005-002
報告を受けたダインはそのままフォティーヌを伴って、新工房内に作られたムジカ研究室に脚を運んでいた。
ムジカは今、ユーマの技術開発で頭角を現してきており、それ故にダインに一番近いとも言える場所に居場所を得ているのだ。
ムジカもダイン同様に薄暗い場所が好みで、ダイン達が訪れた時もその来訪に気付かずにゆったりとしたソファーの前の長机に置かれた多量の資料を読み漁っていた。
ダイン 「少しよろしいでしょうか、この間の計画が実現するかもしれません」
ダインの呼び掛けに現実に戻されたムジカは言葉を返す。
ムジカ 「え、ダイン様、この間と言っても該当する案件はたくさん有りますよね」
ダイン 「そうなんですがフォティーヌを伴っている事で推理出来ませんか?」
ムジカ 「耳長に関係するなら、クフィカール関係ですね、結論からいうとコピーは可能ですが時間が掛かりますね、部品一つ一つが手作業で作られてますから、同じ機体ですが個体調整がシビアに行われてますので、ゾッフォの様にはいきませんね」
ダイン 「残念ながらそれじゃ無いんですよ、それにユーマの主力となる上級機にはジノ・ジーカをベースに改良を加えると言ったじゃ無いですか、魔鋼練度の優位があるのでクフィカールに対抗出来るとの見積もりでしたよね」
ムジカ 「でも弄ると色々と参考にしたい事が見つかって、図面に描いちゃうんですよ」
ダイン 「楽しんでいるのは良い事ですが、ムジカには大役を任せるかも知れません、浮遊母艦工房を一から作ってみませんか?」
ダインの言葉にムジカの眼の色が変わる、実はムジカはクガト出身でクガトへの浮遊母艦工房の建設をダインに陳情していたりする、だが、フォティーヌの存在を認識したムジカはその予測に違和感を覚えた。
ムジカ 「クガトと耳長って、何か深い繋がりが有るんでしょうか?」
ダイン 「残念ながらクガトは全く関係有りません、ムジカにお願いしたいのは東方大陸での浮遊母艦建造です」
ムジカ 「え、予想外過ぎる言葉です、耳長とはそこまで話が進んでいたんですか?」
ダイン 「いや、こちらから提案する段階です、ですがより具体的な提案をする方が良いに決まってますよね」
ムジカ 「確かに浮遊母艦の工房建設はやってみたいですけど、いきなり東方大陸だなんて」
ダイン 「それについてはムジカが一番適任なんですよ、ムジカは私の愛を必要としてませんから」
その言葉にムジカは異論が有る様で、直ぐにダインに反論する。
ムジカ 「それは違います、ムジカは肉体的な交わりよりも、発想の交わりでダイン様の愛を感じているんです、ムジカとダイン様の考えが交わってより良い物が作られるんですよ」
ダイン 「他の娘には無い独特の思考ですね、意味は十分に理解出来ますが」
ムジカ 「思考の交わりこそ、ムジカにとって一番ダイン様を感じる方法なんですよ、それが他の娘に理解されないのは残念ですが、ムジカが満足する事が一番なんですよね」
ダイン 「正しくそこを見込んでのお願いです、ムジカなら東方でも私の意図を汲んだ行動が行えますよね」
ムジカ 「勿論です、ダイン様のお言葉さえ有れば何処に居ようと遊魔にとっての最善を導き出してみます」
ダインはムジカの言葉を疑っていない、ムジカという存在は勉強熱心でダインの漠然な思い付きでも実現の為の道筋をちゃんと立ててくれる頼れる存在なのだ。
ダイン 「では、計画をまとめてみて下さい、実際の物資の量など不確定の要素は有りますが、建造するのはククージアでの三番艦に準じて下さい」
ムジカ 「はい、コア技術はここで製作して、時間の掛かる船体の組み上げが現地という事ですね」
ダイン 「東方大陸へ浮遊母艦でも往復七日程度の時間が掛かるそうです、最大の問題は燃料ですかね」
ムジカ 「輸送前提の浮遊母艦の完成はまだ先ですからね、速度は現用の七割試算ですが稼働が魔力だけなので、航続距離は無限に近いですね、この点を考慮すると魔導ジェットに意味は有るんでしょうか?」
ダイン 「ムジカはアーグル人ですから、移動速度の感覚が乏しいんですよ、日本人は特に時間に縛られている文化ですからね、特に私はリアタイ視聴派でしたから」
ムジカ 「全く解らない言葉が出て来ました、リアタイシチョウって時間関係の事ですよね」
ダイン 「そこは深く考えなくて良いです、要は敵に攻められた時の援軍は早い方がいいって話なんですが、人類圏で敵に攻められるという事自体が無いですからね、人類法成立後に初めて奇襲されたのがツェーリアだと言われてますし」
フォティーヌ 「耳長がユーマの可能性を見出したのもそれですね、マギガントを三機運べるという事は三機修理出来るという事ですから、中央大陸への進出には重要です」
ダイン 「耳長の方が現代戦の感覚が通じますね、ですが中央大陸でザキトス魔族や魔龍との交戦は行っていないのですよね」
フォティーヌ 「魔族は空飛ぶクフィカールに攻撃出来ませんし、魔龍に襲われたという報告も有りません、魔族と魔龍の戦いは目撃されてますけど」
ダイン 「飛ぶ物が襲われないからこその浮遊母艦ですか、ですが魔龍も大きな飛行物体に変な興味を持つんじゃ無いですか、私なら気になりますけど」
ムジカ 「当然ですよね、でも人類圏のマギガントも襲われたという話は有りませんね」
フォティーヌ 「マギガントは見慣れてるのかも知れません、ところで、さっきの移動速度の話なんですが、今より早い、具体的には魔龍が追いつけない速さの浮遊母艦は作れるのでしょうか、それが有れば中央大陸の奪還も現実味を帯びてくるんですが」
ダイン 「それにはまず魔龍の飛行速度が分からないと行けませんね、魔導レーダーの探知距離を拡大させて情報を収集するのが手っ取り早いですか、偵察用マギガントへの搭載を考えてみましょうか」
フォティーヌ 「何だか解らない事ばかりです、でもダイン様に任せると不思議と上手く行きそうです」
ムジカ 「半年も経たずに建国を成し遂げて、大国の次期女王と婚姻してますからね、その上やってる事は凄すぎて凡人には理解不能なんですよ」
ダイン 「ムジカはアーグル人で一番の私の理解者だと思いますけど」
ムジカ 「どうでしょう、それは一定の分野だけでね、魔進化とか全然解りませんし」
ダイン 「アレは私以外には理解出来ないと思います、性別の違いが重要なんですよ」
ムジカ 「でも魔王ルゥは女性ですよね?」
フォティーヌ 「え、魔王なんているんですか、今初めて聞きましたけど」
余りにも意外な言葉にフォティーヌも会話に割って入る、故国を魔王ザキトスの侵攻で奪われた耳長には無視出来ない言葉で有るのだ。
ダイン 「私だって魔王ですよ、まぁ私もルゥも話せる魔王なのでザキトス程の脅威は無いでしょう、それと魔進化に関してはルゥのヤツは増殖で私のは創造です、一見同じ様に見えますけどルゥは自身と同じタイプしか生み出せ無いんですよ」
フォティーヌ 「ダイン様がそういうなら信じます」
ムジカ 「でも上の姉様達は獣人系ばかりですよね、最近は魔族型が多い様ですが」
ダイン 「耳長は魔族型で産み出したつもりが魔龍になりましたけど、そういえばフォティーヌに頼んでいた物は見つかりましたか?」
フォティーヌ 「魔龍の一部でしたよね、一応持って来ました、牙とか加工した装飾品とか一族の勇気を示す物ですから」
ダイン 「魔龍を狩った耳長がいるんですか?」
フォティーヌ 「遺骸を見付けて持ち帰った物ですが、魔龍の住まう領域に行くだけでも大冒険だったそうです、それが魔獣で更に難しくなってるんですよ」
ムジカ 「私はクガトの混沌探索の話も聴いてますが、魔龍なんて話は聞いた事も無かったです」
フォティーヌ 「クガトの探索ではリッポト湖まで範囲に入っていませんよね、魔龍の生息域はリッポト湖周辺の肥沃な草原地帯で草食動物が多く繁殖しているんですが、魔龍が出るのでその生息域に耳長の集落は有りません、元々リッポト湖より西は岩喰いの土地だという取り決めも有ったそうです」
ダイン 「地図に有った大きな湖の事ですね、地図が正しいならククジア全土よりも大きいですね」
フォティーヌ 「はい、魔龍の生息域なので国家など有りませんが、リッポト湖の沿岸部には古代遺跡が有るんですよ」
フォティーヌの言葉にダインの目が輝く、アーグル世界の技術に関心の有るダインは耳長の話を纏めた結論として、中央大陸の古代超文明の存在を確信していたのだ、そしてその手掛かりとなる情報を与えられた事に珍しく興奮している。
ダイン 「古代遺跡ですか、まさにロマンの塊だとも言える言葉です、是非とも私自ら赴いて探索したいものです」
フォティーヌ 「ならその目的の為にも魔龍をどうにかしないと行けませんね」
ダイン 「まぁ利害が一致している関係が一番信用出来ますから、ですが耳長は一枚岩でも無さそうですが・・・幹母という人物は中央大陸の奪還を望んでいないのでは?」
フォティーヌ 「その通りです、わざわざ魔龍を刺激する必要が無いというのがその主張ですが、騎士達は魔龍同士の争いが終われば中央大陸から出て来ると考えています、実際、リッポト湖周辺の野生動物は減っている様なので、魔龍の食欲を賄えなくなると考えてます」
ダイン 「そうなる前に対抗策を編み出さないと行けませんね、私は魔龍の牙から魔龍の生体を解析しましょう、私は正攻法よりも搦め手を使う方が得意ですからね」
ムジカ 「ユーマもそれで建国してますからね、でもユーマという国家が成立して各国と交渉する事でかなり利益を得てますよね」
ダイン 「まぁ新しい事を試すには、お金が掛かりますからね、ククージアに浮遊母艦工房を作るという話を発表した事で、焦った他の国からかなりの好条件も提示されている様ですから」
フォティーヌ 「一番の好条件は耳長だと思います、何せマギガント数百機は作れる量の魔鋼ですから」
ダイン 「監視のない東方大陸で戦力を増強するのは魅力的ですからね、問題は私のやり方が使えない幹母ですが、結局のところ武力を示すのが一番なんですよ、聞くに値しない主張なども有りますから」
ムジカ 「テガスでも初めは警戒されてましたよね、でも遊魔文化が広まってしまうと元には戻れないんですよ、遊魔も食事に慣れた今、他の料理は食べたいとも思いません」
フォティーヌ 「東方でもそれで苦労しました、舌がユーマの味を覚えちゃってるんです」
ダイン 「まぁ大ぴらにやり過ぎて調味料の生産が追い付いていないんですよ、既存の材料から新しい物を開発して貰ってますが、遊魔の人手も足りてませんからね、色々と急拡大したツケが回って来てます」
ムジカ 「それが解っていながら東方大陸で浮遊母艦の建造とか言ってますけど」
ダイン 「飢えて死ぬわけじゃ有りませんから止まりませんよ、魔龍に食べられるのは嫌ですから、むしろ食材としての魔龍にも興味が沸きますね」
フォティーヌ 「魔龍を食べるつもりなんですか」
ダイン 「食文化を豊かにする為の食材の探索は常に模索すべきです、今回フォティーヌが持って来てくれた一部で肉質の事とかも解析出来るんですよ」
フォティーヌ 「魔龍を食べようとする思考が凄すぎます、耳長では恐怖の象徴ですから」
ダイン 「やはり古代文明を滅ぼしたのは魔龍という事なのでしょうか?」
フォティーヌ 「寿命の長い耳長でも正確には伝わっていません、ですが上の世代は何か隠しているとも思えます」
ダイン 「その違いが魔龍への対応に表れているのかもしれませんね、幹母から直接お聞きしたいものですが、遊魔に魔進化する資質を失っていますから、何か考えないと行けませんね」
ダインは目を瞑って少し考え込んでいる、自ら赴く前に幹母と話が出来ないか考えているのだ、そして、遊魔にはダイン以外で長距離通信の研究を行っている者もいるのだ。
そして、ムジカに浮遊母艦一隻の輸送能力で浮遊母艦工房の建築が可能どうかの試算を命じると、今度は長距離通信の試作を行っている真夏の研究室へと向かった。
おまけ
ムジカの才能 イーヴィエ、スルームと共に遊魔に迎え入れられたムジカは騎士としての才覚よりも技術者としての才能に優れている。
元々クガト領の騎士家系の娘ではあったが、本人はマギガントを弄る方が性に合っており、クガト領には無いポロルグ製マギガントに触れる為にテガス魔動力学院に入学している、だが、ムジカ自体は騎士学科の生徒で有り、ポロルグ製のジーカに乗れる程の成績を収めていなかった為に目的を果たせずにいた。
そんな状況が変化したのはダインがテガスに居着いた事で、元々技術者気質のムジカはダインの行う開発に大いに興味を惹かれ、異性としても強く意識していた。
そして、ダインの行ったお遊びで見事ダインの魔力を感じ取り、遊魔に迎えられるという栄光を勝ち取ったのだ。
遊魔としてダインと通じたムジカは直ぐにその技術者としての認められて、能力を活かせる立場を与えられたが、ムジカはマギガントよりも浮遊母艦に興味を示す様になった。
これはムジカ自身の騎士としての才が高く無かった事に原因が有るのだが、ダインはむしろその事を喜ばしく思っている、新技術の浮遊母艦にはまだまだ発展の余地が残されている為にダインとしても異なる見識を求めているのだ。
ムジカは特に浮遊母艦の建造に興味を持ち、自身で設計した工房をクガトに建設する事をダインに陳情した、これはクガトの魔鋼貯蔵量と工房の責任者を狙った為であったがあっさりと却下されている。