みどりのもりで生まれて初めて夢を見たメイがガブを守りたいと思った話

  

  ゆめのあとで

  ガブはその日、爪も牙ももたない生き物になる夢を見たのである。

  夢の中のガブといったら、それは気楽なものだった。おそらくはなんらかの草食動物で、腹が減ったら足元の草を食えばよい。狩りに出て動物を殺す必要はない。群れの仲間とただ穏やかに生きることが許された夢だった。

  もちろん、そこにはメイもいた。ガブはもはやメイを守るオオカミではない。よく似た境遇の、ただのご近所さんに過ぎなかった。オオカミの気配があれば、ガブはメイを連れてひたすら逃げる。それはメイを守るためではなかった。ガブはメイと同じように、命を狙われる者の立場にいたわけなので、恐ろしいオオカミから逃げるのはごく正当な行いである。

  逃げながら、ガブは妙に清々しかった。なにを気にすることもない。自分たちが生きるためにただ逃げていればよかった。そしてまた夢のおかしなところで、ガブはメイとともに逃げる草食動物でありながら、オオカミの狩りの知識があった。どこをどう逃げられるとオオカミは追いかけられなくなるか、ガブはよく知っているので、メイを上手に逃してやれたのだ。力のあるオオカミではなくなっても、ガブはメイを守ろうとしていた。

  そうして、やがてガブは目を覚ました。

  巣の外で、メイが草を食んでいる。だいたい、いつもそうだ。メイは睡眠が短い。無論それはヤギの生態的特徴のひとつだが、そんなことをガブは知らないため、「メイはいつも早起きっすねえ」と朝になるたびに思うだけである。

  さて、ガブも寝てばかりではいられない。ガブとメイの巣は山の崖下、岩と岩の隙間にある。それはガブが狩りに出ているあいだ、メイがすこしでも安全に隠れているための場所だったが、当然そのような岩場はオオカミの狩り場にはならないので、山を降りていって遠くの草原まで出かけねばならない。

  「みどりのもり」――メイと辿り着いたその場所で、ガブは一匹で獲物を狩らねばならない。オオカミは本来、群れで狩りをする動物である。いささか不慣れではあるが、自分が食う分を穫ればよいだけので、どうにでもなる。なので、ガブが狩りで本当に気を払わねばならないのは、別の事情があるためである。というのも、メイの知り合いを狩ってしまう心配があるのだった。

  ガブとともに過酷な雪山越えを果たしたメイは、「みどりのもり」でリスだのシカだのウサギだのモグラだの、わずかずつの交友を持ちはじめていた。オオカミとつるんでいるヤギなど、最初は好奇の目で見られることさえあれ、親しくなることはなく、怪しまれ避けられていた。そのような中でも辛抱強く接してゆき、ようやく仲良くなりはじめた動物たちがいる。それをガブが食ってしまうわけにはいかない。おいらのせいで、メイの頑張りが台無しになっちまう。

  自然、ガブの狩り場は巣から遠くなる。しかし長いあいだメイを放っておくのも心配なので、ガブはできるだけ早く巣に帰りたい。長距離移動、それ自体は苦ではないが、「みどりのもり」でガブは毎日それなりに忙しい。

  「おはよう、ガブ」

  岩の下から伸びている草を食んでいたメイが、のっそりと起きだしたガブを振り返る。おはようメイ、と返しながらガブがひとつ欠伸すると、喉まで覗けそうな大口にメイがきゃあと声をあげた。怖がっているのではなく、そういうものを間近に見るのを楽しんでいた。

  「朝もだいぶんあったかくなりやしたねえ」

  「そうですね。もうすっかり春です」

  山の森林は青々として、うろつけばあちこちの花が賑やかだった。岩だらけのバクバク谷に棲んでいたガブは、巣のまわりに季節の移ろいを感じるのも新鮮である。

  「おひさまが気持ちいいから、今度、あちらの峠の黒ヤギさんたちと、ひなたぼっこでもしようかって話してるんですよ」

  「いいっすねえ。春は昼寝が気持ちいいでやんす」

  起きたばかりで昼寝のことを言うなんて、とメイはひとしきり笑った。それから真面目な顔に戻り、

  「ガブも、いっしょに行けたらいいんですけど……」

  ガブは苦笑した。そういうことを本気で考えるのがメイである。

  「いやいや、おいらのことは気にしねえで、ともだちと楽しんできたらいいっすよ」

  「ガブはいいオオカミなんだって、みんなにわかってもらえたらなあ」

  「まー……そうっすねえ。どうっすかね……」

  狩りに出ても、ガブは今でもヤギだけは食う気にはなれない。ガブが動物を殺して食うことを、メイの側でも今さら気にはしていない。それはもう、二匹がとうに通り越した問題だった。しかしヤギを狩らないことだけは、メイとの友情における礼儀のようにガブは感じている。そういうことをメイもわかっている。それをともだちに話して聞かせてもいるのだが、理解ははかばかしくない。

  「メイは変わり者っすからねえ」

  「そうかなあ」メイはおっとりと顔を傾ける。「わたしね、前にタプに――サワサワ山の幼馴染です――言われたんですよ。おまえ、この草とともだちになれると思うかって。でももし草とも話ができたら、ともだちになれるかもしれないじゃないですか」

  わはは、とガブは笑った。メイはいつもおかしなことを考える。しかし、そいつは言えてるなあと思わないではないのだ。

  「わたし、ヤギに生まれてよかったって思うんです。わたしはヤギだったから、ガブとともだちになれたって。もし、わたしがオオカミだったり、ガブがヤギだったりしたら、こんなに大切なともだちには、なれなかったと思うから」

  そこでガブは、あっ、となった。「そういや今日、おかしな夢を見たんすよ」

  「え?」

  「よくわかんないっすけど、たぶんおいら、なんかの違う生き物になってて、メイといっしょにオオカミから逃げるんすよ。でもオイラ、夢の中ではオオカミじゃないはずなのに、オオカミの狩りの仕方は知ってるから、ひょいひょい逃げられたでやんす」

  夢のガブは、岩場や崖をものともせず、軽やかに上っていたのだった。そういう場所は、実はガブよりもメイのほうが得意だった。ガブは高いところが苦手なのだ。

  「オオカミから逃げるのは、普通のことだから、メイといっしょに逃げたって、だれにも怒られないっす。夢だから」

  そういうふうに生まれてきても、悪くはなかったのかもしれないとガブは思った。自分がオオカミに生まれてきたことを呪ったことさえあったのだ。メイとともだちになれるのなら、別にオオカミじゃなくっても……

  「でも、そうっすよねえ。メイの言うとおり、おいらはオオカミだからメイといっしょになれたんだなあ」

  メイの言葉は納得であり、赦しであり、癒やしであった。メイはときどきガブの理解を越えるような話をするが、同時に数々の気づきをガブに与えてもいた。ヘンなヤギだなあと思いながら、そんなところを気に入っている――というのがガブの言葉の趣旨であった。それは春の木漏れ日の下で交わすにふさわしい、爽やかな雑話のつもりだった。

  しかし、メイが訝しげに目を細めている。ガブの話に対する共感の、欠片も掴めていないような顔をしているのだ。

  「あの、ガブ……それ、なんの話ですか?」

  えっ、とガブも胡乱にメイを見る。なにかおかしな話をしただろうか? 当然、夢の話なのだから奇妙といえば奇妙だが、あくまで夢の話だ。なんの話かって? そんな、疑問に思うほどのことだろうか?

  「なんのって、夢っすよ。さっき、寝ながら見てた夢……」

  ゆめ、とメイは繰り返す。それは発音を確かめるような、言い慣れない言葉の響きだった。

  「その、[[rb:ゆ > 丶]][[rb:め > 丶]]って……なんですか?」

  メイとの見解の相違に、ガブは目を丸くして驚いた。

  メイは夢を見たことがない。

  そんな生き物がいることに、ガブは仰天していた。

  ガブも口が上手いほうではない。そして、夢を見る仕組みなどオオカミが知っているわけがない。夢とはなにかといわれて、ガブも面食らうしかなかったのだ。

  「夢は……夢でやんす。ほら、寝てるときに見る……」

  「寝てるときに、見えるんですか? 目を閉じてるのに?」

  「あ~、目で見てるわけじゃなくって……」ガブは前足でバリバリと頭を掻いた。「そう、幻みたいな。頭の中の出来事って感じで」

  「頭の中……想像ってことですか?」

  「ううん、どうだか……想像なんかしたこともないような夢だって見るしなあ……」

  「でもガブ、眠ってるときにそんなことを考えてたら……危ないですよ。ちゃんと周りを警戒しないと」

  「け、ケイカイぃ?」ガブは素っ頓狂に声をあげる。「寝てるときに、周りを?」

  「そうですよ。立ったまま寝ることもありますし……寝るときにそんな、変なことを考えてる余裕なんてないですから」

  ガブとメイは話しながら、互いの常識の差異について薄々気づいていた。しかしそれは今にはじまったことではない。自分にとって当然のことが、相手にとってはそうではない……そんな経験はこれまでいくらでもあった。そんなのはおかしいと、頭ごなしに突っぱねていてはいちいち喧嘩になる。オオカミとヤギ、その差異をできるだけ語りあい、擦り合わせるということをこの二匹はずっと続けてきたのだ。あるいは、どうあっても譲れない、認められないことがあったとしても、理解を示すことはできた。いえば、今度もまた「いつものこと」という、ある種の諦念が二匹にはあった。

  「そっか……だからメイは、いつも早起きなんすね」

  「わたしはずっと、ガブってよく寝るなあと思ってましたよ。オオカミはみんな、あんなに長く寝るんですか?」

  ガブは寝るのが好きなオオカミなので、群れの仲間よりすこしは長く寝るかもしれないが、「そうっすねえ。でもおいらだけ特別ってほどじゃないでやんすよ」

  ガブのなんの気のない口ぶりに、メイはかすかな苛立ちを覚える。なぜならそれはひとえに、ガブが強い動物だからである。命を脅かされる夜を過ごさずにいられる生き物だからである。ガブは「食う者」であり、メイは「食われる者」である。メイには食うときも寝るときも、排泄の最中にすら警戒がある。わざわざ口にする必要もないくらい、それがヤギの常識だった。それをガブは、「そんな寝方で、疲れがとれないんじゃないっすか?」などと無神経に言うものだから、生に対して緊張感が足りていないと、メイは苛立つのだった。ヤギにとっては、そうしなければ生きていかれないのだ。なにもメイが望んでやっていることではない。

  しかしガブの側でも、すくなからずの衝撃はあった。「みどりのもり」にやってきてからも、メイには心底からの安心はなかったのだと、打ちのめされたのだ。群れを離れ、好きなだけいっしょにいられる平穏な新天地だと思っていたこの場所で、しかしガブはメイに安心を与えられていなかった。そのことがガブは悲しく、傷ついてもいた。

  だからガブは、すこしでもメイに安らぎを与えてやりたくって、こう言うのだった。

  「それじゃあ、メイ。今日はもうちょっとゆっくり寝てみるのはどうっすか?」

  「え……」

  「夜のあいだ、おいらが見張ってるっすから。警戒とかは忘れて、ぐっすり寝るでやんすよ」

  メイはなんとも返答しづらかった。本当に、そんなことができるだろうか。森にはオオカミはいないが、クマやイノシシはいる。その考慮を抜きに、いくらガブがいるとはいえ、深く眠りにつくのは自殺行為でしかない。いつのときも、警戒心はメイとともにあった。それがヤギの常識だった。

  しかし所詮、メイは根っからの楽天家である。可能や不可能の話などすれば、あの広大な雪山をガブとメイは越えてみせたのだ。オオカミとヤギが、友情で結ばれたのだ。ガブがいっしょなら、できないことなどなにもないという気がメイにはあった。ガブとなら。ガブがいてくれれば。

  「そうだね。うん。やってみようかな?」

  「よお~し! そうと決まれば、昼寝でやんすね!」

  「えっ? また寝るの? 起きたばっかりなのに」

  「夜に起きてなきゃいけないっすから。それにほら、オオカミって夜のほうが動きやすいんすよ。最近は、どっかのヤギさんに合わせて寝てたけどね」

  「ほんとに? ただ寝るのが好きなんだと思ってたんだけどなあ」

  「まあ、へへ、それもありっすけど」

  ひと眠りしたら出かけるからと言って、その辺の草をすこしばかり齧ると(オオカミも草を食わないわけではないと知って、メイは驚いたことがある)、ガブは巣穴に引っ込んでしまった。

  ガブが出かけると言えば、それは狩りである。気遣ってそうとは言わないが、メイも察している。そして一度寝たガブがいぎたないことも知っているので、メイはそれ以上かまわず、巣を離れて森をうろついた。大袈裟に運動したり、気が向いた合間に草を食んだり、そのあとで無意味に体をくねらせたり、とにかく体を動かさずにいられない気分だった。それというのも、やはりガブに対する負い目が原因だった。

  春になり、賑わいを取り戻しつつある森を歩きながら、メイはずっと考えていた。というより、本音の部分ではずっと疑問に思っていた。

  ガブは、どうしてわたしといっしょに来てくれたんだろう?

  メイは、群れのない暮らしに漠然とした不安を抱えている。たった一匹のヤギ。ガブの庇護なしでは生きていかれない自分。それは、いつもガブがいっしょにいることとは無関係の孤独である。群れとは、生存率を高めるために形成される。つまり、メイの不安とは群れを捨てたことによる実存的危機であった。

  ガブはつらくないのだろうか? 群れを離れて、寂しくないだろうか? だけどガブの話の端々から察するに、群れではあまり居心地がよくなさそうに思えたし、群れを捨てるのもそれほどはつらくなかったのかもしれない……

  ガブは変わっている。奇妙だというのではなくって、変化してきている。以前は、突拍子もないことを言い出すのはいつもメイのほうだった。メイの思いつきを聞いて、ガブは驚いたり困惑したり、焦ったり笑ったりしていた。そのガブが、あんなふうになにかを提案するなんて珍しい。だけど、それだってわたしのために決まってるんだ。そしてわたしがどんなことを思いついても、最後には折れて、わたしを引っ張っていってくれるのは、いつだってガブのほうだ……

  群れがなくて不安だから、メイがなんとか新しいともだちを求めていることを、ガブは知っている。そういうメイをガブが気遣っていることを、メイも気づいている。いつもオオカミとべったりしていてはメイの孤独が晴れないからと、ガブは別々に過ごす時間をつくろうとする。今度どこそこへ出かけるとメイが言うと、ガブは心配こそするものの、干渉はしてこない。メイのためである。オオカミにとって過ごしにくい岩場を巣にしたのも、狩りのために遠くまで出かけてゆくのも、それにもちろん今度のことだって、なにもかもメイのため。

  木の上から鳥たちがメイに話しかけてきた。オオカミといっしょに暮らすなんて怖くないのと、動物が百匹いれば百匹が言いそうなことを、隠しもせずに言ってくるのだった。するとメイは、ガブはやさしいんです、ちっとも怖くないんですよと返すのだ。しかし別にメイ自体が興味をもたれているわけではない。ともだちどうしのヤギとオオカミ、という存在を珍しがっているだけだ。ただメイの場合、それでも相手にその気さえあるのなら、仲間に入れてもらえる。峠の黒ヤギたちのように。しかしガブはどうだろう?

  ガブがヤギを食べないのは、ヤギたちにとっては安心である。しかしオオカミの側を考えたとき、ガブはみすみす獲物を逃がすかもしれない存在だ。はっきりと不利益をもたらすオオカミなのだ。少なくとも、オオカミの仲間にはなれないだろう。

  ヤギを守りながら暮らしているオオカミと、影で馬鹿にされて悪口を言われているんじゃないか。わたしのほかに、ちゃんと仲良くなれそうな相手を見つけているだろうか? メイはそんな話を聞いたことがない。わたしがいるから、他にともだちなんていらない? そんなわけない。そんなのは不平等だとメイは思っている。そしてそういうことを考えるたびに、自分はガブに守ってもらってばかりだと思う。

  メイにゆっくり眠れと、ガブは言う。それと同じ思いやりが、わたしにはできるだろうかと、メイは思ってしまうのだ。たとえば……そうだ。ガブが怪我や病気で動けなくなったときに、代わりに食べるものを獲ってきたりとか……死んだ動物を探すか……あるいは、というか第一に、自分で動物を殺して……そう、狩りだ。狩りをして、ガブになにかを食べさせてあげるんだ……たとえば今、頭上でさえずっている鳥たちの一羽でも。

  [[rb:命 > 丶]][[rb:を > 丶]][[rb:か > 丶]][[rb:け > 丶]][[rb:て > 丶]][[rb:も > 丶]][[rb:い > 丶]][[rb:い > 丶]][[rb:と > 丶]][[rb:思 > 丶]][[rb:え > 丶]][[rb:る > 丶]][[rb:も > 丶]][[rb:だ > 丶]][[rb:ち > 丶]]。

  わたしは、ひょっとしたら、ガブのためであれば動物を殺せるのかもしれない。でもそれはきっと、たくさん迷って迷って、そのあとでうんと強い気持ちで決断しなければ、できないと思う。そしてそれでも、とても恐ろしいと思う。

  生き物を殺す決断。

  それに比べれば、吹雪のなかでガブに自分を食わせて生き延びてもらう覚悟など、易しいものであった。ガブのためであればメイは犠牲になれると思った。わたしの命ならいくらでも賭けられる。だけど、自分じゃなくってほかの生き物を殺せと言われたら、いくらガブのためだって、それは……

  メイは逃避行のさなか、生き物を殺して食べるガブのことを気に入らないと言ってしまったことがあった。自分がヤギだから。生き物を殺して食い、血のにおいをさせて戻ってくるガブを認められなかった。しかし考えれば考えるほどに、ガブが生きてゆくのは生易しいことではない。生き物を殺すのだから。生きる限り殺し続けるのだから。それはもちろん、オオカミとヤギでは命の捉え方も違うかもしれないけれど……

  そんなことを、メイはずっと考えて過ごした。昼下がりにガブが起きてきて、狩りに行ってしまってからも考え続けた。そして、考えれば考えるほど、ガブがかけがえないという自認を固めてゆくメイは、ガブの帰りをいつになく待ち焦がれた。帰ってきたら、寝るより先に月を見にゆきたいなと思った。それほど満月ではなくとも、雲がかかっていてもいいから、ガブといっしょにひと目見たいという気持ちがした。なので帰ってきたガブにそう言うと、メイのほうから言ってくるなんて珍しいっすねえと嬉しそうにしていた。

  結局、二匹で見晴らしのよい丘まで出ていっても、肝心の月は薄ら広い雲に隠れていて、眺めとしてはいまひとつだった。それでも、きれいすぎて嘘のような満月よりも、そうそう思い通りにはならないという意味でずっと本物らしい夜空だった。雲の向こうにあるはずの月を思いながらガブと空を見上げる、ということをしてメイは満足したので、その日は寝た。もちろんメイの眠る岩穴の前で、ガブは夜通し番をしていた。

  結局のところ、ガブの見張りはメイの眠りを深める役にはたたなかった。それは特段ガブがどうということではなくって、巣の入口あたりにいるガブが、ちょっと背筋を伸ばしたり、うずくまって前足の爪を舐めたり、深呼吸したりすると、その気配のいちいちをメイは察知して、「そこにガブがいるんだなあ」と思ってしまうのだった。わたしが寝ているときにガブが起きていたら、その様子はこんな調子なのだと、つい観察気分になる。それはそれで充実した気分ではあり、悪くなかった。

  しかしそんな日がしばらく続き、「今日は夢は見やしたか」「ううん、だめだったみたいです」……というやりとりを繰り返していたある夜のこと。

  寝る前に、例の黒ヤギたちとの外出について、メイがガブに話して聞かせた。それは順当に楽しいハイキングで、美しい菜の花の眺めが素晴らしかったとか、おいしいシロツメクサが生えていたとか、そういう話だ。メイが新しいともだちと楽しそうにしていた話を、ガブはうんうんと聞いていた。そうしてメイが夢中で話していると、あらと気づいたときにはガブは眠っていたのだった。

  見張りはしないのかとメイは思ったが、別にいつも見張りを立てて寝ているわけでもなし、わざわざ起こさなかった。そもそも、巣で体と尻尾を伸ばし、くつろぎながら眠るガブを見るのが、メイは好きだった。仲間に内緒で会っていた時には、寝床を共にしたことはなかった。それどころか、二匹の心にはいつもどこかに「群れに戻らなければ」という焦りがあった。二匹がはじめて一緒に寝たのは、群れを捨てた逃避行の最中で、寝るといっても警戒を忘れきっていたわけではない。

  したがって、リラックスしたガブの寝姿というのは、メイがこの「みどりのもり」で勝ち取ったもののうちのひとつである。のびのびと眠るガブをひと目見たら、みんな恐ろしいオオカミだなんて思わないはずなのだ。

  メイはガブに寄り添ってうずくまる。そういえば、このごろはガブが寝ずの番をしていたので一緒に寝るのは久しぶりだと思った。オオカミの毛並みというのは、見た目にはごわついていて硬そうだが、実は内側のところにはふわふわと柔らかい毛もあって、そこにこうしてくっついていると温かい体温もあわさってすごく心地いい。そういうことを、メイはこのところちょっと忘れていたかもしれない。ガブがそばにいると、どんなにか心が安らぐ。ユメなんて、別に見れなくったって構わないのだ。この「みどりのもり」で、わたしたちはもう、ずっといっしょにいられる。なんの心配もいらない。それ以上に大切なことなんて、なにもないんだ……

  ガブに寄り添う心地よさを味わいながら、ほどなくメイも眠った。そしてその夜、メイはとうとう夢を見たのだった。

  それはまさに、夢に特有の突拍子のなさである。夢のなかで、メイはサワサワ山にいた。生まれ育った故郷には、もちろん幼馴染のタプや、妹分のミイがいた。他にもメイの祖母や、噂好きのおばさんや長老などもいるのはいいとして、そこにはオオカミたちまでいるのだった。ポロポロヶ丘で狩りをしていた凶悪なオオカミたちや、「みどりのもり」を目指すガブとメイを追跡してきたオオカミたち……ヤギもオオカミも、誰もかれもが平気な顔をして入り混じり、まるで群れの仲間であるかのように平和に過ごしていた。メイはその光景を驚かない。疑問を持っていないのはメイも同じだった。

  夢の中のメイは、オオカミたちに逃避行の話を聞かせて回っていた。ガブの群れの仲間たちだ。自分たちの追跡をどんなふうに巻いていたのか、関心しきりという風だった。当時の苦労話をメイが話せば、そうだったのかと驚いたり悔しがったり、それぞれに反応する。メイも気安い態度で会話を楽しんでいた。

  その合間、メイがなんの気もなしにふとガブがいるほうを見ると、ガブはタプと話して笑っていた。おいら、前にあんたに顔を蹴られたことがあるんすよ――ガブがそう言うと、タプはひとしきり焦りながらそれを詫びる。あんなところにオオカミがいるなんて思わなくて――いやいやいいんすよ、おいらたちも内緒で会ってたんすから――そしてその傍らにはミイもいて、メイ譲りの呑気さでガブの横で笑っているのだった。あのときのタプったら、メイの前だからって威張っちゃってさあ――

  ガブと幼馴染たちに、メイはしばし見入る。

  すると、オオカミたちの合間をかきわけるようにして、ひときわ大柄なオオカミがメイのところへやってきた。そのオオカミは左耳を失くし、額から目を通って左頬のあたりまで一筋の傷跡があった。メイはそのオオカミを見たことがあった。ポロポロヶ丘の狩りにやってきたオオカミのうちの一匹だ。ひょっとすると、ガブとメイが群れを捨てたその日にも見かけたかもしれない。二匹はその日、互いに群れの情報を聞き出せと命令されており、待ち合わせ場所で合流する二匹をそれぞれの仲間たちが監視していた。

  「満足したか?」

  唐突に言われて、えっ、とメイは困惑する。

  「これで、お前の願いが叶ったのか?」

  隻眼のオオカミが続けて言う。思わせぶりなその言葉について、メイは軽く受け流すことができず、少し考えた。

  ヤギとオオカミだって、仲良くなることはできるかもしれない――ガブとの関係が仲間にバレて詰問されたとき、実際にメイはそのような考えを持ってはいた。しかしメイがオオカミと仲良くなれたのは、ガブがともだち想いのオオカミだったからだ。当然、ガブがその気になればメイを食う百億の[[rb:好機 > チャンス]]があった。それでもガブは、ともだちを大切にするオオカミだった。ともだちだけは大切にしなさいと、死んだ母が残した言葉をいつまでも守り続ける……そういうオオカミだった。

  ヤギとオオカミでも仲良くなれるというのは、メイの単なる反骨であった。わたしたちはただ運が良かったんだ。あの嵐の夜に、奇跡みたいに出会った、ひみつのともだち。冷静になってみれば、ヤギとオオカミが友達になれるわけがない、仲間のみんなが正しい、と思う。なぜって、本当に仲良くなったわたしとガブの姿を見ても、それはそうだった。メイがいくら楽天家といっても、その現実を無視するほど能天気にはなれない。

  つまるところ、ヤギとオオカミが仲良く暮らしている光景というのは、ある意味ではメイの理想ではあるかもしれないが、そこまで都合のいい空想を、メイは一度もしたことはないある。仮に本気でそんなものを望んでいれば、メイが群れを捨てるはずがなく、ガブに群れを捨てさせるはずもなかった。その前に、理想を叶える努力のひと欠片でも、してみせたはずだった。それをしなかったのは、メイに諦念と確信があったからだ。ガブとの関係は隠さねばならない。ヤギとオオカミがわかりあえるはずがない。そうしてすべてが明らかになったとき、メイの思いは、ガブと一緒にはいられなくなるという、そのことに尽きていた。だからこそ、メイは濁流に飛びこんでみせたのだ。ガブを道連れにすることを承知の上で。

  「違います」

  メイは隻眼のオオカミに答えた。

  タプ、ミイ、おばあちゃん……みんな、ごめんなさい。わたし、みんなよりもガブが大切になっちゃったんだ。

  わたしはこんな光景、考えたこともなかったよ。

  「だが、ガブはお前のために掟を破ったんだ」

  お前は俺たちからガブを奪った、と隻眼のオオカミが言う。そして、掟破りにはどこまでも追いかけて罰を与えると。

  「はい」

  メイは頷いた。隻眼のオオカミの言うことを認めたのだった。

  「それでもいっしょにいたかったんです。わたしも、ガブも」

  「仲間を裏切ってでもか」

  「ともだちなんです。なによりも大切な……」

  言いながら、メイは気づいた。

  ガブは群れを疎んでいた。小さいころから弱虫と馬鹿にされ、爪弾きにあっていた。オオカミとして強くなりきれず、群れに馴染めない辛さを、ガブは月を眺めることで慰めていた。ポロポロヶ丘から見る満月だけが、ガブの心を癒やしてくれていた。

  ――どうしても見せたかったでやんす。ここから見ると、ヤなことなんてみぃんな忘れちまうくらい、きれいな月なんす。

  あんな場所で、月を見上げることでしか慰められない。[[rb:ひ > 丶]][[rb:と > 丶]][[rb:り > 丶]][[rb:ぼ > 丶]][[rb:っ > 丶]][[rb:ち > 丶]][[rb:の > 丶]][[rb:ガ > 丶]][[rb:ブ > 丶]]。

  おそらくそのことが、メイに一歩を踏み出させた。ガブを大切にしてくれない仲間なんて、捨ててしまってもいいじゃないか。誰も知らないあの山の向こう、そこにもし、ガブがありのままの自分でいられる場所があるのなら、わたしたちはそこへ行かなければならない。

  それを認めてくれない仲間なんて、わたしはいらない。ガブのためなら。

  そうか、とメイは思った。

  わたし、ガブを守りたいんだ。

  メイが望むことなど、それ以外にありえないのだった。

  それは、メイにもたらされた初めての気づきだった。ガブに守られ続ける日々の中、メイの心に芽生え、育っていった強い願望であった。

  「ガブを守りたいんです」

  メイは見上げた。恐ろしげな、隻眼のオオカミの顔。

  なににも怯えることなく、体を伸ばして無防備に眠るガブの姿。メイはそれをこそ守らねばならない。

  「だったら」と、隻眼のオオカミは言った。「早く行け」

  「はい!」

  勇ましく返事をするのと同時、メイの体は宙に浮いた。メイがいるのはもう故郷のサワサワ山ではなく、激しい雨に濁った川――その濁流へ、メイはガブとともに飛びこんだ。

  あのときは破れかぶれだった。自分たちの関係が思わぬ事態に発展し、メイとガブは川へ身を投げた。しかしなにか強い意志でそうしたわけではなかった。ただ引くに引けない状況だった。自分たちはもう、行けるところまで行くしかなかった。ガブといっしょなら、それが恐ろしくはなかった。しかし今度は違う。メイはガブとはぐれまいと、必死で流れのなかでもがいた。わたしたちは無事に再会しなければならない。そうしてだれも知らないあの山の向こう、「みどりのもり」へ行かなければ――

  前後不覚に揺さぶられる視界が、ぐるぐると回り回って、ふとそれが落ち着いたとき、景色はまたしても移り変わっていた。なにもかもが瞬時の変化したあとで、気づけばメイは洞穴にいた。外は歩くのもままならぬ猛吹雪だった。

  ガブは――いない。しかしメイにはわかっていた。ガブはじきに戻ってくる。そういう約束だからだ。そのとき、わたしたちはもうともだちではない。二匹でそう決めたのだった。この雪山でガブが生き延びるために。そのためなら、メイは少しも怖くなかった。

  そう、そうだ。それもあのときはそうだった。しかし、それは違う、とメイは思った。それは安易な決意だ。そんなことで生き延びたって、ガブはすこしも癒やされたりしない。今だからそう思うのだった。わたしは、そんなことのために「みどりのもり」を目指したんじゃない!

  メイは洞穴を飛び出した。吹雪の中を駆け、ガブの姿を求めた。容赦のない突風と打ちつける雪が邪魔をして、思うように進まない。それでもメイはがむしゃらに走ってガブを探した。雪でも風でも、勝手に吹いていればいい。わたしはこんなところで、ガブだけを残して死ねないんだったら!

  しかし、吹雪の向こうにメイが見つけたのは、ガブではなかった。白い闇の果てに見えるのは、自分たちを追うオオカミたちの群れ……うまく鼻も効かず、視界もおぼつかないはずの吹雪の中、オオカミたちは何か確証でもあるかのように、一直線に迫ってくる。不思議と、その先頭にいるのがあの隻眼のオオカミであることもわかった。

  飢えと寒さに衰弱した体では、決してオオカミたちから逃げられない。しかし、もうすぐだ。もうすぐこの雪山で、大きな雪崩が起こることをメイは知っている。

  メイは崖を駆け下りた。オオカミには不可能な身の軽さで。恐れはなかった。迷いもなかった。メイは祖母の言葉を思い浮かべていた。メイを守るためにオオカミと戦って死んだという母の最期の話。

  オオカミの群れの前に躍り出てゆき、リーダー格らしき隻眼と相対して、今さらのようにメイは思った。お母さんが最期に耳を噛みちぎったというオオカミ……そうか、それはあなただったのか。

  母の仇という怒りは湧かない。メイはガブを守るという使命だけを思っていた。まず間違いなく、わたしは殺される。八つ裂きにされて食われるだろう。しかし反撃の一発くらいは浴びせてやれるだろう。この角で、この脚で、お母さんがそうしたように。

  絶対にガブを死なせない。命を捨てるのではない。この命は、ガブを守るためのわたしの武器なんだ!

  隻眼のオオカミが――引き連れた群れのオオカミたちが、仲間を奪われた憎しみをメイに吼える。

  それが、生まれて初めて体験したメイの夢だった。

  ガブが目を覚ましたとき、いつもどおりメイは先に起きていた。

  「あれ……おいら、いつの間にか寝ちまった」

  巣の外は薄明るく、少しずつ朝の日差しに変わりつつあった。メイは、ガブの代わりに番をするみたいに外を見つめていた。

  「おはよう、ガブ」

  気配に敏感なメイは、ガブが起きてきたことには気づいていた。しかしメイは外を見たまま振り返らず、ガブがそっと背中に頭を擦り寄せてきてから「おはよう」と言った。

  「おはよう、メイ。ゆうべはなんだか、ひなたぼっこの話きいてるうちに、おいらまで眠くなっちまって」

  申し訳なさそうに言う声もあくび混じりなので、メイは微笑んだ。

  「ううん、いいんです。気持ちよさそうに寝てたもの」メイはかぶりを振る。「それより、ねえガブ、わたし、ユメを見ちゃったかも」

  「ほんとっすか!」

  寝ぼけ眼もぱっちり開いて、ガブは話を聞きたがった。

  「どんな夢でやんす?」

  ガブにしてみれば、メイを安心して眠らせてやりたいというのが当初の目的であった。だがそれはそれとして、メイと話す話題が増えるというのは、どんなことであれそれ自体が楽しいものであるので、純粋にメイから夢の話が聞けるのを待ちわびてもいた。メイが見る夢ってどんなだろう?

  ところが。

  「うーん……なんだか、よく覚えてないんです。すごく不思議なものを見たような気はするんだけど……」

  メイはこんな具合である。非常に残念だった。しかし夢の記憶があまり残らないというのはよくあることなので、ガブも落胆するというほどではない。

  「ああ、そうっすよねえ。でも、一度見られたんなら、きっとまた見られるでやんすよ」

  はい、とメイは言った。そのときはまた話せるといいなと、本心から思っていた。ただし、よく覚えていないとメイが言ったのには、少しばかりの嘘というか、ある種の秘匿がなくはなかった。

  目を覚ましたメイの心境は複雑だった。夢を見ていたという実感は間違いなくあり、「これがガブが言っていたユメなんだ」と確信してもいた。.それなのに、ついさっきまで見ていたものがどんなものだったのか、あっという間に思い出せなくなってゆく。その不思議な体験。そして夢の記憶がほとんど洗い流されてしまったあとには、感情だけが残された。それは例えば、故郷への懐かしさであったり、もう二度と会えない幼馴染たちへの悲しさであったりした。そしてその中には、メイがガブを守りたいという勇ましい気持ちもあった。

  なんのことはない。メイは、正直に話すのが照れくさかった。メイの見た夢というのは、まったくもって辻褄の合わない、不可解なものであった。そんな奇妙な夢を、おぼろげになってしまった記憶で説明できる気がすこしもしない。しかし、端から端まできれいさっぱり忘れたわけでもなかった。メイはガブに対してそれを、一般に知られたくない感情を秘匿するのと同じやり方で、誤魔化したのた。

  生まれて初めての体験は鮮烈だった。霧のように吹けばかき消えてしまいそうな記憶のなかでも、夢によってもたらされた気づきは強固だった。

  目覚めた直後は、気持ちがざわざわとして、いても立ってもいられなかった。ガブを起こしてしまおうかとも思った。しかし夢の記憶が薄れてゆくにつれて気持ちも落ち着いた。あとに残された感情を、メイは夜明けの薄闇を眺めながら噛み締めた。

  ガブは、夢を「幻のようなもの」と言っていた。幻。本当はないのに、あるように見えるもの。偽物の光景。

  だけど――夢が幻だったとしても、それを見て生まれたわたしの気持ちは、きっと本物だ。

  わたしは、ガブを守りたい。

  でも……そんなことを真面目に語るのは、やっぱり照れる。なぜって現実、メイはガブに守られてばかりなのだ。ガブにしてやれる、どんなこともメイにはすぐには思いつけない。それでも、どんなちいさなことでも構わないから、とにかくガブになにかしてやりたいような、そんな気持ちがしてたまらない――というのが今朝のメイだった。

  「ねえガブ、今度お出かけするときは、ガブもいっしょに行こうよ」

  「またまた。それって、ともだちの黒ヤギたちもいるでやんしょ? 怖がらせちまうし、メイも嫌われるかもしれないっすよ。せっかく仲良くなったのに……」

  「そんなの、やってみなくちゃわからないじゃないですか。それに、ガブといないときのわたしだけ気に入られたって、しょうがないんです」

  「そうっすかねえ」

  ガブの目から見て、今でもメイは森の動物たちから十分に避けられている。それが余計に仲間はずれにされるんじゃないかと心配なのだ。しかしメイというのは言い出したら頑固なもので、もうとっくに避けられているのだから、今さら嫌われるのを恐れることもない、と粘り強く主張してくる。そしてガブもガブで、それは言えてるなあと思わされてしまう。

  「せっかく平和なところに来たんだもん。楽しいことをしようよ。ガブもいっしょに」

  こうなるとガブは弱い。まったく、小さくってフワフワで、こんなかわいい体のどこからこんな負けん気が湧いてくるのだろう? 大真面目な顔でいっしょがいいとか言われたら、ガブは断れるわけがないのだった。

  「それじゃあ今度、試してみやすか」

  「うん! そうしましょう」

  メイは笑っていた。それはまごころからの笑みだった。

  ガブはなんとなしに、メイはいい夢を見たんだろうなという気がしていた。その夢が、メイになにかを考えさせて、決めさせたんだと。

  とはいえ、夢がメイを変えたとは思わない。なぜって、メイというのは元々こういうことを言い、実際に行動もするヤギであった。なにせオオカミとともだちになり、そのともだちのために群れを捨て、新天地を求めて山さえ越えようというヤツである。そういうヤツに引っ張られて、ガブはこうして「みどりのもり」にいる。

  それが、ガブのともたちだった。

  そう。メイには恐れも迷いもない。どんなことでもできるのだとメイは思っている。夢を見た今朝はことさらそうだった。ガブと一緒にいられるのなら、メイはなんにもこわくない。