じゃないから、山賊や追い剥ぎに襲われたりはしないと思うけど、やっぱり心配になってしまう。

  「旦那さま……大丈夫かな」

  なにかあったり、していないと良いけど……ちょっと外の様子を見てこようかな。

  そんな事を考えながら、そわそわ気を揉んでいた……その時。

  ──ガラァッ

  「おーい!五郎、いま帰ったでぇ!」

  「あっ!はーい!」

  引き戸の開く音に続いて、待ちわびていた旦那さまの大きな声が聞こえてきた。

  無事に帰ってきてくれた事に、ホッと胸を撫で下ろしながらも、旦那さまをお出迎えするために、急いで土間へと向かった。

  「旦那さまっ、おかえりなさ……い?」

  そうして小走りで土間へやってきた僕だったけれど、目に飛び込んできた旦那さまの姿に、思わず面食らってしまった。

  一目で酔っているとわかる、真っ赤っかな顔は、いつもの厳しさが見る影もないくらい、だらしなく緩んでしまってて……お酒の匂いをプンプンさせた大きな体も、船を漕ぐようにユラユラと揺れてしまってる。

  旦那さまは晩酌で、いつもほろ酔いぐらいにしか飲まなかったから、こんな風にへべれけに酔っ払っている姿を見るのは、初めてのことだった。

  「おうっ、ただいまぁ!ほれっ、五郎にお土産買うてきたでぇ!」

  「えっ?あ、ありがとうございます!」

  ニコニコと上機嫌な旦那さまは、それまで小脇に抱えていた風呂敷包みを、右手に取ると、びっくりしている僕に、ポンっと手渡してくれた。

  お土産だなんて、一体なんだろう?と、ワクワクドキドキしながら、風呂敷の中を覗いてみると、そこには飴やカルメ焼き、かりんとうなどの甘いお菓子が、どっさりと入っていた。

  「えらい迷ったんやけど、お前さんぐらいの子やったら、甘いもんが一番ええかと思うてな!どや、嬉しいかぁ?」

  「は、はい!とても嬉しいです」

  「ガハハ!そかそかっ、それやったら良かったわ!」

  僕の返事に気を良くしたのか、旦那さまは、にんまりと満面の笑みを浮かべて、とても嬉しそうにしている。

  それなのに……僕は内心では、せっかくのお土産を、素直に喜べずにいた。

  前々から感じていたのだけど、旦那さまは僕の事を、まだ未熟な子供だと思っている節があって……このお菓子だって、そう思っているからこそ、買ってきたのだと思う。

  普段の奉公仕事だって、なにか重い物を運ぼうとしたり、ちょっと危ない作業をしようとするだけで、慌てて止めに入ってきて、代わりにやってくれたりするし……僕はもう半人前の子供じゃないのに、旦那さまは全然そう見てくれない。

  どうしたら旦那さまに、ちゃんと一人前の大人の男だって、認めてもらえるんだろう?

  「おっとっと!」

  「あ、危ない!」

  そんな風に物思いに耽っていたら、履き物を脱ぎ終えた旦那さまの体が、グラッとよろめいて、あわや転倒というところを、慌てて駆け寄り、なんとか体を支えた。

  「だ、大丈夫ですか!?」

  「すまんすまん!ちぃとばかし飲み過ぎてしもうたみたいや……五郎、すまんが堪忍ついでに、このまんま寝床まで連れてってもろうてもええか?」

  「は、はい!」

  大きく頷いて返事をすると、旦那さまは、僕の肩に太い腕を回して、体重を軽く預けてきた。

  僕も、旦那さまの大きな体に、精一杯に腕を回して、背中とお腹の両方から、しっかりと支えると、お互いに息を合わせなから、寝室へ向かってゆっくりと歩き出した。

  一歩、一歩、慎重に進んでいくのだけれど……旦那さまと抱き合うみたいに、体をくっつけているせいか、温かくて柔らかい体の感触だけじゃなく、お酒と汗の入り混じったむせかえるような匂いまでもが、いっぱいに伝わってきて……心臓とちんちんが、いまにも爆発しちゃいそうだった。

  それでもなんとか寝室まで辿り着いて、襖を開くと、また一歩踏み出そうとした……その時だった。

  「あっ!!」

  「おわっ!?」

  気がそぞろで、足元が疎かになってしまっていたせいか、襖の敷居にうっかり足を取られて躓いてしまい、そのまま旦那さまを巻き込んで、畳の上へと、もつれあうように倒れ込んでしまった。

  すぐにドスーンっと大きな音と共に、衝撃が体に伝わってきたのだけれど、不思議と痛みは感じなかった。

  「ぐうっ……ご、五郎、だんないか?」

  「は、はい!大丈夫です……って、だ、旦那さまの方こそ、大丈夫ですか!?け、怪我は!?」

  苦しそうに呻く旦那さまの声に、もしかして大怪我をしてるんじゃないかと心配になって、大慌てて起きあがろうとした。

  だけど、どんなに力を込めても、僕の体はちっとも動かなくて……どうしちゃったんだろうと焦っていると、ふいに背中が、ポンポンと叩かれた。

  「だんない。ワシはピンピンしとる……せやから、安心しぃ」

  そうして頭の上から、とても優しい声が聞こえてきて……いま自分は、旦那さまの懐に抱かれているんだと、ようやく気がついた。

  身動きできないくらいに、力強く抱きしめられている体に、旦那さまの温もりが、熱いくらいに伝わってくる。

  よろけて躓いてしまった僕を、旦那さまが身を挺して庇ってくれたんだ……

  旦那さまの優しさが、温かい気持ちが嬉しくて……堪らずに、自分からも体を寄せると、ふくよかな胸元に、甘えるみたいに顔を埋めた。

  旦那さま……大好きです。

  大好き……大好き……

  胸に秘めた想いを、何度も何度も心の中で伝えながら、もっともっとと体を擦り寄せて、赤ん坊みたいに甘えてしまう。

  「んっ?五郎、お前さん……ちんぽこ大きくしとるんか?」

  「えっ?」

  ふと聞こえてきた戸惑いをはらんだ声に、ハッと我に返ると、いつの間にかちんちんが大きくなっていた上に、あろうことかそれを、旦那さまのお腹に押し当ててしまっていた事に気がついた。

  「あっ!!こ、これは……ち、違うんですっ!!」

  とんでもない事態に、これ以上ないくらいに混乱してしまい、慌てふためきながらも、急いで体を離そうとした。

  けれど、今もなお力強く回されている腕が、それを許してくれない。

  それどころか、体を引き離そうとして、身を捩れば捩るほどに、逆にちんちんをお腹に擦り付けてしまい、その得も言われぬ気持ち良さに、ちんちんがますます固く張り詰めていってしまう。

  どうしよう……どうしよう……!!

  焦っても焦ってもどうにもならなくて、どうすればいいのか分からずに、まごまご狼狽えてしまう。

  そんな中、ふいに体がぐるんっと回転したかと思うと、今度はふわぁって浮き上がるような感じがして、突然のことに堪らずに目を瞑ると、ほどなくして畳の固い感触が、背中に伝わってきた。

  いったい何が起こったのか分からなくて、恐る恐るではあったけれど、瞑っていた目をゆっくりと開いてみると……そこには僕のことを見下ろしている、旦那さまの顔があった。

  僕の頭を挟むように両手をつきながら、ただでさえ厳しい顔をもっと強張らせて、射抜くような眼差しで、こちらをジッと見据えている。

  こんな表情の旦那さまを見るのは初めてで……まるで蛇に睨まれた蛙みたいに、僕は身動きはおろか、視線を逸らす事すら出来なくなってしまった。

  すると、ふいに旦那さまの顔が、ゆっくりと近づいてきて……やがて目の前いっぱいに広がったかと思うと、温かくて柔らかなものが、唇へと触れた。

  それが何なのか、初めは分からなかったけれど……強く触れ合わされた唇から広がる、蕩けてしまいそうな心地良さに……旦那さまから口づけされたのだと、ようやく気づいた。

  チュプッ……

  初めての口づけに、ポーッと惚けていると、そんな僕の唇から、湿った水音を立てて、旦那さまの唇が離れていく。

  そうして、次第に見えてきた旦那さまの顔は、くしゃくしゃに歪んでいて……今にも泣いてしまいそうだった。

  「すまんっ……せやけど、ワシ……お前さんが、好きで好きでしゃあないんやっ!!」

  掠れた声を詰まらせながらも、堰を切ったように口にした旦那さまの言葉に、ドクンッと心臓が大きく跳ね上がった。

  旦那さまが……僕のことを、好き?

  そんなこと、全然思いもしなかったから、頭が追いつかなくて、思わず言葉を失ってしまう。

  だけど、それでも旦那さまは、ふるふると震えながらも、僕の目を見つめ続けてくれて……そんな辛そうな旦那さまを前に、僕はもう居ても立っても居られなくなって、すぐに体を起こすと、旦那さまの両頬に手を当てて、思い切って口づけをした。

  チュッ……

  恥ずかしくって、ほんの一瞬になってしまったけど……これが僕の精一杯の返事だった。

  口づけを終えると、旦那さまの顔は、みるみるうちに真っ赤っかになっていった。

  いつもは鋭い三白眼も、月みたいにまん丸で、パチクリと瞬いている。

  「ご、五郎……」

  「旦那さま……僕、旦那さまが……大好きです」

  「ほ、ほんまかっ!?」

  「はい……奉公人の僕が、こんな事を言うなんて……良くないのかもしれないですけど……」

  「なにを阿呆な事を言うとるんやっ……!!ワシも……ワシも、お前さんが大好きやっ!!」

  旦那さまは、太い声を張り上げて、そう伝えてくれると、僕の体を力強く抱き寄せて、荒々しく唇を重ね合わせてきた。

  ずんぐりとした口吻を啄むように動かして、それから厚ぼったい舌を差し出すと、僕の唇をベロリと舐めしゃぶる。

  「んぅっ……!」

  大好きな人に口を吸われる心地よさと、思うように息ができない苦しさから、堪らずに口を開けると、これ幸いとばかりに分厚い舌が捩り込まれた。

  それは、まるで雛鳥に餌をやる親鳥のように、口の中をつつき回しては、そこらかしこを這いずり回って、お酒の味がする唾液を、だらだらと流し込んでくる。

  また堪らずに、今度は身を捩ろうとするけれど、背中に回された力強く太い腕は、身じろぎの一つも許してくれなくて……もうされるがままに、次々と流し込まれてくる唾液を、飲み込む事しか出来なかった。

  チュパッ……!!

  大きな水音を立てて、唇がゆっくりと離れていった。

  すっかり骨抜きにされてしまった僕は、もう自分で座っている事もできなくて……旦那さまの大きな体に寄りかかり、太腕で支えてもらいながら、激しい口づけの余韻に、ポーッと浸ってしまう。

  「ふぅ、ふぅ……もう辛抱できへん。五郎、脱がすで!」

  そんな僕を見下ろしていた旦那さまが、息を荒げながら、腕を伸ばしてきたかと思うと、普段の姿からは想像もできない荒々しさで、僕の着物を脱がしに掛かってきた。

  力任せに帯が引き解かれ、続けて着物を剥ぎ取られると、そのまま最後の砦である褌までをも引っぺがさせれてしまい、あっという間に丸裸に剥かれてしまった。

  それから旦那さまが身を乗り出して、股座を覗き込んできた……かと思うと、その途端に、さっきまでの荒々しさが嘘のように、ふにゃっと顔が綻んでいった。

  「ふふっ……お前さんは、ここもかわええなぁ」

  「えっ?……わわっ!?」

  その言葉に、ハッと我に返った僕は、大慌てで股座を両手で覆い隠した。

  だけど、もうすでに時は遅しで……ピンピンに立ち上がったちんちんを、旦那さまにバッチリ見られてしまった。

  旦那さまには、これまで裸を見られた事さえなかったのに……今はこんな丸裸で、ちんちんの皮かむりまで知られちゃった。

  本当に恥ずかしくて恥ずかしくて……顔がカァッと真っ赤になるのが、自分でもわかった。

  「だ、旦那さま……僕、恥ずかしい……です」

  「あっ……すまんすまん。お前さんだけ裸ん坊じゃ、恥ずかしいわな……ワシもすぐに脱ぐさかい、ちと待っとってな!」

  少しでも裸を隠そうと、体を丸めて縮こまる僕にそう言うと、旦那さまは、自分の着物の帯に手を掛け始めた。

  忙しない手つきで帯を解いて、続いて着物も脱ぎ去ると、目の前に旦那さまの大きな体が、肌も露わに現れた。

  人間の僕と違って、全身が毛むくじゃらの逞しい体は、どこもかしこも分厚くて、男らしくて……凄く格好良い。

  太鼓腹という言葉がぴったりの大きなお腹は、お月さまみたいにまん丸で、ふくよかな胸まわりと同じように、白茶色の体毛が広がっていた。

  そんな大きなお腹の下で、半ば埋もれている赤い褌は、だいぶ年季が入っているみたいで、ヨレヨレにくたびれてしまっている。

  それに巾も足りていないのか、内側から突き上げられた前袋の両脇からは、黒茶色の股毛がわんさかとはみ出していて、そのうえ、とんでもなく大きな玉袋までもが、収まりきらずにボロンッと溢れ出てしまっていた。

  ドキドキ……ドキドキ……

  旦那さまは、着替えの時にいつも僕に背を向けていたから、こんな風に正面から、まじまじと見るのなんて初めてで……興奮のあまりに、心臓がどうにかなっちゃいそうだった。

  鳴り響く心臓の音を聞きながら、固唾を飲んで見つめていると、おもむろに太い指が前垂れに掛けられて、そのまま結び目を解いていくと、ハラリと前袋が落ちていって……夢にまで見た旦那さまのちんちんが、ついに目の前で露わになった。

  たぷたぷな玉袋は、僕の何倍も大きくて、柿の実ぐらいありそうな金玉が、ごろりと転がっている。

  そんな巨大な玉袋に乗っかっている、ずんぐりと寸胴なちんちんは、大きなお腹をものともせずに、天に向かって雄々しく突き上がっていた。

  それはとても太いのだけど、長さはそんなになくて、旦那さまが山のように大きな体や、巨大な玉袋をしているせいもあってか、なんだか短く見えてしまう。

  だけど、分厚い皮は半分以上捲れているし、なにより赤黒い亀頭が、しっかりと顔を出していて……見れば見るほどに、ピンピンに膨らんでも、先っぽまで被ってしまっている自分なんかでは、逆立ちしても敵わないと分かる……本当の大人の男のちんちんだった。

  自分は、もう一人前の男なんだって思っていたのに……こうして旦那さまと裸で向かい合ってみたら、自分なんか一人前どころか、ほんの子供でしかなくて……本当の男としての差を、まざまざと思い知らされたようだった。

  「ほれ、ワシも裸になったで。これでもう恥ずかしくないやろう?」

  「は、はい……」

  旦那さまは脱ぎ終えて、どっしりと胡座をかくと、労るように優しく声を掛けてくれた。

  それなのに僕は、さっきにも増して恥ずかしくて……股座を両手で隠しながら、ますます体を丸め込んでしまう

  「ふふっ……おぼこいなぁ」

  「す、すみません……」

  「なんも謝る事なんかあらへん。ところで……お前さんは、その……まぐわいの経験やらは、もうあるんか?」

  「い、いえっ……その……僕、まだ筆おろしを済ませていなくて……」

  「そ、そかそか。ほんじゃあ、やり方なんかも、まだよう分からんのやな?」

  「はい……分からなくて……本当にごめんなさい」

  「だ、だんないっ!そないな事、謝ったりせんでええ……ワシがちゃんと教えたるさかい、安心しぃ!」

  そう言うと旦那さまは、僕の頭をポンポンと叩いて、安心させるように優しく笑いかけてくれた。

  それからすぐに立ち上がると、押し入れをガラッと開いて、ドタバタ慌ただしく布団を敷き始めてくれた。

  本当なら、旦那さまにそんな事させちゃいけないのに……恥ずかしさと緊張のせいか、どうしても身動きできなくて……いつもみたいに、旦那さまの優しさに甘えてしまう。

  そうして布団を敷いてくれると、旦那さまは、縮こまって座り込んでいる僕の体を、ヒョイっと抱きかかえて、布団の上にそっと寝かせてくれた。

  そしてドタバタ慌ただしい足取りで、僕の足元に移動すると、どっかりと腰を下ろす。

  なんでそんな所に座ったんだろう?と不思議に思っていると、旦那さまが、おもむろに僕の両足を抱え上げて、なんと股座を覗き込み始めた。

  「だ、旦那さま……!?」

  「す、すまん!ちと調べなあかんさかい……えらい恥ずかしいとは思うけど、堪忍してな」

  「は、はい……」

  旦那さまは身を乗り出して、まるで検めるように、しげしげと股座を眺めてくる。

  そのうえ、よく見えないからと、股座を隠していた両手も取っ払われてしまって……ちんちんもお尻も丸出しなのに、隠そうにも隠せなくて……本当に恥ずかしい。

  「むぅ……やっぱしホトはあらへんか。人間ならもしや、と思うたんやが……」

  ホトって……僕は男なんだから、そんなのないに決まっているのに……

  もしかして旦那さま、人間に疎いのかな?

  「ほんなら……ホトの代わりに、こっちに入れるしかあらへんか」

  「えっ……ひゃっ!?」

  突然、お尻の穴に、なにか太いものが、ズブッと入ってきて、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。

  そのまま、太くて長いものが、グニグニと中をまさぐってきて……それが旦那さまの指だって、すぐに気付いたけれど……どうして旦那さまが、そんな事をするのか、さっぱりだった。

  「うむ……ちと狭っこいけど、なんとか入りそうや」

  「えっ!?」

  は、入るって……まさか……

  ちんちんを……お尻に入れる……ってこと?

  旦那さまの言葉に、ひどく動揺して狼狽えてしまっていると、ふいにお腹がそっと撫でられた。

  ハッとして、目線をそちらに向けると、とても心配そうに僕の事を見つめている、旦那さまの顔が見えた。

  「五郎……これからワシのもんを、お前さんの尻に入れようと思うんやけど……お前さんは新鉢やし、体も小こいさかいに……えらいしんどい思いをさせてまうかもしれへん」

  「は、はい……」

  「せやけど……ほんでもワシは、お前さんに入れたい……お前さんの事を、ちゃんと抱いてやりたいんやっ!!」

  「……旦那さま」

  いまにも泣き出してしまいそうな顔をしているのに……旦那さまは、僕の目をしっかりと見つめながら、力強い声で、そう伝えてくれた。

  そんな旦那さまの気持ちに応えたくて、お腹の上で、ふるふると震えている大きな手に、自分の手をそっと重ね合わせた。

  すると、旦那さまは、ビクッと体を震わせて、びっくりしたように目を見開いた。

  「僕も……旦那さまに、抱かれたいです。なので……こちらこそ、お願いします」

  「五郎……おおきになぁ。お前さんを、気持ちようしてやれるように……ワシ、頑張るさかいな!」

  旦那さまは、くしゃくしゃの顔を、ふにゃりと綻ばせると、そっと頭を撫でてくれた。

  そして、自分の手のひらに向かって、大きな唾をペッペと何度も吐き出すと、両手のひらを擦り合わせて、自分のちんちんを撫で擦り始めた。

  すると、手のひらにべったりと塗られた唾が、先っぽからドクドクと溢れ出してくる先走りと合わさって、大きなちんちんをヌラヌラと濡らしていく。

  ゴクリッ……

  その様子を固唾を飲んで見つめていると、少しして準備を終えた旦那さまが、まるで赤ん坊のおしめを取り替えるみたいに、僕の両足を抱え上げた。

  そして膝立ちの要領で歩を進めて、少しずつお互いの股座を近づけていくと、ついに僕のお尻の穴に、熱くて固いものが触れた。

  「入れるで……力抜くんやぞ!」

  「は、はい!」

  その言葉に、精一杯にお尻の力を抜いて、少しでも穴を広げようとしてみる。

  すると、そうして緩んだお尻の穴に、熱した棒みたいなちんちんが、ググッと押し当てられて、そのままズルッと滑りながら、お尻の中にズブリと入ってきた。

  その途端、物凄い激痛が走って……思わず声を上げそうになったのを、すんでの所で堪えた。

  「つっ……!!」

  「ぐっ……は、入ったで!五郎、だんないか?」

  「だ、大丈夫っ……ですっ」

  「ほ、ほんまか?無理してへんか?」

  「は、はいっ……本当に、平気ですっ!」

  口ではそう言ったものの……本当は、お尻の穴が裂けちゃうんじゃないかってぐらい痛かった。

  でも、優しい旦那さまに心配を掛けたくなくて、頑張って平気なフリをした。

  「そ、そかそか。ほんなら、次は腰を入れてくけど……ほんまにしんどい時は、ちゃんと言うんやぞ?」

  「はいっ!」

  旦那さまは、改めて体勢を整えると、自分を落ち着かせるように、フゥッと大きく息を吐き出してから、ゆっくりと腰を動かし始めた。

  入れられた時も痛かったけど、こうしてちんちんを抜き差しされちゃうと、もっともっと痛くて……深々と腰を入れられる度に、苦しい声を出してしまいそうになる。

  でも、そんな声はやっぱり聞かせたくなくて、歯を食いしばりながら唇を閉じて、頑張って堪えた。

  「ぐっ……堪らんっ……柔こくて温くて、ほんまに気持ちええっ……!!五郎っ……お前さんも、気持ちええかっ?」

  「は、はいっ……気持ち、良いですっ……!」

  「そかそか!それやったら良かった……んぐっ……ほ、ほんなら……もうちょい激しゅうしても、だんないな?」

  「えっ!?」

  そう言い終えるや否や、それまで緩やかだった旦那さまの腰使いが、激しく力強いものへと変わっていった。

  木杭を打ち込むような勢いで腰を入れて、ズブッと奥に差し込んだかと思うと、腹わたをズリュズリュと引きずり回しながら、ちんちんを引き抜いていく。

  さっきとは比べ物にならない痛みが、お尻から伝わってきて、堪えられずに声を上げてしまった。

  でも、旦那さまは、そんな僕の事なんか見えていないみたいに、そのままお構いなしで腰を打ちつけてくる。

  涙ぐみながら呻いてしまう僕を、まるで叱りつけるみたいに、大きな玉袋がビタンビタンッと、何度も尻たぶを打ってくる。

  すごく痛くて、恐くて……もうやめて欲しいと、堪らずに音を上げようとした……その時だった。

  「んぅっ……!!」

  突然、身を裂くような痛みとは違う、ジンジンと痺れるよう甘い感覚が、ちんちんの裏側から迸ってきて、上擦った声を上げてしまった。

  それはまるで女のような声で……男の自分が、そんな声を出してしまった事が、本当に恥ずかしくて、慌てて口を両手で覆った。

  だけど、それも束の間で……急に太い腕が伸びてきて、両手を口元から引き剥がしたかと思ったら、そのまま巨体で覆い被さられて、布団の上に押さえつけられてしまった。

  「隠すんやない……五郎のかわええ声、もっと聞かしてや」

  そう言って、僕の事を見下ろしている旦那さまの顔は、これまで見た事がない、とてもいやらしいものだった。

  口角がググッと吊り上がっていて……そこから、だらしなく舌を垂らしながら、目をギラギラさせてて……まるで獲物を前にした獣みたいだった。

  こんな時、いつもなら恐くて震えてしまうのに……今はなんでか、ゾクゾクして仕方なかった。

  「ええ顔しとるでぇ……もっと可愛がったるさかいな!」

  「あっ……あっ、あっ……!!」

  旦那さまは、ニタリといやらしい笑みを浮かべると、僕に覆い被さったまま、全身を揺さぶるようにして、また激しく腰を振り始めた。

  すると、大きなお腹に押しつぶされた僕のちんちんが、動きに合わせて、ズルズルと擦られて、もみくちゃにされてしまう。

  それだけでも凄く気持ちいいのに……お尻の中を、大きなちんちんで、ズボズボと抜き差しされて、腹わたをズルズルと擦り上げられる度に、あの痺れるような快感もビリビリと迸ってきて……体の内側と外側の両方から与えられる刺激に、堪えられなくて恥ずかしい声を上げ続けてしまう。

  「んぅっ……やっ……あっ、あっ……」

  こんなに激しく体を動かしているのに、旦那さまの目は、ずっと僕に向けられていて……こんなはしたない姿、恥ずかしくて仕方ないのに……両手を取られているから、隠す事もできない。

  「旦那さまっ……んぅっ……み、見ないでぇ……あっ、あっ……恥ずかしいよぉ」

  「だんないっ……なんも恥ずかしい所なんかあらへん……ほんまにっ……ほんまにかわええでぇ!!」

  そう言って、旦那さまが息を切らしながら、顔を近づけてきたかと思うと、あっという間に、柔らかくて温かい感触が口いっぱいに広がった。

  お酒臭い息を吹き込まれつつ、厚ぼったい舌を捩じ込まれて、ガツンガツンと激しく腰を振られると、瞬く間にちんちんがビリビリと痙攣して、金玉からグングンと込み上げてくるものを、ひと時も堪える事ができなかった。

  「っぁ……!!」

  ピュッ!!ピュッ……ドグドク……

  「んぁっ……締め付けよるっ……!!ぐぅっ……五郎、ワシも出すでぇっ!!」

  ドビュッッ!!!!ドビュッ!!!ビュッ!!ドプッ……ドプッ……

  僕がビクンビクンと体を痙攣させながら射精すると、旦那さまもそれに合わせるように、いっそう激しく腰を打ち込んで、熱い子種をお尻の中に吐き出した。

  その量と勢いは凄まじくて、まるで温泉の間欠泉みたいに、ビシャッビシャッと、腹わたに何度も、熱いものが打ちつけられていった。

  そうやって出してる間も、ずっと腰を振り続けていた旦那だったけれど、それも段々とおさまっていって……ゆっくりと腰の動きが止まったかと思うと、のったり倒れ込むようにようにして、布団の上にゴロンと横になった。

  そして、僕の事を自分の懐に抱き込むと、グガァーグガァーと大きないびきをかいて、あっという間に眠ってしまった。

  僕も旦那さまも、汗だくな上に子種まみれになっちゃってたから、後片付けとかお風呂の事が頭に浮かんだけれど……旦那さまに抱かれていると、みるみるうちに眠気が込み上げてきちゃって……そのまま一緒に眠ってしまった。

  ***

  チュン……チュンチュン……チュン……ピッピッ……チチッ……

  「どわあっっ!!!?」

  「わぁっ!?……な、なになにっ!?火事??」

  温かな温もりに包まれて、スヤスヤと気持ち良く眠っていた僕は、屋敷が揺れるんじゃないかというぐらいの大声で叩き起こされた。

  何事かと慌てて飛び起きて、辺りをキョロキョロと見回すと、すぐ隣で、目をまん丸に見開いたまま、口をパクパクさせている旦那さまの姿が、目に飛び込んできた。

  「だ、旦那さまっ、大丈夫ですか!?」

  「ワ、ワシ……お前さんに、あないな……あないな事……」

  旦那さまは、わなわなと体を震わせながら、あわあわとそう口にしていて……なんだかひどく動揺しているみたいだった。

  もしかして旦那さま……僕とまぐわった事、後悔しているのかな?

  昨日はすごく酔っ払っていたし……やっぱり、本当はしちゃいけない事だったのかも……

  「あ、あないな事して……お前さんを、孕ましてしもうたかもしれへんっ!」

  「へっ?」

  色んな想像を巡らせていた僕だったけれど、旦那さまが口にした思いがけない言葉に、つい素っ頓狂な声が出てしまった。

  「こうしちゃ居れん……すぐにでも、なんか体にええもんを買うてこなっ!!」

  旦那さまはそう言って、手近にあった褌と浴衣をかき集めると、大急ぎで身につけ始めた。

  呆気に取られて、その様子をぼんやりと眺めていた僕だったけれど、いよいよ寝室を出て行こうとする旦那さまの後ろ姿に、ようやくハッとして、慌てて声を掛けた。

  「だ、旦那さまっ、待って下さい!僕はそんな……」

  「ええからっ!!朝飯も、帰ってきたらワシが作るさかい!お前さんはそれまで、ちゃんと大人しく布団に寝とるんやぞ!」

  僕の呼びかけをピシャリと跳ねつけると、旦那さまは、ドタバタと慌ただしい足取りで、屋敷から出て行ってしまい……僕は一人、まだ旦那さまの温もりの残る布団の上に、ポツンと取り残されてしまった。

  旦那さまったら……まぐわったからって、男の僕が、妊娠なんてするわけないのに……

  旦那さまのとんでもない早合点に、ちょっと呆れてしまいながらも……僕の心は、ポカポカと温かい気持ちでいっぱいになっていた。

  「えへへ……」

  僕の旦那さまは、ちょっと風変わりで……とても心の優しい、素敵な方です。

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