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【170】予想通りでサクッと解決すると良いんだけどね・・
[[rb:友人 > アド君]]と同じ金色の旋毛をこちらに向けて、最大限の感謝を示す[[rb:美人さん > お姉さま]]。
その気持ちや真摯な態度は嬉しく思うものの、シリアスな空気に耐えかねてわざとおどけて伝えた。
「ほらほら!まだ何もしないうちからそんなに頭を下げられちゃ、私の胃が大変な事になってしまいますから」
頭を下げたままピクリともしない美人さんに、優しく続ける。
「ね?だから顔を上げて、一緒に考えましょう・・お子さんをお迎え出来るように・・」
「・・はぃ・・はい!魔女さま!」
擦れた声を返し、顔を上げた美人さんの目は涙に濡れていても希望に満ち輝いていた。
どうやら気分は上向いてくれたようだと内心ほっとして胸を撫で下ろす。
けれど同時に、『この笑顔を曇らせてはいけない』と責任の重圧を感じて、背筋を伸ばした。
「では、早速ですがまず私の知る女性の体の知識と、クリスさんの状態を照らし合わせますので幾つか質問を―・・」
そうして、途中からキーボードを持ち出して美人さんから聞き出した話を記録。
結果、あちらとこちらの体の機能や作りは、恐らくそう変わらないであろう事が解った。
魔力も、私自身なんとなくで魔道具を扱えたりしているので、知覚できる人が少ないだけでこちらの人も普通に持っているものなのだろう。
で。美人さんの月の変化だが生理周期が大体30日。
重いので痛み止め代わりに回復薬を服用することが多いと・・
理由は多忙だから。
身動き取れない時間を少しでも減らすためにとの事だけど、ん~・・
「回復薬」の詳しい作用とか効果なんかが解らないと、これが原因かどうかは何とも言えない、かな?
旦那さんとの逢瀬は大体週1。
仲良き事は美しきかな~。良い事ですね!
あと気になったのは自慰の頻度。
毎日って言ってたけど、本当に「毎日」だったでござるよ。
・・・えっとさ・・多分、原因コレじゃね?・・
だって使ってるんでしょ?あの「上級者向け」の性なる道具をっ!
あんなん毎日子宮で暴れさせたらそら受精卵も着床せんやろて!
魔力を増やす為なんだろうけど頑張り過ぎぃ!
そんなワケで、「コレじゃないかなぁ?」という予想を解説すべく先ずは妊娠までの流れを説明するばいっ!
「妊娠までの流れ、でございますか?」
「ええ。どのような感じで妊娠という状態になると把握していらっしゃいますか?」
とりあえず認識に相違点があるかどうかを知るために問うと、美人さんは疑問符いっぱいの表情で小首を傾げて答えた。
「はぁ・・まず殿方と交わりますと、種を受け取り子を育てる畑に当たる子宮で成長致します。種が無事育てば妊娠した、という風に認識しておりますわ」
「成程。微妙に違いますね・・」
「違うのですか?」
「えぇ。そう大きく違うわけではありませんが・・」
もし、自慰の頻度が原因だとしたら・・
魔力を増やす努力が裏目に出ていたのだと知ったら・・
美人さんは途轍もない自己嫌悪に陥るのではないだろうか、と。続きを話すのを躊躇ってしまう。
私が言い淀んだのをどのように解釈したのか、美人さんはふっと真剣な様子で居住まいを正して口を開いた。
「・・違う部分があるのでしたら、是非お教えくださいませ。あたくしはどのようなお話であろうとも、確と受け止めてみせますわ」
「クリスさん・・」
なんて、なんて強い女性だろう。
「自分の行動が間違っていたかもしれない」という不安や恐怖を飲み込み抑えつけて、最善を掴み取ろうと足掻く姿は、眩しすぎて直視するのがこんなにも難しい。
でも、なればこそ。私も真摯に答えなければ。友の名が廃るというもの!
「・・・分かりました。では、こちらで知られている性交から妊娠するまでの流れを詳しくご説明いたします」
「よろしくお願いいたしますわ!」
そんな経緯で、メモ用にと秒で用意された筆記用具を片手に耳を傾ける美人さんへと詳しい話をした。
あくまでも「こちら側の場合」というのを強調しての話だったが、人の体内で卵と同じように受精卵が育っていく、という話にとても驚き衝撃を受けた様子で、ややぼうっとした状態の美人さん。
「てっきり、旦那様の種があたくしの子宮の壁に潜り込み、そこから芽が出る様にして赤子が育っていくのだとばかり・・」
「近いようで違いますね・・女性の卵子に男性の精子・・種が潜り込んで受精卵となり、その受精卵が子宮の壁に着床することで妊娠となりますから」
「・・「妖精に掛けられた帳が上がる」とはこの事ですわ・・」
「目から鱗」的な事を言ってゆっくり瞼を閉じた美人さんは、すぅと静かに深呼吸すると冷静な瞳でこちらを見つめて言った。
「魔女さま・・不妊の原因ですが。もしや、あたくしの魔力量を増やす為の自慰が原因では?」
「・・私は専門家でも、医師でもありませんので断言は出来ませんが・・その可能性は高いかと・・」
「左様で、ございますか・・」
一瞬の間に、様々な感情が胸の内で荒れ狂っているであろう美人さんは、それらを微塵も表に出す事無くほんの僅かの間瞼を降ろしただけで乗り越えて見せ・・
切れ長の目が開いた時には、いつも通り頼もし気な光を湛えていた。
「ありがとう存じます、魔女さま。もしこれが原因なのだとしたら、希望が見えてまいりましたわ!」
そう言って笑みを浮かべる美人さんを見て『大丈夫そうだな』と判断すると、気が抜けたと同時にいつの間にか膝の上で握り込んでいた服に気付き慌てて手の平で伸ばす。
ちら、と美人さんを窺いつつ思った。
本当は深く傷ついているのかもしれないけれど、それを友人になりたての私に明かせというのは傲慢が過ぎるだろう。
だから今は、気付いてないフリをして有益な情報でもって励ます事にしますか!
「そ、そうですね!妊娠しやすい日なども予測することが出来ますので、色々と試していきましょう!」
「はいっ!」
大変良い笑顔を浮かべた美人さんに早速「基礎体温」を測ることで排卵日を予測したり、妊娠しやすいように体を温かく保つ事、必要な栄養素などを伝え「次に会う時までに体温計を用意する」と約束して本日は解散するのだった。
〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇
さわさわと静かな話声が響くフロアに、ポーンと電子音が響いて電光掲示板に番号が表示された。
手元の番号札を確認して指示されたカウンターへ向かうと、柔和な表情を浮かべた行員が「お待たせしました綾小路様。ではご案内致します」と言って通路の奥を示した。
軽く頷いて了解を伝えると、歩き出した行員の後について行く。
「それでは、鍵はこちらを。私は入り口でお待ちしておりますので、終わりましたらお声がけください」
「ありがとう、ございます」
ぼそりと小さく礼を伝えて行員が退出するのを見送ると、「よいしょっ」と金属の作業台のようなテーブルに背負っていたリュックを乗せる。
続いて、壁一面に並んだ貸金庫の中から受け取った鍵のタグと同じ番号の箱を取り出して置いた。
「う~ん・・全部入るかなこれ・・」
リュックを開いて小分けされた布袋を金属の箱の横に並べて行く・・
これの中身は言うまでもなく異世界の金貨だ。
自宅に置いておくのは流石に不安になってきたので、今日は銀行の貸金庫を利用しにきたわけだが・・予想以上に貸金庫の箱が小さかった。
持ってきた金貨袋が全部納まるか少々不安になりながら箱の中に並べて行く。
結果。2つほど余ってしまったが、これくらいならば持ち帰り『また次借りた時に持ってくれば良いだろう』とリュックに戻した。
随分と軽くなった背中に安心して嬉しくなりながら入り口で待機していた行員に声をかけ、契約書の控えなんかを受け取ったら今日の用事は終了である!
さてこの後はどうしようか・・と、まだ日の高い空をなんとなく見上げて考えた。
折角外出したのだし、時間も(信じられない事にお金も)ある身としては、『少しくらい贅沢しても許されるのでは?』とウキウキしながら歩みを進める。
『新刊チェックと新しい出会いを期待して本屋に行くのも良いけど、お姉さま用にグッズを選ぶのも楽しそう♪あ、お礼のイラスト用に色紙買わなきゃ・・久々に画材屋に行くのもありかな・・』
つらつらとこの後の予定をどうしようかと悩みながら、「先ずは本屋かな?」と歩いていたところ・・
ふと視線の先でささやかに自己主張する看板に目が留まった。
「本日のおすすめケーキ・・「ナッツたっぷりキャラメルタルト」とな?・・」
え。やば。すっげ美味しそうなんですけどっ?!
ワタクシ、ケーキの中でもタルト系は大好物なんですのっ!
もちろん普通のスポンジケーキやシフォン系も好きだけど、タルトはなんか高級感があるって言うか、イベント感というか特別な時に食べれるご褒美系って言うか・・
「あー。そういえば小腹が空いた気がするなぁー(棒)」
・・よしっ!初めて入る喫茶店だけどチャレンジしてみますか!
『美味しかったら持ち帰れるか訊いてみて、お姉さまとアキへのお土産にするのも素敵じゃない?』
好物につられてウキウキるんるん♪と入り口の取っ手に手を掛けると、カロロンとレトロなドアベルが鳴って入店を知らせた。
目が慣れず、やや薄暗く感じる店内をくるりと見回し席を探していると、「いらっしゃいませ」とカウンターの奥から声を掛けられる。
「何名かしら?」
「あ、えと。1人で・・」
「はーい。1名さまね~。お好きな席にどうぞ。カウンターも大丈夫よ~」
「え、あ。はい。ドウモ・・」
クラシカルな雰囲気の店内にぴたりとハマるギャルソンの恰好をした店員さん・・店長さん?はにこにことウエルカムな空気で出迎えてくれた・・太く低い声で。
『おぎゃー?!レトロ喫茶にイケおじオネェキャラとか!どんなご褒美ですか?!』
オタクはすーぐ二次元と[[rb:現実 > リアル]]を混同する・・
『イカン、イカン。落ち着けワタシ・・』と自身にクールダウンの呪文を掛けながらガランと空いているテーブル席に向かおうとしたところ、カウンターに座る唯一の先客から声を掛けられた。
「あれ?綾小路さんじゃん」
「・・五味、さん?」
なんとそこにはタルトケーキを頬張る胡散臭い代表のような風体をした中年男性が居り、こちらに向かってひらりと手を振っていたのだった。
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