展開編 第三十一話 法の外にある島

  005-031

  ティアスが一人でビグ・ユーマを訪問してから数時間後、ようやくダインが下船する時が来た様だ。

  それなりの対価を払って入場したククージアの民衆達は長時間の待機でもほとんど離脱する事なく、ユーマ国王の姿を待ち望んでいたのだ。

  タラップから降りるダインは馴れない歓声に応える様に右手を上げると、更に歓声が大きくなる、実際には歓声というよりも黄色い声の方が大きいぐらいなのだが、当のダインはその声に委縮気味だ、ティアスにはそれが不思議に思えたので問い掛けてみる。

  ティアス 「別に民に警戒する必要など無いですよね、その姿はダイン様らしく有りませんよ」

  ダイン 「王族のティアスと違って、私は人前に晒される事が苦手なんです、それにあの声、私はキャーキャー言われる様な見た目じゃ有りませんし、むしろそうゆう存在を毛嫌いしてましたからね」

  ティアス 「ダイン様の世界の事は解りませんが此処じゃ当然の反応ですよ、ダイン様の妻に成れたティアスはククジアで一番の幸せ者だと言われてます、フェカトやプルルとも比べられますが、ククジアの王位を得た事でティアスが一番なんですよ」

  ダイン 「国民からもそう思われているとは良い事ですね、私と寄り添う事が幸せの定義となるとはとても素晴らしい事です」

  ティアス 「ですからもっと堂々と応えて上げて下さい」

  ダイン 「本当にキャーキャー言われるのは苦手なんですよ、私は見た目よりも中身ですから」

  結局ダインは照れ臭そうに闘技場を後にしてククジア王宮に入る、複雑な王宮の通路を歩いて最上階へ登ると、そのフロアは既にティアスの為の空間としての装飾が施されている。

  そして奥まった所に有る一室へと辿り着くと部屋の中にはルーフィンとリレッタの姿が有った。

  ダイン 「久しぶりですね、何でも早急に話したい事が有るという事でしたが」

  ルーフィン 「はい、これはククジア全体に、いや、人類圏全てに関わる事だと思いましたので、ククージアで話すのが良いと思いました」

  ティアス 「そんな重大事何ですか、クガトはレボトが去って安定してきたんですよね」

  リレッタ 「そのレボトを追跡して重大な事が判明しました、魔術クガトの勢力は人類圏ではなくレブナン島に存在している様なんです、そしてルゥが魔族だという事が露見している様なんですよ」

  レブナン島とは、クガト領と混沌大陸を結ぶ海路の途中に有る島で、混沌大陸への玄関口ともされる島だ。

  流刑地への橋渡しを行っている為に、詳細な情報はククジアにも伝わってはいなかったが、どうやら人類圏の小国に匹敵する国力を有している様なのだ。

  ダイン 「悪事が明るみになる前に逃げたと思っていましたが、レブナン島とは知られざる力を隠していたわけですか」

  リレッタ 「その様です、人類圏のヤバい魔術士は大抵混沌大陸に流されているんですが、どうやらレブナン島で庇護されていた様です、元々あの島はザキトス魔族の支配下に置かれていた島だったんですが、クガトが実力で制圧したと言われてます、魔族を退けられる魔術士というだけでも相当な実力が有った筈です」

  ダイン 「そこに人類圏を追放された、狂人達が集まった訳ですか・・・手強そうですね、ですがどうしてルゥが魔族だとバレたんですか?」

  ルーフィン 「それが、レブナン島はザキトス魔族とも通じている様なんです、いや、混沌大陸勢力と言った方がいいかも、そして人類圏自体を欺いていた様です、密偵によるとクガトのザキトス封印が暴かれた事で魔族の枷が解かれた様なんですよ」

  ダイン 「ザキトス意識の消失で制約が無くなったわけですか、私が居なくなった遊魔の様なモノでしょうか?」

  ルーフィン 「ルゥには自分の乳魔眷属との繋がりしか解らないけど、ザキトスにも眷属との繋がりが有った様なんです、それがザキトス意識が消失した事で個々の魔族がより自由になったんじゃ無いですかね」

  ダイン 「それで魔王の代替わりが解ったと、それでどういった対応を取るべきでしょうか?」

  ルーフィン 「話し合いか制圧の二択ですよね、虐殺はダイン様の好みじゃ無いから」

  リレッタ 「それが現実的です、ですがレブナン島は人類法が及ばない無法地帯ですから、協定戦が有効じゃ有りません」

  ティアス 「そもそも魔術を駆使する未知の勢力なんですよね、武力が有効なんでしょうか?」

  ダイン 「相手を見極めるだけの時間が有るんでしょうか、ルゥが魔族だとバレると人類圏は確実に混乱しますね、そしてルゥの正体が漏れてしまえばユーマに疑いの目が向けられるのは避けられないでしょう、ユーマが魔族だと仮定したら全ての辻褄が合ってしまいますから」

  ティアス 「なら、最大戦力を使った恫喝外交ですよね、ダイン様の好みから外れても何とかする必要が生じる可能性も高いです」

  ルーフィン 「実際そうだと思いますよ魔術士は解らないけど、ザキトス魔族は力で物事を解決させるから、この本質は三百年経っても変わって無いと思います」

  ダイン 「東方遠征を前にして、総力戦を要求されるとは・・・いっその事状況を上手く利用してみましょうか?」

  ティアス 「何か良い方法が有るんですか?」

  ダイン 「耳長魔龍にレブナン島を襲わせるんですよ、ユーマが魔龍の力を手に入れている事はバレていませんよね、魔龍の脅威をここでアピールしておけば、遊魔の存在がバレたとしても、人類圏では魔龍に対抗出来る遊魔を頼るしか有りませんよね」

  ルーフィン 「流石魔王ダイン嫌らしい作戦を考えますね、マギガント主力で攻めるよりも労力も掛からないやり方です」

  ダイン 「そこで作戦立案の為にもお願いしていた地図は有りますか、出来ればこの人類大陸から混沌大陸迄でレブナン島の位置と大きさが解る様な物が欲しいですね」

  リレッタ 「ちゃんと用意してます、人類大陸から混沌大陸への海図でちゃんとレブナンも記されてます、あと古い時代のレブナン島地図も有りますが、レボトの船団の規模から考えて、港はもっと拡張されてますね、島自体の大きさは変わらないと思いますけど」

  ダイン 「縦25里横20里の大きさですか、100キロ80キロですからかなり大きな島ですね、Cの字の様な形状で窪みがちょうど湾になっている訳ですか」

  リレッタ 「はい、あとこちらが島の概要を纏めた書類です、特筆すべきは岩喰いが居住しているという事ですね、ザキトス魔族は島に先住していた岩喰いと敵対していて、その岩喰い達との同盟が上手く機能して島の統治が可能になったとされてます」

  ダインはリレッタから渡された資料を軽く一読すると、感想を口にする。

  ダイン 「島全体に坑道ですか、確かに岩喰いを味方にしないと掌握は難しそうですね、地下に隠れてゲリラ戦を展開されたら気が休まりませんよ、ですが島中に坑道が有るという事はレブナン島には貴重な鉱石でも有ったんですかね」

  リレッタ 「解りません、ですが岩喰いは宝飾の美しい鎧で自らを飾るのが文化の様で、死後その鎧が墓になる様です、独特の文化ですよね」

  ティアス 「遊魔も変わらないと思いますよ、ダイン様の芸術表現が私達ですから」

  ダイン 「私もそう思います、岩喰いの生は限られているので鎧を残すんですよ、そう言えば黎明期のマギガントに装飾に凝った物が有りましたよね」

  リレッタ 「絵図鑑に有ったやつですね、確かにあのマギガントの鎧は一級の職人の仕事だと思います、レブナン島を制圧した後の機体ですからアレが岩喰いの仕事なのかもしれません」

  ダイン 「しかし、坑道の張り巡らされた島に秘密の魔術組織ですか、ユーマ以上に怪しいところですね」

  リレッタ 「レブナン島には混沌大陸の偵察の為の基地があって、ザガルバ三機にフーティア二機の戦力を配備されています、レボトが逃げた理由はその戦力での復権だと思っていましたが、どうやらそれだけでは無さそうです」

  ダイン 「ザガルバですか、あれは移動に便利ですから手に入れたいですね、ですが完全制圧するのも時間が掛かりそうですね、戦闘を目的とした対人戦力はユーマには有りませんからね、もっとも遊魔自体が強いですがね」

  ティアス 「ククジアだってそうですよ、人類圏はそういう戦力の維持が無駄だって事で争いが協定戦になりましたから」

  ルーフィン 「魔王が二人も居て小さな島も手に入れられないとは、でも耳長って人類法とは無関係ですよね」

  ダイン 「確かに彼女達は対人戦にも優れてますが、魔進化したのは17人です、とてもレブナン島を制圧出来る戦力じゃ有りませんよ、それに坑道の理は知る方が圧倒的に優位ですから」

  リレッタ 「取り敢えずはレブナン島の飛行可能な戦力を奪取するだけで十分だと思います、混沌大陸の情報がこちらに入らない以上は飛行型マギガント五機は脅威でしか有りませんから」

  ダイン 「なら、潜入部隊を送り込みましょうか、私が潜入して現地で遊魔を生み出せばマギガントの奪取は容易でしょう、それに耳長は生存術に長けていますからね」

  ルーフィン 「ダイン君が耳長連れて直に乗り込んですか、どんなところか解らないんですよ」

  ダイン 「潜入作戦で浮遊母艦やマギガントは使えないでしょう、どちらも使わずに戦力を維持するには耳長は欠かせません、家に潜んだ鼠は駆除し難いモノです」

  ティアス 「猫を飼ってる可能性も有りますよ、何せ敵はティアスも知らない魔術士です」

  ダイン 「なら鼠の魔術士を増やせば良いだけです、魔力を使う以上は純粋魔力の優位が絶対に存在します、つまり私の好みの魔術士も必ず居るという事です」

  ティアス 「でもダイン様が敵地に乗り込むなんて不安ですよ」

  ルーフィン 「確かに案内役ぐらいは必要ですよね、レブナン島に潜入させてる娘に目ぼしい人材を当たらせてみます」

  フェカト 「クガト領内にレブナン島に詳しい魔術士は居ないんでしょうか、そういう娘を見つけ出した方が安全性が高いと思います」

  ダイン 「なら、ディアーナに尋ねてみましょう、ディアーナは魔術クガトに関わりが有りますから、そこから手繰れば適材が見つかるかもしれません、先導役が見つかれば直ぐに行動を開始します、それまでにルゥの正体が人類圏に露見しても何とかなる対策も考えましょう、魔族でも人類法に従っているなら居住を認められますから、国民意識から魔族への忌諱を弱める必要が有りますね」

  ティアス 「いっその事、遊魔を公表するのはどうですか、ユーマの技術で人類圏の変革が始まっているのは確かですから、それにティアスとヒューリが遊魔だと言ってしまえば大抵の国は口出し出来ませんよ」

  フェカト 「時期尚早です、ティアスもヒューリもまだ結果は出せていませんよね、ダイン様の正体がバレても大丈夫な気もしますが、連鎖的に遊魔である事がバレてしまいます」

  ダイン 「いずれにせよ、私がレブナン島に潜入して遊魔勢力に取り込んだ方が事が上手く運びます、東方遠征も控えてますから忙しいですね」

  ダインの方針決定がなされたからには遊魔は全力でそれに付き従うだけだ、現状直ぐにルーフィンの正体がバラされる危険性もあるが、少しでも気構えがある方が対応もしやすい。

  今でこそダインは後方で遊魔達に護られているが、七実と二人で日本に居た頃は敵対するイレイサーだった真夏とファービを欺いて自勢力に取り込んだ実績もあるのだ。

  そして、ダインの持つ直感はダイン最大の武器とも言えるモノで、ダインが見初めた女性は確実に遊魔の発展に貢献している、その意味ではダインが直接敵地に乗り込んで狩をした方がより良い人材が得られる事は間違いない。

  おまけ

  レブナン島 混沌大陸の西に位置する島、人類圏流刑者を混沌大陸へと送る中継地点でもあるが、実際は人類法が及ばない事をいい事に非合法な活動が行われているとも言われている。

  俗に言う魔術クガトの本拠地ともされ、人類圏を追放された異端魔術士を匿ってよからぬ魔術研究を行っているとの噂もある。

  かつては亜人大陸侵攻を行うザキトス魔族に支配されていたが、魔術クガトが多大な犠牲を払って手に入れたとも、ザキトス魔族との間に秘密協定が有るとも色々噂がある。

  また、大陸種族の岩喰いが居住しており、クガトが手にしていた魔鋼加工技術は岩喰いから伝授された物であるという憶測もなされている。

  ククジア王位選定戦に敗北した前クガト家当主であるレボト・クガトが逃亡している事から、レブナン島にはククジア本国も知らない力が隠されていると推測されている。

  ダインの依頼を受けたルーフィンが調査を進めていたが、潜入していた乳魔の一人が行方不明になるという不測の事態が発生しており、乳魔の存在が露見したのではと危機感を強めている。

  この事態に対してダインは自ら乗り込んで掌握する意志を表明しており、道先案内人となる島に詳しく処女の美形魔術士を探し出そうとしている。