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【90】お菓子工場ってワクワクだよね!一度行ってみたい場所でっす!
青年が呼び出した精霊さんに、お菓子を要求されてるなうっ!!
「すぐに用意するねっ!」
急ぎ新しく小袋の封を開け、青年に出したのと同じような皿に一個ずつ乗せて鏡の前に戻った。
ミニサイズの精霊さんには『一個ずつとはいえ、三種は多いよなぁ』と思いつつ、青年に皿を渡す。
「ありがとう、アヤ。魔術契約の精霊よ。対価の菓子を用意した。受け取ってくれ」
B〇URB〇Nのお菓子が乗った皿を、青年が両手で精霊さんに差し出すと、無言のまま小さな手が皿の端に触れた。
途端、精霊さんの手元に、上に乗ったお菓子ごと皿がきゅっと縮んで、体格的に正しい縮尺へと納まる。
『大きいサイズのまま食べるわけではないのね・・』
青年に注目されているのを気にする様子もなく、精霊さんはお皿からお菓子を一つ取ってひょいと口に放り込んだ。
そのまま小さな口をもぐもぐと動かしていたが、突然ピタッと動きを止め・・
突然、綴じた書類がばらけるようにしてドレスが足元から崩れ出す。
青年と同時に驚いて立ち上がるも、どうする事も出来ずにあたふたと両手を彷徨わせた。
しかし、こちらの動揺をよそに精霊さんは崩れるのも構わずくるくるとその場で回りだす。
《これは美味い菓子だ》
先の無機質だった声音とは違い、今の言葉には少し嬉しそうな響があった。
気に入ってくれたらしいと理解して、青年とほぼ同時にほぅと溜息を吐く。
「それは良かった。他の2つも美味いぞ?」
《そうか。では》
また別のお菓子を口にして、今度はぴゅん!と高く高く飛び上がった精霊さん。
視認できる範囲外まで飛んだその姿を確認しようと、鏡の下から覗き込むようにして待つ。
すると少しして舞い散る花びらのような動きで、ゆらゆらと回転しながら降りて来た。
あまり表情がない分、随分と感情表現が派手な妖精さんだ・・
台の上に降り立った精霊は最後のお菓子を摘まみ、ゆっくりと口に運ぶ。
『今度は何が起こるのか?』と身構えていたがこれといった変化はなく、精霊さんはただただお菓子を堪能している様子だった。
すべて食べ終えると、空になった皿を名残惜しそうに差し出された青年の指先に置く。
するとあっという間に皿は元のサイズへ・・
スゴっ。魔法みたい・・って魔法以外の何物でもないわ。
何言ってんだ私。
自分のコメントに自分で呆れていると、精霊さんは満足そうに言った。
《素晴らしい対価だった。作り手の感情がここまで籠らない物も珍しい。お陰で純粋に菓子の味を楽しめた・・この菓子をまた対価に用意するなら何時でも好きな時に呼べ。直ぐに応じよう》
「き、気に入って貰えて良かった。では、何かあれば呼ばせてもらう」
《是非に》
《では》と短い別れの言葉を残して、精霊さんは現れた時と同じようにぽんっ!と軽い音を立てて消えた。
「・・・随分と慌ただしいね・・」
正直もうちょっとゆっくり観察したかったです。
「あぁ。魔術契約を司っている精霊だからな。私たちがしたように召喚される事も多いだろうし、魔術契約は一日に何百、何千とあるだろうからな・・単純に忙しいのだろう」
「隈すごかったもんね」
「そうだな。だが消える前には幾らか回復した様子だったぞ?」
「アヤが用意してくれた菓子のお陰だろうな」と微笑む青年に「だったら嬉しいな」とこちらも笑って返す。
「ところで1つ気になったのだが・・精霊が菓子の事を「作り手の感情が籠ってない」と言っていたが、何か思い当たる節はあるか?」
「ん?あるけど・・てか精霊さんって物に宿る感情?とか分かるんだね」
「精霊は元々魔力の塊のような存在だから、恐らく魔力に対して敏感なのだろうな。物に込められた魔力を、感情として読み取れるのやもしれん」
「なるへそ・・その推測が合ってるならあの反応も納得だね。だってこのお菓子、作ってるのは人じゃないし」
確か殆ど人の手を入れないお菓子工場で作られてたんじゃなかったかな?
「・・?どういう意味だ?人が作らずして、どうやって菓子を作り出す?」
「不可能だろう?」と首を傾げる青年に、『う~ん。どう説明したもんか・・』と考えた結果、手っ取り早くお菓子工場の動画を見せることに。
毎回活躍してくれるタブレットで動画投稿サイトを開き、お菓子工場の動画を検索。
手ごろそうな物を選んで待機させた。
「ま、「百聞は一見に如かず」ってね先ずはご覧あれ~」
台の上にセットして画面を向けると、「至言だな」と頷いた青年と共に数分の動画を共に視聴する。
その後、見終わった青年は椅子の背もたれに背中を思い切り預け、上を向いて喉を晒したかと思うと「良く分かった・・」と、ため息と共に零した。
おやまぁ珍しい態度。そんなにショックだった?
「つまり、大掛かりな仕掛けで全くと言って良いほど人の手が触れる事無く菓子を作り、大量に売っている訳か・・」
「そ。普通、お客に買ってもらう為にはある程度価格を抑える必要があると思うんだけど、それには経費を削らなきゃでしょ?で、材料費をケチったら味が落ちて品物が売れない・・とかなったら本末転倒なわけ。だからああして「[[rb:自動化 > オートメーション]]」して、なるべく品質を落とさず大量に作って薄利多売で利益を上げてる・・らしいよ?」
「・・そちらの商売は凄まじいな」
驚き疲れたのか、呆れたように呟いた青年はカップを傾けて紅茶を飲み、ふぅと小さく息を吐いて気遣わし気に続きを口にする。
「だが、それだとそちらの菓子職人は苦労していそうだな」
「ん?まぁ、そこは案外しっかり差別化がされてて、買い手が状況に応じて買い分けてる感じかなぁ~値段が張るのは手作りの方だから、そっちは贈答用とか自分へのご褒美とかで買ったりする、かな?」
「成程な。良く出来ている」
「ま、どちらともに研鑽の成果ってやつだね」
お陰様で手ごろな値段で美味しいお菓子が食べられます。
有難や有難や~
世にお菓子を生み出している方々に感謝を捧げていると、青年がカップを置いて「そろそろ話を戻すが」と話題を切り替えてきた。
「魔術契約の精霊によると破棄に直接の接触は必要なく、魔力が触れ合えば良いらしい。なら、私が操った水にアヤが触れさえすれば問題は無い筈だ」
「あ。うん。そういう話だったね」
「今の間は何だ?」とでも問うように青年が訝し気に片眉を上げるので、少し焦りながら「早速破棄する?」と訊いた。
だ、大丈夫!精霊さんの衝撃で忘れてた訳では!ワケではっ!!
「・・そうだな。では、アヤが保管している契約書の写しを持って来てくれ」
「はいっ!少々お待ちを!」
返事をして立ち上がり、きびきびとした動きで作業机へと向かった。
PCモニターの横にあるレターケースからクリアファイルに挟んだ契約書の写しを取り出し、すぐに鏡台の前に戻る。
「はい。持ってきました」
「よし、ではこちらに重ねて置いてくれるか?」
「はいデス」
見れば、あちらとこちらで半々になるように鏡の境の上に契約書が置かれていた。
指示に従い、クリアファイルから写しを取り出して契約書に重ね置く。
すると、萌黄色だった写しの文字が契約書と同じ赤銅色に変化した。
一方、青年の方も水を操り準備万端。
右腕を延長するような形で透明な手をこちらに伸ばす。
握手を求める形だったので、指示される前に何の違和感もなくすっと握った。
「っ!?。よ、よし。契約に使った異名は覚えているな?」
「勿論!私が「異界の魔女」!で、アド君が「夏の高き青」だよね?」
「その通りだ。では、縁にある模様の円に触れてくれ。そして今から宣誓文を口にするが、異名部分だけアヤの物に置き換え、同じ内容を繰り返すように」
「了解です」
返事をして、契約書の縁を飾る模様の真ん中にある空白の円に指先を置く。
青年も同じように指を置き、これで全ての準備が整ったらしい。
すっと息を吸い込んだ青年は、厳かに言葉を発した。
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