「うぐっ………あっ……あぅ……っ…」
「……!!」
リックの悪夢は現実のものとなった。
朽ちた礼拝堂で彼女の叫び声を聞いた時から、最悪の事態を想像していた。
…いや、もっと前からだ。
この不気味な洋館で、最愛の人が異形の怪物たちに攫われた時から、頭の片隅にあったはずだ。一番想像したくない最悪の事態が。
────
亡者の蠢く地下室、怪物に侵食された書斎、悪霊の宿った食卓…幾多のおぞましい場所をくぐり抜けて辿り着いた洋館の一室。
今までとは打って変わり、綺麗な状態が保たれている部屋であった。埃こそ被っているものの、本棚やシャンデリアまで当時のままの姿で残されている。かつてはリビングだったのであろう、中央には立派な石造りの暖炉がある。
一点だけ、部屋の最奥に大きな穴が空いていた。怪物たちの出入り口なのだろうか、穴の内側は気味の悪い肉壁に覆われている。
暖炉の傍らにある大きなソファー…そこにジェニファーが寝かされていた。
胸がゆっくりと上下している。息はある。彼女は生きていた。
しかし…
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デートの時には必ず着てくる、ジェニファーお気に入りのワンピースドレス。原型は保っているが、肩口やスカートのフリル部分がビリビリに破かれている。怪物の体液…血液かそれ以外のものか、緑色のシミが白い布地を汚している。
ドレスの胸元からは豊満な乳房がこぼれ出ていた。甘噛みされたのか、しかし怪物の鋭い牙である、噛まれた跡からは少し流血している。
そして…
彼女の穴という穴には大量の精液が注ぎ込まれていた。一体どれだけ注ぎ込まれたのか、腹部はまるで妊婦のように膨らんでいた。前の穴も後ろの穴もヒクヒクと痙攣している。
天井を見つめる虚ろな目。頬をつたう涙。
リックは間に合わなかった。最愛の人ジェニファーは怪物たちに凌辱されたのだ。
────
リックは言葉を発することさえ叶わなかった。やるせなさ、怒り、哀しみ。あらゆる負の感情がリックの巨体の中を駆け巡った。
一体彼女にどんな言葉を掛けるべきか。彼はそんなことを考える余裕もなく、ただ黙ってソファーから少し離れた場所で立ち尽くすだけであった。
「ゲホッ…!ゴホッ……!うっ…うぇえええっ…!おぇえええっ…!」
「…!」
「…………リッ…ク……?リック……なの…?」
ジェニファーが意識を取り戻したようだ。
彼女は怪物の精液を吐きながら、なんとかソファーから身を起こす。ホッケーマスクのような仮面を被り、筋骨隆々になってしまったリックであったが、ジェニファーは直感で彼のことを最愛のフィアンセと認識したようだ。
「うれ…しい……助けに…来てくれたのね…」
ジェニファーはどんな時でも気丈な女性であった。リックに心配を掛けまいと、今もこうして平静を装おうと振る舞っている。
リックは自然と右足を踏み出していた。ジェニファーもまた、着崩れを直しながら、フラフラとした足取りでリックの元へと歩を進めた。
その時である。
────
ブチュッ…!ビチャビチャ!ブシューッ!ブシューッ!
グググッ…ゴリュッ…ゴリュゴリュゴリュッ…!
「…?!」
「ひいっ…?!いっ、いやっ!…いやぁあああっっっ!!おっ…!お願い…っ!見ないでっ…見ないでぇえええっっっ!!」
突然、ジェニファーの膨らんだお腹の中で"何か"が蠢き始めた。女性器からは緑色の精液混じりの羊水が溢れ出た。豊満な胸は大きく張り、母乳を噴き出す。
「やめてぇ…!!出てこないでぇえええぇぇぇ!!いやぁあああぁぁぁあああぁぁぁ!!!!」
ジェニファーがお腹を押さえながら叫ぶ。しかし、その懇願も虚しく、彼女の女性器から勢いよく"それ"は這い出てきた。
ミチミチミチィッ!!
ブシュウウウゥゥゥウウウッッッ!!
「ンぉおおオぉぉぉっっっ!?ふぐぅウううぅぅぅっっっ!!」
『『『キョアアアァァァアアアァァァ!!』』』
ボディイーターと呼ばれる巨大な寄生虫だ。恐らく怪物たちの精液によって孕まされたジェニファーの胎内で生まれたのであろう。彼女の女性器の大きさには不釣り合いなサイズの怪物である。産み落とされるたびに膣が拡張され裂傷が広がる。
産み落とされた数匹が、群れをなして一直線にリックへと襲い掛かる。鋭い牙で噛みつかれれば、命に関わる。
リックは不意を突かれた。しかし、彼は怪物たちとの戦いの中で、神経が極限まで研ぎ澄まされていた。
スパァアアアァァァンンン!!ベチャッ…!
強力無比なパンチとキックですべてのボディイーターをあっという間に血煙へと変えた。
難なく打ち倒したリックであったが、彼には葛藤が芽生えていた。
怪物とはいえジェニファーから生まれたものだった。それを彼女の目の前で肉片に変えてしまった。果たして、自分のしたことは許されることなのだろうか…答えの出ない問答はすぐに無意味なものとなった。
────
「リ…リック……」
「…!」
リックはジェニファーの異変に気が付いた。
彼女は両手で自身の肩を抱き、前屈みの姿勢で苦悶の表情を浮かべている。額には脂汗が滲んでいた。
近付こうとするリックであったが、生物的な本能であろうか、すぐに歩みを止めた。迂闊に近づけば命はない…彼はそう直感した。
ミチッ…ミチミチミチィッ…!
ボコッ…ボコボコボコッ…!
ジェニファーの体が大きくなっている。
よく観察すれば、彼女の柔肌には細い血管が無数に浮き上がり、やがてそれはゴムチューブのように太くなっていった。白い肌は褐色に変わり、更に暗い土色へと変色していった。
細い手足がすじ張ったかと思えば、次々と力瘤が生まれ成長していく。力瘤同士がミチミチと擦れ合い、隙間に出来る彫りはどんどん深さを増していった。
「いっ、痛い…っ…!痛いの……助けて…リック……ん゛ん゛っ……オ゛ウ゛ウ゛ン゛ッ…!」
助けを求めるジェニファーの声が男のように低くなっていった。
恐怖に歪む表情とは裏腹に、彼女の肉体はぐんぐんと成長していく。
アクション映画で見るような筋肉質な女性、世界有数の男性ボディビルダー、そして…今は人外と言える大きさのリックの巨体を追い越そうとしていた。その過程で、豊満な乳房は分厚い胸筋によってほとんどが押し潰されてしまった。
ボロボロのドレスが辛うじてジェニファーの体を覆っている。しかし、これも限界を迎える時が来たようだ。
「あ゛っ……あ゛っ……あ゛っ…………あ゛ぁあ゛ああぁぁぁああ゛あぁぁぁあああ゛ぁぁぁあああぁぁぁ!!!!」
リックの本当の悪夢はここから始まる。
────
『『『……オオオ…オオオオオオォォォッッッ……』』』
変異するジェニファーに呼応するようにして、洋館中の邪悪な魂が続々と集結する。それらのあまりの素早さにリックはなす術がない。
悪霊たちがなだれ込むようにしてジェニファーに取り憑く。彼女の肉体の変異がどんどん加速していく。
「グゲェエ゛エエェェェエエ゛エェェェ!!!!ギャオ゛オオォォォオオ゛オォォォオオオ゛ォォォッッッ!!!!」
ブシュウウウゥゥゥッッッ!!ドロドロドロォ…!!
ジェニファーは頭を抱えて、仰け反って絶頂した。何故絶頂したか分かるかというと、その瞬間に女性器から大量の愛液を噴き出したからである。上の口からは激しく吐血した。
彼女の肉体は限界を超えて成長し始めた。
特に太腿の筋肉の発達は凄まじく、大木から切り出した丸太のように太くなっていった。骨格から変わっているのか、女性らしい内股が維持出来なくなり、広がったビラビラの女性器を見せつけるようにしてガニ股のポーズを取る。
土色の皮膚が成長に追い付かず、所々から破け始めた。当然破けた部分からは筋組織や骨が露出し、鮮血を噴き出す。特に腹部は元から負担が掛かっていたせいか、広範囲で破けてしまい、いくつかの内臓がだらんとこぼれ落ちてしまった。
長く美しかった髪がボトボトと抜け落ちる。頭皮が急激な成長の過程で役目を終えたのだ。しかし抜け落ちた理由はそれだけではない。
手が変形している。人差し指と中指、薬指と小指がくっつき、三本指へと変わる。そしてその三本指からは異常に鋭く長い爪が伸び始めた。血のマニキュアが白い強固な爪を赤く染め上げる。
もがき苦しむジェニファーは、その爪で自身の頭を何度も掻きむしってしまった。髪の毛どころか、皮膚や頭蓋骨の一部までもが鋭い爪でズタズタになったのだ。特に左側の被害が深刻で、赤く腫れ上がった脳漿が露出している。
ボロ布、髪の毛、皮膚の一部、体液…彼女を構成していた要素が床に散乱した。リックは唖然としながらその光景を眺めるしかなかった。
────
『グルルルルゥゥゥ……ウゥ……』
甲高い叫び声は聞こえなくなった。その代わり、リックの目の前の"そいつ"は、地鳴りのような低い声で静かに唸っている。変身にエネルギーを使ったのか、臓器が露出しているせいか、彼女のまわりにはホカホカと湯気が立ち込めていた。
ズズズッ…
手で隠していた顔がリックのほうを向いた。
右側はブヨブヨになった汚い皮膚で圧迫され、恐らく目は見えていないだろう。逆に左側は皮膚と一緒に瞼もなくなったのか、大きな眼球が血走っていた。絞り込まれた黒目がギョロリとリックを睨みつけている。
鼻は潰れ、鼻腔だけが空いていた。大きく裂けた口には、まばらに鋭い牙が生えている。粘着質な唾液が糸を引き、牙の隙間から長い舌が垂れている。舌から垂れた唾液がポタポタと床を汚していた。
今の彼女を見て、女性…いや、人間だったと判断出来る者はいないだろう。辛うじて胸に乳房が残っているが、今の見た目では大きな腫れ物にしか見えない。垂れ下がった皮膚は、まるでスカートのように女性器を覆い隠している。
ジェニファーは大きく裂けた口を開いて絶叫した。
『ギャア゛アアァァァアア゛アァァァアアア゛ァァァッッッッッッ!!!!リ゛ッグゥゥゥウ゛ウウゥゥゥウウ゛ウゥゥゥウウウ゛ゥゥゥッッッッッッ!!!!』
リックは覚悟を決めるしかなかった。
[newpage]
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・
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ドゴンッ!!ドグチャアアァッ…!!
『ヴゥグァア゛アアァァァアア゛アァァァアアア゛ァァァッッッ!!!!』
まさに死闘であった。
ジェニファーは強靭な足で縦横無尽に部屋の中を駆け回り、伸縮する鋭利な爪でリックの皮膚を切り裂いた。しかし、リックはすんでの所で攻撃を避け続け、隙が出来た瞬間に打撃を何度も叩き込んだ。
そしてついに、リック渾身の右ストレートがジェニファーの胸に大きな風穴を開けたのだ。
ついに倒れた最強の怪物。果たしてこれが、ウエスト博士が思い描いていた究極の生物兵器だったのだろうか。彼亡き今は、知る術もない。
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ズズッ…ズズズッ…
ジェニファーの巨体がリックに向かって徐々に倒れてくる。リックの右腕がどんどん血に染まる。
そして、ああ、なんと残酷なことだろうか。このまま怪物のまま命尽きれば、まだ救いもあったのだ。しかし、ジェニファーの肉体は元の美しい姿へと戻り始めたのだった。
骨格も筋肉も女性らしい華奢なサイズに戻り、皮膚は透き通るような白い柔肌になった。艶のある美しい髪が腰まで伸び、乳房も臀部も柔らかな曲線を描く。
ただ一点、リックの右腕が貫通している胸元だけは元に戻らなかった。ジェニファーの鮮血がドクドクと滴る。
「リック……ありがとう……そして…さようなら……」
ジェニファーは人間として死ねたことを心の底から感謝した。愛する人に抱かれて死ぬのは怖くなかった。
彼女はリックに遺言を残すと、そのまま肉体が結晶化し、ついには塵となって跡形もなく消え去った。
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物陰からふたりの様子を見ていた怪物たちがいた。彼らこそまさにジェニファーを凌辱し、おぞましい怪物へと変えた張本人たちである。
彼らは言葉を話す知性こそないが、亡き主人であるウエスト博士の命令には忠実であった。しかし、そうやって生み出した最強の怪物も倒されてしまった以上、次の計画を実行しなければならない。更に強い生物を生み出すための次の計画を…
『ギャギャッ!』
彼らのひとりがわざとリックの前に躍り出た。彼は挑発するような仕草をすると、そのまま部屋の隅に空いていた巨大な穴へとダイブした。
ゴゴゴゴゴゴ…
床に膝をついていたリックがゆっくりと立ち上がる。
仮面越しに血涙を流しながら、凄まじい殺気を放ち、穴のほうを見た。
もう失うものは何もない。
悪鬼羅刹と化したリックは、怪物たちの巣窟である"マザー"の元へと向かった…