地固め編 第十一話 スカイベアー浮上

  004-011

  ツェリがテガスにやって来て二ヶ月、その間にテガスの街は大きな変貌を遂げていた、街を闊歩する人間は以前の倍ぐらいに増えており、昼時の食堂は何処も人で溢れ返っている。

  街も郊外へと徐々に拡がっており、運河を行き交う船の為の停泊池も次々と造成されており、テガスは急速に商業都市として発展している。

  また、轟音を響かせて空を飛ぶマギガントもテガス名物となり、以前からの住人はその音にも慣れていちいち空を見上げる事も無くなっていた。

  そして新造された新テガス工房では、ダイン達遊魔の技術の結晶が動き出そうとしている。

  フェカト 「やれば出来る物なんですね、こんな短期間にこれ程の物が出来るなんて」

  新工房の円形格納庫の中で、出来上がった浮遊母艦“スカイベアー”を見上げながらフェカトがダインに問いかける。

  ダイン 「アーグルの造船技術はかなりの物でしたから、材質の変更にも柔軟に対応してくれたので予想よりもひと月は早く完成しましたね」

  ポーカ 「ダイン様が導入した新技術のお陰ですよ、従来の鋲打ちで鋼板を繋げていれば時間も重さも増えたと思います」

  ダイン 「水に浮かべる物では無いので採用しました、ゆくゆくは停泊池が使える様に改良したいですが、ツェーリアの現状を考えれば早い方が良いでしょう」

  フェカト 「はい、予想以上に上手く行って困ってます、フェカトの計画より三割増で進んじゃってますから、そろそろ王都ゼアムへの強襲が必要ですね」

  ダイン 「当初は飛行型マギガントでの強襲を考えていましたが、これを使って我々の威光を示す 必要がありそうですね」

  真夏 「はい、エポポの余裕は出ていますが、飛行型は未だ三機のみですからね」

  ダインはエポポ・ゾッフォへの改修費用をゾッフォの半分と設定した、この結果エポポ・ゾッフォを早急に欲しがる勢力はゾッフォ三機をテガスへと送って二機を改修して貰う様になり、遊魔勢力は対価として手に入れたゾッフォ一機wをストックとして使い回す事で、迅速なエポポ・ゾッフォの供給と戦力拡大を早急に行う事を可能にしていたのだ。

  その上で今から実験を行う浮遊母艦スカイベアーは、遊魔のゾッフォ改修ビジネスをより円滑に行う為の物で、改修したエポポ・ゾッフォ二機を先渡して、未改修ゾッフォ三機を回収する為にゾッフォ三機を運ぶだけの搭載能力を有している。

  だが、それはゾッフォ三機を何処にでも運べる能力でもあり、ダインはその能力を活用してツェーリア王都ゼアムへの強襲作戦を行うつもりでも有る。

  そうして、魔導エンジンの轟音にも慣れたテガスの住人達も、新たに空に浮かび上がったスカイベアーには度肝を抜かれる、噂で新工房で行われている事は聞き及んでいたが、実際に船が飛ぶ事など初めてで、その大きさは住人達に想像よりも遥かに巨大で有った。

  ダイン 「上出来ですね、後は三機のゾッフォを運べるかですが」

  スカイベアー艦首に有る艦橋でダインが感想を口にする、艦橋には四人分のシートが前列、後列に備え付けられて、大きな窓の上面にはマギガントで使われる通信盤も備え付けられている、前面のシートそれぞれには操縦桿が設置されており、今は真夏のみが握っている。

  真夏 「魔力消費も大した事有りませんね、この程度なら四つも操縦席は要らなかったかもしれません」

  ダイン 「まぁ必要無ければ次に移設すれば良いだけですから、計算上は三時間はエンジンが使えるんですよね」

  真夏 「短く見積もってですね、マナ的には安定航行で六時間は行けると思っています」

  ダイン 「それでククジア王都ぐらいまでは行けますよね」

  真夏 「はい、二時間有れば十分な筈です」

  ダイン 「なら、天翔る処女を装備したマギガントと殆ど変わりませんね、ですが重要なのは満載状態の性能です、一度降りてから、ゾッフォを三機積んで実験しましょう、この船からツェリとの連絡は可能ですよね」

  フェカト 「それってまさかいきなりゼアムへ進攻するつもりですか、ツェリなら可能かもしれませんが無茶ですよ、それに五戦の協定戦の後一人はどうするんですか」

  ダイン 「私がウィディ・ゾッフォで参戦します、ツェリと私の関係をアピールする必要が有りますから」

  ウィディ・ゾッフォは遊魔が開発した飛行型ゾッフォの正式名称だ、現在、試作機を含めて三機のウィディが完成しており、全ての遊魔が飛行運用可能な事が十分確認されている。

  真夏 「確かにそれなら直ぐに可能ですね、ゼアムへの道案内はフェカトに任せればいいですから」

  フェカト 「いや、滅茶苦茶ですよ、段取りも必要ですから」

  ダイン 「ですが浮遊母艦スカイベアーの存在が知れ渡れば相手に警戒されますからね、少々無茶でも今が攻め時です、それに今年の畑の作付けを変更するなら早い方が良いですよね」

  七実 「兵は神速を尊ぶと言いますからね、味方にも予想出来なかった攻撃が敵に解るわけありませんよ」

  ファービ 「そうですよ、戦いはファナ達に任せて、フェカトは事後処理に専念して下さい」

  フェカト 「そう簡単には行きませんよ、ツェーリアは古い体制が染み込んでますので」

  ダイン 「ツェリの話によると各村単位での自給自足は行っている様なので大丈夫でしょう、別に現体制が消失しても民が飢えて死ぬわけじゃ有りませんから」

  フェカト 「本当にいい加減ですよね」

  ダイン 「ツェリとフェカトを信頼してるからですよ、それに人間は権力者による支配構造なんて無くても生きて行けるんですよ、強者に虐げられない為に人は群れて、それが大きくなって国が出来てますが、生活と身の安全が保証されるなら、国すら必要無いんです、ですが、解放されたツェーリアの民は必ず私を頼るでしょうね、何せ私が最大の脅威ですから、その上民には寛大ですし」

  フェカト 「ダイン様も場合は寛大というよりも人間に興味が無いじゃないんですか、でも遊魔社会は人類社会に寄生して存続してますからね」

  真夏 「寄生は言い過ぎですよ、それにダイン様は人類に叡智を授けてますから、遊魔を寄生と言うならフェカトには甘いお菓子は不要って事ですね」

  フェカト 「まぁ確かにツェーリアの民はより寛大なダイン様を頼る事は間違い有りません、そうお膳立てしてますし、何より先導者ツェリの構想ですから」

  実際のところ、ダインが口に出した段階でフェカトも諦めている、直感的に可否を判断するダインの嗅覚をフェカトも理解しており、準備は万全とは言えないが計画の実行自体は可能な状況で有ることも解っている、なら先に片付けて問題を後で解決すればいいというのがダインの魂胆だろう。

  ダイン 「では船を一旦降ろしてエポポを積み込みます、ニアも連れて行きましょう」

  真夏 「テガスはアイヤとプルルだけで大丈夫でしょうか」

  ダイン 「停泊池の船にウウル・ジーでも潜んで無い限りは大丈夫でしょう、それにこちらの戦力が下がるのを見越して攻めるなんて不可能ですよ」

  七実 「あまり使ってませんけど、あの二人だって遊魔ですからね、マギガントは学院生徒以上に扱えますよ」

  ファービ 「そうだよね、特にプルルはセンス有るからね、素早さと鋭さを兼ね備えてるからメイドじゃ無くて暗殺者だったのかも」

  ダイン 「ティアスなら有りますね、他にも何人かああいうメイドが居る様ですし」

  真夏 「なら、任せて安心ですね、マナもウィディにしましょうか、別にこのスカイベアーを疑ってるわけじゃ有りませんが、護衛機は多い方がそれっぽいですよね」

  フェカト 「護衛機の方にダイン様が乗るんですけどね、スカイベアーはフェカトに任せて下さい、多分フェカトが一番使う事になりますから」

  ダイン 「なら、飛行状態での乗り継ぎを試してみて下さい、試せる事は色々試して浮遊母艦の運用にも慣れて行かないと」

  ダインの提案に後列に座っていたフェカトは前列の真夏の隣の座席に座ると操縦桿に手を掛ける、すると船体が少し上下に揺れるが不安を感じるほどでは無い。

  フェカト 「コントロールの半分は貰いました、後はマナが離れるとフェカトが全てを預かるわけですね」

  スカイベアーには魔力炉も搭載しており、例え全ての操縦士が席を離れても急落下する事は無い、ただ遊魔が操縦桿を握っていないとコントロールが出来ずに徐々に降下して軟着陸してしまうのだ。

  真夏 「うん、今度はマナが席を外すね、地上テストは経験してるけど、実際に空の上だと少し緊張するよ」

  ダイン 「墜落したぐらいで遊魔は死にませんので大丈夫ですよ、怪我も直ぐに治りますし」

  フェカト 「いや、スカイベアーにかなりの量の魔鋼使ってますから大事に扱いますよ、でもスカイベアーがちゃんと使えれば魔鋼の移動も楽になりますから、結果的にそれが良い判断だと納得して建造を承認したので壊れてしまっては困ります」

  テガスの財政、資材の管理はほぼフェカトに任せているので、ダインの軽はずみな発言に対しては小言を言いたくなってしまうのだ。

  ダイン 「まぁ想定以上に安定しているので問題無いですね、燃料さえ満タンに出来ればクガトへの往復だって一日で可能ですよ」

  フェカト 「ジゾフ翁の用立ててくれた魔鋼もまだクガトに有りますからね、その分をテガスに回せばスカイベアーの増産も可能ですよね」

  ダイン 「まぁ改良型にはなると思いますが、二番艦の建造は早急に行いたいですね、二隻有れば何処の都市にでもエポポで協定戦が仕掛けられますから」

  フェカト 「戦力が過剰過ぎて今でも警戒されてますけどね、ですがユーマと手を組むメリットは大きいですから、どの国も表向きは有効ですけど」

  フェカトが口にしたユーマとは、ここ最近でポロルグ領を切り取ってククジアから独立した遊魔の国の名称だ、遊魔達が口を滑らせて遊魔という言葉を部外者に聞かれても国の事だと思わせる為にダインが敢えてユーマという国名を採用したのである。

  そしてユーマ共栄国という名称を名乗る事で、どの国にも等しく国交を結ぶアピールもしているのだ、ただ唯一の例外として亡命者のツェリを受け入れたツェーリアとだけは敵対しており、国交を結んでいる国からはツェーリア領土の併合を黙認して貰ってもいる。

  ダイン 「ツェーリアの事も国交を結んだ国から了承して貰ってますからね、だからこそこの後の強襲が可能なんですよ」

  フェカトの操作でテガス上空まで戻って来たスカイベアーは、錨を降ろして着陸位置を決めると、重魔鋼の反発を抑えつつ錨を巻き取る事で闘技場の中心部へと着陸して行く、これはゾッフォを積み込む為にはこの場所の方がが都合が良いからだ。

  ダイン 「重魔鋼の調達は今のうちに進めた方が良さそうですね、この使い方が拡まってしまえば高騰しそうですから」

  真夏 「なんかインサイダー取り引きみたいで悪い事してる感じです」

  ダイン 「株式市場も有りませんし、そもそも遊魔が新しい運用方法を確立しているので悪い事じゃ有りませんよ、そもそも重魔鋼自体は武器ぐらいにしか使われてませんしね」

  七実 「ちゃんと遊魔が必要としてるから安い内に集めるんですよね、お金儲けの為じゃ有りませんよ」

  ダイン 「ウィディもスカイベアーも他に売る気は有りませんからね、それにスカイベアーを作った目的はアーグル世界の探索用ですから、でもまだ性能的には足りてませんね」

  数週間、いや下手をすれば年単位の時間が掛かるかも知れない混沌大陸への遠征を考えるならば、かなりの大きさを持つスカイベアーでも手狭に思えてくる、そう、アーグル世界の常識から大きく外れたスカイベアーですらダインにとっては通過点に過ぎないのだ。

  そしてその桁違いの能力をダインは勢力拡大に利用する気で、遊魔の人類圏での地固めは着実に進んでいるのだ。

  おまけ

  浮遊母艦スカイベアー 遊魔のアーグルでの活動の移動拠点として作られたのがこのスカイベアー級浮遊母艦で有る。

  他に例を見ないこの巨大兵器は、実は既存のマギガントを単に巨大化させただけの構造で成り立っている、ベースとなっているのはゾッフォフレームで、手先足先を排除した巨大ゾッフォフレームを四つん這い状態で固定化し、腹部に格納庫を装着した物がスカイベアーなのだ。

  浮遊機構は重魔鋼の反発をバランスを変化させる事で実現させ、それに推力として魔導ジェットエンジンを複数搭載して推力としている。

  離着陸には重魔鋼アンカーを用いる事で、正確な位置への移動が可能だ。

  格納庫には三機のマギガントを搭載する事が可能で、機体を吊り上げる事で固定させており、底板を開いてワイヤーを下げる事で浮遊状態でもマギガントを展開させる事が可能となっている。