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思えばこの時、心の何処かで「物理結界」という異世界の力を過信していて、咄嗟に体が動いてしまったんだろう。
〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇
警戒して男を睨むものの、どう動くべきか判断出来ずに身動きが取れずにいた。
そうこうしている内に、ニィ。と唇を歪めた男が右手をすっと眼前に構える。
更に警戒を強め注視していると、小さく何事か呟いた男は構えた右手で見覚えのある印を結んだ。
『ん?あれ?・・』
疑問符が浮かんだ瞬間、男は渋い声でその言葉を発する。
「領域展か―「おじさんのアホっ!」へぶっ?!」
私の背後から飛んできた歌本が見事、男の頭に直撃!
かなり痛そうな様子で蹲ると「ぬぉぉ・・」と頭を押さえて呻く。
「真っ先にする事が持ちネタ披露ですか?!普通に自己紹介してくださいっ!恥ずかしいからっ!!」
振り向けば、肩を怒らせた親友が顔を赤くして荒々しく息を吐いている・・
「いててて・・勘弁してよぉ[[rb:晶 > あきら]]ちゃん。おいちゃんのカッコイイ[[rb:面 > ツラ]]が台無しになったら悲しむ女子がたくさん居るのよ?」
「嘘ですね。サングラスと身長くらいしか被ってないのに人気キャラのモノマネする人が女子に好かれる訳ないです」
「え~?でもJKとかにはバカ受けよ?」
「・・はぁ。もういいです・・」
混乱する私を余所に、親し気に会話する2人・・
完全に置いてきぼりなんですが?
この状況って何なん?
漸く気持ちが落ち着いてきたところで、目の前のやり取りから2人は顔見知りなのだと察した。
どうやら危険は無いらしいと判断して、恐る恐る「あの~・・?」と声を掛ける。
「はぁ~・・。驚かせてごめんねアコ」
「いや、まぁ。確かにすっごいびっくりしけど・・もしかして、今日の用事ってこの人の事?」
再度でっかい溜め息を吐いた親友は、言葉少なに「そう」とこくり頷いた。
〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇
「それじゃ、飲み物も注文したし・・改めて紹介するね」
そう言って、隣に座る親友は手の平を上にして正面の男性を示しながら続ける。
「こちら、誠に遺憾ながらあたしのかな~り遠縁の親戚で、「[[rb:五味 康平 > ごみ こうへい]]」さん。おじさん。こちらは「[[rb:綾小路 頼子 > あやのこうじ よりこ]]」さん。あたしの大切な親友。言っておきますけど、この子に変な事したら潰しますからね?」
「ははは!酷いな晶ちゃん!そんな嫌そうな紹介って今時はアリなの?てか潰すってドコを?最近の若い子って怖いわ~!おいちゃんビックリ!」
ケラケラと軽薄に笑い、全く堪えていない様子の男性はすっと右手をこちらに差し出しながら言った。
「どぅも!晶ちゃんの親戚のおいちゃんこと、五味です!「アコちゃん」って呼んでもオーケー?」
「は、初めまして。えっと。出来れば「綾小路」でお願いしたいです・・アキとはいつも仲良くさせて頂いてます。よろしくお願いします」
目の前に出された右手をおずおずと握りながら答え、ぺこりと頭を下げた後で元の位置に顔を上げる。
そのタイミングで手を放そうと力を抜いたが、男性は両手を使ってがっちりと右手を握り込んでしまった。
異性からの接触に慣れていない事もあって、反射的に体が強張る。
「残念!じゃあ「綾小路さん」で!りょーかい!了解!それと、俺たち「初めまして」じゃないよね?」
「へ?えっ・・」
「昨日、おいちゃん助けてくれたの綾小路さんでしょ?もう本当にありがとうね!マジ命の恩人!感謝感謝の大感謝~!」
強めの圧を伴う謝意の言葉と共に、ぶんぶんと握った手を上下に振られながら『話した?』と視線で親友に問うも、帰って来たのは首を振る否定の動作。
それなら、何を根拠にこの男性は・・
訝しんだところで、親友がびしっと男性の腕に手刀を下ろした。
「痛っ!何すんのよ晶ちゃん!」
「握手長過ぎ!いつまで触ってんですか?!」
「え~?だって必要だったから~」
「・・成程。セクハラですね?通報します」
打たれた箇所にふー、ふー、と息を吹きかけながら答えた男性に容赦なく告げた親友は、躊躇なくスマホを取り出した。
真に迫った行動に慄き、男性は「ちょ、ちょちょ!」と焦り、声を上げる。
「や、ホントだから!ケータイ置いて?!終わったから!もう大丈夫!」
「・・何の話をしてるんですか?キッチリ分かるように説明を―」
怖い顔した親友がそう言って男性に詰め寄ろうとした瞬間、2人はピタリと動きを止めた。
そしてまるで鏡合わせの様に、全く同じタイミングでバッ!と私の顔を見る。
「うぇっ?!何?何?なんですか?!」
落ち着かない状況に声が出るも、2人は緊張に顔を強張られたまま、無言で私を見つめ―・・
いや違う。見ているのは自分の背後だ。
それに気付き、振り返った視線の先。
1秒後、タイル柄の壁からずるりと滲み出るようにして現れたのは、大きなお狐さま・・
だが、その様子は普段とはかけ離れていた。
釣り上がった目は怒りにギラギラと濡れ、めくれ上がった口元からは鋭い牙が覗き・・
鼻に寄った皺も相まって、見た事のない凶悪な顔になっていた。
唸り声こそないものの、前傾姿勢で体全体の毛を膨らませている様は恐怖を覚えるに十分な迫力を有している。
なんて、冷静に観察出来たのはお狐さまの意識が自分を素通りして、後ろの男性に向けられていたからだ。
何で激おこ状態なのかは分からないけど、まずは落ち着かせねばと睨む視線を遮る形で腰を上げる。
「どしたー?何をそんなに怒ってるの緋翠たん」
声を掛けつつ、「よーしよしよし。大丈夫だよ~」と両手で頬辺りの毛をわしゃわしゃと掻き回した。
すると少し落ち着いたのか、お狐さまはぐりぐりと私のお腹に額を押し付けてくる。
そのまま、押される形で背後のテーブルに座ってしまった。
お行儀が悪いので急いで立ち上がりお狐さまの頭を誘導して向きを変え、抱え込む形でソファに座る。
引き続きよしよしと毛並みを整える様に撫でると、今度はべろんべろんと顔を嘗め回してきたではないですか!
「ぶっ!ちょいと、緋翠たんや?おまい、待って?待ってって!」
ちょ、流石にそれは、こら、くすぐったいっ!
制止するも聞かずにべろべろべろんが止まらないお狐さま・・
引かぬ気配に抵抗を諦め、されるがままにして放置していた2人に視線を向けると、親友は微笑ましいものを見る様な感じでほっこりしている一方、男性は顎が外れたのか?と心配になるような驚愕の表情で、震える指をこちらに向けていた。
「あ・・え?・・それ・・んん?」
「あぁ。やっぱり視えてるんですねー」
壁から現れる前に反応してたから、そうじゃないかなー?と思ったので(勘違いだったら病気を疑われるような行動だったが)開き直ってお狐さまのケアを優先しましたよっと。
男性の発した声に、またお狐さまが警戒するように視線を向け、顔を歪めるので「落ち着いて~」と撫で宥めながら男性に質問する。
「五味さん、うちの子がこんなに怒っている理由・・何か心当たりがありますか?」
「あ、あぁ。うん。そうね・・ある、けど・・そのぉ・・理由を伝える前にこのお方との関係を聞いても良いい?」
「お方?緋翠との関係、ですか?」
質問したのに質問で返され、小首を傾げて問うと『うんうん』と激し目に頷かれた。
「私を霊的?に守ってくれるペット兼、護衛・・ですかね?」
うん。多分そう。実際私はそんな感じだと解釈してるし。
曖昧だったかな?と思ったけど、答えを聞いた男性はさぁー・・と、見て分かるレベルで顔を青ざめさせた。
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