潜入:女装代理出産風俗店を調査せよ(後編)

  潜入調査が開始してからおよそ二か月が経過した。調査のためとはいえ精査していないものを体内に入れたため、定期的な検査は欠かさずに行われた。幸い、血液や体液からは何も検出されず、疑似的な陣痛と快感は一時的なものでしかないとの診断だった。

  シフトの時間になればお客様に「ご奉仕」をし、愛を育んで家路に就く。初めこそ異性の装いに恥じらいを覚えていた二人だったが、勤め始めておよそ二週間で慣れてしまった。元々「ヒーロー」という役割を求められる仕事に就いていた分、人気を得るためのノウハウを覚えるのにそう時間はかからないのだった。

  「二人とも中々に筋がいいですね。お二人はこういった商売をされていたんですか?」

  「ありがとうございます!俺は前にヒーローショー・・・・・・のアルバイトをしていたんです。役者志望で大学に行ってるので」

  ドレイクの目配せでハウンズが我に返って付け足した。実際、偽装経歴に「役者志望で大学に通っている」という設定をしているのだ。

  「成程それで研究を・・・・・・ハースさんは何を?」

  「あ、私はただ演劇や映画を見るのが趣味なだけで、会話術を少々かじった程度です・・・・・・。まぁ、リストラの憂き目に遭ってしまいましたが」

  ドレイクはあまり触れてほしくなさそうな声音で返した。檻永も「時の運ということもあります。そう気を落とさずに・・・・・・」と、心中を察してかそれ以上の詮索はしなかった。

  「さぁ、今夜もお客様にご奉仕して参りましょう。今日からお二人も一人前の嬢として、一人で頑張っていきましょう♪」

  檻永の合図を受け、ハウンズとドレイクは店の嬢たちと共にそれぞれの部屋に戻っていくのだった。

  お客様からの指名やシフトが来ない間は自由時間である。「ご奉仕」で使った衣服の洗濯や料金計算、ご奉仕の内容相談は専門の係が執り行っているため、お店から出ない限りは自室から出歩いても問題は無いそうだ。ドレイクとハウンズは指名がされるまでの自由時間を館内の調査に費やした。「うっかり」飲み物を零して掃除道具を探しに行ったり、クラブの喧騒を縫うように「それとなく」散策したり・・・・・・しかし、隠し通路や開かずの間のような場所は一向に見つからず、協会からも「特に見つからないようなら今月で調査を打ち切り、本来の業務に戻ってもらう」との事だった。二人はクラブの片隅で、ヒーローにのみ通じる目配せや動作を組み合わせた暗号で会話を始めた。

  「二か月の潜入で手掛かりナシか・・・・・・まぁ、杞憂に終わる事なんてよくある話だからな」

  ドレイクはため息をつきながらグラスを傾けた。

  「折角こんな格好させられたのに・・・・・・」

  全ての調査が満足のいく結果を得られるとは限らない。寧ろ成果を焦って掴みかけた手掛かりを無駄にしてしまう事だってある。ドレイクも若い頃の空回りに歯がゆさを覚えていた時期があった。何十回と空振りをしたドレイクには割り切れるだろが、まだ数回しか味わっていないハウンズは引っかかりを飲み込めずにいた。握っているグラスに力が入る。

  「あと二週間の辛抱だ。もしかしたら最終日に手掛かりがつかめるかもしれない。焦らず『いつも通りに』だ。焦ってるヒーローなんて格好悪いだろ?」

  ドレイクの合図に、ハウンズは一瞬驚いた表情を浮かべたが、すぐに平静を取り戻したようにすぐに表情を戻して合図を続けた。

  「すみません教官、俺ばっかり焦っちゃって・・・・・・」

  「気にするな。私もお前位の頃はそんな感じだったからな。まずは教官呼びを止めるところから始めろ。俺は先に部屋に戻って支度を済ませる。お前もそろそろ準備をしておけ」

  ドレイクはグラスに残った飲み物を全て飲み干すと、喧騒と劣情の渦巻くクラブ会場を後にした。ハウンズはグラスを傾けながらこの場を自然に立ち去るまでの時間を潰していると、グラスが床で砕ける音と悲鳴が上がった。

  「離してください!貴方との子なんて産みたくありません!」

  「なぁ良いだろう?あと一回だけ、あと一回だけ頼むよ・・・・・・」

  明滅の激しいクラブの中、細身で筋肉質な狼獣人の嬢が、大柄な猪獣人の客に腕を掴まれていた。

  「嫌!嫌です!もう貴方の子なんて産みたくないんです!」

  「うるせえ!もう払うモンは払ってんだ。大人しくついてこい!」

  ハウンズは大きく、そして何度も深呼吸をした。冷静に。頭を冷やせ。この手の痴話喧嘩は日常茶飯事だろう。助けを求める嬢の手と表情は、客のボディーガードと思しきサングラスをかけた男たちに阻まれていた。突如始まった喧嘩の爆心地に巻き込まれて動くに動けないバーテンダーに、迂闊に手を出せないでいる嬢たち。そして圧倒的多数の傍観者と無関心者・・・・・・・・・・・・。

  「あ、ダメだ」

  とハウンズが思った瞬間には、客とボディーガードの頭には氷と水の詰まったアイスペールが被さっていた。会場の視線の大半が釘付けになっていた。猪獣人の客とボディーガードは突然の冷水に「ぎゃあっ!?」と悲鳴を上げて尻餅をついていた。狼獣人の嬢は突然の突如現れたアイスペールと犬獣人に唖然としていた。

  「だ、大丈夫かい?」

  ハウンズは尻餅をついた嬢に手を差し出した。

  「え、あっはい。大丈夫です。ただその・・・・・・・・・・・・誤解させてごめんなさい」

  「それってどういう──」

  ハウンズの後頭部に硬くて重い衝撃と冷たさが走ったかと思うと、身体が床に激突していた。背中や後頭部に、酒の匂いが染み込むのを感じた。

  「・・・・・・ッてぇなクソガキ!客と嬢の間に部外者が入ってくんなよ。折角いい所だったのによ」

  猪獣人が苛立った表情を浮かべてハウンズを見下ろしていた。

  「どういう、事だ・・・・・・?」

  ハウンズは絞り出すような声で尋ねた。狼獣人の嬢がその問いに答えた。

  「さっきの喧嘩は『ご奉仕』の一環で、お客様に無理やり連れ込まれて・・・・・・っていうものだったんです。誤解させてごめんなさい」

  やってしまった。迂闊だった。軽率だった。背筋に浴びた酒が揮発するのとは違う冷たさが背筋を走った。助けを求める人が目の前にいて、その人は自分の手が届くものだった。ただそれだけの事。そう。「ヒーローなら」至極当たり前の行動原理だった。そして自分が座っていた場所からここまでおよそ20mを、一瞬で詰めてアイスペールを三人の頭に被せてしまったのだ。常人では出来ない動きである。

  「おやおや・・・・・・騒ぎを聞きつけて来てみれば」

  ズキズキと痛む頭にクラブのBGMが遠くに聞こえる。けれどもその声ははっきりと聞こえた。オーナーである檻永の声だ。

  「全く・・・・・・すみませんお客様。この方は入って間もない新人でして・・・・・・お客様とのプレイの一環だとは知らずに飛び込んでしまったようです。こちらの教育不足です。お怪我はありませんか?こちらタオルです」

  檻永は大きなタオルを客とそのボディーガードに手渡した。

  「怪我は無いが服が濡れちまった。着替えはあるか?『女装以外』で」

  「勿論。濡れたお召し物はクリーニングに出して後日お送りいたします」

  「悪いね店長」

  「いえいえ、お客様はここの常連様ですし、お客様には快適に愛を育んでいただきたいものですから」

  スイッチを押したかのように、檻永の声音から熱が失われた。

  「ワイルドベリーさん、立てますか?いえ・・・・・・『ラッシュハウンズ』さん?」

  「今なんて──」

  ハウンズが我に返ろうとした瞬間、首筋に鋭い痛みが走り、意識が暗転した。檻永は床に伸びているハウンズの腕を自身の肩に回して立ち上がった。

  「それではお先に失礼いたします。本日のお代は頂きませんので、後はごゆるりとお過ごしください」

  檻永は客に頭を下げると、ハウンズを背負ってクラブを後にした。

  ドレイクが部屋に戻ろうと廊下を歩いていると、見慣れた人影が何かを背負って歩いてくるのが見えた。

  「お疲れ様です檻永さ・・・・・・ん?」

  ドレイクが挨拶をしようとした瞬間、檻永が背負っているものの正体を理解した。しかし、動揺を見せては潜入の意味が無い。努めて冷静に。あくまで他人の設定だ。決して悟られてはならない。

  「あぁ、お疲れ様。彼の事なら心配しないで大丈夫だよ。ちょっとクラブで『トラブル』があってね」

  自分が先に席を外してここに戻ってくるまでの間に、何かあったらしい。ドレイクは落ち着き払った様子で答えた。

  「トラブル、ですか・・・・・・」

  「お客様にも従業員にもケガ人はいないから安心してください」

  「では、そのワイルドベリーさん、は・・・・・・?」

  「あぁ、『彼女』はちょっとお疲れのようでね。それがどうかされましたか、ハースブルームさん。いや、『パイルドレイク』?」

  ドレイクは耳を疑った。

  「ぱ、パイルドレイク・・・・・・?一昔前のヒーローがどうかしたんですか?」

  ドレイクは動揺を噛み潰して尋ねた。檻永は薄ら笑みを浮かべた。

  「何を仰いますか水臭い。忘れるわけ無いじゃないですか。『殺し合った相手』を」

  ドレイクは今まで相対したヴィランや怪人の事は覚えていたが、今まで戦った相手の「誰とも」一致しなかった。

  「あぁ、そういえば『この姿』でお会いするのは『初めて』でしたね」

  檻永はドレイクの意図を察するかのように、狐獣人の姿を「解いて」いった。狐獣人としての輪郭が歪んでいき、目の前には植物の蔦が幾重にも重なった姿が現れた。それは作戦会議で出された写真とそっくりの存在だった。

  「スレイ、テンタクルス・・・・・・!」

  「お久しぶりです、そして、おやすみなさい」

  ドレイクの首にスレイテンタクルスの針が突き刺さり、何かを注入されたドレイクは糸が切れた人形のように床に倒れてしまった。

  床の冷たさでドレイクは目が覚めた。視界に映る景色は白を基調とした部屋だった。

  「ここは・・・・・・?」

  「おや、目が覚めましたか。ハースブルームさん。いえ、パイルドレイク」

  「スレイテンタクルス!」

  ドレイクが立ちあがろうとしたが、自分の身体が手錠とケーブルで固定されている事に気付いた。身に纏っていた衣類は全て剥ぎ取られ、だらりと逸物をぶら下げた姿をスレイテンタクルスに晒していた。拘束具には対策が施されているのか、ドレイクがいくらエナジーを込めても破壊には至らなかった。

  「アイツはどこへやった!?」

  ドレイクは尋ねた。

  「あぁ、お仲間でしたらコチラに」

  スレイテンタクルスが端末を操作すると、彼の背後にあった扉が開いた。そこには手足と逸物を触手に飲み込まれ、上と下の口を触手で繋がれているハウンズの姿があった。その腹はまるで妊婦かのように膨らんでいた。意識が朦朧としているのか、ドレイクの呼びかけや外部からの刺激に反応を示していなかった。

  「彼には眠ってもらっているよ」

  「ソイツを開放してくれ!お前の狙いは私だろう!?」

  スレイテンタクルスは檻永の姿に戻ると、肩をすくめて答えた。

  「まるで自分を差し出せば丸く収まるような物言いですね。まるで『ヒーロー』のようだ」

  「目的は何だ?」

  「昔と変わらず知的好奇心の探求ですよ。ヒーローやヴィランの持つエナジーにはどのような性質があるのか。そしてどこまで出来るのかという可能性を知りたいだけです」

  ドレイクは思い出した。彼の知的好奇心は、多くの人間が持つ倫理観や道徳心といったブレーキが存在しない事を。知的好奇心を満たすためならば自分の立場や命も平気で投げ出すことを。「檻永」というガワも、その実験で得た仮初の身体の一つなのだろう。

  「ではこうしましょう。貴方には、私の『実験』に協力してもらいます。最後まで協力していただけましたら、彼を無事に解放しましょう。お望みならあなた方に埋め込んだ人工子宮も除去しましょう」

  「・・・・・・断ったら?」

  「貴方はそんな事をする人ではないでしょう?」

  スレイテンタクルスは端末を操作すると、ハウンズの身体をスキャニングしたと思われる画面を表示させた。彼の胎内には、小さな塊のようなものが蠢いていた。

  「これは・・・・・・?」

  「彼の胎内に、私の幼体を許容限界まで詰め込みました。母胎のエナジーを吸収して今も成長しています」

  更にスレイテンタクルスは胸ポケットから一枚のシールを取り出した。

  「これは妊娠加速パッチ。お二人とも初めての『ご奉仕」で使ったものよりも強力なものです。これで刺激を与えることで幼体の成長を加速させて、五分とかからずに出産出来るようになります。あとはお分かりですね?」

  「・・・・・・外道め」

  「エナジー」とは知性ある者の中に必ず存在する「意志の力」である。多くの者は尊敬や愛情、節制といった「正」のエナジーと、憎悪や軽蔑、貪食といった「負」のエナジーをそれぞれ半々に持って生まれてくる。災害や疫病などの大きな事故や事件に巻き込まれることで、エナジーの均衡が著しく乱れることで「覚醒」することがあるのだ。覚醒した者は体内のエナジーを燃料に超人的な力を発揮することができ、エナジーは枯渇しても食事や休息によって自然回復する。しかし、エナジーを限界以上に消費した場合、超人的な力を失うだけならまだしも、記憶や肉体に著しい損傷を受けて廃人と化し、最悪の場合は死亡する。エナジーの総量は種族差や鍛錬によって変化するが、ヒーロー経験の浅いラッシュハウンズではエナジーが触手の成長に絞り尽くされて衰弱死するか、耐え切れたとしても内臓が破裂するかもしれない。つまり、断った瞬間にハウンズの死亡がほぼ確定する。一縷の望みかけるにはあまりにも危険すぎる。そして「人質の命を危険に晒す」というヒーローとしての信条に反する行いであった。

  「・・・・・・分かった。協力してやる。早く済ませよう」

  「よろしい!それでは始めると致しましょう」

  スレイテンタクルスは今まで以上に満面の笑みを浮かべながら、端末を操作し始めた。するとドレイクの身体を捉えていたケーブルが動き始め、彼の体を壁に固定した。壁に激突した痛みは無く、柔らかなクッションのようなものが背面を包み込んでいた。壁が形を変え、椅子とベッドを合わせたような台へと変化していった。見学の時に見た分娩台である。

  「これをご覧ください」

  地面の床が開いたかと思うと、ドラム缶ほどはある水槽が繋がれた機械が現れた。水槽の中には黄色がかった粘り気のある液体がぎっしりと詰まっていた。

  「これは何だ?」

  「それは私が今まで回収してきた怪人やヴィランの遺伝子情報を私のエナジーで培養した疑似精液です。貴方にはコレが空になるまで怪人を出産し続けてもらいます。死んでは困りますので、栄養剤と休憩は挟みますのでご安心を」

  「御託は良い。さっさと始めろ」

  「相変わらずせっかちですね。折角再会したというのに・・・・・・」

  スレイテンタクルスが端末を操作すると、機械からホースのようなものが幾つも伸び、ドレイクの身体に接続されていった。水槽に繋がれたホースはドレイクのメス孔に入り込み、「ごぽり」と音を立てながら液体を注ぎ始めた。続けて別のホースがドレイクの逸物を包み込み、何かを注入しながらピストン運動を始めた。

  「な、何をする・・・・・・!?」

  「遺伝子情報のサンプリングとエナジー採取ですよ。それと快感にどれだけ耐えられるかの試験も兼ねてね」

  萎え切った逸物が、無数のヒダやイボに包まれながら硬さと熱を帯びていく。下腹部を中心に熱く滾り、あっという間に一度目の吐精を始めた。それは若い頃の吐精よりも多く感じると共に、力が抜けるような感覚が走った。吸引された精液がパイプを介してスレイテンタクルスの手元に試験官に詰められて送られてきた。

  「ふむふむ・・・・・・量も濃さも申し分ありませんね。自然回復以外でも、同種のエナジーであれば性行為やキスなどでも回復ができるという噂は本当かもしれませんね」

  「ぐっ・・・・・・」

  どうやら注入された薬剤にはエナジーをより多く生成させる機能も付いているらしい。そしてタンクの目盛りが一つ下がると管が引き抜かれ、機械のアームが精液で膨らんだ腹にパッチを張り付けた。チリチリと痺れるような感覚と共に、お腹が歪に膨らみ始めた。

  「さぁ、まずは一回目の出産が始まりましたよ。しっかり踏ん張ってくださいね」

  ばしゃっ!と生温かい液体が股座を濡らす。ドレイクの口に、チューブの繋がれたマスクのようなものが装着された。呼吸をする度に陣痛の激痛が快感に変わるのを感じていると、呼吸に合わせて大きな塊が狭い肉壺を押し広げながら降りてきた。あの時よりも強烈に前立腺を押し潰される感覚に、身体は反射的に吐精を開始してしまった。アームに掴まれた塊が、ドレイクの娩出に合わせて引きずり出されていく。

  「んぐぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・・・・っ!!」

  マスクの中でくぐもった絶叫が響き渡り、一際大きな吐精と共に大きな塊がドレイクのメス孔から排出された。

  「おめでとう!一回目の出産は終了だよ。折角だから元気な顔を見せてやろう」

  「こ、これは・・・・・・ッ!?」

  ロボットアームに抱きかかえられた赤子は自分の角と髪色を持ち、かつて相対したヴィランを限りなく幼くした種族と見た目をしていたのだ。そして腹部から伸びるへその緒は自分のメス孔に繋がっている事を否が応でも感じさせた。いくつものアームが生まれたばかりの赤子に処置を施し、運ばれてきた保育ベッドに寝転がされて運ばれていった。暫くすると、口に繋がれたチューブから人工的な甘さにとろみのついた液体が注がれはじめた。

  「安心してください。出産時に失われた水分や電解質などを補給する液体です。休憩を挟んだら二回目の繁殖を行いますよ」

  一口飲む度に全身のだるさが少しずつ緩んでいくと共に、胸めがけて何かがせり上がってくる感覚に襲われた。吐精を我慢するように身をよじると、乳首から乳白色の液体が迸った。

  「ほうほう・・・・・・これは興味深い」

  スレイテンタクルスがドレイクに近付くと、触手の指先で乳白色の液体を舐め取った。

  「お前、何をした・・・・・・!?」

  「ふむ、この成分は母乳に近いようだ。出産をきっかけに母乳を生成するように体が変化したようだな。ヒーロー故か、母胎に適した身体への変化は一般人よりも早いみたいだね」

  「私がだと・・・・・・!?冗談はよせ、そんな事あり得る訳ないだろ」

  ドレイクは自身の身体に起きた変化に戸惑いを隠せなかった。スレイテンタクルスは彼の反論を意に介していないようだった。

  「けれども君は今しがた出産を終えて、母乳を分泌したじゃないか」

  あっさりと否定されてしまったドレイクは押し黙って液体を飲み続けるしか無かった。

  それからドレイクは何十回にも渡って種付けと出産が繰り広げられた。成分採取と生んだ赤ん坊へのミルクとして搾乳機が取り付けられ、搾精と共に行われることで、搾乳の度に精液を溢れさせた。

  やがて出産の回数が十を超えてからは数えることをやめ、タンク内に残った精液が四分の一になる頃には感覚と感情をどこか他人事のように俯瞰するようになっていった。筋肉質だった腹筋は度重なる妊娠と出産で皮が弛み、尻の孔はより縦に割れて陰唇のようになっているのを感じた。

  そして最後の目盛りに溜まった精液がドレイクの胎内に注入された。

  「最後の出産だ。しっかりと踏ん張っておくれよ?」

  何度目かも分からない何度目かのパッチがあてがわれ、しぼんだ腹が急激に膨らみ始めた。出産の度に唸り声をあげていた喉はとうに掠れ、搾乳を繰り返した乳首は黒ずみ肥大化し、軽く刺激を加えるだけで逸物からだらしなく精液を垂れ流した。陣痛は脳を焼くような快感を伴ってドレイクを現実に引き戻した。これまで感じたことの無いサイズの塊が産道を潜り抜けていく。

  「さぁドレイク、頭と肩が出てきましたよ。もうひと踏ん張りですよ」

  骨盤が軋むような激痛と快感が全身を走る。産道どころか内臓が引っ張られる感覚と共に大きな塊が一気に体外に排出された。少し遅れて実験室に大きな産声が響き渡った。

  「・・・・・・これ、は」

  赤ん坊の姿は、記憶に新しい怪物だった。潜入調査を始める前に戦った怪人によく似ていた。獅子の頭に鰐のような尻尾を持った怪人。そして頭にはドレイクによく似た角が生え、背中にはスレイテンタクルスのような触手が小さく蠢いていた。そんなおぞましい姿の赤ん坊は、ロープのようなへその緒でドレイクと繋がっているのだった。

  「最期の出産ご苦労だったな。折角だから抱いてみるか?」

  ドレイクは気怠そうに首を横に振った。スレイテンタクルスは残念そうな顔を浮かべて赤ん坊をベッドに寝かせてどこかへと送り届けた。

  「出産ご苦労様、パイルドレイク」

  「実験は終わっただろう?早くこの拘束と忌々しい人口子宮を取り除け」

  「勿論。元々そういう約束でしたものね・・・・・・ですが取り除くのは、『最後の実験を終えてから』ですよ」

  今のは聞き違いだろうか。まだ実験は終わっていないというのか。

  「話が違うぞ」

  「言いませんでしたか?『最後まで協力していただけましたら』と」

  ドレイクの疑念が確信に変わってしまった。あの何十回と行われた出産だけが実験ではないのだと。しかし、度重なる出産で全身に滾っていたエナジーは底を突き、拳を振るうだけの余力も残されていなかった。

  「安心してください。正真正銘、次が『最後の実験』ですので」

  そう言い終えるが否や、スレイテンタクルス触腕がドレイクの尻孔を貫いた。

  「何、を────────」

  しかし、それは命の灯を吹き消すような一撃ではなかった。確かに胸には鋭い針が突き立てられているが、心臓には刺さっていなかった。否、刺さって絶命していた方がまだ恩情があったかもしれない。触腕から伸びる針が、ドレイクの胸に暗く緑がかった液体を注ぎ始めた。

  「何を、している・・・・・・?」

  「私を含めて、様々なヴィランや怪人から抽出したヴィランエナジーと、貴方の遺伝子情報を基に作った卵子ですよ。純度100%のヴィランエナジーで満たされた肉体で、優秀なヒーローの遺伝子を掛け合わせた受精卵を孕ませたらどうなるのかね。出産は兵力増強を兼ねてヒーローエナジーを体外に排出するための過程に過ぎません」

  スレイテンタクルスが指を弾くと、解放されたハウンズが急に苦しみだした。今度は腹ではなく陰嚢が歪に膨らみ始め、それに呼応するかのように逸物が肥大化しはじめた。

  「お前、何を・・・・・・!?」

  「貴方の実験と並行してこちらの下準備を進めていたんですよ。幼体たちは彼の身体の中で成長して、陰嚢の中でヒーローエナジーを全て精力に変えて、ヴィランエナジーを精製し続けていますよ」

  肥大化した陰嚢は片側だけでも彼の拳を超え、逸物は筋肉質な彼の腕を超える太さと長さを超えていた。彼の逸物はまるで意思を持った生き物のように何度も脈打ち、鈴口からはびしゃびしゃと蜜を弾けさせていた。聴力を強化した者だったなら、彼の陰嚢の中で無数の精子が煮えたぎるようにひしめき合っている音が聞こえたかもしれない。

  「貴様・・・・・・ッ!!」

  度重なる出産による疲労感にと騙された無力感で、自身を形作る心の器のようなものに亀裂が入るのを感じた。自分が自分で無くなってしまう恐怖が、黒々としたものが濁流のように押し寄せ塗り潰していく。スレイテンタクルスは檻永の姿から触手の塊に姿を戻すと、ハウンズの手足を掴みながらドレイクのいる分娩台に近付いた。

  「さて、最後の実験だ。存分に繁殖しろ」

  ハウンズは陰嚢の中で暴れ狂う幼体たちによって気を失い、口角からは白い泡を吹いていた。濃縮された雄の匂いが周囲に充満する。

  「よせ、やめ──」どずんッ。

  視界に無数の火花が散った。同時に、亀裂の入った器が音を立てて砕けるのを感じた。

  手足を縛られたまま、宙に浮いた形でドレイクの孔に腰を振るハウンズは、うわごとのように謝罪の言葉と呼吸と嗚咽を繰り返していた。ばちゅっ、ばちゅっ・・・・・・と粘っこい水音が空しく響き渡る。犬系獣人特有の瘤が露出し、ごつごつとドレイクの孔を攻め立てる。

  「ぐうぅぅぅぅぅ・・・・・・・・・・・・ッ!!」

  「さぁ、ありったけの子種を胎の中に注ぎ込むのだ・・・・・・!!」

  スレイテンタクルスは期待感を抑えきれない声で、更にハウンズの腰をドレイクの孔めがけて打ちつけ押し当てた。ぐぷんっ、と瘤を含めた逸物が全てドレイクの胎内に収まった。

  「があああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・・・・・・ッ!!」

  びゅぶるるるるるるうぅぅぅぅぅぅぅぅぅ~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!

  瞬間、ハウンズの尿道をせき止めていた子種が一気に解き放たれ、ドレイクの胎内で濁流のように子種が押し寄せた。ヴィランエナジーに満たされた無数の精子が群がり、ドレイクの卵子を無慈悲に貫く感触が走った。命をそのまま子種に変えたかのような吐精が幾度となく続き、ドレイクの腹が臨月のように膨れ上がった。

  「ヴィランエナジーで満たされた子宮の中では急速に分裂と成長を繰り返すようだ・・・・・・このパッチは不要そうだね」

  スレイテンタクルスがハウンズの身体をドレイクから離すと、半ば固形の精液がごぼりと溢れた。そして次の瞬間には透明な液体が噴きだした。

  「もう出産とは早いですねぇ・・・・・・さぁ、ヒーロー産の怪物第一号の誕生です」

  「グッ、ガガアァァァァァアアアアアアアアァァァァァ・・・・・・・・・・・・ッ!!!!!!」

  潰れかけた声と共に、最後の意識を振り絞るかのように、ドレイクの身体は最後に産み落とした赤ん坊よりも大きな赤子をひり出した。それはどちゃっ、と床に零れ落ち、触手のようなへその緒をドレイクの孔から垂れ下がらせていた。ドレイクの屈強な体格を生まれながらに持ち、四肢はハウンズのような体毛に覆われ、鋭い牙と角を生やしていた。そして背後にはスレイテンタクルスのような触腕が生えていた。

  「これでまだ赤ん坊なら、成長すれば更に強大な怪人になれる筈・・・・・・!実験へのご協力、感謝いたします。お約束通り、お二人に定着させた人工子宮を取り除いて家にお返しいたしましょう」

  スレイテンタクルスは生まれたばかりの赤ん坊のへその緒を処置すると、虫の息で伸びている二人を一瞥した。ドレイクは巨大な何かで押し潰されたかのように腹が凹み、喉からは掠れた呼吸が漏れるばかりだった。ハウンズも生命力の大半を注ぎ込んでしまったかのようにやつれた姿で床に転がされていた。

  潜入調査を終え、ドレイクはハウンズと共に協会へ報告書を提出していた。異性の装いをしてお客様から情報を聞き出そうにもこれと言った手掛かりは得られず、単なる人気風俗店でしかなかったという結論に至った。

  「・・・・・・報告は以上です」

  「そうか・・・・・・単なる杞憂に終わったか」

  「すみません長官、手掛かりらしい手掛かりも見つけられなくて」

  ハウンズは申し訳なさそうにホーク長官に頭を下げた。

  「気にするな。調査をしたからって満足のいく結果が得られるとは限らないからな。ここが違うというなら、また別の可能性を探るまでだ。謝礼は君たちの講座に送金済みだ。また来週から頑張ってもらうことにしよう」

  「それでは、お言葉に甘えて」

  「失礼します!」

  二人は頭を下げて部屋を後にした。ホーク長官が報告書に目を通していると、一本の報せが飛んできた。パトロールに当たっていたヒーローの一人からだった。

  「どうしたのかね?」

  「大変です長官、東B地区に新種の大型怪人が現れました!!」

  「大型の怪人などよくある事だろう?何を慌てている」

  「とりあえずドローンの映像を見てください!!」

  モニターに投影された映像を見て、ホーク長官は目を疑った。巨大な怪人が背中から伸びる触手で車を放り投げ、一般人や隊員達を捕まえて収納している光景だった。大型怪人による連れ去り事態はよくある話だが、ホーク長官が驚いたのはそこではなかった。

  「この見た目・・・・・・何故だ!?」

  その怪人は筋骨隆々な竜人の姿をとり、四肢には獣毛が生えていた。そして手ひらから鋭い杭のようなものを突き出してビルの壁や戦車の装甲をあっさり貫いていた。

  「やっぱりあの店で何かあったのか・・・・・・!?」

  ホーク長官が例の風俗店を検索するも、ホームページは閉鎖され、店は移転されていたのだった。彼らの反応から察するに記憶の改竄を受けていて情報を聞き出すことは難しいかもしれない。いやそれ以上に自分たちと瓜二つの怪人が町で暴れているという風評被害も食い止めなけばならない。長官はやりきれない怒りをテーブルに叩きつけ、二人に電話をとった。努めて冷静に、そして動揺を隠すように話した。

  「パイルドレイク、ラッシュハウンズ・・・・・・東B地区に大型怪人が現れた。大至急向かってくれ。それから私の部屋まで来てほしい」