Ad
「ホントか?!」
「精霊使いと同じような事が出来る方法がある」と話す私に、褐色肌は勢いよく振り向いて驚きの声を上げた。
「あぁ、今の私がその状態だな」
そう明かすと、きょとんと眼を瞬かせて、小首を傾げる。
そこへ三つ編みが「足を止めないの~」と注意しながら続けた。
「つまり~。精霊使いから使役している精霊を貸し与えられた場合って事かしら~?」
「その通りだ」
こちらを向いたまま、後ろ向きに進み始めた褐色肌も「そういうことか!」と頷く。
「細かい事を言うと、使役されるのは半精霊。気まぐれに力を貸すのは精霊が多いらしい。私の場合は前者だな」
「使役されてると意思疎通が出来るってコトか?!」
「あぁ。と言っても、契約している師匠ほど明確にやり取りできる訳ではなく、半精霊側がこちらの意図を読み取る事が殆どだな。こちらからの指示も、契約者の意図に反しない限り従ってくれる感じだ」
「あら~。でもそれって~。契約者と信頼関係がないと難しい話よね~?」
「そうだな。互いの信頼関係が重要だ。己の武器を預けるのと同じ事だからな」
「って事は・・結局アタイじゃ精霊使いのマネ事も出来ねぇんじゃねーか!」
そう声を荒げ「期待させるような事言うなよ!」と憤る褐色肌。
「そうか?可能性が無い話ではないだろう?」
「そりゃ・・そうだけどよ・・」
上手く言葉が出てこないのか、消化不良を起こしたような顔をする褐色肌に、三つ編みが助けに口を挟む。
「アドさん。この子が言いたいのはね~。「選択肢にも上らない「可能性」っていうのは「無い」のと同じだ」って事なのよ~。わたしたち冒険者は、損得の切り捨てがしっかり出来ないとすぐ死んじゃうから~」
後ろを振り向き、ちらと視線を投げ「勿論、仲間を助ける時は別よ~?」と真剣な目で言った。
「その場合は僅かな可能性でも諦めたりしないわ~。でも普段は色々と諦める事の方が多いのよ~」
「そうか・・すまない。冒険者の考え方を学ぶ必要があるな」
「期待させて悪かった」と謝罪の言葉と共に、褐色肌へ軽く頭を下げる。
「いいよ。気にしてねーって。でも早いとこ冒険者の流儀ってヤツを覚えねぇと、勘違いなんかでケンカ売られたりするんじゃね?」
「面倒事を避けたいなら~早く覚えないとね~」
「あぁ。道中に師匠から学ぶとしよう。「不屈の砦」の面々にも訊ねると思うが、その時は教えて貰えるだろうか?」
「おう!何でもきいてくれていいぜ!」
元気よく答えた褐色肌に、三つ編みは弾んだ声で「あら~?という事は今日の問題は解けたのね?」と問うた。
「うげっ!」
「うふふ。教える立場になるなら簡単な計算くらい出来ないとダメよ~?」
どうやら問題は解けていないらしい。
正面に向き直った褐色肌は、小さく「・・・計算嫌いだ・・」と零した。
と、三つ編みは大きな歩幅で一歩踏み出すと、[[rb:斧槍 > ハルバード]]の石突で褐色肌の膝裏を軽く押した。
「うぉ?!」と声を上げ、受け身を取りつつ後ろに倒れ込んだ褐色肌を、三つ編みは上半身を曲げて覗き込む。
「計算出来ないと昇級にも響くわよ~?パーティーでの報酬分配に、物資調達でも必須なんだから~」
顔は見えないが、声に圧がある。
三つ編みからの説教?に、褐色肌は硬い声で「ハイ、ガンバリマス」と返した。
その返答に満足したのか、褐色肌の手を引いて立たせた三つ編みは明るく言う。
「うふふ~。キーラは頑張り屋さんだもの~。もう一問追加しても、きっと解けるわ~夕食の後で答え合わせをしましょうね~?」
無情なる追い打ちに、褐色肌は言葉も無い。
「さぁ進みましょう~!ほら水の音がするから、川はきっとすぐよ~」
〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇
それから暫くして、交わしていた雑談も一切ない状態で川に到着。
流れの緩やかな小石の集まった川縁で解体作業を始めた。
[[rb:角猪 > ホーンボア]]の内臓を取り出し、皮を剥ぐ頃になると褐色肌も調子を取り戻し、ナイフを走らせながら解体の説明を熟す。
「そう、んで。こう刃を肉に当てる感じで」
「成程・・」
「足もうちょいそっち側に引いてくれ。よし、で。皮を切り離していく・・油ですぐ切れ味が悪くなっちまうから、時々洗うのを忘れないようにな」
「分かった。今は?水で流すか?」
「おう。熱いので頼むぜ」
「ん?水では駄目なのか?」
皮を剥ぐ手伝いをしながら、時折水操魔法で指示された通りに血を洗い流し、捨てる部分を川の中に沈めたりした。
そしてナイフを洗おうとしたところ、湯を頼むと言われ首を傾げる。
「ダメってワケじゃねぇけど、熱い湯だとすぐ油が落ちんだよ」
「ほぅ。そうなのか」
言われてみれば、冷めた肉料理は油が固まっていたりするな。
熱を加えると融ける・・つまり、ナイフに付いた油も落ちやすくなる、ということか。
油の特性に理解が及び内心で頷いていると、褐色肌は「なんだ、知らなかったのか?」と首を傾げた。
「アドは色々出来るのに、普通の事知らなかったりするよな~」
「そう、だな・・知識が偏っているのは否定しない」
「話し方もカタイしよ。貴族様じゃあるまいし、冒険者やってくならもうちっとアタイらみたいな話し方にしても良いと思うぜ?」
「そう言われてもな・・これでも崩しているのだが・・」
「ふ~ん・・ま、新人だもんな!後は勝手に慣れてくんじゃね?」
会話しつつ水面から水玉を浮かせ、近くで湯にするとその中に褐色肌はナイフの刃を差し入れ、掻き回すようにして油を濯いだ。
「しっかし、計算問題の追加はキツイぜ~・・数字でごちゃごちゃ考えんの苦手なんだよな・・」
手を動かしながらも、唇を尖らせてブツブツと不平を並べる褐色肌・・
しかしその様子に疑問を覚え、問を口にする。
「先程出された問題は、然程難しくないと思うのだが・・」
「・・そう言うお前は冒険者登録での筆記試験、いくつ答えられたんだよ」
「ん?全てだな」
「はぁ!?」
バッ!とこちらを向いた褐色肌は、目を見開いて驚き声を上げた。
「マジか?!アド、お前ってヤツは本当にっ!・・・・はぁ・・いや、すげぇな」
「そんなにか?」
「んだよ。知らねぇのか?筆記試験の問題はすげぇ教育を受けたヤツしか答えられないような難しい問題が必ず1個か2個、入ってるんだぜ」
「・・そうだったのか・・」
「つまり。やっぱお前は昇級しろって話になるな!そんだけ頭が良かったら、普通の冒険者が苦労するところも問題ねーだろうし!」
「アドは何でも出来てすげぇな!」と笑う褐色肌に、内心苦笑する。
今回の護衛で必要になったから冒険者登録したのであって、今後継続して依頼を受けるつもりは無いのだが・・
しかし、こう何度も「昇級するべき」と言われてしまうと、今回の旅だけで冒険者を終えるのが少し惜しい気もしてきた。
「つーかそんなに頭良いんなら、さっきフラウが出した問題。もう答え解ってんだろ?こっそり教えたりしてくれても良いんだぜ?」
冗談の中に本気を混ぜ、口元に笑みを浮かべる褐色肌に「流石にそれは出来かねる。発覚すれば叱られるだけでは済まないのではないか?」と断る。
「ま、だよな!」と期待していなかったような様子で、止まっていた手を動かし始める褐色肌だが、その身からはどこかがっくりと気落ちした空気が流れ出ており・・・
暫し考えた後、ゆっくりと言葉を続けた。
「・・答えを教える事は難しいが、糸口くらいならば・・」
「良いのか?!」
またしても勢いよく顔を上げた褐色肌に頷きでもって答えると、満面の笑みと共に肘でわき腹を突かれる。
「やっぱお前良いヤツだな!」
嬉しそうに言う褐色肌に、鈍痛を訴えるわき腹を押さえながら返した。
「・・痛いぞ。やはり助言など止めるべきか・・」
「え?!おいおい、そんな風に言うなよ!悪かったって!」
慌てふためくその様子に留飲が下がり、「何、冗談だ」と少しおどけて答えると、褐色肌は視線と共に肩を落とし、大きく息を吐き出す。
「止めろよな~。冗談キツイぜ・・」
Ad