008-026
一時間という時間が与えられたメファティとリエルであったが、メファティの意向に従ったフライ・ベアーの艦内案内だけでその時間を使い果たしていた。
一時間という時間が有ったが、多いところでは六層も有るフライ・ベアー全てを案内する事は不可能で、その上時間の大半はマギガント格納庫とそれに隣接する整備場だけで費やされていた。
特に集合の為に集まって来る遊魔各人のマギガントの着艦をメファティは気に入ったらしく、ずっと見ていても飽きない様だった。
リエル 「結局殆ど格納庫に居ましたね、リィとしては艦内をもっと見て欲しかったんですけど」
メファティ 「代わる代わる色んな巨人がやって来て全然飽きませんでした、遊魔は沢山の空飛ぶ巨人を持っているんですね、中には轟音を響かせていた巨人も居ました」
リエル 「アレはゾッフォ系のマギガントです、リィのフーティアやクフィカールと違って、科学の力で飛んでいるんですよ、科学というのはダイン様がこの世界にもたらした力ですね、この船だって魔導と科学を融合させて動いているんですよ」
メファティ 「ディーラルでは全く知らなかった力です、この船がディーラルに到着すると国民は驚いてしまうでしょう」
リエル 「人類大陸でもそうですよ、この巨体が浮いているだけで殆どの国家はユーマと争う気を無くしてしまいますから、ダイン様は馬鹿げた事をやっている様で効率的なんですよ、ダイン様の世界の言葉の戦わずして勝つだそうです」
メファティ 「空に浮く巨大な船を持つ国となんて戦いたくは有りませんからね、ディーラルにも奇妙な山と呼ばれる遺跡が有って、それをダイン様が浮かぶと予測していたんですが、根底に自身が作った浮遊母艦というモノを意識していた為ですね」
リエル 「巨大な遺跡が空を飛ぶですか・・・フーティアやクフィカールが飛んでいる事から考えればあり得ない話でも無いですね、耳長達も飛ぶちゃんとした原理は解っていなかった様ですから、飛行装備の天翔る処女はより古い文明の産物だとダイン様は推測していましたが、その文明の残滓を発見出来たという事ですか・・・」
メファティ 「メティが旅立つ日に、奇妙な山に探索に向かう友人が居たんですが結果は解らないんですよ、でもダイン様は出来得る限りの事はしたと言ってました、何せ遺跡好きの娘を遊魔に迎え入れてその娘に任せましたから」
リエル 「危険な役目でも、それを望む者は居るという事ですか、願いを叶えるわけですから万が一何かが起こっても、本人も納得しているわけですね・・・実にダイン様らしいやり方です」
メファティ 「初めはディーラルに残る三天人という耳長の一人に行って貰う予定だったんですが色々苦悩してました、何せディーラルには三天人を手に入れた者がディーラルの王になるという予言が有りますから」
リエル 「予言ですか・・・それはいつから存在しているんですか?」
メファティ 「遊魔に魔進化して、奇妙な山の調査に行ったリリルカが言うには、ディーラル王国の存在以前から有った様です、つまり地の王との戦いで生き残る耳長が三人だという予言が当たっていたんですよ、そこで生き残った三人に予言に記された三天人の名が与えられたと言います」
リエルはメファティの話を確かめる為に、追加された混沌大陸北部人類圏の情報を探ってみる、するとメファティの言葉が偽りで無い事が解る。
リエル 「つまりダイン様は予言も利用して、ディーラルを得る正当性を主張するつもりですね、相変わらず抜け目無い・・・そしてディーラル全体を遊魔の国にして混沌大陸征服の橋頭堡にするつもりですか、ならばリィ達も全力を尽くさないと行けませんね」
メファティはリエルの意気込みを確認して喜ばしく思う、やはり遊魔にとってダインの願いを叶える事が一番の目的なのだ、その事はメファティとリエルが紛れもない遊魔の同族という証でもある。
リエルの意思を確認して上機嫌のメファティに、先程到着したマギガントの操縦者が降りて近付いて来る、その娘はなんと耳長種族でダインが三天人とは別の耳長と接触したいた事の生きた証拠でもある。
フィセーリア 「この娘が混沌大陸でダイン様が生み出した遊魔ですね、あの大陸に人間種族が残っていた方が驚きですけど・・・私もかつて大陸の東方に住んでいたんですよ」
メファティ 「それは天人様の記憶にある、海を越えた一族という事ですね」
フィセーリア 「はい、ザキトスが放った魔獣に生存圏を脅かされた耳長は、若い者達を東の海へと送り出したんです、そして私達は陸地へと辿り着いてそこに新しい国を作ったんです」
メファティ 「旅立ちが上手く行って喜ばしく思います、そしてダイン様の元で再会出来る事も」
フィセーリア 「はい、私もこの船で一緒にダイン様の元へと向かいます、叔母が生存していて遊魔へと迎えられているのは変な感覚ですけどね、叔母でありながら妹でも有りますから・・・」
メファティ 「耳長種族で遊魔だと色々な事が起こるんですね、二百五十年離れ離れの叔母が妹になるなんて・・・」
フィセーリア 「でも、一族が揃ってダイン様に尽くせるなんてとても誇らしい事です、私も従姉妹同士の遊魔を羨ましく思ってましたから」
リエル 「どっちも国の重要人物なので、今回の作戦には参加出来ませんけどね、でも十分な地位は得てますけど」
フィセーリア 「はい、人類圏の役職ですから遊魔には関係ありません、大切なのはダイン様の側に居られる事ですから」
リエル 「確かに人間にとっては婚姻って重要ですけど、遊魔の時点で同じ意味ですからね、その点では実より名を取ったという事でしょう、ですがメティも辛い決断をしてここまで来てくれましたよね」
メファティ 「ユーマ共栄国との接触は必要不可欠でしたから、それに外の世界が楽しみだったんですよ」
リエル 「楽しむ事は遊魔の原動力ですからね、ダイン様のお側に居る事も大切ですけど、自分の楽しみでお役に立てるならメティの決断も納得です、そしてダイン様の意思を伝えてくれた事で人類圏の遊魔達もメティに感謝してます」
フィセーリア 「はい、無駄な探索をする必要も無くなりましたから、前の決定では長期探索の為の物資を増やして、マギガントの生産を減らす話になってましたから」
リエル 「真夏はそういう判断が得意ですからね、後方から全体を見て的確に支援してくれます、あ、そろそろ時間ですね、会議は艦橋じゃ無くて作戦室でしたよね」
フィセーリア 「はい、遅れない様に急ぎましょう、遊魔は時間に正確ですから」
遊魔社会はとても時間に厳しい、予定された時間に集まらないという事は他の遊魔の時間も無駄にさせるからだ。
そして五分後、少しの猶予を残して作戦室に辿り着いた三人は、各々与えられた席に着座する、メファティは会議を主導する真夏の隣りに席が与えられて色々と意見を求められる様だ。
真夏 「全員揃った様なので始めたいと思います、全員共通知識のディーラル王国について理解しましたね?」
真夏の問い掛けに全員が頷く、遊魔は話し合いの前にちゃんと内容を各人が理解しているので、会議は草案に対しての改善点の提示が主になる。
フェイベル 「探索活動が増援という形に変化したわけですが、その先を見据えて現在レブナン島に配備しているクラフト・ゾッフォを全てディーラルに移送すべきだと思います、クラフト・ゾッフォが有れば、新しい工房も容易に建設出来ますから」
真夏 「確かにその通りですが、後方基地としてレブナン島の整備も重要ですよ」
リレッタ 「不足した分はクガト工房から補充出来ますね、あそこは遊魔だけの工房じゃ有りませんからクラフト・ゾッフォの用途に制限が有りますから・・・ウッド・ベアーを回して貰えるなら直ぐに此処へと補充可能です」
ウッド・ベアーとはククジア王国で建造されている廉価版の浮遊母艦で、実際は母艦というより輸送船でもある、武装は無く外装に木材を多用している事から、ウッド・ベアーと名付けられたのだ。
真夏 「レブナン島配備のウッド・ベアーならば二日でクガト工房との往復が可能ですね、解りました、使える物はより全力を出せる所で使うべきですね」
フィセーリア 「なら、次は私からの提案です、ユーマに駐留する耳長騎士団の大半を増援として組み込んではどうでしょう、遊魔の駆るクフィカールならば単体でもディーラルへの飛行が可能です」
真夏 「有用な申し出ですが、東方耳長の承認はどうしますか?」
フィセーリア 「混沌大陸北部に同胞が居る事を報告します、それならば現場判断で騎士団を動かしても咎を受ける事はないでしょう、フォテーヌに任せれば大丈夫ですね」
リレッタ 「フォテーヌには気の毒ですが、ダイン様の元へ参じられる遊魔は多い方が良いでしょうから」
真夏 「皆んな不安を紛らわす為に頑張ってましたからね、ユーマ本国の娘達は可哀想ですが・・・」
リエル 「浮遊母艦の建造が重視されるのは変わらないですからね、魔龍脅威論で魔鋼も集まってますから浮遊母艦の増産は人類圏の総意ですよ」
真夏 「ビグ・ユーマの主砲のデモンストレーションが上手く行きましたからね、あれを見れば魔龍に対抗出来ると思ってくれるでしょう」
ダインを拉致された、遊魔の面々は本格的な対魔龍兵器として、浮遊母艦の主砲の強化に尽力し、その威力を人類圏国家の代表に見せ付けたのだ。
結果、人類圏では浮遊母艦の建造に注力する事が決定し、遊魔の魔鋼不足は一先ず解消され、浮遊母艦の増産が進んでいる。
メファティ 「けど、仮想敵の魔龍レ・ミュウはダイン様が遊魔に堕としてますよ」
真夏 「確かに敵は想定から代わりますが、艦載砲が無駄になるとも思えません、この破壊力が有れば、想定される地の王の軍勢にも有効でしょうから」
フィセーリア 「主砲の応用でクフィカールにも単発銃が装備されましたからね、空中からの射撃訓練も行ってますから、地上のマギガントでも狙い撃てます」
ダインの戦術構想では遠距離戦が重視されている、見せ物の戦いが主であった人類圏では近接戦が主でマギガントは戦士の役割を課せられていたが、ダイン構想下では遠距離武器の移動手段としての役割が求められているのだ。
真夏 「私達がやるべき事はなるべく多くのユーマ共栄国の戦力を、混沌大陸北部へ送る事です、稼働に魔力を使う兵器群ですから何処に持って行っても使えるのが強みです、あと、砲弾の供給ルートはこのレブナン島を中心にします、なんならここで生産するのも悪くないですね」
リレッタ 「砲弾には鉄を使ってますので、岩喰い達が使えるでしょう、鉄の扱いには長けてますから、でも地の王の事は露見しない様にしないと・・・」
フェイベル 「レブナン島の岩喰いはその存在を知らない様ですから、ザキトス侵攻後に生じた勢力なんですよね・・・」
トルポ 「昔の岩喰いは地下に無数の王国を作ってるから、地の王という存在は知らないです、ですが百五十年前の侵攻の規模から考えるとかなりの規模の国ですよね、大陸にあった大きい国でもマギメイルが五十機ぐらいという話でしたから、複数の国を征服しているんでしょう」
メファティ 「問題はマギガマイナーというやつです、これに対空兵装が搭載されている様です」
トルポ 「マギガマイナーは古の機体で、複製が作られたという話は聞いた事が無いですね、それを前の侵攻で投入したと言うんですか?」
メファティ 「飛行しているクフィカールが落とされているという事は、マギガマイナーの存在は真実だと思います、この話は直接戦いに参加した耳長から聴く方が正確です」
真夏 「浮遊母艦も対空攻撃に対しての警戒が必要という事ですね、一人での操艦は避けて、索敵と障壁の人員を配置する様に心掛けましょう、浮遊母艦に損害を出すわけには行きませんから」
フィセーリア 「そうなると、ウッド・ベアーを加えるのは止めた方がいいかもしれませんね、障壁は貼れても構造が脆いですから」
真夏 「今使える浮遊母艦を考えると、ウッド・ベアーを使わないのは勿体無いですが・・・なら、明日の出発はフライ・ベアーだけに留めて航路の安全を確認してみましょう、もしフライ・ベアーに攻撃が有ればウッド・ベアーは更に北上してなるべく海上を移動して貰いましょうか」
リレッタ 「私もそれが妥当だと思います、今は一刻も早く混沌大陸北部に遊魔戦力を送り込む事が重要でしょうから、失地の回復は防衛より手間ですからね」
真夏 「互いの移動手段が極まってますからね、高速で脆弱な遊魔と早くはないが地下道で位置の解らない相手側・・・」
フィセーリア 「真夏の立場が損害を抑えようとするのは解りますが、速さは圧倒的な優位を生みます、航路は学習してますので耳長騎士団の三機は直ぐにでもディーラルに向かうのはどうでしょうか?」
ここに来てフィセーリアは抜け駆けを提案する、慎重な真夏からすれば先に航路の安全を確かめてくれるのは有り難いが、ダインとの再会の感動が薄れてしまうのは避けたい、だが、フィセーリアの提案は遊魔にとっての利益が大きいのも事実であった。
おまけ
ユーマの対魔龍作戦 魔龍レ・ミュウのレブナン島襲撃は人類大陸国家に大きな衝撃を与えた、混沌大陸とレブナン島、そして人類大陸の距離間を考えればレブナン島に魔龍が住み着けば人類大陸への襲来の可能性が高いと判断されたからだ。
もっともこの判断を下したのはユーマの意を受けた耳長フィセーリアで当然魔龍の脅威を誇張している、ユーマは魔龍の襲来を戦力拡大の好機と捉えており、レブナン島の防衛を買って出る事で、人類大陸国家全体の協力を引き出したのだ。
そして、根拠の提示として自作自演の魔龍襲来を行なっており、耳長魔龍を浮遊母艦で追い払い、その有効性を示す事で浮遊母艦が唯一の対抗策だというイメージを作り上げる事に成功したのだ。
実際、魔龍襲来に対抗させたのは魔導砲を装備したビグ・ユーマで、強力な主砲の威力に説得力が有った為でもある。
そして、対魔龍用と銘打って建造されたフライ・ベアー級は砲撃戦能力が強化された巨艦で、遊魔の一部からは遊び心が無いと揶揄されたが現時点で最も戦力の高い浮遊母艦として、完成後すぐに対魔龍防衛戦に導入されている。