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うーん。マズった。
ストーカーの件、アキになんも言って無かったわ。
アド君を紹介する事にばっか気を取られて、うっかりすっぽ抜けてたんだよぅ。
刺されたなんて知られたら・・はい。それはもうめっちゃ怒られますね。
心配してくれてるのは解ります。なので甘んじてお叱りを受けるつもりはあるのだけれど、まだ心の準備が出来てないので・・ないので!
一時退却っ!
心と場が整ったらちゃんと報告しますから!
今は許してっ!
胸の内で親友に詫びながら、昼食を準備する。
鍋にお湯を沸かしつつ、買ってきてもらったピーマンをカット。
先に処理して置いた野菜たちと一緒にベーコンも入れて隣のコンロで炒める。
味付けは鶏がらスープの素で。
お湯が湧いたら袋麺をどーん!スマホでタイマースタート!
ゆで上がるまでに冷凍炒飯を大皿で温めスイッチオン!
ローテーブルを拭いて、小分け用の皿を置いた。
よし。ラーメン用の器と箸とれんげも人数分用意した!
後は飲み物・・ここはやっぱり麦茶かな?
あ、そうだ。
「お昼野菜ラーメンだけど、卵入れる人~」
「?!はいはーいっ!入れる入れるっ!」
青年の操るコーヒー色の不定形な人形を指で突いていた友人は勢いよく振り向き、笑顔で卵を所望した。
「だよね」と予想通りの友人の反応に頷いて、青年の方を窺う。
「アド君はどうする?スープに麺と野菜が入った料理だけど、卵を入れても美味しいよ?」
「では私も同じように頼む」
「おっけー了解!」
すぐさま冷蔵庫から卵を三つ取り出して、麺を茹でている鍋にパカパカパカと割り入れた。
底の方でくっつかないように、お玉でやさしく混ぜる。
タイマーを見たら残り一分。卵が固まるまで丁度良い時間だ。
麺がゆで上がる直前に豚骨スープの素を鍋に投入!
軽く混ぜて溶かしたら鳴り出したスマホのタイマーを止め、盛り付けに入る。
先に箸で麺を入れ、卵をお玉で移したらスープも均等に入れた。
そこへ野菜炒めをちょちょいと。
「はい出来ましたー!適当野菜ラーメーン!」
「やった!家ラーメン好き~♪」
跳ねる様に立ち上がった友人にこちらの配膳を任せ、頼子は青年の分を運ぶ。
「はい、アド君。熱いから気を付けてね」
「あぁ、わかった」
青年にラーメンの器とプラのれんげ、箸を乗せたトレイを先に手渡して、次に友人が用意してくれた麦茶のグラスを空のグラスと交換して渡した。
「よし、麺がのびちゃうからね。食べねぇ食べねぇ!」
「わーい!いただきます!」
親友はローテーブルに着き、早速箸を手に取った。
頼子は鏡台の正面ではなく、横向きに座って「いただきます」と手を合わせる。
青年も同じように手を合わせ、箸で器用に麺を摘み上げた。
自分もれんげでスープを掬い、ズッと音を立てて啜る。
うん・・ちょっと胡椒が足らんかな?
立ち上がり、冷蔵庫から黒胡椒の瓶(ミル付)を取って来て器の上でガリガリと回す。
するとラーメンの湯気に交じって、スパイシーな香りがふんわりと鼻孔を擽った。
「アヤ、それは?」
「ん?「黒胡椒」っていう香辛料だよ。ヒリヒリ、ピリッとくる味~お試ししてみる?」
「あぁ。頼む」
青年に器を差し出してもらって、ほんの少しミルを回す。
器の端に黒い粒が散ると「ありがとう」と礼を言われたので、こちらも「どういたしまして」と笑顔で返した。
「あたしも貰っていーい?」
「はいはーい」
親友にも呼ばれ、ついでだからとそちらの器でもミルを回す。
席に戻ると箸を使ってれんげの上で麺をくるくると巻いて乗せ、スープと一緒にパクリと一口。
うん、さっきよりはイイ感じ。
もぐもぐと咀嚼して、二口目に行こうとしたところでレンジが鳴った。
またもや食事を中断してレンジに向かい「アチチ!」となりながらコルクの鍋敷きに大皿を乗せるとシンクの横のスペースに移動してラップを剥がす。
皿の端に大きなスプーンを乗せ、ローテーブルに運んで小皿に適当に取り分けると親友の近くに「ほい、炒飯」と一皿置いた。
「ありがと!あ~、もう匂いからして美味しそう~」
「ね。最近の冷凍食品ってマジ優秀な~」
「ほんそれな~」
親友と他愛ない会話をしながら青年と自分の分の皿をそれぞれ手に持ち、鏡台へ戻る。
「はい、アド君の分。お代わりもあるから、欲しかったら言ってね」
「あぁ、わかった。ありがとう」
それからは中断する事無く食事を楽しんだ。
そんな中、青年に「麺を啜るのはマナー的にどうか?」とやんわり注意されて「この国では普通。でも他国では嫌がられる事もある」とベタな会話があり、親友と二人で「啜ると美味いんだよ」と説明したりもしたが、ますます疑いの眼差しを受けるとか。
解せぬ。
後は炒飯が冷凍された保存食の一種だと知った青年が絶句して固まったり。
とまぁ、そのような流れで、食べながらお互いに情報を交換、共有する。
青年の言葉を親友に伝えるのは少し手間だったけど。
そんな感じで楽しい昼食の時間は和気あいあいと和やかな空気のまま終了。
お腹が満ちて、満足の溜息をほぅと吐いたとろこで親友がおもむろに口を開いた。
「・・一つ気になったんだけどさ。スマホで鏡を撮影してもあっちの様子は映らないんだよね?」
「ん?そうだよ~。何でかね?本当、ぐぬぬって感じ!」
写真や動画に残せないとは・・ク〇な仕様ですことっ!!
心底残念だと口をへの字に曲げる頼子に、親友は「じゃあさ」と人差し指を立て、思い付きを語る。
「アド氏に自撮りしてもらったりとかは?それか自撮り棒とかでカメラを向こう側にやってシャッター切るとかさ」
その案を聞いて、頼子はパカリと口を開き驚愕もそのままに鏡台へと崩れ落ちた。
「わ、私のばか~っ!そうだよ!あっち側で撮ってもらえば良かったんじゃんっ!」
「え?試してないの?」
「ないっ!早速やってみよう!」
二人の邪魔をせぬよう、麦茶のグラスを傾けながら静かに話しを聞いていた青年は、勢いよく顔を上げた頼子にビクッと肩を跳ね上げる。
「アド君!スマホを渡すからそっちで写真撮ってくれるっ?!」
「あ、あぁ。構わんが・・「すまほ」は高価な品ではないのか?壊したりしたら・・」
「勢いよく叩きつけるとか乱暴しなければ大丈夫!」
早速スマホのカメラを起動してインカメラに切り替えると、鏡の横に立って、青年に画面を見せながら操作方法を教える。
「この上の小さな穴みたいなとこで画を取り込んで画面に表示してるのね?だから鏡を見るみたいに姿を映して・・視線はこの穴にお願い!腕を目一杯伸ばして胸から上が入るようにして、下にあるこの大きな丸を指で押したら写真が撮れるから!」
少々早口で説明して、頼子は「はい、お願いっ!」とカメラが起動した状態のスマホを青年へと手渡す。
「あ、あぁ。わかった・・やってみよう」
スマホを受け取った青年はおっかなびっくり教わった通りにスマホを構える。
体ごと横を向き、腕を伸ばして真剣な表情でボタンに触れた。
が、長押しした為に動画撮影になってしまったらしくピポン!と撮影開始の効果音が鳴る。
「アヤ、何やら触れた所が赤くなっているが、問題無いか?」
「大丈夫だよ。一度指を離して、今度は一瞬だけ触れてみて」
「分かった。・・こう、か?」
青年が小首を傾げながらスマホに触れると、今度はカシャッ!とシャッター音が鳴った。
「おっけー上出来ぃ!確認するから貸してみて!」
「あぁ、頼む」
スマホを返してもらい、無事に撮れているかどうか早速見てみる。
すると、やや眉尻を下げた困り顔の青年の写真と『アヤ◎〇っ●ド◎み〇〇◎むカ?』と名前以外は意味不明な言語で話す動画が無事保存されているではないか。
「おー!凄いっ!撮れた!アキ撮れたよ?!ほらほらっ!?」
「どれどれ・・うっわマジだ!てかアド氏マジ美形!イケメン!えっ?リアル王子様じゃん?!」
「だよねっ!!アド君カッコイイよね?!」
「・・無事成功したのなら何よりだ」
スマホの画面に齧り付くようにして写真を確認した二人からそう手放しで褒められ、少しばかり頬を染めた青年は身の置き場を探すように落ち着きなく体を揺らすのだった。
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