007-005
レ・ミュウに連れ去られて混沌大陸に来たダインは、久しぶりの一人の時間を満喫していた。
レ・ミュウは魔進化の為に尻尾カプセルで眠っている為に、ダインは誰にも干渉されない状態なのだ。
ダイン思考 『随分と久しぶりの一人の時間ですね、レ・ミュウはまだまだ時間が掛かりそうですから、外を探検してみましょうか』
レ・ミュウの残した殻で休息したダインの体調は良いが問題も有った、そう腹が減っていたのだ、基本獲物を丸呑みにして食べるレ・ミュウの巣には食料など無く、巣の奥の寝所に生えていたキノコは尻尾で捕食して確かめた結果、毒は無かったが普通に不味かったのだ。
混沌大陸で活動を考えてダインは完全な魔族形態の姿に変容してレ・ミュウの巣穴から飛び立つ、レ・ミュウを残す事になるが尻尾カプセルは独自に強力な障壁を展開させており、魔龍クラスの力が無ければ先ず安全で有ろう。
一先ず、高度を上げたダインは初めて見る混沌大陸の風景をじっくりと見極める、そこは殆どが鬱蒼とした密林で、レ・ミュウの巣はそこにそびえ立った岩山の裂目の隙間の奥に有り、存在自体も上手く隠蔽されている。
ダイン思考 『あの場所なら先ず安全ですね、レ・ミュウも良い所に巣を作った様です、あと見渡す限り集落などは有りませんね』
視界に映る光景は人跡の無い未踏の密林で、知的生命体の痕跡は感じられない、ただ、空を飛ぶ大きな鳥の様な生物からは人類圏では感じる事無い魔力を感じ、もしかすると飛行する魔族なのかも知れない、そして、その飛行生物もダインの存在を感知したのか急速に近付いて来ている。
ダイン思考 『どうやらお互いを認識した様ですね、目測で見ると私より大きな様ですが、混沌の生き物とは好戦的なのでしょうか』
自分よりも大きな相手に対してダインはそれ程脅威を感じていない、耳長マギガントのクフィカールの障壁を参考にして展開されるダインの防御は、単純な物理攻撃に対して絶対的な効力を発揮する、そして接近しつつ有る相手はその魔力量から考えて魔術を駆使出来るとも思えない。
ダインの混沌大陸でのファーストコンタクトは正に混沌大陸の厳しさを体現する物だった、人類圏鳥類の基準を大きく超えるその生き物は目算で全長で3メートル、全幅なら10メートルは有る、巨大な猛禽類でダインの目前で鉤爪を開くと掴み掛かって来る。
接触の刹那、鉤爪は大きな障壁に阻まれて巨体ごと跳ね返されて落ちて行く、だが、巨大猛禽は態勢を整えて再び飛行状態に戻ると、再度攻撃の為に旋回を始める。
ダイン思考 『あちらも空腹なんでしょうか、サイズはともかく見た目は鳥ですから食べれるとは思いますが、猛禽料理って聞いた事有りませんね』
敵意を前にダインは呑気だった、今の一撃で相手の力量を見切り、敵の実力を見極めたのだ、そしてその興味は既にその先にあった。
旋回して態勢を整えた巨大猛禽は再びダインに襲い掛かる、対してダインは障壁の構造を変化させて、猛禽の襲来に備える。
そして再び攻撃だが、今回は猛禽は弾かれる事無く空中に捉えられる、ダインは障壁に粘土の様な柔軟性を与えて突撃して来た猛禽を障壁の中に埋め込んだのだ。
味わった事の無い不可解な事態に猛禽は暴れようとするが、身体中に絡み付いた障壁はその動き自体を封じてしまう。
そして、猛禽の頭上に移動したダインは、手刀の延長に魔力で巨大な刃を作り上げるとそれを降り下ろして、猛禽の首を切り落とす。
ダインは手際良くに猛禽を切断して行くがその行為はダイン也に慈悲を表した行為だ、苦しみを与えない為の行いと無駄に暴れさせて肉の味を落とさないのが目的だ。
こうして、首、足先、手羽先の可食部分の少ない部位を切り落としたダインは、残った胴体を切って、内臓を落とすとそのまま粘土障壁に包み込むと、一気に火球魔術を放つ。
これは言わば乞食鳥といった調理法に近く、地中に埋める代わりに障壁で包んで直接の加熱を防いで、中の肉を蒸し焼きにしているのだ。
この一連の行為に対して、混沌の生物達は完全に沈黙していた、猛禽が空の王者で辺りを威圧していたのか、ダインの存在自体に畏れを抱いたのかは分からないが、邪魔をしようとする存在など現れない。
そうして調理を終えたダインは、猛禽焼きを内包したままの障壁をそのまま移動させてレ・ミュウの巣穴へと戻る、空腹を充たせる料理が完成した以上、探索よりも食事を優先したのだ。
ダイン流巨大猛禽の蒸し焼きは悪くは無かったが物足りない料理であった、レ・ミュウに拐われたダインが調味料を持参しているわけもなく、塩味が不足していたのだ。
ダイン思考 『レ・ミュウが人の姿に未練を感じていたのがよく解りましたよ、やはり調味料を使った調理じゃ無いと物足りませんね』
大量に食べ残した猛禽焼きを前にダインは感想を口にする、傍らの尻尾カプセルの中のレ・ミュウはまだ魔進化の途中で、完全を期待する為に今までの魔進化より慎重に進めているのだ。
故にこれ以上残った猛禽焼きを食べてくれる者も無く、ダインはその余りの処理を考えていた。
ダイン思考 『保存の定番は塩漬け、干し肉、燻製ですが、ここは燻製しか有りませんね、燻製なら最悪ダシとして使えるかも』
捕食するからには、余さず食べるのがダインの流儀でも有る、可食部分の少ないところは切り落としたが、それは他の生物への施しでも有り、ダインの取り分はちゃんと食べて上げるつもりなのだ。
処理法を定めたダインは早速準備を始める、先ずは可食部分の選別を行ってから、燻製を作るのだ。
ダイン思考 『上空から海は見えませんでしたから、少なくとも100キロは内陸の様ですね、塩水でも手に入ればより美味しく食べて上げれるのに』
ダインは得られた情報を基に現状を推測するが、それが余り意味が無い事も知っている、ダインを此処に連れてきたレ・ミュウは既に遊魔へと堕ちており、レ・ミュウから聞いた方が早いのだ、だが、残った肉を処理する作業を感覚でこなしているダインの思考は自由で、色々な考えが駆け巡っている。
ダイン思考 『まぁ今後はレ・ミュウの情報次第でしょうか、この猛禽も魔獣というヤツの様ですが、私の魔力が増えたという感じは有りませんね、生で食べないと駄目なのか、そもそも遊魔には恩恵が無いのか・・・』
ダインは当然、食べる前に尻尾で解析している、巨大な猛禽類の身体は遊魔とは異なって、生物自体の細胞が魔法生物化している様で、ザキトス魔族とも異なった存在の様だ。
そして解析で判明したのは、魔獣細胞は本体の死亡、或いは加熱で魔力を失ってしまう様なのだ、つまり魔獣を生きたまま踊り喰いすれば遊魔でもザキトス魔族の様に魔力を得られる可能性もある。
ダイン思考 『流石にこのサイズの生物を踊り喰いには出来ませんよね・・・あ、尻尾なら出来ますか、ですが私は別に今以上の力など求めていませんし、私の力が変容するリスクも有りますから、魔獣はちゃんと加熱しましょう』
ダインは自分なりに結論を出した、実際、魔獣を捕食して生活していたであろうレ・ミュウがちゃんと魔進化を終えようとしている事を考えれば、杞憂なのかも知れないが。
それからもダインは黙々と作業を続け、レ・ミュウが残した殻の中に成果が積み上げられて行く、後は乾燥と燻煙だが、それには資材を調達する必要が有る。
ダイン思考 『また密林に出向きましょう、今度は高度を上げずに密林の中を移動しましょうか』
密林の中を移動といっても、ダインの取った行動は低速飛行だ、密林の地面にはどんな生物が生息しているか分からず、ダイン也に安全を考慮した結果だ。
そして、幹の太い大木を見つけ出すと、一部を採取して成分を解析して納得すると、切断魔術を駆使して板と角材に加工すると、今度は遊魔の鋭い爪でほぞ加工を行って行く、釘など作れない現状ではこのやり方が一番効率的だ、そして、超微細に振動する事で切れ味を上げる事が出来る遊魔の爪の前では木材はバターと変わらない。
結局ダインはこの場所で木製の棚を作り上げて、それを浮かばせてレ・ミュウの巣穴へと運び込むと、準備していた鳥肉を並べて魔術で熱風を起こして乾かす、要はドライアーで髪を乾かすイメージだ、実際にダインは燻製など作った事が無く、自ら考えて作業を行っており、味よりも保存性を追い求めている。
そして、干し肉の様な状態まで素材を変化させると、とりあえず一つ摘んで味を確かめてみる。
ダイン思考 『悪くは無いですね、いっそこのままで止めた方が無難かも知れません、正直私は燻製よりジャーキーの方が好きですし、それなりに食べれる物を台無しするリスクは避けるべきでしょう』
ダインは今後を考えてここで止める事にする、確かに燻製とは心惹かれる料理では有るが、燻す為には火を起こす必要が有り、新しい設備を作る必要もある、そして何よりもダインがこの作業に飽きて来ており、レ・ミュウの方もそろそろ再誕させても良い頃合いなのだ。
尻尾カプセルの前に戻ったダインは改めてレ・ミュウの裸体を鑑賞する、外見上の変化は腹部に現れた淫紋ぐらいだが、尻尾カプセルから伝わる情報ではレ・ミュウの肉体の遊魔化はほぼ完了しており、何時でも変容させる事が可能だ。
そしてダインは魔進化の仕上げとして、レ・ミュウ自らの意思で遊魔への変容を行って貰いたいと考えているのだ。
再誕の兆候を示す様に尻尾カプセルの下部から細かな気泡が浮かび上がる、レ・ミュウの口と鼻を覆う様なマスク状の触手が顔に装着され、レ・ミュウ覚醒の秒読みが始まる。
気泡が集まって出来た空気の層が尻尾カプセルの上部から下へと広がって行く、液体が尻尾カプセルから押し出されるに従って、尻尾カプセル下部に膨らみが出来て、遂にレ・ミュウの身体が液体より解放される、触手マスクは役目を終えレ・ミュウの顔から剥がれ落ちると、尻尾カプセル内部に温風が巻き起こり濡れたレ・ミュウの身体を乾かして行く。
そして、目一杯に膨らんだ尻尾カプセルの中央から亀裂が出来ると、蕾が開花する様に開いて、新たなダイン芸術が世に生まれ落ちる。
ダイン思考 『そういえば褐色肌の遊魔はレ・ミュウが初めてですね、ダーク、黒、いや闇耳長、略してヤミミは突然変異の希少種の様なので今後も生体の分析を継続しましょう、その為には他の個体も欲しいですね』
ダインの頭には既に次の作品への野心が芽生えている、だが、ダインが楽しみとするレ・ミュウの完成はまで終わっていないのだ。
レ・ミュウは薄目を開けて覚醒すると、すぐさま手を目の前に出して動かし、元の姿に戻った事を確認するとふらつく脚で立ち上がろうとするが体勢が崩れてしまう、ダインはそれに咄嗟に反応して素早い動きでレ・ミュウの身体を抱き抱えると、レ・ミュウはしっかりとダインに抱き付いてその温もり甘える。
ダイン 「ずっと魔龍の姿で過ごしていたので、人の身体を忘れてしまったのでしょう、ですが身体的な衰えは有りませんよね」
レ・ミュウ 「尻尾が無いのはこんなにも不自由なんですね、二本の脚で立つのがこんなにも難しいとは」
ダイン 「正に魔龍として過ごした者の感想ですね、実際、私も尻尾が有る方が楽ですから、足二本より尻尾を含めた三本で支えた方が安定しますからね・・・あれ、普通に話せてますね」
レ・ミュウ 「言葉の変化はミュウが耳長の頃から変わってない様です、人間も耳長の言葉で喋りますから」
ダイン 「昔はこの大陸にも人間が住んでいたんですか?」
レ・ミュウ 「ミュウが魔龍になる前は人間の国も有りましたよ、今でも魔獣の活動が控えめな北方地帯に幾つかの部族が残ってますね」
ダイン 「それは朗報ですね、寒いのは嫌いですが・・・」
レ・ミュウ 「彼等は国と呼べる勢力では無かったので、三種族協定の対象にならなかったんですよ、中央大陸の東方が耳長、西方が岩喰い、西方大陸が人間と定めて、東方大陸には入植しない取り決めです、ですが魔族の侵略で耳長は東方大陸へと逃げて、協定自体は無効になったと思います」
ダイン 「そんな話は初めて聞きましたが、あとリッポト湖の周辺に遺跡が有ると聞きましたが・・・」
レ・ミュウ 「その話は東方大陸の耳長達から聞いたのですよね、あの禁断の地の守護者として魔龍が産まれたと言われてます」
ダイン 「禁断の地ですか、禁じられると行ってみたくなりますね」
レ・ミュウ 「掟に忠実な魔龍はミュウよりも格段に強いですよ、ミュウは魔龍の変わり者ですから、本来なら岩喰いの土地を犯す事も禁じられてますが、魔獣の捕食で魔龍達もおかしくなってしまいました」
レ・ミュウの話はダインの知的好奇心を大いに刺激させた、だが、レ・ミュウの魔進化の完了がダインの最優先事項で、レ・ミュウから話を聞くのは魔進化を完了させてからだ。
おまけ
猛禽魔獣 厳密には魔鳥や怪鳥と言ったモノだが、混沌大陸に居るザキトスの影響で強靭化した生物は魔獣と言われている。
魔族は魔獣を丸ごと捕食する事で徐々に魔力が上がって行くが、魔獣は屍であっても食べる事によって魔力が上昇していく、言わば魔力の生物濃縮で混沌大陸の魔力はほぼ失われる事無く魔獣に回収されていく、よって長寿の魔獣ほど多くの魔力を蓄えている。
また魔獣には寿命というモノが存在しない様で老衰で死ぬ事は無い、その為、機動力と空という安全圏を持つ猛禽類は強力な魔獣として成長する事が多い。
実際、ダインと対峙した猛禽魔獣は魔龍レ・ミュウを除いた中で密林最強とも言える存在であった、もっとも猛禽魔獣は複数体存在する為に最強の一匹が死亡したところで狂った生態系が変わる事はない。