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3等級の冒険者「面布のカルセ」の使役する半精霊の惜しみない働きにより、休憩場は大量の魔物に囲われているにも関わらず逼迫した状況になかった。
壁が作られて直ぐのころに、隊の後から通りかかった2つの商隊とその護衛の冒険者らが救援を求めて来た為一時慌ただしくなったが、そこは半精霊たちの活躍で事なきを得ている。
安全が確保出来た時には護衛対象である貴族は移動宿泊箱に集まり、その周囲を騎士らが固めていた。
冒険者はというと、魔物に攻撃出来る手段を持つ者が壁の上に立ち、魔物を削る。
手の空いている者は交代で休憩している者の世話を中心に、休憩場の皆が居心地よく過ごせるように動いた。
すんでのところで命拾いをした商隊からは食料や日用品が放出され、護衛に付いていた冒険者らも魔物への対処に手を貸す。
その為、当初より手狭となった休憩場だったが高い壁と半精霊、そして多くの冒険者の働きによりそれなりの緊張を伴いつつもどこか余裕のある空気が漂っていた。
だがその所為で厳重に警護されていなければならない筈の貴族らが「これなら行ける」と護衛と押し問答を繰り広げ、殆ど無理矢理その守りを突破して実験を始めてしまう・・という一幕も起こる。
そんな出来事の少し前、使役され派手に攻撃魔法を放っている半精霊は勿論だが、ある冒険者にも注目が集まっていた。
最初こそ『まぁまぁ規模の大きな魔法を使うものだ』とちらちら見られていただけだったが、ある魔法使いの発した「あいつ、詠唱して無くね?」の言葉で視線を向けていた者らに動揺が走る。
魔法の発動には「魔力」と「詠唱」そして「想像力」が必要というのが一般常識。
「ある程度の魔力と、魔法の発動を補助する正しい詠唱。またはその代替となる「魔術陣」そして「結果を想像」しさえすれば、魔法は使える」というのが通常の感覚だ。
だが、あの金髪の冒険者はどうだ?
気負いなく自然体で佇んでいるが、その背後から高速で打ち出され続ける「何か」の数といったら半端ではない。
だというのに、詠唱している様子はなく魔術陣も見えない・・
あれは何だ?
考えられるのは、膨大な魔力により詠唱を省略して無理矢理魔法を発動させているのではないか?というものだが・・
だとしたら、それにはとてつもなく膨大な魔力が必要なのでは?
「無詠唱」という特異な技術がある事は知られているが、それは使い手が少ない上、誰も彼もが1等級以上の猛者ばかり。
という事は、あの者は人外よりの実力者という事か?
理解出来ないモノは恐れを抱かせるに十分な材料となる。
その後、金髪の冒険者と係わった事のない者たちは「ヤバそうなヤツには近づくな」と危険を回避するため、件の冒険者を避けるようになるのだった。
〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇
『・・ようやく落ち着いてきたか』
聳える山々に天の光が沈みゆく中、壁の上から見下ろした大地は酷い有様の一言に尽きた。
ばら撒かれた多数の魔法により、元の風景など欠片も残ってはいない著しく変化した地形。
混ぜ返され、黒々とした大地に沈む魔物の死骸。
死の気配蔓延る惨状に、『生き残った』とほっとするより、この後の始末を思いため息が先に出る。
まぁ、後処理は皇国がするだろう。
流石にこれだけの死骸を放置すればどんな害が起こるか分からないからな。
冒険者らに魔石など必要な素材を剥ぎ取らせるついでに死骸を回収させ、一纏めにして焼却する・・といったような対処がされるだろう。
こちらは先を急ぐ身だが、もう夜になる。
このまま一泊した後、天光が昇り次第戦利品の素材を回収して出発することになるだろうな。
歪な影が伸びる大地でちょろちょろと動き回る小さな魔物が散見されるが、この程度なら放置しても問題ないだろう。
半精霊らが張った結界を突破出来ず、夜の内に魔力枯渇で息絶える筈だ。
そう。魔物らは通常ある程度魔力が濃い空間でしか生きられない。
特に、中型以下の魔物は己の魔力を身に留めておけず、魔力濃度が低い人里などでは一定時間が経つと勝手に死んでしまうのだ。
とは言っても、今回は数が多かったので積極的に削ったが。
通常であれば街道近くまで魔物が出て来る事は稀な筈・・
一体、何が原因でこのような事になったのだか。
そんな思考を流していたが、一応護衛として雇われた身。
半精霊が警戒してくれているとはいえ、仕事は仕事だと自分でも魔力を広げて周囲の警戒に当たっていたが・・どうやらそれも終わりが近いらしい。
満足行くまで情報収集出来たらしい研究者らが、ほくほくとした様子で撤収作業に入る。
『・・特にやることも無かったな』などと考えていた丁度その時、小太りの貴族が護衛の1人を通じて小袋を渡してきた。
「約束の報酬だ。先に渡すが、撤収作業を終えるまでしかと務めろ冒険者」
「・・分かった」
尊大な態度に頷いて答え、そのまま仕舞おうと[[rb:魔法鞄 > マジックバック]]に手を掛けた・・
が、途中で微かな魔力の流れに気付き、魔法鞄ではなく皮鎧の内側へと小袋を仕舞う。
するとすぐに何かが繋がる感覚と共に、〈聞こえていますでしょうか?〉と鼓膜を震わす事の無い言葉が伝わって来た。
〈先に話し掛ける無礼をお許しください。アディード第二王弟殿下〉
動揺を身の内に押し込め、努めて自然体で視線を山向こうに投げたまま返す言葉を思考する。
〈許す。こうして話すのは初めてだな、ケイオニクス・ストークス卿。以降は言葉を取り繕う必要はない〉
受け取った小袋の中に、金貨とは別の何かを紛れ込ませていたらしい。
恐らく、虫人などが使う思念による言葉の相互伝達を模倣した魔道具の類だろうが・・
『こんな物が作られていたのか』と驚くと同時に、予想外の対応に迫られて少しばかり不満に思う・・表に出すほどの事では無いが。
平静を装うこちらを知ってか知らずか、眼鏡貴族は視線を正面に向けたまま慣れた様子で思念を返してきた。
〈ありがとう存じます。では・・改めて。魔法の習得、お喜び申し上げる。殿下〉
〈あぁ。ありがとう。先まで、卿にも色々と苦労をかけたな〉
〈いや、そのような事は。例の鏡は陣の研究にも大いに役立った。それより、先程拝見させて頂いた魔法・・どのような経緯で獲得なされたのかお聞きしても?〉
〈そうだな・・卿ならば話しても問題ないだろう・・〉
私の魔法への興味が抑えられぬ様子が[[rb:言葉 > 思念]]の端々から伝わり『このような人だったのか』と少々意外に思いつつ、魔法を得るまでの流れを語る。
と言っても、「水について詳細な知識を学んだ」の一言で済んでしまうのだが。
それを聞いた眼鏡貴族はというと、〈・・・成程〉と呟くような思念を残し、己の思考に沈むように暫く無言の時を置いた後、生き生きと語り出した。
〈という事は、やはり殿下は魔法が失われた大戦以前・・今より強力な魔法が当たり前に使われていた時の人々に近い体質・・所謂先祖返り、の可能性が高い〉
〈そうか・・それで、私がその先祖返りだとして何か問題になるか?〉
〈いや全くもって何も。殿下の体質に一応の説明が付いた。というだけだ。だがこれで「魔法を詠唱と魔術陣なしに発動するには一定以上の魔力が必要」という仮説が証明された・・と見ていいだろう。という事は、もしや大戦以前の人々は殿下並に高濃度の魔力を保有していた?それが何らかの理由で魔力保有量・・この場合保有力か?が下がり・・魔法が発動出来なくなった?それ故「詠唱」と「魔術陣」という補助が必要に?つまり元々魔法とは己の魔力と結果の想像だけで発動が可能な物だと?だがそれだと遺跡に残された陣の必要性は?想像だけで確かな結果が得られるのであれば「魔術陣」は存在しない筈・・となれば魔法も想像だけで発動するには限界があり・・難易度があると?・・そういうことならば殆どの事に納得が行く。つまり魔力保有量が少ない人々の補助と、高難易度の魔法を発動する補助として「詠唱」と「魔術陣」という手段が生まれた?となれば―・・〉
つらつらと語る・・垂れ流される思考により頭痛がし始めたところで、〈卿!〉と強めに思念を飛ばして考えを中断させる。
一瞬ビクっと体を揺らした眼鏡貴族だったが、すぐさま平静を取り戻し〈失礼した〉と詫びを伝えて来るのだった。
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