展開編 第十八話 大国エゴナ

  005-018

  ダインは今、テガスから随分離れた人類圏の大国、エゴナ王国の王都ペナンに居た、フェカトの提案した死蔵マギガントリサイクル計画の打ち合わせのためだ。

  ダイン 「ユーマ側としてはより不確実性を出す為にこちらの出場騎士をくじで決めたいと思っています、全部で五十人程集めてますし、力量も様々で楽しめると思います、実は私の名前の入れているんですよ」

  脇に控えたフェカトが上に穴の空いた箱を振るとガサガサと紙が擦れる音がしている。

  今回ダインがエゴナでの開催を一番に選んだのは、ユーマの興業試合が新国王就任のお祝いの一環として打診を受けたからだ、大国の新国王の就任式には他国の要人の参加も多く、新たな事業のアピールには好都合だ。

  担当官 「ダイン王自身が戦う事もあり得るんですか?」

  フェカト 「勿論です、王自らが民を楽しませるのがユーマの在り方です、最もくじという運に選ばれてこそですが」

  担当官 「なら、こちらも新王にくじを引いて貰いましょう、私ごときが引いていいものでも有りませんよ」

  ダイン 「それは即ち新国王との対面が叶うという事ですね」

  実はエゴナの新国王は未だ公にはされていない、派手なお披露目式を行って、国民にインパクトを与える意図も有るのだ。

  担当官 「ダイン王は自ら赴いて誠意を示して頂けましたから、新王も実は面会を望んでおりますし」

  その後、お茶と菓子が出されてしばらく待たされると、応接室も扉がノックされる、担当官が声を返すと扉が開かれて屈強な大男が姿を表す。

  屈強な大男 「ヒューリ様、ご来室なされました」

  大男はそう言ったが、そのヒューリ様の姿が見当たらない、男の体格が良過ぎて後ろに居る人物を多い隠してしまっているのだ。

  そして、ヒューリという名前にフェカトは心当たりがある様で、意味深なウィンクをダインに行う。

  か細い声 「あの、ディジンが大きくて私がわからないと思います」

  ディジン 「これは失礼しました、直ぐの退きますので」

  そう言って大男が下がると、耳長と対して大きさが余り変わらない少女が前に進み出て来る。

  ヒューリ 「私が次期エゴナ王国のヒューリです、ダイン王にはわざわざお越し頂いたのに、お待たせして申し訳無く思います」

  フェカト 「まさかとは思いましたが、あのヒューリ様がエゴナの次期女王に選ばれていたなんて」

  ヒューリ 「運命とは解らないものですね、フェカトの活躍は私の耳にも入って良い励みになりました、今日は久しぶりに会えると思っていたんですが、ダイン王までお越しになるなんて」

  ダイン 「ご無礼とは思いましたが私が居た方が早く纏まると思いましたので、ですがエゴナの国を混乱させてしまった様で申し訳ありません」

  ヒューリ 「話には聞いておりましたが、浮遊母艦とは恐ろしい物ですね、あんなに巨大な物が空を飛ぶなんて、ツェーリアがその威容で降るのも解ります」

  ダイン 「威圧するつもりは無かったのですが、お詫びしますヒューリ様にも苦労をさせた様で」

  ダインはヒューリの髪がまだ湿っぽいのと身体から漂う石鹸の香りで、ヒューリが浴をした後なのを理解していた、それは多分、ビグ・ユーマの登場で逃げ回った結果の処理の為だろう。

  ヒューリ 「いえ、周りが過剰に反応してしまっただけです、ユーマからの来訪が有る事自体は伺ってましたので」

  フェカト 「お互いに頭を下げても話は進みませんからね、ダイン王もヒューリ様もお忙しい方ですから、早速今後の話を進めましょう」

  ヒューリ 「そうですね、私のお披露目を盛り上げて下さる為にお越し頂いたのですから」

  ダイン 「ユーマ側が訪れる形で行われる三戦の協定戦ですが、出場する騎士をくじで選出するつもりです、ですが一人ぐらいはご希望を叶えますよ、実は対戦騎士の中には耳長の騎士もいるんですよ」

  ヒューリは少し驚いた顔をして、言葉を返す。

  ヒューリ 「既に耳長ともそこまで交流を行っているとは、ユーマの外交はとても柔軟ですね」

  ダイン 「小国ですから、意見の合意などが必要無いんですよ、今日も私の我儘でやって来ましたし」

  ヒューリ 「ダイン王は本当に気さくな方ですね、なら無理を承知でお願いしますが、ダイン王自身に戦って貰えないでしょうか?」

  ヒューリのお願いに、エゴナ側の人間は複雑な顔をしている、ダインが出る以上は形式的に敗北させる訳には行かないのだ。

  ダイン 「良いですね、ならヒューリ様にお相手して頂きましょうか?」

  この返しにディジンなどは怒りが隠せない様だ、たかが小国の国王が大国エゴナの新王に戦いを挑むなど、非常識極まりない。

  ヒューリ 「ダイン王は私が騎士で有る事をお解りなのですね、ですが私などマギガントを扱えるだけで戦う事など不可能ですよ」

  ダイン 「別に剣を交えずとも戦える方法は有りますよ、エゴナの騎士は弓術に長けると聞き及んでいますから、的の射抜き勝負などはどうでしょう?」

  ヒューリ 「確かにその勝負なら私にも出来そうですね、でもダイン王も弓を使って頂けるのですよね、ククジア選定戦で使った銃という武器を使われては勝ち目は無いでしょうから」

  ここでいう弓術勝負とは長弓での勝負ではなく弩弓による勝負で有る、マギガントで長弓を扱えるのは上級機やクフィカールぐらいで、弓を使った協定戦などは行われる事はない、ただ、エゴナには弩弓を使って的を射抜く神事が有るので、ダインはそれを提案したのだ、何故なら神事を行うのは王族の処女と言われており、騎士で有るヒューリにはその経験が有ると予測したからだ。

  ダイン 「もちろんその様な無粋な事はしませんよ、正真正銘の弩弓による勝負です、私は自分が不利な戦いの方がやる気が起きるんですよ」

  ヒューリ 「なら、私自らお相手しましょう、王に王が対するのはおかしな事では有りませんし」

  こうして、当事者同士によって決められた戦いはあっさりとまとまってしまい、残る二人の参加騎士を決めるくじをヒューリが引く事になった。

  テーブルの上に置かれたくじ箱をフェカトがかき回すとヒューリの手前に置き、ディジンに目を配せて頷いたヒューリが恐る恐る手を入れる。

  ダイン 「私のくじを引いたなら引き直して下さい、ユーマの騎士達になるべく多くの実戦を経験してもらいたいので」

  ヒューリ 「解りました、でも本当にダイン王のくじを引いてしまったら運命的なモノを感じちゃいそうです」

  ヒューリが冗談を言いながら、一枚引いて紙を拡げて見せてから読み上げる。

  ヒューリ 「耳長騎士のルルティと書いて有ります」

  フェカト 「ルルティは今テガスに滞在している騎士ですね、腕前の事までは解りませんが、強そうな騎士ですよ」

  ダイン 「耳長の騎士は人類圏の騎士よりやり手だと思います、クフィカールを扱えるだけでも優れた騎士ですからね」

  ヒューリ 「ならこちら側の対戦相手は慎重に選ばないと行けませんね、そして次はどうでしょう」

  ヒューリがまたくじ箱に手を入れて、一枚引き出すと文字を読んで驚きの声を上げる。

  ヒューリ 「本当にダイン王を引き当ててしまいました、やはり繋がり合う縁があるのかも」

  実際のところ、ダインはくじに細工をしている、だが、細工と言っても魔力を込めただけで、ヒューリがそれに何かを感じて引き当てたのなら、実際に魔力の相性が良いという証拠なのだ。

  実際に似たよう方法で選ばれたテガス魔道力学院の生徒達は魔進化との相性が良い様で、魔力の増幅率が特に高い。

  ダイン 「はは、大国の女王を二人も娶ってしまうかもしれませんね」

  ダインの軽い冗談にディジンなどは今にも殴り掛かりそうな程の殺気を放っているが、ダインは全くもって普段通りで逆にディジンを困惑させる結果となった。

  そして、そのやり取りを間近で体感したヒューリは更にダインへの興味を更に深めてしまうのだった。

  ヒューリ 「なるほど、ティアス王女が惚れ込む理由も解ります、ディジンの怒気に当てられてもこうも平然に構えておられるとは」

  フェカト 「ヒューリ様もお人が悪いですね、この様な事でダイン王を試されるとは」

  ヒューリ 「今のところ、私が次期国王となってはいますが、それを覆そうとする者はまだまだ存在しています、ディジンが過剰に反応してしまうのも容赦して下さい」

  ダイン 「エゴナの内情も難しいのですね、その様な時に来てしまって申し訳有りません」

  ヒューリ 「いや、ダイン王が自らお越しになって、私と対戦の約束をしてくれた事を有り難く思います、ククジアの後ろ盾の有るダイン王の機嫌を損ねる事を躊躇する人間は少なく有りませんから」

  ダイン 「可愛い方のお役に立てるのなら何よりです、王が美しい女性の方が私は嬉しいですからね」

  ヒューリ 「そんな事を面と向かって言う方は初めてです」

  ダイン 「私は高貴な生まれでは有りませんから、言わば実力で一国を作り上げた成り上がりですが、まだまだ野望も尽きてはいませんよ」

  ヒューリ 「本当に面白い方です、ですがエゴナにはお手柔らかにお願いしますね」

  フェカト 「それはヒューリ様次第だと思います、ダイン王は共に楽しめる者に対しては協力を惜しみません、何だかんだでお人好しなんですよ」

  ヒューリ 「妻の一人とは聞き及んでますが、その様な事を言ってもよろしいんですか?」

  ダイン 「夫への悪口も重要なコミュニュケーションです、悪口も言えない間柄など親しいとは言えません」

  ヒューリ 「手厳しい言葉です、私にその様な間柄の者が居るでしょうか?」

  フェカト 「ダイン王の考えが特別なだけだと思います、ですがそれで耳長をも取り込んでしまったのですよ」

  ヒューリ 「耳長と言えば、三人目のくじを引かないと行けませんね、他にどの様な騎士がいるのか楽しみです」

  そう言ってヒューリはくじ箱に手を入れると、一枚引いて開いて見せる。

  ヒューリ 「今後は学院生ピピカと有りますね、どういった方なのですか」

  ダイン 「文字通りのテガスの学院生です、ユーマ騎士団への入団を希望する者で、勝てば入団を正式に認めます」

  ヒューリ 「その様な方まで候補の騎士だったとは、ユーマの考えには驚かされます」

  ダイン 「強い騎士ばかり出て貰っても、ユーマ騎士団の利益には成りませんから、確かに上位の三名が出場すれば勝率は上がるでしょうが経験は人を大きく成長させますからね、耳長の騎士達もそう言って口説いたんですよ」

  ヒューリ 「なるほど参考になります、ですが、私も加減するつもりは有りませんよ、エゴナの騎士の選りすぐりを選ぶつもりです」

  ダイン 「それで結構です、ですがこちらも騎士は学院生ですが、機体はユーマ騎士団の正式機体です」

  ヒューリ 「ダイン王もユーマ騎士団の機体なのでしょうか?」

  ダイン 「それは解りませんね、色々試してみて勝てる機体を選ぶつもりです、納得出来なければ改良するかも知れませんし」

  ヒューリ 「ダイン王は何をなさるか解らないお方に様ですね、私も戦いを楽しみにしております」

  ダイン 「歴史に残る様な戦いをしたいモノですね、ヒューリ様の可憐な活躍は皆が望んでいるでしょうから」

  ヒューリ 「どうでしょう、ですがダイン王に認めて貰う為にも無様な事は出来ませんね」

  ダインはこの可憐なる次期女王がえらく気に入った様だ、最近はよく同じ様な体型をした耳長達を魔進化させているのだが、耳長は誰もが魔龍型遊魔になってしまうので変なストレスが溜まって来ているのも理由として有る。

  ヒューリを担ぎ上げた勢力もユーマを利用しようとする腹積りであり、この少女は傀儡として一番都合の良い存在だったのだ、そして、主体性に欠けるヒューリは思うがままに生きて成功しているダインに強く惹かれており、穏やかな農業大国で有ったエゴナ王国に予想外の波乱が訪れようとしていた。

  おまけ

  エゴナ王国 人類大陸三大国の内の一つ、軍事力に疎い農業国で豪農でも有る有力貴族が国家の運営を行っている、王国という形では有るが厳密には女王国で女王は豊穣の巫女の役割を担っており、数年で代替わりする為に権力を伴っていない。

  だが、名目上の国家元首は王で有り、国民は女王が実権を伴っていない事など全く知らない、女王は豊作祈願の為の祭事が主な仕事で、近年ではマギガントを用いた大規模な祭事が増えており、女王に優れた騎士の資質が求められている。

  人類大陸の流通穀物の七割以上がエゴナ王国産でも有り、人類圏の食料流通に大きな影響力を持っているのだが、人類圏国家の全てが食糧自給を達成している為に大きな強みでは無い。

  エゴナ内部では自国影響力拡大の為の方策が議論されており、ユーマの持つ異世界料理技術に活路を見出そうとする勢力が接触を試みている。