匂い立つ汚れた獅子おっさんがノンケだった普通の俺を獣に堕とすまでの話
凍てつく風が重ね着した背中を撫でる2月の下旬。氷点下の気温に包まれた駅に、煌々と明かりの灯る電車が停車する。
普通の仕事帰りにしては少し遅い時間ゆえに、乗降する人たちもほとんど見当たらない。開いたドアから吹き込む冷気に身震いしながら、面接試験として指定された会場で朝から晩まで拘束された体を持ち上げて列車を出る。
着慣れたスーツの上から分厚い黒灰色のコートを羽織って人気のないホームを歩くのは、大変だった卒論も提出し終え、あとは大学を卒業するだけ……だったはずの俺である。
乾いた空気の中、冷えたコンクリートを踏みしめる革靴の音が虚しく耳に響き渡る。日中とは比にならないほど肌を刺すような厳しい夜の寒さに、思わず白いため息が漏れた。
「はぁ……」
年末年始の繁忙期を乗り越え、人生最後の大学生活を謳歌する同級生たちが飲み会を開いてワイワイ騒いでいる中、俺はまだ終わらない就活の渦中にいたのである。
…と言っても実は一社だけ内定は取っているが、その企業はどうしても行く気にはなれなかった。いわゆる滑り止めという枠であって、もっと良い場所へ行けないかと粘っていたのである。
まあ当然のように良い結果なんて一つもなく、気づけばあと1ヶ月弱で社会人生活が始まってしまうという最悪の事態に陥っていたワケだが……
周りの友達は聞き覚えのある有名な企業や行きたい職種を見つけては早々に内定を決める中で、全く焦ることもなく就職活動をなあなあにしてしまったのがここに来て負い目になるとは。
だからといって学業も疎かにはできなかったが、仮にそれを除いたとしてもやるべきことはできたはず…なんて、今更どれだけ悔やんでも意味なんてないが。
ここに来て急に不安に駆られ、必死こいて空いている席をハイエナみたいに探し回っている自分が滑稽に思えてくる。
辛うじて一つ決まっているだけ運が良かったと言えるだろう。無職の浮浪者のようになることだけは避けられそうだが、実際俺がその企業で職を続けていけるかどうかは定かではない。
表向きは誰でも受け入れるというような感じだけど、裏では結構ヤバいとかなんとか言われているし。だからこそ俺は、最後まで諦め切ることができなかった。
いっそ地方でもなんでも良いから、もっとゆとりの持てそうな職場に出会えれば……
その時、ポケットの中で携帯が震えた。これまで四六時中何度も連絡に出まくっていた俺の手は条件反射でスマホを掴み取り、眩しい画面を見る。
見るとそれはメールの受信らしく、『採用面接の結果について』と書かれたタイトルが一番上に来ている。先日受けた企業の結果だった。
正直そこまで乗り気ではないが今決まっている所よりは十分マシだし、面接の雰囲気もそれなりに好感触だったし、今回こそは……!
という期待はとうに消え失せている。もはや合否のドキドキすら感じなくなっていた俺は、流れ作業のようにメールを開いて内容を確認した。
カサカサに乾いた指を動かし、スクロールする。そこに書かれていたのは几帳面に取り繕われた文脈と、視線を自然と吸い寄せる『不採用』の文字。
「はい、今回もダメでしたと……」
投げやりな言葉を呟き、俺は項垂れたまま帰路への徒歩を再開する。
慣れたとはいえどこの現実に打ちのめされて無敵な訳でもなく、妙な疲れが体を重くしたような気がした。夜の寒空の下で1人歩く俺の足取りが沈み、急激に寒さが体の芯まで浸食してくる。
本当に、この際もうどこでもいい。この不安を払拭してくれるほどの出会いが無いものか。
「いい職場に出会えないかなぁ。なんでもするから……なんつって」
ため息混じりに吐き捨てた言葉を反芻しながら、さっき送られてきたメールを再確認する。
採用漏れがあれば連絡するとか、もう一度面接したいとか書かれていれば、それはそれで希望が持てると思って……
「──あッ、とっ、ちょっ!?」
「おおっと、大丈夫か兄ちゃん?」
突然肩に衝撃が走り、あまりの出来事に後ずさってしまった。転びそうになったのをなんとか耐え、すぐさま歩行者の方に頭を下げて謝る。
「すっ、すみません!前見てなくて…」
「なーに気にすんなって!オレぁ頑丈だからよ、それより兄ちゃんの方こそ大丈夫か?」
良かった。時間的にも遅いから変な人に絡まれてしまったと思ったが、大丈夫なようだ。
採用落ちのダメージに加えて、これ以上何かあれば本当に気に病んでしまいそうだったので助かった。ぱんぱんと手のひらについた汚れを払い、声をかけられた方を見る。
「……あ」
その時俺は、一瞬だけ声が出せなくなった。目の前にいたのは同じ背丈の人間じゃなくて、それよりも大きな体躯を誇る獣人だったからだ。
運悪く街灯もない細道のせいで暗くてよく見えないが、シルエット的にライオンだろうか?
「悪ぃな、驚かせちまったか?こんなイカついオッサンが夜に彷徨いてる方が怖いもんな」
「いっ、いえっ!あの、その…本当に申し訳なくて…」
俺はあたふたとしながら両手を左右に振る。言っておくが、別に獣人だからといって焦っている訳ではない。この世界には獣人がいることが当たり前だし、俺だって友達も何人かいる。
けれどあまりの慌てようだったのか、獣人のおっちゃんは肩に手をポンと乗せて話しかけてくれた。
「そーかそーか、ありがとな。けどこんな時間だし、兄ちゃんも夜道には気をつけるんだぞ」
「えっ……あ、はい…」
「うん、それじゃまたな!」
そう言うと彼はくるりと身を翻し、ガニ股で歩きながら遠ざかっていく。優しい人でよかったと胸を撫で下ろす俺だが、同時に違和感というか、申し訳ないが少し嫌な気持ちになってしまった。
あの人が俺の方を叩いた瞬間、微かに巻き上げた風と共に鼻を刺すような異臭を感じたのだ。卵が腐ったような、スルメの袋を開けた時のような饐えた匂いだった。
暗がりの中で微かに見えた彼の服はボロボロに禿げて茶ばんだツナギみたいだったし、そもそもこんな冬の夜に上着も着ずに1人で歩いている時点できっとそうなのだろう。
「ホームレス…だったのかな」
俺も、この先の未来に失敗したらああなってしまうのだろうか。住む家も金もなくて、こんな寒い日なのに外で寝るしかない。
申し訳ないけど、あんな生活はしたくないな。
ならば今の状況にめげず最後まで踏ん張らないといけないし、もしダメだったとしても必死こいて働くしかないんだ。
どうしようもできない他人の不幸を糧にするのはダメだと分かっていながらも、そのおかげで挫けかけていた心を持ち直すことができた。
たった一瞬の出来事だったが、あのおっさんに感謝したい。そう思いながら目と鼻の先にある自分の住む部屋へ向かう。
その時だった。
「───ッ!!!?」
突然肩を掴まれた俺は無理やり体を振り向かされ、見えない何かに目の前を塞がれた。
正確に言えば、塞がれたのは口だった。唇に感じたムニッとしたゴムのようなそれはひどく湿っていて、何が何だか分からないままあっという間に口をこじ開けられる。
「ん、ぐふっ、んちゅ、うっ……」
一瞬の隙も見せないその物体が俺の口内を舌もろともぐちゅぐちゅと掻き回し、経験したことのない気持ち悪さに意識が飛びかける。それでも後頭部にかかる圧力が逃げ場をなくし、引き寄せられる形で俺は人生で初めてのディープキスをしてしまった。
いや、されてしまったという方が正しいか。
そんなものが10秒以上も続いてしまえば、経験もなければ耐性すらない俺は簡単に腰が抜けてしまう。あんなに寒かったはずの体は異様に火照り、ワイシャツの内側が熱で籠っていた。
「へへっ、すまんな。ちらっと見えた兄ちゃんの顔がめっちゃ好みでなぁ?思わずやっちまった」
「な……ぇ、なに、をっ………」
俺の脳はつい数十秒前に起きた事態をまだ理解できず、返す言葉が思い浮かんでこない。
男と男、人間と獣人、こんな夜の路地でキスなんて。理解できる方がおかしいに決まってる。絶対に変質者だ、早く警察に電話しないと──
「…っく、ぁぁ……」
なのに、俺の体は糸が切れた人形みたいに動かなかった。それはキスをした衝撃と、それを理解できない恐怖を感じていたからだろう。
しかし、そんな事がちっぽけに思えてしまうほどの大きな要因があった。
「でも兄ちゃん、オレがあんなに近づいたのにニオイで気絶しないとは…なかなかに見る目あるぜ」
キスの瞬間に深く入り込まれた、俺のパーソナルスペースを満たした匂い。鼻と鼻が触れ合うほど近くなったおっさんの体から放たれる匂いが、あまりにも強烈すぎたせいで立てなかったんだ。
一度に流し込まれた情報量に耐え切れないまま見上げる彼の瞳は、街灯もないのに光っているような気がして。
まるで自分が、獲物にでもなった気分だった。
「なっ、何言ってるんですか…見る目って……」
「ふむ…よし、お前に決めたぜ。んじゃ早速行くか」
「え、ちょ、なっ、何しようとして…うわわッ!!?」
俺の言葉なんか聞かず、その獅子おっさんは俺を女の子みたいに軽々とお姫様抱っこした。これは夢なんじゃないかと思いたいが、そう考える暇もないくらいに展開が早すぎる。
こんなことされた経験なんてないしそもそも望んだことだってないのに、どうしてよりによってこんなむさ苦しい獣人のおっさんなんかに…!
俺は必死に抵抗しようとするも彼の力は強く、ぎゅうっと大きな手で肩を引き寄せられてしまえば腕なんか開かなくて。
そのまま騒げないようその手で俺の口を塞ぎ、どこかへと歩き出した。意味不明でも自分が危機的な状況にいることぐらい理解している、だから俺は全力で暴れようとした。
しかし獣人の、しかも俺より遥かに体格があるおっさんに勝てるはずなどなく、それよりも塞がれた手から漂う激臭に鼻が曲がりそうだった俺はまともな呼吸をすることすらできない。
酸素の薄くなった脳は次第に沈んでいき、次の対抗策さえも考えられないまま、俺は意識を手放してしまうのだった。
───
「……う…ぁ、あれ…?」
意識が浮上した瞬間、ここが外ではないことは分かった。頬に触れる柔らかな触り心地のベッドと、見たことのない色の壁。
見慣れたはずの自分の部屋ではない。そう思い始めた時から、俺の意識はどんどん悪い方向へと広がっていった。
「え……ここ、どこ…?」
「おっ、目ェ覚ましたか兄ちゃん」
野太い声が背中側から聞こえる。どうやら俺はベッドの上でうつ伏せになっているらしく、腰あたりを大きな手のひらで押さえつけられていた。
しかもあんなに着込んでいたはずの服がなく、文字通りの丸裸にされている。この事実だけで、俺は自分が置かれた状況をそれとなく悟ってしまった。
「な、何してるんですか!?こんなの犯罪ですよ!!」
「あァン?んなこたぁ分かってるよ。それを了承した上でやってんだ、別にどうってことねぇな」
「はぁ!?何言って……んひっ!?」
遠慮もクソもない獅子おっさんは俺の尻を揉みしだいたかと思うと、いきなり尻穴に何か突っ込んで来た。それは中でうねうねと動いて、腹の中がとてつもない圧迫感で気持ち悪くなる。
意味が分からない、そこは排泄する場所なのにどうして逆から何かを入れたんだこの人。頭おかしいのか!?
だが今の自分の状況を理解できても、それを上回る展開についていけないし抵抗もできない。
何より部屋の中は普通のホテルと同様なのに、まるで1週間放置されたかのような鬱屈とした匂いが充満していた。今すぐにでも換気しなければ、重たい空気に肺がどうにかなってしまいそうだった。
そんなことを考えている間にも尻の中はぐにぐにと弄られ、自分でも分かるほど拡げられているのが嫌でも分かり、気が狂いそうになる。しかし俺の体に異変が起きていたことに気づいたのは、もう少し時間が経ってからだった。
冬に裸でいるのに、全く寒くないのだ。むしろ暑いくらいだった。
暖房が付いているのかと思ってエアコンを見れば稼働していないし、かといって自分が風邪をひいている感じはしない。
何だこれ、何で……?
「へへ、やっとほぐれてきたな。安心しとけ、俺がちゃんと気持ちよくしてやるからよ」
「……や…やめ、あっ、んんっ…」
おっさんの言われた通りに、俺の体は次第に変な感じになっていた。尻穴の方ではくちゅくちゅと気持ち悪い音を立てながら弄られているのに、頭の方は一方的にぼうっとしていく。
なのに体は敏感で、おっさんの湿った指が背中をなぞる度にゾクゾクとした感覚が全身を刺激した。ベッドに突っ伏している腕に力が入らなくなって、顔面がどんどん沈み込んでしまう。
「気分良くなってきただろ?オレのフェロモンは普通の獣人よりはちょいと効き目が強いからな」
そう言いながらおっさんは俺の首元まで近づき、わざとらしく舌なめずりをする。間近で見てしまったケダモノの涎が生々しく、背中側からでも匂ってくる体臭から逃げるべく鼻をベッドに埋めた。
なんで俺は今、こんな気色悪いことをされてるんだ…!?この変態を早く警察に通報したいのに、体が言うことを聞いてくれない。
獣人のフェロモンは人間に対してこんなにも強い作用を示すのかと疑問に思えてしまう。
しかしその思考は、俺の肛門に対する唐突な物体の接着によって消え去った。
「!!?……な、なっ、何する気だよアンタ!?」
「何って、セックスに決まってんだろ。大丈夫だ、オレがちゃあんと兄ちゃんにケツの気持ちよさを教えてやるからよ」
振り返ればもう、このおっさんは股間に片手を伸ばして構えていた。俺の尻へとその視線を向けて、赤らんだ顔で笑っている。
本気だ。この人、本気で俺を犯す気だ。
絶望的な状況にいることを理解した脳は、考えうる最悪の事態を一瞬で予測する。しかし逃走したくても体が動くことはなく、できることといえばぎゅっとシーツを握るだけだった。
「そ、そんなっ…嘘だ、俺っ、男なのに…!!」
「気持ちいいコトすんのに男も女も関係ねーぞ。それにあの時、兄ちゃんには素質があるってオレは確信したから心配すんなって」
必死の思いで首を持ち上げ、俺の体を支配しようとする声の主を見る。そこには確かに、黄土色の毛皮に包まれた屈強な獅子獣人の体があった。
あんなボロボロの作業着を着ていたにしては想像がつかないぐらい、立派な肉体。こんなんじゃ俺が勝てないのなんて分かりきってしまうほどだ。
そして一番印象に残ったのが、彼の胸元。もっさりと膨らむように生えた黒っぽい毛皮は彼の首周りを囲う鬣と一体化しており、もはや胸毛と呼ぶにはあまりにもかけ離れたものだった。
それは彼の中心を縦断するように生え続け、臍の辺りにまで生えているように見える。
人間では到底考えられないような肉体の光景に、張り詰めていた不安と緊張の糸がぷつりと切れた。
「いや、いやっ……やめろ犯罪者!変態!!誰かっ、誰か助け──ぐぇっ!!」
恐怖に慄いた感情に飲まれ、俺はまるで子供みたいに叫び散らかす。いとも容易く砕かれた心が起こした突飛な行動にイラついたのか、獅子のおっさんは力強く俺の喉を手で押し潰した。
肺から空気が全部押し出されて息ができない。なんとか酸素を求めようと口がぱくぱく開いてしまう。
「うるせぇ兄ちゃんだな。すぐに気持ちよくなんだからちょっと黙ってろや」
「ま、やっ……がふっ!?」
その言葉の後に、俺は口に何かを突っ込まれた。反射的に押し出そうとするもおっさんの手に顎を掴まれ、無理やり嚙まされる。
瞬間、口の中にじゅわりと滲む塩辛い液体に舌が混乱する。条件反射で涎が分泌され、その液体と混じり合い、行き場のないそれは一気に喉を通ってしまった。
何を飲んだかなんて、口から鼻に通り抜ける異様なアンモニア臭によって理解してしまうに決まってる。ましてや相手がこの変態おっさんなのだから、それしか思いつくことができなかった。
「オレがさっきまで履いてたトランクスだぜ。1ヶ月近く洗ってねぇからいい味染みてただろ?」
「……がぇ゛っ、ゲホッ…!!」
「えずくなよ?吐いたら雰囲気が台無しになっちまうからな。ホラ、大きく息吸って、吐いて、深呼吸だ」
もはや理解すらしようと思えなかった。
男が履いてたパンツを口に入れられた?1ヶ月洗ってない?頭イカれてんのかこの人は。
しかしその事実を受け入れれば受け入れるほど、胃から込み上げる嗚咽に涙が出る。それでも体は嘔吐しないことを優先し、おっさんの言う通りに深呼吸を進めてしまう。
繰り返すほどに口内で質量を増す腐った匂いに、鼻と肺が穢れていく気がする。さっきまで俺は電車で帰っていたはずなのに、どうして今こんな目に遭っているんだと無意味な自問自答が始まろうとしていた。
「よしよし、そのまま力抜いてろよ……」
「……が…あ……!」
生死の淵をギリギリで彷徨っていた俺でも分かる、肛門に生ぬるい何かが当たった感覚。しかしこの状況ではどう足掻いても抵抗できなかった俺には、受け入れる以外の道は残されていなかった。
ずぶ…と今まで外から開けたことのなかった場所が開かれていく。口の中にあるトランクスの臭いのせいで痛みなんて感じている暇はなく、圧迫感だけが俺の腹を押し拡げていった。
「んん…お、おぉ゛〜〜っ……やっぱ初モンのキツキツ具合はたまらねぇなぁ…チンポきゅうきゅう締め付けてきやがる…!」
俺だって女の子にチンポを入れる人生を送るはずだったのに、どうして挿れられる方が先なんだ。もしかしてこれは夢か、採用落ちが辛すぎて現実逃避しているのかという考えしか浮かんでこない。
それでも尻の中に入ってくるおっさんのブツは太くて、長くて、まさに獣人の逸物と言っても過言ではないほど立派だった。勃起しているはずなのに妙に柔らかく、ねっとりしていて気持ち悪い…
違う、そんな感想を抱いている場合ではない。これで気持ち良くなるなんて信じられない、むしろ男性恐怖症になりそうで怖くなる。
それでも結局俺は状況すら整理できないまま、ベッドの上でうつ伏せになって体を沈めるだけの人形になっていたが、それはおっさんの熱を持った言葉によって終わりを告げた。
「ふぅ〜…なぁ分かるか?兄ちゃんのケツ、俺の自慢のチンポをすっかり根元まで咥えちまったぜ?やっぱり俺の目は間違ってなかったってことになるなぁ」
「ひ、ひがう…おれは……!」
「へへ、モゴモゴ言ってて可愛いなぁ…それに、兄ちゃんもしっかりボッキしてるの知ってるか?」
「………へっ…?」
獅子おっさんの毛むくじゃらで重たい体が、ゆっくりとのしかかっていく。挿入されたブツがさらに奥までメリメリと腸内をこじ開ける痛みはおっさんのドギツい体臭にかき消され、いやらしい手つきで俺の男根を触ってきた。
もちろんトランクスを吐き出せないよう片手はガッチリ口を押さえつけたままで。鼻先に触れる指がやけにざらざらしていたが、それが汗だとかじゃないと願いたかった。
「ほらほら、我慢汁まで流しちゃってよぉ。そんなにオレのこと好きだったのか?」
「だ、だから、ひがうって……あ゛ッ!!」
だが今の俺は自身のソレが固くなっていたことが信じられなくて、汚された口で必死に弁解する。それでしか反論する方法がなかったのに、おっさんはそれを弄ぶようにして俺のちんぽをぐりぐりとこね回してくる。
敏感になった亀頭を指の腹で撫でられてしまっては流石の俺だって耐えられる気がしない。しかもこのおっさんは慣れているかのような手つきなのがまた憎たらしいのに、抗えず快感を求めてしまっている自分に余計嫌気が差した。
「あ゛、ひゃっ、や…やめっ……!」
「大丈夫だ、少しずつ気持ちよくなってくからよ。ってか既に動かしてるからな」
「え、えっ…!?」
その言葉に、意識が急に下腹部へと向く。感じたのはずるずると腸壁が擦られる違和感と、抜けそうになった逸物に括約筋が収縮する反応だった。
しかしその願いは叶わず、ぐちゅっ、ぐちゅっと再び無理やり押し込まれていく。意に反した感覚に脳がおかしくなりそうで、弄られ続けている俺のちんぽから広がる快感に腰がビクビクと震えてしまう。
「あ、あっ、あっ…んあっ、やっ…!」
完全に犯されていた。尻穴を使われて、女みたいに喘いで。どこの誰かも知らない獣人のおっさんに、セックスされていたのだ。
ケツの中のある部分を押しつぶされるだけで、我慢したくても勝手に声が出てしまう。耐えられないことが悔しいのに体は受け入れたように抵抗を止め、途端に恥ずかしくなった俺は思わずベッドに顔を突っ伏す。
「おっ、なんだァ兄ちゃん、気持ち良すぎてもう声が出ないってか?」
「………っ」
違う、そんなわけないだろ。
無言の拒否を貫いた俺だったが、おっさんの抽送が止まることはなかった。本物の獣みたいにハッハッと息を荒げながら腰を打ちつけている。
俺も俺ですっかり慣れてしまった尻穴が悔しくて仕方なかったが、ここまで来てしまったらもう引き返せないのだろうと割り切るしかなかった。もう、半分諦めていたのだ。
[[rb:悉 > ことごと]]く失敗した就活に疲れ果てていた上、知らない雄獣人に犯されるなんて経験をした俺は、もうどうにでもなってしまえと自暴自棄になっていた。
泣きっ面に蜂にも程がある。俺はきっと人生の負け組なんだと理解して熱くなった目頭をシーツに擦り付け、腹を押し上げる圧迫感にひたすら耐えようとした。
だがおっさんの限界はすぐそこまで来ていたらしく、下腹部で小刻みにビクビクと震えた直後、彼が声を上げた。
「あー畜生ッ、兄ちゃんのケツ気持ち良すぎてもう耐えられねぇっ!イくぞ、まずは上澄み液からだっ!!」
「───ッッあ゛!!!?」
ズドンと胃のすぐ下まで届いた衝撃に驚いた俺は絶叫しながら体を弓なりに起こすが、すぐにおっさんの手がベッドに押し倒した。尻には完全に湿った毛皮…おそらく陰毛が押しつけられ、本気で奥まで入っているのだと自覚し恐怖する。
「さぁイくぞ兄ちゃんっ!ん゛……おぉ゛〜ッ、イくイくッ、イぐぅッッ!!」
しかしその猶予はすぐに終わり、おっさんの卑猥な言葉と共に尻の中で熱い何かが弾け飛んだ。ビュルッ、ビュッと不規則に吐き出す間欠泉のような粘液が俺の直腸を満たしていくのが分かる。
中出しされた。本気でやられてしまった。
女の子を抱くよりも先に、こんな汚い獅子獣人のおっさんに種付けされてしまったのだ。
なのに、なのに。俺のちんぽはさっきからずっと痛いくらいに固くて、まるで男に抱かれて興奮しているかのような反応を示していた。
嘘だ、こんなのあり得ない。言葉ではそう言えても、意識で制御できない俺の体がありありと事実を示しているのだ。
どうしてと理由を考えるよりも、既にこうなってしまった自分を嘆くことしか出来なかった。
「はぁ、はぁっ、はぁっ…兄ちゃんのケツ、めちゃくちゃ気持ちよかったぜ。オレもこんなすぐにイくとは思わなかったぞ…」
「……うっ、ううっ…ぐっ…」
そんな賞賛されても、男好きじゃない俺にとっては素直に受け取れるはずがない。ぼろぼろとこぼれ落ちる涙だけが返答となり、俺は一言も発せずにいた。
学生生活最後にこんな経験をするなんて、誰が予想できただろうか。もはや警察に行く気力も無くなり、ただ泣き続けるしか出来なかった。
「……っうぁ!?」
気持ちの整理もつかないまま、唐突に視界が揺らぐ。体が勢いよく引き寄せられ、ぶつかったのは獣毛に覆われた汗まみれの毛皮。
顔は直接付いていないはずなのに、鼻の穴の中に思い切り体臭の塊を詰め込まれたような感覚は初めてだった。それはこのおっさんの匂いが、異常なまでに彼の周囲を漂っているということを示している。
あり得ない匂いだろこれ。ホームレスってこんなにも汚いのか?
俺はこんな人にチンポを挿れられてしまったのかという事実に、弱った心がさらにボロボロと剥がれ落ちていく気がする。
それでも残った理性で早くこの場から離れようとするが、気づいた時にはおっさんの太い腕がガッチリと俺の肩を掴んでいた。
「おい、何すんだよ!!離せっ!臭ぇんだよ!」
「いやー?離さねぇぜ、兄ちゃんは今日オレと一緒に寝るんだからなぁ」
「は!?おい、ふざけんなよ!!犯罪だって言っ……うぇ゛っ、ゲホッ!!」
必死に声を荒げて反論した俺だったが、獅子のおっさんは無言で俺を抱き枕かのように両腕で包み込んできた。体格で勝てる訳もない人間の俺は抵抗すら出来ず、さっきよりもおっさんとの距離が近くなっただけで嗚咽した。
「久しぶりに激しくヤったから疲れちまってなぁ……先に…寝るぜ……」
「はっ、えっ!?おい、待てよ!嘘だろ!!」
その願いも叶わず、おっさんはすぐに眠りについたのが分かった。車のエンジン音みたいな鼾と鼻息の風圧が首筋に当たり、雄獣人に抱きしめられているという実感が沸いてしまう。
それに互いに素っ裸のままで寝ているせいで、太ももの裏に触れているおっさんのブツが気持ち悪くてたまらなかった。
それでも体は動かず、半分拘束されたような形で固定されてしまった俺はどうすることもできない。混乱と恐怖の渦に巻き込まれた心は、とっくに限界を迎えていた。
「う…ひっぐ、う゛ぅっ……なんで、なんでこんな目に遭ってんだよ…俺が何したってんだよぉ…!」
強すぎる獣人の匂いに、まるで俺の体から染み出しているように錯覚する。普通の動物のような、それでも遥かにかけ離れた類の激臭にとめどなく涙が出てしまう。
社会人目前の男が子供みたいにわんわん泣きじゃくっているのに、鼾をかいて起きる気配が全くないおっさんの様子に余計絶望した。
もう、全てを諦めてしまった方が早いんじゃないか。抵抗しても無駄だという事実をこんなにも突きつけられておいて、体力自慢でもない俺が何か脱出の糸口を見つけようとしても無理だ。
尻に込めていた力が抜け、生暖かい粘着質の液体が流れていく。どうにでもなれと思っていた俺は、全てを投げ出して眠ることを決めたのだった。
[newpage]
「ふあ、ぁ……ん゛ん〜…おはよう兄ちゃん…」
頭の上から、しゃがれたおっさんの声が聞こえる。完全な寝起きとでも言うように弱々しいが、腹の底にまで響くような重低音に獣人らしさを感じざるを得ない。
寝ている間ずっと俺の肩から離れなかった腕がようやく動いたかと思えば、軽く頭を撫でられたような気がする。そんな俺の心は、昨日の出来事が夢ではなかったのだという現実に押し潰されそうになっていた。
「昨日は眠れたか?」
「…………眠れたと思うのか?」
ホテルの天井に取り付けられた小さなシャンデリアを見ていた俺は、ぽつりと小さく呟いた。
そんな俺の目元にはきっと、青黒いクマがあることだろう。見なくても分かるのは、俺自身が一睡もできなかったことを理解していたから。
「あ〜やっぱりキツかったか。すまねぇなぁ」
「マジで何なんだよもう……」
単刀直入に言えば、抱きつかれた獅子おっさんから漂う体臭がキツすぎて眠れなかった、だろうか。匂いが眠れない理由になるなんて考えたこともないんだが?
まるで下水道の中で寝ているようだったと言っても過言ではない。眠くて目を閉じても、呼吸をするたびに脳が強制的に覚醒してしまう。
鼻の奥まで突き刺すような強すぎる匂いにいちいち起きてしまい、ろくな休息を取ることすらままならなかった。
人生で一番最悪の目覚めと言ってもいい。ほとんど寝てない状態だけど。
だというのに、俺の顔を覗き込む獅子の顔は全く反省していない表情を浮かべている。明るくなって初めて気づいたが、この人の鬣は墨でもぶちまけたかのように黒かった。
ライオンってもっと、黄金色みたいなイメージじゃなかったっけか……?
「ま、じきに慣れてくるさ。とりあえず一発しゃぶってくれるか?」
「……………は?」
その言葉に、乾いた俺の喉から聞いたこともない裏声が飛び出る。ここは現実じゃないという推測が光の速さで浮かんでは消え、目の前の汚い獅子おっさんは軽い口調で言った。
「見て分かるだろ?朝からビンビンなんでなぁ、よろしく頼むぜ」
寝不足で頭の整理も追いつかず、休息の実感すら湧かない俺は、ぐいっと肩を掴まれて体を起こされる。既に辺りを漂っていた体臭に慣れてしまった自分に愕然としながらも、視界を埋めてきた獅子獣人の体に視線が移ってしまった。
泥に塗れたような毛皮に覆われた体は意外にも屈強で、鍛えられた腹筋や胸板がやけに目立つ。所々に見える黒い染みはよく分からないが、どちらにせよ絶対に触りたくない質感なのは間違いなかった。
獣人の毛皮にしてはとっ散らかっていて長さもまちまちだし、鈍い光を放ってツヤツヤしているのを見るに、丁寧に手入れされていないことが分かる。
あれはきっと体から染み出す皮脂による光沢だろうと、男の俺は即座に理解した。
つまりこの人、ここ最近は絶対に体を洗っていない。初対面でそう分かってしまうほどの汚らしい光り方に、引くどころか諦めの気持ちすら覚えてしまう。
ホームレスという実態をここまで間近に感じてしまった俺は、眠れなかった疲労も相まって声すら出せなくなっていた。
そして彼の体で一番目立つ部分。獅子の誇りを最大限に体現したかのようなその鬣は、俺の顔なんかすっぽり入ってしまうのではないかと思えるほど異常な毛量だった。
もちろん首は完全に隠れているし、胸の大部分までもが侵食されている文字通りのジャングルそのもので、乳首すら見当たらない。加えて毛先にはたくさんの白い垢のようなものが見えた気がしたが、もし本当だとしても見間違いだと信じたかった。
そこを起点とした豊かな毛束の山々の連なりを、気づけば自然と目で追ってしまっていて。胸筋の谷間を抜けて腹筋をも越え、途切れることなく下腹部の方にまでずっと続いていた。
昨日暗がりの中で見えたあの姿は夢ではなかったと同時に、別の絶望が俺の心の中で生まれてもいた。
鬣よりも量は劣るが、逆扇子のような形をしてたっぷりと下腹部に生え揃っている焦茶色の陰毛。まるで臍から下を守る下着なのではと見間違えそうになるほどだった。
鬣と陰毛が繋がっている獅子獣人なんて、見たこともなければ考えたこともない。それ故に、頭の中にある常識が音を立てて崩れ落ちていくような気がした。
その中心で天を向いている、太く長い逸物。黒ずんだ皮に浮き立つ血管はミミズのようで、大量の陰毛によって根元は見えない。
それでも人間よりも明らかに大きく膨らんだ赤黒い肉の凶器に、開いた口が塞がらなかった。
冬の朝の寒さも、採用落ちした悲しみも、昨日起きた最悪な出来事も。
全部忘れてしまうほどの光景が、目の前に広がっていた。
「あ……いや…………無理……」
小さな、とても小さな俺の声が、虚しく響く。
本音がこぼれたというより、もはや捻り出されたに近いかもしれない。
昨日アレを体の中に突っ込まれたのかと思うと、背筋の神経に虫が這ったかのような悪寒が止まらなくなり、胸の奥がじくじくと痛みを発した。
男根と呼んで良いのか分からなくなるほど汚れ、黒く淫水焼けしたソレは…もはやモノとすら呼べないのではないかとまで思えるほどの代物だった。
「いやいや、昨日あんだけ下の口で咥えてもらったモンなんだからよォ。嘘はよくねぇなぁ」
「えっ、いや、ちがっ………んぶっ!!」
恐怖で動けない俺は、自分の後頭部が押さえられた瞬間、死を悟った。身体的ではなく、精神的な。
もしゃっ、とした聞いたことない音と共に、鼻先が何かに閉じ込められる。いけない、俺は今呼吸してはいけないと体中が一斉に警告音を鳴らし、咄嗟に目を瞑った。
「仕方ねぇな。じゃあすぐにはしゃぶらなくていいから、まずはニオイに慣れてくれや」
俺の頭を掴んだ手が、マーキングでもするかのようにゆっくりと顔を蒸れた陰毛に擦り付けていく。しまったと後悔しても既に遅く、力の強い彼の手から逃れることはできなくなっていた。
ダメだ、息をするな、吸ったら鼻が死ぬ。永久に、使い物にならなくなる。
「息、止めてたら死ぬぜ?」
しかしたったその一言が、決死の覚悟を固めていた俺の気持ちを焦らせる。死にたくない、このままでは窒息すると生に急いだせいで余計に息が鼻と口から漏れ、残りの酸素量が一気に減った。
とすれば、今すぐにでも外から取り込まなければ死んでしまう。息をしなければ俺は死ぬ。
だけど俺は、きっと息を吸っても終わりなのだろうと分かっていた。それなら、このまま気を失ってしまった方が楽なのではないかと意識を手放す準備を始める。
だが、生きようと必死にもがく体の本能は意識で制御出来るはずがなく。ギリギリまで粘っていた精神は死の恐怖に挫かれ、一瞬の油断を許した俺は空気を吸い込んでしまう。
「──っ──────」
その瞬間、俺の意識はぷつりと途切れた。
─────
臭い……
息ができない……
口の中が何かでいっぱいで、気持ち悪い。
むにむにしているのに硬くて、粘ついた液体が舌にまとわりついているような気がする。
離れたいのに離れない。いや違う、離れさせてくれなかった。
俺の意思ではない別の力で制御されているのを自覚した瞬間、薄れかけていた意識が急激に浮上していく。
最後に気を失った場所を思い出しながら。
「ん゛んッッ!!ふぐっ、んう゛ぅ〜ッ!」
「おっ、やっと起きたか兄ちゃん。待ちくたびれたぜ」
覚醒と同時に激しく暴れた俺は、ここがどこで、自分が今何をされているかを即座に理解した。だからといって状況が変わるわけでも何でもないのだが。
だが男のチンコを口に入れられたことなんてなかった俺にとって、この時間は昨日よりも辛かった。雄の汚い部分の感触や温度を、これ以上ないほど直接的に感じさせられているのだから。
それでも視界はジメジメした密林のような獣毛で塞がれ、鼻から入り込む吐きそうな匂いに俺は悶えることしかできない。今もなお口内を圧迫する生ぬるい棒に触れないよう引っ込めた舌は、鈍い痛みを発していた。
「1ヶ月じっくり熟成させといたからなぁ、イイ感じに味が染みてるだろ」
「ん゛っ、んんっむ゛!!?」
「ガッハハ!!やっぱイイねぇその反応!けど安心しな兄ちゃん、これからそのニオイが好きになってくんだぜ」
俺は必死に抵抗した。めり込まれた顔を[[rb:捩 > よじ]]り、両手を使って獅子おっさんの股座からなんとしてでも抜け出そうと試みる。
ふざけんな、冗談じゃない。こんな匂いが好きになるなんて廃人にも等しいと、怒りにも似た感情を爆発させながら。
実際俺は絶対にそうなりたくないし、とにかく早くここから離れたいという考えしか浮かんでこない。無駄だと分かっていても、何かの手違いで引き抜けてくれと祈りながら顔を引く。
そんな俺を可愛がるようにおっさんはまたポンポンと頭を軽く叩いたかと思えば、祈りが届いたのかいきなり口がおっさんのぶっといチンコから離れた。
「ッッぶっはぁぁっ!!あ゛ッ、はぁっ、う、あれっ……?」
行動が読めない。この人は俺に何をさせたいのか考えることもできずにいたが、新鮮な空気が吸えることに市場の喜びを感じていた俺は必死に呼吸を繰り返した。
「改めておはよう、寺松千晶。オレのニオイはどうだった?」
「はっ、はぁっ、クソ臭すぎるに決まってんだろ!……いや、えっ、なんで俺の名前…?」
「ちょっと確認させてもらっちまったぜ、ゴメンな。あっ、心配しなくても金は取ってないから安心してくれ」
そう言われて渡された俺の財布。慌てて中を見ると、昨日と全く同じ金額が入っていた。
幸か不幸か、この人は金目的で俺を攫ったわけではないらしい。もしそうなら昨日の夜に奪って逃げられたはずだ。
となるとやはりこのおっさんは、俺をいきなり拉致して性行為に及んだ変態ってことになるのか…?
いや、そっちの方がどう考えてもおかしいことに変わりはないが。
「これで少しは疑いも晴れたか?」
「んなわけないだろ。むしろアンタが警察に突き出すべきクソ野郎ってことだけは分かったよ…!」
「ほぉ、言ってくれるじゃねぇか。昨日はあんだけ気持ち良さそうに喘いでたんだけどなぁ〜?」
俺は顔に添えられた手を強く払いのけたが、不意に思い出してしまった自分の痴態に言葉が詰まってしまう。自分でも引くぐらい喘いでおきながら、この後に及んでそうじゃないと否定するのも恥ずかしい。
でも、俺は別にホモなんかじゃない。女の子で興奮して射精する普通の男なのだと自らに言い聞かせるように反論したが、おっさんは全く聞き入れていない様子だった。
「ちっ、まだ分かってねぇみたいだな?まあいいぜ、時間はたっぷりあるからな」
「……え、まっ…ぐぁっ!!!」
唸るような低い声の返答に身構えた俺は無意識に後退するが、瞬く間に獣人の大きな手で頭を掴まれて引き寄せられた。首筋に走った鈍い痛みは、目の前に現れた獅子獣人のチンコによってかき消される。
「へへ、これを1ヶ月ぶりに開く時が一番ワクワクするんだよなぁ…よーく見とけよ兄ちゃん」
俺の目と鼻の先にある、膨張した獅子おっさんの肉棒。昂っているのか既に透明な液体がトロトロと流れ出ている仮性包茎の蕾が、ゆっくりと剥かれていく。
「………は……ウソ、だろ………」
掠れた声が出るのも無理はない、と自分で思えてしまうほど、その光景は衝撃的だった。
悔しいが形的には綺麗な亀頭なのだが、その周りにこびりついている大量の白い残滓。ズグズグになった豆腐を丸ごと擦り付けたような、男なら見ただけで分かる汚れた塊が、まるでカビのようにカリ首の部分を覆い尽くしていたのだ。
周りを漂う歪な匂いに頭…じゃない、脳がくらっとした。視界がぐらついて、平衡感覚が一瞬狂いかける。そんな、匂いだけで目眩がするなんてことあり得るのか?
信じられない。見たことがない。このチンコは生きている人のものかと疑ってしまうような見た目に、声を失ってしまう。
待て、じゃあ俺はさっきまでこの言葉にもならない汚物を咥えていた……?
そう思った瞬間、頭の中が沸騰するように熱くなって、急激に胃から苦い水が込み上げてくる。口の中で僅かに残る腐敗臭に、俺の中にある大切な何かが失われたような気がした。
「オレは体洗うのが大っ嫌いだが、セックス出来なくなるのは御免だからチンポだけは月イチで洗ってるんだ。ま、洗うっつっても仕事仲間にしゃぶってもらうんだけどな」
「何だよ、これ…イヤだ、助けて…っ……!」
本能が感じ取っていた恐怖を、俺の口がそのまま代弁する。頬に流れた涙が、ひどく冷たく感じた。
このおっさんは、やはり頭が狂っているとしか思えなかった。いや、そもそもホームレスなのであれば体を洗わないのが当然か。
そんな人に拉致られてセックスされた挙句チンポを舐めろと言われるとか、この世はどうかしてる。まだ恋人も作ったことがない俺にとってはキスすら未経験だったというのに、どうして獣人のおっさんなんかに使われなきゃいけないんだと意味不明な怒りすら覚えた。
やっぱりこれは夢なのだろうか。まだ俺の体は昨日の夜に置き去りになっていて、凍える寒さの中でうずくまっているのかと思いたくなる。
けれど体の感覚は確かにあって、五感もハッキリしていることが自分でも理解できている以上、この瞬間も現実であるということを否定できない。
俺は早く仕事を探して就活を終わらせないといけないというのに、どうしてこんなホモ野郎に絡まれてるんだ?俺はどこで道を間違え……
……仕事?この人さっき、仕事仲間って言ってなかったか…?
じゃあこのおっさんは、ホームレスじゃない?
違和感に気がついたのも束の間、ホテルのベッドに体をもたれ掛ける彼が呟いた。
「……ん?なんだ、泣いちまってんのか?」
「こんなの見せられて…泣かない方がおかしいだろ……っ…!」
「ふーん…兄ちゃん、外見の割に意外と女々しいんだな」
情緒がぐちゃぐちゃになっていた俺は、もはや涙を流している理由すらも忘れそうになっていた。それでも俺のことを男として見ていないような舐めた言いぶりに、俺は声を張り上げて叫び返した。
「は!?ふっ、ふざけんなこの変態が!!お前なんかに言われ……はぶっっ!!?」
だが、この人は俺の口が開くのを誘っていたらしい。その誘いにまんまと乗ってしまった俺は後頭部を勢いよく押され、おっさんの獅子チンポを咥えさせられてしまった。
一瞬にも満たないうちに口内が熱い棒で圧迫され、押し拡げられる。閉じることさえも許さないその太さに喉が無理やりこじ開けられていき、声すら出せない。
場所が口なだけに昨日の尻よりも直接的な感触を享受してしまい、胃酸が逆流してきそうな反応に涙が出た。
「へへ、ますます可愛がってやりたくなるじゃねぇか…」
嘔吐しないように口に隙間を作って息をすれば、獅子おっさんの体臭が体内へと入り込む。鼻の奥を通り越して脳が麻痺するような刺激臭に、意識と呼吸のタイミングが合わずに咽せてしまった。
「んんっぶ!!?ごふっ、がっ、ゲボッッ…!!」
「ごめんな兄ちゃん、ちょっと無理してもらうな」
「な……あ゛ぶぇっ!!?お゛ッ、ごッ……ん゛ぶッッ…!!」
おっさんは俺の顔を両手で掴み、まるでオナホみたいにずっぼずっぼと上下に振り始めた。性欲が強いのか口の中には既に大量の先走りが溢れ出し、舌触りが気持ち悪くて吐きそうだ。
だがその感覚は強すぎる頭の振り回しによってかき消され、俺は自分の現状を理解することもなく視界の拡大と縮小を繰り返していた。
「ふっ、うんっ、おおっ、こっちもなかなかいいクチマンしてんじゃねぇか…っ!チンポにベロ絡みつかせてきやがる…!」
俺だって好きで絡みついている訳ではない。無理やり押し込まれる肉棒を止めるために舌を使っているだけなのに、それでもおっさんには勝てる見込みはない。
どれだけ意識しても窒息を恐れた喉は勝手に開き、ずっしりとした質量に押し潰された舌は裏筋に密着する。手のひらで固定された頭を振り回されれば、じゅぼじゅぼと聞いたことのない音が口の中で響き渡って気が狂いそうだった。
「…がっ、ふぐっ、ん゛っ、ぇ゛ぇ…ッッ!」
「よしよし、いいぞぉ兄ちゃん。そーやって喉かっ開いてれば苦しくないからな」
そう言って素早く、それでも俺が吐かない程度の優しさを保ちながら顔を上下させる。習うより慣れろという言葉を、これほどまでに体で教え込まれていた。
何より、おっさんの股座から染み出すキツい雄の匂いが一番辛かった。正直言って、チンコを舐めるよりも遥かに苦しいと言えるほどの臭さなのだ。
ここはホテルのはずなのに、まるで公衆便所の中でしゃぶっていると錯覚してしまうほどだった。嗅ぎたくなくても無理やり鼻の中に入り込んでくるような刺激臭に、鼻という器官が機能を停止してしまうのではと怖くなる。
「ヤベェなこりゃ、もう限界だっ」
「……ん゛ォオ゛ッ!!?」
そんな俺をさらにどん底へと突き落とす準備ができたと言うように、凄まじい嗚咽欲と共に繰り返されていた上下運動が止まった。鼻から上が異常な量の陰毛に塞がれ、視界が真っ暗になる。息ができない。辛うじてできたとしても、臭すぎて意識が吹っ飛んでしまいそうだった。
舌が潰れるほど膨張したおっさんの肉棒が、俺の喉をその形へと作り変えているのではと想像してしまう。救いようのない絶望が、俺の心を無慈悲にぶち壊していく。
「よォし兄ちゃん、朝一番の獅子ザーメンだ!しっかり飲み干せよッ!!ぐぅっ、イくっ!!んぉ゛オォぉッッッ!!!!」
だらしない姿のおっさんが一瞬だけ見せた野生の片鱗に本能で怯えていた俺は、自分の喉奥に噴射される熱い粘液を受け入れるしかなかった。舌で味を確認することもなく、ブビュッ、ドブッと一気に食道を蹂躙していく。
灼けつくような熱さに反応しても、おっさんが顔を離してくれないせいで息継ぎすら満足にできなかった。むしろ息を吸えば陰毛に溜まった汚れと汗の匂いが鼻を攻撃し、どっちつかずの感覚に頭がおかしくなりそうになる。
「はふぅ〜〜〜っ…!久々に気持ちいい朝を過ごせた気がするぜ。ありがとな、兄ちゃん」
ずぼりと俺の喉を殺しかけた凶器が抜け、途方もない安心感が心の底から湧き上がる。あまりの圧迫感だったせいか、まるで体の一部が抜け落ちたような錯覚に陥っていた。
力なく首を持ち上げると、目の前にはビクビクと脈打つ獅子おっさんの逸物。それはどろどろの白濁と何かよく分からない粒を纏いながら、卑しい光沢を放っていた。
「が、うぇ゛っ……はぁ、はぁっ……」
「ちゃんと奉仕できて偉かったぞ兄ちゃん?さぁ、ご褒美だ」
うつ伏せになって完全に放心状態になっている俺は、近づいてくるおっさんの手から逃げることができない。首の後ろに手を回されて顔を持ち上げられ、お姫様みたいなキスを施されてしまった。
「んく……むふっ、んちゅ……」
しかしこの時は、昨日の帰り道にいきなりされたような強引さはなくて。むしろ俺を労るかのような優しい舌の絡め方に、思わず身を預けてしまう。
漂う体臭は強烈な匂いを発していたことに変わりはないが、心なしか彼の唾液がなぜか甘い蜜のように感じられて。
夢と現実の境目にいるかのように、俺の意識は呆然としてしまっていた。
「んん…ぷはぁっ!どうだ、おっさんのキスも悪くないだろ?」
「……上手く、ない…臭い……」
本当は続いて欲しいなんて一瞬でも思った自分の心に愕然としながら、言い返せた言葉はこれだけだった。
その後おっさんは満足したかのように笑ってベッドから離れ、遠くに脱ぎ捨ててあったボロボロの作業着を慣れた手つきで着始める。
ツナギのように上下が繋がっているものなのだろうが、ヨレヨレすぎるそれは替え時をとうに過ぎているように見えた。
だがこのおっさんは、あろうことか全裸のまま足を突っ込んで着込み始めたのだ。筋肉も毛皮もあるとはいえ、真冬の外に出かける着こなしではないことはバカでも分かる。
途切れかけの意識が、ムッと息の詰まる衣服の匂いに反応する。ジーンズ素材なのか分からないが、汚れたままなことは遠くからでも分かった。
「そんじゃ朝ごはん買いに行ってくるぞ、何か食べたいのあるか?」
「……どうでも、いい…………っ」
「そうかそうか、なら適当に買ってくるからな。食えねぇって言っても知らねぇぞお〜?」
おっさんは悪っぽく言うが、そんなことを気にしていられるほど俺の心は強くない。今だって、顔を動かして声のする方を見るだけで精一杯だ。
視界ではおっさんが俺の方を向き、見せつけるように着替えている。やっぱりこの人は狂った変態だと呆れるも、疲れ果てた俺は目線を逸らすことすら面倒くさくて、汚い獅子おっさんの着替えを見る以外の道はなかった。
ジイイ……と股下から始まるチャックが昇り、屈強な獅子おっさんの体が1枚の薄い布に包まれていく。もちろん下着なんて履いてなかったから、あの服には直で性器が密着しているということなのだろう。想像したくもないが。
やがてチャックはゆっくりと胸元まで行きつき、最後に異常な量の鬣を作業着の中へと丁寧に収納して着替えは終わった。
一体何を見せられたんだと我に返って思ったが、もはやそんなことはどうでもいいくらいに疲れている俺はうつ伏せでほとんど無視する。
「うっし、そんじゃ買ってくるぞ。その間は自由に過ごしてていいからな」
低いながらも明るい口調で俺に言葉を投げ、ガチャリと分厚いドアを開けた後、外へと向かう足音が遠のいていく。
「…………」
少しの時間が経ち、この部屋に静寂が広がる。俺以外誰も、俺を認識していない世界が訪れた。
これは俺にとって、またとないチャンスだった。鈍くなった体に鞭を打ってベッドから立ち上がり、全裸のまま自分の持ち物を必死に探す。
だがどこにも見当たらない。そもそもこの部屋には収納スペースがほとんど無く、俺の荷物を隠せるような場所すら見つからなかった。
手元にあるのは財布だけ。ルームサービスを呼ぶ電話も無ければ、スマホもない。
ドアはさっき起きてすぐに開けようとしたが施錠されているらしく、開けるための鍵も見つからなかった。
一旦落ち着こうと部屋の中をもう一度観察してみても、窓にすら鍵がない。部屋にあるとすれば、ユニットバスとベッドだけだ。
俺はこの瞬間、完全にここから出られないことを悟った。おっさんの帰りを奇襲しようと考えたが、武器になれそうなものすらこの部屋にはないのだ。
まるで設備の整えられた牢屋に放り込まれたようだった。使い古された空調の音だけが、虚しく耳に響く。
「ちくしょう……なんで俺ばっかりこんな目に…」
どんなに悔しがったってドアは開かないし、助けが来ることもない。知らない場所で完全に逃げ道を失うという緊急事態なのにパニックにすら陥らず、ほぼ無気力だった。
もっと辛く苦しいことが、つい数分前にあったのだ。それと比べてしまったら、こんな状況で動揺することもバカバカしくなってくる。
今になって思い出したが、俺はきっとあの獅子おっさんのチンコにこびりついていた垢を飲み込んでしまったのだろう。そもそも他人の精液を飲んでしまったという信じられない事実に胃の中がむかむかとするが、今の俺はもうどうでも良くなってしまっていたのだ。
きっともう、俺はあのおっさんが満足するまで帰れないのだろう。あんなに頑張っていた就活もここまでかと思うと、どこからか湧いた安心感がため息となって口から出ていく。
絶望し切ってしまった反動でおかしくなってしまったのだろうかと自分を嘲笑いながら、せめてこの穢れてしまった体を洗おうとバスルームに向かうしかなかった。
そんな時、ふとサイドテーブルに何か紙が落ちていることに気づく。
それは、名刺のようなサイズと質感の紙だった。
─────
「そうだ、そこに書いてあるのがオレの名前。覚えてくれてもいいんだぜ?」
もっちゃもっちゃと大きな咀嚼音をこぼしながら返答するおっさんの名前は、[[rb:宍戸大誠 > ししどたいせい]]と言うらしい。道路工事を請け負う会社の代表取締役だが、一緒に現場に出て働いているという。
つまりこの人、本当にホームレスなんかじゃなかった。住む場所も寝る時間も確保できて、尚且つきちんとお金を稼いでいる人なのだという。
そしてそれは、風呂に入れるにも関わらずわざと入っていないと言う事実を余計に際立たせた。
「…忘れるわけないだろ、後で警察に証言する名前なんだからな」
「ふんっ、買ってきたハンバーガー食いながら言われてもなぁ」
「なっ…!食えって言ったのはアンタだろ!!」
そう言いながらも、久しぶりだったまともな食事に欲が負けて食べ進めてしまう。だが人間と獣人が互いに全裸で飯を食い合っているこの光景は、誰が見たって意味不明だろう。
おっさんは帰ってくるなり作業着脱ぐし、体臭のせいで部屋の中は夏の男子更衣室みたいなむさ苦しい空間に戻るし、正直言って食事できる空気ではなかった。店員の人、絶対キツかっただろうな…
それでも、未だにこの人のしたいことがよく分からない。
冷静に考えてこの状況がおかしいのは流石に分かっている。拉致られて無理やりセックスされた相手にご飯を買ってきてもらっているのだ、自分でも理解がまだ追いついていない。
この人は俺をどうするつもりなんだ…?ホームレスじゃないなら俺を襲わなくてもいいだろう。
何が目的で俺をこんな目に…なんて悶々と考え事をしているうちに、全部食べ終わってしまっていたらしい。
いつもならもう少しかかっていたはずだが、よほど腹が減ってたのだろうか。
「食ったか?よし、んじゃ続き始めるぞ」
「え、いや、待てよ。なんだよ続きって…」
「分かってるくせに何言ってんだ。ホラ、さっさとこっち来い」
この先の展開をなんとなく分かっていても、そちらへと向かいたくない。ご飯を食べさせてもらっておいて勝手だとは思うが、そもそも先にしてきたのは向こうだ。
でも、宍戸とか言う獅子おっさんの眼差しがずっと離れてくれなくて。現時点で何をされるか分かっていないのに、これ以上逆らったらもっと酷い目に遭わされるのではないかという危機感に足が動いてしまう。
行きたくないのに、行くしかない。俺は震えながらも、ベッドに仰向けで寝そべるおっさんの近くへと近づいてしまった。
「さて、次は兄ちゃんにどこ嗅いでもらおうかなぁ〜…」
直前になって、自分がいいようにされている実感が湧いてしまった俺は一瞬だけおっさんを睨みつける。それでもあいつの態度が変わらなくて、カチンと来た俺は不意に言い放ってしまう。
「…嫌だって言ったら?」
「んなこと言われたら、こうするしかねーだろっ」
「えっ、待っ…んん゛んッッ!!!」
どうなるかなんて予想できたのに、結局俺はなすすべもなくおっさんに組み敷かれてしまう。大きな手が再び後頭部を掴み、顔の前面が濡れた何かにグシャリと沈められた。
その場所はおそらく、おっさんの腋。汗が溜まる深い縦の溝を持ち、匂いが蓄積される場所としてこれ以上ない形をした部位。
これも獣人だからなのか、想像以上に毛深い。長く伸びた腋毛がバスタオルの如く顔中を包み、たった一回顔が接着しただけなのにサウナにいるような水分に覆われた。
感じるのは雄特有の胃がもたれるようなキツい汗臭さ。不快を通り越して吐きそうになるその饐えた匂いに、喉から苦い液体が滲み出てくる。
「ふぐっ……う゛っ、んぅぅ……!」
「こっちも結構クるだろ?どっちかと言うとオレは腋の方が滾ってくるんだよな」
明らかに調子の良い声を上げながら、グリグリと顔が毛むくじゃらに押し付けられていく。逃げ出したくても鼻先に埋まる皮膚の内側から匂うキツい汗の刺激臭に判断が下せない俺は、一瞬のうちに腋で顔を固定されてしまった。
体の大きい獣人のそこは人間の頭なんか挟むのは簡単らしく、抜け出すことは不可能だろうと即座に俺は悟った。
その空間において口を塞がれれば最後、かろうじて残った鼻で呼吸をするしかなくなり、その度に蒸れた雄獣人の匂いが直接的に送り込まれていく。
そんな俺も鼻がイカれてしまったのか股座よりかはマシと思えてしまい、むしろこっちの方が嗅ぎ慣れた懐かしい感じがしていた。
もちろんこのおっさんが体を洗っていない分だけ匂いが異常なまでに強すぎるのは嫌と言うほど理解しているが、それでも正気を保てる程には耐えられていた。
この短時間で慣れてしまったのだろうかと、自分で自分が怖くなる。心をなんとか落ち着かせようとする俺の耳に、おっさんの声が聞こえた。
「兄ちゃん、シャワー浴びただろ?バレバレだぜ」
「……っ…」
「俺ぁあのまま洗わないでいると思ったんだが…まだまだ仕込みが足りねぇらしいな」
「……んぃ゛ぁッ!!?」
図星だった俺は、予想外の衝撃に変な声をあげてしまう。顔を腋の中に固定されたまま、おっさんがいきなりチンコを握ってきたのだ。
その手はなんだかローションをつけたようにべっとりしていて、ぐちゅぐちゅと露骨にいやらしい音が聞こえてくる。
「ん゛ッ、あうっ、あっ…ひぃ、あ…!」
自分の性器を触られるという今まで経験したことのない奇妙な快感に、何度も何度も喘ぎ散らかしていた。
我慢したいのに出てしまうのだ。どうしてこうなるのか本当に分からないが、頭では嫌でも体は感じていると示してしまっているようで悔しかった。
「へへっ、やっぱ初めてちんぽ弄られた時の反応は可愛いもんだな。それじゃオレは、ゆっくりAVでも見るか」
「な、なっ……?何言っ…」
「風呂浴びたお仕置きだ。言っただろ?風呂は嫌いだって。それは兄ちゃんも一緒だぞ」
「……ぐう…!はな、ぜぇっ……!」
どんなに俺が叫び声を上げても、くぐもった小さな声がおっさんの腋の中で消える。それどころか底知れないおっさんの力はビクともせず、逆に自らの体を窮地に立たせることに貢献してしまった。
「恨むならさっきの自分を恨むんだな。さーてと、どれから見るかなぁ…ここのホテルは良いビデオ揃ってるから何見るか迷うなぁ」
身悶えする俺をよそに、おっさんのカチカチとリモコンを操作する音が聞こえる。やがて少し経つと、ベッドの真後ろにあった壁掛けテレビから大音量で音声が聞こえてきた。
最悪だ。この人、洗っていないであろう腋に人間を挟んでおいてそのまま[[rb:寛 > くつろ]]ぎ始めたのだ。
俺はもはや抜け出したいというより、これがいつまで続くのだろうかという恐怖が強かった。朝ごはんを買ってきてくれた時に、本当は優しい人なんじゃないかと少しでも思った俺がバカだった。
「あ、そうだ。せっかくだし兄ちゃんも一緒に見るか?」
「えっ」
落胆していた俺の心には、その言葉はひどく当たり前の会話のように聞こえて。気づいた時には、俺を包み込んでいた脇がもぞもぞと動き出していた。
俺にもAVを見せようと、腋で挟んだ俺の顔をテレビが見えるように力づくで捻ってくる。彼から離れる千載一遇のチャンスだと思った俺は最大限の力を振り絞ったが、それでもおっさんの体はビクともしなかった。
その体格は飾りではなかったらしい。そのままの流れで、俺は人生で初めて雄同士のAVを見てしまう羽目になってしまった。
『ふぅっ、ふっ、ぐっ…おおっ、気持ちいいぜ…』
『あ、んんっ、はうっ!…や、あんっ…!』
ビデオに出ている熊獣人はおっさんと同じような体格と年齢っぽく、人間の男性と思うがままにセックスしている。その大きな体からは考え難いほどの速さで腰を振り、ぱちゅぱちゅと変な音を立てて犯していた。
相手の男性はというと、甲高い声で喘いでいるだけだ。男性が女みたいに高い声を出す光景はひどく違和感があって、俺の中にあった常識が揺らぐ感覚がした。
「見えるだろ?兄ちゃん、昨日はあんな感じだったんだぜ」
「………」
その言葉に、俺は自分が動画に釘付けになっていることに気づいて視線を逸らす。確かにそうだったかもしれないが、別に気持ちよくもなんともなかったし、強制的に犯されただけだ。
違う、俺は男同士のセックスなんか興味ないんだと言い聞かせ、沈黙の回答をする。
『オラ、オラっ!ここがいいんだろ?なぁっ!』
『あ、あっ、あっ…!きもち、いいっ……!』
男性が排泄する機能しか持たない穴が、熊獣人の太いチンコで貫かれている。見たくもない映像なはずなのに、目が自然と向かってしまう。
『ふん、可愛く啼くじゃねぇか。気に入った、口貸せ』
『んっ…!……んふぅっ、くふ……むちゅっ…』
熊獣人のマズルが男性の口を覆い隠し、無精髭を生やしただらしない顎肉が忙しなく動く。アダルトビデオらしく隙間を開けて舌同士が絡み合うシーンが続き、光る唾液が口の端から溢れていく。
こんなの、ドラマでよく見る男女のキスじゃ絶対にできないだろう。荒々しくも愛があるような接吻は、恋愛未経験の俺にとっては男同士であっても衝撃的だった。
「なんだ兄ちゃん、やっぱりコッチ側だったんじゃねぇか」
「………えっ?」
その声に気づいて咄嗟に目線を下に向けると、獅子おっさんの手に握られていた俺の男根が一直線に上を向いていたのが見えた。さらに、膨らんだ亀頭から透明な液体まで少し出ている。
俺は今夢でも見ているのかと無理にでも思いたくなるほどに、自分の身に起きている現象が信じられなかった。
「いやっ、ちがっ…!俺、興奮なんか…!」
「んなこと言ってもこんなにビンビンにさせてちゃなぁ…説得力がねぇぜ」
「あ゛っっ!!?」
困惑する俺はおっさんにチンコをいきなりグリュグリュと力強く扱かれ、強すぎる快感に腰を反り立たせてしまう。他人に扱かれるということがどれだけ気持ち良いかを理解してしまった体は、あまりにも従順だった。
「ほらほら、この動画の男みたいに俺にチンポ弄られて感じてるだろ?全く同じ状況だよ」
違う…絶対違う…!刺激を与えられているから勃ってしまっただけだと、匂いに耐えながら自分に言い聞かせるように反論する。
しかし依然として血流の収まりは見えず、むしろさっきよりも多くなっているように思えた。
『あっ、あっ、あっ…!そ、そんなイジられたら…!』
画面の向こうで男性が悲鳴にも似た声を上げる。まるでそれは俺の感情を代弁しているかのように、焦りと不安を駆り立たせていく。
どギツイ体臭の根源ですらあった獅子おっさんの腋に挟まれておいて、本来であれば射精欲は下がるどころか増す一方だった俺は、次第に自分の限界を感じ始めていた。
「く…ぅ…っ!あぁ、うぅっ……!」
『ああっ、あっ、あっ…!イくイくいく…!イグぅっ!!』
扇情的なその言葉に促されるように、尿道の奥が熱くなっていく。そんな馬鹿な、男同士が交わっている動画をオカズにしてイくなんて考えられない。
今まで想像すらしたことのなかった現象に混乱しても、体はずっと正直だ。扱かれる刺激は次第に快感へと変わり、無様にも獅子おっさんの腋に挟まれながら射精するしかないと体が屈しかけた瞬間。
「…………えっ…?」
引き波のように、すぐそこまで迫っていたはずの欲求が一瞬にして消えた。ビクビクとチンポは射精せずに震え、もどかしい疼きだけが腰の奥に残る。
相変わらず顔面の周りには異臭が漂っているが、下を見ると自分の逸物を掴んでいたおっさんの手が離れていたことに気づいた。
「な、なんで…?」
「お仕置きだっていっただろ?ビデオみたいに簡単にイかせてくれる思ったら大間違いだぜ、兄ちゃん」
表情は見えなかったが、口調でそれが本気だと言うことはひしひしと伝わってきた。つまり俺は気が狂ってしまいそうな匂いを放つ腋に挟まれ、射精を制限されてしまったということだ。
いくら性に疎い俺でも、気持ち良いと思うことを禁止されてしまってはさすがに我慢ならない。どうして体を洗っただけでこんなことになるのか意味不明だったが、もはやその理由を考える余裕もない。
その後も獅子おっさんのAV鑑賞会は続き、俺は汚い腋の匂いを嗅がされながら逸物を弄られ、逃げ場のない異臭と悦楽を与えられ続けたのだった。
─────
どれほどの時間が経っただろうか。時間の感覚が1分から1時間になり、次第にそれすらも分からなくなって。
その間も男根を弄る手が止まることはなく、顔が腋から解放されることもない。
生ぬるい水分が今もずっと染み出す窪みにすっぽりと顔だけを挟まれ、大きな手で射精のタイミングを掌握された俺は、解消されることのないもどかしさに苦しむしかなかった。
完全な寝不足と疲労のせいか、俺の意識は時間と共に弱っていた。男性が獣人のブツを口いっぱいに頬張り、ケツの穴を貫かれて嬉しそうに喘いでいる映像が延々と続き、その光景が嫌でも頭から離れなくなっていく。
押し付けられた腋から匂う獅子獣人のキツい汗臭は不思議と臨場感を増し、今の俺に起きていることと何ら変わりがないと錯覚してしまう。
いつしか思考が引き寄せられてしまっていたと気づいたのは、あの映像に映る熊獣人のぶっといチンポが美味しそうだと思った時だった。俺はその瞬間、自分の性的嗜好が少しずつ捻じ曲げられているという事実を実感するが、思ったところでビデオが停止することはなく。
せめて目を瞑って映像だけでも見ないように努めたが、視界をシャットアウトしたことにより聴覚が鋭くなったせいで卑猥な音が一層鮮明に聞こえてしまい、それに伴って勝手に自分の脳が映像を作り出してしまう。
しかも最悪なことに、そこで獣人に犯されているのは何故か俺で、相手はあの獅子おっさんである。悪夢と呼ぶにふさわしいその光景に、自分が自分でなくなったような気がしてならなかった。
「へへっ、兄ちゃん。そろそろ限界が近いか?」
自らの異変に気付いた俺の思考を読んだように、おっさんがタイミングよく声をかけてくる。限界というのは言うまでもなく射精欲のことであり、実際そうだった俺は口ごもっていた。
この人の扱きは一定ではなく、亀頭や雁首などの弱い部分を絶妙な力加減で執拗に責めてくる。経験が全く無かったはずの俺でさえ、数分でイきたくなってしまうほどの指使いだった。
しかし俺の絶頂をすぐに察したおっさんはあと一歩のところでその手を止め、収まりかけた頃にまた再開するというサイクルをずっと繰り返していた。
体感といえど、1時間近くもチンコを弄られておいて射精できないとなればそのもどかしさから下腹部はじんじんと疼き続け、全身に無駄な疲労感が蓄積していく。そうして疲れ切った思考回路は、なんでもいいからとにかくイきたいとしか考えなくなってしまっていた。
悔しくも図星だった俺は視線を別の場所に移し、反抗する意思を見せつつ答えるしかない。
「ち、違うっ…!さっきからずっとアンタがイかせてくれないから…!」
「おお、そういや確かに結構時間経ってんなぁ。じゃあ、オレの腋を舐めたらイかせてやるよ」
「……なっ…!?」
流れていたAVの映像がいきなり暗転し、直後に獅子おっさんのよく通る声が聞こえた。その言葉に、ぼーっとしていた俺の細胞がハッとする。
「オレの垢たっぷりなちんぽを咥えた兄ちゃんなら、お安い御用だろ?」
冗談じゃない。あれは咥えさせられただけだ。
とはいえこのモヤモヤから解放されるなら、正直何をしてもいい。そういう判断を下してしまえるほど、今の俺の脳内は疲労でボロボロだった。
休憩させてくれるとも限らないのに、とにかく自由になりたかった俺の心に容易く亀裂が走る。これは快楽に身を任せるのではなく、おっさんによる指示だと自分に言い聞かせる。
「現に兄ちゃん、オレの匂いにもそろそろハマってきた頃だろうしなぁ」
「……っ…」
「言い返せないってことは、好きになっちまったってことでいいな?」
確かに、臭い。吐き気がするほどこの人の体臭は酷い。小学生の頃に近くを通った排水溝のような、濡れた雑巾を生乾きさせたような、そんな顔を背けたくなるほどの匂いだ。
なのに……どうしても惹きつけられてしまうのもまた、拭いきれない事実だった。
ギュッと胃が締め付けられるような体臭を生み出している根源である、汗。自分はおろか他人のなんてもっと触りたくもないそれをゼロ距離で長時間浴びせ続けられた俺の脳は、確実に麻痺していた。
つい昨日まで気絶するほどの激臭だった獅子おっさんの体臭、その奥底から染み出している雄本来の匂いに、俺の体は興奮するようになってしまっていたのだ。
どうしてか分からない。分からないのに、受け入れざるを得なかった。奇妙なその感情は俺の心の隙間に入り込み、今まで考えたこともなかったことを想像し始める。
これを舐めたら、俺は……
ついさっきまで見ていた動画の中の男性みたいに、気持ちよくなれるのだろうか?
知らなかった感覚を、味わうことができるのか?
判断力を失くした理性が、欲望に押し潰されていく。おっさんによって無理やり矯正された本能が、疲弊した俺の体へと指示を出す。
あの動画と同じように、この人の腋を舐めるだけでいいのだと。この汗の味を知るだけで、お前は変わることができるのだと。
気がつくと俺は、押し付けられていた獅子おっさんの腋へと舌を這わせてしまっていた。じっとりと湿った皮膚を、恐る恐る舐め取っていく。
「ふふん、ようやく舐める気になってくれたな。ここまで長かったのは兄ちゃんが初めてだぜ」
初めて…?その言葉の意味はよく分からないが、生まれて初めて他人の汗を感じ取り、その妙な刺激に狼狽えていた。
まるでレモン汁を直接舐めた時のような酸っぱさと、ピリリとした刺すような痒みが味蕾を刺激する。塩分なのだから当たり前だが、頬が熱を持ち、少しずつ唾液が分泌されていった。
「オレの汗、美味いだろ?病みつきになっちまってもいいんだぜ」
美味しいで言い表せる味ではない。そもそも汗に美味しいとか不味いとかいう概念がある訳無いだろう。
なのになんで、もっと舐めたいと思ってしまうのだろうか…?
どうして俺は、唇まで密着させて吸い取っているんだ?
今までの俺からしたら他人の汗を舐めるなんて、そもそも汗の匂いにすら興奮しなかったはずなのに。初めて食べた時は刺激が強すぎて食べられないと思った料理にだんだんハマってしまう現象のように、俺の体が汗の味を欲しているのが分かってしまう。
やはり俺は、変わってしまったのだろうか。この人と同じ、変態になってしまったのだろうか。
人生、終わったかもしれない。まあ、就活に失敗した時点でほぼ詰んだようなものだし。
そう考えた瞬間、ストンと何かが嵌るように思考の整理が停止し、俺の頭はただ一つのことしか考えないようになった。
こうなったらもう、どん底まで落ちてしまえばいいと。
今年失敗したからといって、就活のチャンスが永遠に消え去った訳でもないのだから。なら今日ぐらい、勝手にしたっていいじゃないか。
逃げ道を作るような思考の誘導が起きる。受け入れ難い自分の将来から目を背けるように、その場の空気に身を任せて性の悦びへと走っていく。
舌の動きはますます激しくなり、押し込む度にじゅわじゅわと染み出す濃度100%の汗の味を堪能していた。
「んうっ……れろっ…じゅるる……」
「そんなにがっつくなって。オレはどこにも逃げねぇよ」
今まで嫌悪感しかなかった獅子おっさんの声が、やけに穏やかに聞こえたような気がする。言う通りにしたからなのか、俺がいきなり豹変したのに驚いているのか。
真意を知ることはできないが、おっさんの大きな手が俺の頭にそっと添えられていたのは分かった。そのまま手はゆっくりと動き始め、それが撫でられているんだと気づくまでにそう時間は掛からなかった。
もはや最後にいつされたかも覚えていないその柔らかな感触に、肉親のような安心感を覚える。既に拘束は解かれていたが、俺はこの場所から離れたくなかった。
「ようやく分かってくれたみたいでオレは嬉しいぜ、兄ちゃん」
「……うっ、ふぐっ…う゛ぅぅ…!」
「ったく。泣いていいのは今だけな?」
俺の事情なんて知らないくせに。元はと言えばアンタのせいで俺はこんな目に遭っているというのに。
なのに、その言葉がじんわりと胸の奥に溶けていく感覚が強すぎて。融解した感情が涙となって一気に溢れ出し、涙となっておっさんの腋を少しばかり洗っていった。
しばらく泣いてすっきりした俺を見たおっさんは、ようやく腋から顔を離してくれた。嬉しいような寂しいような気持ちを抱えながらも、俺はベッドの淵に座って休んでいた。
窓を見ると外は既に暗くなっており、本当に長い時間あの空間にいたのだと今になって実感する。獅子おっさんはそんな俺の近くに急に胡座をかくと、いつものように笑って言った。
「そういえばまだイかせてなかったからな、ちゃんと気持ちよくしてやるよ」
「え、えっ、何す……あひゃい゛っ!!?」
状況を理解する間もなく、おっさんが俺の太ももを掴んで急に顔に近づいたかと思えば、萎えかけていた男根をぱくりと咥えたのだ。恥ずかしいがこれも初めてだった俺はあまりの出来事に変な声を上げてしまい、恥ずかしくなるも抵抗できなかった。
「んふ、くちゅっ、じゅるっ」
「あ、え……なっ、何これ…っ」
手で弄るのとは確かに違う、生温かくねっとりした空間に包まれる男根。それを執拗に舐め続ける獅子の舌は、小さな突起がいくつも集まっているらしく、ザリザリとした刺激的な感覚が妙にクセになった。
それでも痛くなかったのは、おっさんが唾液を多めに出してくれていたからだろう。俺の男根すらもコーティングしてしまう量の粘液がまとわりつき、ぬっちゅぬっちゅと魅惑的な音を立てる。
それは今も脳裏に焼き付いているAVと全く同じ光景で、俺が密かに望んでしまった『気持ちの良いこと』と合致した。見せつけるようにおっさんは顔を上下に振り、その度に俺のチンコに淡い快感が走る。
「あっ、あ、ああっ……!?ううっ、あひぇっ!」
獣人ならではというか、人間にはない伸びたマズルという部位がこんなにも機能するとは思わなかった。俺のチンコにピッタリとハマるような作りをしたそれは、言い換えればオナホのような役割を果たしていて。
手で扱く類のものとは全く異なる感触に耐えられなかった俺は、数分もしないうちに限界を迎えてしまう。
「も、もうっ…無理ぃ…!い、イぐっ…!」
それは、今まで生きてきた中で一番気持ち良い射精だった。それを表すかのように自分のチンコがぶるぶると激しく痙攣し、あり得ない勢いで精液を噴射しているのが分かる。
開いた股の間にいるおっさんは微動だにせず、ごくごくと喉を鳴らしながら難なく飲み込んでいく。これが経験者というのだろうか、その様子には貫禄すら感じられた。
あまりの幸福感に俺は呆けてしまう。疲労も完全に回復した訳ではないため、すぐに思考を立て直せなかった。そんな中で見えた、おっさんの象徴とも言える鬣。
部屋の明かりに照らされてキラキラと光る脂まみれのそこは、思い返せばおっさんですら一度も触っていなかったように思えた。やっぱり獅子獣人のコンプレックスとでも言うのだろうかと、俺はふとその黒い毛束に手を伸ばす。
「おっと、ごめんな兄ちゃん。まだココはダメだぜ」
「あ……いや、すみません…」
だが、彼がおっさんだと忘れてしまうくらい素早い動きでその手を掴まれてしまった。
しまった、マズいことをしてしまったかもしれない。そう思って身構えた俺は小さく謝った。
「いや、別に怒ってないぞ。ただオレは自分の鬣が一番気に入ってるからよ、オレが認めた奴にしか触らせないようにしてるだけなんだ」
「は、はぁ……」
俺の精液でにちゃつく口を動かしながら得意げに話すおっさんに苦笑いで返した俺は、獅子おっさんにしゃぶってもらったことに感謝する。だがこの時、俺は自分の体の異変に気がついた。
「……えっ?なんで、こんなに…?」
俺の体の前面。正しくは胸の辺りに、いわゆる胸毛というものが生えていたのだ。今までこんな所に毛なんて生えたことなんてなかったのに、どうして今になって…?
それは妙に量が多く、女性から見ればかなり引かれてしまいそうなほどの毛深さだった。
「ああ、オレらみたいな雄獣人はオスのホルモンが強くてな。精液とか飲むと他人に影響しちまう時があるんだよ」
なんだそれ、獣人とセックスするとみんな毛深くなるとか聞いたことないんだが…?
しかし度重なる疲労で危機感の抜け落ちてしまった俺は悲観することなく受け入れてしまっていた。以前の俺であれば、気持ち悪くてすぐに洗面所に駆け込んだはずなのに。
話を聞くと、おっさん曰く朝剃っても夕方には生えてくる髭と同じようなものらしい。
胸毛ってそういうものなのだろうかと疑問に思うが、今まで生えたことのない場所に毛が生えたという違和感が強すぎた俺はおっさんに質問を返した。
「ええ……?そ、剃ってもいいですか…?」
「んー、ダメって言っても剃ると思うが、明日にはまた生えてくるぜ?」
「え……うーん…なら、仕方ないのか…?」
これからこの変な体質と付き合ってかなければならないのかと少し肩を落としたが、こんなふうに体毛があるのが獣人の普通なのかと思うとなんだか否定するのも悪いような気がして。
もはや何が起こっても事実だと受け入れるようになってしまっていた俺は、普通に考えればそれがおかしいことだと何も疑わずにやり過ごしてしまった。
─────
こうして俺にとって強烈な出来事となった時間は一区切りつき、おっさんはまた夕飯を買いに行った。俺はというと、溜まりすぎていた疲れと寝不足によってベッドに倒れ込むように寝転んでいた。
さっきまでおっさんが寝そべっていた場所だが、そんなことなど気にしてたらゆっくり休めない。汗臭いベッドでも極寒の外で寝るより何倍もマシだ。
それに何より、シーツに染みついた獅子おっさんの匂いを嗅ぐことができることも理由になっていた。黄ばんで汚れていた布に顔を埋めると、俺の心を変えてしまったあの匂いを直に感じ取れる。
それだけで萎えていたはずのチンコへと血が集まり、痛々しいほど屹立してしまうのだ。
ああ…なんて魅惑的な匂いなんだろう。弱っちい人間の俺なんかじゃ出せない、屈強なオスの匂いだ。
鼻呼吸を繰り返せば、おっさんの体のさまざまな部位が思い起こされる。脂まみれの毛皮、汗臭い腋、気絶するほどの激臭を放つ陰毛、そして見惚れるほど太く、真っ白な恥垢に覆われトロトロとした我慢汁を纏ったあの肉棒。
まさか獣人のおっさん相手に恋をしてしまったとは到底思えないが、帰ってきたら俺は再びのめり込んでしまうんじゃないかという恐怖も少なからず存在していた。
変態になった、それ以上に雄を好きになるように変わってしまった自分に困惑せざるを得ない。今までの俺は本性を隠して生きてきたんじゃないかと考えてしまうほどに、この変化における衝撃は大きかった。
だがもう、今となっては過ぎたことなのだろう。この後に及んで俺はまだ女性が好きだと言ってもおっさんは聞く耳を持たないし、俺ですら疑ってしまうと思う。
今日はいろんなことを経験し過ぎた。考えれば考えるほど自分自身が分からなくなっていくし、未だに今の状況の整理もできていない。
船を漕ぎ始めていた意識の中で、これまで起きた出来事を色々と考えようとした俺だったが、いつの間にかすっかり眠ってしまっていたらしい。
帰ってきた獅子おっさんに起こされ、遅めの夕飯を食べた後、そのままの流れで俺は再びおっさんに犯された。
もちろん無理やりだし慣れていないから嫌だったのは確かなのだが、渋々了承してしまう自分がいたのも事実だった。
そんな俺の変化に気づいたのか、獅子おっさんはAVで見たようにじっくり、ゆっくりとケツの中をほぐしてくれて。正直言って気持ち良さは後ろの方が良くて、便所のような陰毛の匂いを感じることもないから咥えるよりも良かった。
もちろん、おっさんのチンコにはあの垢がまだ付いているのだろう。けどそれを拒絶したところで無意味だと理解させられてしまっていた俺は、快感に身を任せて夜を過ごすしか道はなかったのだった。
[newpage]
翌朝目が覚めてまず違和感を思えたのは、自分の体。それは鼻がイカれたとか、頭がぼーっとしたとかいうものではない。
不思議と体が重かった。別に体調が悪いとかそういう感じはしていないのに、体を起こす行為が億劫に感じていた。
「……ん…?」
目が覚めて体を起こそうとしてまず目についたのは、自分の胸板。ふっくらとほどよく盛り上がった2つの胸筋はまるで小ぶりな山のようで。その中心にできた隙間が、少しエロっぽく見えた。
もちろん胸毛も残っている。というか、昨日より増えたような気もする……
次に目に付いたのは腕。上腕二頭筋と呼ぶ場所も一回りほど太くなっていて、グッと力を込めるだけで筋肉の隆起が姿を表した。
それを下から上へ目でなぞっていくと肩周りまで視線が行き着き、ここでも異様と思える膨らみように目を疑った。僧帽筋…?というのだろうか、首の根本あたりから肉の体積が増えたように見える。
服を着たくても持っていないため全裸が当たり前になっていたが、そのおかげで体の変化がありありと分かってしまった。洗面所に行って鏡を見れば、昨日と今日の自分に差があり過ぎて困惑する。
まるで体全体が分厚くなったようだった。本格的にジムに通っている人みたいだ。
どうしてだ…?俺は今まで一度も鍛えたことなんてないのに。胸筋の膨らみも、腹筋の浮き立ち方も、明らかに数年間の時間を費やして鍛えた人でないと手に入らない見た目だった。
おっさんの話で胸毛のことはそれとなく理解したが、まさか体にまで変化が及ぶなんてことあり得ないだろう。もはや空想とでも言うような超常的な現象だとしか言えないが、現にこうして俺の身に起きているのもまた確かではある。
悩みに悩む俺がふと体を見ると、昨夜おっさんと激しくセックスした証拠が目に留まった。生え始めた胸毛にこびりつくカピカピの精液や汗と、生温かい液体が漏れ出る尻穴。
ふいに昨日の交わりが思い起こされ、鏡に映る朝勃ち中の逸物がヒクッと跳ねた。おっさんの腋に顔を埋めながら尻を貫かれ、チンコを弄られ、心地よく射精した記憶が体を火照らせていく。
つい数日前まで俺は就活していて、女が好きで、結婚願望もあったはずなのに。今はもう、こんな汚い獣人のおっさんに身を寄せてしまっている。
たった1日で自分の心と体がここまで変わってしまうとは、夢にも思わないだろう。当事者の俺が誰よりも実感していたのだから。
ただそれを受け入れるのに時間がかからなかっただけ、俺は幸運だったのだろうか。普通の人なら、何がなんでも逃げ出そうとしたはずだ。
……普通の人ならば。
だから俺はもう、普通ではなくなってしまったのかもしれない。
それとも…元から普通じゃなかったのだろうか。
「……」
なら、この部屋には俺とおっさん…宍戸さんの変態しかいない。無理やり犯されたのもカウントすれば人生で3回目となったセックスの反動で、俺の感覚はますます麻痺していた。
むしろこの先を楽しみにさえしていたと思う。
だから俺は、シャワーを浴びずに洗面所を出た。
数歩もしないうちに見えてくるのは、黒い鬣に包まれながら鼾をかく獅子のおっさん。
そして視界に映る、今日も元気にそそり立っている獣人の包茎チンポ。朝日のおかげで輝いて見えるその肉皮の中からは、寝ているにも関わらず我慢汁がどくどくと流れ出していた。
美味しそう……かも。アレを頬張ったら、またあの病みつきになるような匂いと味が得られるのだろうか。
ドクンと心臓が高鳴る。大きくなった体が、一歩ずつおっさんへ向かう。
呼吸が荒くなって、胸が苦しくなって。おっさんの寝汗と生臭い麝香が、俺の脳を霞ませていく。
絶対におかしいとは思う。なのに、抗えない。
抗うことに意味などないと、心の奥底から叫び声がする。
もっと舐めて、もっと嗅いで、彼の全てを味わってみたい。汚れた獅子おっさんの体に、股座に、俺の顔が近づいていく。
「はぁ…すうっ……」
ミミズのように浮き出た血管をなぞるように鼻先を這わせ、陰毛に隠れた根元で息を吸った。
「……ッッ…!!!」
これだ。この匂いだ…!頭にガツンと来る、鼻の奥まで腐ってしまうようなエグい激臭。
少し前まで気絶しそうなほど嫌いなはずだったのに。死ぬような思いを何度もしたのに。
俺はこの匂いに、興奮していた。この匂いが、大好きになっていた。ビキビキとチンポが硬くなり、寝ぼけた細胞が次々に朝の目覚めを済ませていく。
その時、俺の頭に大きな手が乗せられ、寝起き直後の[[rb:艶 > なまめ]]かしい声が聞こえてきた。
「兄ちゃん、朝メシはソレでいいか?」
「……っ、はい…」
変わってしまった自分への恥じらいも懐疑心も捨て、静かに頷く。俺はゆっくりと、この獅子おっさんの…宍戸さんの雄々しいチンポを頬張り始める。
昨日俺の尻の中へ入っていたそれはちょうど良い太さで、なんとも言えないしゃぶりがいがあった。
亀頭を守る包皮の隙間を舌の先端で縫っていくと、ざらざらした消しカスのような食感に気づく。
それでも不思議と嫌にはならなくて。自分の唾液と宍戸さんの我慢汁をたっぷりと含ませて抉ってやれば、その固形は簡単にこそぎ取れた。
息を吸う度に、腐ったチーズのような、小便と汗が混ざったような激臭が鼻の中から突き抜ける。人体に対して悍ましくもあるそのニオイが、俺の気道や肺胞を隅々まで穢していく。
「お゛、おぉ゛っ…ふぅっ…はぁ……」
頭上で宍戸さんの気持ち良さそうな声が聞こえる。それに合わせて俺の興奮も高まっていく。
経験値もゼロに等しいのに、俺が口を上下させるだけで宍戸さんが喜んでいる。誰かの役に立てているという実感が、俺の心を軽やかに躍らせる。
そこがどれほど汚いかなんて、俺が一番よく分かっている。だけど、だからこそ味わってしまいたくなっていた。
ここまで汚れてしまった肉棒なんて、もはや現実離れしたモノだ。それならいっそ、おっさんの言う通りしゃぶってやればいいと思っていた。
じゅっぼじゅっぼとわざとらしく音を立て、一定の速さを保つようなストロークを続ける。思いの外気持ちよかったのか、数分もしないうちに宍戸さんは俺の後頭部を掴んで上機嫌に囁いた。
「兄ちゃん…そろそろイっていいか?口ん中にザーメン出していいよな?」
俺は無言でコクコクと頭を振る。すると宍戸さんが頭を掴む力が強くなって、ぐぐっと顔が根元まで引き寄せられた。
まだ頭で理解できなくても、体は覚えている。俺の口は開いたことのない大きさまで開き、喉奥まで宍戸さんの亀頭を咥え込んだ。
「そうだ、上手いぞ。そのまま喉だけぎゅっと締められるか…?」
彼の言う通りに俺は喉を締め付ける。トロトロと食道を流れている先走りの感覚を覚えながら、一心不乱に口で奉仕した。
その後、数秒もしないうちに宍戸さんのチンポがビクンと口の中で跳ねる。膨らみを増しつつある亀頭を舌で撫でれば腰全体が震え、彼の限界を早めることができて嬉しかった。
もうすぐだと悟った俺は精液を胃の中へ放り込む準備をし、ベトベトの獅子チンポを両手で構える。
「ん゛っ、お゛っ、おぉ〜〜っイクイクイク…ッ!兄ちゃんイクぞ、口ん中に出すぞぉっ!!!」
濁った大声を発した宍戸さんは、ガッチリと俺の頭を固定したまま射精した。屈強な雄獣人の1日の始まりを告げるような勢いの白濁が、俺の喉を焼き尽くしていく。
もはや汚いなんて気にすることも無くなった俺は、昨日宍戸さんがしたようにごきゅごきゅと音を立てて飲み干していた。彼もまた察してくれたようで、ザーメンを飲み終わり肉棒から口を離した後も顔を陰毛に擦り付けてきた。
咽せ返るような激臭の中にいた俺だったが、慣れてしまえば臭いだけだ。むしろその奥に隠された獣人ならではの野生を感じる匂いに、興奮は収まるどころかますます高まるばかりだった。
量の多さに口から多少漏れてしまった黄ばんだ精液が、おっさんのチンポに纏わりついている。滑らかな光沢に包まれた肉の竿に、思わずごくりと喉が鳴った。
「なんだ兄ちゃん、昨日とは打って変わって積極的じゃねぇか」
「あ、いや……まあ、たぶんそういうことだと思います…宍戸さん、でしたっけ」
「へっ。そうかそうか、そういうことか!」
その一言で大体を理解した宍戸さんは、俺をすぐ隣まで引き寄せて見つめてくる。その瞳はどこか大人びていながら、捉えた獲物を決して離さないという意思表示を浮かべているような気がした。
そしてそのまま、彼の大きなマズルが唇に襲いかかる。驚く暇もなく口をこじ開けられ、じっくりねっとり舌を絡ませられる。
ひとしきり舐め終えると、今度は宍戸さんの意思持つ分厚い肉板が歯茎までも蹂躙していく。抵抗すら許さない力強さで、完膚なきまでにぐちゃぐちゃにされた。
何度も何度も大量の唾液を流し込まれたと思えば吸い込まれ、口の中に残っていたおっさん自身の精液もろとも一緒に混ざり合い、あまりの量に口の隙間からとめどなく漏れていく。
「んあ……はふっ、ちゅくっ……ぬちゅ…」
数分間は続いただろうか。お互いの口が離れた直後、たっぷりと心ゆくまで舐めまわされた俺は体に力が入らない状態になっていた。
倒れ込むように宍戸さんへ[[rb:凭 > もた]]れかかると、分厚い胸の奥で乱れた息を整えようとする呼吸を感じる。熱を持ったその空気に当てられた俺は、いつしか首の後ろに手が添えられていたことに気づいた。
「はぁ〜クッセ…オレの股座ってこんなに臭かったんだな。兄ちゃんの顔からガンガン響いてきたぜ」
「え……し、知らなかったんですか…?」
黒ずんだ鼻をヒクヒクさせながら、目元に皺を寄せて苦笑いする宍戸さん。その言動が何故か面白くて、笑いかけてしまうのを堪えて返した。
なんだろう、今になって急にこのおっさんが良い人に見えてきてしまっているような気がする。
「ほとんど気にしたことないしな。でもまぁ、こんなに気持ちよかったキスは久しぶりだったぜ」
「う、うーん…」
キスが気持ちよかった。初めて言われたその言葉に戸惑いを隠せない俺は、恥ずかしくて目を伏せてしまう。
だって恋愛もしたことないが、まさかこんなおっさんに言われるなんて思ってもいなかったから。別に好きになったわけじゃないし、向こうだって俺のことを好きだとも言ってない。
だけどそんなことをいきなり言われたら、経験のない俺だって動揺してしまうに決まってる。
感情がこれ以上揺さぶられる前に、俺は話題を変えようと別の質問をした。
それが、宍戸さんの持つ衝撃の事実を聞くことになるとは知らずに。
「って言うかその、宍戸さんは、本当に体洗ってないんですか…?」
「ん?そうだぜ。かれこれ20年近くは洗ってないんじゃねぇかな」
「……………………え?」
俺が今まで生きてきた中で、一番と言っていいほど変な声が出た。同時に思考回路があり得ない速さで切断されて、これまで感じてきた数々の快感が一瞬にして消え去っていく。
じゃなくて、いや、えっ。今何て言った?
「に、じゅう……ねん……?」
「今の仕事に就いてからずっとだな。まあ基本は外だし、洗ってもかいた汗が作業着に染みてニオイが取れないからめんどくさくなっちまってさ」
俺は未だに、宍戸さんが言った言葉の意味を理解できなかった。体を洗うのは当たり前のことで、食べることや寝ることと同じ、普通の生活を営む上で必要不可欠なものではないのか?
20年……?何で?どうして?
俺の歩んできた人生にもほぼ等しい時間、この人は一度も風呂に入ってこなかったというのか?
意味不明にも程がある。本当に今を生きている獣人なのかと疑ってしまう。
もう何度目かも分からない、夢か現実かの判断。だがこの瞬間だけは、否が応でも夢だと思わざるを得ない。
混乱を極めていた俺の頭は何も考えられず、浮かんだ言葉をそのまま吐き出す機械と化してしまっていた。
「え、頭……おかしいんですか?」
「何言ってんだ、オレは正気だぜ?風呂浴びんのがめんどくせぇだけだよ」
「いや、ここまで来たらめんどくさいとか関係ないでしょ。本当に意味分かんないんですけど……」
俺の反応にも動じないあたり、この流れには慣れているのだろう。しかし彼が慣れていても俺が受け入れられないのだ、このおかしな事実に。
宍戸さんがおかしいということはともかく、約20年も洗ったことがないという話を理解するだけで精一杯だった俺は、しばらくの間その体に寄りかかったまま動けずにいたのだった。
宍戸さんの身の上話を何度も聞いて、ようやく俺が話を落とし込めた時には朝食を食べ終えていた。その間も漂っていた匂いの原因がまさか途方もない時間をかけて作られていたとは、やはり完全に信じ切るにはまだ時間がかかりそうではあるが。
「で、でも…20年って、病気とか大丈夫なんですか?」
「体が頑丈っていうことだけが取り柄でオレは今まで生きてきたからな。ちゃんと飯食って寝てればなんともねぇよ」
「えぇ……獣人ってそんなに頑丈なの…?」
まるでその言葉を体現するかのように朝から食べまくる宍戸さんは、力こぶを作るポーズをして笑った。話は飲み込めたとはいえ、こんなにも奇妙な生態をした獣人がいるなんて。
確かに栄養と休息だけでも生きていけるとは思うけど、清潔感を捨ててここまで生活できたその精神がすごい…というかイカれているというか。
「そりゃあ人間からしたら白い目で見られる体臭だろうけどよ、仕事の仲間たちからは男らしいって羨ましがられるんだぜ?」
「そ、そんな匂いがですか…!?」
「いいか?雄獣人ってのはな、雄臭いほどモテるんだよ」
次々に繰り出される自慢げな表情は、まるで彼本来の性格を表しているような気がしていた。しかし言葉の意味をそれとなく悟っていた俺は、その先を予想しながら理由を問い返す。
「でもそれって、雄の獣人にってことですよね…」
「そうだぜ。俺の会社は事務作業よりも力仕事の方が多いから、雄獣人しか雇ってねぇんだよ」
「う、うわぁ……」
想像するだけで咽せてしまいそうになった俺は露骨に嫌な返答をしてしまったが、兄ちゃんも似たり寄ったりだぞと鋭い一言を喰らって言い返せなかった。
「にしても兄ちゃん、ガタイよくなったなぁ」
「……あ!!そ、そうです、それが聞きたくて!」
唐突な宍戸さんの問いかけによって思い出した俺は、この体に起きたことを話した。こんなこと誰に話しても嘘だと一蹴されてしまうような話だが、宍戸さんは真剣に耳を傾けてくれた。
結果から言えば、もしかしたらこれも彼による影響かもしれないという。明確な理由までは分からないが、一部の人間に大きな作用を施してしまうことがあるらしい。
明らかに宍戸さんからの影響としか考えられないとは思っていたものの、それを聞いた俺は少し怖くなった。だって体がいきなり大きくなったのだ、色々な面で生活に支障が出てしまったらと思うとこの先が思いやられる。
この様子じゃスーツだって入らなそうだし、今から買うともなれば余計にお金がかかるし…
宍戸さんの体臭にもようやく慣れて過ごせるようになってきたというのに、こればっかりは考えないといけない問題である。そんな俺に対し、当の本人は頬杖をつきながらこう答えたのだった。
「でもよぉ兄ちゃん。オレはそっちの方が男らしくて好きだけどな」
「……えっ」
それは、戸惑っていた俺の心へ素早く染み込んでいった。流されるように生きてきたこの人生の中で、『男らしい』なんて誰からも言われたことなんてなかったのに。
元の体型だって、ヒョロガリでもなければデブでもない、至って普通の体型だった。だからこそ俺は、そこら辺にいる男性という自己認識で生きてきたのに。
コンプレックスでも何でもなかったこの体で褒められた俺は、言葉では形容し難い嬉しさに震えていた。ぞくぞくと背筋が伸びるような感覚に、鼓動が速くなる。
「オトコならみんなそう思うんじゃねぇのか?逞しい体に腕っぷしも強くて、男臭さの中に屈強なオスのフェロモンをプンプンさせちまえば、どんなヤツだってイチコロってもんだろ」
「………!」
言っていることはおそらく間違っていない。男なら皆、人生の中で一度は自分を磨いてみたいと思う瞬間が来るだろう。
俺にとって、今この時がそうだった。
俺を形作る価値観が、少しずつ塗り替えられていく気がする。男は力が強い方がいい、屈強な体の方がいい、男らしい匂いを漂わせていた方がいい。
その全てを兼ね備えた存在が、目の前にいる。
本物の男らしさを求めたいなら、本当に男らしくなりたいと思うなら…どうすれば良いか。
そう考えた時にはもう、俺の口から言葉は飛び出していた。
「お、俺っ…!宍戸さんみたいに、男らしくなりたいかも…です。けど、何をすればいいか……」
その言葉を聞いた宍戸さんは、大きなマズルに皺を作ってニヤリと微笑んだ。まるで俺をその道へと誘導させたことが成就したような、そんな顔だった。
それでも俺は、引き下がる気はなかった。このおっさんに散々犯された時点で、俺は変わってしまったのだろうから。
「まあ、方法としちゃ色々あるが…始めやすいのは筋トレだな。どうする?今すぐやってみるか?」
「じゃ、じゃあ…とりあえず、やってみます」
「へへっ、ますます俺好みになってきたなぁ兄ちゃん!そんじゃあ、おっちゃんも人肌脱いでやるとするか!」
そういうと宍戸さんは、筋トレのやり方について語り始めた。無知だった俺でもなんとなく理解できるような分かりやすさで、無理せず続ける秘訣なども教えてもらった。
一通り話が終われば、早速実践に移る。試しに普段から宍戸さんが行っているトレーニングをさせてもらったが、想像以上にキツすぎてすぐに根を上げてしまった俺は自分が恥ずかしくなった。
だが最初はみんなそんなもんだと大きな声で笑い、俺がすぐに匙を投げないように優しく励ましてくれて。その後俺は宍戸さんと付きっきりでトレーニングを始めた。
途中から宍戸さんも一緒にやると加わり、まるで俺専門のトレーナーさんがついたみたいで嬉しくなって、俺もどんどんのめり込んでいった。
体が大きくなった影響で代謝機能も向上したのか、それともトレーニングの効果が良すぎたのか、始めてから30分もしないうちに汗がどんどん滲み出していた。ぼたぼたと垂れる大粒の水滴は部屋の床にシミを広がらせ、自分でも驚くほどの発汗量に運動の効果を実感する。
流した量は計り知れないし、部屋の中をむわりと満たす汗臭さで俺はますますやる気に満ちた。気付かぬうちに勃起していたチンポにも気を取られず、男らしさを得るためにただ宍戸さんについていった。
汗を流せば流すほど宍戸さんは楽しそうに盛り上げ、まだまだいける、もっとできると俺に叱咤激励をくれる。こうして至近距離で励まされたことが初めてだった俺は、なんとかその声に応えようと必死になっていた。
もちろん全裸で行うことにも初めこそ恥ずかしさを感じていたが、ならば見せつけてやるぐらいの気持ちで挑めと宍戸さんに言われてからは気にしなくなった。
宍戸さんは段階的にキツさを増していく方法が好みらしく、俺もそれに倣って体に鞭を打っていく。
少し大変だが、トレーニングを達成すれば宍戸さんは自分のことのようにすごく喜んでくれて。ジムのトレーニングマシンがなくてもここまで体を追い込めることを知った俺は、味わったことのない達成感に包まれていた。
休憩時間の際、買ってきてくれた天然水で水分を補給していると、塩分補給も大事だと言って汗たっぷりの腋を舐めさせてくれた。
俺はその時間が一番幸せだった。体を動かし、筋繊維を痛めつけ、疲労の溜まった状態で摂取する腋汗のなんと美味いことか。これまで飲んできたどのスポーツドリンクよりも病みつきになるその味に、最終的には腋汗を舐めるために俺はトレーニングに勤しむようになっていった。
─────
初めてにしてはかなりハードだった運動が終わりを告げた時、部屋の窓からはビル群の明かりが煌々と輝く時間帯になっていた。
汗を拭おうと顔に手を当てると、何やら顎のあたりがチクチクと痒い。おそらく夕方ヒゲだろうが、その範囲は顎だけでなくもみあげあたりにまで広がっていた。
獣人の…というより宍戸さんの獣性ホルモンが強すぎる。まさかここまで影響が出るとは思いもしなかったが、正直言って疲れていた俺はすぐに忘れてベッドに倒れ込んだ。
「はぁ〜〜〜っ…!!つ、疲れた……!」
「お疲れさん!よぉーく頑張ったぞ、兄ちゃん!」
汗だく全裸のまま大の字で仰向けになる俺の頭を、ガシガシと撫でてくれる大きな獅子おっさん。誰かからこんなに褒められたのは、いつぶりだろうか。
すっかり忘れていた嬉しさに胸の中がいっぱいになっていた俺は、思わず宍戸さんの体を抱き寄せてしまった。
自分でも理解できない行動に自分でびっくりしたが、宍戸さんの方がもっと驚いていただろう。それでも彼は太い腕で優しく抱きしめ返してくれた。
汗でぐっしょり濡れた獣毛が、俺の肌に密着する。毛皮に付着していた皮脂や垢はもう、汚いとは思わない。
むしろそれこそが雄の勲章だと、俺の心は考えるようになっていた。
「そんじゃ、頑張った兄ちゃんには良質なタンパク質をやらねぇとな」
「……ッ…!」
そう言って上半身を起こして膝立ちになると、既に準備万端となっていた赤黒い獅子チンポを俺の目の前に突き出した。ぐわんと視界がぐらつくほどの汗臭いに、俺の思考回路が一気に卑猥なものへと変わる。
なんて、なんていいニオイなんだろうか…!腋汗とはまた違った類の刺激が脳を破壊し、快楽物質を全身に巡らせていくのが分かる。
獣人が運動した後の体臭は、人間よりこんなにも濃厚なものなのかと、俺の性欲は一瞬にして極限まで昂っていた。
早くこのチンポにむしゃぶりつきたいと、頬から分泌される涎が止まらない。やはりまずはニオイを堪能してから…ああでも、やっぱり早く味わいたい…!
宍戸さんに一言も言わず、その肉棒を一気に口の中へと突き入れようとしたその時。宍戸さんの指が、俺の尻の割れ目に沿って撫でていたのを感じた。
「上じゃなく、下の口からな…?」
「……!!はい、お願い…します…っ!」
ついさっきまで俺を鼓舞してくれたあの朗らかな声とは正反対。低く、重く、喉を鳴らして唸るような話し方に、俺の本能が打ち震える。
宍戸さんの雰囲気が、大人から雄へと変わっていく。人間の俺なんかでは絶対に為せないその切り替えに、俺の体は操られるように立ち上がった。
俺の両股に潜り込むような形でベッドに寝そべった宍戸さんの、『そのまま腰を下ろせ』という指示を含んだ指差しに従う。たっぷりと汗を吸ってぼさぼさになった陰毛の上に尻を置けば、それだけで胸が早鐘を打った。
無言のまま、俺は宍戸さんの分厚い胸板に手を当ててみる。指の隙間に入り込む毛束にも水分が浸透していて、ベタつくその感触が不思議と心を興奮させた。
「すごい……なぁ」
「なんか、こうやってじっくり触られながら言われるとすんげぇ興奮するな」
「えっ、あっ…!す、すみません…」
気付かぬうちに宍戸さんの胸を揉んでしまっていたらしい。俺は恥ずかしくなって手を引っ込めようとするが、肉球を持つ手がそれを制した。
「全然気にしてねぇよ。それより兄ちゃん、もう我慢できねぇのか?」
「うっ……が、我慢できない、です…」
「へっ、可愛いヤツめ」
痛いほどガチガチに張り詰めていた俺のチンポを掴むと、宍戸さんは小さく笑う。そしてわざとらしく腰を浮かせ、スリスリと俺の尻の隙間に獅子チンポを擦り付けてきた。
生ぬるく粘ついた液体が、俺の尻穴に塗りたくられていく。着々と準備が進められていく中、最後の一押しは宍戸さんの言葉だった。
「じゃあ兄ちゃん、自分で挿入して、自分で腰を振ってみろ」
「……っ…!」
俺の中に、無理ですという返事はなかった。言われた通りに腰を浮かせ、自分の股の間から宍戸さんのチンポを掴む。
ひと息にその分厚い包皮をずるんと剥けば、綺麗な形をした赤黒い亀頭が姿を現す。張り出した雁首にはまだ少し痴垢が残っているのが見えた。朝にしゃぶったが、こびりつきが強くて取れなかったものだ。
蘇る精飲の記憶が更に欲を高め、俺は腰をゆっくりと下ろしていく。たった数回の行為ですっかりほぐれてしまった肛門と獅子チンポの先端が、軽やかにキスをする。
「くぁ……はぁ、ふうぅ……っ…!」
何の違和感もなく静かに門を切り開いていく肉の槍に、俺の全身がビクビクと痙攣する。入り込んでくる太い逸物に頭が支配され、呼吸が小刻みに変化する。重力に逆らわずに力を抜けば、宍戸さんのチンポがみるみるうちに入り込んでいき……
「あ゛……はいっ、たぁ…っ!!」
俺の尻穴は、宍戸さんの肉棒をずぷんと根元まで完全に飲み込んだ。あまりの興奮に我を忘れていた俺は、思った言葉をそのまま放ってしまう。
「でも入っただけじゃ俺はイかねぇぞ?兄ちゃん」
「わ、分かって…ますっ…!」
太いチンポの満足感に浸る時間も短く、俺はゆっくりと腰を浮かせる。ずるる…と擦られる腸壁の快感に腰が砕けるのを我慢しながら、雁首が引っかかる手前まで持っていって一気にまた飲み込む。
宍戸さんの胸を土台にして、腕で全身を支えながら、それを繰り返した。ゆっくりだった抽送は少しずつスピードをあげ、ぱちゅっ、ぱちゅっと弾ける音が股下から聞こえてくる。
「ん゛っ、おっ、おおおっ…!イイ、イイぞぉ兄ちゃんっ…!その調子だ…!」
俺が気持ちよくなることは、宍戸さんが気持ちよくなることでもあった。腰を上下に振るたびに、宍戸さんのマズルから甘い吐息が漏れる。
あの屈強な体を誇る彼が、始めは散々俺のことを犯した獅子おっさんが、今では俺の尻で感じてくれているという光景に感動し、尻の奥がキュンと疼く。
ずっちゅずっちゅとピストン運動を繰り返し、宍戸さんのチンポを喰らい尽くす。筋トレ後の疲れなど既に吹っ飛んでおり、大きくなった自分の体を必死に動かすことに集中していた。
筋トレしている時よりも多くの汗を滲ませながら、俺は宍戸さんにしがみついて必死に腰を振る。流れ落ちる汗がおっさんの獣毛に滴り落ちて染み込んでいく様子を見ると、ますます興奮が高まっていく。
俺の汗で宍戸さんが汚れてくれたことに、感動していたのかもしれない。
「踏ん張れ!踏ん張れッ!!今日やったスクワットと同じだ!あと20回!!」
「ふっ、ぐっ…!!はぁっ、ふぅっ…!」
宍戸さんの絶叫が俺の体を突き動かす。おっさんの股座から染み出す汗が、淫臭が、部屋の中を満たしていく。
汗臭い、尻が熱い、チンポ気持ちいい、宍戸さんが喜んでいる。
様々な感情が渦巻く中、次第にそれは抗いきれない絶大な悦楽によって押し流されようとしていた。尿道の奥から込み上げる濁流が、俺の腰をジクジクと蝕んでいく。
「あっ、くぁっ…宍戸さんっ…もうっ……!」
「ぐおぉっ、オレももう限界だっ!!イクぞっ!!おっちゃんの濃い獅子ザーメンぶっ放すぞッッ!!」
その言葉を皮切りに、ばちゅん!と宍戸さんの下腹部が俺の尻たぶに直撃した。同時にゴリュゴリュと腸内を抉られた快感に声が出なくなった俺は、思わず宍戸さんの体にしがみつく。
反射的に収縮した尻穴が獅子チンポの痙攣を感じ取った瞬間、俺のチンポに燻っていた疼きが爆発した。それは宍戸さんも同じだったらしく。
「お゛、お゛っ、お゛ッ!!クるッ!!イクイクイグッ!ん゛おぉお〜〜ッッ!!!」
ぎゅうっと両手で腰の骨あたりを押さえつけられ、固定された尻の奥まで種付けされた。熱く、どろどろした獅子おっさんの子種が、チンポの形に拡がってしまった俺の直腸内を満たしていく。
俺は自分自身が絶頂したことにも気付かず、ただ体の中でビクビク震える宍戸さんの太いチンポに脳を支配されていた。部屋の中がサウナのように熱くて、噴き出す汗が止まらない。
ピリピリと全身の皮膚がむず痒くて、体中の神経が鋭敏になったような気がする。それでも俺は、たんまりと放出された獅子ザーメンの濃厚さと量に心を奪われていた。
「……っはぁ、はぁっ、はぁ……し、宍戸っ、さん……」
「兄ちゃん、随分と上達したじゃねぇか…めちゃくちゃ気持ちよかったぜ…」
そう言ってもらえて嬉しいですと言いたかったのに、強烈な疲労感に襲われていた俺はうまく言葉を発することができない。突き刺さった肉棒を抜くこともできず、宍戸さんの体にもたれかかってしまう。
「ははっ、めちゃくちゃ激しかったからなぁ。しょうがねぇな」
「はぁ、はぁ、はぁっ……うぅ…」
乱れた息を整えようと呼吸を繰り返すたびに、宍戸さんの芳醇な汗のニオイが鼻腔を刺激する。今となっては俺の興奮材料となってしまったせいで、再び股間に血が集まってしまうのを感じていた。
だがそれを忘れさせてくれるほどの力強い抱擁に、俺はひどく驚いてしまった。
「兄ちゃん、オレみたいな雄獣人は好きか?」
「……す、好き…です…」
突然の質問に対して考えが回らず、ちゃんとした答えを返すことができない。
正確に言えば好きにさせられたのだが…もはやそんなことはどうでもよくなっていた。
「兄ちゃん、就活中だろ?けど見た感じ、まだ決まってねぇみたいだな」
「……えっ」
その言葉に、息が詰まる。いきなり核心を突かれた俺は、逃れられない問題に対しての焦りを咄嗟に思い出してしまう。
その焦りが、予想もしていなかった希望へと変わるとは思いもよらず。
「それならよ、オレの会社来るか?」
「…は、えっ………?」
「大きくはねぇけどよ、兄ちゃん1人を野垂れ死にさせるほど安くねぇ給料だぞ。仲間想いな奴らばっかりだし、寮もあるしな」
「え、え、ちょ、話が……」
ついてこれない。突然の勧誘に一気に頭が就活モードへと移行し、色々な考えが巡る。
俺がこれまで宍戸さんと経験してきた様々なことをすっ飛ばし、ある推測が頭をよぎった。
宍戸さんは、俺を自分の会社に引き込むためにこうして今まで過ごしていたのかと。俺が感じたあの嬉しさは、安心感は、俺を信じ込ませるために取り繕った嘘なのではないかと。
疑惑が不安を呼び、不信感へと変わろうとしていた。俺だってそう思いたくないのに、拭いきれない負の感情が募ってしまう。
でも、俺をぎゅっと抱き寄せる宍戸さんの力が強くなって。触れ合っていた胸の内から、どくどくと張り裂けそうな心臓の音が聞こえた。
「兄ちゃんにとってはオレがそういう悪いヤツに見えてるかもしれねぇが…どうか信じて欲しい。ちゃんと住む家もあるし、仕事もみんな毎日楽しくやってるんだ」
「で、でも……作業系って言ってましたよね。獣人の会社なのに、人間の俺にできるんですか…?」
「だから最初に言っただろ?兄ちゃんには素質があるってよ」
未だにその話は、よく分からない。だけど、この言葉に嘘はないように思えた。
俺の過ごしてきた大学生活よりも遥かに短い時間しか過ごしていないのに、宍戸さんの言葉が不思議と素早く胸の奥へ溶けていく。
まるで、恋人にでもなったみたいに。
考えてみれば、俺がこれを断ったところでまた振り出しだ。エントリーシートを書いて、飽きるほど受けた面接をまた繰り返す。もう時間も残されていないのに。
ならいっそ、首を縦に振ってしまった方が良いのではないか。俺をこんな変態に変えてしまった以上、俺の生活の責任を取ってもらう勢いで入社しても良い気がしてくる。
それ以上に今の俺は、初めて会った時では考えられないほど、この人に対して陶酔してしまっていた。
好きという気持ちではない、憧れに似た感情。この人のように雄らしくなりたいと、思っていた。
「…………した」
「…ん?」
「分かりました、って言ったんです。でもそこまで言うなら、こんな俺でもずっと働けるんですか?」
雇ってもらう分際で、身勝手な質問だとは思っている。でも、そこまでしないと俺はまだ信じ切ることができなかったのだ。
しかし俺がそう伝えた時の宍戸さんの顔は、ひどく穏やかだった。
「ああ、きっと満足する職場だと思うぜ」
満足する職場。その言葉に、俺の望んだ未来が手の届く場所にある気がした。
何もかも終わったと思っていた俺に差し込んだ一筋の光が嘘なんじゃないかという気持ちも、正直ある。それでもここまで来てしまった以上、この道に進むしかないのだろうと思っていた。
だから俺は、小さく首を縦に振った。
[newpage]
「じゃあ、始めるか。千晶」
「……えっ?」
よく分からない言葉の後、中に入りっぱなしだった宍戸さんのチンポからどくどくと生温かい液体が流れ出していく。
おそらく2発目の子種を流し込まれたんだろうという事実を受け入れた、その瞬間だった。
「……あ、うっ……え…?」
なんだろう、熱い。体が熱かった。何か体の内からぐつぐつと煮えたぎるような熱が少しずつ心臓から広がっていくような感じだ。
風邪じゃない。だとすれば頭痛もあるし、喉も痛くなるはずだが全くその気はしなかった。
なのに体だけがとても熱い。火に炙られるというのはこんな感じなのだろうかと変な考えをしてしまうくらい、変な感覚だった。
じゃあ、これはなんだ…?
未知が恐怖へと変わっていく。セックスよりも知らない感覚に襲われ、体が少しずつ震えだす。
自分の内側からよく分からない何かが弾け飛びそうな胸騒ぎに、俺は変な声をあげるしかなかった。
「大丈夫だ、心配すんな。オレが付いてるから」
「あ………うぅ…っ!」
全身がピリついて、皮膚のあちこちがむず痒い。怖くなった俺は、藁にもすがる思いで宍戸さんに強く抱きつく。
俺の体に理解し難い異変が起きている。原因も分からない以上、考えても全て無駄に終わる。
歪んでいく俺の視界の中で、俺の腕から何かが生えていく瞬間が目についた。毛穴という毛穴から、じわじわと少しずつ伸びていくように見える。
誰がどう見ても異様な光景に、頭の中が真っ白になった。
何だ、何だよこれ……
俺の体に何が起こってるんだ……!?
上下の歯が小刻みに擦れる音がする。寒くもないのに体が激しく震え出して、何も理解できない。
今にも泣き出してしまいそうな俺へさらに追い打ちをかけるように、今度は体の節々からメキメキと鈍い悲鳴が上がり始めた。
耳の下、顎あたりからその音は始まり、指の先から肘関節、ひいては全身から響いてくる。
まるで体の骨が一本ずつ折られているような痛々しい音なのに…何故か痛みは感じなかった。
分からない、分からない…怖い……!
俺は死んでしまうのか…?せっかく就職先を見つけたってのに…?
そう思っても体の軋む音は止まらず、むしろ激しさを増していく。宍戸さんの体に抱きつくことだけが頼りだった俺は次第に、その音に伴って体が変化しているのだと気づいた。
彼の肩に巻きついていた腕が、朝起きた時よりもさらに太くなっていたのだ。まるで宍戸さんと同じくらいまで膨らみ、筋肉の量が盛り上がるようにどんどん増えていく。
それだけではない、さっきまで生えたばかりだと思っていた毛は無数にまで増えており、皮膚を覆い尽くすかのように生え揃っている。その色は黒ではなく黄土色で、明らかに俺の腕から生えてくる毛の色ではなかった。
「え……な、なんっ……で…!?何、これ…!」
驚く俺に、宍戸さんは何も答えてくれない。さっきよりもさらに強く抱きしめてくれるだけで、全く動かない。
なんだよ、何で何も言ってくれないんだよ…!
理解できない現象に思考回路がめちゃくちゃになっていても、体の変化は止まらない。ドクンドクンと心臓の鼓動があり得ないほど速くなって、うまく呼吸が出来ない。
あれほど安心できた宍戸さんの体臭すらも感じることができなかった俺は、あまりの精神的衝撃に[[rb:瞬 > まばた]]きすら忘れていた。
痛みの伴わない骨格の歪みに吐き気すら覚えていた俺は、もはや息をするだけで精一杯だった。内側から爆発する抑え切れない感覚に神経がすり潰されて、意識も飛びそうになる。
「あ………ガ……アッ………!」
体の軋みはとうとう顔にまで起こり始め、見えない力に引っ張られるように自然と上下の顎が開いていく。頬が膨れ、口周りが肥大化しているような気がして、視界の真下に見慣れないものが伸びていくのが見える。
ゴキン、ゴキンと鉄で作られたパズルが嵌っていくように、くぐもった鈍い音が頭の中でこだまする。それと同時に、俺は一つだけ理解した。
それはまるで、動物のほとんどが持つ特徴。ゆえに、獣人が持つ特徴でもあるもの。
マズルだ。人間の俺に、あってはならないものが生えていた。
「なん……で…っ…どう、して…お、れ……?」
幼児退行してしまったように、言葉を紡ぐことができない。思ったことを吐露したその声は野太く、鉛のように重く聞こえていた。
まるで現実味が感じられない。御伽話の世界にでも入り込んでしまったように錯覚する。
……そうか、これは夢か。絶対に夢だ。
宍戸さんとのセックスに疲れ果てた俺が見ている、あまりにも鮮明すぎる夢なのだろう。ここまで実感を伴うものは生まれて初めてだった。
ああクソ。顎が、耳の裏が、首周りが、胸元が痒くて痒くてたまらない。チクチクと小さな針で何度も刺されたような感覚が、顔の周りにいくつも点在しているようだ。
掻きむしりたいのに手は動かず、歯痒い苦しみに耐えるしかなかった。その間にも生え始めだったはずの胸毛がどんどん太く、毛束の量を増やして生え揃っていく妙な感覚に視線が胸元へと向かう。
それはうぞうぞと少しずつ俺の肌の上を覆い尽くしていき、まるで宍戸さんの持つ鬣のように首下を隠していた。素肌が獣の毛皮に埋め尽くされ、自分が自分では無くなっていく。
でも大丈夫、これは夢だ。憧れの対象になっていた宍戸さんに少しだけ近づけたような気がしてちょっぴり嬉しかったけど、夢が覚めたら全部元通りなのだろう。
目を覚ましたら俺は宍戸さんの体に寄りかかっていて、すやすや眠ってたぜと笑われるに違いない。
ああ……頭が重い、体も重い。脳が丸ごと掻き回されているのに、感覚だけがどんどん研ぎ澄まされていくような気がする。
視界が広がり、神経が鋭くなって、この空間自体が心地よく感じていく。
もう一度視認した俺の腕は、今この瞬間も抱きついている人のものと似ていることが分かってくる。黄土色に染め上げられた、金色にも似た毛色が目に眩しく映った。
「あ…………ぐ、ウゥ………っ…」
永遠に続くかもしれないと思えた奇妙な体の歪みが消え、頭の中を覆い隠していた霧が少しずつ晴れていく。
あれほど体にうるさく鳴り響いていたはずの音は嘘みたいになくなり、再び感じることのできた宍戸さんのニオイに心が安らかになっていた。
今はそれが、やけに細かな部分まで分かるような気さえする。
「よぉく頑張ったぞ、千晶。今日からお前はもう、オレたちの一員だ」
宍戸さんのその声は、喜びの感情をこれ以上ないほど乗せていたように思う。静かで[[rb:強 > したた]]かな、それでいて安心感のある声だった。
「い…一員って……」
「まずは自分の体に見慣れることだな。ほら、行くぞ」
まだ現状をはっきりと理解できていない俺は、挿入されたままだった宍戸さんのチンポを尻から引き抜いてもらい、洗面所まで抱っこして連れてこられた。
降ろされたのは鏡の前。まだフラフラする僕を支えてくれた宍戸さんは、前を見てみなと一言告げる。
朦朧とする頭をなんとか奮い立たせ、俺はゆっくりと顔を上げた。
「………………え」
そこには、2人の獅子獣人がいた。
1人は、幾度となく見慣れた宍戸さんのいかつい顔。そしてもう1人は、俺と同じ目線に立っている。
黄金色の毛皮に身を包まれ、見事に綺麗な筋肉を浮き立たせている大きな肉体。そして目に飛び込んでくる、彼の顔を取り巻いている豊かな鬣。
もっさりとした質感がいかにも量の多さを表しており、コーヒー豆のような焦茶色をしたそれは、肩はおろか胸半分を覆い隠していた。
「え………?なに、これ……?」
頭の中が何も考えられなくなる。ただただ、目の前の人物に目が離せなくなっていく。
それでも、俺は分かっていた。この部屋には2人しかいないこと。そしてその2人は、宍戸さんと俺だけだと言うことを。
なら、俺が今見ている獣人は。
鏡の中にいる獅子の顔をした生き物は。
────紛れもない、俺だった。
「体の不調とかは無いか?千晶」
「これ……………現実、ですか…?」
宍戸さんの言葉が理解できない。いつもと変わらない宍戸さんが、理解できない。
俺は頭がおかしくなってしまったのだろうか?今見えているものは、幻覚か?
「現実だぜ。ほらほらっ」
「ちょ、あ゛っ!!いだい!あだだだだ!!!」
呆然とする俺の頬をいきなりつねってくる宍戸さんの指が、痛みを与えている。頬が引っ張られる感覚に視界が揺らぐも、微睡みの中から覚めていく感じがしない。
それはすなわち、今この瞬間が現実であるということを示していた。
「ほーら分かっただろ?それにしても千晶、オレとほぼ一緒じゃねぇか。嬉しいぜ…」
「これ、俺……?えっ、獣人……?」
現実を受け入れられない俺をよそに、宍戸さんは俺の頭をわしゃわしゃと撫でる。しかし俺の頭には髪の毛というものが存在しておらず、いわゆる宍戸さんと同じ鬣だったのだが。
「まあ、最初は信じ切れないと思うけどよ。すぐに慣れてくるさ、ほらっ」
「あ、ふがっ!!?」
狼狽えている俺の頭を掴み、引き寄せられたのは宍戸さんの腋。相変わらず蒸れたその空間は熱を篭らせていて、濡れる毛の感触が懐かしく感じる。
あの汗臭さに少しは気が紛れるだろうと、軽く息を吸ったその瞬間だった。
「───ッッ!!??」
腰が抜けた。そう錯覚してしまうほどの強烈なニオイが、俺の脳内をガツンと吹き飛ばした。
ぞわぞわと体の中を這いずり回るような悪寒が迸り、俺の体を覆い尽くしている獣の毛が逆立つ。人間の腕毛とは比べ物にならないほどの毛量が一気に動く感覚は、初めての体験だった。
いや、それよりも。なんだこのニオイは…!?
ただ汗臭いだけではない。なんというかこう、体の奥の隅々まで行き渡るような、細胞の全てが若返っていくような…一言では言い表せないものだった。
「獣人の鼻は人間よりも鋭いからな。人間だった頃よりも鮮明に感じるだろ?」
「ぇ……あ、ひぁ…………」
「ガハハッ、いきなり腋は刺激が強すぎたか?まあ千晶ならすぐに慣れるだろ」
ガクガクと足元がおぼつかない俺を抱き抱え、宍戸さんは洗面所を出ていく。未だ自分の体の変化に追いついていない俺だったが、彼のニオイをすっかり刷り込まれてしまった体はずっと悦びに満ちていた。
意識すらしていないのに鼻は動き続け、呼吸が浅く速くなっていく。
人間だった時よりも強く、よりダイレクトに匂ってくる宍戸さんの体臭。ニオイで興奮するようになってしまった俺のチンポは、今にも張り裂けそうなくらいに膨張していた。
ベッドに戻ってから改めて自分の体を確認しても、それが獣の体だということに変わりはなかった。10センチほどはあろうかと思えるほどの長い毛束に、頭の上に存在していた丸い耳。
マズルの高低差による違和感はまだ少しあったが、歯を触ればところどころ鋭利な牙のようなものも確認できる。そして肉量を増した尻たぶの切れ目の近くにあった、細く長い尻尾。
毛が先端に密集するその様はまさに獅子そのものを表していて、後ろを振り向くだけで胸が高鳴ってしまう。
それでやはり最も目立つのはゴツゴツと無骨な逞しさを見せる筋肉と鬣で、新しい姿へと生まれ変わった自分に見惚れていた。
肉体はもちろん、鬣は宍戸さんとほとんど同じと言っても過言ではない。胸のあたりまで広がり、腹筋の中心を伝って陰毛まで繋がっている。
それだけではなく背中側も同じように伸びているようで、ケツの谷間にまで焦茶色の毛が走っていたと宍戸さんに教えてもらった。獅子獣人でも珍しいほどの毛深さだと感心された時は、なぜか少しだけ嬉しかった。
この時の俺はもう、人間に戻りたいとはもう思っていなかった。自分に起きてしまった事実を理解し、受け入れる心構えをしてしまっていたのだ。
「気に入ったか?」
「正直実感はまだ湧かないですけど…なんか、嬉しいです」
「そうかそうか。まあなんだ、せっかくだしその鼻使って自分の腋とか嗅いでみろ」
「えっ、俺のですか…?」
いきなりの提案に戸惑いと興奮が入り混じる。確かにさっきから微かに感じ始めていたが、宍戸さんとはまた別の類のニオイが俺の周りに漂っていた。
まだ青臭く、そこまで重厚ではない。しかし人間だった頃よりも確実に濃くなっていたそれは、紛れもなく俺から発されていたものだった。
まさか、たったこんな短時間でこんなに変わるかとも思う。しかし今しがた人間ではなくなった俺にとって、それは愚問とも言えるものだろう。現に今、後ろの方でビタンビタン聞こえる音はきっと幻聴ではないはずだ。
そう思いながらゆっくり後ろを振り返ると、できたばかりの尻尾が勢いよく上下するのが見えた。
「…あ………」
「へっ、尻尾はいつも正直だよなぁ。オレでも制御できるようになるまで結構かかったっけな」
それは動物の界隈では俗に言う、『嬉しい』というサインなのだろうか。言葉にも表情にも出しにくいはずの感情をこんなにも簡単に曝け出してしまうとは、もはや隠し事も通用しないのだろうと理解してしまう。
ならば無理にでも隠そうとするより、自分の心に従っていた方がずっと楽しいのかもしれない。俺はただゆっくりと、湧き上がる欲望のままに腕を上げ、毛皮の海と化した自身の腋へと近づけた。
「……んっ…!?」
獣人の体は、想像していた以上に凄まじいものだった。
とにかく、五感が桁違いに高いのだ。嗅覚はもちろん視覚や触覚も鋭くなり、見るもの触るもの、その全てがクリアに感じ取れる。
嗅げば嗅ぐほど、目を閉じて鼻に意識を集中させるほど…匂いという形を持たない物質が、俺の頭の中でモノとして構築されていくような感覚を覚えていた。
もはや人間では絶対に到達できない領域を知ってしまった以上、俺はもうそこから降りることはできなくなった。それはすなわち、人間としての生を捨てるということでもあった。
だが、それでもいい。むしろどうして俺は今まで人間だったんだと錯覚してしまうくらい、今この瞬間が途方もなく幸せだったから。
「はぁ、はぁっ…ああ……っ!」
「獣人になって毛皮が生えて、汗が籠もりやすくなったからな。どうだ?」
「な、なんで…っ…俺、自分の匂いで興奮なんかしたことないのに…!」
腰の奥が、肉棒の根元が、尿道が、どんどん熱くなっていく。それは何度も経験してきた、射精が近付くにつれて起こる生理現象。
膨らんだ肉竿には血管が張り巡らされ、ドクドクと我慢汁が溢れ出してしまう。その量は、人間なんかでは比にならないほどの獣人の精力を表していた。
「それが獣人の特権ってモンよ。こうなれば誰かがいなくても自分自身がオカズになれるんだ、これほどラクなことはねぇだろ?」
「はぁ、はぁっ…た、確かに…そうかも…」
宍戸さんの話にも半分ほどしか耳を傾けなかった俺は、取り憑かれたように自分の腋のニオイを嗅ぎ続けていた。せいぜい腋程度が限界なのだが、それでも十分だと言えるだろう。
獣人の中で最も特徴的な部分である毛皮。ライオンのそれは他の獣人よりも少し長めなのか、かなりの熱が押し留められているのが分かる。
常に過ごしやすいサウナの中にいるような感覚だ。それはすなわち、他人よりも汗をかきやすいという状態でもあった。
普通ならば面倒な体質になってしまったと誰しもが思うだろうが、今の俺にとっては嬉しい意外の感想はない。だってこれなら、いつでも汗のニオイを感じていられるのだから。
汗臭さに興奮するようになってしまった俺には、自分で自分のご褒美を作り出せる体になれたと言ってもいいだろう。
むわりと漂う汗臭い俺の体。可動域の狭い首が唯一届く範囲である腋に顔を埋め、何度も何度も鼻をすすって貪るように嗅ぎ続けた。時間を掛けて繰り返せば、少しずつだがその奥にある獣特有の土っぽいニオイに気づく。
それは今までずっと俺が嗅いできた、宍戸さんにしか出せなかったニオイ。獣人だけが持つ唯一無二の体臭を俺自身が発していた事実に、ぞわぞわと背筋が強張る。
「千晶、これで分かっただろ?オレたちのいる獣人の世界ってやつがな」
異形の形になった鼻をフスフスと鳴らしながら返答する俺の顎を支え、真っ直ぐに見つめる力強い獅子獣人の[[rb:眼 > まなこ]]。思えばこんなにも真正面から堂々と見たことがないせいか、その猛々しい雰囲気にどくんと血流が跳ねる。
小さな吐息、大きな体、皺を生やした分厚いマズル。数十年の時を経て着実に積み重ねられた彼の艶かしい色気が、俺の心にじんわりと沁みていくような気がした。
「千晶。これから一緒に、頑張っていこうな」
自分が情けなくなるくらい、頼りたくなる声だった。思えばずっと聞きたかったその言葉に、沸々と目頭の奥が熱くなる。
毛むくじゃらになった指で素早くそれを拭い、「こちらこそです」と俺は返した。
俺をこんな変態に、そして人間から獣人へと変えてしまったその責任をとってもらいますからねと、心の中でそう言いながら。
「それじゃ、たっぷり味わえよ」
「え、宍戸さ……ん゛っ!」
唐突に訪れた、鼻先を包む感触。もっさりと重たく、サウナのような熱を篭もらせたその空間。
汗と脂でじっとりと汚れているであろうその部分が、宍戸さんの誇りある鬣だとすぐに分かった。ずっと触れられなかった不可侵の場所へと、俺は今踏み入れたのだ。
同時に俺は人間ではなく、獣人として本当に認められたのだと悟った。
変わり果てた獣の鼻が素早く空気を吸い込む。鋭敏になった鼻腔がニオイを細胞レベルにまで感じ取り、1秒ともかからずに脳へと到達する。
「………あっ────」
俺が息をひとつ吸い込んだだけ。これっぽっちも満たない空気を取り入れた、その刹那。
俺は、絶頂した。
どこまでも臭く、それでいてあり得ないほど淫らで、狂おしいほどの雄らしさを孕んでいた。いや、もはやそれすらも軽々と超えていた。
それを言葉として表すことが不可能なほどに。
想像を絶する、壮絶なニオイを放っていた。
「……ぁ……ぇ………っ…?」
俺はそのニオイを嗅いだだけで、人間の頃よりも太く逞しくなったチンポから無様に精液を吹き出してしまったのだ。
触っても、弄られてもいないのに。ビュルルッ、ドプッと鈴口から熱い粘液が止まることなく流れ出ている。触らずにイったことなんかなかったのに、強制的に射精させられた感覚に脳が混乱した。
精液や汗だけではない、この世のありとあらゆる異臭を煮詰めて凝縮させた上で、屈強な雄獣人から染み出すフェロモンと独特の獣臭を加えてじっくり蒸したとでも言えばいいだろうか?
しかしそれは、決して臭いという一言で例えるには程遠いものだった。獣人になったからそう言えるのか、それとも宍戸さんに散々ニオイを嗅がされてきたおかげかは正直分からない。
それでもこのニオイは、たった一発嗅いだだけで俺を強制的に欲情させ、チンポすら触らず射精にまで至らせるほどの凶器だったことに違いはない。
今もなお腰の奥は疼き続け、背筋がゾクゾクと歓喜に震えているのがその証拠だった。今までは手で刺激を与えるだけだった俺は、嗅覚での快感の感じ方を覚えてしまったのだ。
やはりそれは、俺がこうして獣人になったおかげなのだろう。獣人並みの嗅覚を持っていなければ、この鬣に20年以上蓄えられたニオイを隅々まで感じ取ることはできないだろうから。
「へへっ、どうよオレの自慢の鬣は。たまんねぇだろ?まあ、イってるんだから聞く必要もないだろうけどな」
全くもってその通りである。ニオイだけで射精するなんて誰が想像できただろうか?
でも、それは俺自身の体が体現してしまっている。現実に起きてしまっているのだ。
「生まれ変わったその鼻で、心ゆくまで味わってくれよ。オレからのちょっと早い就職祝いだ」
「ふがっ!……は、はひっ…ひあぁ…!」
ニオイだけで絶頂したばかりの俺を、さらに鬣の中へと押し込んでいく。それに従うように俺もまた顔を奥へと突き出し、ありえないほどの湿度に濡れたマズルを押し込んだ。
その衝撃で咄嗟に息を吸い込み、そのニオイにまた絶頂する。ビクビクとチンポが勝手に震えて、制御できない快感が俺を襲う。
それでも宍戸さんの押し込む手は止まらず、外からでは見ることのできなかった彼の太い首筋がついに鼻先に触れる。そこはもう、言うなれば無法地帯だった。
息を吸っても吸わなくても同じだ。意思を持つ宍戸さんのニオイが俺の鼻腔を無理やりにでも犯し、脳を侵食して。これ以上のニオイは世界中どこを探しても存在しないんだと、細胞の一つ一つに深く刷り込まれていく。
雄らしく汗臭い腋よりも、吐き気がするほど臭い股座よりも、熟した獅子おっさんの黄ばんだ精液の淫臭よりも。これまで嗅いできたどの体の部位よりも濃厚で重苦しく、それでいて最高に興奮してしまうニオイが蔓延する場所だった。
そしてまた鬣の中の汚れた空気を吸い込んで、射精。もはやチンポを扱く必要もない、宍戸さんの鬣だけでイってしまう。このままでは鬣なしには射精できないと思ってしまうぐらい、凶悪な匂いが俺を犯し尽くしていく。
まるで麻薬のように、吸えば吸うほど体中の隅々が興奮して狂いそうになる。気づけば俺の口からは涎が垂れ、無我夢中で宍戸さんの鬣の中へと潜り込んでいった。
鼻だけで快感を得ていたそんな俺に、さらなる悦楽が降りかかる。
「…うあ゛ッッ!!?し、ししどさ……そこ、やめ…っ…!ふあぁあぁっ…!!」
それは予想外にも後ろから。尾骨の先から生えたばかりの尻尾、その根元をガシガシと扱いてきたのだ。
獣人は尻尾が弱いなんて噂は眉唾ものだと思っていた俺が、まさか自分の身を持って知ることになろうとは。しかしその噂通り、俺は情けない声を上げながら腰をへこへこと動かしてしまう。
「ガハハッ!カワイイ動きすんじゃねぇか千晶ィ!それならもっとじっくり擦ってやるよ」
「……はぁあ、あっ、うう゛っ…あぁあ゛ぁ〜〜……ッ…」
チンポを弄るのとはまた違う、尻の方から遠回しに湧き上がってくる微弱な快感は全身を覆い尽くしている。まるで背中に生えた別の形のチンポを慰めたかのように、俺は再び勢いよく射精をしてしまう。
獣人の精力もまた、想像していた以上に強いものだった。人間の頃は2回が限界だったのに、今じゃもう5回ほど連続で絶頂している。
どくどくと尿道を駆け巡っていく精液の量は人間だった時よりも多く、粘度も桁違いに濃かったのが見なくても分かる。玉袋も煮えたぎるように熱く、衰えるどころかむしろさらに多くの精子を製造していた。
おまけに放出の持続時間も長いぶん絶頂の快感に脳が呆けてしまい、宍戸さんの見事な体に俺の精液をぶっかけてしまうことに対しての心配は、いつのまにか忘れてしまっていた。
その後も俺は宍戸さんの持つ最強最悪の鬣に犯されながら、獅子獣人となった自分の体を時間と共に受け入れていった。部屋の中を満たす淫熱に茹だった体が大量の汗を生み出し、俺の体を淫らなニオイで覆い尽くしていく。
宍戸さんだけでなく、自分の体から漂う饐えたニオイにも興奮し、何度も何度もチンポを扱いては絶頂に至る。鼻に感じるニオイと快楽との繋がりが骨の髄まで染み渡るように、射精は繰り返された。
この時の俺はもはや、尻の穴ではなく鼻の穴でセックスしていたと言っても過言ではないだろう。
鋭敏になった獣人の嗅覚に幸せを噛み締めながら、宍戸さんとの夜は更けていった。
[newpage]
厳しい寒さもようやく和らぎ、冬の終わりを告げたような4月の青空。ゆったりと浮かぶ雲の下を走る一台のミニバン、その助手席に俺は座っていた。
車窓から覗く街並みは見慣れなくて、気を抜けば少しだけ不安が心に影を落とす。それでもなんとかなるしかないのだろうと思ってしまえるのは、この体のおかげなのだろうか。
隣にはもちろん、俺の全てを変えてしまった…いや、変えてくれた宍戸さんがいる。初めて出会ったあの夜の日と全く同じボロボロのツナギを着て、逞しい腕を半分出しながら上機嫌に運転していた。
きっとあれも、あの日から洗っていないのだろう。車の中に充満するそのニオイに、すっかり感じ取れるようになった俺の鼻がそう伝えてくれた。
「緊張してるか?」
「えっ!?……ま、まあ、してない訳ではないです…」
ついさっきまで無言の空気が流れていたせいで、突然の質問に慌てる俺。いくら社長のことを知っているとは言え、向かうのは全く知らない新しい環境だ。
そのあたりは、やっぱり正直言うと不安しかない。でも入社すると言ってしまった以上、ここまで来て引き下がることも出来ない。
肉球を携えた手のひらを握り、背筋を伸ばし直した俺の肩に、ぽんぽんと優しい衝撃が降りかかった。
「そんな心配しなくても、みんな優しいぞ?すぐに打ち解けられると思うぜ」
「そ、それなら嬉しい…ですけど…」
そんなやりとりを行う俺は、宍戸さんが着ているものと同じジーンズ製のツナギを着ている。『宍戸建設』と書かれた左胸の四角いワッペンと、右肩に刺繍された『寺松』の文字。
身も心も新しくなった俺は、新社会人としての微かな不安と共に、新しい生活が始まる時に感じる胸の高鳴りを覚えていた。
*****
宍戸さんによって人間の俺が獣人となったあの夜の翌日。宍戸さんの会社に入るにあたっての最終確認をした後、自分の部屋まで送ってもらった。
短い間だったが人生を変えてくれた宍戸さんと別れ、大学生活を共にした部屋に帰ってきた俺。自分1人だけになり、嘘のようだった今までの出来事が全て終わったと思った途端、急激に疲れが体を襲ってきて。
興奮よりも休みたかった俺は無意識のまま風呂場へと向かい、ぼーっとした思考の中でシャワーを浴びる。暖かいお湯に体がほぐれて、芯からじんわりと熱が帯びてくる感覚が懐かしく思えた。
だが、獣人となった体は洗うのが想像以上に大変だった。
全身を覆う毛皮はシャンプーを泡立てるのには役に立ったが、全身に髪の毛が生えているようなものなのでかなり面倒だ。水分を吸う毛もあれば捌けたりする毛もあり、きちんと均一に泡が行き届いている感じがしないし。
途中から手を動かさなくなった俺は、下を向いてお湯で流すだけにした。生えてしまったマズルから、温かい水滴が伝っていくのが見える。
髪の毛同然となった鬣からとめどなく流れる黒く濁った水に、ふと宍戸さんの顔が浮かんだ。
俺はあの人に、こんなにも立派な体にしてもらった。それは無理やりでもあるが、宍戸さんのような雄らしい肉体に憧れを抱くようになってしまった俺にとって、嬉しい以外のことはない。
関連付けされたように、俺の鼻にこびりついたあの人の体臭が思い起こされる。もはや近くにいなくても思い出せるほど記憶してしまったそのニオイに、力を失っていたはずの肉竿に炎が灯ろうとしていた。
「…………」
適当に洗い終わり、使い古したバスタオルで大雑把に体を拭く。人間用のそれは十分に水分を吸い取れるものとなっているが、獣人に対してそれは裏目となってしまうらしかった。
「これはもう…使えないかな」
表面にびっしりとこびりついた毛皮の数々を眺めていた俺は、バスタオルを畳んでゴミ箱に入れた。
体を洗っても、あのニオイが取れる訳なんてあるはずがない。ほかほかと湯気の立つ腕に顔を近づければ宍戸さんに植え付けられた雄の香りがするし、毛皮の奥に隠された俺自身の獣臭も消えていない。
何より、鬣から漂う鼻につくニオイが俺を少しずつ昂らせていた。
でも、足りない。あの人と同じくらい雄らしいニオイを常に放つためにやらなきゃいけないことは、何となく分かっている。
あれだけ強烈に刷り込まれてしまったそれを、俺自身の体で出すことができる可能性があるんだ。
俺の頭には、その方法を実行する以外の考えはなかった。
俺はこの日を境に、風呂に入るのをやめた。
これが俺の、獣人としての新たな門出であった。
翌日から、俺は一歩も外に出ない生活を始めた。掃除も換気もせず、部屋中を俺の体から漂う獣臭で満たし続けた。
そして部屋でも出来る筋トレを始め、ご飯を食べる量も倍以上に増やした。全ては俺も、宍戸さんみたいな屈強で汗臭い雄獣人になるためだ。
その生活は、今まで平凡に生きてきた俺にとって最高に楽しい日々だったと言えるだろう。人間より毛深い獣人なのだから、運動をすれば汗が吹き出すのは必然的である。
量も濃さも段違いのそれが、俺の毛皮の内部で絡み合ってなんとも言えない汗臭さを発するのだ。
そのニオイに包まれながらオナニーする時ほど、幸せな時間はなかった。
「…はぁ、はぁ、はぁっ……あぁ…たまんねぇ…」
全裸のままで筋トレを終えたら、シャワーなんて浴びずにチンポを扱く。痛めつけた筋肉の痛みなど忘れ、ケダモノのようにひたすら性欲に走るこの時間がなんとも言えないほど気持ち良かった。
人間の頃よりも一回り大きくなった肉の竿を激しく擦る度に声が漏れ、ダラダラと口から涎が垂れる。それもこれも、俺の体に蓄積されたニオイのおかげだ。
流れるように俺はチンポを弄っていない方の腕をあげ、熱を籠らせる自らの腋を虚空に晒す。もわりと漂う熱気と汗のニオイに鼻がヒクヒクと動き、それだけで思考回路がピンク色に染まっていく。
そして突き出た獅子のマズルを、ひどく湿った毛束の集まる窪みに嵌めれば……
「……っ!!」
鼻腔が感じ取った強烈なニオイに、脳天からつま先にかけて強力な電撃が迸る。開いた股の中心で忙しなく動いていたはずの手が止まり、その代わりに俺の獅子チンポから勢いよく精液が噴射された。
暴れ狂う肉棒から放出される白濁は初めて獣人になった時よりも量を増し、粘り気もニオイも比べ物にならないほど強くなっていた。まさに雄と呼べるようなその液体が、部屋の床や壁、ひいては表面積を増した俺の肉体に降り注いでいく。
それでも俺は満足できなかった。自分の鼻をぐりぐりと腋に押し付け、脳が麻痺するほどの刺激臭を脳へと送り込んでいく。マズルを持つ獣人にしかできないこの行為に、俺はこれまで何度宍戸さんに感謝を思ったか。
「…っはあ…はぁ、腋、めっちゃ汗臭ぇ……でも、やめらんね……」
フガフガと一心不乱に汗臭い自分の腋を嗅ぎながら、汗と精液でべちょべちょになった片手で尻に生えた尻尾を掴む。ほどよい太さを持つ根元をギュッと握れば、それだけで腰全体に甘い快楽が走った。
そのままゆっくりと擦り始め、少しずつスピードを上げていく。
「あっ、あっ、あぁっ…クソ、腰、とまんね…っ…!腋の匂い嗅ぎながら尻尾シゴくのマジで気持ちよすぎる…ッ…!!」
ゴシゴシと乱暴に尻尾を扱く度に、直接チンポを弄る強い快感とはまた違った刺激が体全体に広がっていく。近くで感じているのに、その根源の場所が分からない。そんな感じの悦楽に、最近の俺はハマっていた。
まるで尻尾が第2のチンポにでもなったようだ。獣人って、体一つでこんなに多くの気持ちいいことができるなんて思ってもいなかった。
「あ、ぐっ……やべっ、出るっ!!イぐ、イぐぅう゛う゛ッッ!!!!」
間髪入れず、2回目の絶頂。しかもチンポには手を触れていない。
その快感に拍車をかけたのは、紛れもなく獣人となった自分の体から漂う汗と生臭さだ。鼻腔を満たすそのニオイが、俺の感度をどんどん上げてくれるのだから。
「っはぁ、はぁ、はぁっ……あーやべ、ホント獣人ってやべぇな……」
膝立ちになって腕を上げ、毛皮の生えた腋に顔を埋めながら尻尾を扱き、硬くなった逸物から無様に射精する。端から見ればなんとも滑稽な光景に見えるのだろうが、俺にとっては至福の時間に他ならなかった。
こうしてまた一つ雄のニオイと快楽が結びつけられ、繋がりが強くなっていく。
先ほど放出したばかりのどろっどろなザーメンを取れる分だけ全て取り、顎の下から胸元にかけて生い茂るボサボサになった鬣に馴染ませる。動物の癒し動画で見るようなもふもふ感は全くなく、ジャリジャリと固形になった汗の垢が指先に付着した。
脂っぽくベトベトになった毛並みに、少しだけ宍戸さんを感じる。太くなった5本の指で毛束を掬って顔を覆い、ゆっくりと思いっきり吸い込んだ。
「すうーーっ………はぁあぁぁ……」
一つ深呼吸をするだけで、肺が穢されていく感覚に陥る。頬が緩み、大量の涎が分泌される。
獣人となった鼻が隅々まで汗臭さと精液のニオイを感じ取り、脳内で作られた快楽物質が体中を凄まじい勢いで駆け巡っていった。
2回目を出したはずの肉棒がムクムクと復活し始め、俺はトロンとした恍惚な声を垂れ流す。帰って来てから気づいたことだが、俺も宍戸さんと同じく鬣が最もニオイが強い場所だと分かった。
あの人の影響か俺の鬣も異常に毛量が多く、下を向いても下半身は見えず、勃起したチンポの先端がギリギリ顔を覗かせる程度だ。
俺が獣人になってからこれまで出してきたほとんどの精液や我慢汁を鬣に混ぜ込んできたが、たった数日ではまだまだ短すぎるのだろう。もっと、もっと汚れなければ、あのニオイには到達できない。
なんの性癖も持たなかった俺を無理やり捻じ曲げてしまうほどなのだ。けれどそれを手にするには、月日という絶対に敵わない要素があるのは分かっている。
だが、時間以外でも体臭を濃くさせる方法なんてたくさんあるのも事実だ。ならば俺はそれを実践するだけだと汗をかくためにわざと暖房をつけながら筋トレしたり、服も下着も洗わずにずっと使い回していた。
それに獣人の体は毛皮がある上に代謝もいいから、冬でも暖房をつけて寝ることなく熟睡できる。だから射精しても体に付いた精液は拭かず、全裸の上からコートを羽織って寝るようになった。
一応の寒さ対策として熱を籠らせるために着ていたのだが、正直言うと自分の体臭を濃くするためという理由の方が強かった。いわゆる一石二鳥ってところだろう。
そうやって俺は卒業式にも打ち上げにも参加せず、宍戸さんが迎えに来るまでこの生活を続けた。玄関先で俺を迎えに来た時の宍戸さんの顔は、すごく嬉しそうにしていたのを覚えている。
*****
「こ、この度、新入社員として宍戸建設に入社することになりました、寺松千晶ですっ!よ…よろしくお願いします!」
ほぼ直角に曲げた背筋と共に、今しがた自分が発した言葉のどもり具合に顔が熱くなる。道中であんなにイメージトレーニングをしたのに上手くいかないのは、就活の頃から全く変わっていないようだった。
「コイツぁ俺が連れてきた新人だ。みんな、仲良くしてやってくれ!」
朗らかな宍戸さんの声で安心するが、やはり目の前にいる十数人の獣人たちに気圧されそうになるのは仕方ないと思う。建設会社らしくそのほとんどは大柄でガタイが良くて、見ただけで腕っぷしが強いと分かる人たちばかりだった。
しかし何より、社屋の中に充満しているこのニオイ。明らかに外の空気とは異なる密度と重たさだと入った瞬間に分かった。
ウッと胃もたれするようなそのニオイに、緊張しながらも俺の体は反応してしまう。興奮せざるを得ない強い雄獣人のニオイに、ツナギの下にある股間には少しずつ血流が巡り始めていた。
その時、俺の前に歩いてくるハイエナの獣人が1人。獣人の年齢感は分からないが、なんとなく俺と近い年代の人なのだろうかと思った。
「ねぇ、新入社員って君だけ?」
「えっ…た、たぶん、そうだと思いますけど…」
「ふーん。ま、すぐ辞めないように頑張ってよね」
新入社員をいじるようにいきなり見せられた生意気な態度だが、唐突すぎてリアクションすらできなかった俺は呆然としてしまう。
直後に彼の頭の上にはゲンコツが下され、余計に状況の理解ができなくなる。
「コラ榎並、後輩が入って嬉しいからっていきなり先輩ヅラするなって。しかもその言い方は間違ってるしな」
おにぎりのような拳の持ち主である虎獣人が俺を見た。獰猛な虎のイメージとは違い、垂れた眉毛が特徴的な柔らかい表情をしている。
「ごめんな寺松くん。コイツは歳が近い君が入ってきてくれて嬉しいんだけど、素直になれなくてな。まあ大変だとは思うが、仲良くしてやってくれ」
「べッ、別に嬉しくないし!!勝手なこと言わないでよ宇治宮さん!!」
そう言いながら暴れるも、簡単に動きを制されるハイエナ獣人。そのやり取りで場の空気が一気に崩れ、社員たちが一斉に俺の元へと近づいてきた。
ライオンは珍しいなとか、去年は入ってくれなかったから嬉しいとか、予想外にも好感触な歓迎をされた俺は、徐々に緊張を忘れていった。
「おうおう意外とイイ体してんじゃねぇか新人!どれ、触って確かめてやろう!」
「………匂い、悪くねぇ」
「作業着も似合ってんなー!ま、これからどんどん汚れてくけどな」
「え、あっ、ちょ……!」
ズイズイくる猪のおっちゃんや、ムスッとした寡黙な熊獣人、狼に狐、牛や犀まで…さすがは作業員、全員が全員屈強な雄獣人のオンパレードと言ったところだろうか。
しかもみんなまだ朝なのに汗臭くて、安心したのも束の間だった俺はすでに興奮しっぱなしだった。
「おーいお前らァ!騒ぐのはいいが今日も仕事あんだからな!!」
もみくちゃにされる中、宍戸さんの一喝が耳に響く。それすらも気にしないような社員の人たちの歓迎に嬉しくありつつも、俺は安堵していた。
俺が元人間だったって気づいている人は、いるのだろうか。仮に気づいていたとしても別に構わないが、もしかしたらこの人たちの誰かも俺と同じ経験をした可能性は無い訳じゃない。
そう思うと、俺だけじゃないかもと少しだけ気が楽になったような気がした。
その時俺の肩に腕が巻き付かれ、ぐいっと引き寄せられる。上を向くと、そこには宍戸さん…いや、頼りがいのある社長の姿が目に映った。
「千晶は完全な初心者だから、しばらくは俺が付いて教えるからな。そんじゃ、今日も始めんぞ!」
「「「うっす!!!」」」
ビリビリと肌が痺れるような体育会系の返事が社内に響く。それはまるで雄叫びのようにも感じられたが、今の俺はもう怖がることなんてなかった。
だって俺も、れっきとした獣人だから。生まれ変わったこの姿でたくさん働いて、たくさん汚れて、新しい生活を営んでいくんだ。
そう意気込んだ俺の横で、肩を組んだ状態の宍戸さんが耳打ちする。
「うちには社宅があるんだけどよ。部屋数が少ねぇから基本的に2人1組なんだが、千晶は俺と同じ部屋な」
「はい、分かりまし……えっ?」
流れで即答してしまったが、その言葉の意味を後になって理解した俺は宍戸さんの方を見る。相変わらず黒ずんだ鬣に包まれた顔がニヤリと微笑み、艶やかな視線を俺に向けていた。
「そっちの方が仕事も早く覚えられるしな。それに何より、俺と同じようになりたいんだろ…?」
それは俺にとって天使でもあり、悪魔の囁きでもあった。俺を変えてしまった張本人からの蠱惑的な声に、この先の未来を想像してしまう。
「ちなみに俺以外もみんな性欲旺盛で汚れても気にしねぇヤツらばっかりだからな?夜も部屋を自由に行き来して毎日楽しんでっから、千晶もすぐに仲良くなれるだろうぜ」
「そう、ですか……」
毎日作業着に熱をこもらせながら汗を垂らし、肉体を酷使する。どれだけ土埃を毛皮に絡めても、どれだけ汗臭くなろうとも、体を洗わずに宍戸さんと体を交える。
この先何ヶ月、何年と続いていくのだろう。その間も俺の精液や宍戸さん、ひいては他の人たちとも時間を過ごせば、これまで以上にドギツいニオイを堪能できると思うと…期待に胸が張り裂けそうだ。
そうして俺も、宍戸さんのように形容し難いニオイを鬣に蓄えていくのだろう。いつかは、鬣だけで絶頂できるまでになるんだろうか。
考えただけで体中から汗が噴き出してくる。分厚い作業着の下で籠った熱が思考を霞ませ、股間に血流が集まっていく。
「……っ!?」
「今はまだ仕事中だからな。夜までとっとけ」
むんずと作業着の上から掴まれた宍戸さんの手に全身がびくりと反応する。そんなことしたら余計硬くなってしまうことなんて分かっているはずなのに、わざとらしい手つきだった。
なんとか大声を出すことだけは堪え、他の社員たちがぞろぞろと車で作業場所に向かうのを見送った俺は、宍戸さんと一緒に外へ出た。4月とはいえ外気はまだ肌寒いが、毛皮のある俺は全裸の上から一枚だけツナギを着ていた。
これでも全く寒さを感じないし、むしろこれ以上着込むと逆に動き辛い。宍戸さんや他の人も普段からこうしてるって言ってたから、俺も倣って真似してみたという訳だ。
会社の車に乗ると、宍戸さんの自家用車よりも濃く重たいニオイが迎え入れる。エンジンを付ける社長は、微笑みながら優しく語りかけた。
「堅っ苦しいとは思うが、今日は見学だぞ。そんじゃ改めてよろしくな、千晶」
「はい!こちらこそ、よろしくお願いします!」
走り出す車内には、相変わらず汗臭さと、精液と、ひどく饐えた獣のニオイが充満している。けれど俺は窓を開けず、密閉した空間の中で宍戸さんと会話を続けた。
この新品のツナギが彼と同じぐらいボロボロになる頃には、俺はどうなっているのだろう。少し想像しただけで、一枚の布の下で露わになっている俺の逸物がぴくりと反応する。
期待と興奮に胸を昂らせる俺を乗せた車は、まだ微かに冷たさの残る春風の中を通り抜けていった。