003-020
ワゴンに積まれた菓子は凄く甘い香りを放って、室内を満たして行く、テーブルに並べ終えたそれらは色とりどりでちょっとした花園にも思える、そして注がれているお茶も負けじと心地よい香りを放っている。
リレッタ 「このお茶ってアレですよね」
ダイン 「はい、ティアスが摘んできた物です、王都からテガスに来るのにちょっと寄り道するだけで摘めるそうです」
リレッタ 「確かにガンレイ山脈の近くを通りますけど、このお茶に大金出す貴族だって普通にいますよ」
ダイン 「なら二人に出す事は正解ですね、ルーフィンならば価値より味を重視してくれるでしょうから、誰かの付けた価値で舌を濁らせるのは愚かですよ」
七実 「またダイン様流の考えですね、その深さは遊魔でも完全には理解出来ませんよ」
ダイン 「いや、人に流される事なく、正直に楽しめというだけなんですけど、ジャンクフードでも本人が美味しければ良いんですよ、逆に美味くも無いのに踊らせれて大金出してるのは馬鹿ですよね、楽しさは金だけでは買えませんから」
愛耶 「それでダイン様は貴重なお菓子をここで使うんですね、珍しさから幾らでもお金出す人いそうなのに」
そう言った愛耶の視線の先にはシーベアー号に積まれていたスナック菓子の類が積まれていた、無論全てをルーフィンに食べさせるわけではないが、魅せる為にはこういった演出も必要だろう。
ダイン 「流石に全てを出すわけにはいきませんが、興味のある物を言って貰えればそれを頂きましょう」
リレッタ 「これ、布なんですか妙にツヤツヤしてますけど」
ダイン 「ビニールという素材ですね、石油という油から作るそうですが、どうしてこうなるのかは解りません」
ルーフィン 「似た様な物はルゥの世界にも有りましたけど、お菓子の入れ物に使えるほど普及はして無かったです」
ダイン 「湿気を吸わないので、作りたての食感を維持出来るんですよ」
リレッタ 「常に煮込んでいればいいと思いますけど」
愛耶 「実物見て貰った方が良さそうですよ、アイヤのお気に入りは沢山有りますのでそれでいいですよね」
ダイン 「構いませんよ、ポテチは食材さえ揃えば再現出来そうですし」
七実 「久しぶりのポテチです、マナが悔しがりますよ」
愛耶 「再現の努力はしてるんですが、良い芋が無いんですよ、滑りの有る芋ばっかりで」
ダイン 「植生が違うので仕方ないでしょう、ジャガイモは南米原産ですし」
愛耶 「トマトも無いんですよ、トマトが有ればもっと食生活が充実するんですけど」
ルーフィン 「遊魔って逞しいですね、異世界の食文化を再現しようとするなんて」
ダイン 「私達は特に食事にはうるさいんですよ、何なら夕食も食べて行きますか、今日は遊魔の全体会議が有ったので豪華ですよ」
愛耶 「はい、昨日から仕込んでる料理も有りますからね、余っても学院食堂に提供すればいいので量はいっぱい有りますし」
リレッタ 「異世界人の作る料理を食堂に出しているんですか」
ダイン 「食べ足りないのは嫌ですから多めに作って貰って、余ればお裾分けですね」
リレッタ 「それで伝達が早いんですね、王都では結構話題でしたから、テガスには貴族の子女も多く在籍してますからね」
フェカト 「通話の魔導具も整えてますからね、魔導具の講義も売りの一つなんですよ、ジーカを直す時は詳細な情報が必要ですから」
ダイン 「修理の為に通信手段が整っているとは」
フェカト 「出張修理って良い収入源なんですよ、小さい部品ならポーカがウウルで運んでくれたりもしてました、ジーカって一機売れると数名の工員の雇い先も決まるからテガスの出身者は引く手間またです」
リレッタ 「クガトの工房じゃ狡いって言われてましたけど有効ですよね、特に都市防衛に割り当てられてるマギガントは高性能な機体が求められてますから、現実的な価格で上級機と張り合えるジーカが求められるのは当たり前なんだったんですけど、ダイン様がエポポ・ゾッフォを作っちゃいましたからね」
ルーフィン 「確かに王都の話題はそればっかりでした、クガトは儲かると言って大騒ぎでした」
フェカト 「マギガント予算は優先されますから、エポポへの改修事業はテガスの儲け頭になると思います」
ルーフィン 「でもダイン君の事だから、ただ強くなるだけじゃ無いんだよね」
ダイン 「そこはご想像にお任せします、どの道エポポは遊魔にしか改修出来ない機体ですから」
ルーフィン 「ルゥも次の手を考えないと行けない様だね、ダイン君は余り信用しちゃダメな人みたいだし」
ダイン 「ルーフィンが遊魔に堕ちれば問題無くなりますけど、それじゃ面白味が無くなりますからねぇ」
ルーフィン 「取り敢えずの不可侵条約ですから、もっとも歴史を見れば当てにならないモノですけどね」
ダイン 「人間は平然と嘘が言えますから、私達は何か文章にでも残しましょうか」
ルーフィン 「そんなの無駄な事ですよね、要するに両者の勢力が拮抗していれば大丈夫なわけですよ、攻め込む最大の要因は勝算ですからね」
ダイン 「そうですね、正直ルーフィンの力がはっきりと測れていないので手出しは出来ないんですよ、そしてそれは不安な事では有りますが、ルーフィンに直に会って不安は解消されています、私達はお互いに楽しんで生きてますから、そして権力を求めていない、だからこそ争う事は無いと思います」
ルーフィン 「はい、ルゥも同意見です、言うならばルゥ達は現状で満足ですから、今を維持する事を優先ですよね」
ダイン 「はい、でもルゥは魅力的ですよ、もし私以外の何かがルゥを害しようとしたなら支援する事を約束します」
ルーフィン 「はい、それはお互い様ですね」
ダイン 「なら、今宵の晩餐を同盟締結の証としましょう、一応文章も用意しておきましょう、第三者に対して形を示す事も有るかも知れませんし」
ルーフィン 「確かにそうですね、ルゥとダイン君で納得していても他には伝わりませんからね」
一通り話が纏まったので双方は堅苦しい会談のスタイルを止めてもっと自由に行動する事にする、そしてルーフィンはダインにテガスの案内を頼みダインもそれを了承する、眷属遊魔達は気が気でないがダインの決定は絶対なのだ。
そうして、別人と思える程に変装したダインとルーフィンはテガスの街に連れ立って行く、遊魔達は当然見張ろうとしたが、ダイン相手にバレずに見張る事など不可能で結局各々が思う事をして過ごす事になった。
ルーフィン 「何だか不思議な気分ですね、余り知らない人と知らない街を歩いているなんて」
ダイン 「そうでしょうか、解る人とは結構直ぐに解り合えると思いますが、ルーフィンとはしっくり来てますよ」
ルーフィン 「その言葉の意味は解りますけどね、でも、何と言うか話したのは今日が初めてですよね」
ダイン 「ですが、行動で人となりは解ります、まぁリレッタと接した分、私の方がルーフィンをよく知っているでしょうね」
ルーフィン 「だったらルゥとお呼び下さい、アーキアやリエルは友名ですよね」
ダイン 「あの二人は眷属ですからね、親友より近い間で抵抗も有りません、ですがルーフィンはまだ距離間もつかめていませんし」
ルーフィン 「だから形から入るんですよ、取り敢えず人間の恋人っぽく振る舞ってみましょう、ルゥもそういう事は始めてですけどダイン君なら釣り合ってるから」
ルーフィンはその秘めた力を想像出来ない程乙女だった、そしてダインも異性と街を散策する様な行為は始めてだったので二人の姿は初々しい若いカップルの様に周りには見えていた。
テガスの街に張り巡らされた運河は二人で散策するには絶好の場所だった、運河沿いに歩いて行くと行き交う船や水面から覗く魚など飽きる事無く新しい発見が有る。
そして、ベンチの様な形をした柵に二人並んで座ると、行き来する船を眺め始めた。
ルーフィン 「今度の船はマストが無いですね、それにマストの無い船は新しい船ばっかりです」
ダイン 「魔導蒸気機関の船ですね、魔導具熱を蒸気に変換して動力を得ているんですよ、加熱の魔導は効率的ですから魔導力で直に動かすよりも魔力消費が少ないですから、魔導蒸気を扱える人間はかなり居るんですよ」
ルーフィン 「アーグルって魔力共に発展している文明ですからね、ルゥの世界も魔力が知られてましたがそれで文明は発達してませんでした」
ダイン 「異世界ルヴァルテと接触する前の地球文明では確認すらされてませんでしたよ、嘘か本当か解らないモノは存在していましたが、実際に効力を確認出来る程のモノはルヴァルテから伝えられたモノばかりでした」
ルーフィン 「そんなの状態なのにダイン君の魔力は高かったんですね」
ダイン 「実際に魔力量を認識したのはこの世界に来てからですね、確かに異形の力の源は魔力の様ですが」
ルーフィン 「このアーグルが魔力量を重視してるのって、ザキトスの影響が有るみたいですね、彼は自分の魔力を通貨の様な感覚で褒美として眷属に分け与えていた様です」
ダイン 「という事は魔王ザキトスとは絶大な魔力を持っていた訳ですね」
ルーフィン 「それは解りません、現に後継者として力を受け継いだルゥがこれぐらいですから」
ダイン 「アーグル人と比べると多いとは思いますが、リエルの例を考えると絶大ってほどでは無いですね」
ルーフィン 「リエルは元の世界からあんな感じでしたよ、何故だか解らないけど急に魔力が増えたらしいですね、ルゥの世界でも魔力量の測定は曖昧でしたから、此処に来てびっくりしましたよ、けどダイン君ってそれ以上ですよね」
ダイン 「私にも理由は解りません、ただ、眷属も増えてますので遊魔細胞がそういうモノなんでしょうね」
ルーフィン 「確かにルゥもザイトスの改造で格段に増えましたからね、でもリエルが自然発生した魔族というのは以外でしたね」
ダイン 「私達的には異形の発生は第二世界ルヴァルテの支配層の影響だと言われてましたから、ですが、接点の無いルゥの第四世界にも異形は存在していたどころか、この第三世界アーグルの魔王ザキトスは第四世界出身という話じゃ無いですか」
ルーフィン 「異形の状態でこの第三世界に来たのかは解りませんけどね、ですが人を超えた化け物の存在がルゥ達の第四世界で確認されたとは聞いて無いです」
ダイン 「世界の認識を合わせて貰って感謝します、私の眷属に第二世界の出身の者がいるんですが、第二世界は高圧的な支配層に支配されているらしく、ちゃんとした知識は与えられていない様です、ですが支配層は異形の力を持っているそうです」
ルーフィン 「四つの世界が確認されていて、この第三世界以外では異形が発生しているという事ですね」
ダイン 「そうとも言えませんね、第二世界の異形が自然発生とは聞いていませんので、もしかすると人為的に異形に進化したのかも」
ルーフィン 「異形と魔族ですか、実は混沌大陸にはザキトスの産み出した眷属がまだ生き残っているそうなんですよ、ルゥとしては接触してみたいんですけど、流石に飛んで行ける距離では無いんですよね」
ダイン 「私も不正確な地図で確認しましたが、かなりの距離が有りそうですね、船で一ヶ月という話ですから、この大陸の大きさぐらいは離れていそうですね」
ルーフィン 「船を中継に使ってマギガントで偵察は行っている様ですね、途中の島まで飛行マギガントでもほぼ丸一日掛かって、そこから近海にいる船に降りて休憩するそうです、でも大陸の西部の沿岸部しか飛んでなくて他は解らないそうです」
ダイン 「正に未知の世界ですね、取り敢えず混沌大陸の調査で協力しませんか、私達には長距離移動手段の計画が有るんですよ」
ルーフィン 「ダイン君、この世界を楽しんで要るよねルゥ達がクガトに召喚された時はもっとゴタゴタしてたけど」
ダイン 「参考になる創造物が数多く有りましたから、魔法文明の有る異世界なんてご褒美ですよ」
ルーフィン 「それで短期間にここまで勢力拡大させたんですね」
ダイン 「権力構造も単純でしたから、上を堕とせば何とかなる世界ですし、現にこのテガスは直ぐに私の領地ですよ」
ルーフィン 「ダイン君は既に貴族だったよね、ルゥは表に出ない様にしてるけど」
ダイン 「遊魔の身体は圧倒的に有利ですから、力の有る牝が放っておいても近寄って来ますし」
ルーフィン 「この世界の地位は魔力で約束されるからね、それにダイン君と関係持つと魔力が上がるって言われてるよね」
ダイン 「遊魔にしてますから当然ですよ、ですが、暫くは自重しようと思っています、目立ち過ぎて敵が増えそうですから」
ルーフィン 「でもダイン君が呼ばれた目的は達成してますよ、ルゥはティアスの王位に納得してますから」
ダイン 「コントロールされていない人間の王より遊魔のティアスですよね、ですがルゥは男でも乳魔に出来るんですよね、リボルト・ククジアを乳魔にして傀儡にしないのですか、男で乳魔というのは変な感じですが」
ルーフィン 「男を眷属にしないから乳魔なんですよ、ザキトスは裏切り者の魔族を多く生み出していますが、殆どが男なんですよ」
ダイン 「まぁ力に驕れるのは理解出来ますけどね」
ルーフィン 「ダイン君はそうは見えないけど」
ダイン 「私は今を楽しんでますからね、そして今を生きる人間は出来得るなら幸せに生きて貰いたいんですよ、その為に秩序を乱す暴力的な行いや過度な富の蓄財を許したくは無いんですよね」
ルーフィン 「なら、王とか貴族は不要なんじゃ無いですか?」
ダイン 「確かにその通りですが、いきなりは変えられませんからね、それに特権嫌いは人間の時のひがみだと思いますよ、今の私は王侯貴族以上の力を持っていますからね、正直下流が何しようがそれ程興味が無いのも事実です」
ルーフィン 「それ、解る気がします、力持ってまで馬鹿な人間に構いたくは無いですね」
ダイン 「ですが干渉も重要ですよ、私の世界では世界を破滅させる程の兵器を馬鹿でも使える様になってますから」
ルーフィン 「怖い世界ですね、やっぱり人間を監視して導く存在は必要なんですね」
ダイン 「はい、私の居た世界は既に手遅れですが、ここはそうしたく無いですね」
この世界はダインの理想を実現させる為に都合の良い世界の様だった、だが、ダインの把握していない勢力が存在する事も確かで、その為には混沌大陸の調査は欠かせない。
ルーフィンもルーフィンなりの思惑を持っているが、不安要素を取り除く為にはやはり混沌大陸の調査を必要としているのだ。
そして二人の魔王は同盟を結ぶ事にして、違いの力を合わせて未知の大陸の調査を進める意思を確認したのだ。
おまけ
テガス開発計画交易編 マギガント工房を有するテガスには運河が整備されており、交易都市として潜在価値が大いに有った。
成り行き上テガスに居着いた遊魔達では有ったが、その利点を見出して様々な都市計画を遂行している。
中でも運河と工房の拡張は並行して行われており、運河を掘る事で出た残土を成形して高熱魔導炉で熱する事によって建材となる煉瓦を作り出している。
運河の拡張とは言っても運河自体を増やすわけでは無く、幅の拡張や停泊池を造成する事が主で多くの交易商人をテガスに足止めする事を狙っている、これは人口増加が都市の発展に最も重要な要素で有るとダインが感じているからで、その効果は着実に現れ初めている。
豊富な異世界料理によって商人達を惹き付け足止めさせる事で、その積荷の交易地としてのテガスの価値を高めているのだ。
そして、取引される食材の種類が増える事で産み出される料理も日々増加しており、更に多くの商人を惹きつける魅力を産み出しているのだ。