AdAd
  
【101】煙に巻き、感謝して食事を。

  大人数が去り、随分と広くなった印象の室内にチリチリと音がするような錯覚に陥る程、張りつめた空気が満ちる。

  護衛騎士隊長と冒険者の男女2人、合わせて三対の瞳が注ぐ線の先は、面布の斜め後ろに立つ、くすんだ金髪の青年。

  「職務だからね。聞かせてもらうよ?どうして変装なんかして、この調査団に潜り込んだのか・・」

  そう言いながら、腰に佩いた剣の鞘を軽く叩き、見せつけるように魔力を動かす騎士・・

  明らかな威嚇に対し、面布は青年に「お下がりください」と指示を出す。

  だが、青年はその言葉に従わず場に留まると、誰も予想しなかった言葉を口にした。

  「いいだろう。それで納得してもらえるのなら、私の事情を少しだけ明かそう」

  「アド様っ!」

  驚いた面布が振り返るが、他の3人は面布以上に驚き、目を見開いて固まっている。

  「あ~・・聞かせろと言っといて何だけど・・いいのかい?」

  青年から視線を移し訊ねた騎士に、憮然とした声で面布は答えた。

  「・・・アド様が「よし」とされたのです。わたくしはその判断に従います」

  明らかに固い声音に、青年は「[[rb:依頼主 > あの方]]には私からも説明しよう。すまんな」と謝る。

  「・・その必要はありません。「アド様の命に害ない限りその意思に従え」というのがご依頼主の意向ですから」

  ふいと顔を背け、肩を竦めて見せた面布は青年を庇う位置から半歩横にずれ、場を譲った。

  トン、と一歩前に出た青年は「今から見せるモノは他言無用で頼む」と口にして視線を巡らせる。

  対する3人が頷いたのを確認し、左手の[[rb:手袋 > グローブ]]をずらして手首を晒した青年はその下に隠していた腕輪の留め具を外した。

  途端、くすんだ金髪だった青年の髪色は明るい赤茶色へと変わる。

  「見ての通りだ。この姿で概ねの事情は察せるだろう?」

  「・・青の瞳に金髪は王家に連なる・・だがその髪色・・成程。随分とややこしい話のようだ」

  騎士の気まずそうな表情に、青年は淡々と言葉を返した。

  「そういう事だ。少しばかり無茶をして割り込んだのは申し訳ない。だが、今回の責任者に話は通してある。詳細は聞かぬ方がそちらの為と思うが?」

  「・・予想以上の面倒事に頭痛がしそうだよ」

  ぐしゃぐしゃと片手で髪を掻き回した騎士は、「ふぅ・・」と大きくため息を吐いて続ける。

  「・・分かった。事情はもう訊かない。けど、目的だけは教えて欲しいかな?」

  騎士の言葉に頷いた青年は「あぁ」と短く答えて了承した。

  「今回の遺跡調査の結果次第で私の欲しい物が手に入る可能性がある・・だから、少しでも早く研究を進めてもらう為に手を貸したい、といったところだ」

  「・・成程、嘘ではなさそうだね」

  目を細めて頷いた騎士に続き、冒険者の2人も己の意見を口にする。

  「こっちはお貴族様のゴタゴタになんざ興味は無いんだ。うちらの邪魔しないってんなら別に構わないよ」

  「そうだな。元より冒険者はパーティー毎に目的をもって動くもの。互いの領域を犯さぬ限り問題なかろう」

  冒険者らの反応に軽く頷いた面布を横目で確認し、青年は宣誓を口にした。

  「分かった。護衛騎士は元より、「不屈の砦」と「栄光への導き手」の邪魔立てはしないとここに誓おう」

  「わたくしも、アド様へ害ない限り皆様へは干渉しないと誓います」

  面布は「勿論、依頼に支障の無い範囲で」と続けると、すいと頭を下げる。

  「よし。じゃあ後の細かい事は都度話し合うという事で!」

  騎士のこの言葉により、無事話し合いは終了。

  残っていた面々は各自戻るべき場へと足を向けたのだった。

  〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇・〇

  「でじかめ」を構えていたジャス・・いや、今は「カルセ」と呼ぶべき傍仕えが手元を確認している所へ近寄って、体で影を作り同じように手元を覗き込む。

  「どうだ?」

  「はい、この様に撮れました」

  「おぉ、良いな・・」

  「でじかめ」の小さな枠の中に[[rb:鳥馬 > シュトラオス]]の手綱を掴み、嘴を撫でる自分の姿が収まっていた。

  何度見ても不思議な感じがする・・

  「よし、あと何回か頼む」

  「はい。ですが宜しいのですか?まだ1日目ですよ?」

  「・・それもそうだな」

  彼女から写し切り取った風景を保存する小さい板を何枚か預かって来てはいるが、いくら数多く保存出来ると言っても回数が有限であることを忘れてはならない。

  遺跡でも使用するのだし、念のため節約していこう。

  話し合いの場では変装について傍仕えと共に虚実織り交ぜ上手く煙に巻くことが出来た。

  無事遺跡調査に同行する事となり、その後1時間程して出発。

  現在は野営場にて天幕の設営と夕食の支度中になる。

  自分と傍仕えは他の同行者から少し距離をとった場所で既に簡易天幕を設置済み。

  この天幕も彼女から譲り受けたものだが、取り出してものの数分で寝床が完成する技術力には驚嘆しかない・・

  お陰で他の者たちから遠巻きにちらちらと視線を向けられている。

  ・・気になるのは当然だ。解るぞ、その気持ち・・

  まだ1日目ということで王都にて購入した調理済みの食料が手元にあるのだろう。

  火を起こす手間を省き、数人で集まって石や地べたに座り込み食事をしている。

  そんな中、自分は支度が出来たと半精霊に呼ばれ折りたたみ式の椅子を開いてゆったりと座った。

  そこへ傍仕えがスープ入りのカップを手渡してくる。

  これはカップに粉を入れ、半精霊が用意した小さな焚火で沸かした湯を注ぎ溶いた物だ。

  「お前の分もあるのだろう?まだ警戒もそこまで必要ない筈だ、共に食事にしよう」

  「はい、ではご一緒させて頂きます」

  そうして隣に用意した椅子に座り、驚いた様子を見せる。

  「これは良いですね・・鉄棒で支えて、座面は布・・でしょうか?」

  「さて、材質は良く解らんが丈夫な上、恐ろしく通気性が良い布に近い何かだな」

  「ひじ掛けと、飲み物の容器を入れる網まで・・あちらの品は本当に良く考えられています」

  簡易椅子について話している所へ傍仕えの姿を写し取った半精霊が近づき、スープに続いて食事の包みを持って来た。

  顔は本物と色違いの面布に覆われており、そこには大きく「A」と書かれている。

  包みを受け取り「ありがとう」と礼を言って開いてみれば、王都の屋台で購入したらしいパンに肉と野菜を挟んだ軽食が出て来た。

  ここは城ではないし、今の私はただの冒険者としてこの場にいる。

  堅苦しいマナーは場違いでしかないであろうから、手にした食事に思い切り口を開いてかぶりついた。

  齧り切り、咀嚼すれば甘辛いタレが絡む肉と、しっとりとした葉野菜、そして細く切られたピリリと辛みを感じる野菜が口の中で混ざり合う。

  炙ってあるのだろう香ばしいパンも相まって、まぁまぁ美味い。

  ただ、慣れぬ食べ方で大きくに齧り過ぎてしまったようだ。

  少し咀嚼に苦労しながらある程度かみ砕き、やや嵩が減ったところでスープを啜る。

  ・・美味いっ!

  それもその筈。

  このスープの素となった粉、実は[[rb:異世界 > あちら]]から持ち込んだ物なのだ。

  美味いのは当然と言えよう。

  金属製のカップの中で揺れるスープは透き通った茶色。

  あっさりとしているが、塩気もあり何やら複雑な味がする。

  水分を得て漸く一口目を飲み込むと、余裕のできたそこにまたスープを流し込む。

  うむ、美味い・・

  「美味しいですね・・」

  隣の傍仕えもスープの味に驚き、思わずといった感じで感想を零した。

  「あぁ、まさかこれが粉に湯を注いだだけの代物とは誰も思わんだろうな・・」

  「・・「飽きないように」と、魔女様から本当に沢山の種類を頂いておりますが・・これだけでも十分なご馳走です。というか、この味に飽きる事はあるのでしょうか?それほどに美味しいです」

  そう言って面布の下でカップを傾ける傍仕え。

  つられるように自分ももう一口、と口を寄せる。

  「・・人とは贅沢な生き物だからな。いくら美味とはいえ、やはり毎日同じ味だと舌が慣れてしまうのだろう」

  「・・成程・・美味しい物を美味しく食べる為には慣れない事が必要、という訳ですか。まぁ確かに、あれだけの種類があれば慣れるまでそれなりに時間が要るでしょうね」

  「・・この道中、スープの味に飽きる事はなさそうだな」

  「はい、それは確実に」

  背中を椅子の背もたれに預け、天を仰ぎ見る。

  夜空に散りばめられた星々を眺めながら、私たちは彼女と彼女の世界の英知に感謝しつつ、食事を続けるのだった。

AdAd