002-50
ゾッフォ前での話を終えたダイン達は一先ず控え室へと向かう、観客席で戯れ合っていたティアスとプルルは既に姿を消していたので、きっと先に控え室へと移動したのだろう。
そして、たどり着いた控え室の扉をノックすると、ティアスが出て来て一行を迎え入れる。
ラフェメ 「あれ、プルルがいませんよね、一緒じゃ無かったんですか」
ティアス 「プルルにはお茶の用意をして貰ってます、暖かいお茶がいいですよね」
ダイン 「私は別に水でも構いませんが」
ティアス 「駄目ですよ、ダインさんの飲み物はちゃんと吟味しないとティアスが納得出来ません、プルルも主人に水なんて飲ませせられませんよ」
ダイン 「私は贅沢は余り好まないんですが・・・」
ティアス 「ダインさんみたいな方が質素な生活をなさると下々が贅沢出来ません、何も豪華なだけが贅沢じゃ有りませんし」
リレッタ 「そうですわね、何かに拘る贅沢も有って、ティアス様はお茶に拘ってますからね、険しい山々に囲まれた花園に咲く、秘伝のハーブをポナリアで採取していると聞き及んでますよ」
ティアス 「バレていましたか、土地の者に教わった秘密の花園で、人が歩いて行くと三日も掛かるんですよ、まぁポナリアなら直ぐなんですけど」
リレッタ 「お茶でティアス派に転んだ貴族もいるという話でしたからね、クガトも色々と情報を集めていたんですわ」
ティアス 「プルルには秘伝の茶葉も用意する様に指示してますから、楽しみにして下さい、でも本当に美味しいのは花園で詰み立てのハーブで淹れるお茶なんですよ、ダインさんには今日のご褒美にティアスがザガルバでお連れ致します」
ダイン 「まだ勝ってませんけど」
ティアス 「ティアスはダインさんの勝利を微塵も疑っていませんよ」
ラフェメ 「ティアス様って何だか変わりましたよね、男の人には常に距離を取っていらっしゃったのに」
ティアス 「興味無かったですからね、並の殿方と子を成したとしても、ティアスを超える子供は産まれなと思うんですよ、ですがダインさんは傑物です、どんな凄い子が産まれて来るか想像しただけでも楽しいですよ」
ダイン 「子供ですか、正直私は考えた事も無かったですね、ティアスの言う通り子供が私を超える事が想像出来ませんから」
ティアス 「確かにダインさんは超えられ無くてもティアスは超えて来ると思うんですよ、それで十分だと思えません」
ダイン 「まぁ、私とアーグル人が繁殖出来るかは解りませんけどね」
実際、遊魔のダインは女性と新しい命を作る事が不可能だという事を十分に理解している、だが、遊魔の自己変異能力を使えばそれが可能になる事も解っている。
ラフェメ 「それでプルルなんですね、王族が子孫を作れない相手と婚姻するのは次代の継承に禍根を残しますからね」
ティアス 「ですが望む殿方に出会えて事は本当ですよ」
ラフェメ 「でも、ダイン様ってフェカト様と婚約してましたよね」
ティアス 「優れた男性は複数の妻を娶る事はよく有るじゃ無いですか、それに父親じゃ無い子種も有りますし、王家の女性王族はよく有るんですよ」
ラフェメ 「ジノン王子には噂が有りますよね、元国王陛下に似ていなくて魔力も高いですから、最も高いだけで凡庸ですけど」
ティアス 「余り兄様を悪く言わないで下さい、ティアスにもジノン兄様は底が見えないんですよ、凡庸に見える様に振る舞ってるだけだと思いますよ」
ダイン 「例の継承争いの相手ですか、レボト・クガトの傀儡って聴きましたが」
ティアス 「王の権力は絶大ですからね、今は大人しくレボトに従ってますけど、王位に就くとどうなるか解りませんよ」
ダイン 「ティアス様の言葉なら信じられますが、リレッタはどう思います?」
リレッタ 「あの方はクガトの色がほぼ無いんですよ、母親はクガトなんですけど、でも元国王の血は感じられませんから、さっきの噂も真実味有りますわ、そして父親は元老院のラザー卿という噂が引っ掛かりますわ」
ティアス 「はい、お父様の退位を初めに唱えた人ですよね、それが噂に尾鰭を付ける原因の一つでもありますし」
ダイン 「この国も色々あるんですね、あ、プルルが来た様ですね」
ダイン以外の者は全く感じていなかったが、程なくしてドアがノックされて大きなバスケットを持ったプルルが入室して来る。
プルル 「遅くなって申し訳ありません、リレッタ様のおみあげに手間取りました、ティアス様のがいるところでナイフは駄目だという話になりまして」
リレッタ 「カポカはそのまま齧っても美味しいですのに、流石に王族の方には無理ですわね」
ティアス 「親しい者だけの時は齧ってますけどね、昨日も食べましたし」
ティアスは意味深な視線をダインに向けている、実はダインはカポカの一般的な食べ方を利用してティアスに堕液を注入する事に成功していたのだ。
ダイン 「私は切り分けて食べた方が好きですね、ネットリとした食感が美味しいと思います」
プルル 「プルルは切り分け派です、実を皮からスプーンで削ぎ取って食べるのが美味しいと思います、ラッサを搾っても美味しいですよね」
プルルの言うラッサというのは、レモンの様な柑橘系の植物で、地球の食文化と同じで搾り汁を利用する事が多い。
ダイン 「それは知らない食べ方ですね、ラッサは酸味の強い植物でしたが」
ティアス 「味が締まるので結構料理に多用されてますね、私もラッサで作ったソースを茹でた魚介に付けて食べるのが好きですよ」
ダイン 「魚介に合う酸味のソースですか、マヨネーズの様な物でしょうか」
ティアス 「異世界の料理ですか、ティアスも食べてみたいです」
ダイン 「マヨネーズは既にテガスで愛耶が試作してましたね、こちらの調味料は酢が殆ど無いのでラッサの搾り汁を使ってましたよ、まぁ美味しいんですが、ちょっと日本の味とは異なってましたね」
リレッタ 「いいですわねテガスって、多分リッタの知らない未知の味がたくさんあるんでしょうね」
ダイン 「特に甘味が凄いですよ、こちらではフルーツぐらいですし、甘さも控えめですからね」
プルル 「甘さって自然以外に出せないですよね」
ダイン 「いや、それこそ果実を搾って甘味の凝縮された砂糖という調味料が有るんですよ、アーキアの世界には有った様ですがこの世界には有りませんね」
ティアス 「それは食材は全て食べるからですよ、汁を搾った果実の残りとか食べれないと思いますし」
ダイン 「確かにそういう物は廃棄していたと思います、そういう面ではこの世界は無駄を嫌ってますからね」
ティアス 「馬鹿げた無駄は容認されていますが、食材は無駄にしたりしませんからね、人を飢えさせる事は人類法での裁きの対象になりますから、どの国も食材の扱いには厳しいんですよ」
ダイン 「確かにこの世界ではお酒とか有りませんよね、あれも食材の廃棄が多いですから」
リレッタ 「お酒は自己責任ですからね、酔って醜態を行うと人類法で裁かれたりしますわ、だからお酒を他人に勧めるのは罪に問われたりしますわ」
ダイン 「私の世界にも飲酒を禁じている宗教が有りましたが、そもそもこの世界には宗教自体が有りませんよね」
ティアス 「シュウキョウと言うのがよく解りません、人類法の元になった教えは有りますけど」
ダイン 「アーグルの主流文化が古代の中国大陸の諸子百家を輩出した様な文化に近いんでしょうね、唯一神信仰が無い代わりに現実的なんですよ、そもそも唯一神という考え方自体が野心家の王が自分の権威を高める為に発明した物ですから」
ティアス 「ユイツシンとかよく解りませんけど、口振りから察するにダインさんはお嫌いな様ですね」
ダイン 「はい、現実的で無いモノが権威を持つのは、馬鹿馬鹿しい事ですからね、その点この世界の人類法は私の好みですね」
ティアス 「人を選別して成り立つ社会ですけどね、人類法を守れない者は流刑となりますから、ですが昔に比べて流刑になる者は減って来てるんですよ、人類法自体は厳しくなっているんですが」
ダイン 「法を守れない人間を排除した結果でしょうね、私の国でも権力者が好ましい人間を選別していたと思われる時代が有りますよ、その時代が終わった原因は外圧でしたから、人間の選別は統治に有効何でしょうね」
ティアス 「王族としては興味深い話ですね」
プルル 「ティアス様が好まれるのは解りますけど、全く解ってない人もいるんですよ、ですからカポカを召し上がって、エディケスとの協定戦に付いて話しましょう、もう二時間も有りませんし」
ダイン 「確かにそうですね、どうでしょうラフェメはゾッフォで勝てると思いますか?」
ティアス 「いきなり話題を変え過ぎですけど、それはティアスも気になりますね、大丈夫そうに見えましたが」
ラフェメ 「確実に勝てるとは申せませんがご期待には応えられると思います、あのゾッフォは今までのゾッフォとは全く違いますから」
ティアス 「実際乗ってないティアスには解らないんですけど、そんなに違うんですか」
ラフェメ 「はい、敢えて例えるなら、安定したフーティアに乗っている様な感覚です、宙に浮く感覚が無いんですが、その事で安定感が増している感じです」
リレッタ 「宙に浮かないって、最大の利点を殺している様な気がしますけど」
ラフェメ 「そこはゾッフォの厚い鎧が補っていると思います、騎士は全てゾッフォで軽く戦う方法を模索していたのですが、ゾッフォ本来の特性を活かした方がより戦い易いモノだったのですね」
ティアス 「そうなのですか、速さに勝る優位は無いと思ってましたが」
ダイン 「ティアスの言う速さとは移動が含まれてますよね、ですが動かなくても早く動けるんですよ、そして機体が安定している方が、鋭い一撃が放てると思います」
ラフェメ 「納得です、でも実際あのゾッフォに乗らないと解らない感覚ですね」
ツィーカ 「確かに動きが全然違いますね、動きに無駄が無いんですよ」
ダイン 「褒めてくれるのはありがたいですが、あれは闘技場以外では戦えないですよ、地面が平坦だからこその動きです、三次元の機動を捨てて二次元機動に特化する事で平面的な動きが向上している訳です、ですが協定戦ならば問題有りませんよね」
ツィーカ 「三次元とか二次元という言葉は解りませんが、使用環境に合わせて無駄を削除する事で闘技場での戦いに特化させた訳ですね、上級工員でも思い付かない考えです」
ダイン 「だからくれぐれも内密にして下さいね、ネタがバレると対応されてしまいますので」
ティアス 「まぁ今日勝ってしまえば大丈夫ですよ、それにダインさんならその内もっと凄い物に改良して下さるんですよね」
ダイン 「改良点は解ってますからね、ですからあの処理を行うのはあの二体だけにしようと思っています、ですがもし私かラフェメが負けたのなら、二体目にリレッタに乗って貰って三体目をまた調整します」
ティアス 「確かに手の内は見せたく無いですね、あの二体を留めて置く策を考える必要が有るかもしれません」
リレッタ 「ならクガトのゾッフォと入れ替えてしまいましょう、その上であの二体をティアス派へ貸し出す形を取れば秘密に出来ますわ」
ティアス 「クガトの手は借りたくは有りませんけど」
リレッタ 「なら、勝利のお礼に寄贈させましょう、それならば貸し借りの相殺という事に出来ると思いますわ」
ダイン 「私もジノ・ゾッフォが欲しかったですから魅力的な提案ですね」
リレッタ 「ダイン様に喜んで頂けてリッタも嬉しいですわ、ですが勿論勝って貰わなくてはいけませんけど」
ダイン 「褒美が有ればこの後の協定戦は実に楽しみですね、私自身なら何とか出来る自信が有りますが、今回の戦いで重要なのは初戦のラフェメですから」
ラフェメ 「期待に応えられる様に全力を尽くします」
ダイン 「硬くならなくても大丈夫です後に私も控えてますから、ラフェメには戦いを楽しんで貰いたいですね」
ラフェメ 「戦闘技術に自信は付きましたが、まだ楽しむのは難しいですよ、凄い重圧ですから」
ティアス 「元々勝てないと思われて協定戦ですから、気負う必要は有りませんよ、協定戦に持ち込んだ事だけでティアスの手腕は評価されてますから、だから勝利はオマケだと思って下さい」
プルル 「そうですよ、それよりも早くお茶にしましょう、カポカも早く食べないと色が変わっちゃいますよ」
ティアス 「確かに黒ずんだカポカは余り美味しそうに見えませんからね」
ティアスの言葉で一先ず話は終わって、お茶の時間が始まる、実はティアスは自慢のハーブティーをダインに振る舞う事も目的の一つで、ダインが気に入ってくれればザガルバでダインを連れ出して二人だけのお茶デートに誘う野望を抱いているのだ。
おまけ
マギガントの戦闘外用途 今日では普及型マギガントと言われているゾッフォも登場当時は高性能マギガントと呼ばれ協定戦で大いに活躍していた。
だが、生産性の高さと高性能を両立させたゾッフォの登場は列強のマギガント開発を加速させ、ゾッフォの性能が一線級を支える期間を短縮させる結果となってしまった。
しかし、ゾッフォはむしろ生産を拡大させて、戦闘以外でも活躍する普及機として用いられる様になる、特に土木工事や農地の開墾に非常に役に立ち、ゾッフォを普及させたククジアの国力は数倍になったとも言われている。
特にククジア全土に張り巡らされた運河流通網は王国の発展を大きく後押し、その作業の大部分を担ったのがゾッフォで有り、ククジア人はゾッフォに対して特別な想いを抱いている。
また、飛行能力を有するマギガントは最初期からその能力を移動に使われており、ククジア初代国王はその能力を持って国家を安定させたと言ってもいい。
そして上級マギガントの飛行能力は進化を遂げ、処女でない人間でも飛行移動を可能とさせるザガルバを誕生させる。
ザガルバはその生産コストの高さからククジア以外の国家での使用例こそ無いが、列強では現在同種のマギガントの開発に躍起になっているが、普及機ゾッフォと違い高度な技術が多く用いられている為に未だザガルバ以外の成功例は無い。