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普段は後ろに控える傍仕えを前日と同じように隣に座らせ、共に彼女の話を聞く。
使役する半精霊にも手伝わせて記録を取り、聞き漏れが無いように気を付けた。
「成程、良く解った。注意すべき点が多いが、それだけ危険な代物という訳だな」
「うん。どんな物も、使い方によっては凶器になるしね。特に「にさんかたんそ」は閉鎖空間だと無味無臭の毒と一緒だから、本当に気を付けないと。固体の状態だと凍傷にもなるからね・・いくら回復薬があっても、死んじゃったら効かないんでしょ?」
そう言って心配そうに眉根を寄せる彼女を安心させるために、強めに頷き答える。
「その通りだ。魂が肉体から離れてしまえば、どんな魔法や精霊の力だろうと元に戻すことは出来ない・・だから、十分に気を付けて使うと約束しよう」
「うん、本当に注意してね。ジャスパーさんも、怪我とかしないように気を付けて」
視線を横にずらして声をかけた彼女に、傍仕えも胸に手を当てて答えた。
「ご心配ありがとうございます。主であるアディード様を守るのもわたくしの勤め。頂いた物についてはしっかりと学ばせて頂き、わたくし自身も十分に注意致します。」
「わぁ!頼もしっ!よろしくお願いします!」
手のひらをポンと合わせ、にこにこと笑う彼女の横でアキ殿もしきりに頷いている。
・・そんなに私は信用がないのだろうか?
いや、これはそういう事ではないな。優秀な傍仕えを頼りにしているということだろう。
「それじゃ、次は頼まれてた髪染めの説明を・・」
「あ、それはあたしがしようか?」
視界の外から小箱を取り出した彼女の言葉を止め、アキ殿が会話に入ってきた。
「ジャスパー君がアド氏の髪を染めるんだよね?なら使い方を直接説明するよ。「もにたー」と「かめら」の向きをこう・・横に退かしたら個別に話せそうだし。そろそろいい時間でしょ?アド氏たちが帰っちゃう前にアコはほら、渡す物あったよね?」
「あ、あれか。そだね、ありがと。アド君とジャスパーさんもそれで良いかな?」
急な提案だが、特に問題ないので「構わない」と頷いて、早速互いの「かめら」と「もにたー」の位置を調整する。
会話がしやすいようにと、アキ殿とジャスは新たに耳に装着する形の「いやほん」とかいう道具を使い、鏡から横にずれて早速髪染めについて話し始めた。
鏡の正面に座るのがアヤだけになると、先ほどアキ殿が言っていた「渡す物」の事が気になってしまい、何となく背筋を伸ばして身構える。
その彼女はというと、横目で親友の様子を確認して「嬉しそうにしてまぁ・・」と苦笑した。
「あぁ、そうか。アキ殿はジャスの容姿が好みだと言っていたな・・」
「そそ。だからアキが個人的に話せる機会をありがとね。あ、でも安心して!ただ鑑賞したいだけだと思うから!・・多分ねっ!」
少し焦った様子でそう弁解する彼女に、片手を振って落ち着くよう身振りを添えて言葉を紡ぐ。
「いや、ジャスもれっきとした大人の男だからな。本人の気持ち次第で・・といったところだろう」
「え?もしやアキにも「わんちゃん」アリ?!」
「・・「恋人になる可能性があるのか?」ということか?」
「そうそう!この2人、進展はあると思う?!」
件の2人が耳を道具で塞いでいるとはいえ、話の内容が内容なだけに少し鏡に顔を寄せ小声で話す。
「うむ・・私が知る限りジャスに恋人の気配を感じたことは無いが・・この話はまた今度、2人きりの時にしないか?」
「あ、そだね・・本人たちを前にしてする話じゃないよね。ごめん」
「いや、それもあるが・・こうして口元を隠さねば、ジャスに唇を読まれてしまうからな。私の発言が筒抜けになる」
「・・まじか。ジャスパーさん「ちょーはいすぺっく」だね・・」
彼女の言葉の意味を雰囲気から何となく察し「そう。私の傍仕えはとても優秀なんだ」と笑って頷いた。
「それで?渡す物があると言ってなかったか?」
「あ、そうだった!ほら、昨日実験で撮った「しゃしん」がね?いい感じだったから「ぷりんと」してきたんだ!良かったら貰ってくれる?」
「友だちの印に!」と差し出されたのは、恐ろしく透明な袋にいれられた一枚の絵だった。
そのまま受け取り、両手で持ってまじまじと眺める。
私と彼女が隣り合い、頬を寄せ合っている素晴らしい絵だ。
2人の間には見えない境界があり、左右で背景が全く違っている為、まるで別々に描いた絵を張り合わせたような雰囲気になっている。
勿論、どういった状況の物か理解している私からしてみれば、当然の風景だ。
絵の中、彼女の隣でぎこちなく微笑む自分はどうでも良いとして、いつものアヤの姿が収まる絵は大変素晴らしいもので・・楽しそうに笑い、眼鏡越しに向けて来る視線にどきりとする。
「・・良いのか?貰ってしまって・・」
「もっちろん!私の分も「ぷりんと」したんだ!こっちは作業机の壁にでも飾るつもりだよ!アド君も飾るなり好きにしてくださいな♪」
「―っ、あ、ありがとう・・(一生)大切にする」
少々ぎこちなく礼を言い、皺にならないよう気を付けながら絵を胸に抱く。
「いやぁ。そんな喜んでくれるとは!私も嬉しいよ!また撮ったらそれもちゃんとあげるからね♪」
「あぁ、それは楽しみだ」
心浮き立つ約束に微笑みを交わしていると、いつの間にか会話を終えていたアキ殿が咳払いをして話しかけてきた。
「・・アコ。なんなら今撮ったら?折角可愛くしてんだし」
「そうですね。それがよろしいかと」
「いやほん」を外したジャスも、口の端を上げて笑うアキ殿に同意して頷いている。
「え、それなら今から4人全員で撮る?撮っちゃう?」
思い付きをそのまま口にした様子の提案に、私は短く傍仕えと視線で確認し合った。
私は勿論構わないのだが、意外な事に彼も乗り気なようだ。
「いよっしゃー!ジャスパー君、アド氏!是非とも1枚ご一緒に!!」
アヤの思い付きに飛び乗るようにして声を上げたアキ殿に了承を返すと、「やったぜ!」と驚くほど喜ばれる・・
うむ。先ほど彼女がアキ殿とジャスの関係を気にしていたが、この様子を見るに、ひょっとすると案外上手く事が運ぶかもしれないな・・
そう予感めいた思いを胸に、化粧を直してくるという2人を見送って、隣に座る傍仕えに視線を向ける。
「・・?何か?」
「・・いや。アキ殿と話してみて、彼女の事をどう感じたのか少し気になってな・・」
「?。今の時点では、とても気の良い方だと思います。少し雑談も交わしましたが、趣味で服を仕立てる事があるそうで、今度お使いの糸や針等の道具を見せて頂く事になりました」
「ほぅ。そうか・・ジャス自身の事は何か話したのか?」
「いいえ?わたくしの事は特には。一体何なのですかアディード様。お顔がにやけておいでですよ?」
そう呆れた様子で指摘され、これは不味いと気を引き締めた。
この優秀な傍仕えを揶揄うと、後で倍どころではない報復が待っているからな。
「いや何。ジャスが楽し気なのが珍しくてな・・普段そういった姿を見ないものだから・・」
「それはそうでしょう。わたくしは貴方様の傍仕え兼、護衛ですよ?」
「周囲に隙を見せるような事をする訳がありません」と、すまし顔で僅かに顎を上げる傍仕えに「まぁ、そうだがな」と苦笑して頷いた。
「しかし、先ほどは本当に目元が緩んでいたし、雰囲気も柔らかく感じたぞ?」
「・・・そうですか?自覚は無いのですが・・あちらのお2人の自然体な空気に馴染み過ぎましたかね?」
まぁ、確かに。そういう事もあるかもしれない。
日常的に気の抜けない生活を送っている所為か、あまり深く考えず、且つ裏を読む必要もない彼女たちとの会話は、とても気が楽で楽しいものだからな。
肩の力が抜ける雰囲気は心地良いものだ。
『それはそれとして、だ。やはりジャスはアキ殿に随分と気を許していると思うが・・』
長年傍に居てくれた傍仕えの珍しい行動だ。
『少しばかりそわそわするのは致し方ない事だろう』と、誰にするでもない言い訳を思い浮かべたところで、化粧を直し終えた女性組が戻って来たのだった。
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