ディーラル侵蝕編 第二十三話 遊魔流古代兵器再生術

  008-023

  花園の隔離区画から戻ったダイン達は花園に設けられた遊魔居住区画へと戻って来ていた、元は格納庫で十分な広さと外部との出入りが容易な事から、遊魔居住区画に割り当てて貰ったのだ。

  そしてこの格納庫にはダイン好みの魔導具が多く収容されており、地の王との戦闘の為の戦力を向上させる為にとても適した場所でもある。

  中でもラグム・デムの主力魔導具はこれまで目にしてきた、二腕二脚の巨人魔導具とは違い、四腕四脚という異様な姿をしていた。

  ダイン 「ラグム・デムユニットはこれを一人で動かす事が出来るんですか?」

  オハナⅢ 「そもそも087では動かせませんね、既に動かない物を扱う能力など無用ですから、でも二人で動かすとの情報は有ります」

  ダイン 「複座型という事ですか、分担は上半身と下半身でしょうか・・・」

  オハナⅣ 「はい、クステーシャは二つの操宮を持っています、ダイン様の予想通り上半身と下半身を別々のラグム・デムユニットが担当して動かします、私は当時のラグム・デムユニットの複製体なので、クステーシャには詳しいですよ」

  オハナⅣの思わぬ言葉にダインは大喜びの様だ、直ぐさまオハナⅣの記憶領域にアクセスするとクステーシャに関する情報を集め始める。

  ダイン 「なるほどラグム・デムユニットの情報共有能力を使って動かしていた訳ですか、面白い操作方法ですね、特に上半身担当は前腕を脚で動かすんですか・・・」

  オハナⅣ 「クステーシャの乗り手は足の指が器用だった様です、私も色々出来ますよ」

  ダイン 「構造的に魔動力は連結してますから遊魔なら一人でも動かせるでしょうね、翼や尻尾の感覚と同じ感覚になると思います、このクステーシャもマギガマイナー同様に再生させましょう、先ず私がお手本を見せますのでオハナ達は真似してみて下さい」

  オハナⅣ 「同様の状態のクステーシャは473機が存在していますので、遊花にも割り当てて戦力にするんですよね」

  ダイン 「遊花にも魔進化させる必要が有りますけどね、もっとも遊花は魔進化前提の複製体ですから、個々の知識の方はあまり持っていません、そこが087との最大の違いでしょうね」

  遊魔の素体として生産されている遊花は、完成状態が遊魔として位置付けられている為に、遊花単体での知識は最低限しか無い、知識の詰め込みを省略した事が遊花の生産性を大幅に向上させたのだ。

  オハナⅢ 「そろそろファーストロットの9体が完成する頃ですね、それにしても統合思考を組み込んだ087の010は時間が掛かってますね」

  オハナⅣ 「統合思考を087に組み込むなんて、ラグム・デムの考えはよく解りません、087ユニットは魔進化しないと役に立たないですよね」

  ダイン 「統合思考も直に遊魔を体験するつもりなのかも知れません、087-010はあと数日は掛かるそうですから」

  オハナⅢ 「それだけの時間が有れば、遊花なら3ロットは生産出来そうですね」

  ダイン 「数は力ですが、個性も力ですよ、遊花は遊魔知識でほぼ均一化した思考になると思いますから、違いを出す為に9種の素体を容易しましたが」

  オハナⅣ 「でもリリルカ姉様が志願したのは意外でした、元々複製の087と違って独立した個として産まれたのに・・・」

  ダイン 「自分の特性を解った故の志願ですよ、リリルカは創造力が高いですから複製も能力を受け継ぐ可能性が高いです、新たな創造は遊魔の発展に繋がります」

  オハナⅢ 「複製体に新たなモノを創造されてはダイン様が嫌なんじゃ無いですか?」

  ダイン 「このクステーシャも私の創造物じゃありませんよ、そもそも文化とは多くの者達の発想から成り立ってますので、私以外が優れたモノを生み出してもそれは喜ばしい事ですね、何より他者の創造物は新しい方向の提示ですから」

  オハナⅣ 「ダイン様が真似をするという事ですか?」

  ダイン 「否定は出来ませんね、だから二人も私にパクられる程のモノを生み出して下さい」

  オハナⅢ 「ダイン様は自分の良いに正直なんですよ、クステーシャを見る目が輝いてますし、マギガマイナーの時もそうでした」

  オハナⅣ 「確かに地の王の勢力との戦いでは重要になりそうですね、遊魔の姿は人から隠すつもりなんですよね」

  ダイン 「はい、ですから戦闘の主力は巨人魔導具になりますね・・・このクステーシャを巨人と呼ぶには変ですね、巨人魔導具全体を意味する何か良い名称を考えましょうか」

  オハナⅢ 「これはチャンスですね、上手く行けば遊魔の主戦力の名付け親になれます」

  ダイン 「私が提示するとそれで決まってしまうので、今回は皆に任せましょう、魔動力で動く操縦型兵器の総称が今回のお題です」

  オハナⅣ 「面白そうです、クステーシャをよく知る者として負けたく有りません」

  ダイン 「頑張って良い名称を考えて下さい、私が気に入ればそれで決定ですので、何度でもチャンスを与えますよ」

  オハナⅢ 「そういうところもダイン様らしいです、やる気の有る者に何度でもチャンスを与えるなんて」

  ダイン 「遊魔全体の能力を結集すれば、理想の実現が早まるのは疑い有りませんから、このクステーシャの改修もやりたい者は名乗り出て下さい、魔動力を遊魔仕様に変えるのが主ですが、これと思った機能を追加しても構いませんよ」

  オハナⅣ 「動かないクステーシャは沢山有りますからね、私も一機弄ってみたいです」

  ダイン 「なら好きな機体を選んで下さい、私のお手本通りにすれば動く筈です」

  オハナⅣ 「ダイン様がマギガマイナーでやっている事と同じにすればいいんですね?」

  ダイン 「全く同じじゃ駄目ですけどね、アレは操縦者の解析も行なってますから、そちらの方は再現可能な様なので、サンプルを培養カプセルに移さないと行けませんね」

  オハナⅢ 「地の王の有機体を元にした遊花も作るんですか?」

  ダイン 「見た目が同じなら色々役に立つ状況も出て来るでしょう、一応処女だった様ですし」

  オハナⅣ 「マギガマイナーと同じ様に干涸びていたんですよね?」

  ダイン 「ですが元は美しい姿ですよ、それがああなってしまったのは偲びない」

  遊魔思考に染まったオハナ達にはダインの気持ちがよく理解出来る、美しいモノが失われる事は明らかな負の要素で、ダインが遊魔を不老にしている根底には、美の永続化という強い思いがあるからだ、そして087ユニットもやり方は違うがラグム・デムによる美の永続化への試みであるといえよう。

  オハナⅢ 「敵に情けを掛けて利用するなんて、さすがダイン様です、ですが遊魔の王はそれぐらいじゃないと務まりませんよね」

  ダイン 「一番突き抜けた変態が遊魔の王に相応しいんですよ、私を上回る自信があるのなら何時でも挑戦を受けますよ」

  オハナⅣ 「いや、誰もダイン様の地位を狙ったりしませんよ、遊魔全員が納得しませんし」

  ダイン 「いや、遊魔の王はある種の称号であって、私の位置付けが変わる訳じゃありませんよ」

  オハナⅢ 「確かにダイン様は王という位置付けだけじゃ無いですよね、私は使った事が無い概念ですが、神というのが正しいと思います」

  オハナⅣ 「文字通りの遊魔の創造神ですからね、だからこそ複数の王という概念を称号として与えるのですか、私ならクステーシャの王とか狙えそうです」

  ダイン 「細かく刻んで来ますね、魔導兵器の王ぐらいを狙って下さい、それぐらいなら王にも価値が出てきますよ」

  オハナⅣ 「確かに・・・王という特別な称号を得るならそれぐらいの広さが必要かも知れませんね」

  ダイン 「もっと気楽に考えて下さい、確かにオハナⅣはクステーシャの知識では随一ですが、人類大陸の遊魔の中にはマギガントをフレームから設計した者も存在してますから」

  オハナⅣ 「それはあまりに高い目標ですね、後を追っても更に先に進まれそうです」

  オハナⅢ 「私達は087ユニットとしての強みを引き出すべきなんです、地道にクステーシャの復元から始めるべきですよ」

  オハナⅣ 「オハナⅢの言う通りかも知れません、先ず尻尾を膨らませないと」

  ダイン 「それに関して一つ助言を与えるなら、大気を上手く使う事です、私とオハナⅣの間には何も無いと考えるでしょうが、大気が存在しています、ここは大気圏内という事ですね、尻尾を風船みたいに膨らまして空洞を作ってから中に入れるんですよ」

  オハナⅢ 「なるほど、それで中が柔らかいんですね」

  ダイン 「輸送時には緩衝材を詰める必要が有りますから、大気を閉じ込めればその役割を果たせます」

  オハナⅣ 「人を運ぶ時は注意が必要なんですね、クステーシャは硬いからそのままでいいでしょうけど」

  オハナⅢ 「予め膨らませておかないと、呑み込んだ時にムラが出来ちゃいます」

  ダイン 「慣れればどうとでもなりますけど、先ず対象を見て大きさを掴みます、次にある程度尻尾を延ばしてから対象より上に来る様に延ばします、一番楽な方法は全体を包み込める様な傘を作ってから下に落ちして包み込む事ですね」

  ダインのアドバイスをオハナⅣは目の前のクステーシャで実践してみせるつもりだ、尻尾を延ばしてから天井に向けて延ばして行く、そこから折れ曲がってクステーシャの中央まで延ばすと先端を拡げて大きな傘を作って行く。

  オハナⅣ 「このまま下げて包み込むんですね、傘は均等に拡げられるので、思ったより苦労も有りませんね」

  ダイン 「思ったよりも遊魔に対する順応が高いですね、さすがは087です元々優秀なんでしょうね」

  オハナⅢ 「褒められてますよ、087が遊魔として優秀である事を示せるのは鼻が高いです」

  オハナⅣ 「強みを活かすには率先した行動ですから、十分に拡がったのでこのまま落とします」

  ダイン 「呑み込んだ後は液体を満たして下さい、大気中から水分を得れば可能な筈です、なんならお風呂の水を使っても良いですね」

  花園の遊魔区画には既に色々な設備が出来上がっている、水流循環の有るラグム・デム内部では比較的楽に水が手に入るので、ダインは風呂とプールの中間の様な設備を真っ先に作って身体を休めるのに使っている、もっともダインが使う際には直ぐに魔進化した087達がやって来て休まる事は無い。

  オハナⅣ 「あの水を使うんですか、色々と087達の恥ずかしいモノも入っているんですけど・・・」

  ダイン 「遊魔の体液は遊魔細胞に馴染むから問題ないでしょう、一応濾過設備も完備してますから」

  オハナⅢ 「その濾過設備も遊魔細胞で出来ていますよね、お風呂の水もなんだか普通と違いますし」

  ダイン 「当然遊魔ナノテクノロジーが組み込まれてますから、細胞とは小さいモノですから、細かな仕事を行うのに実に都合が良いんですよ、人の大きさでは感じられない微細な事も細胞の大きさなら大きな変化なんですよ」

  遊魔が優れた科学力を身に付けた根底には、この細胞レベルの目線からの物質に対する干渉というのが大きな要因でもある、人の生産物の多くは目視で出来を判断しているが、遊魔はそれよりも遥かに小さな所で判断する事が可能なのだ。

  より小さなアプローチ手段が有るという事は、より小さな物を作れるという事で、特に遊魔細胞を組み込まれた魔動力はそれまでの魔導具とは全く異なった物へと産まれ変わっている。

  オハナⅣ 「包み込む事は上手く行った様です、遊魔細胞の膨張を使えばこれほど重量の有るクステーシャでも完全に飲み込む事が可能なんですね」

  ダイン 「同じ物体で無ければ隙間は存在しますから、同じ要領でクステーシャ内部に触手を潜り込ませて、干涸びた魔動力を侵蝕して再生させて下さい、その際に満たした水が役立ちますから」

  オハナⅣ 「ダイン様のマギガマイナーの再生工程が共用化させてますので、それに従えばいい訳ですね」

  ダイン 「はい、オハナⅣも気付いた事をちゃんと共用化して下さいね、少なくとも087と遊花には一人一機のクステーシャを再生して貰いますから、自身の遊魔細胞を使ったクステーシャなら、自分の一部として空間レイヤーへの格納も可能ですよね」

  オハナⅢ 「なるほど、それが狙いなわけですか、私達が空間レイヤーからクステーシャを展開出来れば、生身で移動するだけでクステーシャの展開が可能になるわけですか」

  ダイン 「相手が坑道を使って隠密行動を行う以上、私達も直ぐに戦力を展開出来た方がいいでしょうから、マギガントの輸送に関して私も人類大陸でかなり考えましたが空間レイヤーで全てを解決出来るんですよ、個人に割り振るクステーシャは余る程有りますしね」

  ダインはラグム・デムの協力で可能となった遊魔の戦力増強を急いでいた、地の王の戦力の全容が把握出来ていない以上戦力は多いに越した事は無い、そして何より自分の勢力を増やす事自体がダインにはとても楽しい行為であるのだ。

  おまけ

  ラグム・デム輸送艇 クステーシャなどを輸送する為の浮遊艇、長くの間動いていないラグム・デムと地上を結ぶ為の手段。

  稼働出来る物はごく僅かで、遊魔に割り当てられた格納庫に有った物は稼働不能であったが、百五十年前は稼働していた為に地上からマギガマイナーやクフィカールの残骸を運び込んでいる。

  中央船体の左右に小さな船体を連結させた三胴船体を持ち、上から見るとY字構造でもある、Y字の股の部分の扉から積荷を積み込む構造で、左右の船体は動力部で搭載スペースはない。

  見た目はユーマで建造されたウッド・ベアー級浮遊母艦とよく似ているが、大きさは半分以下である。

  三機のクステーシャを積み込む事が可能だが、整備用の設備は無くあくまで輸送目的の船である。

  ラグム・デムにはこの輸送艇が百隻以上存在する様だが、稼働可能な船体は片手の指の数程度である。

  一時ダインはこの輸送艇の再稼働も考えていたが、個人空間レイヤーに収納したクステーシャを展開させた方が効率的なのと、リデウムの対空砲火に対して脆弱なところを考慮して再生を見送っている。