002-046
数時間後、まだ部屋から出て来ないダインとプルルを起こしに来たのはメイドを伴ったティアスであった。
正確には先行したメイドがダイン達二人の様子を確認してからティアスが登場したわけだが、身綺麗さを演出する為には当然の行いなのだろう。
ティアス 「実は今日も大事な協定戦が有りまして、御父様も王家の力を見せつけたい為に受けてしまいました」
ダイン 「王はティアス様がお嫌いではなかったのですか?」
ティアス 「意地の悪い言葉ですよね、でも、自信満々のクガトの黒騎士に勝利した事には随分と気を良くした様です、ダインさんが後ろ盾になってくれれば王家も安泰だとも言ってました」
ダイン 「昨日の興味無さそうな様子からは嘘の様ですね」
ティアス 「あれでも昔はやる気の有った王だった様なんですよ、変えられない現実を実感してしまって諦めてしまった様です、ですがダインさんの戦いで変わりつつある様です、ですが、今回も難題なんですよね」
ダイン 「いきなり協定戦と言われても準備が大変なんですが」
ティアス 「それは別室でお話します、プルルもちゃんとダインさんのお世話をして私の部屋へお連れして下さい、朝食もそちらに用意して貰います」
ダイン 「解りました、支度を整えてから参りましょう」
プルル 「はい、今起きて準備をしますね、お身体をお拭きします」
ダイン 「二人共湯浴みした方が良さそうですね」
プルル 「なら温水甕を使いましょう、ダイン様の魔力なら直ぐお湯が出来ますよ」
ティアス 「解りました、直ぐに用意させますね」
ティアスはお付きのメイドに指示すると彼女は一礼して足速に部屋を出て行った。
ティアス 「今日もテガスには帰れない様です、一応連絡は入れましたけど凄く嫌な顔してましたよ、でもティアスが遊魔にされたと解るとダイン様の事を託されました」
ダイン 「相手はフェカトですね、テガスの眷属達も私の周りに遊魔が居ない事が心配だったんですよ」
ティアス 「確かにそんな感じでした、つまり遊魔のティアスが側に居るならテガスの眷属達も安心って事ですよね」
ダイン 「権力者の中に仲間がいる事は心強いですが、私が早くテガスに戻りたいのも事実です」
ティアス 「善処はしますが、今回は予め予定が決まっていた協定戦ですから、今日は我慢して下さい、ククジアの国益に叶う事ですし」
ダイン 「詳細はティアスの部屋じゃ無かったのですか?」
ティアス 「だって温水甕は運ぶのに時間が掛かりますから」
その言葉から始まったティアスの説明を纏めると、どうやら今回の協定戦はマギガントの売込みに関する事らしい。
現在ゾッフォを運用している、ティバーチという国がエディケスのウウル・ジーへと鞍替えを考えていて、協定戦で勝った方を購入するというのだ。
常識的に考えてゾッフォでウウル・ジーに勝利する事は不可能に近く、現に今回行われる協定戦ではゾッフォ側に賭けるだけで大金が得られるという、勝敗が決まりきった勝負というわけだ。
ダイン 「つまりティアスも私で一儲け考えてますね?」
ティアス 「それも否定しませんけど、ダイン様が勝てば友好国を繋ぎ止める事も出来ます、それとゾッフォを売り込む事はクガトに恩を売る事にも繋がりますから、王家の得る利益は大きいんですよ」
ダイン 「乗り手に制限がないのを逆手に取るわけですね」
ティアス 「はい、余りウウル・ジーを使う国が増えるのは問題ですから、競争相手がゾッフォでなくジーカなら、ティアスも嬉しいんですけど」
ダイン 「まぁ、何事も最善にはなりませんからね、ですがその戦いをククジアでやるんですね」
ティアス 「そこはティアスが入れ知恵したんですよ、他国で使えない物を売り付けるのかって、ゾッフォにはティバーチでも運用している実績も有りますし」
ダイン 「確かにウウル・ジーは難しい機体ですからね、テガスではジーカの部品を改良してポーカの機体を動かせてますが、新しく作る部品も多い様です」
ティアス 「それでもジーカよりは使い易いんですよ、ジーカは協定戦にしか使えませんし、実はククジアの運河って殆どゾッフォが掘った物なんですよ、だから民衆にはゾッフォを押す声が大きいんですよ、生活の便利さと結び付いてますから」
ダイン 「確かにジーカのフレームだと魔鋼の強度に問題が有りましたね、関節の強度がゾッフォに劣っていて、過重が掛かり過ぎると変形するんですよ」
ティアス 「ジーカの様な機体はマギガントの開発技術を持たない国は大変なんですよ、持っていても大変でしたけど」
ティアスは旧ポロルグ王国の事を言っている様だ、確かにポロルグは技術を持っていても、国内で作るだけの資材を確保出来なくて併合される道を選んでいるのだ。
ティアスが複雑な顔で黙っていると、ちょうどメイドが応援のメイドと温水甕を伴って戻って来た、温水甕には既に水を湛えている様で数人掛かりで神輿の様に担ぎ上げている。
ティアス 「ご苦労様でした、中に入れて下さい、後は中の二人に任せましょう、私は部屋でお待ちしてますね」
ティアスはそのまま部屋を去って行く、忙しいティアスにはやる事が幾つもあるのだろう。
ダイン 「その魔導具はプルルに任せますね、自分の魔力を試すには丁度いい機会でしょう」
プルル 「お任せ下さい、プルルが魔導具を扱えるなんて感動です」
それを聞くとダインは再びベッドに潜り込んで横になる、堕液を大量に精製して堕した事はダインを少なからず疲弊させていたのだ。
ダインに全てを任されたプルルは早速仕事に取り掛かる、どうせ直ぐ脱ぐので衣服は身に付けずに全裸のまま温水甕に手をかざして魔力を込めると、直ぐに蒸気が立ち上がって甕の水がお湯に変わって行く、そして、蒸し風呂から大桶を持参してお湯を張って行く。
プルル 「ご用意出来ました、こちらにいらっしゃて下さい」
ダイン 「もうですか、私、微睡むのが結構好きなんですよ」
プルル 「でも、もう起きないと行けませんよ、遊魔の関係は人間には通じませんし、あまりティアスを待たせるとダイン様の不利益となってしまいます」
ダイン 「私の我儘に流されず、現実を見て行動出来るのは素晴らしいですよプルル、甘やかすだけが私の為じゃ有りませんからね」
プルル 「主人に不利益を与えないのがメイドですから、プルルにお任せになればきっとダイン様に恥は欠かせません、正直言って、ダイン様とプルルの今の匂いって甘いですから」
ダインの好みの結果、遊魔に体臭はほんのり甘い、だが、糖分は含んでいないので肌がベタ付く事もない。
ダイン 「あのメイド達は不審に思わなかったでしょうか?」
プルル 「正直首を傾げていたと思います、プルルも貴族が女性を連れ込んだ部屋の後始末を何度かしましたが、もっと酷い匂いがしてましたから」
ダイン 「まぁ仕方ないですね、異世界人から良い匂いがするとなれば良いイメージに繋がるでしょう、私も臭い奴と思われるのは嫌ですからね」
プルル 「でしたら早く湯浴みしましょう、今も全く匂わないわけじゃ有りませんから」
ダインは腕を出して匂いを嗅いでみるが、確かに若干の嫌な匂いはする、だが、大部分は甘い香りがしていて、自分とは違うプルルの香りも合わさっている。
そしてダインはベッドから這い出ると、ふらりと立ち上がって大桶に座り込むとプルルが手桶を使って身体を流して行く。
ダインの湯浴みの後にプルルも湯浴みを済ませると、予め用意して有った衣服に着替える、部屋の後処理は他のメイド達に任せる様で、ダインの身なりを整えたプルルは自分もその後軽く整えて、ティアスの部屋へと先導して行く。
王宮を行くダインは昨日にも増して周りから注目を集めている様で、偉そうに通路の中央を闊歩していた身なりの良い男が慌てて通路の端へと身を寄せたのは思わず笑みがこぼれてしまう。
ダイン 「避けるぐらいなら端を歩くべきですよね、すれ違う度に避けるのは非効率です」
プルル 「ダイン様には権威が通用しませんからね、彼、かなりの大貴族で目下の人間が避けるのを楽しみにしていたんですよ、彼自身が凄いわけじゃ無いのに」
ダイン 「大貴族なのに小さい男ですね」
プルル 「そう思います、でも彼はそれで自分の力を実感していたんですよ」
プルルは侮蔑の表情を浮かべて男の背中を見送っている、どうやら遊魔の思考がしっかりと根付いている様だ。
そして、城壁側の階段を登って警護の兵士を通り過ぎて上階に出ると、内装が一層豪華な物になる、この階より上は王族の居住区で一部屋一部屋の前に警護の兵士が配されている。
ダイン 「兵士の鎧に統一感が有りませんね、先程部屋の前の兵士は赤い鎧を着てましたが」
プルル 「使える主人によって、鎧が違うんですよ、ティアス様の兵士は何処か見覚え有りましたよね」
ダイン 「ああ、そういえばティアス様のポロルグと近い意匠が施されてましたね、アレがティアス様の色という奴ですか」
プルル 「はい、皆んな純白で処女騎士なんですよ、テガスから調達した専用のジーカを与えられてます」
ダイン 「ジーカを扱えるとはかなりの凄腕ですね、それにジーカという事はテガスの出身者ですか」
プルル 「そうじゃない人も居ますけど、殆どがそうです、ポロルグ出身も多いですから、他にはティアス派の貴族の子女とかですね、貴族の子女は家でマギガントの扱いを教わっていたりしますから」
ダイン 「フェカトはテガス出身と言ってましたが」
プルル 「ポロルグ出身以外にもティアス様の味方は居ますから、ポロルグは旧王族でもテガスで学ぶそうです」
ダイン 「ククジアという国は王族の権力が強いんですかね」
プルル 「その答えは此処じゃ言えませんよ、それにプルルだってククジアの王宮しか知りませんから、ティアス様ってポナリア使ってどっかに飛んで行きますから余りメイドのお供を連れないんですよ、ティアス様付きの騎士がジーカで付いて行く事は有りますけど」
ダイン 「なるほど、だから昨日は入れ替わったんですね」
プルル 「どうでしょう、でも、二人だけで話したかったんだと思います」
ダイン 「得体の知れない私に軽率じゃないですか」
プルル 「でもその先走りで成果も出してますからね、今回のティバーチにもティアス様が乗り込んで協定戦に持ち込んだんですよ、まぁクガト側のリエルの偵察意図が有ったでしょうけど、今回ダイン様を王都にお招きしたのも本心はこれかも知れません、ですがリエルが出ないという通達は昨日ありましたから」
ダイン 「ティアスの仕切りで敗北した方がクガトには利が有ったという事でしょうか、それともリエルが自分の意思でアーキアを優先したのかも、どちらにせよティアスが用意した協定戦なら、私も勝たないと行けませんね」
ダインは今回の協定戦に重責を感じている様だが、その顔は楽しそうでもある、そうダインは根本的に戦いを好む性質があるのだ、そしてマギガントというこの世界の兵器はダインの好みにとても即している。
プルル 「着きました、ラフェメさん怖い顔で見ないで下さい」
プルルがラフェメと呼び掛けた女騎士はダインよりも長身で細身の身体付きである、腰に下げた剣は柄の形状から予測すると斬るよりも突く事を目的とした突剣の様で、狭い通路では有効な武器に思える。
ラフェメ 「幾らティアス様のお許しが有ると言っても男性を部屋に招くのには抵抗が有ります」
ラフェメと呼ばれた女騎士は冷ややかに口にしたが、ダインの目はその内に潜む怒りの炎をちゃんと読みとっていた、昨日の部屋番がラフェメで無かった事を考えると、既にティアスの部屋に入ったダインが気に入らない様だ。
だが、既にティアスを手中に収めたダインにとってラフェメの怒りは滑稽で揶揄してみたくなる。
ダイン 「昨日はティアス様自ら私を部屋に連れ込まれましたので、警護の方が気に掛ける必要は有りませんよ、私が自分のモノだというアピールかも知れませんし」
そのダインの悪意にラフェメは感情を殺して冷静に振る舞う。
ラフェメ 「異世界人は貴重ですから、それに実力も伴っている様ですから、ティアス様の為に誠心誠意働いて下さい」
ダイン 「ティアス様は私の主じゃ有りませんよ、お互いの利害関係が一致しているので親しくしてますが、私も利用されるだけは嫌ですからね」
ラフェメ 「貴方、無礼ですよ」
ラフェメは腰の剣に手を掛けるが一旦堪える、すると中から扉が開いてティアスが跳び出て来る。
ティアス 「行けませんよラフェメ、ダインさんの常識は私達とは違うんですよ、で、何かされました?」
ダイン 「酷いですね、私も初対面の女性に無礼は働きませんよ」
ラフェメ 「この男、ティアス様に利用される事が嫌だと言いました、お側に置いて貰えるだけでも光栄なのに」
ティアス 「仕方有りませんよ、それにダインさんにはそう言える程の実力が有りますからね、だからティアスもちゃんと報いてダインさんを引き留めないと」
ティアスの言葉はラフェメを大きく動揺させていた、自分の言動はダインの機嫌を損ねる可能性が高いのだ、そうなってしまってはティアスに迷惑を掛けてしまう、だが、感情的にこの得体の知れない人物を余りティアスには近付けたく無いのも本心だった。
おまけ
ティアスの思惑 実は本来ティアスがダインを王都に招聘してやって欲しかったのは今回のエディケスとの協定戦であった。
クガトの重要な商品でもあるゾッフォの売買に関する事例ならば、クガト側も最大戦力であるリエルをゾッフォの騎士として使うと判断して比較の為にダイン招き寄せたのだ。
だが、その目論みは大きく外れ、クガトから王都にリエルが来訪する事は無かった、代わりにやって来たのがリレッタ・クガトでティアス側はみすみすダインの力量をクガト側へと知られる事となってしまった。
結果的にダインの行いによりクガト側の情報の多くを得る事になったのだが、ティアスの策謀は失敗に終わったと見るべきだろう。
しかし、遊魔と成ったティアスには王位を得る事はよりダインに尽す為の目標となり、人間時よりも執着してはいない、今のティアスはククジアの王位をダインに報いる為の手段としか考えていないのだ。