地固め編 第二十五話 七実の技術交流

  004-025

  七実とラファメの凸凹コンビは王都工房を見学していたが、邪険にされるどころか招かれて意見を求められる事が多かった。

  その理由として、王都、テガス、クガトで行われている、ゾッフォからジノ・ゾッフォの改修作業でテガスが圧倒的な作業量を示していたからだ。

  案内役工員 「つまり、テガスでの作業が早いのはクラフト・ゾッフォというマギガントを多用しているからなんですね」

  七実の案内役に任じられた女性はまだ若いが襟には上級工員である事を示す襟章を付けている。

  対面時にミーニャと名乗られた時は少し七実のツボに入ってしまったのだが、魔力もまだ純粋魔力を保っており、飾り立ててはいないが寧ろそれがダイン好みだ。

  七実 「はい、鎧を剥ぐ作業は大体二時間ぐらいですから、此処じゃ三日ぐらいですかね」

  ミーニャ 「二時間で、この作業が出来るもの何ですか」

  ミーニャは足場を組み付けられたゾッフォを見上げて首を傾げている、彼女はテガスで行われている事に大きな疑問を持っている様だ。

  七実 「テガスでは足場など組みませんから、高い位置に有る部位だってクラフトで直接外しています、リベットなども頭を削ってそのまま外してます、クラフトの腕は四本有りますので固定しながら作業出来るんですよ」

  ラファメ 「四本腕のゾッフォですか、普通に戦っても強そうですね」

  七実 「追加された腕は戦いで使えるほど器用じゃ無いんですよ、それに二本ずつ切り替えて使いますので、四本同時で動かす事は無理ですね」

  ミーニャ 「確かにこういう仕事では固定する腕が欲しいと思う事が有りますが、マギガントでそれを実現させているわけですか、同じ大きさで剥がす鎧を固定してリベットを抜けば二時間で作業を行えるかも知れませんね」

  七実 「ダイン様は王都工房で仕事を行って貰う為に、クラフト・ゾッフォも供給するおつもりですから、楽しみにしていて下さい、鎧の除去とフレームの加工さえ終わっていれば、ジノへの改修も直ぐですから」

  ミーニャ 「ここではそこからに時間が掛かってますが、ユーマにはフレームをバラさずに魔鋼練度を上げる方法があるんですか?」

  七実 「はい、乗れる機体が有ればここでも試してみましょうか」

  ミーニャ 「有難い申し出ですが、ここではフレームを分解してから個々に練度を上げていますので、作業に適した機体が存在していません、ユーマの方法を学べれば作業も早まると思いますが」

  七実 「別に普通のゾッフォでも練度を上げる事は出来ますよ、でも先に練度上げちゃうと加工が難しくなっちゃいますね」

  ミーニャ 「はい、練度が十上がる度に手間が倍になると言われてます、最近は魔導具が進歩してかなり楽になりましたが」

  七実達が今いる場所は鎧の除去を専門に行う所でそれ程魔導具は存在しない様だ、だが、鎧を止めるリベットの頭を除去するには使われている様で、作業中のゾッフォの上半身からはリベットを削る火花が上がっている。

  七実 「その様ですね、ですがクラフトはもっと凄いですよ」

  七実の説明でミーニャは疑問の一つを解消させた様だった、そして七実の方もこの作業場の作業は充分に堪能した様だ。

  ミーニャ 「次の作業場に向かいますね、フレームの分解作業になりますが」

  七実 「テガスで行う予定は有りませんけど案内して下さい、フレームの構造と分解には興味が有りますので」

  ラファメ 「テガスで新型のジーカが作られていると聞き及んでますが、七実殿も関わっているのですか、その事で興味が有ると」

  七実 「ティアス様が話したのですね、あの作業はスカイベアーで後回しにされてますが、細々とは進んでいます、ジーカはゾッフォより繊細なので難しいんですよ」

  ミーニャ 「そんな事まで行っているんですか、テガス工房の規模って確かここの十分の一ぐらいですよね」

  七実 「その情報は古いですよ、スカイベアーを作った工房とか色々増設してます、運河で出た土を焼いて煉瓦を作って建材にしてますので材料に困らないんですよ」

  ラファメ 「魔導炉で焼くんですよね、それってかなり魔力が必要なんじゃ」

  七実 「はい、私達が交代でやってます、今は焼く煉瓦を作る方が遅れてるぐらいですよ」

  ミーニャ 「テガス工房がそんな事になっているとは、ですが人を集めるのは大変でしょう」

  七実 「そうでも有りませんよ、元々クラフト・ゾッフォを使う工房は広くないと危ないですから新しく新造した工房で使ってるんです、ここは広いから大丈夫だと思いますけど」

  ミーニャ 「確かにユーマの技術を提供して頂ければ、もっと作業が捗ると思いますが、私達にそのクラフト・ゾッフォを扱えるんでしょうか」

  七実 「駄目なら騎士にやらせればいいんですよ、種類は違ってもマギガントを動かすだけで訓練にはなる筈です」

  ラファメ 「ユーマの人は凄い事言いますね、騎士は特別な難関を通過した人間ですよ」

  七実 「ですが協定戦に出る騎士なんて一握りですよね、数は居るのに能力を活かせてませんよね」

  ラファメ 「確かに騎士団の構成自体は人類法が成立する前の形ですけど、工員をやるとは」

  七実 「そこがユーマとの違いですよね、ユーマでは何かを生み出せる人が優遇されるんですよ、ですから新しい事に挑戦する人が多いんです、騎士としてこの国でも最上位だったポーカ学長もクラフト・ゾッフォでスカイベアーの建造に携わってますし」

  ラファメ 「あのポーカ・ウルカルンがそんな事を、王都騎士団の実力者だって彼女との勝負は避けたと言われる騎士なのに」

  七実 「スカイベアーはダイン様の夢でしたから、その実現に力を貸すのはユーマ国民として当然の事ですね」

  ラファメは尊敬する騎士の行いに衝撃を受けている様だ、場所が場所だけに工房仕事を蔑ろにはしていないが、騎士が格上だという自覚は常に持ち続けているのだ、エポポ・ゾッフォを駆って、技術の力を実感したラファメではあるが、自身の特権階級意識は捨てきれない様である。

  ミーニャ 「あのポーカ殿が工員仕事をなさっているとは驚きですね、ですがある意味で私達工員以上にマギガントには詳しいですからね」

  七実 「そうなんですよ、やっぱりマギガント使わせると誰よりも上手いです、そしてポーカ学長が上手い事が、ユーマの技術向上にも一役かっているんですよ」

  七実の言った事の意味を二人は理解する事が出来なかったが、ダインの生み出したクラフト・ゾッフォは乗り手の行った操作を何度でも再現する事が可能なのだ。

  つまりポーカが行った動作を再現する事によって、クラフト・ゾッフォを使った作業は誰が行っても熟練者の作業を行う事が出来ているのだ。

  その後も七実の工房見学は続いて行く、専門の工員にも気付かない点を尋ねてくる七実に対してミーニャも狼狽える事も多かったが、一通りの案内を終えてスカイベアーの元に戻ると、今度は七実にスカイベアーの案内役をする様にとダインからの命が届く。

  七実 「今度は立場が逆になってしまいましたね、初めの見学者が来るまでまだ時間が有りますから、見て行って下さい」

  ミーニャ 「私は与えられた仕事をやっただけですが」

  七実 「ナナもそうですよ、ただ、一番最初は慣れた人の方がやり易いので付き合って下さい、もちろんラファメもですよ」

  ラファメ 「私もいいんですか、確かに七実殿に付いている様にと命は受けてますが」

  七実 「本当は工員の特権なんですけどね、でも個人的な恩返しを咎めるダイン様じゃ有りませんので」

  七実達がスカイベアーの前で雑談をしていると、先に事情を説明されていた真夏が降りてきて、七実に話しかけて来る。

  真夏 「ダイン様から授かったお役目の事は聞いてますよね、外側はティアス様が騎士団を派遣してくれるとの話ですから、ナナとマナで中の案内をしますよ、とは言っても艦橋は無しで格納庫だけって話ですけど」

  七実 「そうなんですか、艦橋こそスカイベアーの真髄なのに、でも大勢の人は招けませんからね、でもこの二人ぐらいなら大丈夫ですよね」

  真夏 「ナナがそう判断したなら案内してあげて下さい、マナは格納庫の準備をしますので、ウィディも見学に加えるそうですから」

  ユーマの新技術が用いられたウィディ・ゾッフォは王都工房では無く、スカイベアーの格納庫に置かれていた、進み過ぎたスカイベアーよりもウィディ・ゾッフォぐらいの方が工員達にも理解しやすいだろうというダイン也の配慮だ。

  七実 「分かりました二人は運がいいですね、王都の人間でスカイベアーの艦橋に入れる人は殆どいない様ですから、でも、見応えは格納庫の方が上かも」

  真夏 「そんな事有りません、艦橋前面のモニターを作るのは苦労したんですよ、工員の方には苦労を解って貰いたいです」

  ミーニャ 「この大きさだけで唯ならぬ苦労が有ったと思いますが・・・」

  七実 「人間の大きさを基準に考えればそう思えるでしょうが、殆どクラフト・ゾッフォの仕事なんですよ、ですから王都工房の基準は全く当てはまりません」

  ミーニャ 「確かに王都工房でも、この巨体を作り上げるのに数年は掛かると思います」

  七実 「まぁ、外観はこれぐらいにして中に入りましょうか、飛行時は首を上げて視界を広くしますが、今回は下げたままですね」

  七実は二人を連れてスカイベアーの頭側に移動すると、既に下に降りている階段を登り始める、後に続く二人も恐る恐る後に続くと直ぐに艦橋へと辿り着く。

  ラファメ 「確かにマギガントの操宮に何処となく似てますね、正面がガラスで外が見えてますが、上部の構造はマギガントの通信盤の様です、席は凄い数有りますけど」

  七実 「魔力を使える席とそうじゃない席があるんですよ、交代で座って状態を引き継ぐ事も出来ますし、複数人で魔力を提供する事も可能です、一番艦はユーマで使っているので三席ぐらいしか魔力席が有りませんが、他で使う船は全て魔力席でも良いかも知れませんね」

  ミーニャ 「ダイン王の寵姫達は凄まじい魔力を誇ってますからね、それにしてもこの席はマギガントの物を利用してますよね」

  七実 「利用出来る物は利用して短期間で仕上げてますから、材料だって屑魔鋼の再生品ですから」

  ミーニャ 「屑魔鋼は練度が違うので、安定した利用が難しい筈ですが」

  七実 「エポポを触った王都の工員なら知っているかも知れませんが、ダイン様とその寵姫には魔鋼の練度を上げる力があるんですよ、今日見学したジノへの改修はバラした部品を工員が個々に練度を上げてましたけど、ユーマではマギガントに乗るだけで魔鋼練度が上がるんですよ」

  七実の語った事実が余りにも衝撃的だったので、ミーニャは表情が強張っている、その事実はある意味で自分達の誇りを貶める事でも有るのだ。

  ラファメ 「それで納得がいきました、ダイン王から託されたエポポはジノよりも明らかに軽かったんですよ、挙動の違いが出ているだけかと思っていましたが、機体自体が軽くなっていたんですね」

  ミーニャ 「それで七実殿が興味無さそうにしていたんですね、あの工程はジノへの改修でもかなり重要な物の筈だったんですが」

  七実 「まぁナナが乗るだけでどんどん動きが良くなって行くんですよ、でもナナじゃ七十練ぐらいですけど、ダイン様だと九十練ぐらいまで上がりますよ」

  ミーニャ 「乗るだけで七十練魔鋼ですか、通りでテガスの作業が早いわけです、ですが七十練ゾッフォなら加工しなくてもジノと同じぐらいの軽さだと思いますけど」

  七実 「魔鋼を集めるのが目的ですから、そうやって地道に集めた魔鋼でスカイベアーが作られているんですよ」

  ミーニャ 「確かにかなりの魔鋼を使っている様ですが、テガスで扱う量だけで作れる物なのでしょうか」

  七実 「スカイベアーにはまだ見せれない秘密も有るんですよ」

  この頃には、スカイベアー級の建造が王都工房でも行われる事が広く通達されており、工員達は新しい技術への好奇心で持ちきりだった。

  そして、七実達が艦橋を降りた時には見学の第一陣も到着して、ラファメとミーニャも案内する側に回って見学の手伝いをする事となった。

  おまけ

  クラフト・ゾッフォ ユーマ共栄国で使用されている工房用ゾッフォ、ゾッフォを改造したマギガントでゾッフォの背中上部から別の上半身を接合した構造で、四本の腕を持つ工作用のマギガントで有る。

  実際、ゾッフォを二個一にする事で製造されており、改修事業で多数のゾッフォを手に入れたユーマならではの機体でもある。

  四本の腕と言っても、同時に四本の腕を使えるわけではなく、元の腕二本か追加腕二本かを選択して動かしている、追加の二本の腕はいうまでもなく元の機体の腕も長さが延長されて、四本の腕全てが立ったまま地面に付き、より作業がやり易い様に改造されている。

  明確な規格で製造されているゾッフォは稼働がどの機体でもほぼ同一で、同じ動きをすれば、どの機体でも同じ製品の製造が可能で有る、そこでユーマは作業過程を記憶させ、それを複製して別機体に導入する事で同一の作業を複数の機体で行う事を可能としている。

  具体的にはエポポへの改修の為のフレームの切削作業などで、クラフト・ゾッフォを使えばフレームを分解する事なく、ゾッフォフレームをジノ・ゾッフォフレームへ改造する事が可能で有る(この際の期間は人力作業の1/30程度)。

  浮遊母艦の建造もほぼクラフト・ゾッフォを使って行われている為、建造ドックさえ整備すれば、何処でもクラフト・ゾッフォを使った浮遊母艦の建造が可能となっている。